そんなわけで続きをどうぞ。
ChapterⅢ【ホワイダニット】
美雨さんと新西区の駅で合流し、そのままの足で調整屋へと向かう私たち。
この案件を深堀りしていくことに最初は懐疑的だった美雨さんだったが、「飛蝗」が犯人である可能性を伝えるや否や一転してやる気を出してくれたので助かった。
既に日が傾きかけているが、魔法少女からすればこの時間からこそが戦いの始まり。調整屋も同様に忙しくなる時間帯であり、おそらくみたまさんは店の中にいるはずだ。
……しかし、平日でも放課後直行しても開店していることが多いが、みたまさん学校の方は大丈夫なのだろうか? 大東学院のカリキュラムとかは詳しくないが、欠席を繰り返して内申に影響がないというほどの底辺というわけでもないだろうに。
もしや最低限の出席でありながら成績は高水準を保っているというのか? それなら魔法少女相手に商売をほぼ一人で切り盛りできる能力にも頷ける。
「いらっしゃいです!」
出迎えてくれたのはメルくんであった。用心棒みたいなももこさん同様、もうすっかり調整屋のスタッフっぷりが板についている。今日も可愛いね、元気が湧いてくるよ。
「やーやー。あれ、メルくんだけですか?」
「こんにちは安名さん。みたまさんはどちらに?」
「おや、つばめさんにななかさん。店長は少し用事で留守しているです。もう少ししたら戻って来ると思うのです。それまで占いとかで時間を潰されてはどうですか?」
メルくんは店の端っこを占拠して勝手に作った占いブースを指し示す。やちよさんに見つかるたびに撤去されているのだが、懲りずに今回も設営されているらしい。しかし彼女の占いがどうあがいても結果に誘導するという性質は既に周囲の事実であるため、よっぽどの物好きか鶴乃さんぐらいしか占いを受ける人はいない。
「たっだいま~♪ メルちゃん、留守番ありがとう」
「おっと、帰ってきましたか。それじゃメルくん占いはまた今度」
「ぐむむ。まるでももこさんみたいなタイミングの悪さ……」
「あらあら、常盤さんのチームじゃない。今日は何のご用かしら?」
「はい。ではまず前提から話しましょうか。みたまさんは今、魔法少女の間で起きている事件はご存じですね?」
その一言で、みたまさんの表情は真剣になった。
「ああ……例の昏倒の件ね。ちょうど今、こころちゃんを見てきたところよ」
「なるほど。それでそちらは何か分かりましたか?」
「それが全く無理だったわ。眠っている原因は魔力ぐらいしか分からないし、心が閉じているせいで調整で起こすのも無理。命に別状はなさそうなのが不幸中の幸いとしか言えないわね」
「こっちもエミリーの方を診てきました。幸い、早めの確認だったので下手人の魔力は分かりました。やはり前回の犯人と同じですね」
「前回……というと最初の昏倒事件のときです?」
「その通りです。そしてその犯人とは、どうやら私たちが追っている相手と同一の存在らしいのです」
「え? そうなの!? だったら早くなんとかして~! 今日きた子たちもみんな事件のこと噂して怖がってたし、このままじゃお客さんも遠のいちゃうわ~」
「心配するとこそこ?」
豪胆というか図太いというか商魂たくましいというか……。
「そう焦らずとも私たちは犯人を追いますよ。そのためにも、みたまさんには協力してもらいたいのです」
「えぇ~? そうは言っても、私が特にできることなんてないわよ? あなた達の調整はいつもやってるし、私はそこまで戦いができるわけじゃないし」
「戦力を求めているわけではないのです。私があなたに尋ねたいのは犯人の情報です」
ななかちゃんは事の本質にズバっと斬り込む。
知性が冴え渡るななかちゃんの推理タイムが始まった。
「……私、魔女の知り合いなんていないわよ?」
「魔法少女の知り合いならたくさんいらっしゃるでしょう? 私はこの一連の元凶が魔女によるものではないと考えています」
「と言うと、つまり……」
「はい。犯人は魔法少女かと。この事件は魔女が行うにしては人為的な部分が多い」
魔女がもたらす被害というものは基本的に直接的なものばかりだ。
結界に入り込んだ人間の捕食。あるいは口づけを与えた人間の暴走による絶望の蒐集。
自らの獲物となる人間を捕らえる過程において、魔女は狡猾な手段を取ることもある。集団自殺の教唆を行い、魂をまとめて捕食しようとするのは最もたる例だろう。
