扉絵イメージ【灯花を折檻するウズメ。それを笑いを堪えながら眺めるねむとアリナ
「うにゃっ、うにゃっ、にゃぁぁぁぁ! ごめんなさーい!」「謝るのは私ではなく牧野さんにです」「むふっ……ざまあないね」「調子乗り過ぎたワケ」】
ChapterⅧ【さよならのおとぎ話】
さてさて。
過去を覗いたり勧誘したりと若干余計な話で時間を消費したかもしれないが。
ひとまず次の記憶を集めるために今度は城へと向かった私たち。
見るからにそうだろうって感じに城っぽい校舎の前でクシュちゃんがユメミカガミを覗き込むと、周囲の景色が一変した。
荒野と彼方にそびえる城。暗く闇に沈んだ空には不気味なほどに巨大な満月が薄赤く輝く。
雑に言えば魔王でもいそうな雰囲気の場所。おとぎ話の終盤にはよくある光景だ。
それこそが冒険の終わり。
入名クシュが思い描いた"すぎさりし夢"の風景であり、彼女の心の底に焼き付いた荒れ果てた死の世界であった。
(しかしまあ、なんとも……)
少女が抱くには寂しい世界だ。
牧野さんとゆきかさんも似たようなことを考えているのだろう。この世界の様相に対して少なからず表情を曇らせている。
この肌を苛む冷気も、命の気配が失せた荒野も。おおよそ人が長くいれば精神を病むことは間違いない。
だが、私はこの場所に奇妙な心地よさや親近感のようなものをを覚えていた。
それは私が死者に近い存在として、無意識的にホームのように思っているのか。
……あるいは、死した後に向かう先があることに安堵しているのか。
いずれにせよ、ここが死者と再び顔を合わせることの適う場所であることに間違いはないらしい。
なぜかと言えば、
「アネカお姉さん」
「……ここは、どこなの? きみは私を知っているの?」
彼女を記憶にいたアネカという魔法少女。魔女となってクシュちゃんに討たれて消えたはずの少女が今まさに目の前に立っていることが何よりもの証明だからだ。
(……とはいえ。そっくりそのままというわけでもないらしい)
幽界眼を通して伝わる情報は、無慈悲なほどに事実を伝えていた。
目の前のアネカは正真正銘の本人ではない。
魂魄は人のものだが、その大部分は欠落している。急いでガワだけを取り繕ったような、出来損ないの張りぼて。
おそらく入名クシュの記憶を読み取り、さらには彼女のソウルジェムに残っていたグリーフシードの残滓から強引に再生したような存在……というのが一番腑に落ちる結論だろう。
いかにウワサといえども、魔法少女の願いに匹敵する事象を引き起こせるほど強力というわけでもないらしい。
最も、私はこの事についてわざわざ口に出すつもりもない。
クシュちゃんもまさか死者そのものと対話できると期待していたわけではないだろうし、仮初であっても当人の姿に対して何かしらを告げられたならそれで満足できるはず。
だからウワサについてはこれで終わり……。
――なんていうのは全くもって甘い考えであった。
シュシュの中の記憶を頼りに復元されたアネカの過去。そこには彼女が魔法少女になった経緯だけでなく、入名クシュとの出会いが……死の真相が隠されていた。
病でこの世を去った妹の代わりとして、アネカはキュゥべえに友を願った。妹に似た年下の、童話が好きな女の子を。
その願いは正しく叶えられることとなり、間もなくしてアネカの隣には日本から親子が引っ越してくることとなった。
それが入名クシュ。
アネカという魔法少女の物語の、妹の代役だった。
後の結末は知っての通り。
アネカに憧れたクシュちゃんが彼女の後を追って魔法少女となってから、アネカはソウルジェムの秘密を知った。そして極めて残酷な運命を背負わせたことを悔やんだアネカはそのまま魂を濁らせて魔女となり、それをクシュちゃんが討った。魔法少女にはまったく珍しくもない、自分の願いに裏切られるというありふれた最後だった。
その事実を知ったアネカはまた自責の念に駆られ、再びクシュの前から姿を消した。
――以上が、事を静観していた間に起こった出来事だった。
これだから魔法少女というものの運命はくそったれなのだ。
少女が願いを叶えたことで歪んだ因果は誰かの運命に関わり、巡り巡ってまた別の少女が願いを抱いて魔法少女の運命へ身を投じる。その繰り返し。
延々と続く因果の連鎖によって、少女たちの魂は尊厳を宇宙の延命という名目で、異星の家畜として摘まれ続けている。
「バカみたいだよね……魔法少女になっておとぎ話の主人公みたいだなんて浮かれて……私なんて、ただの代役なのに」
自分が所詮キュゥべえの仕組んだピエロでしかなかったのだと打ちひしがれるクシュちゃん。
そこに牧野さんの一喝が飛んだ。
代役なんかじゃない。誰もが自分が主人公としての物語を生きている。
その激励は側で聞いて居ただけの私の心にも響くものがあった。
「そうだな。例え出会いが仕組まれたものであっても、そこから育んだ絆は紛れもない本物。事実、アネカは君を入名クシュとして向き合ったからこそ、決して君を責めることなく自分が押し付けた希望と絶望のすべてを背負い込んだ。結果として、出会いをやり直した結果は以前の焼き増しだったわけだが……君はこんな結末で納得するのか?」
「いいわけない……私たちの試練はまだ終わってない!」
挑発じみた問いを投げてみれば、クシュちゃんは意気揚々と立ち上がった。
「決まりだな」
「お願い、みんな力を貸して……!」
「はいっ、村人Aとして精一杯頑張ります!」
「ゆきかちゃん剣士役のはずだよねっ!?」
そのモブ主張一体何なん?
