つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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人間関係の整理な話


第三十九話 神浜よもやま話

【魔女を狩る者】

 

 

 夏目書房にて、本の立ち読みを行っていたある日。

 本屋の静寂さをぶち破る元気さで二つの声が響く。

 

 

「来たぞ、かこー!」

「遊ぼ―!!」

 

 

 その声に店頭へ顔を向ければ、少女たちと目が合った。

 

 この店の看板娘を呼んだ二人の友達。一人はご存じのあやめちゃん。そしてもう一人の金髪娘が深月(みつき)フェリシア。同じ13歳の魔法少女として、かこちゃんとは仲良くやっている。

 

 

「あ、ななかと一緒にいた奴! えーっと、名前は……」

「つばめだよ! よーっす、つばめ!」

「……どーも、あやめちゃん。フェリシアさんも」

 

 

 微妙にぎこちない挨拶を返す。あやめちゃんではなく、フェリシアに。

 

 深月フェリシアと私たち……というかななかちゃんのチームとは少々の因縁がある。

 当時の目的だった『飛蝗』の行方を捜索を開始して間もない頃、傭兵として売り込んでいた彼女を戦力として迎え入れようとした。そうして試用期間として共に魔女退治を行ったのだが、これがまあひどかった。

 魔女への殺意、並びに攻撃力は一級品だったのだが、それ以外がてんでダメ。まず周りを見ずに魔女に突っ込む。連携を呼びかけても無視するし、ならばと強引に補佐すれば罵声と共に巻き添え必至の攻撃が飛んでくる始末。というか魔女を自分の手で始末することに拘って私たちの手出しすら拒絶していた。

 そんな問題児(クソガキ)っぷりによって即時解雇となったわけなのだが、同い年ということやその猪突猛進さに思うところがあったのか、かこちゃんは彼女にしつこくも構い続けて今ではすっかり仲良しこよしである。

 なお、私を含めたその他チームメンバーとの仲はまちまち。あきらくんが屈託なく接しているぐらいで、ななかちゃんは顔を合わせるとフェリシアが噛みつくのでろくな会話にならない。意外なことに、美雨さんは同じ中央学園ということから多少は面倒を見ているらしい。

 肝心の私はと言うと見ての通り。仲が悪いわけではないが、良いわけでもない。こう、マジで接点がないので絡みようがないのである。

 

 まあ、彼女たちの目的は私ではない。

 とてとてと可愛い足音が響き、店の奥から緑髪の天使が顔を出した。

 

 

「あやめちゃん、フェリシアちゃん」

「よーっす!」

「今日は何して遊ぶか!」

 

 

 同じ年頃の少女が仲睦まじくある様子は微笑ましい。私は軽く手を振って邪魔にならないアピールをしてから引っ込もうとして……そんな三人に、後ろから近づいてくる人物に気が付いた。

 

 

「こんなところにいたのですか、フェリシア」

「げっ!」

 

 

 フェリシアの名前を呼んだその人物とは何を隠そう、我らが音子さんであった。

 音子さんはシスター服ではなくゆったりとしたラフな格好に身を包んでおり、珍しくも完全オフモードであった。音子さんの私服なんて数えるほどしか見ていないが、体のラインが出ない服を好んで着ているらしいことが分かっている。

 名前を呼ばれたフェリシアは血相を変えて振り向いた。

 

 

「今日は教会の掃除をすると言ったでしょう? さあ、帰りますよ」

「い、嫌だー!」

 

 

 フェリシアは脱兎の如く走り出そうとする。

 もちろん音子さんが反応できないわけがないので、あっさり捕まる。

 

 

「はい」

「ぎゃーっ、首根っこを掴まれた! もうだめだぁ……」

 

 

 口ではじたばたしつつも神妙になるフェリシア。猫かな?

 

 

「全く……しょうがない子ですね」

「あー、今は教会で面倒見ているんでしたっけ?」

 

 

 深月フェリシアは両親を魔女によって失っており、その復讐のために魔法少女になった。

 元凶の魔女を倒すために魔法少女の傭兵として神浜中を練り歩いているのだが、その報酬は一回につき千円。まったくもって相場に見合っていない安さだし、しかも両親がいないのだから生活費すらそれ頼りだというではないか。その不安定さは流石に心配していたのだが、いつの間にやら神父の手によって教会預かりの身となっていた。

