ChapterⅢ【出陣】
「アリナ!」
鮮血を吹き出して崩れ落ちるアリナに駆け寄るみふゆ。
袈裟懸けに刻まれた裂傷からは夥しく血が流れ出しており、大理石に赤く広がっていく。
「"結界…………確かにそれなりの素養はあるようだが、それまでだ。たかだか逸材程度の力が、悠久の時を生きる我が主の威光にかなう道理なし"」
「……チッ、作戦続行だ!」
再び鳴り響く剣戟と銃声を耳にしながら、夜鴉は先ほどの事象について考察する。
黒騎士はアリナの結界そのものをその剣で引き裂くことで脱出した。
あの騎士が発した魔力の輝き。それに触れた途端、アリナの魔力の残滓が霧散するのを夜鴉の眼はかろうじて捉えていた。
つまりあの騎士の魔力には他者の魔法を掻き消す、あるいは魔力そのものに干渉する性質があるということだ。
(クソ厄介だな……)
自分が同質の力を悪用している分、その危険性については身に染みて理解している。
「これは一体……」
「呪い返しですよ。相手は使い魔とはいえ上級魔女に匹敵する存在。そんなものを己の裡側に招き入れるなど自殺行為も同然です」
「言ってる場合ですか! とにかく治療しないと……」
「ほっときなさい。ソウルジェムが無事であるなら勝手に治ります。最悪、ドッペルを出せばいい。ここからが本番だと言うのに貴女の魔力を浪費させられますか」
淡々と事実を述べる葛葉に声を荒げ、アリナの回復を計るみふゆ。
だがウズメはそれを制止し、それよりもと葛葉に問いかける。
「はい、なんでしょうご当主」
「あれを倒す算段は?」
「犠牲を考慮しなければ、追い返すのは可能かと」
この中で最も魔導に通じ智謀に優れた翠の少女は即座にこの場の最適解を導き出す。
おそらく白羽根の何名かを捨て石にすれば黒騎士にも刃が届く。手痛い傷を負わせれば、流石に消耗を嫌って一時的には退けさせられる。その過程で少なくない犠牲は出るだろうが、最悪の結果は免れられる。極論、ウズメ達含む翼の羽根が全て死んだとしても、マギウスとイヴさえいれば解放は成り立つのだから。
それが最も現実的な案だろう。だがウズメは首を横に振った。
「それではいけない。あのようなものを撤退させるだけでは再びイヴを狙うでしょう」
「では、どうすると?」
「決まっています――あの騎士を、討ち取ります」
「正気ですか!?」
断固とした宣言にみふゆが瞠目する。
ウズメの実力は知っている。葛葉の卓越した陰陽術も、あやせとルカの力も、宴の武装も――
だが、あの騎士は桁違いだ。
見ただけでも実力の差が分かるほどの威圧感。
魔女すらも手下として従える強力な呪い。
マギウスの魔法すら真っ向から破った魔力。
次元の違う相手を前に、この女傑はそれでもと立ち向かう道を選んだのだ。
……あるいは、自分が臆病風に吹かれているだけかもしれない。
「ええ。実を言えば、いずれこのような相手が立ち塞がることは想定していました。他所の魔法少女か、聖堂騎士か。そのいずれでもありませんでしたが、アレが魔性というならば斬ることこそ我が本懐。ここで退く道理はありません」
「……仕方ありませんか。あなた方にここで倒れられるのは我々としても不都合が過ぎる。何よりイヴが十二魔女の手に渡ると言うのも非常によろしくない事態。ただでさえ世界中に影響を及ぼせる魔女、それを神浜の霊脈に根付かせた状態で侵食されたとなれば、この街そのものが奴らめの領域に上書きされましょう」
「何やってくれてんの?」
さらりととんでもない事実を暴露した葛葉に、夜鴉が抗議の目を向けるが、ほほほと笑って受け流されてしまう。
この上なく不穏ではあるのだが、しかし今ここで急いで問い詰める話でもない。ひとまずその話を脇に置いた。
「ウズメ、私たちも……」
戦いに加わろうとする灯花をウズメは制止する。
「お嬢さまたちは下がっていてください。あなた方の身に何かあったとすれば、私は御父上に何と報告すればよいか」
