「あなたがつばめさんですね? ワタシは梓みふゆと申します」
「はい。琴織つばめです。たまに顔を合わせるでしょうがよろしくお願いします」
やちよさんと面会してから数日が経過した。
私はみかづき荘に呼ばれ、もう一人の西のリーダー。梓みふゆさんと顔を会わせていた。
みふゆさんもやちよさんと同じく私よりも二つ年上の人で、ショートカットにした絹糸のような白い髪は可愛らしく頂点で二つハネており、丁寧で物腰柔らかな物言いと合わさって親しみやすい印象を与え、何より紺色の魂は霧の中でほんのりと輝きを放っており幻想的なイメージを抱かせる。冷静で大人びてどこか近寄りがたい雰囲気を放ち、激しくも清らかな水の流れを想起させる魂を持つやちよさんとは何から何まで対照的だ。
共通点を上げるならどっちも顔が良いことか。直視しているとなんだか申し訳なくなってくるぐらいには顔が良い。なんだこれ。顔面の暴力か?
その上、明日香さんから聞いた限りでは水名で有名な呉服屋の一人娘だと言うじゃないか。
顔、性格、家。全部が恵まれているというのに、魔法少女になるとは何だか世の中の闇が垣間見える。
そんな感想を頭の中で長々と浮かべつつ、私はみふゆさんに挨拶をする。
みふゆさんも礼儀正しい私に笑顔を浮かべて返事をした。
「はい。同じ魔法少女の仲間としてよろしくお願いします」
『……ん、よろしく』
――あと、なんか後ろに憑いてる人がおまけについてきた。
みふゆさんの背後にじっとつき纏う、金髪で目つきの悪い少女。
今の私とどっこいどっこいと言った年齢の彼女は、あろうことか半透明の姿で頭一個分ほど宙に浮いていた。
――そう、幽霊である。
『幽界眼』の異能を持つ私は魂が見えるのは勿論、ときたま宙を漂う死者の魂……つまり幽霊を視ることもできてしまう。魔女の結界の中にも、たまに捕食を免れた魂が浮いているなんてことがあったりする。まあ、大体は存在を保つことができずに霧散するのだけど、強い恨みや後悔といった感情を持っている魂は、その感情エネルギーを楔として現世に留まることがある。それが幽霊だ。
幽霊は厄介なことに、私が意識的に魔眼を発動せずとも視認できてしまう。肉体という壁が存在する生者の魂と、むき出しの魂である幽霊のどちらが見やすいかと言われたら断然後者だからだろう。
彼らは大抵こっちが見えてることに気が付くと近寄ってくる。自分たちを認識できる生者なんて物珍しいに決まってるし貴重な接触の機会なのだろう、こっちから会話を持ち掛けることもできる。ただし端から見たら虚空と会話をしている非常に痛々しい人と見られるので、基本的にはシカトしている。
それに幽霊と積極的に関わり続けるのはあんまり良くないらしい。生者と関わりすぎると現世への未練が段々蘇ってしまい悪霊と化す可能性があり、そういう意味でも見て見ぬふりをするぐらいがちょうどいいのだと父は言っていた。
みふゆさんの後ろに憑いてるの金髪の少女は恐らく仲間の魔法少女とかだろう。それにしてもここまではっきりと形を保っているのは初めて見た。大体は人魂か胸像めいて中途半端なものが大半だ。それが生前の姿そのままとは、どんだけ未練が強いのかあるいは残した仲間が心配だったのか。ともあれ現世に強い関心を持って留まっている、というか憑りついているのは間違いない。だってあれ背後霊だもん。いかにも見守ってますよ感を出している。
幸い、悪影響を与える類ではないことはみふゆさんと会話しながらそれとなく観察する中で分かってきたからまあいいとして――
……あ、今完全に目が合った。
『……あれ、君、もしかして見えてる?』
うわ、話しかけてきたよ。
悪いけどシカトシカト。
ここで反応を返して、みふゆさんに訝しまれるのは面倒だ。
「……? 何かありましたか?」
「いえ、何でも。やちよさんもそうですが綺麗な方だなあと」
「あら、そうですか。やっちゃんはモデルさんですからワタシなんかよりもよっぽど綺麗ですよ。BiBiという雑誌で収録を受けているのでよろしければつばめさんも買ってみてください」
『うん。二人はとても綺麗だ』
こらそこの幽霊、いちいち相槌を打つな反応しそうになるだろうが。