 住所不定状態の魔法少女を放置しておくとロクなことがないので無理やりにでも監視下においておく、と神父は言っていたけれど、個人的にあれはただの建前だと思う。

 で、当然神浜に駐在中の音子さんも必然的にフェリシアと関わることになる。性別や年齢を考えれば、むしろ音子さんと接しているほうが自然というべきか。

 

 

「ええ、この子は度々逃げ出すのでこうして捕まえているのです」

「大変ですねぇ」

 

 

 私だったら彼女の面倒を見るなんて三日も持たない。

 

 

「そうでもありませんよ。おなかを空かせたらちゃんと帰ってきますし、似たような子なら以前にも面倒を見ていますので」

「そうなんですか?」

「義兄上の友人に娘がいたので……元気にしているといいのですが」

 

 

 フェリシアの頭をがしがしと撫でながら、音子さんは遠い目線で独りごちる。

 ……うーん、これは何かあったに違いない。下手に詮索して思い出したくない過去でも引っ張りだしたらよろしくない。ここはそっとしておこう。

 

 

「それに彼女は筋が良い。魔女への殺意、強さを求める意志。忍耐力や戦術については少々考える必要がありますが、それを差し引いても、私の教えを呑み込む速さは目を見張ります」

「まあ、音子さんの教え方は分かりやすいですからね」

 

 

 その分クソ厳しいわけですが。

 少年漫画でしか見たことがないようなゲキヤバ修行法に喜んでついていける人など、それこそ同類の戦闘民族に他ならない。つまり魔女を倒したくて仕方がないフェリシアは同類と言うわけだ。

 

 

「フェリシア、家の掃除サボったのか?」

「ダメだよフェリシアちゃん。お掃除サボるのは……」

「だってよぉ。あそこいつまでやっても終わらねえんだもん」

 

 

 重要文化財に指定されるほどの歴史がある水名教会は敷地も結構広い。あの広さを掃除ともなれば、日が暮れて骨が折れるだろう。

 

 

「ふむ……」

 

 

 音子さんはかこちゃん達のやり取りを見て、されるがままになっていたフェリシアから手を離した。

 

 

「ま、いいでしょう。ほっつき歩いているなら問答無用で連れ戻していましたが、友人と過ごすというのなら私も邪魔はしません」

「……へ?」

「遊んできてもいい、ということですよ」

 

 

 強引に連れ戻される、と思っていたのだろう。フェリシアは目をぱちくりとしてから。

 

 

「いいのか!?」

「ええ。ただし、門限はきちんと守ることです。さもなければこう(拳骨)、ですからね」

「……はい。ちゃんと帰ってきます」

 

 

 音子さんは拳を軽く振り降ろすような仕草を見せる。この世で最も恐ろしい脅迫行為を見せられたフェリシアは、この上なく素直に頷いてからかこちゃん達と遊びに出かけた。

 

 

「優しいですね。音子さん」

「今のあの子には厳しさよりも友人と過ごす時間が必要ですからね。どれだけ憎しみに駆られても、フェリシアは人のぬくもりに飢えています」

「正式に教会で雇ったりしないんですか?」

「本人が望んでいませんからね。はっきり言うのも何ですが、私や義兄の下はあまり居心地が良いとは思っていないようですしね」

「あらら」

 

 

 教会という静かさを強いられる環境。魔女狩りであることを意識させられる者たち。

 いくら魔女への憎しみに燃えているとはいえ、それは十三歳の少女が身を置くには酷なもの。

 

 魔法少女の結末は総じて決まっている。絶え間のない戦いで精神は磨り潰されていき、いつか戦死するかやがて魔女になるか。それとも悪行に手を染めて他の魔法少女や聖堂騎士に伐たれるか。いずれにしても、それは多感な時期の少女が背負っていいものじゃない。それが願いを叶えたことによる代償であったとしても、もう少し救いのある結末があるべきではないのか。

 

 

「粛清機関に加わる魔法少女には魔女への憎しみを持った子も多いですが、そういった子はむしろ長続きしないんです。そういう子は大抵どこかで燃え尽きる時が来て、それは致命的な場面であることも珍しくない。我々が歩むのは同胞の屍を越え、血の河を渡って魔女たちの喉元に食らいつく修羅の道であり、同じ魔法少女であろうと異端を屠る殺し屋としての生き方。そんな生き方はきっとあの子には耐えられない。何よりも――」

 

 

 続けようとして、音子さんはかぶりを振る。

 そこから先、何を言おうとしたのか。

 

 

「……いえ。これはあの子が直面する問題。私が考えるべきことではありませんね。けれど、あの生き方ではきっとその時が来た時に乗り越えられない。完全にこちら側に来てしまう前に、どうにかあの子が自分がいていいと思える場所と仲間を見つけられればいいのですが」

