つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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なんとなく扉絵イメージというものをシーズン2の過去話に追加しています。
小話にすらならないシーンについて妄想を共有したい。

扉絵イメージ【夕焼け空。カラスの群れを従え、ビルの屋上で佇む夜鴉】


第五十話 フェザーズ・オブ・ディペンド・フェントホープ……④【想い想われ/お使い夢見譚】

ChapterⅦ【想い想われ】

 

 

 

「ぶへー」

「いつにも増してだらけてるねぇ」

「昨日は色々あったんですよぉ」

「そんなこと言って、いつもの寝不足じゃないの?」

 

 

 一夜明けて。

 

 結局あのまま疲れは取り切れず、昼休みになってもこうしてダウン状態。

 というかやっぱ眠いわ。寝落ち期待の掲示板漁りなんてやるもんじゃないわ。でもあの時間が一番楽しく感じちゃう時なくない……?

 

 

「疲れているなら、ここ空いてるわよ」

「それじゃあお言葉に甘えましてー」

 

 

 このはさんに誘われるまま膝の上にジャストイン。

 おぉ、これは……。

 

 

「あぁ……なんかいい感じに癒される……」

「最近はあやめもあまり来てくれなくて寂しいかったのよね」

 

 

 後頭部に当たる素晴らしい感触と眼前の景色にささくれた心が癒される。

 

 

「うーん、これは重症だね……」

「どっちの意味で言ってる?」

「両方だし、二人ともだよ」

 

 

 外野がなんか言っておるが無視じゃ無視。

 

 

「それにしても、つばめがここまでだらけるなんて何かあったのかしら」

「実は……昨日からつばめさんには私の頼みでちょっと動いてもらっていました」

「それってさ……この前のウワサってやつだったりするのかな?」

「でもあの飛び降り事件についてはもう解決したんだよね?」

「はい。ですが、どうやらこの街には他にも似たようなウワサがあると聞いたもので。であればそちらについても軽い探りを入れた方が良いかと思い……」

「えぇ~!? なんで言わなかったのさ、手伝ったのに!」

「だってあきらくん突っ込みすぎてドツボに嵌りそうなんで」

「そうですね」

「そ、そんなこと無いよ!」

「初対面。ソウルジェム」

「うぐっ……」

 

 

 例の事件(ソウルジェム紛失)を引き合いに出して黙らせる。

 あの時マジで肝冷やしたからね。変身後も手の甲とかいうふざけた位置についてるし、絶対別のところに移動させたほうが安全だと思うんだ。

 今度みたまさんに口添えして変身衣装を変えてもらおうかな。ついでにタキシードかもっとフリフリのドレスにとか、ふふ。

 

 

「まあ大丈夫ですよ。軽い探りを入れただけですし、既にやちよさんが調査に乗り出してたのでなんかあった時の備えとしてこっちも動いてるって感じですから」

 

 

 悪いが、この件について他のメンバーを関わらせるつもりは毛頭ない。

 もしマギウスの翼として皆と対峙する羽目になった場合は、正体が露見する前に適当にあしらうつもりだ。

 ちなみにこの中で正体バレする可能性があるとしたら葉月さんのスキャニングが一番危険だったり。ガワじゃなくて中身を見られたら一発アウトだもん。

 

 

「本当かなぁ?」

「ななかの頼みだからってあまり無理したら駄目だよ?」

「大丈夫ですってば」

「皆さん私をなんだと思っているんですか……」

「割と無茶振りする」

「つばめさん相手だと遠慮がない」

「趣味が渋めよね」

「ひどいです……」

 

 

 よくも悪くも愛されているななかちゃんであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――と、まあそんな感じで何とか潜入には成功しましたね」

「なるほど、ありがとうございました。つばめさん」

 

 

 そして時間が過ぎて放課後。

 

 参京院教育学院の空き教室。

 密談用に結界が張られたそこで、ななかちゃんへの別途報告を行う。

 

 

「マギウスの翼……例のドッペルという現象は彼女たちによるものでしたか。しかしウワサによる人々からのエネルギーの回収と魔法少女の解放とは、こちらの想像を超えてきましたね」

