つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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若干間が空いてしまいました。
扉絵イメージ【北養区山中:剣士系の羽根を連れたウズメ。目の前には野生の荒ぶった熊。「では次の試練です。あの熊を剣で倒しなさい」「無茶言わないでください!?」「魔法少女でも流石に死にますよ!?」「何を言っているのです。そうでなければ試練になりませんよ」「鬼だこの人ー!?」】


第五十四話 マギアテクノ・フォアビクトリー……②【デッドメイク/軍事演習】

ChapterⅢ【デッドメイク】

 

 

「――そういうわけで、彼女が今日から羽根の戦闘教導を務めることになった信城です」

「ご紹介に預かった信城宴だ。この度は戦闘教導官として雇われたが、勿論戦闘行動にも十分貢献するつもりだ。ビクトリー社の技術の集約たる我が身、存分に頼りにしてくれたまえ」

 

 

 そしてホテルフェントホープ。

 白羽根以上の構成員が集まった緊急集会にて、信城宴は仰々しいお辞儀をしてみせた。

 

 

「おいおい……」

 

 

 羽根たちの反応は様々。歓迎する者もいるが、やはりその多くは困惑だった。

 夜鴉もその一人。よりにもよって先ほどニアミスしたばかりの魔法少女と出くわす羽目になったのだ。それも直に売り込みをしたとあれば驚くやら呆れるやら。しかもそれがこの街にも幅広く影響を与えている世界的企業に所属する魔法少女エージェントだというではないか。

 あまりに想定以上な情報量に、ありきたりな言葉以外に出るものもなく。

 

 ビクトリー社が()()()()()という噂はまことしやかに囁かれていた。ダークネットには魔法少女御用達の物資売買サイトがあるだの、巨大な組織は魔法少女を秘密裏に抱え込んでいるだの。

 夜鴉も粛清機関へのコネクションを持つ魔法少女の一人として、そうした裏世界の情報の一端は把握している。だから今更その程度で驚くことはないのだが、しかし本人を目の前にするのは話が別だ。

 政府直属の陰陽師といい、どうしてそんな人材がこんな一つの街の辺鄙な怪しい組織に乗り込んでくるのか。いや状況が日本全体どころか世界全体に影響を及ぼしかねないことを考えたら、これでもまだ優しいほうなのだろう。

 

 

「……これはまあ。奇妙な人徳のあるお方だとは思っておりましたが、まさか斯様な人物まで引き入れるとは。流石に私も驚きです」

「ハハ。それはこちらの台詞とでも言っておこうか。今回の一件、陰陽寮が既に張っていると思っていたけど、よりにもよって君を派遣していたとはね。陰陽師」

「信城様もお変わりなく。このような場所までやってこられるとは戦争の匂いに敏感なようで」

「陰謀を嗅ぎつける速度は君たちには劣るさ」

 

 

 全く笑えないブラックジョークを交わす葛葉と宴。

 その様子からしてこの二人は初対面ではないらしい。

 

 

「葛葉、まさか知り合いですか?」

「さて、さて。名前だけなら皆さまも知っておられましょう。ビクトリーアームズの信城宴、またの異名を屍造兵(デッドメイク)。各地の魔法少女抗争に姿を見せては暴れ回る、戦狂いの傭兵にございます。ちょっと前まで別の地域での活動が見られてたので候補としては薄いと思っていましたが……まさか、まさかと言ったところです」

「デッドメイク、だと……」

「この人が……!?」

「助けてくれたから強いって知ってたけど、まさか」

 

 

 デッドメイク。

 

 多くの街でその目撃情報が存在するが、本名、魔法、所属、その他一切が不明。

 抗争に首を突っ込み、どちらか片方の陣営に協力しては荒らすだけ荒らして去っていく謎の魔法少女。

 そんな要注意人物リストの中でひと際異彩を放っていた存在。それが目の前にいること、ならびにこれまで自分たちの戦いに手を貸してきた事実が羽根たちの間に動揺を走らせる。

 

 

