つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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ちょっと長くなりすぎたので分割。


第三十二話 散花愁章……④【ショウ・タイム/反撃開始】

ChapterⅦ【ショウ・タイム】

 

 

 

 必要最低限とすら言うのもおこがましいが、どうにか寝食できるぐらいには片付いた廃墟の中で、アタシはため息をつく。

 

 

 ――先月に起こった魔法少女襲撃事件。被害者の見つからない奇妙な事件の正体は、何者かがアタシ達を貶めようとして仕組まれた狂言だった。

 紆余曲折あって無実だと証明できたけど、それで大人しくしているアタシ達じゃない。大事な家族を散々弄んでくれた犯人に落とし前をつけさせるため、アタシ達は七海やちよさんと一緒にそのデマを流した犯人の調査を進めていた。

 

 そうしてしばらく経った時、事件は再び起こった。

 それも今回は明確に被害者が出て、しかも目覚めないでいるらしい。

 

 ここで一番問題なのがその被害者たち。

 木崎衣美里、毬子あやか、粟根こころ。

 

 この三人の共通点は一つ、直前にアタシと会っていたこと。

 だからアタシに疑いの目が向くことは必然で、アタシ達は再びその事件の容疑者として吊り上げられることになった。

 

 そんなわけでアタシ達は被害者の関係者の皆様方からの手厚い出迎えを受けた結果、我が家を離れてこのはの用意した隠れ家の一つに身を潜めているのだった。

 

 

 潜伏して二日目とはいえ、こんな環境にいては気が滅入る。 

 学校に行けばしばらくは余計なことを考えなくていいんだろうけど、誰かに尾行されて此処を突き止められる危険性もあるので自主休校中。

 心の切り替えもできないアタシの精神は着実にすり減っていた。

 

 しりとりでもしたりして、気を紛らわせてみたけれど、勿論長続きはしない。

 携帯もバッテリーを消費するからそう易々とは使えないし、暇つぶしという意味ならこのはがつばめさんと一緒に買ったアナログゲームがいくつかあるけど、そうするには家に取りに帰らなければいけないわけで。

 

 あやめなんかはとっくの前に痺れを切らして、友達のかこちゃんに会いたがっている。

 アタシのほうにもあきらから連絡が来ている。清々しいぐらいに真っすぐで正義感の強い彼女だ。信用するに足りるが、情報が洩れることを考えると迂闊に返事ができない。対して、常盤ななかからは一切連絡が来ていない。あの切れ者のことだからこの事件に何のアクションも取っていない筈がないだろうし。一体何を考えているのやら。

 このははどうだろう? 連絡をとっているとしたらやちよさんかつばめさんのどっちかで、やちよさんからは連絡がない。つばめさんについても同様で、このはにさりげなく聞いたけど連絡はないらしい。あの人はあの人で何考えてるのかわかんないんだよなあ……。

 そんなわけでアタシ達は現状を知り得ないでいる。念のためとトークルームを分けたのが裏目に出たか。

 

 

「はぁ……」

 

 

 というかあやめ、どこ行ったの?

 下手に外に出ないでって言ったのに、朝起きたら姿を消しちゃってるし……。

 多分かこちゃんに会いに行ったんだろうけど、その途中でアタシ達を疑っている誰かに襲われでもしたら。そう考えると気が休まらない。

 いつもは聞き分けはいいんだけどな。まさかこのはがこっそり許可を出した? いやいや。流石に姉馬鹿極まってるこのはでも緊急事態でそんなことをする筈がない。というか、このははさっきからずっと何かを考えてるのか黙り込んだままだし……。

 

 

(……ん?)

 

 

 何かがおかしい気がする。

 確かに自分は息をひそめているようにと言ったはずだ。

 けれど、かこちゃんなら信用できるとも言った気がする。

 

 ――記憶を掘り起こす。

 前回の事件。犯人はこのはに幻覚を見せて、精神を揺さぶった。

 精神系の魔法だということで気を付けていたが、どうしてそのことが意識から抜け落ちていたのか。

 

 

「まさか……!?」

 

 

 真相を確かめるため、このはに尋ねようとしたその時。

 

 

「……ただいま」

「あやめっ!」

 

 

 ちょうどあやめが帰ってきた。

 その表情は沈んでいる。

 かこちゃんと会いに行っていたとして、一体何があったのだろうか?