「ああ、それとワタシは水名女学院の生徒です。参京区とは隣なので、もしかしたら魔女退治の時も一緒になるかもしれませんね」
「ええ。そうなった時は遠慮なく頼りにさせていただきますよ」
後輩に頼られるということが嬉しいのだろう、私の言葉にみふゆさんが顔を綻ばせる。
「それはそれとして、東のリーダーさんとも挨拶ができたらいいんですが……」
「それはちょっと難しいかもですね。つばめさんが西の魔法少女として活動する以上、東のテリトリーに不用意に近づくのはよくありません」
『……うん。
「なるほど。十七夜さんという方で――」
あ。
やってしまった。
明らかに幽霊の発言を引用してしまった。
それにみふゆさんが東のリーダーの名前を言ってないのに、私が先に言ったらどうしてそれをと怪しんでくる可能性がある。
真実を言う必要はないだろうが、変な誤魔化しをすれば不信感を与えてしまいかねない。
だが落ち着くのだつばめ。
この程度の失言、TRPGで鍛えたカバー力があれば乗り切れる。
ここは焦らず、違和感のない言葉に繋げるのだ。
「十七夜さんという方でしたよね。名前だけは知っているのですが、どういう方なんですか?」
「そうですね……正義感が強く、自分にも他人にも厳しい人といったところです。容赦もなく、テリトリーを侵すと警告どころか問答無用で追跡してくる可能性もありますので、不用意に東側に近づくのはやめたほうがいいかと」
「なかなか苛烈な人なんですね。わかりました。気を付けます」
よし。
何とか怪しまれずに済んだ。
だが問題は……
『ねえ君、やっぱりあたしの声聞こえて――』
彼女の発言を受けて返した以上、無視し続けるわけにもいかない。別に無視し続ければ諦めてもらえるだろうが、それはそれでこっちの良心が痛む。
この際、一度ちゃんと会話をしておくべきだろう。そのためにもどこか二人っきり。人の寄らない場所とかに誘導できないものだろうか。
「それじゃあ私はこの辺りで。みふゆさん、今日はありがとうございました」
話のキリがよいところで席を立つ。それと同時に幽霊の目を見て、『ちょっと来い』と念を送ってみる。推定・元魔法少女とはいえ、幽霊相手に念話が通じるとは思えないけど、やるだけやってみる。
「ええ。次も会えたらまた色々お話しましょう」
みふゆさんはにこやかに私を見送ってくれた。
「あら、もう帰るのかしら?」
居間を出ると、気を利かせて自室に戻っていたやちよさんと鉢合わせ。
「ええ。あまり長居するのは悪いですし」
「そう。それじゃあ帰り道、気を付けてね」
「はい、それでは失礼します」
こちらも挨拶を交わして私はみかづき荘を出る。
少し歩いて人気のない路地に入った私はため息をついた。
「ふぅ……。もう話しかけても大丈夫ですよ」
『ん……、最後に念話を感じたから、追ってみたけど、やっぱり見えてた……』
振り向きざまに言えば、ちゃんと後をついてきた半透明の少女から返事が返ってきた。
まじか。幽霊でも念話通じるのか。あるいは私がこういう能力を持っているからこそできる芸当なのかもしれない。
自分の能力の拡張性を考えながら、私は目の前の幽霊に挨拶をする。
「では改めまして。私は琴織つばめです。あなたはどこのどちら様でしょうか、背後霊さん?」
『……雪野かなえ。二年前まで……やちよ達とチームを組んでた』
「やっぱりやちよさん達の関係者でしたか。それで、どうして背後霊なんてものやってるんです?」
『うん。そうだね――』
そうして、ある幽霊の生前語りが始まる。
曰く、ある犯罪組織の男を追っていたら東のテリトリーに侵入してしまい、東の魔法少女のリーダー――
しばらくはやちよさんのお婆さんを含め、魔女狩りをしつつも穏やかな日々を過ごしていたが、強力な魔女、恐らく中級だろうと目される魔女と戦うことになった。
戦闘そのものは上手くいっていたのだが、やちよさんとみふゆさんが使い魔に拘束されたのを庇った際に、ソウルジェムに魔女の攻撃が命中してしまい、そのままソウルジェムが砕けて死亡。
魂がソウルジェムから抜けてしまったかなえさんは自分の人生に後悔はなかったが、自分に正直に生きられるようにしてくれたやちよさん達を残すことが心残りだった。そうして気が付けば、こうして一人幽霊として、やちよさん達に憑りついていた。