確かに灯花の『変換』によるエネルギー照射は強力無比。
ほぼ無尽とも呼べる熱量を放ち、魔女であっても簡単に蒸発させる力は確かに通用するだろう。
けれどそれはウズメの戦う意義ではない。
万が一、灯花とねむの二人が致命傷を負ってしまえば例えイヴを奪われずとも魔法少女の解放はその時点で頓挫する。
必要なのは『回収』の力だけではない。『変換』と『具現』。そのどちらかでも欠けてしまえば容易く綻んでしまうシステムなのだと、夜鴉は父からの推察を思い出す。
「その通りだマギウス。私たちはマギウスの翼。助けとなる者達がここであなた方の手を煩わせるなど、それこそ存在意義の否定というものだ」
「でもっ……」
「……仕方ない。僕のウワサが力負けして、アリナの結界も破られた以上、灯花の変換も通用しない可能性がある。いや、単純な火力という点では適任ではあるのだろう。ただし、その魔法を見せればあの騎士は間違いなく君を狙ってくるだろう」
ウズメの言葉に夜鴉も賛同するが、灯花はなお食い下がろうとする。
そこに理屈をつけてを説得するねむもまた、表情では納得していない様子だった。
普段は他人を使うことを当然として、羽根たちを魔女狩りに赴かせることに眉ひとつ動かさないマギウスがここまで感情を露わにするのも珍しい。どうやら普段の余裕さは自分たちの優秀さ、強さといったもの以上に、ウズメの力と献身によって支えられていたのだろう。
(まあ、ここまで完璧な従者がいればそうもなりますか)
いくら天才とはいえ、彼女たちは中学生にも満たない幼子。
身の回りに付き従い、世話をする大人に対して家族と同等かそれ以上の親愛を抱くのは当然のこと。
それが例え歴戦の強者であっても、立ち向かうのは自分たちの魔法すら破る災厄の眷属。
もしも、この忠実な従者を……大切な家族を失うかもしれない事態に不安を覚えるのも仕方がない。
「夜鴉さん……」
「腹を括れ。どの道、あんなものを野放しにできる相手ではない。それとも、あの《鉄の英雄》がこの街に戻ってくるまで逃げ続けてみるか?」
「……わかりました」
みふゆも覚悟を決めて立ち上がる。その傍らでアリナはずっと痙攣中であり、そろそろ失血がヤバいことになっていた。
「で、策はあるのか?」
「ええまあ。まず、かの者は間違いなく呪詛によって強固な護りを得ております。おそらくは主たる牡羊座の魔女から与えられた呪の欠片でございましょう」
「……
「おや、おや。ご存じでしたか。超級の魔女が持つ現実を脅かし法則を捻じ曲げる呪詛。あれがある限りはまともに立ち行くこともできないでしょう」
最上位に達した魔女の核。グリーフシードに宿る
極限にまで育った呪いはその在り様からして通常の魔女とは異なるもの。魔女の結界には物理法則が通用しないものもあるが、渇望真理はそれを現実世界にまで拡大したもの。要は世界そのものを自らの結界に塗り替え、絶対的なルールを周囲の全てに押し付けるのだ。
例えば、傷を蝕み、生命を脅かす生絶の火が燃え盛る
例えば、あらゆる罪を認めず、その身に抱えた業を毒に変換する
例えば、あらゆる災厄を跳ね除け、同時にあらゆる敵を砕く加護を与える
彼がその身体から滲ませている呪いは周囲を侵食する。じわりと滲み出す程度なのは、おそらく彼が使い魔であり、呪いが主である魔女から与えられた力だからだろう。もし牡羊座の魔女本体が出てきていれば、とっくの前にウワサの結界なんぞ塗りつぶされている筈だ。
「ですので、まずはその護りを攻略しなければなりません。私がそのための結界を張りますので、梓さまと鶴喰さまはお二人に加勢して足止めを。そうしてヤツの護りが弱まった瞬間に一斉攻撃。そしてウズメ様にトドメを刺していただく。この方法以外にありますまい」
「随分と簡単に言うが、できるのか?」
