今年はシーズン2の終了までできればいいですね。
ChapterⅤ【隷属する魔女】
「SHIIII!!!」
羊の魔女が繰り出した回転突進を跳躍して回避し、反撃のチャクラムを投げながらみふゆはこの現状について考えていた。
神浜そのものが異常事態であるのだが、今起こっている事はさらに輪をかけて異常だった。
複数の魔女が結界内部で重なることは珍しくはなく、同じ姿の魔女がそこら中にいるということも百歩譲って問題とは言い難い。
故に目立った異常は魔女の行動。羊の魔女と呼ばれる魔女は本来自衛以外で襲い掛かることは稀有。しかも自らの結界外に出て活動するなどほぼない。勤勉とも言えない使い魔に自らを飼育させ、結界という檻の中で縮こまっているのが生態と言えるものだ。
だがこの魔女は明確に自分たちを獲物と認識し襲い掛かってきている。個体別に多少の差はあるとしても、絶望の呪いから来る欲望と本能は共通する以上はらしからぬ積極性だ。
さらにこうして実際に刃を交えて分かったことだが。目の前の相手はこちらを倒すことに必死だ。まるで、そうしなければならないという焦燥に駆られているかのような。そんなちぐはぐさを感じさせる状況は奇妙を通り越して不気味だった。
戦闘中にそんな思案をしている余裕があるのかと思われるだろうが、彼女は精神系の魔法を用いる魔法少女であり、ミドルレンジで戦いを仕掛けながら魔法を仕込むぐらいのマルチタスクはお手の物。今もしなやかな動きで飛び回りつつチャクラムを投げ続け、魔女を翻弄している。
だが魔女も強力なもの。回転する巨体が刃を弾いて、大したダメージを与えられていない。
動きを止めるために幻惑を仕掛けてはいるのだが、効きが悪いのかあるいは回転によって視界を意に介していないのか。一向に動きが鈍る気配がない。
魔力が弱くなっていく兆しが見られている中、十八番の幻惑が通用しないとあっては、さしものベテランとて苦戦も必至――
「はあっ!」
ではない。
彼女とて一角の魔法少女。それも人外魔性が跳梁跋扈する大都市神浜を7年間も生き抜いてきたベテラン中のベテラン。自分の魔法ひとつが通用しない程度で敗北するほどヤワではない。
みふゆは魔女の突進を回避しながら、その巨体が転がる先を目掛けて複数のチャクラムを投げ放つ。
一つ、二つ、四つ、八つ。チャクラムは飛来しながら輪郭を歪ませ、さらにその数を増やしていく。そしてそれらは魔女の周囲を旋回し、思わず停止した羊の魔女を危険な回転刃の織りなす殺戮竜巻の中へと拘束した!
「SHIIII……?」
魔女は幾つもの目で周囲を見渡す。
凄まじく回転しながら左右交互に入り交じって旋回する刃の壁。触れればたちまち肉を削り取り、瞬く間に肉片へと切り刻む処刑機構である。
「ええ。そこがあなたの棺桶ですよ」
指を弾くのを合図として、回転旋回するチャクラム壁から幾つものチャクラムが射出されて魔女へと襲い掛かった。
――アサイラムパラノイア
「SHIIIIIII!!」
全身をズタズタに切り裂く刃の嵐に魔女の言葉にならぬ絶叫が響く。
一度相手を封じ込めたが最後、一切の身動きを取らせず全方位からの刃で切り刻んで葬るこの技は、幻惑によって惑わしながら刃の雨を降らせる
命の危機に瀕した魔女は本能の中に残った知性を働かせて思考する。
何故自分はこんな目に遭っている。死ぬのは嫌だ。この場から生き延びるには力がいる。けれど
あれはかつて自分と同じものであり、今は魔女としての己を奪われ、一端の使い魔のように――いや、それよりも惨めな存在に作り替えられたもの。自分を突き動かす衝動も、この体に満ちる絶望も、そのすべてが他者から与えられたものへと上書きされる。ああなんと恐ろしいことだろう。
"この街を覆う穢れの源を探れ。そのためにはまず魔法少女を襲い、この街の秘密を探れ"
突然として現れた存在から下された抽象的な命令は、しかし絶対の呪詛として彼女たちの魂に焼き付いた。
そしてその声に導かれるままに、彼女たちはこの街の穢れが濃い方角へと向かい、そして強くその穢れの残滓を身につけた魔法少女を嗅ぎつけて襲い掛かった。そこまでは順調だったのだろう。問題は、そこにいた魔法少女たちがこの街でも有数の実力者揃いであったこと。
「SHIIIIIII!!」
巨体を回転させて刃を防ごうにも、全方位から襲い掛かる回転刃が相手では身動きする余裕もない。このままでは全身の体毛を刈り取られるはおろか、無残な羊肉ミンチに変わるのは時間の問題だった。
どうすればいい? どこに逃げれば自分は生き延びられる!?