だがそういった例を鑑みても、魔女というものは本能的だ。魔法少女であった頃の理性など失った彼女たちは、自らの衝動に逆らうことなくただ満たされることのない渇望を埋めようとする。自らの欲求を満たすことを行動基準の一番に置く魔女は、人間を襲うことに陰謀を張り巡らせるような真似はしない。
……勿論、例外はあるにはあるのだが。今回はそういう訳ではない。
「今回の事件、魔女の仕業と考えるには胡乱で曖昧な部分が多い。なんというか……ひねくれているんです」
自らの痕跡をひた隠しにする狡猾さと、特定の人物へと矛先が向くようにする悪辣さ。
実質的な被害が眠っているだけと控えめであるからこそ、犯人の下衆な思考が目立っている。
「私たちに起きたことは魔女の仕業……」
「でも今回の事件は魔法少女が犯人……」
「そして、ななかの魔法はこの二つに同じ『飛蝗』の気配を感じている」
「一見矛盾に見えるこの二つ。だけど、それを結ぶ要素はあった。そうでしょうななかちゃん?」
「はい。紺染音子、あの方の意見を聞けたのはとても有意義でした。魔女が魔法少女を操っているのではない、むしろその逆」
「『魔女を操る力を持った魔法少女』、それが犯人だって言いたいのね?」
みたまさんの言葉にななかちゃんは頷いた。
洗脳。誘導。操作。使役。
そうした固有魔法を持つ魔法少女は決して少なくないが、流石に魔女を意のままに操れるほど強力な魔法を持つ魔法少女は限られてくるだろう。いくら神浜が日本有数の大都市だからって、そんなのがぽこじゃか出てこられても困るわけだが。
「その通りです。なので、まずお聞きしたいことは……」
「し、知らないわよ! そんな子なんて!!」
みたまさんは即答した。
その即答っぷりに美雨さんが詰め寄るが、みたまさんは本当に知らないときっぱり言った。
それはそうだろう。ソウルジェムの調整は自分の素性を暴かれる。いくら完全中立を謳う調整屋とはいえ、後ろ暗い秘密を抱える魔法少女が利用するのはリスクが高すぎる。
「では次ですが、人心操作やそれに類する魔法を使う方にお心当たりはありませんか?」
「え? う~んと、そうねえ……」
ちなみに私たちの知り合いには二人ほどいる。エミリーと梨花さんだ。
エミリーは今回の被害者なので真っ先に除外。梨花さんは『心変わり』という魔法を持っているらしいが、他ならぬ本人が魔法を毛嫌いしている関係上候補からは外れる。
しばらく考え込んでいたみたまさんだが、ふと何かに思い至ったようにあっと声を出した。
「思い出したかも!」
「それは誰ですか……!?」
「ん~と、そうねぇ……」
「料金なら弾みますので、どぞ」
主にうちの父が。
「思い出したのよ、『暗示をかける魔法』を使っていた魔法少女のこと。詳しくは知らないけど、とにかく言うことを聞かせる魔法を使っていたみたいね」
「『暗示』……!」
なるほど。その魔法でずっと眠っていろとでも命令したのだろう。
暗示、という簡素な名前からは想像もつかないほどに凶悪な効果だ。
「とは言っても私は十七夜からそういう子がいるって話を聞いただけなんだけどね」
「十七夜さんですか」
「確か、東の魔法少女のまとめ役をしている方でしたか」
「紹介してあげるから聞きに行ってみたらどうかしら? メルちゃん、十七夜の明日のスケジュールは何だったかしら?」
「何故ボクが知っていること前提なんですか……十七夜さんは明日もバイトですよ」
「知ってるんだ……」
「それでは安名さん、十七夜さんの場所への案内を頼めるでしょうか?」
「はい! ボクがお役に立てるなら!」
とはいえ時刻はもう夕暮れ時。
こんな時間に足を運んでも迷惑になるだろう。という訳で、明日はメルくんの案内で十七夜さんのバイト先まで行くことになった。
「ふぅ……。出張なんて慣れないことしたから調整屋さんちょっと疲れちゃったわあ。だ・か・ら♡ 今から栄養補給のおやつタ~イム♪ 手作りのチーズケーキがあるんだけど、よかったらみんなも一緒にどうかしら?」
「お気遣いはありがたいですが、時間的にご遠慮しておきます」
私たちは即座に首を横に振った。
五人全員、一糸乱れぬ動きはいっそ芸術的ですらあった。
◇
商店街の前でみんなと解散してから直帰した私は、父に今日の事情を話した。
