扉絵イメージ『鶴喰夜鴉。ずれた仮面の下からはつばめが顔を覗かせている』
ChapterⅠ【羽根】
マギウスの翼の一員として正式に加入し、斥候部隊に所属することになった。
またまたみふゆさんに連れられた別室にて、そこの魔法少女たちと対面する。
「そういうわけで、こちらが葛葉さんの代わりの連絡役になった鶴喰夜鴉さんです」
「よろしく」
「どうも。広報部担当の白羽根だよ。よろしくね」
フードの端から金髪を覗かせた白羽根と挨拶を交わす。
お互いに顔を隠しながら頭を下げる、というのは実に怪しい絵面であった。
「これから鶴喰さんには彼女の下で動いてもらいます。詳しいことは彼女から聞いてください」
「わかった」
「それでは私はこれで。困ったことがあればいつでも言ってくださいね」
そう言い残してみふゆさんが退出する。
後に残されたのは私と、羽根の方々。
「さて、それじゃあ――」
白羽根は徐にフードを取り払い、少し煩わしそうに首を振る。金色の髪が流れ落ち、釣り目がちの赤い瞳が瞬きをする。
「改めて自己紹介だね。私は
素顔を晒すだけではなく、自分の名前までを躊躇いなく明かした白羽根……いや、観鳥令はこちらを値踏みするような目でにんまりとほほ笑んでいる。なんというか、ジャーナリストという人種のテンプレートな感じの表情だ。
「……顔と名前を隠すのがこの組織の決まりじゃないのか?」
「表向きはね。白羽根は色々やることが多いからお互いが誰かぐらいはちゃんと知ってるし、ウズメさんや梓さんは当然全ての羽根の顔と名前を把握している。飽くまで外部に私たちの素性が漏れないようにするためだから、本拠地とかでなら多少はオッケーなんだよ」
「ふむ、それもそうか」
それでもあんまり堂々と顔を晒す真似は悪目立ちするからオススメはしないけどね、と続いて観鳥は忠告を口にしてから、ただしと続けて。
「鶴喰さんの場合はもう遅いかもしれないけど」
「というと?」
「羽根たちの間でも少しウワサになっているんだよ。梓さん直々に余所の街からスカウトした魔法少女、ウズメさんやマギウスにもその腕前を買われた実力派が入ってきたってさ。立場上、組織内の情報は自然と入ってくるんだ」
加わって一日も経っていない筈だが、どうやら随分と私の名前は広まっているらしい。
なんだか尾びれが付いている気がするが、その辺をでっちあげたのは他ならぬ自分だから否定できない。
「随分な話だな。私も君たちとは大差ないと思うが」
「自分の名前を隠そうともしない振る舞い。姿は隠しているけど、私たちと比べれば一目で判別がつくフード。ここまでくれば嫌でも目立つだろう?」
すいません。バリバリ偽名ですし別人のガワも被ってます。
「ふむ。少し不味いことになったかな?」
「そうでもないよ。流石に普通の子がそんな真似をしたらちょっと面倒ごとだけど、鶴喰さんの場合はウズメさんのお墨付きみたいなものだ。難癖をつけられる心配は少ないんじゃないかな」
まずは最初の評判を大きく盛って実力を高く買わせる。一歩間違えれば悪目立ちにもなるが、上手くいけば一目置かれることができる。彼女の言葉を聞くに、どうやら潜入の初手は成功したのだろう。
勿論、他人の地位を脅かすような真似をして余計な問題を起こさないようほどほどにしておく必要があるが、そこはおいおいこの組織に馴染みながら適切な距離を測っていくとしよう。
「さて、それじゃあお互い挨拶もしたし、次は私たちの仕事の説明をしようか。私たち羽根の役目についてはどこまで聞いてるかな?」
「あのデカい半魔女を育てるためのエネルギーを集めることだろう。そのためにはほかの魔女を捕まえて餌にするか、あるいはウワサとやらが集めてくるか。我々の仕事はそれの監視と聞いている」
「正解。でもそれだけじゃないのさ。例えば
「魔女の育成、か」
「ああ、心配しなくても人を襲わせるような真似はしてないよ。魔女同士を共食いさせたり、あるいはその辺で見かける象徴の使い魔っていうのを捕まえて餌にしてるよ」