必死に目を動かし、その視線が唯一開いた直上を向いた瞬間、魔女は生存本能が導いた答えに従って体を縮こませてから力を解放して跳躍した。
刃が身体を刻むが気にも留めぬ。このまま拘束を脱した後はこの結界の外まで逃げ出し、魔法少女たちが追ってこない場所まで身を潜め――
「ええ。そこですよね」
羊の魔女が最高高度に達した瞬間。
狙いすまして投げられた巨大なチャクラムが魔女の身体を真っ二つにした。
「Abba……」
「ふぅ……何とかこっちは片付きましたね」
塵と消えていく魔女の身体を一瞥してから、みふゆは他の戦場に目を向ける。
決して油断ならない手ごわい相手だった。他の個体を相手取る彼女たちは大丈夫だろうか――。
そんな懸念は杞憂とばかりに、巨大な衝撃音が二度響いた。
◇
ほんの数十秒だけ時間を遡り、視点を別の場所に移せば。
そこで繰り広げられていたのは戦闘などというのもおこがましいほどに一方的な光景、すなわち蹂躙だ。
斬。斬。斬。
神速にして流麗なる太刀筋が幾つも瞬き、羊の魔女を斬り刻む。
刃を手繰るはマギウスの翼が棟梁、沙羅ウズメ。
自らの身体より湧き出す血液に魔力を込めて形成した刀は鋼鉄と変わらぬ硬度を有している。
さらに彼女の剣を振るう速度もまた凄まじい。速度とは即ち威力。ある剣術に於いては雲耀と称されるほどの踏み込みが生み出す加速力を一切の無駄なく剣の一振りに乗せることで、その一撃一撃が並の魔女を屠り去るに相応しいだけの威力となる。
都合十回以上は斬り込んだか。この魔女が未だ持ちこたえているのはその巨体から来る純粋な生命力の賜物だろう。
「中々しぶといですね」
「SHIIIIIII!!」
だが、それも時間の問題。このまま一方的な蹂躙が続けば魔女は倒れる。
もちろん黙って倒れるのを待つはずもなく、血みどろの魔女は金切り声を上げながら分離した眼球を飛ばして反撃。即座に反応したウズメは跳び下がりながらこれを斬り捨てた。
「悪あがきを……」
狂乱に陥った魔女は突撃の準備を始める。
開いてしまった間合いは刀では少々足りない。一息で詰められる距離ではあるが、仕留めきれなければ不意の一撃を貰う可能性はある。
「ではこうしましょう」
――血刃ノ六 紅玉槌
ウズメの体内からさらなる血が湧き出し、質量を増して形を変える。
現れたのは巨大な
――狂 骨 砕 き
身体の全てを使い、重心を乗せて放たれる鉄槌の一振り。
相手を脳天から叩き潰すための技は突撃の上から魔女を叩き潰し、大地にクレーターを作り上げた。
ウズメは残心し、相手が息絶えたことを確認してから血の武器を戻した。
「さて、他の者たちは――」
◇
「ハッハハハハハ!」
哄笑と共に宴は拳を魔女の巨体に叩き込む。
金属フレームで作られたボディの質量を魔力で強化して繰り出されるパンチ。その威力はコンクリート壁を用意に粉砕するほど。
普通の魔法少女がこれだけの威力を発揮するとなれば相当の資質か、もしくは血の滲む鍛錬。あるいはその両方を兼ね備える必要があるだろう。