 

 

「ダメじゃないあやめ、連絡もせずに出かけるなんて。どこに行ってたの?」

「え……? かこに会いに行ったけど、昨日いいって言ったよね?」

「……やっぱりね。私の記憶だと、許可を出した覚えはないわね」

「えぇ!? 葉月だってOK出してくれたじゃん!」

「え、いやいやそんなことは……」

 

 

 丁度そのことについて考えていたのに、あやめの剣幕につい違うと言ってしまう。

 

 

「言ったもん! 言ったもん! うわーん!!」

 

 

 信じてくれないアタシ達に、とうとうあやめは泣き出してしまった。

 うん……あやめが嘘を言ってるとは思えないな。

 

 

「……嘘をついているようには思えないわね。葉月はどう思う?」

「……うん……」

 

 

 やっぱりあやめは黙って出て行ったんだ。

 バレないように帰ってくればいいと思って、アタシたちに問い詰められたから泣いて乗り切ろうとしてるんだ。

 

 

「いや、そうかな……?」

「ううっ!!」

「――ッ、葉月!」

「へ?」

 

 

 このはがソウルジェムに手をかざす。

 直後、アタシたちの視界を霧が覆い、すぐに消えた。

 

 

「このは、一体何を……」

「葉月、今さっき何を言ったのか証言して」

「証言って……アタシはあやめが嘘をついて外出したって……え?」

 

 

 改めて口に出せば、それは不自然極まりない言葉だった。

 あやめが嘘をついていないと信じた瞬間、嘘をついていると確信した。

 一秒前の発言と正反対の事を口走り、そのことに微塵も疑いを持たなかった。

 

 

「――これ、まさか」

「ええ。間違いなく魔法ね」

 

 

 このはは断言する。

 犯人は自分たちの言動を操って、仲たがいさせようとしている。

 

 このははあやめがいなくなった時点で違和感を感じ、次にアタシ達の誰かがおかしな言動を取る瞬間を待っていた。

 アタシはそうしてまんまと相手の魔法に引っかかり、そしてこのはの幻霧を通じて正気に戻された。

 以前に犯人の魔力パターンを知っていなければ編み出せなかったと説明するけど、そんなことは今のアタシの耳には入ってこなかった。

 

 それはつまり、結局今のアタシたちはその魔法少女の監視下にあって。

 そいつの胸先三寸で、アタシの思考や言葉をいいように書き換えることができる。

 

 

 見えない手が自分たちの首を掴んでいる錯覚を覚える。

 どこに逃げても執拗に追いかけて、何が何でも貶めてやろうとする悪意。

 もしかしなくても、その魔法はアタシの行動すらも好きに操作できるのだとしたら、アタシは自覚がないまま、襲撃の実行犯として振舞っていたとしてもおかしくない。

 

 一体どこまでが自分の本心なのか、どこまでが犯人に操作された行動なのか。最早自分自身すら信じることができなくなる。

 足元が崩れていく感覚。いっそこのまま自分が犯人だと名乗り出てしまえば、それで事は穏便に収まって楽になれるんじゃ……。

 

 

「大丈夫よ。葉月」

 

 

 このはがアタシの身体を抱き寄せる。

 わしゃわしゃと髪を乱雑に撫でまわす。

 安心できるようにやさしく言い聞かせてくれる。

 

 ……懐かしいな。

 昔、泣いたり落ち込んだりしていた時、院長先生がこうやって慰めてくれたっけ。

 もうそんな風にしてもらうのを求める歳でもなくなったし、何よりあんなことがあったから、遠い思い出になっていたけれど。

 

 ……うん。やっぱり安心するなぁ。

 さっきまであった不安はどこかに吹き飛んでいた。

 

 そうやって落ち着いた後、あやめも同じように撫でてもらうのをせがんできた。

 

 

 うん、何があってもアタシはこのはとあやめを信じる。

 皆でこの事件の真犯人を捕まえて、心の底から安心してやるんだ。

 

 

「私が来たからにはもう大丈夫だー!」

 

 

 などという決心をぶち壊す大声が響き渡り、勢いよく誰かが部屋の中に入ってきた。

 

 

「お邪魔しまーす!」

「あなたは、確か……」

「『最強』の二文字を愛する魔法少女、由比鶴乃だー!」

 

 

 そうだ。つばめさんとたまに絡んでいる由比鶴乃さんだ。

 あまり話したことはないけど、とにかく元気な人。

 数日前には確か神浜にやってきた音子というシスターの人に挑んで、一瞬で三本ノックアウトを取られていたのが印象に残っている。

 あれだけ文句なしでボコられていたのに、恥ずかしげもなく最強を名乗れるのは厚顔なのか向上心が高いのか……。

 でも、なんでこの場所に?