一日中工匠区にいたため事態を把握していなかった父は、事のあらましを一通り聞き終わってから口を開いた。
「成る程。そのようなことが起こっていたか」
「父さんはどう思いますか?」
「特に何もな。事態については大体はななかくんの推理通りだろう。実に聡明な子だ。魔法少女になったのが実に勿体ない」
ななかちゃんを手放しで賞賛する父。
私も自分の経験から多くの推理を披露してくれる彼女は支え甲斐がある。
「つばめは何か気になった部分はあったかね?」
「そうですね。ちょっと分からない点が一個だけ」
「何だ、言ってみるといい。これでも犯罪心理についてはそれなりに詳しいぞ」
「犯人が何故こんなことをしているのかがわからないんですよねえ。このはさん達が標的になっているけど、その前にななかちゃん達に魔女をけしかけていた理由とは結び付かないような気が……いや、もしかして最初からななかちゃんを相手にしていて、このはさんを弄んだのはななかちゃんに関わったから……? ああでも、それだと他の皆が『飛蝗』の被害を受けた理由にはならないし。このはさんが幻覚を見たのは神浜に来てすぐのことから時期が微妙にズレている……」
質問、というか自分の考えを纏めるように口に出す。
今回の事件の目的はわかる。このはさん達へ疑いの目を向けさせる、この前の再演。
だがその犯人が私たちの追う『飛蝗』で、なおかつ魔女を操る魔法少女だとすると何故そうしているのかが分からない。魔女の仕業だからと納得していた散逸的な事件の意図が、人為的なものとなると急に纏まらなくなる。
ここまで手の込んだことをしている以上、自分たちの行動がその目的の手助けになっているなんて事態も避けたいし、単純に謎が謎のままというのは釈然としない。
「
「え?」
「典型的な愉快犯ということだ。七海くんと和泉くんが割とびっしり決めていたから目立ってはいなかったが、やはりこの手の輩は出てくるものだな。というか、この街の規模と治安を考えればそういうのが出てこない方がおかしいと言えばおかしいのがな」
「どういうことです?」
「そうだな。これはおおむね自論だが、魔法少女の数と社会の情勢は反比例の傾向にある。単純に人口が増えれば割合が増えるのもあるが、何よりも人の感情が交錯することで生まれる因果が多くなる。事実、七枝市は音子嬢とヤツが来るまで平和そのものだった」
確かに。七枝市は殺人事件が頻発するなどの異常事態は無い平凡で平和な街だ。私が魔法少女の存在を知り、契約する時期に前後する形で魔女が増加したことで多くの事件が起こっていたが、それも一連の事件の収束と同時にある程度の落ち着きを見せた。その後もちょいちょい魔法少女になる子は現れたが、それも両手で数えられるぐらいだった。
「何が言いたいかというと、魔法少女が生まれやすい環境というのは概ね人の心が荒みやすい。そこで魔法などというだいたい万能の力を持たされてしまえば、後の行動は容易に想像がつく。今回の犯人もその手の類だろう」
「つまり、騒動を起こすだけ起こして楽しんでいるクソ野郎ですと?」
犯人に対する熱意が急激に冷め、代わりに底冷えするような決意が心を満たす。
理屈などなく、衝動のままに不和と破壊をまき散らす。推理をうっちゃるような結論だが、なんというかそれが一番しっくりくるのも確かだ。なんというか考えるだけ馬鹿らしくなってしまった。
だが何よりも、そんなことで皆があのような目に遭ったと考えると、そのあまりのくだらなさに沈むような怒りと殺意が湧いてくる。
「ああ。だが同時に自らの魔法の強力さを過信しないだけの慎重さを兼ね備えた相当な切れ者だな。ななかくんの追っている存在と同一なら、この街の魔法少女に存在を気取られることなく、およそ一年以上に渡って事を起こし続けたということになるわけだからね」
真っすぐに目を見る父さんの視線で、私は思考の余裕を取り戻す。
他人に危害を加える魔法少女との戦いは未経験ではないというのに、友が標的にされているというだけで焦りが生まれている。
「気を付けなさいつばめ。手口が似ているとはいえ、今回の敵はかつて君が倒した魔法少女、神名あすみよりも格上だ。下手をすると足元を掬われるぞ?」
状況を俯瞰するような口ぶりでありながらも、その表情は純粋に娘を案じる父親の顔だった。
◇
ChapterⅣ【朧月】
翌日。私は事件が急展開を迎えたことを知った。
