つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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はじまりましたシーズン2
のっけからオマージュまみれ。

扉絵イメージ『琴織つばめ、曇り空の下、街を歩く』


エピソード2【神浜編】シーズン2:マギウス・カラーズ
第四十話 バードアイ・ビューイング……①【夢遊の夜/噂話】


 ChapterⅠ【夢遊の夜】

 

 

 その日は、よく晴れた星空の夜だった。

 眠りたくない私は、いつものように上半身を起こして窓の外を覗いていた。

 丘の上に建てられた病院の窓からは、神浜の街が一望できる。周りに建物が少ない立地は、空の星を満遍なく映し出す。天と地、二つの星空を望めるそれは、まさに絶景と呼ぶにふさわしいのだろう。

 

 けれどそれは、病室から出ることのできない私には決して届かないだけの絵空事だった。

 病に侵されたこの体は、外を出歩くことすらできない。私に許されていたのは、ここから見下ろすことだけ。

 

 何度も見てきた街。幾度も見下ろしてきた風景。何も変わらない。変わるわけがない日常。

 

 この切り取られた額縁からの景色だけが私の世界で、ただ近づいてくる終わりに怯えるだけが私の時間だった。

 

 そんな静謐と暗闇に支配された時間は、扉が開く音と共に切り裂かれた。

 

 

「こんばんはー!」

「夜分遅くに失礼するよ」

「……あなた、たちは」

 

 

 振り向けば、そこには二人の少女がいた。

 この病室に来る人間は限られている。だから記憶の中から彼女たちのことを思い出すのは簡単だった。

 

 里見灯花。柊ねむ。

 親族も友人もいない私の病室に気まぐれに遊びに来ていた小さなお客様。同じく難病で入院していた筈の少女たちは不思議なことに、以前のような手折れるような儚さはなく一挙一動が生命力に満ちている。さらに不思議なことに、彼女たちはおとぎ話から出てきたような衣装に身を包んでいた。

 

 

「お久しぶりだね。幸恵(ゆきえ)お姉さん」

「元気そう……とはとても言えないね。少しでも容体が良くなっていればいいけど」

「……変わらないわ。あなた達のほうは、元気そうね」

「くふふっ、身体はばっちり治ったからねー!」 

 

 

 自分ほどではなくても、彼女たちの幼さを考えれば常に死と隣り合わせの状態だった筈。それが完治するなんて、まるで奇蹟としか言いようがない。

 

 

「それは、良かったわね。でも、何をしにきたの?」

「快復したなら、お世話になった人に挨拶回りをするのは礼儀だよ。僕達の話し相手になってくれた人なら、お見舞いに行くぐらいは当然のことだ。最も、一番の用事が別にあるのも本当だけど」

「あなたの願いを叶えに来たんだよ! わたくし達の魔法でね!」

「ま、ほう?」

 

 

 それはあまりにも不自然で荒唐無稽な言葉。それでも彼女たちの姿には信じさせるような魔力が宿っていて、私はいつか聞いた一つの言葉を絞り出す。

 

 

「……魔法、少女。あなた達は、あの生き物と契約したのね」

「せいかーい! お姉さんも知ってたんだ!」

「キュゥべえのことを認識している辺り、お姉さんにも素養はあったのかな」

「そう、かもね。でも、そんなものに意味はなかったわ。だって私には何もないから」

 

 

 自分には未来が無い。余命が無ければ、頼れる誰かもいない。そんな自分が願いを叶えたところで泡沫の夢でしかなく、そこに意味を見出すことができなかった。

 それはあの動物も分かっていたんだろう。だからあの一度だけしか会うことはなかった。

 

 

「もったいなーい。魔法少女になれば病気も治るし、身体も強くなるんだよ? お姉さんにも叶えたい願いはあったでしょー?」

「……願い、なんて。そんなもの、ないわ」

 

 

 そうだ。

 例えこの子たちが私の願いを叶えられるからと言って、それで何になる。

 もうじき死ぬだけの身に、何も返すことのできない私に、そんなことをする必要なんてない。何も望まなければ、これ以上絶望に打ちひしがれることもないのだから。

 

 

「私には何も無い。なんにも残ってないから、できることなんてない。だから、望むものなんて」

「本当にそうかなー?」

 

 

