いや、長いって。
戦いを終えてから二日後。
私はチームの皆さんと一緒にななかちゃんの家にお呼ばれしていた。
「皆さん、この度は本当にありがとうございました」
ななかちゃんが畳に両手をつき、頭を下げる。
とても綺麗で上等な和服(後で話を聞いたがどうやらここ一番で着る勝負服らしい)を身に着け、一通り私たちに茶をもてなしてくれた(めっちゃ高級な和菓子で、茶も美味しかった。しかも使われた茶器は父の形見の一つらしい。重いわ)後、ななかちゃんは謝辞の言葉を告げた。
「我が華心流を穢し、父を貶め、皆さんにも災いを与えた憎き飛蝗。そしてこれを操る黒幕であった魔法少女・更紗帆奈。この度を以って討伐を果たせたのは、一重に皆さんの助力あっての事です。心より感謝いたします」
「堅苦しいヨ。私だって蒼海幇を脅かした敵を倒せたこと感謝してるネ。お互い様ヨ」
「死んじゃったのは、ちょっと悲しいけどね……」
「とは言っても、あちらさんが殺す気でかかってきて命も懸けた攻撃を仕掛けてきた以上は、その辺ああだこうだいうのは無粋な気もしますけどね」
「うん。でも、ああなるまでにはきっと事情があったと思うとね……」
あきらくんは優しいですね。でもどのような事情があったとはいえ、それで彼女の罪が消えることはない。音子さんが動いた以上、彼女の結末は変わらなかっただろう。
それに私以外知らないとはいえ、彼女の願いを音子さんが知っていたら間違いなく処刑をしている。誰かを願いによって因果ごと消滅させる……それは主の御業以外に許容してはならないのだと、かつて聞いたことがある。
「というかうちの父がろくでもないことを口走ったようですみませんね」
あのロクデナシの親父は、どうやら気絶した私への施術中にソウルジェムの秘密についてバラしたらしい。
その時は話のゴタゴタで大して深刻に受け止められていなかったみたいだが、改めて聞いてみればリスキーな真似をしてくれたものである。
あきらくんやかこちゃんがその事でショックを受けていないといいのだけどと謝罪を口にする。
「うん。最初聞いた時は驚いたけどさ、そういうものなんだって考えれば受け入れられたよ。契約しなかったらあのまま使い魔にやられていたしね。それで得た力で人を助けられるなら、ボクは本望だよ」
何このセリフ、イケメンか? イケメンだったわ。
「何ともまあ、あきららしいネ」
「そういう美雨はそこまで驚いてなかったよね?」
「まあナ。魂と身体を分けて超人になる。そういうモノならこっちでも有名ネ」
「あぁ、
「就是」
尸解仙とは自分の身体以外の物体を死体の代役にすることで実現する仙人のことだったか。まるで今の私の存在を的確に表している。魔法と魔術の関係を見るに、ソウルジェムの仕組みを再現しようとして編み出されたのが尸解仙だと言われてもおかしくはない。後で音子さんにでも聞いてみようかな。
「かこちゃんは大丈夫なんですか? ぶっちゃけてしまえば、私たちがもっとしっかり止めていればこうはならなかったかもしれないのに」
「……はい。ショックが無かったと言えば嘘になります。でもお二人は私から選択を取り上げるんじゃなくて、最後に選ぶ権利は私にありました。その結果皆さんと出会えたのなら、それも私の運命なんだと思います」
なんて強い子なのだろう。
この強さがあれば、どんな理不尽が待ち受けていようとも、彼女は前を向いて進んでいけると信じられる。
だからこそ、その強さに甘えることを許してほしい。
元々、けじめとして語る必要はあると思っていた。
元凶を倒し、ソウルジェムの真実について知った。であればこれから先の真実について知る必要がある。
「そうですか……。しかし、それなんですけどね、実はまだもう一つ父が語っていないことがありまして……私もずっと皆さんに隠していたことなんですが」
「魔法少女が、魔女になるってことカ?」
「はいその事で……え?」
なんで知ってるの??