 

 

「こら、鶴乃! 勝手に先に入らないでよ!」

「七海やちよ……!」

 

 

 思いもよらない人物の出現に戸惑っていると、鶴乃さんを叱りながらやちよさんが入ってきた。

 

 

「ごめんなさい……。この子は私が呼んだのよ。もともと手伝ってもらってて……」

「そ、そうなの……」

「それと荒事になるかもって言われたから、戦力として十分なこの子は適任よ」

「荒事……!?」

 

 

 その言葉を聞いてアタシ達は一斉に警戒心を高める。

 もしかして、犯人を突き止めたのだろうか。

 

 

「ええ。その事についてだけど……とりあえず、みんなに入ってきてもらいましょうか」

「みんな……?」

「ガァー」

 

 

 ん? 今、変な鳴き声が聞こえたような……。

 ぐるっと辺りを見回して、入り口の付近にそれはいた。

 どこからか入り込んできたのか、一羽の鴉が羽繕いをしている。

 ……って、これまさか。

 

 

「やーやー。真打ちの登場でございますよ」

「つばめさん!?」

「こんばんは葉月さん。今回の一件、色々あって私たちも黙って見ているわけにもいかなくなりましたので、僭越ながら首突っ込ませてもらいましたよ」

「ふふ、やっと来てくれたのね。つばめ」

「はいはーい。このはさんのピンチには駆け付けるつばめさんです」

 

 

 やっぱり。

 つばめさんは多彩な魔法を操る。その中には鴉を使役して視界を共有する、なんていう偵察向きのものまで存在する。

 というかこのは、その言い方だともしかして知ってたの……?

 

 

「失礼します……あら、中々趣のある場所ですわね」

 

 

 続いてやってきたのは常盤ななか。

 ごきげんよう、なんてすまし顔でアタシを見てくるけど、調査をしているなら一報ぐらい入れてくれてもいいんじゃないかなあ……。

 

 それから続々と人が入って来る。

 ななかのチームメイト達、東の代表の十七夜さん、仲良くなった団地の魔法少女たち。

 流石にこれだけの人数が入ると、殺風景だった部屋も賑やかになる。

 

 

「さて、皆さん揃ったところで推理ショー……と行きたいところでしたが、どうやらその必要もないみたいで」

「え?」

 

 

 突然、つばめさんがテレパシーを繋いできた。

 

 

『あ、そうそうこのはさん、葉月さん』

『なに?』

『あなたたちの後ろ、葉月さんから見て右斜め108度ぐらいのところ。()()()()

 

 

「っ!」

 

 

 その言葉を聞いたアタシの行動は速かった。

 瞬時に振り向き、空間全体にスキャニングを発動する。

 アタシの魔法は対象がいなければ不発する。

 逆に言えば、そこに何かがいるのならたとえ魔法で隠蔽されていようとも炙りだせるということ。

 

 結果はすぐに出た。

 誰もいないはずのそこから、確かに反応が返ってくる。そんな不可解な事態の答えは一つしかない。

 

 

「うらぁ!」

 

 

 ためらうことなく攻撃を仕掛ける。

 こんな状況で姿を隠してアタシたちの背後を取っている相手を味方かどうか判断する必要なんてない。ある程度の根回しを済ませてきただろうつばめさんが知らせてきたのも、その判断に拍車をかけていたかもしれない。

 

 何もない(誰かがいる)場所に放たれた雷撃は、途中で何かに弾かれたように明後日の方向に飛んでいった。

 

 

「……あっぶなあ。いきなり攻撃とか、野蛮じゃないの?」

 

 

 どうとも思ってなさそうな声で、そいつは姿を現した。

 紫色の衣装。さすまたのような形の杖。フィクションで見る魔女のような姿の魔法少女。

 突然の出現にみんなが驚きながらも変身し、一人だけ冷静を保っていたつばめさんはビシッと指を突き付けて彼女に言った。

 

 

「さて、捻りもないセリフを言わせてもらうが――お前が今回の、いやすべての犯人だな更紗帆奈?」

「――あっは」

 

 

 あっははははは! あっは、あはははははは!