「象徴……あれのことか」
思い出されるのは、神浜のいたる場所で見かける奇妙な使い魔。結界を跨いで出没し、常に何十以上の規模で存在する奴らは不思議なことに大元の魔女を見かけたことが一度も無かった。やちよさんに聞いたところ、自分が魔法少女になった時からずっと出現しているというから、恐らくかなり長い期間いると思われてはいるが、その親である魔女が見つからない不可思議な存在だ。
またこの使い魔の奇妙な点は倒すと結構な割合で魔力結晶を落とすことだ。体内に魔力を蓄える器官でもあるのかは不明だが、とにかく奴らから手に入る魔力結晶はそこそこ役に立つ。何せ普段は生成にひと手間かかる魔力の塊だ。私は魔術触媒として用いているし、父も即席の魔力を確保するためにストックしている。さらには調整に使うことで当人の魔力量そのものを僅かだが増設することもできると、割と万能素材なそれらを落とす象徴の使い魔は中々美味しい敵でもあった。
「ちょっと前は鏡の魔女の結界からも使い魔を捕まえられたんだけど……この前潰れちゃってね。知ってるかい? あの紺染音子がこの街の代表を引き連れて魔女の結界に乗り込んで、半日もせずに攻略したんだってさ」
「紺染……"鉄の英雄"か。よりにもよってそんな大物がこの街にいるとはな」
とにかく知り合いの名前がぽこじゃか出てくるものだから、いちいち反応を返すのも疲れてきた。適当に白を切ってお茶を濁す。
「というわけではい。ひとまずこれに目を通しておいて」
そう言って観鳥は「要注意人物一覧」と書かれたバインダーを渡してきた。
開いてみると1ページ目から「接触厳禁」と大文字の見出しに音子さんの顔写真と簡易的なプロフィールや魔法、戦闘スタイルまでが記されていた。
【不用意な接近、ならびに交戦は避けるよう。いざという時は逃走し、白羽根以上に報告を】と、素晴らしく的確な対処法にはつい失笑が漏れそうになった。
「私たちが警戒しなくちゃいけない魔法少女のリストだよ。神浜の実力者は大体そこに書いてあるよ」
「なるほど」
七海やちよ、和泉十七夜、都ひなの。各地区の代表者たちを始めとして、他にも私が知っている魔法少女の名前がずらりと。ななかちゃんにこのはさんもいる。あ、私の名前見っけ。……神出鬼没、紺染音子との繋がりが高いため要警戒ってひどい言い草だな。あと更紗帆奈もいたけど【死亡】の注釈と共に打消し線が引かれていた。
これだけでも相当な情報量ではあったが、驚くべき点はそれだけではない。
「見滝原筆頭の巴マミに風見野の朱音麻衣、二木市の紅晴結菜――市外の魔法少女まで纏めてあるのか」
なんと神浜市以外の魔法少女たちの情報までもがそこにはあった。ほとんどが名前と簡素な説明だけではあるが、普通なら他地域の魔法少女の話なんてほとんど入ってこないだけにそれだけでも十分すぎる。
「まあね。ここは他の市からやってきた子もそれなりにいてさ、その子達から各地の魔法少女の事情とか聞いてるんだ。彼女たちもここに来る可能性はゼロじゃないからね」
「私みたいに、か?」
「そう。でも皆が皆、あなたみたいに私たちの活動に賛同してくれるわけじゃない。魔女を集めて利用しているなんて知られたら、衝突する可能性のほうが高いんだ」
「それはそうだ。事実、私も最初は半信半疑だった」
「だからこそ、姿を隠すだけじゃなくて彼女たちの動向をそれとなく探ることも大事になるってことさ」
それぞれの地域や学校にいる組織外の魔法少女が不用意にウワサについて関わらないように見張ることと、各地で問題が起こった場合にはそれをいち早く本拠地に知らせること。これが斥候部隊の主な任務だという。
……うん、やってることは普段している哨戒や偵察と大差はない。鴉たちを巡回させておけば大体はカバーできるだろう。
「で、鶴喰さんはそういう偵察とかに役立つ魔法とか持ってるんだよね?