「あの後、ななかから聞いたヨ。お前からこっそり教えられたってナ」
「……恨まないんですか? 特にかこちゃんは、私たちが促したようなもので……」
「ボクたちに気遣ってのことだったんでしょ? 悪いこと考えてたんじゃないんだから、つばめさんやななかを恨んだりなんてしないよ」
「……はい。お二人とも、私が魔法少女になることを強いたりはしませんでした。それに、こうして私たちが生きていることには変わりありませんから! だから、魔法少女になったことへの後悔はありません」
くっはー。何この子? 天使か? この世界には既に天使が降臨していたというのですか!?
と、個人的な萌えはさておき。
魔法少女の魔女化。ソウルジェムが魂であることなんて気にもならなくなるぐらいの衝撃的な事実だというのに、皆さんは受け止めてくれていた。
念には念をとグリーフシードをいくつか持ってきていたけど、取り越し苦労に終わったらしい。
「けど、お前に話してもらうことはまだあるヨ」
「へ?」
「ななか」
「つばめさん。あなたの秘密について……すなわち、更紗帆奈が言っていた『魔女になってから戻ってきた』ということについての詳細についても、語るべきだと私は思っています」
「え? あー……そういえばあいつ、そんな変なこと言ってましたね。私たちに疑念を生ませるためのただの妄言だったんじゃないですか?」
「そういう可能性もあったのでしょうね。ですが、実は相野さんの魔法であなたを助ける時、
「あ、あーっ、あーーーー!?」
そういえばなんか私と心を繋いだって言ってましたね!?
てっきり思考の共有ぐらいに思っていたけど、あの魔法そんな深い記憶までみえるんですか!?
そりゃあいつかは明かさなければならないだろうと思っていたけど、まさかこんなことで露呈するとは意外だった。
どうしよう。
皆のことを信じてはいるが、それでも拒絶される可能性が頭によぎる。やちよさん達には受け入れられたから、なんて過去は何の根拠にもなりやしない。
何せ魔法少女にとっての死の運命。それを踏み倒した挙句、そこからはほぼデメリットなしで暴れ回れるというチート具合だ。
最悪パーティ追放からのセカンドライフが始まってしまう……なんて茶化した思考でもしないと落ち着けない。
はぐらかすっていうのは……駄目だ。かこちゃんやあきらくんならある程度当たり障りのない言葉で誤魔化したりもできるんだろうけど、ななかちゃんは既に知ってるし、美雨さんもいるんじゃ根掘り葉掘り言わされるの確定じゃないか。
……腹を括るか。
何故かななかちゃんは納得してくれているようだし、ここは話すしかない。
というかこれ、このはさんにも知られてるってことじゃないか。あの人にも後で説明しなくちゃいけないんだろうなぁと、懸念事項がまた一つ増えた。
抱え込んでいた秘密――異形顕現について話す。
自分の魔法を使って無理やり魂を魔法少女のままに固定したこと。その副作用で魔法少女とも魔女とも言い難いどっちつかずの存在になって、両方の力を操れるようになったこと。これが再現性のあるものかはわからず、一応他の人にも同じことはできないかと魔術の研究は続けているが、依然としててがかりは掴めていないこと。
以上の事を掻い摘んで語った後、皆は神妙な顔をして黙っている。
一抹の不安が頭によぎる。ななかちゃんは私を真っすぐ見据えて口を開いた。
「――なるほど、そういった事情があったのですね。よく話してくれましたねつばめさん。勇気が必要だったでしょう」
「はい。一応知ってる人は何人かいますし受け入れてもらっているんですけど、それでも皆さんに打ち明けるのってちょっと怖くて……やっぱりこう、気持ち悪いとか怖いとか化け物だとかとっとと私たちの前から消えろこの腐れチート野郎がみたいなことは考えちゃうんですよ」
「罵倒のバリエーションが豊富だね……。というか、つばめさんに対してそんなことを思うわけないじゃないか! ボク達を何だと思ってるのさ!」