だがビクトリーグループの最先端科学の粋を集めた宴の躯体はこれを実現せしめた。さらには飛行、高速移動、魔力探査などの様々な機構を彼女の身体は兼ね備えている。
その在り様はまさに人間戦車。魔法少女が持つ驚異的な能力を科学技術によって上乗せし、その価値を何倍にも高める。
これこそが魔導科学。人類が魔法という超常事象を乗りこなした証なのだと宴は高らかに誇り笑う。
勿論、それが可能なのはひとえに宴の固有魔法である『機械感応』、ならびにその願いを得るに至った彼女の異常なる精神性を前提としてのことなのだが……それでも宴はこれを自らの素質によるものだとは主張することはない。
何故なら宴が恋焦がれたのは科学であり、その結晶たる兵器だ。物心ついた時よりその在り方を育んだ人類の叡智こそ誇るべきものであり、魔法などその理想へ近づくために便利な土台でしかない。礎として尊重するが、しかしその恩恵は人類へと還元されるべきだ。
ゆえにこそ、宴にとってそれらと一つになるこの力はまさに求めてやまなかったもの。その経緯こそ不本意ではあったが、だからこそ獲得したこの力をすべて社のために捧げることに一部の迷いもない。細胞の一片、魂の一粒に至るまで。この身は人類の勝利のため!
「イヤッハー!」
「SHIIIIIII!!」
文字通りの鉄拳が人類が滅ぼすべき怪物へと突き刺さり、魔女は苦悶の声をあげる。さらなる追い打ちに宴は跳躍して回し蹴りを叩き込んで羊の巨体を大きく吹き飛ばす。しかし魔女とて相応の力を持った個体。ゴロゴロと地面を転がりながらも体勢を立て直し、その丸い身体を弾ませるように跳躍。そのまま宴の上を取った。
「ハハッ……同種の魔女の中では新記録だな!」
その高度に感心するのもつかの間、巨体を活かしたボディプレスが宴を押しつぶさんと落下する。
宴は瞬時に肩と腰から展開したスラスター噴射による高速移動でこれを寸前で回避。そこから周囲を旋回しながら腕側面のブレードを振るって裂傷を刻んでいく。
「だが悪いね。キミ達のデータは嫌というほどに把握済みだ!!」
宴は神浜入りしてからの幾つもの戦闘記録、並びにビクトリー社に協力する魔法少女たちから提供される魔女の情報を集めた社のデータベースと脳内に接続した
「さて、そろそろ終わらせよう!」
カポエイラのように天地逆さになってからの回し蹴りを二連続……否、魔導義体による回転機構と重心制御によってその倍の連続蹴りを魔女に叩き込む。
「Aaaargh!?」
魔女が怯んだ隙に宴は跳躍し、さらに足裏からのジェット噴射。
今度は宴が魔女の頭上を取る番だった。
「フィニッシュだ!」
獰猛な笑みを浮かべながら、宴は握りしめた拳を叩きつける。
着弾の瞬間、腕部のシリンダー機構によって追撃が発生。コンマ差で繰り出された打撃の衝撃が体内で干渉、増幅し魔女の身体を奥深くまで破壊して突き抜けた!