 

 下卑た笑い声が響く。

 

 その声色だけですべてわかる。こいつが私たちを嵌めた張本人だ。

 ぎり、と武器を持つ手に力が入る。

 今すぐにでも跳びかかりたくなるのを抑えて、アタシはそいつの言葉を待った。

 

 

「正解正解。あたしが犯人の更紗帆奈で~す!」

 

 

 更紗帆奈と呼ばれた魔法少女は、いともあっさりと自分の罪を認めた。

 

 

「いや~、やっと見つけてくれたねえ……一番最初に発見するのがあんたなのは気に入らないけど、よくあたしの名前を突き止められたじゃん」

「私の手柄じゃないですよ。十七夜さんがあなたの名前を知っていただけです」

「あー、そういうこと。結構がっちり暗示で封印したのに、よく思い出せたものだね~」

「ああ。おかげ様でな。随分と苦労させられたとも」

 

 

 言葉通り、十七夜さんは少し疲れているようにも見える。暗示で忘れていた魔法を思い出したってことは……やっぱり魔法を解除したってことかな。

 

 

「更紗帆奈。およそ一年前から魔法少女として活動している。固有魔法は『上書き』、相手の固有魔法を自分にコピーすること。現在は共に活動していた瀬奈みことの『暗示』で上書き中。当の瀬奈みことは昨年から行方不明。恐らくそれをきっかけに十七夜さんの記憶を封印して暗躍を開始。以後、魔女を暗示魔法で飼いならして各地で意図的に騒動を引き起こし続けた」

「へぇ~、よーくわかってんじゃん! 大体その通りだよ」

 

 

 つばめさんが情報をまとめ上げれば、更紗帆奈は満足したように頷く。

 

 

「メルくんから聞きましたよ。ななかちゃん達が魔女に襲われたのも、このはさん達が嵌められたのも。全部お前の仕業だとね」

「……ふーん、あの子生きてるんだ。運がいいね~」

 

 

 安名メル。調整屋の手伝いをしている占いが趣味な魔法少女。

 つばめさんとは仲よく会話をしていたけど、もしかしてあの子も襲われたのか。

 道理で、つばめさんがあそこまで口調が荒くなっているわけだ。

 

 

「らしくないですね。ここまでこそこそと姿を隠しておきながら、わざわざ自分の痕跡どころか姿まで見せるなんて。まるでわざわざ見つけてくれと言ってるようなものだ」

「そりゃあ、見つけてもらわなきゃ意味ないからね! だってのにあんたらってばぜーんぜんあたしのこと見つけられないんだもん! だから親切に難易度イージーで派手にやってあげたんだよ」

 

 

 まるでアタシたちで遊んでいるかのような言いぶりに腹が立つ。

 

 

「……なんなの、あんたは! 私たちを弄んで、一体何がしたいのよ!」

「え~? そんなのもわかんないの~? 今自分で答えを言ったようなものなのにさ~」

「なんですって?」

「だ~からさぁ、ぐっちゃぐちゃの台無しにしたいんだよ! 血も繋がっていないのに仲良しこよしで家族ごっこしてる連中とか、そこの澄ました顔して生きてる奴の人生とか、お行儀よく魔女退治なんてやってるあんたらとかさ。全部引っ搔き回して踏みにじって笑ってやるのさ! 特に静海このは、あんたが幻覚で取り乱していた時なんかは最高に笑えた「もういい」……あ?」

 

 

 瞬きの直後。

 アイツの目の前には槍を振りかぶったつばめさんの姿。

 その瞳は幽白に染まって、声は生きてないと錯覚させるほどに冷たくて。

 それ以上に、この場の誰よりも激情が渦巻いていた。

 

 

お前、もう黙れ

 

 

 

 

 帆奈がそれ以上言葉を紡ぐよりも速く、死神の刃が振り下ろされた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

ChapterⅧ【反撃開始】

 

 

 

「つばめさん!?」

「あっぶな……ッ!!」

 

 

 振り下ろされた骨喰の一撃によって、隠れ家の壁の一角が綺麗に抉りぬかれていた。

 完全な奇襲。本来であれば頭から真っ二つにしていたはずのそれは、しかし更紗帆奈の咄嗟の回避によって左肩を掠めるに留まる。

 最もそれだけでも肩の肉は大きく抉られており、大きく血が溢れていた。

 

 