「外ならともかく、ここはフェントホープの結界内。私も構築に関わっておりますので、まあその辺りはチョチョイと。とはいえ、これまでイヴへ供給していたエネルギーを少し消費しなくてはなりませんが……」
「如何しますか、灯花様」
「許可! どうせアレをどうにかしないとイヴが奪われるんでしょ? そのコストぐらいはすぐにペイすればいいもんね」
「分かりました。ではすぐに掛かりなさい」
「一旦確認挟む必要ありましたか? まあいいですが、それでは――
――式神形成・前後衛鬼
――式神形成・左右頭将
葛葉が放り投げた紙が四方へと飛ぶ。
瞬間、赤と青の肌をした二対の鬼と、牛の頭と馬の頭持つ二組の獄卒が出現する。
前鬼、後鬼。牛頭と馬頭。
名高き日本の怪異。人を護り、罪を裁く神の遣いが葛葉とマギウスを守護するように四方を固めた。
「これで護りは良し。これから陣の構築を行いますので、その間は頼みましたよ」
「上出来です――鶴喰!」
「心得た」
夜鴉が秘めたる魔力を解放し、黒翼を顕現させる。
そして羽ばたきと同時に全力で大地を蹴り、跳躍――ならぬ飛翔。
それに続いてみふゆも戦場へと跳んでいく。
「では灯花様、ねむ様。行って参ります」
「ウズメ……」
そして自らも出陣しようとした時、ウズメは唐突に裾を掴まれた。
振り返れば、護るべき主とその朋友がこちらを見上げていた。天才としての自信に満ち溢れた不遜な笑顔は欠片も無く、ただ従者の身を案じて涙ぐむ視線がウズメの眼と交わった。
「大丈夫ですよ、お嬢様」
ウズメは屈みこんで目線を合わせ、穏やかな笑みを浮かべて灯花に語る。
「あの狼藉者を貴女がたには指一本触れさせません。魔法少女の解放……
「……それだけじゃ駄目。ちゃんと、帰ってきて」
「かしこまりました。では」
一度灯花を抱きしめ、ねむの頭を優しく撫でる。
そして、沙羅ウズメは血風吹きすさぶ戦場へと足を踏み出した。
◇
ChapterⅣ【血風怒涛】
既に異形顕現を解禁した夜鴉は最高速度で前線にたどり着き、そのまま双樹と切り結ぶアルファルドへと肉迫。鎧の継ぎ目を目掛け、全力の突撃が繰り出される。
「"ぬぅっ!"」
迫るは音すらも置き去りにした大質量!
並みの魔女であれば胴体に風穴が空くどころか、穂先に密集する棘によって跡形もなく粉砕せしめる一撃が鎧ごと貫かんとする。
だが黒騎士はこの意識外からの突撃にも反応し、その剣によって軌道を反らすどころか、むしろ真っ向から迎え撃ってみせた。
「ッ!!」
火花を散らし、鉄片が舞う。
鎧へ飛び散った虚火を見て、黒騎士が笑う。
「"その力……ハハッ、死の炎とは。これは珍しいものに出逢ったな"」
(なんだこの馬鹿力は! まともに打ち合ってられませんよ!!)
最適な迎撃では無かったと言うのに、剣で突撃槍に拮抗するどころか押し勝つ黒騎士の膂力に冷や汗を流す夜鴉。
たたらを踏んで後退したところに黒騎士は追撃の斬撃を放とうとするが、それは上空より飛来したチャクラムによって阻まれる。
夜鴉は体勢を立て直し、その横にみふゆが着地する。
街で頭目を張れる実力者が四人。
なるほど、そこそこの連中は揃っている。おまけに希少な異能持ちもいる。
黒騎士は彼女たちの力量を冷静に把握し、どうやら多少は趣のある戦いを演じてくれるだろうと結論を下した。
「"ふむ……どうやらこれで戦力はすべてか?"」
「――ハハッ、それはちょっと見くびりすぎだよアルファルド殿」
そうやって剣を構えた騎士を、宴が嘲笑う。
「
視線だけが下に移る。
己から三歩分。剣の間合いの内側。
そこには低い姿勢で踏み込み、緋色の刃を握る紅き武者の姿が――。
"なんと"
"これは"
――血刃ノ壱 暁刀
一閃。
鎧の隙間。首を切り落とさんと掬い上げるように迫る剣筋を、黒騎士は大剣の腹で反らす。
狙いを其れた斬撃は鎧の胸を掠るに留めるも、既に次の斬撃が鋭角を描いて襲い掛かる!
