つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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長引きそうなのでキリのいいところで投稿。


第四十五話 リベレイター・オブ・マギカ……②【マギウス】

ChapterⅢ【マギウス】

 

 

 

 そうして組織の幹部たちと顔合わせをした私は、次にこの組織の支援対象である"マギウス"――つまり解放を成し遂げた三人の魔法少女たちと直々に面会することとなった。

 

 沙羅ウズメが先導し、双樹がその後ろをカルガモのようについていく。それを私と側にいるみふゆさんが追随している。

 

 

「あ、ウズメさん!」

「おはようございます!」

「ご機嫌よう。今日も鍛錬に励んでおりますか? よろしい。そちらのあなたは昨日よりも少し成長しましたね。顔つきが逞しくなっています。これからも打ち込むように。そちらは大丈夫ですか? 少しだけ体調がすぐれないようですが。魔法少女とはいえ、健康をおろそかにしては精神の乱れに繋がります。休養はしっかり取りなさい」

「は、はい!」

「ありがとうございます!」

 

 

 マギウスのいる部屋まで行く途中、何人かの羽根とすれ違う。黒や白のローブを身に纏った彼女たちは、ウズメの姿を認めるや深く頭を下げはじめる。そしてウズメは一人一人に返事をし、さらにはそれぞれに言葉をかけていく。

 羽根たちはその言葉を受けて再び頭を下げ、ウズメの姿が見えなくなるまでそのままでいた。

 

 

『……すごく慕われているな』

『流石にあそこまで細かく言うことは稀ですけど、羽根たちの面倒見が良いのは確かです』

 

 

 マギウスの翼に属する魔法少女は、神浜の内外問わず魔女との戦闘が満足にできないような弱い者が多い。だからこそ神浜の西の副リーダーであったみふゆさんの存在に惹かれて加入してきた子が多く、神浜の外から来た子も、マギウスが魔力と同一波長の電波によって配信したプロパガンダによってやってきた者たちばかり。総じて魔女狩りへの実力がなく、戦死や魔女化に怯えるような自信のない者たちが集まっている。ゆえに実力のある者はそれだけで組織内で一定の尊敬を集めるのだろう。

 

 沙羅ウズメは先のやり取りでその実力の一端をわずかに見たが、それだけでもベテランに匹敵するだけの実力を持っていることは明らか。それに加えてこの堂々とした振る舞いと親身で的確な言葉。これだけあれば弱者から慕われるのは当然と言える。とはいえ、あそこまで礼儀と尊敬をもって接されるのは天性のカリスマと言わざるを得ない。

 

 

 そうして何度か羽根たちが傅いていく様子を見ながら廊下を歩き、やがてひとつの部屋の前でウズメが立ち止まった。

 

 

「さて、この中にマギウスがいらっしゃります。どうか失礼のなきように」

「わかった」

 

 

 ウズメが扉をノックする。

 入っていいよー。とすぐに返ってきた声は随分と幼く聞こえた。

 

 

「失礼いたします、灯花さま。新人を連れて参りました」

 

 

 大部屋の中央の丸テーブル。

 備えられた三つの椅子のそれぞれに少女が座っている。

 

 

「案内ご苦労様ー、ウズメ」

 

 

 こちらから見て真ん中に座るのは、茶色の髪を先端でカールにしたいかにもなお嬢様姿をした小学生と思われる背丈の少女。緑色の制服は、確か北養区の聖リリアンナ学園のものだった筈。

 

 

「ありがとうウズメ。それとみふゆも、ここまでの案内と勧誘ご苦労だった」

 

 

 その右に座すのは、頭の両端から三つ編みを下げて眼鏡をかけた、真ん中の少女と同じぐらいの年齢と思われる少女。そして私と同じ参京院教育学園の初等部制服を着たまさに文学少女といった風貌だった。

 

 

「…………」

 

 

 そして左。気だるげな態度を隠しもせず、大して興味のなさそうにこちらを見てくるのは、栄総合学園の制服を絵の具の飛沫で汚した、私と同年代と思わしき緑色の髪の女子。なんだか見覚えがあるような、ないような。

 

 この三人が、マギウス。

 一目見て理解する。彼女たちの魔法少女としての素質は桁違いだ。

 この眼に映る魂の熱量。一等星のような輝きを放つそれは、まさしく燃え盛る星そのもの。人の歴史を導くだけの才能と因果を保有した才女たち。確かにこれならば、ドッペルを実現させるだけの力があるのも頷ける。

 

 