「……でも、アネカさんを取り戻すにはどうすればいいかな?」
「試練の内容は入名さんがイメージしていたお話の通りに進めることなんですから、主人公である入名さんが決めちゃっていいんじゃないですか?」
「そっか。ええと、お姫様を取り戻すんだからお城の地下で……」
「そのイベントさっきやったよね?」
そう言ってゆきかさんがクシュちゃんの背中を押すも、どうもクシュちゃんの展開が固まっていない様子。
……う~ん、やっぱり言った方が良いかなこれ。
なんかそういう感じで進めていきそうだけど、それはそれとして頭にこのぐるぐると考えがこびりついているわけで。でもそんな私の事情は放っておくべきだというか。
うん。一度状況を整理したいし、話してみるか。
「その事なのだが、これは本当にそうといえるのか?」
「え?」
「試練についてだ。我々はそういうものとして流れで進んできたわけだが、実際のところ試練の内容が入名殿の想像した筋書きに沿っていると決まったわけじゃないのだろう?」
途中参加の自分が言うのもなんだという話だが、これがクシュちゃんの夢であるというウワサの内容と、そこから二人に出逢うまでの流れが自分の想像した童話の内容をなぞっているように見えたことでそういうものだと結論づいていただけ。
最も、それ以外の推理材料なんて見つかる訳もなく、ここまで実際にクシュちゃんの言う通りに進んできたのでこれで試練の終わりだと勘違いしたのも無理はないけど。
「え? でも今までの道筋は確かに……」
「それは飽くまで君の記憶を辿る道筋として君の心を辿っていただけだ。ぶっちゃけ、今までの中で試練なんて言えるほどのものはあったか?」
薄々思っていたが空気を読んで黙っていたことを告げると、三人とも引っかかるものがあったのか首を傾げた。
「そう言われると……ただ学校の中歩きまわってただけだよね、私たち」
「完全にそういうものだって思いこんで進めていましたよね……」
「私も正直、話の腰を折ってぐだぐだになるだろうから黙っていたしな。だがこうも違和感が重なっては流石に無視できん」
「違和感?」
「そもそもの話、これは"心"の試練だという前触れだからな。故に心を試すものが試練として立ちふさがらないほうがおかしいんだ」
「じゃあ、これも試練?」
「というよりここからが試練だな。過去の過ちを見つめ直し、やり直したい出会いを相手のほうから遠ざけさせ、それでもなおその手を握り直せるのかを試す――中々童話らしい話だ。過去のスタンプラリーなんかよりもよっぽど主人公らしいと思わない?」
「ということは、試練はまだ……!」
「ああ。そして次にどこへ向かうかだが。ま、それはさっき言ったように入名殿が望むままに進めばいいはずだ」
「うん。多分あのお城。そこに行ってアネカさんを取り戻す……!」
そうしてクシュちゃんは意気込みも兼ねて変身して剣を翳した。
うわ~ゴスロリ騎士服だめっちゃ可愛い~! そのベルトが大量に巻き付いた厨二スタイル好き~!
