ChapterⅣ【沙羅ウズメ】
あれから間もなく、私たちは工匠区にたどり着いた。
北養山中から大分距離があるのだが、ホテルフェントホープから繋がっている地下道は、神浜各地に点在する羽根たちの拠点と繋がる近道。ウワサの結界が魔女のそれ同様に異次元へと入りこんでいることを利用しての空間圧縮であった。
今いるこの旧車両基地は工匠区における羽根の駐在地であり、ホテルが創造されるまではマギウスの翼そのものの活動拠点でもあったらしい。
「さて、ここからだと方角はこちらですね」
現場の座標は既に共有済。あとは屋根の上を一直線に突っ切っていくだけ。
現在の速度は時速にしておよそ50キロ。誰かが空を見上げたとしても、まさか人が通過したなどとは思いもしないだろう。
屋根を壊さないように力の入れ具合を調整しながら跳躍を繰り返す。
先行する沙羅ウズメもまたトントンと屋根を飛び渡っている。
軽快にして音を最小限に抑えた足捌き。そして瞬きのうちに次の屋根まで飛び越せる瞬発力。蝶のように舞う、などという形容は似合わない。それこそ自然界に生きる肉食動物のように、その脚力を最大限に利用した目的への全力疾走。なんと無駄のない動きだろう。自分も必死になって追わなければ、うっかり置いていかれそうになる。
さらに恐るべき事実として、この女は身体強化を用いていない。
魔法少女が常人以上の力を発揮できるのは基礎中の基礎。変身してない時であっても無意識に魔力による身体強化を行い、肉体に最適な性能を与えているのだ。
そして微弱であろうとも、魂から発露する魔力の流れは自分の眼で認識できる。
だが、目の前の彼女から知覚できる範囲での魔力発露は全く見られない。
信じがたいことではあるが、沙羅ウズメは純粋な身体能力のみでこの速度によるパルクールを実現しているのだ……!
ここまでの事ができるのは極限まで肉体を鍛え上げた証。即ち聖堂騎士の精鋭などに代表される達人たちと同じ領域に彼女がいることの証左に他ならない。
「――と。皆さんご無事ですか?」
「えっ、ウズメさん!?」
あっという間に件の路地裏までたどり着く。
突然上からやってきたウズメの姿に、羽根達は驚きを隠せていない。そりゃあ現場でのトラブルに手をこまねいていたら、いきなり社長が顔を出してきたようなものだ。無理もない。
「どうしてここに!? 救援要請はまだ」
「こちらの斥候があなた達を発見しました。試用中ですが、中々に働きます」
「この人が……?」
こちらに視線を向けてきた黒羽根二人に会釈をする。
デザインの異なる黒紫のローブに身を包んでいるのを訝しんでいるようだが、他ならぬウズメが連れてきた人間ということもあってか疑問などは飛んでこなかった。
「さて、彼女はまだ中にいるようですね」
「そうです。リーダーは私たちを庇って……」
「あの魔女、とても強くて……リーダーでも大丈夫かどうか……」
「なるほど。では様子を見に行って参ります」
じゃり、と
ウズメの恰好は変化していた。深紅の陣羽織が風にたなびき、頭には鉢金が鈍色に輝く。黒い袴にはヒガンバナが血のように紅く咲き誇る。
一般的な和服から、かつての侍のような装いへと変わった彼女の姿は、まさに現代に蘇った武者であった。
「あなた達はここで引き続き待機を」
「ご、ご武運を!」
頭を下げる黒羽根たちを尻目に結界の内部へと侵入する。
どうやらこの結界は砂場の魔女のものだったらしく、結界に踏み入ると同時に足が少し沈み込んだ。
砂塵が吹きすさぶ中、半ば砂に埋もれた白い布地が目に入る。
ウズメはそこへ近づき、身柄を引っ張り上げた。
「うぅ…………」
「ふむ、息はある。魔力も問題は無いですね」
「……えっ、ウズメさん? なんでっ」
「先ほども説明した気もしますが……あなた方が苦戦しているようでしたので。とりあえず、ここからは私にお任せを」