「くふふっ、初めましてだね。わたくしは里見灯花。自動浄化システムを考案した天才で、ウズメのご主人様だよー♪」

「僕は柊ねむ。ウワサの作成を担当している」

「……アリナ。アリナ・グレイ

 

 

 真ん中のお嬢様が灯花。文学少女がねむ。美術学生がアリナ。

 

 あれ、アリナって、確か……。

 

 

「どうかしましたか?」

「……いや、少し驚いただけだ。噂の天才芸術家が、まさかマギウスの一人とはな」

「ふーん、アリナの事知ってるワケ」

「ああ。美術館の展示品を破壊して回った挙句、屋上から飛び降り自殺を図った芸術家だろう?」

「バッド! よりにもよってそこを出すワケ?」

「まあ結構ニュースになってたもんねー」

「わざわざその様子を見に行ったら庭園で倒れているんだから、流石の僕たちも驚いたものさ」

 

 

 実際はももこさん達が仲良くしてる御園かりんっていう魔法少女の先輩がアリナって名前だから色々聞いてるだけなんだけどね。個人的な創作仲間として色々話し合っている時にぽろぽろ話題に出るのは良いけど、大体ろくでもないエピソードばかりのキジルシだっていうことしか頭に残っていない。

 

 

「なんでそんなに慌ててるのー? あれ自体もアリナのアートだったでしょ?」

「あんな不完全をアート扱いはノーセンキュー! 確かにアリナのアートが進化したスタートだったけど、同時に迷走しすぎたブラックダイアリーなワケ」

「ええ。あんな気狂いの極みのような真似をされていなければ、お嬢様がたがあなたと関わるようなことは無かったでしょう」

「なぜディスったワケ?」

「自分の行いを省みればよろしいかと。芸術が凡庸な感性から現れ出ないのは重々承知ですが、それと風紀を尊重しないのは全くの別問題ですので」

 

 

 アリナの抗議の視線を涼やかに受け流すウズメ。眉ひとつ動かさず上司に対して悪態をつく振る舞いは、先ほどまでのカリスマに満ちた佇まいからは想像もつかなかったが、その言い回しですら一定の気品を感じさせるものであった。

 

 

『みふゆさん……あの二人、仲悪いの?』

『ええ、少し、いえ結構ウズメさんはアリナに対して小言が多いですね。ウズメさんは灯花のお手伝いさんですから、彼女に教育に悪影響を及ぼしそうな振る舞いが目に余るのでしょう』

 

 

 過保護だね。

 

 

「さて、少し話が脱線したね。とりあえず僕たちのことも知ってもらったとして、次は君のことを教えてほしい」

「私のことか。それなら事前に伝えておいた通りのはずだが」

「そうだねー。よその町からやってきて、自力でわたくし達を探り当てたベテランさん。よわよわな魔法少女たちならまだしも、それだけの人をただの黒羽根にして個性を殺すのは逆に非効率。実力はきちんと把握しておかなくちゃね!」

 

 

 なんだろうこの流れは。まるで面接だな。

 とはいえ、あらかじめ用意しておいたプロファイリングはちゃんと伝わっているらしい。

 

 私は自分が琴織つばめであることは彼女たちに伝えていない。

 偽名、そして偽の顔。それを用いることがみふゆさんに提示した組織へ入る条件だ。

 

 自動浄化システムに興味をもって接触したのは確かだが、同時に神浜で暗躍する彼女たちについては未だに不信感を覚えている。

 今回はそれを見定めるための目的も兼ねた潜入捜査で、時と場合によっては裏切りも視野に入っている、というかななかちゃん達に情報を流すための潜入なので、素性を抑えられているとそれはそれは面倒なことになる。

 私は少々この街で名前が売れ過ぎた。もしかすればこの組織の中にも知り合いが何人かいるだろう。そう考えると、やはり身バレは徹底的に防いでおく必要があった。

 

 

「だからまずは君の名前と素顔を教えてくれないかい? 基本的に顔を隠してもらっているとはいえ、流石に僕たちが一度も顔を把握していないというのは不自然だろう?」

「……道理だな。まあ、これは単純に衣装なだけなんだが。いいだろう」

 

 

 バイザーを外し、フードも取り払う。

 露わとなった黒髪が腰まで揺れる。切れ長の目が、目の前の柊ねむと合った。

 

 

「……ヨア。鶴喰夜鴉(つるばみよあ)だ」

 

 