 

 

 すっかり小さくなった後ろ姿を見る表情には、鉄と呼ばれるにはあまりにも慈悲深い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

【塁は友を呼ぶ】

 

 

「噛み、砕けェ!」

 

 

 骨喰の刃が魔女を脳天から真っ二つに裂く。

 主を失った結界は消失し、元の路地裏へと戻る。

 

 さて帰ろうかというその時、背後から声が聞こえた。

 

 

「ほう……まさかこの覇王たる僕が先を越されるとはね。その姿、まるで冥界を往く死神のようではないか」

「はい?」

「――えっ、あ、いや今の聞こえてっ!? ち、ちが、違うんです!」

 

 

 後ろを振り向けば、そこには慌てふためく様子の魔法少女が。

 長い乳白色の髪で隠れた左目。あちこちにベルトが巻かれた黒い衣装。とても短いボトムズと長スパッツの間に見えるふとももがキュートで、モロ見えのおへその側にある緑色のソウルジェムは猫ちゃん型。いいじゃないか。

 

 

「どうも。私は琴織つばめです」

「み……水樹、塁」

 

 

 オドオドした様子で名乗った子――塁ちゃんは視線を合わせづらそうに目を泳がせながら、ちらちらと私の武器に視線を向けている。

 ……ははーん。 

 

 

「おや。私の槍、骨喰(ほねばみ)が気になりますか?」

「――ッ、ほ、ほねばみ!? それ、そんな名前して……っ!!」

 

 

 これ見よがしに前に出してみせると、塁ちゃんは興味深そうに視線を注いできた。

 

 

「フフ、それじゃあこういうのは、好きですかな?」

「!? 変形した……!!」

 

 

 骨喰を振り、直槍から十字槍に変形させると、塁ちゃんはさらに目を輝かせた。

 やったぜ。ようやく趣味のわかってくれる人と出会えたことでテンションが天井知らずに上がっていく。

 

 

「これだけじゃないんですよ?」

「っ鎌!? それはもしや、かつて異界大戦で覇王と争い、そして正義に目覚めて肩を並べた死神の……あ」

「……ふむ」

 

 

 間違いない。彼女は中二病だ。それも筋金入りの。

 

 何か異世界の覇王がどうたら言っていたけど、幽界眼に映る魂の形は純粋な人間だ。私の父みたいに変なのが混ざっていたりすることはないので、要は気合の入ったロールプレイなのだろう。そして独り言が勝手に漏れるタイプで人に聞かれてたって分かると途端に恥ずかしくなるわけだ。なるほど大体理解した。

 

 

 互いの視線が交差する。ひと時も視線を逸らさずに睨みあい、張り詰める空気。

 緊張に満ちた雰囲気で、私は勇気を出してその一言を口にした。

 

 

「パイルバンカー」

「……っ! ガリアンソード」

 

 

 なるほど。君はそっちが好きか。私も同感だ。ロマンがある。

 

 

「天光満ちるところに我はあり」

「……黄泉の門開くところに汝あり」

 

 

 詠めば速攻で下の句が返って来る。

 私は怯まず次の言葉を繰り出す。

 

 

「虹蜺魔剣」

「アルカンシェル」

 

「エターナルフォースブリザード」

「相手は死ぬ」

 

「インド人を右に」

「確かみてみろ」

 

「ぬるぽ」

「ガッ」

 

「龍が巻かれた剣のキーホルダーは?」

「……持ってる」

 

「裁縫セットも?」

「ドラゴン!」

 

 

 なお私は普通にかわいいやつを選んだ。

 

 

「ふっ」

「――クク」

 

 

 思わずにやりと笑みがこぼれる

 向こうも同じように右目を覆って軽く口角を釣り上げる。

 

 

 お互いの手を上下に叩き合い、腕を互いに交わしてから、拳を組みあう。そして最後に前腕を突き合わせて互いの意志を通じ合わせる。

 ピシガシグッグ。とでも擬音が付きそうな厚く複雑な握手を交わし合った私たちは、最早魂で語り合う同胞であった。

 

 

まさか現世にて(こんなにも気が合う)我が同胞と巡り合うとは(人とリアルで会えるなんて)運命とは数奇なものよ(思ってもみなかったよ)

「同感です」

 

 