「はは。どうやら名が売れているようで結構結構。だが少し驚いているのは私も同じでね。正直この組織にここまでの面子が揃っているのは予想外だった。天才と名高いマギウスの三人にこの街の頭目の片割れ梓みふゆ。我々も目をつけていた逸材を確保しているだけでも評価に値するが、何よりそこの彼女みたいなのまで囲い込んでいるのは驚嘆の一言だ」

 

 

 そう言って宴が指し示した方向に釣られ、全員の視線がそちらに注がれる。

 自分の髪を弄りながら説明を聞き流していた左右非対称前髪の少女は、宴からの指名に首を傾げた。

 

 

「なに? 私はアナタのことなんて知らないけど」

「そりゃそうだ。でもこっちはキミのことをよく知っている。双樹あやせ。鏡面学園の中等部二年生。そして――魔法少女狩りの宝石摘み(ピックジェムズ)

「……ふーん。そっちの名前を知ってるんだ」

 

 

 あやせはそこで始めて興味を持ったように宴を見る。

 夜鴉がバイザーの下で驚愕に目を見開いていた。なぜならその名前は、デッドメイクと並んで悪名高きある魔法少女の異名だったからだ。

 

 

「ピックジェムズ……?」

「魔法少女を襲ってはソウルジェムを奪い取っていく謎の魔法少女。一年前までは有名だったさ。魔法少女同士が争うなんてのは日常茶飯事だが、狙いが縄張りではなくソウルジェムというのは中々珍しい。マークしていたのだが、ある時期を境にその凶行が止み動向が途絶えた」

 

 

 話の流れが呑み込めない白羽根の一人が疑問に宴が朗々と語り出す。

 各地を放浪する辻斬り魔。それが双樹あやせとルカなのだと。

 白羽根たちの間に双樹への畏怖と恐怖、そして幾らかの納得が共有される。

 

 なんてことはない。双樹は明らかに魔法少女との戦いに慣れ過ぎていた。

 何度も模擬戦で揉まれてきた白羽根たちには分かっていた。同じ実力の魔法少女と比べても彼女の戦い方は対人戦用に仕上がっている。それはしばらく目立った抗争のない神浜の魔法少女たちからは異質なものに見えていた。

 だがそれも彼女が元々辻斬りであったというならば腑に落ちるというもの。元々がウズメに熱狂的な慕情を大々的に見せつける変人と見られている人物だ。今更ソウルジェム強奪辻斬り魔であったという経歴が増えた程度でさほど驚かれることでもない。ゆえに動揺は最小限だ。

 

 同時に疑問もあった。ソウルジェムの蒐集なんて真似をしていた狂人がどうしてこの組織で魔法少女の解放に従事しているのか。そんな彼女から慕われているウズメは一体どうやって彼女を懐かせたのか。

 

 

「最近はまた別の辻斬り犯が現れたらしいけど、どうもそのジェム狩りとは違っていたしやはりどこぞで野垂れ死にしたものだと噂されていたが……まさかこんな組織で出会うとは、いやはや奇妙な縁もあることだ。それとも、これも出会うべくして出会った運命ということかな?」

「キモ。近寄らないで」

「連れないねえ。大体の子は喜んでくれるんだが」

 

 

 少女を魅了する笑みを浮かべながら宴はあやせに歩み寄った。だがあやせは嫌悪感を露わにして一歩下がった。宴はわざとらしく肩をすくめてみせる。

 

 

「それにしても君のような者も解放を求めているとは。やっぱり集めているジェムが穢れるのは我慢ならなかったかな?」

「勘違いしないで。もうその辺のジェムじゃ満足できないだけ。私たちの心を満たしてくれるのは、お姉さまの輝きだけなんだから」

「ははぁ。既にお手付きだったか。こんなのを落とすなんて一体どんなやり方だったのやら」

「……それは私も気になるな。そいつが件の辻斬りだというなら、うちの頭領はどうやってそれを手なずけたんだ?」

 

 

 宴と夜鴉がそれぞれ疑問を口にする。

 その答えを示したのは葛葉だった。

 

 

「それはまあ、この方がウズメさまを襲って返り討ちに遭ったからですが」

「ハァ?」

「うさぎみたいな声を上げないでください」

 

 