「"ヌゥゥ……フハ、ハハハハハ!"」
驚愕は一瞬。簒奪騎士は歓喜の叫びと共に剣で迎え撃つ!
刀と大剣。異色の剣技による応酬は、真紅の武者が跳び下がったことで一旦の終わりを迎えた。
仕切り直し。命削る戦場に訪れた束の間の静寂。
加勢した者たちを加え、総勢五人の戦士を見て黒騎士は高揚を示すように剣を大きく振るった。
「"まさか、まさかよ! これほどの強者が極東の僻地に集っているとは!! これはさぞ素晴らしい余興になる!!! 女王よ、どうかお喜びを。此度の演目、悠久の記憶に残る一幕になるでしょう!!!!"」
高揚の言葉と共に膨れ上がる呪詛。
心弱きものであれば、心臓を抉り取られるような、あるいは脳髄を引きずり出されたような錯覚と共に気絶するほどの殺気と呪い。
それは力の使い方の転換。防御から攻勢に移ったことへの証。
簒奪の騎士は様子見を止め、目の前の魔法少女たちを『多少はやる強敵』から『自分と互角の猛者』として認識を改めたのだ。
「
「あやせ、ルカ。戦況は如何に」
敵を見据えたまま、ちらりと目配せをしてきたウズメに
「申し訳ありません。私たちで攻撃を続けていますが、あの者には一向に届かず。技を賜っておきながら、私たち一生の不覚です」
「いえ……あなた達の力不足、というわけでもないようです」
そう言ってウズメは手元を見る。
己が魔法で編んだ真紅の刀身。その一部が硬度を失い、元の血液となって地面に溶け落ちていた。
「それは……」
「なるほど。ヤツの絡繰りはそういうことか」
宴が納得したとばかりに頷く。
黒騎士の力に予想をつけていた彼女は、ウズメが持つ血刃の変化を見てその詳細を結論づけた。
「恐らくだが、ヤツの護りは完全無欠ではなく、何らかの条件があるものだ」
「条件?」
「ああ。私が撃ち込んだ打撃から計測できた反動エネルギーの不自然な減衰。さらには魔力付与で強化された専用弾による弾幕をものともしない耐久力……だと言うのに、あやせちゃんとルカちゃんの攻撃は真面目に防いでいた。この違いは分かるかい?」
「ふむ……」
宴の魔法は機械の操作であり、それに伴う兵器系の強化。
双樹あやせとルカの魔法は炎と氷結。
そして沙羅ウズメの魔法は血を操ること。魔力を通じて自らの血液に強度を与え、自由自在の手あるいは武具としてのカタチをもたらす。
単純な言葉で言い換えれば、彼女の固有魔法は血液に限定した"強化"と"操作"……。
「……魔力による強化の無効化か」
「予想だけどね。単純に攻撃を無効化するっていうなら私たちの攻撃を防がず、その装甲に任せて問答無用で私たちを殺しにくればいい話だ。なのにわざわざガードするのは、それだけじゃ防ぎきれない攻撃があるから」
魔法少女が攻撃の際に魔力を込めているのは語るまでもない基礎的な話である。
そもそもとして、非物質の存在である魔女に対して魔力を纏わずに振るわれる一般的な拳銃や刀剣だけでは効果が薄い。例外は聖堂騎士が持つ聖別された武器であったり、ビクトリーグループが開発した過剰火力の銃火器だ。
ではなぜ魔力を込めると魔女に攻撃が通じるのか。それは武具に魔力を纏わせることで威力が大きく増すと言うのもあるが、それ以上に魔女という『絶望』の存在に対して、『希望』を願って生まれた魔法少女の魔力が有効に働くから。闇を光で照らすように、絶望の徒を滅ぼすための優位性を魔法少女は根本的な在り方として持っているのだ。
……つまり、黒騎士の持つ
魔法少女が持つ優位性を問答無用で地に貶め、ただの少女に戻された相手を徹底的に蹂躙する。災厄の眷属の名に恥じぬ凶悪この上ないものであった。
「ヤツの能力は魔力を介したエネルギーの増大を相殺させる。つまり魔力を純粋な物理エネルギーや炎や冷気などに変換してからぶつけるなら減衰率は下がるんじゃないかな」
「属性、ね」
夜鴉は思考を巡らせる。
俗に言えば無属性、物理系の攻撃に対する超耐性。
だからと言って馬鹿正直に属性変換をすれば戦えるというわけでもない。
そもそもとしてカルマデザイアは最高位の呪詛。保有者はそれだけで魔法・魔術の類に強い耐性を持っているも同然だ。