 屈託なくオタ会話が通じる友人なんて部活にも魔法少女にもいないからね。全然通じないなんてことはないけど、ほら私みたいにどっぷりネットの海に沈んだ子はそうそういないわけだ。かこちゃんだって割とスタンダードな文学が好みだし……そろそろこっちに沈んでくると思うけど。

 

 

「改めて自己紹介を。僕の名前は水樹塁。またの名をフォートレス・ザ・ウィザード。深淵の多次元世界より舞い降りし混沌の覇王の生まれ変わりとして、この世界に蔓延る地獄の使者たちと戦っている」

 

 

 魔法使いの塁(fortress the wizard)ってことね。ほぼ直訳じゃないか。

 しかし、ここまでスラスラと名乗り上げるとは。いつぞやに出会った私のコピーなんぞよりもよっぽど堂に入っている。

 

 

「なるほど。そういう設定ですか」

「そうだけど、設定って言わないでぇ……」

「まあまあ。別にいいと思いますよ」

「生暖かい視線が突き刺さる……」

 

 

 というか傍から見れば私もどっこいどっこいだろうし。命を張っているんだ、理想の自分を演じて暴れるぐらい許される。

 

 

「もしかしなくても頭の中でお気に入りの曲で自作のOPとかずっと流してます?」

「どうしてわかったの……?」

「同じ業を背負った者同士、だからですかね」

「つばめさんも中二病を……?」

「そこはノーコメントで」

 

 

 魔法少女として戦っている時の決め台詞とか自然と出てくるけど、それは中二病ではないと言い張りたい。そんな人前でわざわざ邪気眼な振る舞いなんてしていないって。制服の袖にこっそりペンとか仕込んでみたりできないかなって試してみたりするのは皆やるだろうし、普通普通。

 

 そんなわけですっかり意を許した私は、気が付けば塁ちゃんの相談を親身になって聞いていた。

 

 

「……私、いつもこんな妄想ばかりしてて、魔法少女になってからはその妄想が少しでも現実になったのが嬉しくて、魔女退治の時とかさっきみたいな喋り方できるのが楽しくて……」

「わかるわかる。想像の通りに力を振るえるの楽しいですもんね」

「でもね。学校にいる時とかもそんな妄想ばかりしてしまうんだ……もうこっちの「僕」のほうがすっかり素の自分みたいになってて……だから、意識して人とあまり会話しないようにしてるんだ。中二病な喋り方が人前で出たら、馬鹿にされるに決まってる」

「それはとても偉い」 

 

 

 TPOを弁えていることのどれほど素晴らしいことか。失敗談がある身としてはそれだけでこの子に好感が持てる。

 それはそれとして、その異世界の覇王の生まれ変わりとかいう設定はもうちょっとどうにかならないだろうか。余りの脂っこさに胃もたれする。なんだその中二病御用達ワードと覇王が現代で戦っている世界箱庭委員会って。どっかで見たぞそういうの。

 もう少し設定を洗練すればいいのに……と思うが口出しはしない。他人の考えた設定にケチをつけるなどマナー違反も甚だしい。作品として見せられたのなら遠慮なく批評するが、まあ適当にしゃべっているだけなら可愛いものだ。

 

 それに……そういうハチャメチャ設定の具現みたいなのが身内にいるので人の事は言えないのであった。

 こちとら父親が異世界の魔王の端末で私はその末裔でアンデッド系魔法少女だぞ。属性を盛るにしても加減があるだろうって話だ。

 

 

「ところで、粛清機関とかはご存じで?」

「この世界の闇の狩人どもか。確かに彼らも世界の裏に蔓延る者たちだが……覇王の生まれ変わりである僕とは相容れぬ運命。今のところ肩を並べることはないが、刃を交えることもない」

「要は関わりたくないってことですね」

「うん。だってちょっと怖いし……」

「わかる」

 

 

 好き勝手に妄想してたら、大体似た感じのが実在してましたってある意味恐怖だよね。

 

 

 その後も私たちは自分の好きな作品とかで盛り上がっていく。

 

 

「いいよねデカゴンボール。王道を行く王道。色んな作品が影響を受けてるのに、決して同じ雰囲気の作品は出てこないオンリーワン」

「インフレ激しいけど、それでも他のキャラ達も必死についていこうと色々工夫しているところ、アツいよね。やっぱり単純な火力は肝心だけど、貫通や切断、透明なんかの特性が活きてくるのも味が出てるよ」