 あどけない瞳が、横からのぞき込んできた。

 年端もいかない少女の無邪気な眼差し。私の心を底の底まで見透かすようなそれに、思わず息を呑んだ。

 

 

「わたくし達は知ってるよ。お姉さんが外の世界を望んでいること。自由な身体が欲しいこと。いつか、見下ろすだけの街を飛んで周りたいって思ってること。わたくし達ならそれを叶えられる。いつも願っていたことを、キュゥべえが叶えようともしなかった願いを、お姉さんにあげられるよ?」

「確かに君の因果の枝は枯れている。けれど、ぼく達ならそれを芽吹かせることができる。多少の不便はあるだろうけど、それでもこの病室で死を待つよりはよっぽど価値があると思うよ」

「――ほんとう、に?」

 

 

 押し殺していた欲望が鎌首を擡げる。

 苦しいほどに眩しくて目を背けていた光が、否応なしに差し込んでくる。

 知らず、言葉が漏れた。

 

 

「私は、外に出られるの?」

「簡単なことだにゃー」

「私は、自由になれるの?」

「君がそれを望むなら。僕たちは叶えよう」

「――私を、(そと)に連れ出してくれますか?」

「もっちろん! だって、わたくしとねむはとっても凄い魔法少女なんだから!」

 

 里見さんは、自信に満ちた満面の笑みで答えた。

 

 これはきっと、悪魔の契約なのだろう。

 それでも、この子たちなら私の夢を叶えてくれる。

 だから私は、その小さな手を取った。

 

 

「うん。それじゃあ、今日から君はもう一つの身体を得る。不思議な話もあるものだ。このウワサはまるで、最初から君のために用意されていた気がするよ」

 

 

 柊さんが持っていた本がひとりでにめくれる。中から飛び出した一枚のページが、私の下へと滑り込み、そのまま私の中へと入っていく。

 

 それが、私の夢が叶った瞬間であり。

 それが、私の悪夢が始まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

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魔法少女 つばめ☆マギカ

The magica of Albatross~

~エピソード2・シーズン2:Colors of Magius~

 

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 ChapterⅡ【噂話】

 

 

 

 くぁ、と教室で欠伸を一つ。

 

 春のうららかさも懐かしく、じっとりとした湿気と共に纏わりつく暑苦しさが主張する初夏の朝。

 さて今日も頑張ろうとして、横から会話が聞こえてきた。

 

 

「……飛び降り自殺、これで六人目ですってよ」

「また霧谷ビルでしょ? 呪われてるんじゃないのあそこ」

「おーコワ。あの辺近寄らないようにしよ」

 

 

 ……またこの話題だ。

 

 近頃頻発している飛び降り自殺。三週間ほど前を始めとしたそれは三、四日に一人、という具合で発生しており、どうやらそれは昨日今日でまた起こったらしい。

 

 記憶から薄れ始めるタイミングで再発するこの事件は人々の間では印象に残るものであり、それをなぞらえた怪談までもが広まっている。ああいや。怪談、というにはいささか語り口が奇妙ではあるのだけど。

 

 

 

 アラもう聞イた? 誰から聞イた?

 空飛び姫のそのウワサ

 

 ビルの上でゆらゆらと浮かんでいるのは、

 サビシガリヤのお姫様

 

 いつも私たちを見下ろしてるけど、

 ホントは友達を欲しがってる

 

 だからビルの屋上でジャンプすれば、

 彼女と一緒に夜空の旅へ御招待!

 

 それがあんまりにも楽しいから

 目が覚めてもふわふわ夢心地で上の空って

 神浜市の人の間ではもっぱらのウワサ

 

 アイキャンフラーイ!