「い、いえ、そんな。あなた様の手を煩わせるわけには」
「構いません。白羽根であるあなたが持て余す相手なら私の出番ですから」
立ち上がろうとする白羽根をこちらに預け、ウズメは前へ進み出た。
砂嵐の向こう、朧気に浮かぶ砂場の魔女のまた、こちらに気が付いたのかその巨体が動き出す。
その身体から漏れ出す穢れは中々に濃い。階級にしてⅤは下らないだろう。これを単騎で足止めしていた白羽根もそれなりの実力者だったのだろうが、流石に相手が悪かった。
そして、そんな相手に独りで挑もうとするのがまた一人。
それこそが沙羅ウズメであった。
「あなたはその能力を示してくれました。であれば、次はこちら側も戦力を見せるのが礼儀というもの。即ち、あれは私が担当しましょう。その代わり、その子を頼みましたよ」
「承知した」
白羽根を護衛するため、私も武器を取り出す。
ローブの内側より手元に現れたのは、赤黒く染まった殲滅の突撃槍【
実際、突然隣に出現した禍々しい見た目の武器に、白羽根がひぃと怯えている。対してウズメはほう、と感心したように息を漏らしていた。
「中々趣がある武器ですね。侘び寂びを感じます」
「ワビサビ」
この武器のどこにそんな要素があるのだろう。
いや、見た目としては松の木とかにも見えなくはないが……。
少なくとも、観賞用として用いるにはやや難がある武器であることには違いない。
「というか、そちらの武器はいいのか? 見たところ無手のようだが……」
沙羅ウズメは武器を持っていない。
先ほどホテルで見た赤色の刃物が武器かと思ったのが、それがどこにも見当たらなかった。
「それは心配なく。私の得物はこちらに」
その右手にはいつの間にか煙管が握られており、それをくるくると弄んでいる。
もしかしてそれが武器なのか? 確かに対人戦なら突き刺すなり殴打するなりできるだろうが、流石に手持ちサイズの煙管を魔女相手に武器とするのは少し無理がある様に見える。それとも、そこから煙でも吐き出して攻撃に転用するのだろうか。
「武器とは、まさかその煙管のことか……?」
「いえ、そうではなく――」
ウズメは煙管の仕込みを指で弾き、むき出しとなった刃を握りしめた。
鋭利な刃は掌の皮膚を裂き、深紅の液体が溢れ出る。
「何を……!?」
突然の自傷行為に驚きの声をあげる。
だくだくと零れ落ちる血潮は一本の線を描いて地面に流れ落ち――。
まるで、氷柱が固まるように止まった。
「沙羅式血刀術」
――血刃ノ壱
ぶん、と振るったその右手からはもはや血液は流れ出ず。
その代わりに紅一色の輝きを放つ刀が、その手に握られていた。
「血液を、武器に……?」
「私の魔法です。生憎、これぐらいの手品しか取り柄が無く。では――」
冷徹な言葉とともに染みわたる、尋常ならざる殺意。
危険を察知した砂場の魔女は、ウズメを何よりも倒すべき敵だと判断して腕を叩きつけた。
地響きと共に砂が盛大に巻き上がる。
振り下ろされた巨腕の上にウズメは立っていた。
魔女が腕を振り降ろす直前、既に彼女は跳んで攻撃を回避していた。
「♯◆◎※★▽□!!!」
仕留められていないことに苛立つ魔女は、己の腕に乗っている敵を振り落とそうとするが。
――血刃ノ参
その腕に絡みつく赤い糸が、魔女を地に縫い留めていた。
「□▽★※◎◆♯!?」
引きはがそうともがく魔女の腕をさらに蹴ってウズメは跳び、一閃。
――
瞬きの前後にて、繋がっていた魔女の首は胴体と泣き別れていた。
「――――」
改めて目を見張る。
あれだけの穢れを纏った魔女の動きを封じた血の魔法もそうだが、何よりもああも容易く魔女を斬り捨てた剣技。一切の無駄なく首を薙いだ太刀筋はまさに剣豪。
(傑物であることは分かっていたが……ここまでか、沙羅ウズメ!!)