 聞いてもますます分からなくない。夜鴉の素っ頓狂な声に葛葉ははぁ、とため息をつく。それはこっちの台詞だというような感情がそこに込められていた。

 

 

「双樹さまの傷を見たのでしょう? あれですよ」

「……ああ。そういうことか」

 

 

 夜鴉は初日の出来事を思い出した。双樹との模擬戦で彼女がさらけ出したドレスの下の袈裟懸けの傷。ウズメにつけられた傷は最初に襲った時のだとかなんとか言っていたが、どうやらそういう経緯があったらしい。

 

 

「なるほど実力行使か。そりゃ私が踏み入る余地もない。今夜にでも誘ってみようかと思ってたけど、諦めるしかないか」

「そんなものこっちからお断りだもんね」

 

 

 べーっと威嚇するように舌を出してかあやせはウズメの背中に回った。そのまま流れるように胴体に手を伸ばそうとして、ウズメに肘を脳天に落とされて沈黙した。

 

 

「……少し話が逸れましたが、この者の実力については皆が承知の事でしょう。彼女が持つ魔法少女の戦闘知識を活用するため、かねてより懸念していた羽根たちの戦術カリキュラムについて担当してもらうことになりました。異論はありますか?」

 

 

 反論の声はない。

 経歴に不穏な部分はあるが、それは魔法少女なら持っていてもおかしくはない。実力については言わずもがな。何より組織のトップである灯花とウズメが直々に連れてきた人物だ。人間を見極めるという点で二人に勝っていると考えるものもおらず、余計な口を挟もうとする者はいなかった。

 

 

「よろしい。では早速ですが、信城には訓練場に待機させている羽根たちの教導をさせるつもりです。神楽、信城の案内を頼みましたよ」

「わかりました。こっちよ、ついてきて」

「はは。用意がいいね」

 

 

 燦が宴を連れて部屋を出る。

 足音が完全に聞こえなくなってから、ウズメは再び口を開いた。

 

 

「今回の議題は以上です。皆もそれぞれ持ち場へ戻りなさい。……それと、再度の言葉になりますが、信城については特別顧問としての役職を与えましたが、権限については神楽と同様、つまり白羽根と同じです。ですのであなた達も遠慮することなく同志として接するように。わかりましたね?」

「「「はっ!」」」

 

 

 こうして、信城宴という強烈な新人は多少の警戒を含ませながらも組織へと迎え入れられた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「いやあ、中々癖のある人が入ってきたもんだね」

「癖のある、で済ませられるそちらも中々のものだと思うがな」

「あっはは。それそっちが言っちゃう?」

 

 

 廊下を歩きながらそう言った観鳥に夜鴉は軽口を返す。

 特ダネゴシップを求めるジャーナリストとしての一面を持つ観鳥も夜鴉の中では十二分に変人の部類だ。

 

 

「しかしビクトリーグループねぇ、まさかあの神浜に名を轟かせる大企業サマが魔法少女を抱えていたなんて、とびっきりのスクープだ。こりゃ記事にしたら増版間違いないかもねぇ」

「そうしたら次の日にあなたが南凪港に浮かんでいるかもしれないな」

「怖いなぁ……何が怖いって、それが恐らく洒落になってないことがね」

 

 

 魔法少女を手駒にしてる組織だ。それこそ表沙汰にできないやり方なんて一つ二つで収まる訳がない。あの粛清機関も権力機構と一部で結託しているからこそ、魔法関係の事象を隠蔽することに成功しているのだ。それこそ不都合な魔法少女を一人消し去る程度、()()のどちらからでもできるに違いない。

 

 全く厄介な連中が関わってきたものだと、自分のことを棚に上げて夜鴉は頭を抱えた。ただでさえくせ者ぞろいの組織にさらにキワモノをぶち込まれるとは。

 とはいえ、自分のような一構成員に過ぎない魔法少女がどうこう考えたところで既に結論は出ている。ウズメらが加入を認めた以上、今後はあの妙にテンションの高いキザな金髪と顔を合わせる必要があるわけだ。

 

 

