つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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『解放を彩る者たち』

タイトル回収話です。


第六十六話 マギウス・カラーズ……①【次なる戦いを見据えて/解放を彩るその名は】

ChapterⅠ【次なる戦いを見据えて】

 

 

 あの死闘から三日。

 

 疲労感を解消した私は、招集を受けたことで再びフェントホープに顔を出していた。

 

 

「やあ鶴喰。君も快復したようで何よりだ」

 

 

 来て早々、信城宴が無駄に気取った声で話しかけてくる。

 彼女は大分深刻な傷を負っていたはずだが、こうもあっさり五体満足で立っているとは。

 

 

「信城か。私はむしろ驚いている。君の体、そんなすぐに直るものだったのか」

「さすがに換装したとも。軍事運用も目的である以上、手軽にとっ換えられるのがこの義体の強みなのさ」

 

 

 さすがに、ここをやられたら無理だけどね。と金髪の靡く頭部を軽く指でたたいて見せる。

 そこからは彼女のソウルジェムと思わしき銀色の輝きが漏れ出ている。つまり彼女のソウルジェムは頭部のどこかということだろう。

 

 ……まさか中にあるとか言わないよな?

 

 

 そのまま適当に相槌を返しながら二人で廊下を歩く。

 不思議なことに、道中で羽根を見かけることは一度もなかった。

 白羽根以下はまだ出てきていないのだろうか、と思いながら会議室へとたどり着く。

 

 

 

「おはようございます。お二人とも」

「おそーい」

 

 

 会議室には既に私たち以外が集合していた。

 里見灯花、柊ねむ、アリナ・グレイ。

 沙羅ウズメ、梓みふゆ、双樹あやせ(ルカ)、葛葉道麗。

 

 トップであるマギウス、そして先の簒奪騎士と交戦した六人がここに集められた形だ。

 

 

「とりあえずそこに座りなさい。茶と菓子があります」

「悪いねぇ」

 

 

 毎度毎度のウズメさんお手製の茶菓子である。

 お、今日はわらび餅だ。きなこと黒蜜、両方あるのがニクイ。

 こういう本格的なもの食べてしまうとスーパーのやつがわらび餅という名のスライムにしか感じなくなってしまうんだよね。でも商店街の和菓子屋で買うと高いんだなこれが。

 

 

「どうやら全員揃ったようだね。それじゃあウズメ、始めてくれるかい?」

「かしこまりました。それでは緊急会議を始めさせていただきます」

 

 

 ウズメさんが仕切り、会議が始められる。

 

 

「本題に入る前に、まずは皆が快復したことへの祝いを。しかし誰一人欠けずと言えれば、どれほどよかったのでしょうが」

「確か、早良浮代(さわらうきよ)だったね。最初に遭遇した部隊を率いていた白羽根は」

「ええ。部下のため勇敢にも簒奪騎士に挑んだ羽根のことを悼んでください」

 

 

 黙祷が捧げられる。

 一人の白羽根が命を張って黒羽根を逃がしたからこそ、自分たちはかろうじて奇襲を免れたのだ。

 例えその抵抗が一切の傷を負わせられなかったとしても、決して無駄死にではなかった。その事実が、少しでも彼女の安らぎにならんことを。

 

 

「この度我々マギウスの翼は発足以来の危機を乗り越えることに成功しました。しかし、それと同時に幾らかの課題も浮き彫りとなりました」

 

 

 黄道十二魔女、その眷属の討伐。

 通常であればこれ以上ない名誉を得られる喜ばしい戦果を、ウズメさんは何事でもなかったかのように斬り捨てる。

 

 

「マギウスの翼とは元よりマギウスの後援組織。賢人守護とイヴの生育を阻む者たちへの対抗戦力として設立いたしました。しかしながら、解放の理念に同調した魔法少女は実力に乏しい者たちばかり。そのため、戦力の増強については常から力を注ぎ込んでおりました」

 

 

 ちらりと宴に視線を向けると、当人は誇るようにに髪をかき上げてみせた。

 軍事会社であるビクトリーアームズによって兵器として仕立て上げられた宴は、本人が強力な魔法少女であるだけでなく、軍事教導にも精通しており、彼女が持ってきた装備も含めて羽根部隊の戦力は大きく引き上げられた。

 それでも、あの強化された魔女を相手にするには力不足だった。ウワサによる援護が無ければ戦いが成立していなかった事を考えれば、それらが望めない外での戦いは論外。あの鎧を着せられた魔女も力こそ凄まじいが、神浜の実力者たちなら対処できる。最低でも第Ⅳ位(中の下)魔女までは羽根だけで問題なく対処できるレベルになってもらわないと困るのだ。

 

 

「先の一件は、いわば予行演習。本来障害として備えるべき存在と比すれば、あまりにも容易な弱敵です」

「冗談きついね。でもまあ、確かにその通りだ。魔女化を無くすためのシステムを世界に広げるというのなら、彼女たちの存在は決して無視できない。それにこの街の魔法少女も半分以上は傘下に入っていないらしいじゃないか」