「ちなみにななかちゃん的にはどうなんです?」

「今はまだ、情報を聞いただけでは敵と判断できませんね。ですが真っ当な組織というわけでもないでしょうし、それにその()()()()()とやらについても謎が多い。どちらにもなる、というよりは積極的に関わらなければ敵にはならない、程度のものでしょうね」

 

 

 トップシークレットであるイヴについてはぼかした表現で伝えた。ウズメさんのあの念の入り様、下手に漏らしたら口を封じに来るという確信があったからだ。

 

 

「ひとまずつばめさんには引き続き、組織内で情報を集めていただければと。苦労を重ねることになりますが、お願いします」

「了解。ああでも、そうなると皆さんとの活動がちょっと減っちゃうのどう言い訳しましょうか」

「そこは私がうまく言っておきますよ。あなたを危険地帯に向かわせているのです。これぐらいはしませんと」

「そんな気にしなくても……そもそも私から言い出したことですしー」

「それでも、最終的に決定したのは私です。……どうかお一人で抱え込まないように。危ない事態になったら、すぐにこちら側に逃げてきてください」

「ご心配なさらず。これでも引き際を見るのは得意なんですってば」

「え?」

「なんでななかちゃんまでそんな反応を……?」

 

 

 おかしいなぁ。死ににくさには定評のある私だと思うんですがね。

 

 

「やっぱりあれですよね。つばめさんご自分の耐久性に任せてガンガン突っ込んでいきますよね。あきらさんの事言えませんよ」

「わあしんらつー」

 

 

 まあ心配してくれるならそれはそれで嬉しいからいいか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

ChapterⅧ【お使い夢見譚】

 

 

 

 そうして。

 マギウスの翼の斥候として活動を始めてから一週間ほど経った頃。

 

 

 神浜の市街地を使い魔に巡回させつつ、暇をつぶしていた私の下へ唐突に念話が届いた。

 

 

『……こちら鶴喰』

『どうも、鶴喰さん。私です』

『ウズメ殿か。一体何があった?』

『ええ。少々困りごとが』

 

 

 ウズメさんは要件を告げた。

 曰く、聖リリアンナ学園でウワサの起動が確認されたとのこと。

 それだけなら特に問題はないが、なんともタイミングの悪いことに、みふゆさんからお使いでやってきた黒羽根の子が、灯花の開発した転移装置の実験とやらで転移された直後の話だったという。

 

 

『なんでまたそんなものを』

『葛葉の土遁法術に対抗意識を燃やしたらしいです。勤勉なのはよろしいことですが、その成果が及ぼすところを考慮しないのは悪癖です。灯花さまは私のほうで言い聞かせ(お尻叩きの刑)ますので、鶴喰さんはその黒羽根――牧野さんがウワサに巻き込まれていないかの確認を頼みたいのです』

『承知した。ウワサに巻き込まれていた場合は?』

『その場合はウワサへ侵入して救出を。場合によってはそのままウワサも解決して結構ですので』

『……良いのか?』

『ええ。できれば正攻法で抜けてくれるならエネルギーの回収もできて両得ですが、流石に皮算用ですね。とにかくよろしく頼みましたよ』

 

 

「とはいったものの、行ったことないんだよなぁ……」

 

 

 ひとまず地図を頼りに聖リリアンナへ向かう。

 屋根伝いに向かったのも相まって迷うことなくたどり着くと、まずその校舎に面食らった。

 広大な敷地。巨大な塀。細部まで凝らされた城のような意匠。

 流石はお嬢様学校。参京院は仏教系として寺院のような校門と旧校舎が売りだが、流石にここと比べると見劣りしてしまう。

 

 

「さて、どうなっているんだか……」

 

 

 まずは壁を登って敷地内に侵入。

 

 そのまま内部へ……と行きたいところだったが天井からぶら下がるものを見つけて踏みとどまる。

 やはりお嬢様学校というだけあってセキュリティも相応に高い。廊下の角や交差点には必ずと言っていいほど監視カメラが備えられている。あの半球形かつシャープな見た目は、ビクトリーアームズの最新型だ。CMで流れているのを散々見たので意識せずとも覚えている。