「しかしウズメ殿もよく許したものだ。どう見ても別の思惑があるだろう、あいつ」

「まああの人なりに考えあってのことだろうから大丈夫だとは思うよ。それに、マギウスの翼は魔法少女の解放を求める一心で集まった組織、大事なのは解放に懸ける思いだからね。その過程で何かを求めようと考えていても問題ない、個人の思惑なんてそれこそ人それぞれさ。観鳥さんだって最初はマギウスの才能を利用してやるって心持ち……だったはずなんだけどねぇ」

「……今は違うのか?」

「いやあ、我ながら割と絆されやすかったっていうかさ。君もあの人の下で動いていれば分かるだろう?」

「それは……」

 

 

 夜鴉は否定しようとして、言いよどんだ。

 ウズメを上司と仰ぎ、彼女の指示に従うことに対する抵抗感はそれほどない。むしろこちらの能力を把握し、丁度いい塩梅を見極めて采配をとる彼女の下で動くことに、心地よさすら感じ始めていたことに気が付いたからだ。

 少なくとも、己はこの組織に迎合するつもりはない。……が、彼女の堂々とした振る舞いには今のところ裏表はない。あの圧倒的な実力とカリスマに惹かれ始めているのは紛れもなく事実であった。

 

 

「マギウスに対して疑う気持ちは相変わらずあるよ。でもウズメさんについては違う。羽根の半分以上は解放云々よりも先にウズメさんへの忠誠心を抱いてるんだ。魔法少女になってもちっぽけな存在でしかなかった自分を信頼してくれる。強くなれるように訓練する場を用意してくれる。皆で力を合わせて必死に魔女を倒して、よくやったと褒めてくれる。どうしても私たちじゃ無理な相手には、後は任せろって前に立ってくれる。……普通に考えれば、当たり前のことなんだろうけどさ。それだけでも、私たちが信頼するには十分だったんだ」

 

 

 観鳥は立ち止まり、天井を見上げて心情を吐露する。

 力こそが全て。そして力を決める素養こそが絶対的である魔法少女の世界。

 一人で満足に戦えない魔法少女は為すすべなく、朽ちてその魂を魔女に堕とすのを待つだけだ。

 

 七海やちよは弱者を省みない。和泉十七夜は道を外れる者を認めない。都ひなのは現状を維持するのに精いっぱいだ。

 神浜の街を纏める者たちの手は、本当に救いを求める弱者の下には届かない。

 

 ……そこに、沙羅ウズメは現れた。

 弱者は決して省みられることのない世界において、圧倒的強者でありながら弱者を見捨てず寄り添おうとするウズメの在り方は稀有で、鮮烈で、ついていきたいと思わせた。

 例えそれが人を従えるための振る舞いであったとしても、沙羅ウズメは羽根たちの頭領として相応しいと思わせる女傑だったのだ。

 

 

「だから、ウズメさんが認めた人物ならどんな奴でも私は受け入れるつもりさ。……それに言っちゃあなんだけど、あれでもアリナさんよりは全然マシだと思うし」

「それは確かに」

 

 

 マギウスの一人、アリナ・グレイは控えめに言って狂人である。

 生物を火葬してできた炭で絵を描くわ、美術館に乗り込んで自分の展示品を破壊しつくしただの、みふゆの裸婦画をデッサンするために度々アトリエに呼び出すわ、挙句の果てには魔女をアートと称して捕獲し、育成して恍惚に浸っている有様。

 控えめに言って理解の及ばない感性と狂気をおっ広げにしているアリナに比べれば、宴の無駄に気取った振る舞いや女性に対して積極的にコナをかけようとする態度など全然常識の範疇にあると言えるだろう。

 

 

「そういえば、牧野チャンがお世話になったんだって? あの子とはマギウスの翼に入った時からのつきあいなんだ。ここまで言う機会が無かったけど、観鳥さんのほうからも礼を言わせてよ」

「私はウズメ殿からの依頼をこなしただけだ。別に礼を言われるようなことでもない……ところで、何故観鳥殿のほうが私の後ろを歩いている? 一応、あなたの方が上司だろう」