「宴のいう通り! 今までは羽根たちが無理でもウズメがいれば大体の敵はどうにかなると思ってたんだけどねー」

「黄道十二魔女……伝説に語られる魔女たちの頂点に君臨する十二体の魔女。半信半疑だったから後回しにしていたけど、影とはいえ直に接触すればその脅威も理解できた。あれはウズメでも一人では叶わない相手だ。その同類を討伐した『鉄の英雄』が目下の敵と仮想するなら、他の魔法少女に手をこまねくわけにもいかない」

 

 

 当の本人から聞くと大分追い詰められてからの契約で逆転したって話だけど、逆に言うと魔法少女に成りたてでぶっ潰したってことなんだよなぁ。やっぱりあの人敵に回すもんじゃないって。

 

 

「だから、わたくしたちはまずこの戦力を強化できるように組織体制を考え直すのがきゅーむ!。まずは有望な人材を適切な立場に配置しなくちゃね。ここで一番大事なのは、強い魔法少女をひとつの部隊に集めておくこと! 戦力は一点集中させるのが最も効果的なのは説明しなくても分かるよね?」

「で、その集めた戦力でアリナ達の敵になる連中をアサルトするってワケ」

「要するに精鋭部隊だね。わかりやすい強者の存在は羽根たちの解放への意欲や組織への忠誠心を高めること、さらには外部の勢力に対する牽制も狙えるはずだ」

「広告塔も兼ねているというわけだな。常套手段だが、だからこそこの手のプロパガンダは良く効く。私たちを集めたのはその精鋭部隊に揃えるためだね?」

「理解が早くて助かるよ」

 

 

 信城宴や葛葉道麗は外部組織から来た食客。双樹もウズメさんの命令で動くだけの私兵のようなもの。みふゆさんは羽根を纏める立場にあり、私は黒羽根から斥候部隊の長にまでスピード出世した飛び入り。

 この羽根という枠に納めるにはどうにも個性の強すぎる連中を一つの独立した部隊に入れて一括に管理するつもりなのだろう。

 

 

「君たちにとっても悪い話じゃない。君たちにはそれぞれの部門を統括する最高幹部として正式な立場を与えるし、解放の妨げにならないならある程度の独自行動も容認するつもりだ」

「……随分とまあ、大盤振る舞いだな」

「そうしたほうが効率的だと思っただけさ。君たちほどの力を持つ魔法少女なら、羽根を導く解放の象徴となってもらうには適任だからね。自分から言うのも何だとは思うけど、ぼくたちマギウスはあまり羽根たちから好かれていないんだ」

「自覚はあったのか……」

「天才と常人が違うのは当たり前だにゃー」

 

 

 なにせ人を食ったような幼女とサイコアーティストが組織のトップだ。比較的まともなねむですら浮世離れした発言が多く、みふゆさんの評判とウズメさんのカリスマこそがこの組織を成り立たせているといっても過言ではない。そのウズメさんも灯花への忠誠心を隠すことなく傅くこともあるため、羽根たちの中には解放はともかく幹部陣への不信感を持つものもいる。

 その不安を解消するため、六人の実力者を精鋭部隊として白羽根の上に置くことで組織力に問題がないことを広める狙いもあるのだろう。

 

 なんにせよ、この流れは都合がいい。

 幹部として組織の動きをより詳しく把握できるのなら、それはそれでいざという時の身動きも取りやすい。もともと伝令員として重用されていたが、より自由な行動が認められるならそれに越したことはない。

 

 

「そういうわけで、君たちは今この時から精鋭部隊になってもらう。リーダーはウズメに任せる。異存はないかな?」

 

 

「いいだろう」

「お姉さまの下ならなんでもいーよ」

「ええ、異存などありませんとも」

「構いません」

「異議なし」

「畏まりましたマギウス。あなた方の理想のため、私がこの者たちを率いて見せましょう」

 

 

 満場一致。

 ここに私たち六人は一つのチームとして成立した。 

 完全に絵面が悪の組織の幹部集団になってしまったが、これはこれで結構ワクワクしていたりする。だって一度はやりたいじゃん悪の幹部会議。

 

 

「ところで、名前は決めてあるのかな?」

「忘れてたにゃー。それじゃ、今決めよー! 何かアイデアはある人ー?」

 

 

 おい天才。ちゃんとそこ決めとけよ。

 

 

「はーい! 『ウズメ隊』以外考えられないよね!」

「安直だな。情欲が透けて見えるぞ」

「じゃあそういう宴さんは何か案はあるのかな?」

「もちろん。『ビクトリーフォース』、解放のために勝利を捧げる部隊にふさわしい名前だろう?」

「ふっざけんな! 自己主張の塊か!!