「ああ。私はこうしてカラスを使い魔として監視させることができる。戦闘能力はほぼないが、視界を共有し、念話を繋げることもできる」
「は~、そりゃまた便利な魔法だ。何より見た目がいい。葛葉さんの蟲は苦手な子も多いからねぇ」
「蜂はまだいいけど、ムカデとか蜘蛛とか、ちょっと無理……」
「この前あの人の袖から虫出てくるの見ちゃった……あたしなら絶対にできないよ」
次々にぼやき始める黒羽根たち。
どうやらあのゴスロリ陰陽師、羽根からは随分避けられているらしい。あのうさん臭さ全開の態度、というかむしタイプが年頃の少女たちには受け付けられないようだ。わかる。虫ってフォルムは機械的なカッコよさあるけど、カサカサ動かれると反射的に腰が引けるよね。
「それからこれは広報としての仕事なんだけど、ホームページとブロマガ、SNSの更新とかがあるね。一応普通のサークルに偽装して、魔法少女以外には分からないように電子魔法で細工をしてる」
「SNSまであるのか」
「魔法少女だって年頃の女の子だからね、こうやってSNSを活用するのは当然さ。こっちを通じて魔法少女の解放を知った子だっている。みんな、他の魔法少女の存在を探しているんだよ」
道理ではある。私は最初から美緒や音子さんといった仲間に恵まれていたけど、中には一人で契約してそのまま単独で戦いに放り込まれた魔法少女もいる。
いや、魔法少女としてはそっちのほうが大多数のはず。そして命を懸けて戦っているという事情はみだりに他者に話すことはできない。荒唐無稽な話であり、仮に信じられたとして、常軌を逸した力を持っているということが知られれば、良きにせよ悪しきにせよ人間関係の変化は免れない。だからこそ、私たちは魔法や魔女に関わりのない人間にそれらの存在をひた隠しにして、人知れず化け物退治へと身を投じる。
当然、そんな日常を続けることは少女の身には相当なストレスであり、彼女たちがそれらの事情を気兼ねなく共有できる仲間――すなわち他の魔法少女の存在を求めるというのは自然な流れだ。そしてそのために一番使用されるツールが何かといえば、文明の最先端たるSNSである。
「鶴喰さんの担当からは外れるけど、何か載せたい情報とかがあったらSNS担当のこの子に話してね」
「……プログラミングができるからって、HPの管理を投げられました」
「また言ってるよ。戦いに向いてないからってウズメさんがこっちに回してくれたんだからさ、適材適所ってことでいいじゃないか宮尾ちゃん」
宮尾と呼ばれた黒羽根がそう気だるそうにつぶやき、励ますように観鳥が肩を叩く。フードに隠れて表情は伺えないが、中々複雑そうな感情が声色から察せられた。
「……ところで、この【処罰済】というのは?」
「ああ。優木沙々のことだね。そいつは洗脳の魔法を使って各地で悪さをしていたらしくてね、しれっとマギウスに近づいて組織を乗っ取ろうとしたんだよ。まあその前に葛葉さんに見つかって、みふゆさんが魔法を無効化してからウズメさんが首を刎ねて終わったんだけど」
「凄かったよねあれ。しばらく動いてから首が落ちるとか初めて見たよ、首提灯だっけ? 落語のやつ」
こわっ。
「まあそれでも魔法少女だからまだ生きててね。一応、殺すのは流石にまずいけど野に放つわけにもいかないからって地下牢に幽閉されてるんだ。その辺の区域には近づかない方がいいよ」
「いや、まずそんな物騒なものがあることについて聞きたいんだが」
「そりゃまあ、魔法少女なんてだいたい物騒な子が多いからね。多少手荒い対応もやむなしって感じ」
ごもっとも。
「と、少し話がずれたけど。これが私たちの役目。質問はある?」
「問題ない。説明に感謝します」