「頼りになる仲間で面倒見がいのある後輩ですよ」
「思いのほかはっきり言うね……ちょっと恥ずかしいな」
あと顔が良い目の保養。
恥じらうあきらきゅんからしか取れない栄養があるのだよ。
「まぁ、こいつの事は最初から反則じみた奴だとは思ってたからナ。今更何を持ってこようがもう驚かないヨ」
「……つばめさんにどんな事情があったとしても、私が知っているのは優しいつばめさんです。だから、私は私が信じたいつばめさんを信じます!!」
「あきらきゅん……かこちゃん……ッ!!」
嗚呼、なんと眩しく純粋な好意か。
そんなもの、私の人生とは無縁だと思っていたそれが、真っすぐに向けられている。
最早悔いなし。
我が人生、ここにて潔く幕引きと候。
「うわ!? なんかつばめさんが物理的に透けてる気がする!?」
「つばめさんの尊いポイントが許容量を超えてしまいましたか……このままではおそらく、成仏してしまうかと」
「何冷静に解説してるのななか!?」
「"穢れ纏い、朽ちて動くわが身なれど、かこちゃんの笑顔の尊きに消えゆく定めかな"」
「辞世の句詠んでる!? うわーっ、戻ってきて戻ってきてー!」
がくんがくんと揺さぶられ、どうにかこうにか正気に戻った。
その場のノリで昇天仕掛けたが、我が未練は尽きることなし。皆さんを残して一人昇天などできませんよ。
「――ふぅ、まあ皆さんが私について受け入れてくれたのは嬉しいですが、これらの事実については他言無用でお願いします。余計な混乱とか避けたいですし、私に対して魔女にならないようにしてくれなんて押し掛けられるとか、ちょっと困りますので」
『君は極めてあやふやな状態になっているが、それは転じてあらゆる可能性を秘めた状態だ。そのことに気が付いた者たちが余計なことを考える可能性は、まあなくもないだろう』と父は言った。
私はそのことを今回の一件で改めて思い知った。更紗帆奈の記憶を垣間見て知った彼女の目論見。その一つは私を釣り上げて親友を蘇生させるための触媒にするためで、その考えの基になった知識は死者蘇生の類に通じる魔術だ。
今後も同じような真似を考える魔法少女や魔術師が現れる可能性を考えれば、この情報はできる限り部外者に知られないほうがいいのだ。
「勿論。このことは口外しないと誓いましょう。――さて、諸々のことについては話し終わったことですし、少し個人的な話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
全員で頷く。
これからもチームを組んで活動していく仲だ。お互いの連携に支障が出るようなものは無くしていくべきだ。
「以前にも語りましたが、私の目的は復讐と華心流の宗家としての地位を取り戻し、本来の形へと再興することです。直接の仇を倒し、高弟たちの心を乱した魔女も消えたとはいえ、未だ家元としての権限は彼らに渡ったまま。私の目的は道半ばといえます……とはいえ、ここからは私の家の問題ですし、皆さんが関われる範囲を超えています」
「まあ、それはそうですね」
華道とか正直ちんぷんかんぷんだ。
経営については一応父の家業を継ぐような形を考えてはいるけど、正直そこまで表の世界にいられるかどうかも怪しい身ではある。ななかちゃんのお家問題に関わることは難しい以上、そこは本人に頑張ってもらうしかない。
「ですが、私もまだ一介の学生。復興のためにできることなどたかが限られていますし、何よりそのために全てを捧げるような真似をしても父に顔向けできない。それにいつまた家が魔女に蝕まれるかもわからない以上、魔女退治にも努める必要もある。魔法少女として生存が掛かっている以上は特にです。しかし今の神浜では魔女が強くなっている以上は、一人で魔女と立ち向かうというのも不安が残ります」
「それでその、皆さんにはお願いがありまして……」
「なんですか?」