「あれ、まだ聞いてなかったっけ? 鶴喰さんは広報部とは別に斥候専門のウズメさん直属兵として再編成するから実質白羽根と同じ地位にするってさ」

「……は?」

 

 

 いやあ、スピード出世だねぇ。と観鳥が笑う。

 ぶっちゃけた話、双樹やみふゆと同格の実力がある時点で特殊任務へ動員することが決まっているのでこの人事は最初から決まっていたようなものだったのだが。そのことにつばめは全く気が回っていなかったのであった。

 

 

 

ChapterⅣ【軍事演習】

 

 

 一週間が経った。

 

 ウズメの懸念をさておいて、信城宴が問題を起こすような真似は一度も起こらなかった。

 むしろ黒羽根たちへ熱心に指導を行い、神楽やみふゆと議論を交わしカリキュラムの改善を行うなど、プロフェッショナルの名に恥じぬ働きっぷりを見せつけていた。

 

 彼女の掲げた訓練……いや、調練と呼ぶべき指導は実用的だった。

 

 使い魔の群れへの対処法。魔女のサイズや形状に応じたフォーメーションの形成。

 単一での実力に乏しい黒羽根たちが持つ統一された武装と集団という強みを活かした戦い方を考案し、黒羽根たちに叩き込んでいった。

  

 そして今、その成果を確かめるため魔女の結界内での実地演習が行われていた。

 獲物は立ち耳の魔女。さほど階級も高くなく、何かあればすぐにカバーに入れる程度の敵である。

 ウズメたち幹部が厳粛に見守る中、宴の目配せを受けた白羽根が号令をかける。

 

 

「かかれっ!」

 

 

 羽根たちは息の合った動きで四方に散開。魔女を取り囲み、一斉に鎖を投じる。

 これに対して魔女は耳を伸ばして振り回して抵抗する。さらに使い魔が主の窮地に駆けつけてくる。

 

 

「撃て!」

 

 

 そこへすかさず待機していた黒羽根によって魔力射撃による援護が撃ち込まれる。

 その手に握られているのは拳銃型の武装。ビクトリー社によって開発された試作型魔力銃。実用化には莫大な電力を必要とするため未だ研究段階を得ないエネルギー兵器だが、魔法少女が用いる分には問題なく機能する。

 魔力弾の雨に晒された使い魔は為すすべなく全滅し、あっという間に魔女は無防備となった。

 

 

「今よ!」

 

 

 そして動きが鈍った瞬間に再度投じられる鎖が魔女の身体に巻き付き、完全に動きを封じこめる。

 魔女の巨体が地面へと引き倒され、もがく魔女の身体に黒羽根たちは駆け寄り、同じくビクトリー社の武装――正確には取引下にある闇職人集団・朱宮一属が制作した赤い刃(レッドエッジ)と銘打たれた赤塗りの短剣を突き立てていく。

 

 

「■■■■■■!!」

 

 

 何度も身体を突き刺されながらも魔女は激しく抵抗するが、やがて力尽きて動かなくなった。

 

 

「オールクリア! 素晴らしい勝利だ!!」

 

 

 宴は大仰に拍手をしてこの勝利を褒め称えた。

 損耗なしの一方的な勝利。これまでであれば得られなかったであろう輝かしい戦果。しかし戦闘終了と同時に緊張が切れた羽根たちは肩で息をしはじめ、自分たちが倒した魔女をぼんやりと眺めていた。

 

 

「さて、どうかな? 貴君らの望む結果が得られたと思っているが」

「流石ですね。あの子たちがここまでキビキビと動く姿は初めて見ましたよ」

 

 

 素直に感心したのはみふゆ。この中では黒羽根と最も接する機会が多く、組織の顔として勧誘に立つ彼女は羽根たちの事情をよく理解していた。攻撃を与えるはおろか、位置どりすらままならないかつての彼女たちの姿と、目の前で指示通りに魔女を制圧した姿では雲泥の差があった。

 

 

「……これは見違えたな」

 

 

 夜鴉もこの結果には驚きを隠せない。

 息の合わせ方。次の動作に移る反応速度。魔女の抵抗にも動じない心構え。どれ一つとっても以前とは丸っきり別物だ。

 いつもなら監視ついでに危なっかしさでもどかしい思いをするものだが、今回は終始そのような隙は感じられなかった。

 