「そっか。それじゃあ、次は施設の紹介をして回ろうか」
◇
ChapterⅡ【双樹あやせ】
全員でぞろぞろとホテル内を移動し、様々な施設を案内された。
食堂、談話室、遊技場、会議室、和室、大浴場、etc……。
秘密結社の拠点というにはあまりにも充実したラインナップを見て回り、最後に足を運んだのはホテルの前庭だった。
「この向こうが模擬戦会場。羽根としての戦い方を訓練する場所だね」
「羽根用?」
「そう。姿を隠しているのに自分の武器を素直に使ったら意味がないからね」
「なるほど。個性の塊みたいなものだからな、あれは」
私も骨喰を封印しているので、身バレ防止のために武器を隠すというのはやはり間違っていなかったらしい。
その他の利点としては……おそらく統一した規格による戦い方によってある程度の実力差を埋めることだろう。
事前に聞いた話だとマギウスの翼の多くは魔女退治も満足にできない魔法少女。反対に、一定以上の実力を持つ者は本来とは違う戦い方を強いられるという事にもなるが……。
「そういうわけで、はいこれ」
じゃらり、と黒羽根たちが取り出したのは無骨な鎖分銅と鎖鎌。観鳥が出したのはこれまた飾り気のないショートソード。剣はわかるが、何故に鎖。
「あ、露骨に使いづらそうな武器って顔したね? これでも中距離で戦いながら魔女を捕縛するのに使えるから役に立つんだよ?」
「あぁ、そういうことか」
討伐ではなく捕縛を目的とするなら、多人数で取り囲んで鎖で拘束するのは戦術としては真っ当だ。
黒羽根たちで拘束して、白羽根が弱らせる。弱い魔法少女たちでも魔女を効率的に倒すには考えられた戦い方と言えるだろう。
それに武器の種類が増えるのは戦いの選択肢が増えるのと同義。もらえるものはありがたくもらっておくことにする。鎖だって骨喰に組み込んであるし、むしろこの手の武器があるのは丁度いい。
「それじゃあ早速その武器の訓練といこうか。ちょうど双樹……あやせさんが相手をしてるみたいだね」
先ほどから響く剣戟の方向に目を向ける。
模擬戦会場の中心では、5人ほどの黒羽根たちを相手に双樹あやせが単騎で戦っている。いつの間にかいなくなっていたと思ったら、どうやらここにいたらしい。
四方八方から繰り出される分銅をブレードで危なげなく払い、返す刀で放った炎であしらっている。やはりというか、彼女も相当な手練れだ。格下相手とはいえ、あれだけの魔法少女に囲まれて余裕の表情を保っていられる者もそういない。
「そういえば、彼女やウズメ殿は得物を隠していないな」
「あの人たちは幹部だからねぇ。梓さんだってそこは隠していないし、羽根でも身バレを恐れてない子は割と自前の武器を使ってるよ」
観鳥は観戦している羽根たちに近づいていき、一番内側で指示を出している白羽根に声をかけた。
「ほらそこ、腰が引けてる! そんなんじゃ一本取ることもできないわ。もっと息を合わせて同時に攻撃! 相手が魔法を放ち終わった隙を見逃さない!!」
「やあ教官、精が出てるね」
「……何の用かしら、観鳥。あなたが来る用事は無かったはずだけど」
教官と呼ばれた白羽根は、熱の入った指導に水を差されたことへの不満か、じっとりと観鳥を睨むように振り返った。
「っはは、御免御免。今日入った新人を連れてきたんだよ。それにその子たちも結構限界だろうし、一度休憩を入れたら?」
「この程度ウズメ様のシゴキには及ばないわよ。……でもいいか。はい、一旦止め! 双樹様も終わっていいわ!」
「ひぃ……ひぃ……」
「や、やっと終わった……」
「えー? もう終わり? つまんなーい」
教官の声を聞いて黒羽根たちが力なくへたり込み、対する双樹は物足りないとばかりに剣を振り回す。