「片付けました。こちらグリーフシードです。その子に使ってあげてください」
つかつかとこちらに歩いてくるウズメさんは、魔女が落としたであろうグリーフシードを投げ寄越してきた。
「あ、あぁ……」
言われるままに、白羽根のソウルジェムを探って浄化する。瀕死に追い込まれていた彼女の宝玉はひどく濁っていたし、身体も傷だらけだ。
それでも魔力が回復したことによって活力を取り戻したらしく、私の肩から離れて自分の足で立とうとしてもつれかけ、ウズメさんに支えられた。
「回復したなら引き上げましょう。立てますか?」
「申し訳ありません……っ! 戦いばかりか、こんなことにまであなた様のお手数をおかけして、不甲斐なく……」
「いいえ。あなたは立派に務めを果たしました。あれほどの難敵を前に一歩も引くことなく部下を逃がしきったのは一重にあなたの実力あってこそ。ここに入ってきた時よりも成長した証です」
「ですが……」
「悔しいのなら研鑽に励みなさい。その働きをもって今回の失態を帳消しといたしましょう」
「……はい。頑張ります……!」
「その意気です。ほら、肩を貸しますよ」
情けなさで俯いていた白羽根は、その激励によって別の意味で嗚咽を漏らし始めた。
◇
ホテルフェントホープ。
白羽根を救護室へと送り届け、マギウスの元へと戻った私たち。
「で、私はそちらのお眼鏡にかなったと見て良いかな」
「うんうん! わたくしとしても予想以上だよ」
「羽根たちの情報伝達、及びに各地の索敵。素晴らしい逸材だよ」
「ま、モニタリングの範囲が広がるなら魔女の捕獲も捗るワケ。いいんじゃない?」
マギウスが口々に評価を言う。
こちらとしても実力を認められたようで何よりだ。
「――と、君の実力は把握できた。では最後にこの組織に迎える洗礼を行おう。ウズメ、案内を」
「かしこまりました。ねむ様」
「洗礼?」
一体何をさせられるというのだろうか。
無意識にこわばる様子を見たのか、柊ねむは微笑みながら言った。
「そう身構える必要はないよ。ただ見てもらうだけさ」
――僕たちが実現した魔法少女の解放。その核となるモノをね。
◇
ChapterⅤ【エンブリオ・イヴ】
マギウスの言葉に従い、ウズメさんに連れられてまたホテル内を行ったり来たり。
ロビーの直下にあった階段を下り地下の通路を進む。
複雑怪奇な道順の果てに、巨大な扉の前へとたどり着いた。
「ここから先が地下聖堂、魔法少女の解放の中核となる存在が納められた我らマギウスの翼の本殿にございます。これよりこの中へと入るわけですが、少し気張っておいたほうが良いかと。あなたのような歴戦であれば心配はないと思われますが」
「それはどういう……」
疑問の声は、巨大な扉を押し開く音にかき消された。
目に広がるは数多の花が咲き誇り、虫が飛び交う広大な庭園。
しかしその見た目の清らかさに反し、空気は重苦しい穢れに満ちている。
屍人である私は穢れに対しては相当の耐性があるのでそこまで息苦しくは感じないが、普通の魔法少女が立ち入れば確実に気分を悪くする量の穢れがこの中には漂っている。なるほど、気張れとはそういうことか。
「……凄まじい穢れだな」
ぽつりと呟いたその言葉に、双樹あやせが反応した。
「へぇ。普通の子ならこの時点で結構気分悪くなるのに、ベテランっていうだけはあるね」
「一応、相応の修羅場は潜り抜けているつもりだ。しかしこの穢れはどこから――――」
視線を奥に移し、何度目かもわからずに言葉を失う。
百メートル以上はあるだろう巨体。宝石飾りを身に纏い、目を閉じて眠るその姿は白いカイコガをそのまま怪獣といっていい。今まで見たことがないほどにあまりにも強大で巨大で絶大なる魔女が、この広大な聖堂の奥に鎮座していた。
「これは、魔女、か……?」
「然り、然り。エンヴリオ・イヴ。今もなお成長を続ける半魔女。神浜の地の穢れを一身に引き受ける厄神。しかしてその実態は、魔法少女の解放を成し遂げるための核にてございます」
かろうじて言葉を捻り出すと、奥から声が聞こえてきた。
視線を戻すと、そこには誰かが立っている。
「――葛葉」
「これは、これは。皆さま揃ってご機嫌麗しゅう。見ない顔を連れてきたようですが、そちら新人で?」
「うわでた、蛇女」
深緑を基調としたゴスロリ。庭園に溶け込むような恰好の、葛葉と呼ばれた少女は軽い笑みを浮かべ、黒いヴェールの下からこちらを値踏みするような視線を向けてくる。それはまさに爬虫類を想起させ、あやせは露骨に嫌な顔をして悪態をついた。
「そうですよ。鶴喰夜鴉。これから斥候として働いてもらう者です。あなたの負担が少しは楽になるでしょう」
「それは、それは。お初にお目にかかります。私、
「鶴喰だ、よろしく頼む」
仰々しく礼をする葛葉。
その魂魄の色は……ない。
純然たる白き魂魄は常人のそれ。
けれど、そんな彼女から感じ取れる力は間違いなく魔力。
(魔法少女では、ない?)