そうして決意を新たにしたところで、周囲に暗霧が立ち込める。
「通さない……!」
声が響き、私たちを完全に取り囲んだ霧から次々と暗い影が出現した。
「これは……」
「入名クシュの試練は失敗に終わった……」
「夢から出ることは永遠に許されない……!」
影はクシュちゃんの形を取りながら次々にこちらの想いを否定してくる。
随分とまあ直接的な妨害だこと。試練が失敗なら何をしても無駄で、そのまま夢の中を延々と彷徨わせればいいものを、わざわざ立ちふさがりにくるなんてそこにゴールがありますと言ってるようなものだ。
「……などと言っているが、どうする?」
「そんなのもちろん――」
「押し通る!」
クシュちゃんは強い踏み込みからの加速によってその二振りの剣を振るう。
その初加速は凄まじく、目で追うのもやっとな速度ですれ違い様に早速影が一体斬り捨てられた。
これは強い。あれだけのグリーフシードを一人で集めたって言うだけのことはある。
「じゃ、私も仕事をしなければな」
「うわ、なんですかその物騒な武器!?」
「みんな驚くよねアレ……」
「カッコイイ……!」
「クシュちゃん!?」
鮮血機構を構えて重量に任せた突進によって、影をガードしようとした剣ごと粉砕する。
一瞬で爆ぜ飛んだ影の残滓を払い、そのまま次の影を横払いで吹き飛ばす。
「私も負けてられません……せいっ!」
「もうっ、みんな楽そうに倒しちゃって! くみは大変なんだからねっ!!」
バニーガールとカジノディーラーを混ぜた衣装のゆきかさんがレイピアによる刺突で影のガードをこじ開けて貫き、牧野さんはモップでおっかなびっくり応戦している。というかあなた素の服も変身衣装もメイドなの……?
「意味がないと言っている……!」
影が呻き、霧が消えるとそこは元の校舎の廊下。
ではなく、そのメッキが剝がれかけたウワサの結界が姿を現した。
「ふえぇぇ!? 学校に戻されちゃった!?」
「注意を反らすなっ!」
驚きで動きが硬直した牧野さんに影が襲ってくる。
「ふえっ……? ひゃわっ!!」
振り下ろされた剣をモップの槍で辛うじて受け止める牧野さん。だが力比べで負けているのか徐々に押し込まれている。
助太刀に入ろうと動いた刹那、視界を残像が横切った。
「やぁあぁぁーーっ!!」
流れるような動きで刃が滑り、影を切り裂いた。
散っていく影の中から漏れ出た魔力が剣を伝ってクシュちゃんの中へと吸い込まれていった。
「ほう。魔力の吸収か」
「うん……私の魔法ちょっとだけ便利」
そのちょっとでも回復できる時点でかなり強いと思うんだが。
というか色白赤目でその衣装といい魔法といい、結構吸血鬼な見た目だよね。怪異狩りの吸血騎士……これは中々外連味あってすこすこですよ。
それはともかく。さっきクシュちゃんが倒したので一旦打ち切りらしく、ウワサの結界は元の廊下へと姿が戻っていた。
「うわさの結界が解けたよ!?」
「夢から覚めたってこと?」
「えぇっ、それじゃあ試練はどうなるんですか!?」
「いや、まだ夢の中だぞこれ」
言うわけにはいかないけど、ぶっちゃけ先の道が見えてるんだなあこれが。
「うん。人の気配が全くない。それにほら、ユメミカガミもまだある」
「じゃあそれもさっきみたいに景色を映して見れば……」
「うん。きっとお城に戻るための道が見えるはず……!」
そうやって偽装は暴かれ、ウワサの結界特有の薄暗い闇が広がる道の先から一条の光が差し込んでいる。
「あの光に飛び込めばさっきのお城に戻れるかも……!」
「行かせない……」
またまた出現する偽物たち。
だが最早この程度で足止めされるつもりもない。
「いいだろう、往くが良い。ここは我々が請け負った」
「うん!」
偽物の中に突っ込んで注意を惹きつけ、その隙にクシュちゃんが駆け抜けていく。
「さて、お二人とも。まだ戦えるか?」
「大丈夫ですっ。入名さんがあの光にたどり着くまで、負けられませんねっ」
「うん。くみだって訓練受けてるんだから、ちゃんと戦えるんだよ!」
「その意義だ」
豪快に槍を振り回し、口上をひとつ。
「……さあ、我らは魔法少女。押し売りの希望を嗤い飛ばし、押し付けられた絶望を踏み倒す者ぞ! この程度、物の数ではない!!」
うん。中々良い感じに決まったんじゃないかな。
「……あっ、影が消えていきますね」
「クシュちゃんが光のほうに飛び込んでいったからかな?」