まず、帰路に着いていた葉月さんに、彼女が事件の犯人だと勘違いした明日香さんが接触。思い込みの激しい明日香さんの詰め寄りに、ささらさんのフォローも虚しく葉月さんが逃げる。
一度は振り切った葉月さんだが、今度は家まで追ってこられたことで三人纏めて逃走を決行。
その時彼女たちの捕縛に協力したのが、明日香さんとささらさんの他、加賀美さんに江利さん、そして雫ちゃんだというではないか。
疑いはないから周知した筈なのに、何故か関係者組が揃いも揃って参加しているのはどういうことなのか。
「やはり『暗示』の魔法ではないでしょうか」
「そうなるんですかねえ……」
だがある意味では好都合。これで犯人はこのはさん達の周囲にいるということが分かったからだ。
このはさん達の隠れ家については使い魔の鴉を方々に放って捜索中で、こちらが分かれば自動的に犯人もその近辺にいるという寸法だ。
後は犯人の詳細を暴くだけ。固有魔法ぐらいは知っておかなければ返り討ちに遭う可能性はゼロじゃないのだから。
そんな訳で私たちは当初の予定通り、十七夜さんのバイト先へと向かっていた。
中央区繁華街にあるその店はメルくん曰く、メイド喫茶らしい。
どう見ても十七夜さんのキャラと事故っているようにしか思えないが、意外にも独特なキャラ付けとして回っているらしい。
軍人メイドとかそういうのは人気だし、その路線なのかな?
「しかしメイド喫茶、ねえ……」
「おや、つばめさんあまりこういうのは好きじゃないんですか?」
「意外だナ」
「趣味じゃないというか、あのノリがちょっと胸やけするって言いますか……」
嫌いじゃないけど、別に好きかと言われるとそうでもない。メイドは好きなんだけど、媚び媚びのメイド言葉が好きになれないというかなんというか……。
あ、女装美男子メイドと男装麗人執事なら大好物です。あきらくん、執事服着てくれないかなぁ。通い詰めるよ。
「……つばめさんから邪念を感じるよ……」
「欲望がだだ漏れネ」
そんなこんなで店に到着する。
「お帰りなさいませ! お嬢様!!」
入店と同時にメイド店員がきれいなお辞儀と同時に笑顔でお出迎えしてくれる。
ふむ。いいじゃないか。そこの黒髪ショートの娘、好みですよ。
店は大盛況といった様子でごった返しているが、運よく空いていた席に通される。お、この茶髪ポニーの娘も結構可愛い。
「ご注文をお伺いいたしますね」
「ではこのグリーンラテを」
ななかちゃんはメイドさんに注文を出す姿も様になっており、ここだけマジのお嬢様とメイド相手に見える。
「クリームソーダ」
「ボクも同じものを!」
「えと……オレンジジュースでお願いします」
「ミックスジュースかな。つばめさんは?」
「ん……このウィンナーコーヒーを下さい」
あの生クリームとコーヒーが徐々に混ざり合っていくのが好きだ。ちなみにウィンナーはウィーン風という意味であって、決してウィンナーソーセージがコーヒーに突っ込まれているわけではない。なんていう豆知識も、ネットにどっぷりハマった民からすれば常識のようなものである。
そして注文してしばらく、それぞれのドリンクがやって来る。運んできたメイドさんのウェーブがかった緑髪が実に綺麗だ。
「それではごゆっくりお寛ぎくださいませ、お嬢様がた」
そうお辞儀した後にメイドさんは去っていった。
ひとまずコーヒーを口に運ぶ。
……うん、クリームの甘味と珈琲豆の苦みが混ざり合ってコクを生み出している。それはまるでこのメイド喫茶の味わい深さを表現しているかのようだ。
「ふぅ……中々悪くないじゃないですか。メイド喫茶」
「手のひら返すの早っ」
いいじゃないか。あ、でもこれ市販のドリップ珈琲で飲んだことある味だな。味自体は雫ちゃんの純喫茶の方が断然ウマいし。やっぱりメニューはコンセプトを味わうためのものでしかないなこれ。
「ところで、これ十七夜さん呼べるんですか? アポ取ってあるとはいえ、結構忙しそうですけど」
「それなら問題ないですよ。すいませーん! こちらのチケットお願いしまーす!」
「はーい! どの娘とお話したいですかお嬢様?」
「なぎたんでお願いします!」
「かしこまりました。なぎたーん! お嬢様からのご指名よ!!」
「む、わかったぞ。今向かう」
と、メルくんが出したチケットによって十七夜さんが召喚された。
何それ?