一通り前置きを語ったのち、ななかちゃんが少しばつが悪そうに言った。
「これからも、私とチームを組んでくれませんか?」
「――――」
思わず、皆を目を合わせてしまう。
だって。
復讐が終わった後でもこの五人でこれからもチームを組んでいこう、なんて。
当たり前すぎて、まったく考えようともしていなかったのだから。
どうやら皆も同じ考えのようで、誰ともいわずに笑みがこぼれる。
嗚呼、なんて微笑ましい。
「……なんだ、そんなことですか」
「全くヨ。身構えて損したネ」
「ななからしいっちゃあ、らしいかもね」
「もう、水臭いですよ。ななかさん」
私たちはななかちゃんに向かって、手を差し伸べる。
「そんなのこっちからお願いしますよ。私たちの頼れるリーダーさん」
嗚呼全く、尊い人だなぁ。
◇
「よっと。ここですか」
夕暮れ時。
私はななかちゃんやこのはさんと一緒に大東団地を訪れていた。
屋上に向かえば先客がおり、見覚えのある銀髪の他、私立大付属学校の制服の少女――伊吹れいらさんがいる。
「やや、十七夜さん。奇遇ですね」
「おや、琴織。それに常盤くんに静海くんか」
「こんにちは……」
「どうも」
「どうしたんですか、お三方が揃って」
伊吹さんがここに来た要件を尋ねてきた。
「どうにも落ち着かなくて……話で聞いたここにやってきたの。更紗帆奈が執着した場所、そこに行けば何かがわかるかもと思って」
「私も似たり寄ったりです。忌まわしき仇ではありましたが、死者を偲ばないというのも違うと思いまして」
「琴織さんは?」
「私は……まぁ付き添いですね。このはさんとはちょっと話がしたかったし、丁度良かったんですよ」
「……もしや、お邪魔か?」
「いえいえ。十七夜さん達の方が先に来ていたんだから構わないですよ」
大東団地の屋上から景色を眺める。
夕焼けに染まる団地。
整然と立ち並ぶ建築物。
その奥に広がるのは大きく開いた平原。
吹きすさぶ風もまた、穏やかで心地よい。
確かにこれは壮観だ。
瀬奈みことが感じた世界の美しさは確かなものだった。
……そして、彼女が実際に身を置いていた境遇の醜さもまた、偽りなく現実に存在する。
彼女たちは自分たちを取り囲む醜悪な世界を壊して、この美しい思い出だけを残そうとしたのだろうか。
だとすれば、それはなんと純粋で愚かな――
「――あれから色々と考えてはいるけど、纏まらないわ」
このはさんが口を開く。
この団地へ行こうと言い出したのはこのはさんだ。
あの時、私の記憶に触れて真実の一端に触れた彼女だが、やはりショックは大きいようで。当時は私の安否の方が大きかったらしいが、状況が落ち着いてから揺り戻しが来ている最中とのこと。
少しでもこの気持ちに整理をつけるため、更紗帆奈と瀬奈みことの思い出の場所を訪れることで、彼女たちの想いの一端に触れようとしているらしい。
「魔法少女の真実についてもそう。ソウルジェムのことも、その先についても。あの時、もっとキュゥべえから話を聞き出して、葉月とあやめの契約を何としても止めるべきだったのかもしれない。でも、そうしたら私は一人で戦い続けて、今まで生きていられたのかもわからない……わからないのよ、どの選択が正解なのか、今歩いている道が本当に正しいのか。そんな悩みが私の中でぐるぐると渦巻いているの」
「なるほど……それは中々深刻な悩みですね」
「あいつのしてきたことは決して許せないけど、彼女の起こした渦が、私たちを引き合わせたともいえる。あなた達と仲良くなれたことは幸運だっていえるけど、そうするとあいつの行いも肯定してしまいそうで……」
「……難しく考えすぎなんじゃないですか? 私たちが知り合えた要因の一つはあいつなんでしょうけど、そこから私たちが仲良くなったのは、私たちがお互いに歩み寄った結果ですよ」
この世界はあらゆる人間の因果が複雑に絡み合っている。そう師父が雑談交じりに語ったことを思い出す。