であれば、正体はひとつ。
葛葉と名乗った少女は魔術師だ。
人の身で奇跡を追い求め、信仰と神話を辿って神秘を操る術を身に着けた探究者。
粛清機関の人間を除けば、過去に二度だけ出会った人種。
纏っている魔力は並みの魔法少女以上。
これだけの魔力を放っていれば一見、魔法少女と誤認する。
「……しかし、管理と言ったが、本当にこれを?」
「ええ、ええ。陰陽五行の思想に基づき、
『みふゆさん。彼女、魔法少女じゃありませんね?』
『ええ。つばめさんには隠せませんか』
『一応念話でもヨアで通して』
『あっすいません。ヨアさんにはわかりますか。道麗さんは確かに魔法少女でありません。彼女は陰陽寮に属するという陰陽師です。この神浜にドッペルが展開されたことに対する調査の名目でやってきたと……』
『陰陽師……あれが、か』
日本政府が裏で抱える、皇室直属の神秘集団『
魔女、魔法少女を始めとしたさまざまな存在が日本の社会に大きな影響を与えないように暗躍しており、粛清機関とは半協力半対立関係にあるという。
その構成員が陰陽師と呼ばれる由緒正しき存在であり、その権謀術数に長けた陰湿な立ち回りは魔法少女でも決して油断ならぬ存在だと音子さんから聞き及んでいる。
『陰陽師が来ていると言う事は、このことは既に陰陽寮……政府直属の組織が知っているということでしょうか?』
『かもしれません。調査及び、監視と仰っていましたから。恐らく、マギウスの計画が社会に悪影響のあるものでないのかを探っているのでしょう』
『ふむ、ウズメさんが少し剣呑に接していたのはそのためですか? 人のこと言えた義理じゃないですけど、あれあからさまに腹に一物抱えてますよね? 陰謀大好きですってめちゃめちゃデカく顔に書いてますよアレ』
『いえ……、道麗さんはむしろイヴの生育やウワサによるエネルギー回収には改善案を提出するなど協力的な姿勢を見せています。ウズメさんとの間には個人的な因縁があるようですね』
てっきり組織のトップとして内部スパイじみた存在に警戒していると思っていたのだが、陰陽師からしても魔法少女が魔女に成らないようになるのは都合がいい、という事なのかもしれない。
『よくもまあ、あのプライドの高そうな三人が許したものだ』
『ワタシもそう思いました。しかしマギウスの三人からすれば、自分たちの行いが権力の元に正当化される良い機会だと受け入れる姿勢のようです』
それならそれで都合がいい。明らかに胡散臭いやつがいるなら、そいつを隠れ蓑にしてこちらも情報を集めやすい。
「葛葉さんは陰陽師らしく、式神を用いての偵察や破壊工作。結界の構築が得意です。すでにこの街には彼女の放った蟲が散らばっていますね」
「それは……こわいな」
つまり、この街にはいたるところに葛葉の監視の目があると見ていいわけだ。
これは帰り道も注意しなければ、彼女に正体が露呈する危険がある。
「そうそう。この女陰湿だもん。どこもかしこも虫まみれで、お姉さまにすり寄るんだから気持ち悪い」
「おや、おや。確かに私は日陰にて謀略を練るのが生業。しかし常日頃からつき纏うそちらよりは大分節度を保った付き合いをしているつもりですが」
「あん?」
「あやせ」
「……はーい」
とにかく食って掛かろうとするあやせをウズメさんが窘める。あやせはべーと舌を出してから彼女の背中に引っ込んだ。
「まあ、彼女の蟲は対象を指定しての追跡などが主ですので。あなたのように広範囲を大雑把に監視できるのとはまた別。これからは役割を分けさせます」
「それは、それは。これからよろしくお願いしますね鶴喰様。しかし、ンフフ、どうやら中々の逸材を連れてきたようですねぇ。歴戦もかくや。その上、魔術の造詣にも深いと見えます」