「そうそう。まあこの程度は私たちからすれば基礎教養でありますがね。個人的に好きな作品と言えばナンバムのRPGかな。特に10作目」

「ぐわっ、出た皆エモいやつ。主人公がもう一人の自分と決着をつける時のBGMが好きなんでしょ」

「あんなのアガるに決まってるじゃん。ついでに言うとアニメのOP曲が最終回の決戦で流れたりするのも好き」

「嗚呼……物語を彩る序曲と終曲が一つに結ばれた時に広がる黄昏の光景が今でも思い浮かぶ……」

「ところで塁ちゃんは何かお勧めの作品とかある? 有名どころとかじゃなくて全然いいからさ。むしろニッチな部分を開拓したい」

「では終約聖書シリーズを薦めよう。かの教典は常人が触れてはならぬ聖典にして魔導書ではあるが、君はその深淵の門を叩く資格を既に持っている」

「え、何そのタイトルだけでかなり濃い中二病感溢れる奴……フリーゲーム? その方向は抑えてなかったな。一度やってみますか」

「ちなみにその聖典の一説は(入門として体験版は)深き電子の海に揺蕩っている(WEBでの頒布もされてるよ)。まずはそこから探すことを薦めよう」

「ほえ~、ありがとう」

 

 

 布教とかもしあって、最終的には私の一番好きなものの話題に。

 

 

「それと私、デジタルなゲーム以外も好きなんですよ。ほら、アナログゲームって知ってます?」

「アナログゲーム……『猫とチョコレート』とか?」 

「そうそう。知ってるじゃないですか!」

「猫ってのが気になっから調べただけで……遊んだことはないかな」

「それじゃあ今度一緒に遊んでみましょうよ。他にも色々あって面白いですよ。大量の牛を相手に押し付けるゲームとか、電車の中の迷惑客を余所の車両に送りつけるゲームとか、人の彼氏に地雷属性を押し付けながら理想の彼氏を作るゲームとか」

「なんで何かを押し付けるゲームばかりなの??」

「あとは南極を探索しながら狂った行動を取り続けるゲームとか」

「狂気山脈っ!?」

 

 

 どんなハチャメチャな題材でも探せば見つかるからアナログゲームって奥が深いよね。

 

 

「私の方の知り合い呼べば人数は集められますけど、どうです?」

「でも知らない人たちと遊ぶって不安……それに私の中二病がバレたら……」

「安心してください。全員魔法少女ですし、そんなのが霞むぐらいにはあの辺の人たちはキャラが濃いので」

 

 

 なにせイケメン空手王子と自害と騎士フリークと合法ロリと百合疑惑のあるコンビとオタクに理解度のあるギャルだ。あの相談所のメンバー、懐広くて助かるわ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さてさて。見事に牛の集まる列ができたわけですな」

「どうしてこう綺麗に50代のカードが集中しちゃったかなぁ」

「クックック……まさかその手札でこの覇王の生まれ変わりである僕に叶うとでも思っているのかい?」

「お、るいるい自信ありげだね~それじゃ、オープン!」

「あ、私の65が先なんで塁ちゃんドボンですね」

「馬鹿な……っ!?」

「悪いけどつばめさん、そっちより先に私の59が最後尾に入るからつばめさんが総取りだよ」

「あるぇ~?」

「一気に最下位に落ちたね」

 

 

「『ふっふっふ。これで世界は我々のものに』『果たしてそうはいくかな? この覇王たる僕が、貴様の魂も視送ってやろう!』『馬鹿な、この俺がぐわああああ!』『ふっ、これで世界がまた静寂に包まれるか、だがそれも悪くない』」

「水樹さんすごっ、一気に4枚も使うなんて……!」

「演技もバリ決まってるじゃん!」

「負けませんよ。それじゃあ私は3枚で、『暇だしSNS見るか……』『あ、あの俳優のスキャンダルじゃん』『草生えるww』」

「草生えるってか食ってるじゃねえか!」

「ヤギですから仕方ない」

「というかこのゲーム、ヤギなのに物騒な絵が多くない?」

「火ぃ噴いたり空飛んだり、あと悪魔の翼が生えてる絵もあるよね!」

「え、ヤギは首を伸ばしてスケボー乗りながら空飛んで建物をなぎ倒していくものでは?」

「どこのヤギだそれは」

 

 

「よーし、それじゃあたしはつばめさんの農場をげっちゅーで狙うよっ! 使うのは武人! だんびらも追加するよっ!」

「いいでしょう。さあこい梨花さん! ……ふぅ、私の出目が1多いので防衛成功ですね」

「じゃあお守り! つばめさんは振り直してね」

「なっ、いいでしょう……! はい! 防衛成功です!」

追撃のグランドヴァイパ(お守り追加だ)!」

「お替わりナンデ!? ……あぁ、私の農場が!?」

「そりゃあ、つばめさん独走状態だからね……」

 