 堂々と、被った仮面の名前を告げる。

 変装することを父に相談した時、魔法で看破される可能性を考慮して用意されたのがこの『化けの仮面(Avatar of Alter)』。効果は姿を別人のものに変更するだけの仮面型礼装だが、その隠ぺい性は折り紙付き。因果レベルで顔どころか姿形の情報を改ざんするため、露骨な情報を見せなければ『鶴喰夜鴉=琴織つばめ』と推察することすらできない。自分で外そうと思わない限りは勝手に外れることもない。

 試しにみたまさんや十七夜さんに遊んでもらったが、そうとわからなければ見破ることができない、幽界眼の反応すら誤魔化せるほどの隠蔽性。しかもものを食べるときの障害にならないときた。つまりこの姿のまま日常生活を送ることすら可能という、魔法少女を相手に変装するのにこれ以上ない逸品だ。

 

 ちなみに鶴喰とは母さんの旧姓である。

 というかこの顔もまんま学生時代の母さんらしい。いくらなんでも肉親の顔で変装はバレるのではと抗議したのだが、『多少似てるぐらいが逆に別人と思われる』というらしい。いやちゃんと見比べればわかりやすく違いは見えるらしいけども、十中八九拗らせているだけじゃないかな。

 ……まあ、私も母さんの思い出に触れられるのが嫌ではなかったけど。

 

 

「……なるほど、ありがとう。」

「ふーん、まあそこそこなワケ」

「そうだよねー。流石に琴織つばめがそのまんま来るわけないよねー」

 

 

 うーわ、マジで警戒されてたよ。

 いやまあそりゃそうだ。みふゆさんは私の勧誘には失敗して不干渉になったけど、代わりに他の街からやってきたというベテラン魔法少女をスカウトしてきました。なんて不自然この上ない。父さんに感謝しなくては。

 

 

「誰と勘違いされていたのかは知らないが、私は私だ」

「そのようだね、失礼した。じゃあ次の質問だけど、君は何か特筆した魔法を使えるかな?」

 

 

 自己PRまで始まるとは、いよいよ面接じみてきたな。

 というか魔法の把握までされるのか。考えてなかったな。いや別に適当な魔法を固有魔法って言い張るか、それとも特にないって言って実力派って言ったほうがいいのか。

 ……あ、でもこれがあったな。

 

 

「さて。ドッペルを作り上げたあなた方のように特別なものではないが、一応このような魔法が使える」

 

 

 ローブの内側の影を空間に繋げ、そこから魔力で鴉を生み出す。

 生まれた鴉は肩に止まり、ガァと一つ元気に鳴いた。

 

 

「カラス?」

「そうだ。私はこれを使い魔のように扱える。情報収集や連絡も可能だ」

 

 

 普段はそんなにひけらかすように使ってはいないから、私が鴉を使い魔にできることはあまり知られていない。混沌狩りの時に結構派手にやった気がするけど、少なくともあの時参加した子達たちは大体前々からの知り合いだから、まあ大丈夫だろう。使い始めたの今年の春からだし、常に使役しているのは黒スケだけだし、大丈夫、ヨシ!

 とまあ身バレのリスクを冒すのにも勿論理由がある。何も自分は下っ端の一人に甘んずる気はない。たかだか下部構成員が知ることのできる情報なんてたかが知れている。ここは実力者としてセールスポイントを示し、重用されるポジションについて自然と情報を集めやすくするつもりだ。

 

 

「ふーん。それって一羽だけ?」

「いや。魔力を消費すれば複数生み出せるし、生身の烏も使役できる。こいつらとは視界と聴覚を受けとれる。さらにカラスを中継地点(ハブ)にすれば、念話の範囲も拡大できる」

「……ふむ。広範囲に渡る索敵か。それの最大範囲はどれくらいかな」

「自動巡回の範囲ならだいたい半径10キロ*1。手動で飛ばすならこの街を横断できるぞ」

「その言葉が確かなら、圧倒的な索敵性能だね。それで僕たちのことも探り当てたというところかな?」

「そうだな、上から見て黒ずくめの集団というのは案外目立つものだ」

「どう思う、ウズメ?」

「ふむ。確かに蜜告蜂よりも移動速度、および範囲において優れていると考えられるでしょう。あれは結局虫である以上、個人に絞っての諜報が主です。それに相互連絡が可能という点は作戦行動においては非常に重要。……ふむ、ではこういうのはどうでしょう」

「なんだ?」

「鶴喰さん、今から貴方には近辺の羽根たちの巡回ルートを探ってきてもらいます。そこで見つけた羽根達の様子を報告してください。その結果で、あなたの魔法がどれだけ有用なのかを知りましょう」