その様子を尻目に、教官はフードを払って団子状に結んだ銀髪を露わにし、こちらと目を合わせる。
「さて、初めましてね。私は
一応、と前置きをしてからの自己紹介には、どことなく謙遜が混ざったようなニュアンスを感じられた。
「鶴喰だ。この度は斥候部隊として魔法少女の解放に助力させてもらうこととなった」
「なるほど、件の新入りね。噂に違わずいいもの持ってそうじゃない」
その堂々たる佇まい。魔法少女を指導する立場というだけあって、挨拶一つにも貫禄が見られる。
「説明を受けていると思うけど、ここでは羽根としての戦い方を身に着けてもらうわ……ってところなんだけど、あなたの場合はまず実力を見せてもらおうかしら。ウズメ様が認めたなら問題ないとは思うけど、やっぱり自分の目で確かめておいきたいじゃない。まさか偵察だけが得意な魔法少女って訳じゃないでしょう?」
「無論だ」
ごねる理由もない。むしろ実力をアピールできるちょうどいい機会だ。
「さて、それじゃあ手が空いてていい感じの子は……ミユは相手には向いてないし……」
「私がやろっか? 羽根たちよりは全然楽しめそうだし」
燦が羽根の中から対戦相手を見繕おうとして、その後ろから声がかかった。
先ほどから退屈そうに剣を弄んでいた双樹あやせは、いつの間にか私たちのすぐ側まで来ていた。
むふーっとしたような微笑みを浮かべながら、私のほうに誘うような視線を向けてくる様子は、やり合いたくて仕方がないと言わんばかりだ。
「……だそうだけど、どうする?」
「問題ない。むしろ彼女ぐらいの相手を求めていた」
幽界眼でざっと見たところ、ここにいる羽根の中で魔力量の高い魔法少女はほとんどいない。正直なところ、私とまともにやれそうなのは燦か観鳥ぐらいで、そこから抜きんでているのが双樹のみ。
このまま順当に適当な相手と組み合ったとしても、なんか物足りないとかで結局双樹とやらされそうな展開を察したので、だったら最初から彼女とやり合った方が良いだろう。
「おいおい
「あの新入りが双樹さんにタイマン挑むって?」
「どれだけ自信あるのよあの子、誰か止めてあげたら?」
「いいよ、どうせすぐに分からされるって」
ひそひそと羽根たちの声が聞こえる。おおかた私が双樹にあっさり負けるという絵面を思い描いているのだろう。ならばここは一つその予想を覆してみせようじゃないか。
「ッハ、何その武器。魔法少女が持っていいカタチじゃないでしょ、世界観間違えてない?」
「よく言われる。だが私に言わせれば、魔女を殺すにはこれぐらいの殺意があったほうがいいと思うのだよ」
「さあ? でもルカは気に入ったみたいだよ、私はスキくないけど」
黒羽根が遠巻きに見つめる中、燦だけが審判役として二人の近くに立つ。
「用意はいいわね? それじゃあ……始めなさい!」
合図が終わるのを待たずして、双方駆けだす。
槍の突撃と、袈裟懸けの斬撃の衝突。
剣と槍、重量で優るこちらが押し切る――前に双樹は自ら後ろに跳び下がる。
「やるね! だったらこれはどう?」
――アヴィーソ・デルスティオーネ
詠唱と共に射出される炎の矢を打ち払う。
その隙に距離を詰めて襲ってくる一撃は想定していたので即座に斬り返して迎撃。今度は後退することなく、双樹は舞うような動きで刃を振るい続ける。
様々な角度から襲ってくる斬撃を槍を細かく動かして防いでいく。
火花が散ると同時、鮮血機構がその悪辣な特性を発揮する。
「っ!?」
自分の身体に突き刺さる破片に気づいた双樹が、斬り上げと同時に炎を放ってこちらとの間に壁を作る。
そうして自分の露出した肩に突き刺さった矢じりを引き抜いて、双樹は顔を顰めた。