世界が海と山で分断されていたころならともかく、空も海も自由に渡っていくことができる現代においては万人には万人との可能性があり、それは最早人間一人の目線ではとらえきれないほど大きな流れを生んでいる。多少大きな因果を持った魔法少女一人が生み出した歪み程度にさほどの意味はないのだと。
であれば、更紗帆奈が生み出した渦も、大局的な目線で見れば大海に生まれた偶然の産物に過ぎないのだろう。そこの一つを汲み上げてああだこうだと言いあったところで、納得のいく答えなど帰って来る筈もなし。
「結局私たちにできるのは、あーだこーだ言いながらも今を必死で生き抜くってことなんでしょうね。そっから目を背けて、失った幻想に執着し続ければ、その先にあるのは彼女たちと同じ結末かもしれない」
「……そうね。その一線を踏み越えないように、気を付けなければいけないわ」
「このはさんなら大丈夫ですよ」
その言葉に少しこのはさんが笑みを浮かべる。
ちょっとだけ整理がついたのかな。それならいいのだけど。
「……あの、琴織さん」
と、会話の終わり際を伺っていた伊吹さんが話しかけてくる。
少し言いづらそう、というか明らかに不安が顔に出ている。
「なんですか?」
「魔法少女が魔女になるって……本当なんですか? みとから話を聞いただけじゃ、どうしても信じられなくて……」
なんでそのことを……って、そっか。相野さんも全部見ているんだったか。
「ええ。信じがたいでしょうが本当の事ですよ」
「……っ、そう、なんですね……。それで、あのつばめさんも一度魔女になったって……」
「まあそっちも概ね合ってますよ。やっぱり驚きます?」
「ま、まあ一応は……」
と、そこまで言って伊吹さんは念話をつなげてきた。
(でも私も似たようなものかもって思って、そこまで驚きはないんです)
(え? どゆこと?)
(……私、実は一度魔女に操られてここの屋上から飛び降りちゃってるんです。それで死んだ私を、せいかがキュゥべぇに願って……)
(おおう。それはまた壮絶な……)
(だから、一度死んでから生き返ったというのもそこまで不思議じゃないって感じで受け止められているのかな……なんて)
中々デリケートな話を聞いてしまった。
まあこの内容は心にしまっておこう。
「正直、なんであれ成功したのか今でもわかんないんですよねぇ。流石に他の人実験台にするわけにもいかないし、今のところ成功例は私だけって感じですね。ところで、他の人にこのことを言ったりしましたか?」
「い、いえ! 私たち三人だけの秘密です! 流石にこんなこと他の子に言いふらせないですよ……」
「それは良かった。とりあえず、この件についてはお口チャックでお願いしますね」
「は、はい!」
よし、これでひとまず事情を知った人への注意喚起は済んだ。
あとは……。
「で、どう思いますか、このはさん?」
「何が?」
「私についてですよ。今まで隠してた能力とか、過去に会ったこととか、あの時見たんですよね?」
「……ええ、そうよ。それがどうかしたの?」
「どうかしたって……なんかこう、あるんじゃないですか?」
「つばめもつばめで大変なことを経験していることが知れて、もっと仲良くなれそうって感じかしら。まあ、勝手に記憶を見たのは悪いと思うけど……あなたも私たちの過去は知ってるんだしこれでおあいこかしらね」
おあいこかしらねって……。
「……いや、私は一度魔女になってますよとか、そのうえで自分の魔法で戻ってきたんですよとか。その辺り気味悪いとか、ズルいとか思うところあるんじゃないですか?」
「アレはあなたが必死であがいた末の結末なのでしょう? それでつばめを気味悪がるなんてことないわ。当たり前じゃない」
何を言ってるのだろうという顔でこのはさんは小首を傾げている。
ななかちゃん達の方に顔を向ければ、皆が生暖かい視線を返してきた。
……これ、私のほうが悪いんですか?