仮に血液が通っていれば、夥しい赤色のシャワーが振っていたであろう勢いで魔女の身体が弾け飛んだ。代わりに魔力と肉片がポップコーンのように散乱し、塵となって消えていく。
宴はバックフリップで着地し、対象の生命反応が途絶えたことを確認してから構えを解いた。
「フーン……中々手ごたえのある相手だったな」
拳から伝わってきた衝撃の反作用を愛しそうに受け入れながら戦場を見渡す。
数秒前まであった他の反応も軒並み途絶えている――どうやら他の面々も既にカタがついたらしい。
「そちらも終わりましたか」
「おや、君たちも終わっていたとは。結構骨のいる相手だったろうに、これは流石というべきかな?」
「それなりに手強かったのは確かですが、これでも経験だけはあるんですよ?」
「所詮は魔女。斬れば死にます」
中々強力な魔女だったろうに、何事もないと涼しい顔でウズメはそう言い放つ。
実際に拳を交えたことはなかったが、やはり彼女たちは油断ならない実力者だ。
片やこの街にて7つの年月を生き抜いた歴戦の魔法少女。
片や羽根たちが満場一致で認める最強の剣士――情報が正しければ、かの退魔一族、その直系。
既に政府のお手つきであることを加味しても、軽率な強硬手段を取らず協調姿勢を選んで正解だった。
「それで夜鴉さんは……」
「さっきの異常個体を対処中だ。とはいえ……いささか驚愕を隠せないな、これは」
自分たちの頭上を通り過ぎた影を見上げる。
それぞれの敵に集中していたため気にも留めていなかったが、上からは剣戟の音が絶えず鳴り響いている。
今や巨大なカラスにも等しいシルエットに変貌した外套を纏い、その背に映えた黒い大翼を羽ばたかせて青白く燃える槍を振るう鶴喰夜鴉。それに食らいつくのは濁った闇のような鎧を纏い、咆哮と共に異形の腕を振りまわす魔女。
空には火花が幾度も爆ぜ散り、一拍子遅れて漆黒の羽根が舞い落ちてきている。言うまでもなく、夜鴉の両翼が羽ばたくたびに散らすカラス羽根だ。それらの多くはこちらへ落ちてくるまでに滞空し、すっかり結界の天井を黒く染め上げていた。
漏れ出る魔力の余波だけでも伝わる戦いの激しさに、ウズメも感嘆の声を漏らした。
「なんとまあ、ここまでやりますか、彼女」
「何? 知らなかったのか」
「我々にも中々注意深く力を隠していますからね……そのくせ、ドッペルをいつでも行使できるように備えていたのは流石としか」
放たれている力は穢れが混ざった魔力。幸運なことに、ドッペルは術者と一体化するタイプのものも存在するためか、夜鴉が発動しているものが異形顕現という異質の力であることに気が付く者はいなかった。
「はああっ!」
「SHIIIIIIIII!」
そんな下界の様相など気にも留めず、両者の戦いは熾烈を極めていた。
異形顕現を発動した夜鴉のステータスは軒並み向上し、それまで多少重量任せに振るっていた鮮血機構を手足も同然のように操っている。固有魔法も解禁し、青白い炎を纏わせた突撃槍の刺突を繰り出し、本気でこの魔女を葬りにかかっていた。
しかし相手はこの刺突を真っ向から捌いてみせる。その両手の鋭い鉤爪を振り回して急所を狙う刺突を反らし、それ以外は自らの防御能力に任せてカウンターを狙ってくる。
「こいつ……!」
首を狙ってきた一撃を強化した腕でガードしながら夜鴉は歯噛みする。
戦況は夜鴉の優位に進んでいるといっていい。最初の突撃によって敵を空に打ち上げ、そのまま槍の連撃で空中に留めたまま動きを封じて一方的に葬る。それがこの未知数の敵に対して夜鴉が当初思い描いていた展開であり、それは実際にこうして空中戦を継続していることから順調ではあった。