かいつまんでそのようなことをかなえさん(故)は語ってくれた。
死んで尚友のことを思いやるなんて、エモいじゃありませんの。
――いや、長いわ。
「かなり詳しく喋りましたね……」
『自分でも驚いてる……。死んでから……誰かと会話したことなんてなかった……』
「そもそも、幽霊を見ることはあってもそこまで饒舌に喋れたりするほうが珍しいですね。大概は自分の意志もあるかわからずに彷徨っていることがほとんどなので」
『やっぱり……あたしの他にいる幽霊、どれも話が通じなかった』
そう。幽霊と会話できると言っても、大体が恨み言や後悔を吐き出すばかり。実際は会話が成立するケースのほうが珍しい。魔法少女の幽霊と出会ったのはこれが初めてなので、もしかしたら魔法少女は魂の出力が強い分、霊体であっても自我を保てているのかもしれない。もっと言えば、幽霊になる前に魂が魔女化しているほうが圧倒的に多いのかもしれないだけかもしれない。こればっかりは検証できないのでわからない問題だ。
それはそうと、やちよさんとみふゆさんはソウルジェムが魔法少女の魂であることを知っていたか。しかし四年も魔法少女やっててソウルジェムが魂であることを知らなかったのは運が良いのか悪いのか。
ひとつわかるのは、彼女たちがかなりの戦上手であることだ。そんな予定はまずないとは言え、敵対するような真似は避けた方が良いだろう。
「あの、一応聞きますが、やちよさん達はソウルジェムのことについてどれぐらい知ってて……?」
『……魔法少女が魔女になることは知らないよ。あたしだって、幽霊になってから知ったから』
「だったら黙っておきましょうかね。神父は多分そのあたり不用意に喋りませんし」
『ねえ、前から思っていたけど……あの神父……一体何?』
「魔女を根絶させることに躍起になってる狂信者の一人ですよ。個人的思想はともかく、組織としては魔法少女が魔女を狩ってくれる分には都合がいいから支援してるといったところでしょうね。悪霊祓いもすると聞きますが、かなえさんは多分大丈夫でしょう」
私も音子さんから色々聞きましたが、おおざっぱな歴史と魔法少女に関係する事柄以外はほとんど教えてくれなかったんですよね。まあ、ちょっと話を伺っただけでかなりの底知れなさを味わったので必要以上に知りたいとも思わなかったけど。
「……ま、それはそれとして。既に仲間を亡くされていたとは、それでも戦えている辺り、あの人たちは本物の猛者ですね」
『……まあね。あたしのこと、なんとか立ち直ってくれた……』
ソウルジェムが魂であることを知ってショックを受ける魔法少女は多い。私はソウルジェムの単語を聞いた時点で魂を連想してしまい、挙句の果てにこんな魔眼を持ったことで契約早々から悟る羽目になったので例外とする。
美緒はそのあたり何も知らなかったので、あの陰険な魔法少女が魔女化の真実ごとバラしたときはひどく衝撃を受けていた。それでも最終的に自力で立ち直るのは図太いのか本当にお気楽なのか。あと音子さんがそのあたりを全部知ったうえで契約したというのは覚悟決まり過ぎてると思う。
「さて、色々と話し込んでしまいましたが。そろそろ時間もヤバいので本当に今日はこの辺で」
『……そうだね。引き留めることになって悪かった』
「いいですよ。おかげで直接聞きづらいこととか知れましたし。幽霊とまともに会話する貴重な体験もできましたから。ただ、これから私とはあまり会話しない方が良いと思いますね。変に未練とか湧いても、面倒でしょう?」
こんなにエモい友情を見せられて名残り惜しいが、だからといって必要以上に死者に関わりすぎてはいけない。生と死の境界に触れた者として、その不文律は遵守すべきだ。
『……うん。あたしは既に死んだ身。下手に関わるつもりはない』
「そうですね。見守っているのが丁度よろしいかと。それではまた。見かけたら念を送るぐらいはしますよ」
『うん。それじゃあまた……ああ、でも、一ついいかな?』
「なんでしょうか?」
私が問いかけると、かなえさん(故)は少々気まずそうにして、
『……その、大丈夫なの?