「なるほど。私の能力を試すわけか。いいだろう」

 

 

 それならこっちも望むところ。

 影から生み出した鴉を三羽放ち、結界を抜けて三つの方角に散らせる。

 普通のカラスは時速30kmぐらいで飛行する。そこに私の魔力を乗せてやれば、その倍は余裕だ。

 新西、水名、参京。まずは北養に近い三地区に派遣し、魔力の反応があれば自動で近づくように命じておく。ついでに近くのカラス達にも魔力を伝播させて命令を刷り込ませておく。これで目を増やしてあとは放置。

 

 

 で、3分ぐらいした頃。カラス達から次々と反応が返ってきた。

 

 

「ふむ。新西は順当に魔女狩りを行っているらしい。水名は路地で定位置について何かを見張っているのか。参京では2、3人のチーム分けで魔女を探しているな。様子を見てみるか?」

「できるのですか?」

「それぐらいなら、念話の応用でな」

 

 

 鳥の目玉を模したガラス細工を取り出してテーブルに置き、魔力を流して映像を出力する。別にそのまま映像として空中に出せなくもないが、道具に魔力を通す形の方が概ね効率がいいのでこうしている。

 俯瞰視点からの路地裏の様子が壁に映し出される。監視カメラのモニターのように複数の映像が等分で展開され、黒いローブを纏った魔法少女たちがそれぞれ作戦行動に当たっている様子がこの場の全員の目に納まった。

 ……というか彼女たち、こんなに街中にいたのか。気づかなかった、というわけではないが、少なくとも自分の意識から外れるような、神浜の魔法少女社会における日陰者であったのだろう。そのことを恥じると同時、それだけの数をまとめ上げている彼女たちに更なる畏れを抱いた。

 

 

「あ、羽根たちが映ってる」

「使い魔から受け取った魔力情報を映像に変換してるんだね。その置物は媒体かな?」

「ああ。ご名答だ」

「ふむ。各位指示通りに動いている様子。特に問題はないようですね。ありがとうございます」

 

 

 とりあえず効果は認められたということでいいだろう。映像を消そうとしたところで、別のカラスがある一つの光景を見つけた。

 

 

「……それと、一つ報告だ。魔女を相手に羽根が苦戦しているらしい。場所は工匠区だ」

 

 

 映像を切り替える。

 そこには路地裏で座り込んでいる負傷した黒羽根たち。

 そのすぐ側には魔女の結界。しかしその位置は徐々に遠ざかっている。

 

 

「あーっ、またやられてるー」

「まあ黒羽根だし、魔女相手じゃ期待できないヨネ」

「あそこのチームは確か白羽根がいたかな?」

「となると、彼女一人で戦っているということになるのでは……」

「そうですか。では早速救援に参りましょう。彼女も連れて行きます」

 

 

 ウズメは私を指さしてそう言った。

 

 

「ウズメが行くのー?」

「ええ。これも見極めの一環、私が最後まで監督するべきかと。鶴喰さん、彼女たちの場所はわかりますね?」

「ああ。座標なら把握できる」

「では案内をお願いします。それではマギウス、行って参ります」

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃいませお姉さま!」

 

 

 

 さて、この流れだと彼女が戦うということになるのだろう。わざわざ組織のトップが出ていくということは、つまり実力を見せる機会だと向こうも思ったのだろう。

 

 丁度いい。

 マギウスの翼・首魁。沙羅ウズメ。

 先ほど垣間見た強さの本領、拝見させてもらうとしよう。

*1
実際のカラスの一日の飛行距離は10~30km。つばめの使い魔になったカラスは、彼女を中心とした巡回を行うようになる




〇鶴喰夜鴉
 つばめちゃんマギウスver。こっちも闇属性。
 バーミーってそういうこと。

 母親の顔使ってバレないのかと言われると、10年以上前の故人の、さらに10年以上前の顔を現在の人間と照応したところで、精々血縁関係を疑われる程度である。あと目の形が似てないので案外似てると思われない。
 ちなみに鶴喰のほうの親戚には笹目という苗字もある。

以下鶴喰バージョンの立ち絵

【挿絵表示】



〇マギウス
 お騒がせ天才三人組。
 灯ねむはウズメという外付けの良心回路がいるのでそこまで露悪的な真似はしない。もちろんアリナはそのまま。
 ちなみにウズメはアリナがそんなに好きじゃない。教育に悪いというか、根っこの性格的に反りが合わない。
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