しかしこの魔女は予想以上に食らいついてきた。最初は翻弄されていたものの、僅か十秒足らずで体勢を整え夜鴉の槍に対応を始めた。そして現在はその刺突に合わせて反撃を繰り出し、その反作用によって空中に留まり続ける芸当を披露している始末。
壮絶な咆哮と兜の隙間から覗かせる狂気に満ちた眼光は生半可な心持ちの相手を委縮させる。
異形の両腕は鉄をも引き裂き、脚の蹄は踏みしだくものすべてを粉砕する。
全身に纏った鎧は、生半可な加護を無為に帰して攻撃を阻む。
そして全身から漏れ出る穢れは、近寄るだけでその命を蝕まんとする。
存在するだけで周囲を害しうる災害と化したその姿は上級魔女といって差し支えない。まるでこの前師たちが戦ったという
……とはいえ、伝え聞く限りの理不尽さはなかった。
力は強いが、その動きに精細さは感じられない。身体能力とやけに堅い鎧にものを言わせているだけで、フェイントを織り交ぜた連打に対応できるだけの技巧はない。
拮抗しているように見えるのは飽くまでその鎧が健在だからだ。次第にその鎧にも傷が増えていっており、少しでも綻びが開けばそこからの決着はあっという間。
「SHIIIIIIIII!」
幾度の攻防の末、位置的に上を取った魔女が夜鴉を叩き落す踏みつけを繰り出す。槍で受け止めた夜鴉は受け流す場所もなく全身を伝わる衝撃に耐えながら、力強い羽ばたきと共に魔力を放出した。
「オラァッ!」
「!?」
踏みつけた槍が強く跳ね上がり、魔女は空中に投げ出された。
飛行能力を有しているのが夜鴉のみである以上、制空権は彼女が独占している。それに気が付かず不用意に仕掛けた魔女はまんまと仕掛けられた罠に嵌った形だ。
「
滞空させていた羽根を一斉に魔弾と変え、全方位から打ち抜いて釘付けにする。
そうして身動きの取れなくなった魔女めがけて全力で飛翔。ロケット噴射にも等しい加速を以って鮮血機構をその胴体に突き刺した。
「SHIIIIIIIII!?」
「逃がすか……!」
槍を引き抜こうとする藻掻く魔女。夜鴉は魔力を込め、槍を伝いに魔女の体内へと虚火を注ぎ込んだ。
魔力を燃料として燃え盛る青白き炎が魔女の身体を内側から焼き焦がす。
「SHIIIAAAAAA……!!!」
苦悶から逃れるように首を激しく振るう魔女。度重なる攻撃で破損し、熱に耐えきれなくなった甲冑が崩れ始め、隠されていた顔が露わとなる。
「キキキキキ……」
砕けた鉄仮面から覗いたのは羊の魔女の顔。謎の魔女の正体は鎧の中へ強引に押し込まれた、自分たちが散々見慣れた魔女だったのだ。
貫かれながら、羊の魔女がもごもごと唸り声を上げる。燃え盛る視界の中、濁った眼を夜鴉に――否、彼女の身体から溢れだす穢れが立ちのぼって消えて行く先に向けて、そこから通じる何かを見て笑った。
「キィ、ミツ、ケタ……!」
「……何だと!?」
はっきりとした口からこぼれ出た音は、間違いなく人間の言葉だった。
夜鴉がその事について驚く暇もなく、魔女は炸裂した鉄片によって挽肉と化した。
バラバラに落ちていく肉片は虚火に焼かれて塵となって崩れ去り、あの悍ましい魔女が存在した証はたった一個のグリーフシードだけであった。
「ヒュゥ、お見事」
着地と同時に宴が称賛を口にするが、考えに耽る夜鴉の耳には届いていない。
羊の魔女を拘束するように纏わりついていたあの鎧……否、鎧という形で固着していた強力な呪い。
それはすなわち、何者かが魔女を呪いで縛り付けあのような形に歪めていたということ。
魔女すら支配下におく呪いの使い手。そんなものがこの街に手を伸ばしている?