 

「グゲッ、グゲッ」

 

 

 フードの頂点部に乗ったカラスも同意するように鳴き声をあげ、その傍らに浮遊する式紙から声が響いた。

 

 

『……ふむ、ふむ。これは中々の結果でしょうね。マギウスはどう思われます?』

『すっごーい。ウズメに指導されてるのにダメダメだった羽根たちがここまで無駄なく動けてるなんて』

『まだ粗削りな部分は多いけどね。それでも以前に比べても確実に動きはおろか戦いへの姿勢が向上している。一体どんな手段を使ったのかな?』

 

 

 同じく遠隔で観戦していたマギウスからも感心と称賛の声が上がる。

 天才たちもまた、組織としての問題点をいともあっさりと解決してしまった宴の手腕を認めていた。

 

 

「大したことはしていない、私はただ兵隊としての心得を教えただけだよ。上官の言うことに従って動く。あらかじめ教えた動きをきちんと再現する。余計なことを考える前に武器を構えて引き金を引く。たったこれだけのことをするだけで部隊としての実力は向上するんだ」

『そのたったが難しかったのですがねぇ』

「それは仕方がないことだろうね。元より魔法少女はスタンドプレーが基本だからね。個人の技量を伸ばす鍛錬についてはちゃんとしていたみたいだけど、まず弱い子達は戦いに出るための心構え自体が身に付いていないんだ。そういうのを一人ひとり根気よく育むっていうのは効率が悪い。ならまずは言われた通りに動けるようにして、何が起ころうとこっちの言葉を最優先にさせる。兵士にするっていうのはそういうことだよ」

「…………」

 

 

 宴の言葉には一理あった。

 ウズメやみふゆは個の強者であるが故に、その戦い方も自らを中心としたものになる。チームを組んで戦うにしても、それは自ずとそれぞれの個性を活かすもの。このように装備と戦法を統一するというのは不慣れであることは否定できない。能力不足を補うための羽根たちの統一に一定以上の成果を望めなかった理由である。

 その点で言えば、この信城宴以上に兵士として魔法少女を動かすことの適任者は存在しないだろう。

 

 

「とは言え、だ。流石にこの短時間で彼女たちが多少なりとも使い物になったのは君たちのおかげだろうね。知ってるかい? 結構キツくしたのに一度も泣き言吐かなかったんだぜ、あの子たち。それだけ君たちに追い付きたいって気持ちが強かったんだろうさ。いやいや羨ましい限りだ」

「……そうですか」

 

 

 ウズメは宴への評価を改める。企業の尖兵。魔法少女の解放ではなく、それ以外の利益を求めて近づいてきた間諜の類だという疑念があった。

 外部組織に属しているという点では葛葉も同じであるが、彼女は飽くまで公的機関の者。秩序と平穏を第一とする彼女の方針と自分たちの計画は一致している。だが信城宴は企業。それも外国に本籍を置くとなればそれこそ成果の簒奪を目論んでいる可能性だってある。

 

 勿論、直前まで不信を抱いていたこと自体を恥じるつもりはない。彼女の中には独自の思惑があることも確かだろう。だが同時に、彼女もまた魔法少女の運命を覆すことへ真摯に向き合っているのも確か。

 言葉にしたわけではない。だが羽根たちの戦い方の変わりようを見せられた以上は、そこに込められた熱意と誠意は否定しようもなかった。

 

 

「ええ、認めましょう。あなたは一定の功績を挙げ、羽根たちの戦力向上に寄与してくれた。これだけでも十分すぎる働きです」

「お褒めに預かり光栄だ。だが、真に褒められるべきはこっちの彼女だよ。少なくとも今回の作戦について考えたのも指示を出していたのも彼女だ。私は飽くまでそれを動かしやすく整えてあげただけだとも」

 

 

 指揮担当の白羽根の肩を抱いて引き寄せる。

 自分の功績を誇示するだけではなく、既に所属している他者を引き立てることを忘れない姿勢は謙虚かつしたたかであった。

 