 

 

 ――と、どこぞのCMのフレーズか何かかと錯覚させるようなこの噂話は、いつの間にかこの学校中に広まっていた。

 

 

 事実として分かっていることとして、死亡した人々に共通している点は中央区の一角、霧谷ビルという廃ビルから飛び降りていることのみ。

 逆に言えば、それ以外の共通点はない。性別、年齢、学校、職業、地区などの個人情報に目立った共通点もなく、それぞれが交友関係にあったような事実も見られず、なんらかのカルト宗教に所属していたというような情報も存在しない。

 だというのに場所だけが同じ、というある種の不気味さは世間の関心を惹くには十分だったらしく、マスコミはこぞって特集記事を出し、専門家の分析やらオカルト的見解やら、好き勝手な情報が蔓延っている。件の噂もその一つと言えるだろう。

 

 

「ってな感じなんですけど、正直どう思います?」

「う~ん、普通に魔女の仕業なんじゃないかな? 普通の人には魔女は見えないんだし、怪談の一つ二つ出たっておかしくはないと思うけど……」

「あきらに同感。そのビルの周りがちょうど縄張りにでもなってるのかもね」

「それに下手に首を突っ込んでそこの魔法少女と面倒ごとになっても困るわ。まあ、つばめならそんな心配は要らないと思うけど」

 

 

 昼休みに弁当を食べながらそんなことを話せば、皆も魔女の仕業だと思っているらしい。

 

 

「……とはいえ、魔女の仕業であるのなら結局は私たちの出番です。他の方に討伐されるのを待つというのは流石に楽観視が過ぎますね」

 

 

 放っておいても他の魔法少女が片付けるかもしれないが、そうやって様子見して被害が増えるというのは好きじゃないし、さらに成長して面倒な事態に発展しても困る。というかここまで噂になっている時点で、他の子が持て余すレベルの魔女である可能性だってある。ここは一つ偵察に向かってみようと思うのだ。

 

 

「じゃあ一度見に行ってみますか。皆さん放課後の予定は?」

「私は問題ありません」

「あ~、アタシはパス。ちょうど練習あるからさ」

「ボクも道場に顔出さないといけないから……ゴメン!」

「私も買い出しにいかないと……というかつばめの方こそ良いの? 来月の文芸誌の〆切、来週じゃなかったかしら?」

 

 

 沈黙。茶を呷り。大きく息を吐く。

 

 

「――――まあ、何事もインスピレーションの元になりますから。体験は大事ですから、ね?」

「つまり書けてないんですね……」

 

 

 ななかちゃんの呆れたような視線が突き刺さる。

 やめなよ。進捗を尋ねるのは時と場合によっては即死魔法なんだぞ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さて、例の霧谷ビルはこの辺りでしたね」

「そうですね……と、おや」

 

 

 時間飛んで放課後。

 中央区。ずらりと高層ビルが立ち並ぶオフィス街の一角へと私とななかちゃんは立ち入ったわけだが、そこには既に先客がいた。

 

 

「五十鈴さん」

「あ、つばめさん、と……」

「常盤ななかと申します。こうしてしっかりと会うのは初めてですね」

「五十鈴さんもこの事件を探りに?」

「はい……」

 

 

 れんちゃんが視線を向けた先、恐らくは痕と思わしき箇所の周囲にはご丁寧に立ち入り禁止のテープが張られており、そこで何が起こったのかをはっきりと表していた。

 それだけでも気分を害するものだが、問題はそこではない。

 

 案の定というべきか、ビルの周囲は穢れに塗れていた。

 後悔や無念を持って死んだ人間の魂の残滓がこびりついており、少しでも霊感があれば近づくだけで良くないものがあると感じ取れる。現にこの周囲だけは露骨に人の通りが悪く、無意識に避けていることが推測できる。

 

 

「しっかし、ひどい有様ですねこりゃ」

「何か視えましたか?」

「ええ、まあ。結構がっつりと穢れてますね」

 

 

 ななかちゃんはあまりピンと来ていないようだが、れんちゃんは明確に顔色を悪くしていた。この辺りは各々の適正の差だろう。

 

 

「ま、こんなに分かりやすく穢れに満ちているなら魔女の根城になっていてもおかしくないでしょう。五十鈴さんは何か気になった所とかありました?」

「あっ、えっと、その……あれを……」

 

 

 おずおずと上を指さすれんちゃん。

 ……空? そういえば噂の内容は確か、屋上に浮かぶお姫様と……。

 

 

「――え?」

「つばめさん?」

 

 

 浮いていた。

 

 ばっちり浮いていた。

 

 二度見してもやはり、それは空に浮かんでいる。

 

 

「……もしかして、アレが見えたんですか?」

「はい……」

「私には何もないように見えるのですが……お二人とも、一体何が見えたのですか?」

「女の人、ですかねぇ」

 

 