え……。
「……」
「あの、鶴喰さん?」
「バリバリに気合い入れて言ったのに、完全に滑っちゃったね……」
「うるさいぶりっ子」
「ひどい!?」
まあいい。
とにかく、これで私たち脇役の仕事は終わり。
この夢の結末がどうなるかは、主人公次第である。
「……ところで、クシュちゃんはアネカちゃんをどうするつもりなのかなぁ?」
「へっ……? それはやっぱり夢から連れ出すためなのでは……?」
「でも、全部の記憶が戻ったアネカちゃんともう一度会いたいっていうのは本当にクシュちゃんの望みなのかなぁって。永遠の眠りについた人をお墓から呼び起こす、それはとっても怖いことだって思うの」
「………………そうだな」
死というのは喪失であると同時に私たち生命が必ず迎えるゴールでもある。
それは避けられないこと、否、避けてはならないことだ。だからこそ人間は死者という存在を丁重に扱い、蘇りや不死というものを奇跡であると同時に禁忌として扱う。
だからそれを強引に歪めた者、そうなった者の結末は、往々にして真っ当なものではない。死者を連れ戻そうとして叶わなかった黄泉戸喫やオルフェウスのように。あるいは不死という名の呪いに苦しんだケイローンやアシュヴァッターマンのように。
……この私だって、いずれはそうなるだろう。我らが父祖のように生と死の狭間に溶けて狂い果てた怪人となるか、あるいは死の世界にて歪な生を続ける死にぞこないになり果てるのか。
それはまだ、わからない。
「死者に関わること自体、ろくなものじゃないよ。ほんと」
……でも。
私の大切な友人たちが生を全うできるまで、私は人としてありたい。
◇
ChapterⅨ【そしてまた羽根が集う】
「それでは後のことはよろしく頼みますね、月夜、月咲」
「了解しました!」
「では七瀬さん、ついてきてください」
「はっ、はい……(明槻センパイが二人……?)」
「……では、私もこれで失礼する」
「ええ。ご苦労でしたね鶴喰。次も期待していますよ」
ホテルフェントホープ。
新たな羽根となる魔法少女を見送ったウズメは、24畳の客間でただ一人息をついた。
「やれやれ。彼女も中々働き者ですね」
ウワサの解決と羽根の救助完了の報告が入ったのは約一時間前。
そこからさらに新しい羽根志望の魔法少女を連れてくると言う連絡を受け、尻を腫らしてぐずる醜態を
そう考えながらも、ウズメは想定以上の成果をもたらした鶴喰に感心した。
彼女が連れてきた七瀬ゆきかという魔法少女は報告の通り中々の素養がありそうだ。特に細剣を扱うというのが良い。
ウズメは武芸百般、変幻自在の魔法を操るだけあってあらゆる種類の武器の心得を修めてはいるが、やはり本領は刀剣。こればかりは生来の気質だろう。物心ついた時より叩き込まれた剣の術理こそが彼女の骨子である。
しかしそれと同時に懸念も一つ。
「……とはいえ、いささか増えすぎましたか」
正直なところ、組織の肥大速度はウズメの予想を上回っていた。
それだけ多くの魔法少女が解放を望んでいるという証拠でもあるのだが、同時に魔法少女たちの統率にある程度の支障をきたしているのもまた目の背けようもない事実である。
端的に言えば手が回らなくなってきている。
例えば魔女との戦いで羽根が負傷し、離脱もままならなくなったとする。その場合に出撃するのは白羽根よりも上の者だ。
ウズメ、双樹、みふゆ。単独でも十分に戦える者が羽根の救援に向かってはいるものの、有事の際に対応できる人材は中々増えてくれない。最近は鶴喰も加わったが、彼女の本領は斥候だ。
ウワサを嗅ぎまわり始めた七海やちよ。不自然なほどに強くなり始めている魔女。先週から報告に上がり始めた神出鬼没に現れては魔女を屠って去る銀色の騎兵。
組織を取り巻く不穏な要素は常々増え続けており、これらの問題に対処するためにも組織全体としての力を増やさなくてはならない。
ゆえに一番手っ取り早く解決する方法は、羽根の質を上げること。
雑兵は数の暴力で押してこそ意味がある。敵対勢力などの緊急事態はともかくとして、ウワサの監視や魔女の捕縛と言った基本的な活動については、問題なくこなせるだけの戦闘能力は持っていてもらわないと困る。
そのために必要な行動と言えば、彼女たちに兵士としての心構えを叩き込み、集団戦術の効率を上げることだ。
しかしながらそれができる適任は誰もいないのが現状だ。