 

「それもそうですね。あなたも良い指揮をしました。見事でしたよ」

「……はい、ありがとうございます!」

 

 

 ウズメが微笑み称賛の声を送る。

 白羽根はフードの下で頬を紅潮させながらも、誇らしげに胸を張った。

 

 

 

「さて、後は虫の息の魔女を回収するとし――」

 

 

 ドスン、と大地が揺れた。

 

 突然の地響きに全員の視線がそちらに向く。

 それはさっきまで魔女が倒れていた場所。上空から何かが落ちてきて、それまでいた魔女を踏みつぶしていた。

 落石めいて丸いフォルムが身じろぎする。ごわごわとした毛に覆われたそこには螺旋を描く一対の角が生えており、幾つもの目がぎょろりと周囲を見渡した。

 

 ――羊の魔女。その巨大個体。

 

 取り囲んでいた羽根たちは突然の事態に目を白黒させた。

 

 

「は?」

「え、何こ――」

 

 

 困惑の声を上げる間もなく。

 続けてドスン。ドスンとさらに落ちてくる羊の魔女。

 その数、合計3体。

 

 

SHIIIIIII……

「羊の魔女……三体もだと!?」

「これは一体なにが起こって……」

 

 

 状況を理解した夜鴉たちが警戒を露わに武器を構える。

 身体の大きさからして中級は堅い。そんな個体が同時に出現した。それも余所の魔女の結界に。

 完全な異常事態だ。これもイヴから漏れ出す穢れとマギウスの計画によって引き寄せられた魔女たちによ過密状態が引き起こしたイレギュラー現象だとでもいうのか!?

 

 

SHIIIIII!!

 

 

 魔女はぎょろぎょろと何かを探る様にあたりを見回し――その眼球の焦点が最も近い羽根に一斉に向いた。

 

 

「ひぃっ!」

 

 

 手近な獲物の存在に牙を剥こうとした魔女に、深紅の槍が突き刺さった。

 

 

  ――血刃ノ四 帝灼天

 

 

Abbah!?

「今のうちにこちらへ来なさい!」

 

 

 羊の魔女を血槍で投げ貫いたウズメの号令に、黒羽根たちは慌ててこちらへと戻って来る。

 

 

「考えてる暇はない。我々が一人一体を相手にしましょう。その間、あなたは羽根の退避をなさい」

「は、はい!」

 

 

 白羽根が答えた時には、既にウズメたちは魔女の下へと駆け出していた。

 羊の魔女も自分たちの脅威となる敵を察知して注意を向ける。

 その時、ウズメ達の斜め後ろより銃弾の雨が降り注いだ。

 

 

「「「Aaaargh!?」」」

「火力支援は任せたまえ!」

 

 

 威勢の良い声が響く。

 ウズメ達が駆けだすと同時、宴も瞬時に最適な位置取りを行い腰に携えていたアサルトライフルの銃爪を引いていた。

 小気味よい炸裂音と共に吐き出されるのは中心にタングステンを用いた徹甲弾。魔力を視認できるものであれば、それが金色の魔力光を仄かに帯びており、ただでさえ魔女の外皮ですら貫く威力をさらに上乗せされていることが分かるだろう。

 

 

「良い援護です!」

 

 

 銃撃に晒された魔女は怯み、ウズメ達に無防備な姿を晒した。

 このまま一気呵成に押し切る。そう意気込んでいた夜鴉の視界に、体勢の崩れた羊の魔女たちの間からどす黒い穢れの塊が出現した。

 

 

「――いや、まだいるぞ!!」

 

 

 怖気立つほどに濃厚な穢れに、夜鴉は警告を発した。

 その刹那、魔女の影から比較的小さな影が飛び出してきた。

 

 

「SHHHHHHH……!」

「鎧を着た、魔女……!?」

 

 

 人型の形をしたそれは、黒い鎧のようなものを纏った魔女であった。その頭を覆う兜には羊の角めいた意匠が施されており、羊の魔女との関係性を思わせる。だが何よりも彼女たちを驚かせたのは、その魔女から漏れ出る圧倒的な穢れ!!