 

 

「いやー、遊びつくしましたねぇ。塁ちゃんはどうでした?」

「う、うん。楽しかった……!」

「それは何よりです」

 

 

 私の言葉を聞いて誇らしそうに笑うのは、この前知り合った魔法少女の琴織つばめさん。

 サブカルが趣味で、中二病にも理解があって。紫色の軍服みたいな衣装は好みにドストライク。凝った名前をつけた武器も色々変形してカッコいい。そんな気の合う人に誘われてやってきた魔法少女同士のアナログゲーム会だったけど、想像以上に楽しむことができた。

 

 相談所の皆も「僕」のほうを変な目で見たりせずに受け入れてくれたいい人ばかり。ささらさん、ひなのさん、梨花ちゃん、れんちゃん、あきらさん、エミリーちゃん。最初はこんな陽キャ集団の中に私が入り込んですりつぶされたりしないかなんて不安に思っていたけど、そんな心配は杞憂で口数が少ない私のことも煙たがらずしっかりと話に混ぜてくれた。だからゲームも気後れせずに普通に楽しむことができたんだと思う。

 

 こうやって皆でワイワイと遊ぶっていうのも小学校以来で久しぶりだったけど、悪くなかったな……。つばめさんと知り合えたのは思ってもない幸運だよ。

 

 

(……でも)

 

 

 普通の会話の中でも「僕」をさらけ出せるほどの度胸は、まだ私の方にはない。

 ゲームの中で演じているから。遊び中のおふざけという建前があったからこそ、私の心理的なハードルが低かったっていうのもある。

 つばめさんも理解はしてくれてるけど割と解釈に困っているのはなんとなく伝わってた。同じサブカル趣味だからこそ、僕の振る舞いがよくないってことはわかっているんだろう。それでも僕を一緒に仲良くしようと努力してくれているのは嬉しかったけど、自分をさらけ出せないっていう悩みの根本的な解決になったかと言えば違う。

 

 

(それに……)

 

 

 こっそりと私は魔法を使う。

 天門眼と名付けた、僕だけの魔法。人の死相を見る目。その人の死期が近づいていればいるほど、顔は黒い影に覆われていく。

 これのおかげで魔女の口づけを受けた人や、そうでなくても事故に遭いそうな人を発見できる。家族の眼を治した願いから生まれた優しい魔法。

 

 影に覆われて、そして消える。

 つばめさんからは常に死の気配がするし、それなのに影は見え隠れする。まるで常に死にながら生きてるかのように。まさか魔法少女は皆こうなのかって鏡に映った自分や今日知り合った魔法少女の皆も見てみたけど、そんなことはなく全く死の気配なんて見えなかった。

 

 こんな不思議な現象は初めてだった。

 一体どうしてこんなことが起きているのだろう。それもつばめさんだけに。

 

 

(まさか、直接言う訳にもいかないし……)

 

 

 疑問を晴らせないままに、その日は別れた。

 その後もつばめさんとはチャットで語り合ってゲームをして、たまには一緒に買い物に行ったりするようになったけど、この疑問をぶつけたことはない。なんだか、それを聞いたらようやくできた関係が崩れてしまいそうで怖かったから。

 そんな風に色々と打ち明けられないものを抱えてはいるけれど、それでも私に友達ができたことは大事な一歩。

 

 だからいつか、僕の全てを受け入れてくれる友達が出来たらいいなって、そう思いながら生きている。

 

 

 そんなささやかな願いが叶うのは、これからもうちょっと先の話。




○琴織つばめ
 存在そのものが中二病設定の塊。
 こいつが言及したアナログゲーム、全部実在します。

○深月フェリシア
 両親の不審死を怪しんだ神父によって発見され、教会に拾われている。
 ……が、度々脱走する。
 参京区と中央区によく出没します。首根っこを掴めば大人しくなります。夜ご飯が食べられなくなるので勝手におやつをあげないでください。

○紺染音子
 拳骨が痛い。
 南凪区のマンションで起きた火災事故の真実を知っている。現場を見れば一目でわかった。

○水樹塁
 あーあ、出会っちまったか。
 中二病系魔法少女。いつも学校にテロリストが乗り込んでくる妄想をしている。でもめっちゃいい子。
 この子の妄想と同等ぐらいの設定を世界観に多数盛り込んだのが本作となっております。
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