 

 うーん、面倒だな。ここはやはり上から探ろう。

 

 屋根へと飛び上がり、そこから全体を見下ろしながら翼のペンダントを翳してウワサの範囲を探る。

 このペンダントもまたウワサによる産物であり、同じ創造主である柊ねむの魔力から生まれたウワサの結界に対してはある種の通行証として機能するとのこと。

 だったら例の黒羽根も自力で出られるんじゃないかと思うのだが、どうやらウワサの条件を満たして引きずり込まれた場合はそちらの方が強制力で上回るので無理だと言われた。

 

 

「……あった」

 

 

 いくつか見える魂のうち、中庭の辺りに魔法少女の色が付いた光があった。

 目を凝らしてみると、噴水広場の植え込みに隠れるようにして黒いローブの端っこが覗いていた。

 

 

「見つけた。おーい、大丈夫かな?」

 

 

 近づいてその姿を起こしてみると、どうやら眠っているらしい。

 揺すっても目覚める気配はない。

 おもむろにペンダントを出してみると、強い魔力の反応があった。

 

 

「……はぁ」

 

 

 悪い予感的中。

 どうにもウワサ案件に巻き込まれているらしい。

 事前に言われた通りにペンダントに魔力を込めて掲げる。

 すると光を放った後、中庭にいた自分は校舎の中へと転移していた。

 

 

「わあっ!?」

「だ、誰っ!?」

「また黒いローブの人が出てきました……」

 

 

 辺りを確認しようと視線を動かしたところ、こちらを見て驚く三つの人物が。

 リリアンナ制服。水名制服。そしてメイド服。

 

 

「……なぜメイド?」

「えっ!? あっ、えっとこの姿にはちょっとした訳があって……」

「あのう……もしかしてこの方もまた何か登場人物の役があったり……?」

「え? でも仲間は二人だし、他にもこんなキャラクターはいなかった筈だけど……?」

「あっ! 違うよ二人とも。この人は多分私と同じの――」

 

 

 制服姿の二人がこちらを見て困惑しはじめる。

 だが媚びに媚びたようなメイド服の少女(というには若干大人びている)が私の姿に思い至ったらしい。

 ということは。

 

 

「ふむ、お前が牧野という黒羽根か?」

「はっ、はい! あなたは夜鴉さん、でいいんだよね……?」

「そうだ。ウズメ殿の依頼でお前を拾いに来た」

「よ、よかった~。二人とも、この人は私と同じ組織の人だから大丈夫だよ」

 

 

 牧野さんがそう紹介したことで、二人も落ち着きを取り戻したらしい。

 

 

「では改めて。私は鶴喰夜鴉。そちらと同じマギウスの翼の黒羽根だ」

「あっ、どうも。水名女学園高等部1年生、七瀬ゆきかと申します」

「入名クシュ。リリアンナの中等部3年」

 

 

 金髪のほうがゆきかさんで、銀髪の子がクシュちゃんね。

 

 

「……なに?」

「良い……」

 

 

 絹のような銀髪。陶磁のように白い肌。そしてルビーみたいに輝く赤い瞳。

 日本人離れした風貌は、しかしながら親しみを持てる愛嬌を含んでいた。

 そんなすべての要素が完璧な顔を眺めていると、こてん、とクシュちゃんが小首を傾げる。

 

 うーん。ドチャクソかわゆい。

 プライベートだったらとにかく可愛がってやりたい。

 一緒に遊んで、喫茶店でスイーツとか奢って、お洒落な服とかも着てもらって、場合によっては趣味を布教したりして……。

 

 だが今の私はマギウスの翼の鶴喰夜鴉。

 そんな欲望とは無関係であらねばならない……。

 

 

「むへへ……」

「顔が隠れて分からないけど、多分変な笑み浮かべてるよねあれ」

「あの人っていつもああなんですか?」

「私も知らないかなぁ。あの人とは所属が違うから、ちゃんと話したのこれで初めてだし」

「そうなんですね……もしかしてローブのデザインが違うのはそういうことですか?」

「いや、これは自前だ」

「自前なんですね……」

「なんだその微妙そうな顔は」

「いやあの……あまりにも魔法少女らしくないと言いますか……」

 