「嫌な予感しかしないな……」
マギウスの翼とは異なる波乱の兆し。
夜鴉はこの正体不明の敵の存在を、ひとまずは彼女たちと共有するべく振り返った。
◇
ChapterⅥ【災いの予兆】
暗い、暗い漆黒が広がる空。
夜のとばりが落ちきったその草原は、魔女たちが狩人たちから逃れるために隠れ潜む結界。
羊の魔女と呼ばれる種が作り出すその光景は、しかし今は主を異としていた。
ぶるぶると震えながら無数の使い魔がひれ伏し、さら驚くことには魔女が複数匹も並んでいる。
彼女たちが一斉に跪くその中央、結界内の柵をかき集めて拵えられたその玉座に座る全身鎧の人影は、双角の装飾が施された兜の下で憂い気な瞳を動かした。
「"仔らの命、途絶えたか"」
先鋒として放った魔女の命が散ったことをそれは呪いのつながりを通して知る。
この街の情勢を探るための斥候ではあったが、率いる個体には女王の寵愛として真理の一片を与えている。並の、いや手練れの魔法少女であっても打ち破るだけの力量に引き上げられたそれが敗れたということは、即ち常識から外れた魔法少女。あるいは聖堂騎士か。
「"面白い。これならば女王も退屈せずに済むというもの"」
いずれにしても目当ての物を知る可能性が高い。
眷属からの
ノイズと炎に塗れた視界で不明瞭ではあったが、その眷属を打ち破った者が身に着けていたのは黒いローブ。
ならば、同じ衣装を纏う魔法少女を探し当て情報を絞り出す。
「"まずは兵站だ。三日後に出陣する"」
地鳴りのような声は魔女たちの魂に刻み付けられ、彼女たち急いで自分たちの力を蓄えるために方々へと散っていった。
慎重な備えは、しかしこれほどの怪物にとっては悠長でもあった。
だがそれでいい。これは狩りであると同時、悠久の時を生きる主の無聊を慰める余興である。ゆえに早急な解決など望まれてはいない。
主とその同胞は自分ただ一人が街を闊歩し、並み居る敵を蹂躙するなどというありきたりの展開に飽きられていた。
"――せっかく魔法少女が集まっているのだもの。こちらも数を揃えてぶつけ合わせるというのも面白いでしょう?"
女王はそう仰られた。
ならば己はその意に従い、粛々と場を整えるのみ。
「"女王よ、ご照覧あれ。そして我が簒奪の旅路に祝福を――"」
それは星々が煌めく天蓋を見上げ、己の直上に位置する牡羊座を仰いで言った。
黄道に連なりし十二の凶星。
その一つを司る魔女の眷属が今、解放の象徴を喰らわんとしていた。
――【マギアテクノ・フォアビクトリー】終わり。
――【ブラックナイト・ナイトメア】に続く。
○信城宴の武装一覧(一部)
・アサルトライフル:主兵装。魔力銃でなく物理なのは宴にとってはそちらの方が効率が良いため。あと趣味。
・シリンダーパンチ:腕に仕込まれている。爆発的威力のパンチを繰り出せる。
・アームブレード:腕側面に沿って展開されるブレード。
・スラスター:踵、肩、腰にある。マニューバー移動で敵を翻弄する。
○Rebbeca
かつて羊の魔女だったもの。その性質は■■
もはや自らが抱いた絶望も性質も奪われ、ただ主のために動き続ける眷属となり果てた。肥大化した身体は呪詛が形を成した鎧に押し込まれ、女王へ仕えることへの歓喜と存在意義を上書きされたことへの苦悶を零し続けている。
上位の魔女は力の劣る魔女を眷属に『作り替える』ことができる。この個体もそのケースと言えよう。
というわけで次からシーズン2前半の山場にしてレイド戦の開幕!
その前ちょろっと日常パート的な小話とか挟んで箸休めを入れるかもしれません。