 

 

「SHHHHHHH!!」

 

 

 そのような存在は見覚えが無い。目撃情報もない。新種の魔女か? それならばなぜ羊の魔女と共に現れた?

 そんな疑問を口に出す間もなく、鎧魔女はその蹄で大地を蹴り、反応速度を超える速度で夜鴉に跳びかかってきた!

 

 

「チィ!」

 

 

 かろうじて繰り出された蹴りを防いだ夜鴉は、槍越しに伝わってきた威力に顔をしかめる。

 これまで戦ってきた魔女の中でも類を見ない程に重い! 明らかに他の魔女よりも階級が上だ!

 

 

「SHHHHHHH……!」

 

 

 頭部を覆う兜から不浄の吐息が吐き出される。

 くぐもった異形の声は興奮しているようにも、あるいは苦しんでいるようにも聞こえた。そしてそれが敵意となって夜鴉に注がれているのは明白だった。

 

 ぎりぎりと鍔迫り合う両者。夜鴉は歯を食いしばって押し返そうとするが、鎧魔女の力の方が若干強い。

 しばらくの睨みあい。その拮抗を破ったのはどちらでもなく、横合いから殴りつけてきた銀色の魔法少女であった。

 

 

「ハッハー!」

 

 

 凄まじい速度で繰り出された拳が鎧魔女を吹き飛ばす。突然の事に魔女は反応できず、これを喰らって宙を飛び大地を転がった。

 関節部位から圧縮された空気を吐き出しながら、信城宴は夜鴉を見る。

 

 

「大丈夫かな?」

「問題ない。だが助かった。一体なんだあれは……」

「確かに、あれほどの魔女は我が社のデータバンクでも希少だ。興味深くデータを取りたいところだが……そんなことを言ってる暇はないか」

 

 

 痛烈な打撃を受けながらも立ち上がろうとする鎧魔女を宴は笑みを消して見た。先の一撃は本気ではないが、下手な魔女であれば十分通用する威力があった。それをモロに食らっておきながら大したダメージを受けていないように見える。

 

 

「君と二人がかりならまあ大丈夫だとは思うけどね」

「いや、それには及ばん」

 

 

 言葉と共に穢れに似た魔力が広がり、黒いカラス羽根が舞い散った。

 この魔女を全力で葬るべきと判断した夜鴉が異形顕現を発動したのだ。

 ドッペルが広まっている以上、この力を怪しまれる危険は薄い。むしろ一体型のドッペルとしていくらでも言い訳が効くのだ、出し惜しみする必要もない。

 穢れの解放と同時に背中に顕れる黒い翼を見て、宴は感心したように口を開く。

 

 

「へぇ、それが噂の。計測できているだけでも凄まじい魔力だ」

「こいつはひとまず私が引き受ける。お前は他の魔女を片付けろ」

「アイ、アイ。ま、それが一番確実そうだ」

 

 

 既にウズメとみふゆはそれぞれの個体と戦いを繰り広げている。

 宴は自分が請け負った個体を見据えて軍隊式格闘術と思わしき構えを取る。

 そして両腕の側面が展開して刃が飛び出した。さらには腰と肩甲骨からスラスターが展開し、人間はおろか魔法少女ですら滅多にあり得ない初速を発揮して接近。果敢に接近戦を挑んでいった。

 

 

 

「あれマジでサイボーグなんだ……やべえなビクトリーグループ」

 

 

 そこそこ噂になっていた宴の身体を見てひとつ呟いてから、夜鴉は黒翼を羽ばたかせて鎧魔女を釘づけるように刺突を叩き込んだ。




○葛葉
 政府筋の人間なので色々詳しく、そして黙っていることも多い。

○双樹あやせ/ルカ
 要約:放浪中のウズメに遭遇、襲い掛かる→返り討ち。惚れてつき纏い始める→ウズメが神浜入り、一旦別れる→マギウスの翼発足。戦力としてウズメが呼んだ


冬のボーナスで液タブを買ったので、記念に信城宴のビジュアルを描きました。

【挿絵表示】


他キャラの立ち絵もできました。登場話のほうにも置いておきますね。

【挿絵表示】

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