プロットのつぎはぎみたいなものをそれっぽく仕上げただけともいう。
発端は、ある初夏の出来事だった。
アラもう聞イた?誰から聞イた?
空飛び姫のそのウワサ
ビルの上でゆらゆら浮かぶ
不思議な不思議な女の子!
いつもいつも私たちを見下ろして
友達を欲しがってる寂しがりやのお姫様
ビルの屋上からジャンプすれば
彼女と一緒に空の旅へと御招待!
それがあんまりにも楽しいから
目が覚めてもふわふわ夢心地で上の空って
神浜市の人の間ではもっぱらのウワサ
アイキャンフラーイ!
「……飛び降り自殺、これで六人目ですってよ」
「また霧谷ビルでしょ? 呪われてるんじゃないの」
「おーコワ。あそこ近寄らないようにしよ」
連続する飛び降り自殺。
それを示唆するように同時期に広まった噂。
「ななかちゃん、これって……」
「偶然の一致、と考えるには不自然ですね」
神浜の魔法少女はこの二つに関連性を見出し、
魔女の関与を探るための調査に乗り出した。
――そして、
「あの人、本当に浮いていませんか?」
「魔法少女? いや違う、しかし魔女でもない。あれは一体――」
噂の通りに顕れた少女。
俯瞰する怪異が、日常を侵食する。
そうして浮かび上がったのは、神浜で暗躍する者達。
「お願いがあります。ワタシと共に来てくれませんか? マギウスの翼は、あなたの力を必要としています」
「お初にお目にかかります。私は沙羅ウズメ。偉大なるマギウスの側仕えであり、このマギウスの翼の統括を務めております」
――『魔法少女の解放』を謳う組織、『マギウスの翼』
「これはどうも。私、
深緑を基調としたゴシックドレスの少女は軽い笑みを浮かべ、黒いヴェールの下からこちらを値踏みするような視線を向けてきた。
――解放の旗の下に来たりしは、
「ハハハハハハハ! やはり勝利は良い!」
瞬く間に魔女をハチの巣にした銀色の魔法少女は、屍の上で自らの身体を誇示するように手を広げながら哄笑する。
胸元のプレートには『MGC-0011-α』の文字が刻印され、その上には『V』の特徴的なエンブレムが輝いていた。
――ひと癖もふた癖もある奴らばかり。
「……ウズメさま。マギウスの方々。これは正真正銘、心からの助言にございます。
今すぐ全ての羽根たちをここに集め、イヴの警備を固めなさい。
さもなくば、私たちは全滅しますよ」
――解放の道に立ち塞がる、強敵たち。
「”退け、うら若き乙女たちよ。お前たちが抱える魔女のなりそこない、エンブリオ・イヴを女王は所望した。疾く頭を垂れ、道を譲るのならばこれ以上の狼藉は控えよう”」
フェントホープの結界を強引に切り裂き、羊の魔女の大群を引き連れて現れた黒い鎧の騎士が、立ちはだかる二人の魔法少女へと告げる。
「私はマギウスが駆けつけるまでヤツを足止めしてみるが……お前はどうする?」
「え、それ私に聞く? スキくない質問だね」
徒手空拳を構えながら尋ねる銀色の麗人に、何を当たり前のことを聞いているのだと白いドレスの少女は首を傾げた。
「マギウスの敵ってことはお姉さまの敵。だったら殺す以外の選択肢なんて、最初からないに決まってるじゃん」
「……熱いラブコールだ。そんなに愛があるなら私にも少しぐらい愛敬を振り撒いてもいいんじゃないか?」
「やだ。だってあなたの顔ムカつくもん」
――解放の道に立ち塞がる、数多の強敵たち。
「西と東の代表のような、解放に従わないぐらいに強い魔法少女たち。魔女を使う事が気に入らない粛清機関。イブを狙うかもしれない十二の凶星。その他にもわたくしたちの敵、解放を阻むわからず屋さんはいっぱいいる。どれだけ確率が低くても、それが一斉に手を組んだらわたくし達だって敵わないかもしれない」
「だから、ぼく達を守るための騎士が必要だと思う。飛び立つための羽根ではなく、ぼく達の夢を彩るとっておきの精鋭部隊が」
――数多の敵を越えるため、色彩の騎士たちが一時に集う。
◇
「お前はもうこの街どころか、他の街だろうと速攻でお尋ね者。『教会』の監督役に見つかって締め出されるか、現地の魔法少女が徒党を組んで君を逆に狩りに来るか」
「あなたに残された道は二つあります、天乃鈴音さん。投降して私たちの元に下るか――」
「――命からがら、泥にまみれ泣きじゃくりながらみっともなく逃げ続けるかだよ。まあ、歯向かったら無理やり連れていくだけだがね」
紅き剣士と銀の麗人が、暗殺者の前に立ちはだかる。
「なんで、分かった……姿は消していたはず……」
「然様な隠形、稚戯に等しく。私に隠蔽で勝とうなど笑止千万。あなた達の扱うちゃちな手品とは、積み上げてきたものが違うのです。まあどうせ、これまで魔法少女を取り逃がしたことがないなら、指摘する相手がいなかったのは仕方がないのでしょうけどね」
地に倒れ伏す蝶の意匠が施された紫の少女を、緑色のゴシック服が踏みにじる。
◇
「ええ。お嬢様が全面的に悪いかと」
「トキメいてるの。お姉さまに斬られたときから、ずっと」
「アリナ殿に人の心はないのだろう」
「今だ人類を家畜と蔑むインキュベーターの技術を踏み越えて、我らはソラの大海を目指す。これを勝利と呼ばずしてなんと呼ぶか!」
「穢れを集めし厄神にして、呪いを祓う八幡神。我らが奉じるは、あなた方の語る矮小な魔女とは異なるものですよ。ええ全く……人柱による救済などとは実に古典的ですねえ」
「"静観せよ"などとは、本国の連中も欲深いものだな」
「あんた達のやり方じゃ私たちは救われないんだよ!」
「十七夜さん、あなたは私達のリーダーになれなかった」
「敵のあなた達のジェムなら、摘んでも別に構わないよね? 大丈夫、全部終わったら身体に戻してあげるから!」
「さあてさあて。それではこの私めが、神秘のなんたるかを一つその身をもってご教授して差し上げましょうぞ!」
「かかってきたまえ七海やちよ。西のリーダー。七年という戦歴……それを私が値踏みしてあげよう」
「悪く思うな。こちらもおいそれとは退けん。その首、一度獲らせてもらうぞ――」
「なあんだ。ワタシより弱かったんですね、やっちゃん」
「ここに、私の記憶が……?」
――そして、一人の少女が神浜へ導かれし時。全ての運命が収束する――!