「ちっ、魔法しか能がないかと思いましたが、意外と勘がいいな貴様」

「こういうのってちゃんと話を聞く番でしょ!?」

「え? いやさっき自分で犯人()ったじゃないですか。ならそれで十分。お前の魔力パターンはすでに把握済み。ぶっちゃけもう死んでいいです」

「だからって躊躇なくできるとか頭バーサーカーかお前!?」

「あなたが言える筋合いでもないでしょうに、ね!」

 

 

 間髪入れずに振るわれる豪槍の斬撃を、帆奈は寸でのところで回避していく。

 その身のこなしとは裏腹に表情は渋い。

 

 この時、彼女はこの場の全員に暗示をかけて動きを止め、嘲笑と共に逃げおおせるつもりだった。

 だがそれはつばめの会話途中に襲い掛かるという掟破りによって潰され、今もこうして逃がすものかと追撃が襲い来る。反撃に転じようにも、つばめの槍捌きはその激情とは裏腹に至って冷静で隙が無い。何が何でもこの場で始末しようという強い意志を感じる。

 おまけに大きな風切り音が声を掻き消しており、これでは暗示で動きを止めることすらできない。

 出鼻を挫かれた、とはまさにこのこと。

 後方に目をやれば、戸惑いつつも他の魔法少女たちが体勢を整え始めていた。

 

 

「クソッ……こいつはもうちょっと後に取っておくつもりだったのにぃ……!!」

 

 

 パチン、と指を鳴らす。

 それを合図として、周囲の風景が切り替わる。

 

 

「魔女の結界!?」

「そいつの相手してから追ってきな、バーカ!!」

 

 

 流石にこの状況では一方的に嬲られるだけだと判断し、従えていた魔女を放って仕切り直しを図ったのだろう。つばめが周囲に警戒し足を止めた絶好の隙を見逃すことなく、帆奈は一目散にその場から逃走を始めた。

 

 

「あっ、逃げるな!」

「つばめさん! 一人で深追いは危険です! ひとまずはここの魔女を片付けましょう」

 

 

 追いかけようと踏み込んだつばめを、ななかが引き留める。

 優先順位を間違えてはいけない。彼女を止めることは大事だが、それ以上に魔女を放置するなど、魔法少女としてあるまじき行いだ。

 

 

「……そうですね」

 

 

 流石に魔女とはいえ、十四人もの魔法少女相手には瞬く間に倒される。

 しかし風景が元の廃墟に戻った時、更紗帆奈の姿はどこにもなかった。

 

 そうして全員が落ち着きを取り戻した時、つばめは真っ先に頭を下げた。

 

 

「すみません。最初の一手で行動不能に追い込むつもりでしたが、逃げられました」

「あーうん、別に責めたりしないよ。でもいきなり攻撃したのは驚いたなぁ……」

「事前に話し合った結果です。相手の魔法が『暗示』なら、初手は完全な不意打ちで相手をすると。つばめさんに会話の主導権を握らせていたのはそのためです」

「流石に、あのタイミングで行くとは思わなかったけどね……」

 

 

 ななかのフォローに、他のチームメイトも頷いている。

 どうやら彼女たちは納得済みでの行動だったらしい。

 

 

「それならもう少し詳しく説明してくれても良かったんじゃないかしら。『このはさん達には自分が話を纏めるので情報をください』って、ここまでするとは思わないじゃない……」

「いやあ、流石にやちよさん達に不意打ちまで伝えると相手に気取られるかもしれなかったので……。発音か思考か。何であれ、魔法の発動をさせないためにはこれが最善だったんです。皆さんはもう少し事情とかを知りたい気持ちもあったのでしょうが……」

「別にいいわ。あのまま話を聞いててもろくな情報は落ちなかっただろうしね」

「アイツ、愉快犯の類ヨ。人が慌てる様子見て楽しむ外道ネ」

 

 

 そうしてつばめの謝罪も済んだところで、話は逃げ出した更紗帆奈の行方について。

 

 

「……それで、どうする?」

「感知で探れる範囲には……さすがにいないわね」

「各自で散開して探すしかないんじゃないかしら?」

「それなら少しお待ちを。今周囲を索敵してますので」

「どうやって……って、ああカラスか」

「ほんと便利だよね~。それ固有魔法って訳じゃないんでしょ。どうやったの?」

『私が教えたのだよ。教えれば教えるほど覚えてくれるものだから父としても鼻が高い』

 