私の指に輝く、
「……あー。そうですか。わかっちゃいますか。私のこれ」
中々クリティカルなところを行かれたなと、私は苦笑いする。
そう。
私のソウルジェムは、一度砕け散り、この銀色の楔で無理やり繋ぎ止められている。
紆余曲折ありこうやって一命をとりとめたわけだが、やっぱり端から見れば異質なものに見えるのだろう。
「大丈夫ですよ。
『……ううん。むしろ綺麗だよ』
「そうですか……ありがとうございます。それではまた」
『うん……また』
いずれこの異質なソウルジェムのことについて、誰かに話さなくてはいけない時も来るだろう。その時、一体どのような反応を取られるか。何せかなりの反則というかバグ技じみた事をした結果だ。気味悪がられるかもという心配がないわけではないが、魔法少女というのは割と何でもありな世界だ。出来る限り前向きに考えるようにはしている。
そういう意味では、秘密の漏れることのないこの人(故)が最初に指摘してくれたのは幸運かもしれない。死者との出会いにも恵まれているとは、なんとも私らしい。
そんなことを思いつつ、私は帰り道を歩いていった。
◇
彼女が去ったあと、ワタシはソファに深く腰掛けて息を吐き出しました。
「……ふぅ」
「お疲れ様、みふゆ」
「ありがとう、やっちゃん」
やっちゃんが淹れてくれた牛乳と砂糖がたっぷり入ったカフェオレを飲む。
暖かい甘みと、それを引き締める苦味が口から身体に広がっていき、心が落ち着いていきます。やっぱり、やっちゃんが淹れてくれるカフェオレは最高です。
「それで、どうだった? 琴織さんは」
「やっちゃんの言う通り、しっかりしてそうな子でした」
そうして、先ほどまで話していた魔法少女を思い返します。
琴織つばめさん。
二年間別の街で活動し、最近になってこの神浜にやってきた二つ年下の魔法少女。
六年ものベテランと聞くと縮こまってしまう子もいる中、ワタシ相手に物怖じせず礼儀正しく話してくる姿勢は、先輩として敬いながらも仲間として対等に見ている。あるいはこちらを逆に品定めしているようでした。
その堂々としながらも謙虚な物言いは不遜にも見えますが、むしろこの魔法少女が多く住む神浜においては、それぐらいの胆力がなければ立ち回っていくことは難しいでしょう。そういう観点でも、彼女は上手くやっていけると思いました。
実力についてですが、話している最中に感じた魔力の強さはワタシと同じぐらいでしょうか。
やっちゃんが言うには、あの紺染神父の義理の妹さんが面倒を見ていた魔法少女だそうです。
あの事あるごとに義妹自慢をしてくる神父さんから何度も聞いた話ですが、音子さんと言う人は魔法少女としてもかなりの強さを誇っており、容赦のない力で多くの魔女と反社会的な魔法少女を倒す姿から『
そんな人に師事していたというのですから、つばめさんの戦闘技術も素晴らしいものなのでしょう。ワタシなんか最初は神父さんのコイン投げを防げなかったのを考えれば、才能があるのは間違いありません。
心なしか若干目が泳いでいた気もしますが、やっぱり緊張はしていたのでしょうか、そういうところは可愛いなと思います。
ももこさんもそうですが、最近は才能のある子が増えてきて嬉しい限りです。月夜さんと月咲さんも、二人で力を合わせて魔法少女として活動できている。頼もしい後輩ができるのは、いつになっても嬉しいものですね。
ですが、懸念事項が一つ。
「ですが……同時に少し危ないとも思いました」
「みふゆもそう思う? 小さい街から来たって言ってたし、テリトリーの意識が疎いのかもしれないわ」
つばめさんは西のリーダーである私たちの他に、東のリーダーである十七夜さんにも挨拶しようとしていました。
通常なら律儀だと感心するところですが、今の神浜は魔法少女が増えており、反比例するように魔女が減り始めている。今はまだ些細なものですが、おそらく加速度的にその影響は出て来るでしょう。
魔女の減少はグリーフシードの減少。不意の魔力不足が死に繋がるワタシたちにとってグリーフシードの枯渇は死活問題です。
そうなれば、東西にいる魔法少女たちはグリーフシードを求めてより一層魔女を探すことになる。当然、よそ者への警戒心はより一層強くなるでしょう。そうなった場合、真っ先に目が向けられるのは中央区の魔法少女か、あるいは対立する区の魔法少女か。あるいはそのどちらでもない、神浜の余所者か。
つばめさんは、まさに神浜の魔法少女たちからすれば余所者です。何かがあった場合、槍玉に挙げられる可能性は決して低くないでしょう。
それに彼女はここ最近、他の魔法少女と接触するために参京区で魔女を片っ端から狩っていたと言う報告もあります。そのことで明日香さんに誤解されたとのことですし、周りの目を気にしないような振る舞いをしなければいいのですが……。
まあ、自分でも浮かれていたと本人は反省していましたので、今はその言葉を信じるとしましょう。
「何はともあれ、慎重な行動をしてくれることを祈るしかないわね」
「はい。場合によってはそれなりの対処も必要でしょう」
琴織つばめさん。
歓迎する気持ちは本物ですが、今後の彼女の動向には、目を光らせておく必要がありますね。
〇琴織つばめ
霊感ガチ勢。
幽霊が見えるので心霊スポットは逆に嫌になった模様。
〇梓みふゆ
まだみかづき荘にいた頃。たまに写真に霊が映るとの噂。
〇雪野かなえ
故人なのに出てきちゃった。思いついてしまったから仕方がないね。
免停は向こうから関わってきただけなのでセーフ。
とはいえ、そこまで絡まない。
〇つばめのソウルジェム
黒紫色。
大きく罅が入っているが、それを白銀色の金属めいたものが繋ぎとめ、時折脈打つように光っている。
(一人称パートについて)どっちが見たい?
-
つばめちゃん視点
-
原作キャラ視点
-
いいや両方だ
-
先にEP1を書くんだよ