「……わかるのか」
「ええ、ええ。これでも陰陽師の端くれゆえ。あなたがいくつもの礼装を持っていることぐらいわかりますとも。ああご安心を。個人の装備に関して、よからぬことを企まぬ限りとやかく申すつもりはありません」
(よからぬことしかないんだよなぁ)
何を考えているのかは分からないが、良くないことを企んでいるのはお互い様な気がしなくもない。こいつには心を許さない方がよさそうだ。
「で、これが解放の要ということでいいんだな?」
再びイヴを視る。
その巨体の内側にはこれまでに見たことがないほどに高密度の穢れが収束し、渦を巻いている様子が視える。だが、奇妙なことにその渦の中心にはぽっかりと穴が開いている。どれだけ水を注いでも底に抜けた穴に吸い込まれていくように、何か決定的となるものが欠けているような。そんな印象だ。
「ええその通り。つまるところ、自動浄化システムとはこのイヴを核として成立する祓魔の奥義。この街をアリナさまの結界魔法で隔離し、里見さまの加えた変換魔法によってソウルジェムに溜まった穢れを魔女化するよりも早くドッペルに変換。そして放出されたエネルギーをイヴが回収し、柊さまの具現化魔法によって宇宙へと放出する。そうすることでインキュベーターめの眼を欺きつつ魔法少女の救済を成す。それが世界を救うために考えられた、いと素晴らしき魔術儀礼。世界の在り様を変革させるための大偉業なのですよ」
「……ま、彼女の言う通り。マギウスとイヴの力によって魔法少女の救済は為されます。我らマギウスの翼はそれを世界中に拡大するため、イヴを生育させるエネルギーを集める組織です」
――要するに、こういう事だろう。
マギウスはこの穢れを集める性質を持った半魔女を極限まで育てるつもりだ。
それはつまり、魔女の最高位であるⅨ階梯。世界を塗りつぶす力である渇望真理に匹敵する呪いを持った存在となったイヴの力を土台として地球全土に自動浄化システムを定着させる。
参った参った。こりゃ
何一つとして理論に隙が無い。このまま進めば本気で世界中の魔法少女を救うことができるだろう。
……とはいえ、疑問点もあるのだが。
むしろ、その一点だけで腑に落ちないと言ってもいい。
「しかし、よく見つけられたものだな」
「何がですか?」
「この半魔女とやらだ。穢れを吸い寄せる性質ならまだしも、なりかけのままの存在をそのまま確保したなど、にわかには信じがたい話だ。一体どんな方法を――」
次の句を発しようとした瞬間。
首が落ちた、と錯覚するほどの剣呑な視線を感じた。
――ウズメだ。
「――――ッ」
「すみませんが、それ以上の詮索はご容赦を。同胞になるとはいえ、そこから先に踏み込まれるならば相応の覚悟を持っていただきましょう」
「……済まない。配慮が欠けていた。どうもこれほどの存在を前に、興味が隠し切れなかった」
深く追求しない旨を告げて、ようやく殺気は収まった。
……やばいな。この反応からするに相当な厄ネタが眠っていると見ていい。私だけで対処できる領域を越えた、軽くこの街が吹っ飛んでもおかしくないレベルの何かがある。
「ンフフ、お気になさらずともいいですよ。このお方、私の時も同じように殺気を」
「葛葉」
「失礼。とにかく、魔術社会において不要な詮索は命取りに等しくございます。どうかその点、ゆめゆめ忘れることないよう」
「ああ……気を付けるよ。だが、こちらもそれなりに不安だったからな。果たして本当に解放は成しえるのかと、ほんのさっきまで疑う気持ちがあった」
梓みふゆ。沙羅ウズメ。双樹あやせ。葛葉。
神浜の代表である七海やちよに匹敵する実力者が少なくとも四人。
そしてマギウスの三人も、戦いに慣れている素振りは見えないがそれを補うだけの強力な魔法と膨大な因果を保有している。