 

 やり込んだゲーム*1の装備を参考にして作ったけど、どうにも受けが悪い。

 うう、今なら塁ちゃんの気持ちが痛いほどに分かるぜ。

 

 

「そう? 私はカッコいいと思うよ……?」

「そうか。わかってくれるか」

 

 

 クシュちゃんからは同志の気配を感じる。

 今度プライベートで会えないかな。布教したい。

 

 

「……あの、夜鴉さんは私を助けに来たんだよね?」

「おっと、その通りだ。お前が飛ばされた近くでウワサが起動したとウズメ殿から連絡があったからな。こうして解決にきた」

「よかったぁ……」

「えーと、つまり、この夢から出られるってことですか?」

「まあそういうことになる。だがその前に状況を確認したい。例えば、このウワサはどういうものなのかとか分かるか?」

「うん。それは、ユメミカガミっていうウワサで……」

 

 

 少女説明中・・・

 

 

「――っていう内容で、今は二人が私を主役にした試練の仲間として巻き込まれてるって感じかな……」

 

 

 ふむふむ。

 夢の中で心を試す試練を課すウワサ、ね。

 

 

「わかった。つまり連れ出すのは無理だな」

「えぇっ、どうしてですか!?」

「登場人物を引きずりおろしたら話が成立しなくなる。当然試練も破綻してしまうわけだ」

「そっか、試練を途中で止めたらウワサの内容に反することになるよね……」

 

 

 ウワサは強力な反面、その内容に行動を縛られる。

 ゆえに取り込まれた人間がウワサに反した行動を取っていると自己矛盾を引き起こすため、防衛機能として該当者を排除にかかると聞いている。

 空飛び姫の時は意識を保ったまま踏み込んだのがそれに当てはまり、今回の場合は試練から逃げ出すのがそれに該当するだろうという予測を立てた。

 

 ゆえにこのまま試練とやらをクリアする。

 それが最も安全な脱出方法になるだろう。

 

 

「ならば私も手伝おう。もし武力が必要になるなら、そこそこやれるほうだと自負している」

「双樹さんとタメ張れる人がなんか言ってる」

「あれ、でもお話にいない人が仲間に加わったらそれはそれで内容に違反してしまうのでは……?」

「あっ」

 

 

 やっべ、そういう解釈もできるのか。

 これどうしよう。流石に放置して戻りましたじゃ不味いしな……。

 あ、そうだ。

 

 

「ク……入名さんよ、この試練は君が好んだ物語を再現していると言ったな」

「うん。でも続きについては私が想像していたところがあるからそこについても入っているかも……」

「そこだ。大事なのは君の解釈、つまりその部分においてある程度融通が利くと見た」

「というと?」

「なんかいい感じに仲間に加えたい新キャラとか、想像したことない?」

「――へ?」

「あぁ、二次創作かぁ……」

 

 

 牧野さんが納得したような声をあげる。

 やっぱりこの人自前でメイド服着てるだけあってそっち方面の理解が高いな。

 

 

「幽霊が入っているなら死神とかオッケーじゃない?」

「……特技は?」

「飛び上がって上空から串刺しにするのが得意だ」

「うん。良いよ。私と被らないし、カッコいいと思う」

「よろしい、これにて理論武装完了だ」

 

 

 ▶つるばみヨアがなかまにくわわった!

 

 

「ここからは私も同行しよう。いつ出発する?」

「つ……鶴喰院!」

「なんだか急にアクセル踏み始めましたね……」

「ミステリアスだと思ってたけど、こんなに愉快な人だったんだなぁ……」

「流石に仕事の時は羽根としての振る舞いを使い分けているに決まってるだろう」

 

 

 クールなアサシンスタイルを演じ続けるのは趣味だけどその分妥協できないので疲れる。

 

 

「……そうですよね。牧野さんだって似たような感じでしたし」

「え~!? くみと同じにされるのはなんだかショック~!」

 

 