「
「へぇー、詳しいね」
「十七夜さんの接客練習に何度かここに来てますので……最初の頃は散々でしたね。他のメイドさんのような接客が全然できなくて、結構悩んでいたんですよ」
「まあ……そうですよね」
だってもう完全に十七夜さんのキャラと合ってないもん。あの人結構上から目線かつ堅苦しい人だから媚びるような発言とかできるわけがないんだって。
「お待たせしたなご主人。なぎたんの到着だ」
現れたのはメイド服にホワイトプリムを被った十七夜さん。
なんだかんだ似合ってはいるのだが、いつもの姿を知っているだけにインパクトがデカい。
吹き出さないように我慢した私を誰か褒めてほしい。
「さて、お待たせしたな常盤くん。自分に話があるということだが、一体なんだ?」
「はい。なぎたんさん……とここではお呼びすればよろしいのでしょうか」
しれっとボケないでくれますかななかちゃん。
「勿論それがルールだが……店のことではないのだろう? わざわざ八雲と安名を介している以上、そっちの事情なのは分かっている。普段通りで構わん」
「そうですね。ではまず現在こちら側で起こっている事件から……」
かくかくしかじかと、経緯を話す。
「なるほど。それで自分を……」
「ご存じありませんか?」
少し考えこんでから、十七夜さんは口を開いた。
「……心当たりは、ある」
「では、詳しく聞かせていただいても?」
「それはいいが、このバイトが終わった後でもいいか? 見ての通り、今日は卒業イベントで忙しい。それに自分も少し思い出す時間が欲しい」
と、いうわけでメイド喫茶を堪能した後、十七夜さんのバイト時間が終わってから私とななかちゃんで改めて落ち合うことになった。
そこで十七夜さんから伝えられたのは、暗示の魔法を使う魔法少女が「瀬奈みこと」という名前であることと、その魔法少女が家族ごと既に消息を絶っているということだった。
「怪しいと思うか?」
「失礼を承知で言わせてもらえれば、その通りです」
「……というかこれ、あまり言いたくはないですけど瀬奈さんもう魔女化しちゃっているんじゃないですか?」
その辺を知っている二人なのでダイレクトにぶっちゃける。
「……そうだな、琴織の言う通りかもしれん」
「ですが、それだと魔法少女が犯人という予想は外れましたね」
「あー……そこを考えるとちょっと怪しいんですよねえ」
しかし、そうなると今度は犯人が魔法少女だったという予想が崩れてしまう。
それとも、『飛蝗』は理性ある魔女として意図的に悪意の種を植え付けている存在なのか。もしそうだった場合、事態はより深刻なことになる。そのような振る舞いをする魔女がいるとなれば、事は既に一介の魔法少女だけでは対処不可能な状況に陥っている。
手詰まり感にふと、空を見上げる。
薄くかかった雲の向こうに見えるぼやけた月。
そこにあるとわかるのに、輪郭が掴めない朧月。
それはまさにこの状況を示しているかのようだ。
「すまない。瀬奈みことの件について、自分に調べさせてもらえないだろうか? どうにも自分にはまだ思い出せていない部分があるらしい。もしかするとそこに、瀬奈くんの真相が隠されているのかもしれない。そこをはっきりさせるため、彼女の住んでいた神浜大東団地を調査したいのだ」
「ふむ。構いませんよ」
「では、お願いします」
二人してその提案を了承する。
大東区、特に団地はほとんど立ち寄らない場所だ。そんな不慣れな場所で探し回るよりは、顔の通じる人に担当してもらった方がいいだろう。
そうして少し不明瞭な思いを抱えながらも別れることとなった私たち。
……この時はまだ少しだけ、侮っていたのだろう。
今回の黒幕と思わしき「飛蝗」の討伐のために立ち上がったななかちゃん達。
「飛蝗」に一度目を付けられ、二度も標的にされたこのはさん一家。
この二つと浅くない関係を持っておきながら、ただ一人その背景……「飛蝗」との因縁を共有しない私。
俯瞰してみればこれ以上なく浮いていながら、しかし好き勝手に動き回る存在。
そんな恰好の獲物を「飛蝗」が見逃すはずがないということに、私は気が付いていなかったのだ。
〇琴織つばめ
各人の能力事情に詳しいのは共闘時に固有魔法を聞き出しているから。
そのおかげで魔女を一方的にボコるクソコンボを大量に思いついており、すっかり和マンチという呼び名がついている。
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