この街の名だたる魔法少女たち全員を――いや、あの聖堂騎士すら敵に回したとしても、それを真っ向から迎え撃つだけの備えがこの組織にはある。
これほどまでの人材が揃い、穢れを吸収するイヴという半魔女がいる。
彼女たちが本気で魔法少女を魔女化の運命から解き放とうとしていることは、疑う余地もない。
「だが、この魔女を見て確信した。認めよう。お前たちの言葉には真実がある。魔法少女の解放とやらに協力すること、私としてもやぶさかではない」
心から忠誠を誓う、とまではいかないが。少なくとも彼女たちとの活動に手を抜くような真似はしないことを誓おう。それが未だ不明瞭ないくつかの真実へと近づくために必要な行為だと信じて。
すべては私の大事な人たちの平穏と未来のため、
私は獅子身中の虫として彼女たちの行為に加担する。
「では鶴喰夜鴉。あなたはこれから黒羽根として斥候部隊に配属します。ひとまずの指揮権はそこの白羽根にありますが、何か要望があればいつでも私に相談を」
「了解した」
「ええ。さて、紆余曲折ありましたが――歓迎しましょう鶴喰夜鴉。魔法少女の解放のため、その力を偉大なるマギウスの翼として羽ばたかせなさい」
「御意。この鶴喰夜鴉。全身全霊を持ってお前たちの目となろう」
都市を駆ける乙鳥ではなく、夜を睥睨する鴉として。
私は、この賢人たちの翼として在ろう。
◇
鶴喰達が去り、後にはウズメと葛葉の二人が残される。
「……しかし、良かったのですかなご当主殿?」
「何が」
「鶴喰さまですよ。彼女、どうみても正体を隠していたではありませんか。問い詰めて化けの皮を暴いてやってもよかったのではありませんか?」
「別に、後ろめたい思いを抱えた者などこの中にはいくらでもいます。自らの力を主張する分、彼女は誠実と言える。横から掠め取ろうというならまだしも、恩恵に預かるためにすり寄って来るなら拒む理由はない」
「それがマギウスに対する背信となってもですか?」
「仮に奴が不義理を働くなら、その時に首を落とせば済む話です。そもそも、それを言うなら真っ先に貴様の首を落としている。不確定要素が多少増えた程度ではお嬢様がたの計画に不備はありませんよ」
それに、とウズメは言葉を切る。
「予想外の事態はいつでも起こり得ます。それに備えるためならいくつかのリスクを抱えるのも必要となるでしょう。彼女ほどの猛者を抱えることでより良い結果を得られるなら、それぐらいは許容範囲です」
「まあ、まあ。度量の広いお方ですこと。それなら私めが余計な真似をするのはよしておきましょうか」
「当然。下らないことを考えている暇があるなら、イヴの生育に精を入れなさい」
「ンフフ、御意に」
〇沙羅ウズメ
固有武装【仕込み煙管】:刃が仕込んである。もっぱら自分の出血用。
固有魔法【血液操作/血戦甲冑】:自身の血液を自在に変形させて操る。魔法少女なので失血のデメリットを相殺でき、さらに操作自体の消費魔力は少ない。当人の技量が問われる奥深い魔法。
ウズメはこれ以外の魔法を汎用魔法含めて一切使用できず、また魔力付与による攻撃力の増加効果もない。
魔法少女姿は典型的な女侍。飾りっ気が微塵もない。ソウルジェムの位置は簪。
〇葛葉
魔法少女ではない日本の魔術師。つまり陰陽師。
度々描写されていた虫はこいつの偵察用式神『
好きなおやつは水まんじゅう。
〇あとがき
そういうわけで、つばめちゃんはマギウスの翼サイドでやっていきます。
メインシナリオをいろはちゃん側で進めると順当に原作通りになるだけなので、思いっきりわちゃわちゃやるために魔法少女アヴェンジャーズ状態のマギウスの翼で盛大に暴れてもらおうというわけです。