 

 いつの間にかつばめの帽子に止まった鴉から男性の声が発せられる。

 

 

「おわぁ!?」

『どうも。こんな形で失礼するよ、つばめの父親だ。今は調整屋にお邪魔していてね、そこからつばめの回線に相乗りして遠隔で話しかけている』

「あ、これはどうも……」

 

 

 保護者の登場に恭しくお辞儀する葉月。

 鴉と頭を下げ合っているのは中々にシュールな光景だ。

 

 さしものつばめとはいえ、複数体の鴉を使い魔として使役して情報を集めるには限度がある。

 特に今回の用に、各地をリアルタイムで同時に監視するというのは、脳内で処理する情報量が多く負担がかかるのだ。そのデメリットを今回は父、琴織渡がオペレーターとして動くことによって区域全体を覆う規模での観察を可能にしているのだ。

 

 

「――と、見つけました。ここから北に200メートルあたりのビル屋上です」

「よーし! それじゃあ」

「待ってください。つばめさんの連撃をしのぎ切ったあの実力は侮れません。それに加えて『暗示』、あるいは『上書き』の魔法もあります。下手に向かうのは愚策です」

 

 

 居場所が判明し、喜び勇んで出撃しようとした鶴乃をななかの一声が止める。

 

 

「でもこのままじゃ……」

「逃げませんよ。あいつはこのはさん達を嵌めようとしてここまでやったんだ。こんな不意打ち程度で逃げるような臆病者なら、私たちが動いた時点で姿をくらましている」

「それは……うん、そうだね」

 

 

 敢えて自分の痕跡を残し、挙句には関係者の前で姿を晒して見せた。

 それはつまり、その場にいた全員を相手取ってなお何かしらの勝算があるということに他ならない。

 

 

『前回の事件において彼女は一切の手がかりを掴ませなかった。だが今回は早々に姿を見せた。イージーモードという言葉を信じるならば、今回は彼女からの挑戦状と言うべきだ』

「挑戦状?」

『嗚呼。つまり、君たちは舐められているんだ。お前たちを弄ぶならこの程度で充分だとね』

「……ッ!!」

 

 

 空気が張り詰める。

 薄々感じていたことを明確に言葉にされて、各々のプライドに火が付く。

 魔法少女とは人を蝕む悪意、魔女を討伐する存在。

 それがたかが、狂気に堕ちた魔法少女一人すら倒せないと?

 

 

『更紗帆奈は相当な手練れだ。だが奴は一人。他に魔女を従えていたとしても、連携行動は望めまい』

「つまり?」

『陣を構えて追い込む。包囲網を作り上げ、奴を徹底的に追い詰めるのさ。既に昨日の魔法少女たちに経緯を伝え、この辺り一帯に待機させている。他にも有志を募ったらなかなかの数が集まったよ』

「ももこさん達に、明日香さんとささらさん。加賀見さんと江利さんに、ひなのさんもいて、後は……」

「めっちゃいるね……」

 

 

 それはつまり、この事件をくの魔法少女が腹に据えかねていることの証拠。

 更紗帆奈はつばめ達だけでなく、神浜という街すべてを敵に回したも同然なのだ。

 

 

「彼女たちの詳細はこちらが把握しています。私たちは着実かつ臨機応変に更紗帆奈を追い詰めましょう。指揮は私が、戦況報告はつばめさんとそのお父上が担当します」

「イージーモードだというのなら、私たちは遠慮なく攻略不可(クソゲー)であいつを出迎えてやりましょう。皆で力を合わせて、あいつの企みをぶっ壊してやりましょう。文句のつけようもなくあいつをぶちのめして、全員の前で土下座させてやりましょう」

 

 

 この上なく意地の悪い笑みを浮かべて、琴織つばめは槍を掲げた。

 

 

「――さあ、ハメ殺しの時間だ。今まで好き勝手された分、こっちもやりたい放題で叩き潰しますよ!」




【ショウ・タイム】
 もうちょっと隙を狙うつもりだったけど、つばめちゃんがプチリンした。

【反撃開始】
 つばめちゃんの鴉については複数使役が可能。視界共有はその分だけ脳に負担がかかる設定。あと自分の意識で動かせるのは一体が限度。それ以外は簡単な命令しか出せず、たまにサボるやつが出る。



次回【ウサギ狩り/英雄推参】
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