 屋上から少し離れた空中で漂うようにして、その女性は地上を見下ろしていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 魔法少女を客とする関係上、調整屋の業務にはバラつきがある。

 休む暇もないほどの少女たちでごった返す時もあれば、閑古鳥が連日鳴いていることもある。その点で言えば、今日は特別言う事のない普通の日であった。

 

 

「何やら、珍妙な噂が流行っているようだね」

 

 

 自らが勝手に持ち込んで設営したバリスタマシンで珈琲を淹れながら、琴織渡はそんな話を切り出した。

 黒い液体で満たされたカップを次々にテーブルの上に置くと、保澄家の経営する喫茶店から購入した珈琲豆のブレンド配合による豊潤な香りが室内に広がる。

 調整屋、午後のコーヒーブレイク。茶請けに開けられたクッキー缶へ我先にと手を伸ばす少女たちの姿が、この調整屋でまともな食い物にありつけることが如何にありがたいことかを如実に示していた。

 

 

「噂っていうと……七海先輩が最近言ってたアレですか?」

 

 

 クッキーを呑み込み、メルは話題の噂とやらについて聞き返す。

 この面子の間で噂、と言えば思い当たる節は一つしかない。

 

 

「ああ。ここしばらくの間に流行している、事件になぞらえた噂話だ。語り口はこうだったな。アラもう聞いた? 誰から聞いた? ――とな」

「あら、琴織さんも知ってたのねぇ」

「職業柄、この手の世俗話には敏感でね。よくある都市伝説。ネットロアの類かと思ってみたが、案外そうでもないらしい」

 

 

 供養塚の祟りが起こる『鉄火塚』。

 過去の風景を垣間見るという『覗き見城下町』。

 路地裏を暴走する姿なき『クビナシ珍走団』。

 マンホールに仕掛けられた隠し金庫の道を開ける『パズルタイルロック』……等々。

 

 多種多様な噂の内容に基づいた事件が神浜中で発生しており、それが魔導事象の絡んだものであるとして西側のまとめ役である七海やちよはこの数々の噂について率先して調査を始めていた。

 

 

「そんなの、ただ魔女の活動が噂になっただけだろ」

 

 

 怪訝な顔をしながら、ももこはクッキーを口に運ぶ。

 どうやらやちよが自分たちを差し置いてそのような胡乱話へと首ったけになっていることが気に入らないらしい。勿論それだけが理由ではないのだが、とにかく最近のやちよの態度に何らかの不満を持っていることは明らか。これにはメルも苦笑するしかない。

 そんなももこの態度に、渡はチッチッチと指を小刻みに振った。

 

 

「バイアスはいかんな。状況の判断と個人の感情は切って離すべきだ。七海くんが動いたというのなら、それは少なくとも何かしら魔法関係の事象に繋がっているのだと睨んだのだろう。理解の外にある怪異は存在する。君たちはもうそれを知っているはずだけどね」

「まぁ……そうだけどさ」

「じゃあ、このウワサもそういうモノが関係しているってことでいいのかしらぁ?」

「さてな。そこまでを語るにはもう少しばかり先になる」

 

 

 混沌事件、鏡の結界攻略戦。

 直近するこの二つの事件において、魔女ならざる怪異の存在と彼女たちは交戦している。

 後者にて邂逅した無貌の怨霊は魔女の器を利用したものであり、まだ理解が及ぶ。しかし前者において出没したと聞き及ぶ合成獣らしき怪物の正体については依然として判断が付いていない。

 

 渡としてはある程度アタリをつけてはいるものの、確証を得るには判断材料に乏しすぎるというのが実情で、今回の噂についても同様の状態だ。

 

 

「どちらにせよ、今この街において噂と同一の事件が起こっているのは明確だ。そして本題はここからなのだが、実はつい先日、つばめもその噂の一つを探りに行った」

「そうだったんですか?」

「中央区の連続自殺。君たちも知っているだろう? あれに纏わる噂を聞いて娘はななかくんと共に調査に向かい、そこに潜んでいた怪異を討伐した」

「怪異? 本当にそこに何かがいたっていうのか」

「その通り。彼女たちが遭遇した存在は魔女にあらず、まさしくウワサなる怪物也。ではことの顛末と共に、この事件について私の見解を話させてもらうとしよう」

 

 

 

 

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