「痛った……こんなもの飛ばしてくるとか、ホントひどいねその武器」
でも、とニタリと笑って双樹は剣を構えて。
「こうすれば問題ないよね!」
――アヴィーソ・デルスティオーネ
――セコンダ・スタジオーネ
数を増した炎の矢が一斉に襲い掛かる。確かに遠距離攻撃を迎撃させる分には破片が飛び散ろうが関係ない。そして連射で押し切ろうというのは、どうしても動作が大振りになりがちな鮮血機構の弱点を見抜いたいい攻撃だ。
だが。
「こっちもそれぐらいは分かっている――!」
大きく後ろ手に振りかぶって槍を投擲する。
殲滅槍は炎の雨を突き破って双樹の下まで飛来し、彼女の足元に突き刺さる。
「おっと、危ない、ね!」
双樹は剣を振り下ろして足元からのダガーによる斬撃を迎え撃つ。
先ほどの投擲と同時に駆け出し、炎を掻い潜って距離を詰めたのだが、対処されたか。
「……意表を突いたと思ったが、防がれたか」
「槍ぶん投げてきたときはちょっとびっくりしたけど、お姉さまには全然及ばないね。あの人なら飛び道具に反応した瞬間に斬ってきてるよ」
「あれと比べないでくれ。少し見た程度だが彼女、相当な達人だろう。あんな凄まじい太刀筋、私も初めてみた――」
「そう! お姉さまの剣はとってもキレイなんだから!」
そう言って双樹は白いドレスの胸元を掴んで引っ張り……っておい!?
「ほら見てこの鮮やかで真っすぐな斬り傷の痕! 最初に私が襲った時にお姉さまに刻まれた傷跡がずっとトキメいて疼いて止まなくて――もぐっ!?」
自分の胸から腹にかけて刻まれた傷跡を見せびらかして恍惚の笑みを浮かべる双樹あやせだったが、即座に横から赤色の何かが彼女の口に巻き付き、物理的に口を閉ざした。
何事? と恐らくは血であろうその紅い糸の伸びる先を見ると、そこにはホテル入り口から歩いてくる二つの人影が。
「人前でそのような話をするなと、以前にも言ったと思うのですがね――あやせ」
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、緊急事態にございますお二人とも」
沙羅ウズメ、葛葉。
つい先ほど別れたばかりの彼女たちがこちらに向かってやって来た。
「お疲れ様です、ウズメ様」
「審判ご苦労でしたね神楽。ひとまず試合はここまでとしましょう」
「はっ、承知しました」
燦が敬礼を返し、その場にいた黒羽根たちも彼女の後ろに急いで整列する。
ウズメは自由にしていいと手で示してから、私に向けて口を開く。
「良い戦いぶりでした鶴喰さん。流石梓が見込んだだけのことはあります」
「見ていたのか」
「そこまでが今日の予定ですからね。本来なら結果を神楽から聞くだけでしたが……少しばかり予定が変わりました」
「予定……先ほど緊急事態と言っていたが、それか?」
「ええ。早速ですが仕事です」
取り出された神浜の地図の丸で囲まれた一区画をウズメは指さした。
「この辺り一帯の偵察を。特に人の出入りの痕跡などがあれば念入りに調べてください」
「わかったが……一体何を探れと?」
「それは当然、マギウスの偉業を掠め獲ろうとする賊をです」
○観鳥令
白羽根。広報部。パパラッチ。
広報も斥候も情報担当としてまとめられた。
○神楽燦
白羽根。第二部で初登場。
実力はすごいが、見た目が出オチ。
○さささささ
優木沙々。おりこマギカの悪役キャラ。
格上を従えるという本体がクソ雑魚なので割と無条件に通る洗脳魔法の使い手だったがナレ死(死んでない)。
洗脳→同系統のマスターであるみふゆに効かない。手駒の魔女→ウズメがズンバラリン。詰み。
今は地下でドッペルを出し入れさせて感情タービンを回してもらっている。