名無し人工知能のウワサ――否、アイを倒し、いろは達はウワサの結界から解放された。
結界の出口に設定されていたのは電波塔から最も近いヘリポートであり、既にやちよ達十人とアリナ率いるマギウスの翼が睨み合っていた。
だがフェリシアによって魔女が倒されるとアリナは一転、狂気の如き怒りをまき散らし始めた。
ソウルジェムは瞬く間に穢れ、マギウスが編み出した穢れの秘術――ドッペルが発動する。
だが、その憤怒は横から割り込んできた声に鎮められることとなる。
「少しは落ち着いてもらいたいものだね。マギウス」
「……! あなたは……!」
「人工知能と魔法の組み合わせが人間とコミュニケーションを重ねて自我に目覚めたというのは極めて興味深いサンプルケースではあったが……牙を向いてしまっては仕方がないか」
驚愕とともに月夜は視線を動かし、つられてやちよ達もその方向を見た。
ヘリポートの入り口、控えていた黒羽根たちが左右に分かれる。そこからは白いスーツに身を包んだ女性が進み出てきた。
「宴さん……」
「申し訳ないでございます……」
「君たちもお疲れ様、少し休んでいるといい」
「はい……」
「さて……初めましてだね七海やちよ。私は
信城宴と名乗った麗人は、恭しい一礼をした。
◇
肩から砕けた右腕が宙を舞い、銀色の混ざった血が飛散する。
「宴さん!」
「いやあっ、宴様!」
羽根の中から悲鳴が上がり、音楽が途切れる。
やちよは目の前の相手から感じていた威圧感が薄れたことで、羽根達が音楽によって強化バフをかけていたことを確信する。
「ははっ……! これは中々……!」
「腕を貰ったわ。機械の身体だと言うのなら、この場での治癒も難しいんじゃない?」
「これはこれは……一本取られたよ」
宴は感心したように右腕を拾い上げる。
彼女の魔導義体は破損個所を即座に接合できるようには作られていない。
腕一本とその中の武装が損失したことで、勝率は大幅に下がった。
宴は左腕を無造作に頭上へ掲げた。この場の勝利はやちよへ譲ったということか。
「……《銀》、見栄張ったのに負けてるとかどういうつもり?」
「いやあ悪いね、少々分析が甘かったらしい。流石は《灰》とタッグを組んでた魔法少女、データ上では分からない戦術が豊富だ。いい経験になった」
「……まあいい。アナタがダメならアリナがもう一度やるだけだヨネ」
「それはいけませんアリナ。元々アナタを止めるためにワタシたちは来たのですから」
「……みふゆ」
「先ほどの戦いで分かりました、これ以上はどちらもいたずらに戦力を浪費するだけ。それどころか羽根たちが巻き添えになります」
「そんなのどうでも――」
「私たちが誰の命令でここに来ているのか、わかってますね?」
「……あとでデッサンのモデルになってヨネ」
「それでアナタの怒りが収まるなら好きにしてください。……申し訳ありません、《銀》。本来なら助太刀に入るところなのでしたのに」
「いやいや。むしろ悪いね《灰》。私の我儘を通してもらって」
「構いません。そのおかげで彼女たちも到着しましたから」
「……オイオイ。まさかとは思うが」
「――そのまさか、ですよ」
その場にいた者すべての視線がその方向――宴やみふゆが入ってきたヘリポートの入り口に注目する。黒羽根たちも再び道を譲り……それだけではなく跪いてその者たちを出迎えた。
「また出てきた!」
「――ハハハハ! まさか《紅》、君まで……いや君たちまで出てくるとは今日はどういう日だい?」
「ふふ、我らマギウスの翼を阻んできた七海やちよ。彼女の前にマギウスが相対したと言うのであれば、私たちカラーズもまた、全員で挨拶をするのが礼儀というものでしょう」
「律儀だな……だが、嫌いじゃない。こういう演出は、むしろ私好みだね」
優雅な歩みで紅い着物の女性が進み出る。その後ろには純白のドレスに身を包んだポニーテールの少女が付き添い、さらには若草色の狩衣を着た少女と、紫色の外套に身を包みフードとバイザーで顔を隠した人物も続いていた。
四人の少女は宴とみふゆの下まで歩いていく。
彼女たちから発せられる隙のないオーラ。
いろは達は固唾を呑み、確信する。
この者たちは皆、油断ならない実力者。
明確に羽根を束ねる者たちこそが、彼女たち六人であると。
そうして、色彩の名を持つ者たちはいろは達と相対する。