通用する可能性があるとすれば、臨界まで魔力を注ぎ込んだ極大の一撃か、あるいは同じく極限の神秘によって成立する奇跡。
例えばそう、ドッペルなど。
(……いや、それは無謀か)
思いついた案を即座に棄却する。
ドッペルは使用しない。いや、使用できないと言った方がいい。
魔法少女の負の側面、魔女としての力を引きずり出して昇華するドッペルは強力な反面、肉体への反動が大きくさらには見境なく周囲一面に攻撃してしまう欠点が存在する。
簒奪騎士と最初に遭遇した白羽根も恐らくドッペルを使用したはず。
その上でこの状況なのだから、一度二度のドッペルの発動では大した有効打にもならない。となるとやはりデメリットは無視できない。
達人同士がしのぎを削る極限の攻防において、その起死回生の手段が敗因となる可能性が高い。そんなことはこの場にいる全員が言わずとも分かっており、この戦いに於いてドッペルは事実上封印されることとなる。
「……まあ、そんなこと考えなくても根本的にどうにかする方法があるんだろう?」
「ええ。ですので総員、死に物狂いで時間を稼ぎなさい」
「承知!」
その言葉と共に全員が地を蹴り、あらゆる方向から簒奪騎士へと攻めかかる。
真正面から振るわれた黒き大剣を、同じく大剣へと姿を変えた紅い刃が受け止める。
その横から装甲の隙間を狙って繰り出されるのは鉄棘の槍。一度突き立てられれば最後、標的の身体を内側から破壊する死の茨。
これを騎士は肘を打ち下ろし、穂先を反らすことで対処する。そこにジェット推進で飛来した機人の回し蹴りが兜を側面から打ち据えた。
「……フッ、ハハ! やるではないか!!」
「……ッ!!」
人間なら首を抉り飛ばされている程の衝撃を受けてなお、騎士は笑って宴の足を掴む。
そのまま地面に叩きつけ、心臓に剣を突き立ててトドメを刺す……その前に騎士は宴を投げ捨て、後ろから斬りかかってきた炎の刃を防ぐ。
「……すまん、助かった!」
「このガラクタ女、お姉さまの足引っ張らないでよね!」
少女たちが死力を尽くす中、ひらりひらりと紙々が戦場に舞い来る。
それを従え奉るのは翠色の術師。太古の昔より、世の影より日の本を守護してきた神聖なる術を手繰る者。その直系にして秀才と謳われた女が、神々に奉ずる祝詞を朗々と紡ぎ始める。
「
葛葉の周囲をぐるぐると式神が回る。
地に敷かれた織物の上にさらに幾枚もの折紙を重ね、印を結んだそれらを仕切るように動かして指揮を執る。
「
東西南北。主要となる四つを組み合わせて形作られる十二の方位。
味方の武運、敵の凶運。それぞれの気運を司りし神々を式として配置する。
本来であれば適切な位置へと配備すべきそれらを、しかし葛葉は敢えて別の場所へと動かす。
通常ならば風水を無視した配置に意味はない。そも、風水とは最初から存在するもの。人の手で操るものではなく、むしろ人がその在り方に合わせて動く必要がある。
だが彼女は違う。
葛葉の家系は元よりそうした地の流れを掴むことに特化した一族。
さる高名な法師を祖と仰ぐ一派。
その中に於いて、希代の秀才として生を受けたのが彼女だ。
これぞ葛葉が修めし陰陽道の奥義。
霊脈そのものを一時的に操作し、その場所の風水を組み替えて思いのままに操る脅威の技。
式神を使って魔力の流れを誘導し、定めた対象の方角を鬼門へと変えることは容易いもの。さらにそこへ穢れや呪詛を流し込んで圧殺するも良し、あるいは魔を封じる場として閉じ込めるも良し。
その分、緻密な計算と入念な準備が必要とはなるものの、そもそもとしてフェントホープの結界は構築段階から関わっている。
内部に張り巡らされる魔力の流れを一身に管理する身であれば、それはもはや空間そのものを自在に操れるに等しい。
「
簒奪騎士の剣が背後に忍び寄った紫色の槍遣いを上下真っ二つに切り裂く。
少女の亡骸は大気に溶けるように消え、数歩分右に離れた位置から全く同じ少女が槍を突き出していた。
「小賢しい……幻覚など!!」
関節部分に突き刺さる穂先。だが浅い!