 なんだそのわざとらしいぶりっ子は。

 もっとちゃんとしたメイドを見習え。ウズメさんとか。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 私という仲間を加えて、ウワサ攻略を再開することとなったクシュちゃんご一行。

 向かった先は幻灯機を探すという元の童話に従い、似通ったプロジェクターの存在する視聴覚室。

 そこでクシュちゃんがプロジェクターのスイッチを押すと、スクリーンに映し出されるようにして主役である彼女の過去を垣間見た。

 

 姉と慕っていた魔法少女――アネカに憧れ、自分も魔法少女の契約を結んだ。

 そして彼女から祝いの贈り物としてシュシュを貰った。

 そして、クシュちゃんはアネカを姉と呼ぼうとした時、アネカはとても複雑そうな顔をしながら優しく断った。

 

 

 ……短い記憶だったが、それが入名クシュの原点であることは確か。

 その証拠として、彼女が持っていた思い出のシュシュに光が蓄積されていった。

 

 

「『夢を信じられる人だけが魔法少女になれる』かぁ~」

 

 

 記憶の中のアネカの言葉に感じ入ったのか、牧野さんも自分が友人と夢を追いかけていると明かした。

 対照的にゆきかさんのほうは、そもそもキュゥべえとの出会い自体が夢だと思って契約してしまったという。

 

 

「クシュちゃんもいつも眠そうなキャラっぽいし、最初の三人は夢繋がりって感じがするよね~」

「私のはただの寝不足かも……」

「そうなの?」

 

 

 どうやらキュゥべえへの願いの結果、朝日が昇ると同時に眠りに落ちる体質になってしまったらしい。

 そして夕方から目が醒め、夜中は眼が冴えているという。

 しかも願いの産物ということもあってか、寝る時間をずらして矯正するなどの修正も受け付けず、まるで呪いのように固定されているらしい。

 

 

「真性の夜行性、って感じですね」

「親に見つからないように魔女の粛清に行くのも大変だし、朝日になるまでに家に戻らないと外で倒れちゃうし……」

 

 

 日中と呼べる時間が朝の6時からだとし、夕方の補習が5時前後とする。そこから夜半から日の出までの12時間がクシュちゃんの活動時間。

 魔法少女の活動は基本的に夕方から行われるわけで、クシュちゃんの場合は日常生活も含めての夜中になるから自由に使える時間はほとんどないようなもの……。しかも家族がそこに合わせられるわけじゃないから家事やら何やらまでズレが発生していると。

 完全に実生活に支障を来たしているじゃないか。やっぱ駄目だなあの害獣。

 

 ……というか、今の言葉の中に若干聞き逃せない表現があったね。

 

 

「クシュちゃん……もしかして魔女を狩ることを粛清って言ってるの?」

「……え、何か変?」

「変と言いますか……その言葉を積極的に使う人たちはその……」

「もしや君、粛清機関の関係者か?」

「直球!?」

 

 

 そうなるとクッソまずいことになるんだよなぁ。

 マギウスの翼についてこんなところで粛清機関に露呈するとかどう報告せいっちゅうねん。

 

 

『ちょっと、そんなストレートに聞いちゃっていいの!?』

『どの道ウワサに巻き込んでいる時点でアウトだよ』

 

 

 

「ううん。私は最後の異端審問官であり悪霊たちを粛清するエクソシスト。……って設定でやってるだけだから、神父さんみたいにお仕事で魔女を粛清してる人と一緒にしたら失礼だよ」

「わぁ、予想以上にしっかりした答えが出てきた」

「では神父さん達とは関係なくあんな言動を……?」

「まあ……そういう年頃もある」

 

 

 この前の塁ちゃん(中二病)*2もだけど、魔法少女ってなりたい自分の具現化みたいなところあるし、そうやってはしゃげるうちははしゃいでいいと思うんですよ。

 

 

「……もしかしてこれって、内緒にしておいた方が良い?」

「ウワサの件も含めて、正直見なかったことにしてもらいたいぐらいだな。私たちと共に来ると言うのならありがたいが……」

「それはちょっと、無理かも」

「だよなぁ……」

 

 

 こんな黒ずくめの怪しい組織、どう見ても悪役だ。実態も割と悪の秘密結社だし、よく知らずに入りたがるようなもの好きはまずいない。

 

 

「……ごめん、お腹すいたからおやつ食べるね」

「この流れで?」

 

 

 なんだこのマイペース。大物か?