…………話題を変えよう。
「あぁ、そうそう。十七夜さん」
「なんだ?」
「更紗帆奈が記憶を消した理由……別に自分の悪事を消そうって魂胆じゃなかったみたいですよ」
「そうなのか?」
「どうも十七夜さんに心を読まれるのが嫌だったみたいですね。もしかして会うたび人に読心仕掛けているんですか?」
実際には十七夜さんと出会った時点で後ろめたいことをしていたらしいが、それはそれとして十七夜さんの対応は初対面の魔法少女にやっていい所業ではない。私でも無許可で心を読まれたら腹が立つ。暗示で自分たちの存在を忘れさせたのは正解だと思う。
「……いや、確かあの時は瀬奈くんの方からこちらに探りを入れてきたんだ。言い方が怪しいものだからつい魔法で心を読んだものだが……思い返せば、自分はあの時点で警戒されていたのか」
「言っておきますが、私の心を読んでもろくなことになりませんよ。対精神系魔法用のカウンターを仕込んだので、最悪の場合脳とか焼き切れてこう……ブチっといきます」
「ブチっとか」
「ええ。脳や目の血管あたりとかが特に」
「そんな生々しい言い方やめてください。ちょっと想像しちゃったじゃないですか……」
伊吹さんがぞくっと背筋を振るわせるのがおかしくて、思わず笑ってしまう。
――改めて、空を見上げる。
日が完全に沈み、星と月が顔を出す。
赤と紫のグラデーションから、黒一色に染まっていく。
結構長い間ここにいたらしい。
そろそろ帰らなくてはと思い、不意に背筋に走る感覚。
「――と、これは」
「魔女、ね」
くるり、と手元に槍を呼び出して変身。
皆も同様に戦闘態勢で。
屋上の端に足をかけて、ひとっ跳びに空を横切る。
「それじゃ、帰るまえの運動といきましょうか!」
そう、私たちは神浜の
魔法少女だ。
「……はいワタシです。更紗帆奈は神浜の魔法少女たちとの交戦の末、死亡を確認しました」
『それは重畳。これで我々の活動の障害となりうるものが一つ消えたことはお嬢さまたちへの朗報として伝えましょう』
「いくら魔法少女の解放が目的とは言え、あのような方を放ってもおけませんでしたからね……。ところで、アレについては一体何のつもりだったのですか?」
『アレ、とは?』
「とぼけないでください。やっちゃん達が更紗帆奈を追う途中、魔女ではない怪物と交戦しているのを見ました。動物を掛け合わせた怪物、あれは間違いなく
『――少し失礼を』
どかどか。がやがや。
『問いただして参りました。彼女曰く、威力偵察として放っていたのが良くないタイミングで遭遇しただけ、とほざいておりました。大方いつもの悪だくみの一環でしょう。これ以上詰めたところでとぼけられるのが関の山です』
「……そうですか」
『ところで、更紗帆奈を討伐した魔法少女もやはり、七海やちよですか?』
「いえ。やっちゃん達も確かに加わってはいましたが、中心となって動いていたのは常盤ななかのグループと静海このはのグループ。中でも常盤ななかと琴織つばめが全体の指揮を執っていました。そして……かの紺染音子の介入も確認しました」
『ふむ……。私はあまり神浜の内情に詳しくはないので分かりかねますが、多くの魔法少女を率いることができると言うのは中々に貴重です。出来ることなら、私たちの同胞となってくれることを期待したいものですね』
「もしかして、勧誘しろといってますか?」
『できるなら。と言っておきましょう。仮に同胞として迎え入れられるのであれば非常に心強い。……ですが、仮に敵に回るのであれば確実な脅威となるのは間違いない。それに、あなたが動いていることが七海やちよに知られるのはあまり喜ばしくないのでしょう? ですので、引き入れるかどうかの判断はあなたに一任します』
「お気遣い感謝します」
『では、後日の会合にて詳しく報告を頼みましたよ。……それでは失礼しますね、
「はい。失礼します
エピソード2・シーズン1、完。
いくつかの閑話を挟んだ後、シーズン2。すなわちマギレコ本編の時間軸へと入ります。
近いうちに予告編を投稿する予定です。
それと丁度いい機会ですので、感想と評価、お気に入り登録もお願いします。