虚炎を流し込む前に夜鴉は引きずり剥がされ、追撃の凄まじい威力の蹴りをガードして弾き飛ばされる。
それを飛び越えるようにして上空から双樹が躍りかかり、さらに挟むようにウズメも踏み込む。その両手には二振りの刀。
――血刃ノ拾 双ね暁光
双樹と同じく、双剣を握ったウズメが神速の斬撃を繰り出す。
四方八方より迫る刃を黒騎士は的確に捌いていき――ふと、彼女たちの攻撃に違和感を覚えた。
手数が増し、苛烈さも留まるところを知らない彼女たちの攻め方は正しい。
だが、何かがおかしい。自分を追い詰めると言うよりは、まるで動かさないようにしているような――!
「この魔力の流れは……まさか!!」
黒騎士も悟る。彼女たちの狙い、この戦場に張り巡らされた方陣に。
先の軟弱な檻とは全く異なる、己を閉じ込めるために用意された牢獄を。
「
「
「そこだ!!!」
宴が繰り出した破城槌のごとき掌打を胸で受け止め、黒騎士は振り向きざまに呪いを纏った斬撃を飛ばす。
その方向は一見して誰もいないが……咄嗟に割って入った灰色の人影が、斬撃を円月輪で受け止める。
「梓!」
「くぅ……!」
「ええ、ええ。助かりましたよ梓さま」
衝撃に少なくないダメージを負って膝をつくみふゆ。その少し後ろで隠形が剥がれた葛葉が姿を現し、脂汗が滲む手に持った最後の札を地面へと叩きつけるようにして唱えた。
「――我、
地が脈動し、風が唸り、水が逆巻く。
結界内の魔力の流れ、そのすべてを組み替えて織りなすは神の恩寵満ちる園。
魔を閉じ込め、封じ、穢れを洗い流す大結界。
――風水地学立証・破魔結界
○葛葉道麗
葛葉の真の名前。
隠していた理由は名前を知られるということは呪いにとって致命的であるから。
あとメタ的に陰陽師でこの漢字を使うとモチーフがバレるから。え、最初からわかってたって? ンンンなんのことやら。
○カルマデザイア
以下三つが討伐済みの十二魔女の真理
蠍座:フィールド効果でやけど+毒+渇き。
水瓶座:デバフ無効+呪いのフィールド効果。さらに相手のカルマ値に応じた強制ダメージ。
上記の二体は解除不可のスリップダメージ地獄という共通点があり、ある錬金術師がようやっと完成させた『●なる●●の石』によって無限回復による耐久戦に持ちこんで倒したとかなんとか。
蟹座:無敵防御を攻撃に転用して防げない攻撃を振り回すやべー奴。
福詠&音子の兄妹コンビに加えて特級エージェント一名。その他大勢の聖堂騎士や魔法少女を加えた大部隊が編成されての討伐作戦が組まれるも壊滅。
音子はこれを倒すために、仲間を護るために契約し、障壁によるパリィを駆使して自分の攻撃を跳ね返してぶつけることでこれを破った。
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