 そうして徐に取り出されたタッパーから顔を覗かせたのは、小さく丸々とした真っ赤な果実。

 

 

「ミニトマト……?」

「うん。食べる?」

「いや、いい」

 

 

 嫌いじゃないけど、生のミニトマトは葉野菜と一緒じゃないと食えないんだわ。

 クシュちゃんは小さな口を開けてぱくっと一口。この仕草だけで可愛い。

 しかも八重歯じゃん。まだ可愛いポイントを積み重ねていくの犯罪か? でも許す。

 

 そうしてしばらくほっこりした後、次の試練の場所を探して再び廊下を歩いていく。

 窓の外からは斜陽が差し込み、清潔感溢れるタイル張りをオレンジ色に眩しく染め上げている。

 

 

「ちょっと気になるんだけどぉ……ずっと夕方が続いてない?」

 

 

 沈黙に耐えかねたのか、牧野さんがそんなことを尋ねる。

 彼女の言う通り、このウワサに入ってからそこそこの時間が経っているのに、未だに空は茜色のまま。この時間帯に顕著な光の角度が変わっているといったこともなく、ずっと夕方のままで固定されている。

 

 

「夢の中だから……?」

「目が醒めたら全く時間が進んでいないかもしれませんね」

「文字通り泡沫の夢、ということか」

「だといいなぁ……くみ、お店を中抜けしているから早く戻らないと怒られちゃう~!」

「それに我々は不法侵入者だしな。一応は隠したが、それでも見つかる可能性は低くない」

「ふえっ!? それはマズいよ~!」

「私も側にいたから一蓮托生だ。いざとなれば無理やり逃げればいい」

 

 

 外に取り残された鴉たちとのリンクも途切れているし、恐らく夢の中というのは確かだろう。

 元から発見次第抱えてピックアップする予定だったので、大して心配には思っていない。

 

 

「試練を乗り越えれば過去をやり直せるってことでしたけど、本の内容通りに記憶を集めるのが試練なんでしょうか?」

「だと思うよっ?」

「心を試されている感じはあんまりしないけど……」

「むしろここからという可能性もあるな。この手の奴は、最後の最後で外してくるのもお決まりだ。まあ、この調子だとそこまで身構える必要もないかもしれんがな。ははは」

「それっていわゆるフラグってやつなのでは……?」

「もうっ、不安になること言わないでっ!」

 

 

(まぁ、こういうのは粗方想像がつくものだが)

 

 

 このまま各所を巡って記憶を集めれば試練はクリア? 

 "心を試す試練"などと掲げられているものがそんな生ぬるいわけがあるまい。

 三人は入場料がプライスレスであることが何を意味するのかということで話し合っているが、ここまでの情報を整理すればなんとなくだが意味は分かる。

 

 思うに、記憶を集めるというのは()()だ。

 記憶の底に眠っている過去を捧げ、それを自らの手で掘り起こして見つめ直す。

 それこそが試練であり、それを乗り越えられれば過去をやり直す機会が与えられる。

 

 だがここで大事なのは心を試すこと。

 決して自分の過去を見つめ直すことはではない。

 

 そしてこの手の展開において、主人公となったものが直面するものは相場が決まっている。

 

 だからきっと、試練の内容というのは恐らく。

 

 

(やり直したい過去、そのものなんだろうな……)

 

 

 この試練を続けた先に待ち受けているものはきっと。

 自分の手で一番の傷口を開くという、最も残酷な行いだ。

*1
死に覚えゲーのアトモスフィアが漂っている

*2
言うまでもなくつばめもどっこいどっこいである




○入名クシュ
 粛清少女。キュゥべえブチ頃勢。
 作者の推し。
 本作の設定とコンフリクトしかけた魔法少女の一人。

○琴織つばめ
 みかげにも同じ反応をする。
 文学少女なのでウワサの文脈からメタ読みを始めてくる。
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