双樹は見ての通り一匹狼。みふゆもチームを組んで戦っていた経験はあるが、その年月の大半は七海やちよとのコンビであり指揮云々は若干不足気味。葛葉の場合はそもそも前線には出ず、裏で盤面を整えてからの謀殺こそが本領。そして当のウズメもまた、そうした下の者へものを教えるという機会には恵まれなかった。
現在戦闘教導を務めている神楽も人の上に立って指導する経験が豊富とは言いにくい。羽根の中では抜きんでた能力と、戦闘スタイルから来た俯瞰的な視野。そこに生まれ育った環境による若干高圧的な物言いを合わせることで羽根たちを指導しているが、それで身につけられれるのは多少の心構えだけ。
より効果的な戦闘術を叩き込むためには、やはり平凡な魔法少女では役者不足と言わざるを得ない。だが戦闘論理――それも集団戦に秀でた魔法少女など希少も希少。
魔女退治とは基本的に少人数で行われるもの。それこそ片手の指で足りる数が最大数になるがゆえに、数十人の人員を纏めて運用する技術など魔法少女が持ち合わせているわけもない。
「さて、どうしたものやら」
いっそそうした人材を募集でもしてみるか、などという考えすらよぎり始めた彼女の思考を打ち切ったのは、懐に納めた携帯の着信だった。
「もしもし、ウズメです。どうされましたか院長……ええ。明後日の件ですか。それが何か……面会? お嬢様と? 向こう側の研究員が指名をですか……スケジュールとしては問題ありませんが、はぁ、ひとまずお嬢様にお伺いしますね」
◇
『取り繋ぎは成功した。後は接触し交渉するだけだ。くれぐれもしくじるなよ』
「心配いらないさ。今回は最初からやりあおうってわけじゃないんだ」
『その通りだ。だが不測の事態はいつでも起こり得る。それに交渉が成立した場合もしばらくの間は君独りで行動することになる。少なくとも本部チームからの増援は期待できないと思ってくれ』
「問題ない。だからこそ私が選ばれたのだからね」
『……いいだろう。君のその自信に期待しておこう』
「おいおい。期待するのは私じゃなくて、この身体だろう?」
『……その通りだな。では武運を、そして勝利を我らに』
「ああ。すべては我らの勝利のために」
通信が終わり、金髪の女性は席を立ち椅子に掛けてあった白いジャケットを脇に抱える。
そのまま灰一色の殺風景な小部屋を抜け、隣接するガレージへと出る。
無造作にスクラップが積まれた空間の中央。レンチで適当な機械を弄っていた少女が気づいて振り向く。その顔には機械油による汚れが貼り付いていた。
「あ、終わりました~?」
「作戦は二日後の午前だ。チューニングは終わってるかい?」
「勿論。燃料と弾薬の補充は完璧。同期テストもバッチリ」
「いつもながら流石の仕事だ」
血のような赤一色のツナギに身を包んだ少女の言葉に、金髪の女性は満足そうに頷いた。
専属技師である彼女は、自分の装備を常に最高のパフォーマンスに保ってくれる公私共に親密なパートナーであり、自分の一部であるかのように誇りを感じていた。
「どうせなら盛大にぶっ壊れてきてくれてもいいですよ。そうしたら一度
「さて、今回は比較的平和に終わる予定だからね。この前みたいなのは流石にないだろう」
「そうですねぇ。あの時も街一つ覆った術とかバラバラにできたのでやりがいはありましたねぇ」
「ここのは流石に止してくれよ? 今回の作戦がパァになる」
「んふふ、だったらいっぱいボロボロになって
「それなら食事の後に一つどうかな?」
宴と呼ばれた金髪の女性はすす、とさりげない仕草で赤い少女の首筋に手を添える。
「……もしかして溜まってます?」
「仕方ないだろ? この街には中々かわいい子がいるっていうのに、手出しするなって言われてるんだからさ。作戦前にひとつ気合いをいれなくちゃいけない。しっかり"調整"してくれよ?」
「しょうがないですねぇ」
○鶴喰夜鴉
そろそろブラッドドリンガーに対するみんなの反応は省略していきます。
○七瀬ゆきか
本イベントでマギウスの翼を知り、原作開始前に加入している。なのでこのタイミングで加入することになった。
ひとまず第三話はこれにて終了。
羽根たちの想いを中心に本作のマギウスの翼の内部事情を書くために結構強引な話運びになっちゃった感は否めませんが、ひとまず書くべきことは書いたのでよし。
次回【マギアテクノ・フォアビクトリー】