 

 

 あやせと宴の二人が取っ組み合いを始める。仲がいいんだか悪いんだか。

 我関せずと茶を啜る。みふゆさんも視線をやるだけで止める素振りはない。完全にこの二人はそういうコントだと認識されていた。

 

 

「おや、おや。喧嘩はいけませんよお二人とも。ここはひとつ、『御伽衆』などどうでしょう? ウワサの守護を担う羽根の代表として、相応しいと思いますが」

「それは君のところ(陰陽寮)で管理している部隊の名前だろう? しれっと傘下に加えるような真似はやめてくれ給え」

「おっとバレてしまいましたか」

 

 

 なんてぐだぐだしているその傍ら、ウズメさんがねむに近づく。

 

 

「すみません、ねむ様。今回もどうかお知恵を――」

「そう来ると思って案を用意してあるよ。どうせ灯花は考えてないと思ってた「むっ!」からね」

「ありがとうございます。――皆さん、ひとまず静粛になさい」

 

 

 ウズメさんの言葉で全員が黙り、その視線がねむに向く。

 

 

「君たちは羽根の上に立つもの。ならばこの名前が最もわかりやすく相応しいだろう」

 

 

 そう言って、ねむはその『名前』を口にした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

ChapterⅡ【解放を彩るその名は】

 

 

 

「はーい! みんな集まってるようだねー」

 

 

 そうして、地下聖堂に集められた羽根たちの前で灯花の演説が進んでいた。

 

 

「もうみんな分かってると思うけど、今日からマギウスの翼は活動を再開するよ。この前は色々あったけど、ウワサのエネルギー回収は問題なくできてるし、イヴの育成に影響はほとんどなし!」

「今回の一件は組織始まって以来の未曽有の危機だった。けれどぼくたちはこれを乗り越えて今を迎えている。だから不安に感じることは何もない。今まで通りぼくたちの活動を支えてくれればいい」

 

 

 安心させるための言葉を述べていく二人。深手を負わされたアリナも口を挟まないが健在で、解放を主導するマギウスが再起不能ということは無い。現状の回復までは完了していると告げられたことで、羽根たちの間からは余計な不安を取り除いていく。

 見てわかるほどに張り詰めていた空気が和らいでいく。しかしそこに「でも!」と灯花が声を張り上げた。

 

 

「わたくし達は現状維持なんて言葉には甘えてはいられない! 今こそ改革を行う時!!」

「あの戦いで君たちも実感した筈だ。自分たちの力不足、ウワサも倒してしまえる相手に手も足も出なかったことを」

 

 

 羽根たちの間から歯ぎしりや呻きが漏れる。

 魔法少女としての無力さなど他ならぬ自分自身が知っている。

 それでも敬愛する自分たちのリーダーの期待に応えるために鍛えてきたし、戦術や装備だって磨き上げてきた。

 でも、あの魔女の大群を前に満足に戦えた者は少ない。最後はウズメが殲滅する光景を背にして、這う這うの体で退却して見守るしかなかった。

 よりにもよって自分たちの不甲斐なさでリーダーに手を煩わせた事実は、羽根たちには敗北以上に堪える屈辱だった。そしてその屈辱こそが、彼女たちを伸ばすバネになるだろう。

 

 ねむはそれを確信して次の言葉を繋いだ。

 

 

「ぼく達はさらなる力を手にしなくてはならない。大事なのは組織としての強さを底上げすることだ……とはいえ、いきなりそんなことを言われても具体的な目標が無ければ分かりにくいだろう。だからまずは君たちのお手本になる者たちを用意したよ」

 

 

 そこで誰かがはたと気づく。

 壇上にいるのはマギウスだけ。

 ウズメとみふゆのリーダー二人の姿がどこにもないことに。

 

 

「西と東の代表のような、解放に従わないぐらいに強い魔法少女たち。魔女を使う事が気に入らない粛清機関。イブを狙ってきた十二の凶星。その他にもわたくしたちの敵、解放を阻むわからず屋さんはいっぱいいる。どれだけ確率が低くても、それが一斉に襲ってきたらわたくし達だって敵わないかもしれない」

「だから、ぼく達を護るための騎士が必要だと思う。飛び立つための羽根ではなく、ぼく達の夢を彩るとっておきの精鋭部隊を」

 

 

 マギウスが立つ一段下。

 六つの色のスポットライトが当てられ、現れた六人の姿が強調される。

 

 

 

「白と黒を統べるもの。羽根を束ね、自らを翼として羽ばたこうとする彼女たちに僕たちは『色』の名前を贈った」

 

 

 

 

「まずは『(あお)』、遊撃兵長・双樹あやせ、双樹ルカ

 

 

 双樹あやせ(ルカ)は不敵に笑い、赤白の折衷ドレスをふわりと浮かせるように一回転。そのままカーテシーを決めて見せた。

 

 

「次に『(みどり)』、魔術顧問・葛葉道麗

 

 

 くすくすと不穏な笑みを崩さない葛葉は、恭しい礼儀をひとつ。慇懃なその仕草は、優雅な深緑色のドレスとはチグハグの不気味さを演出する。

 

 

「『』、斥候部隊隊長・鶴喰夜鴉

 

 

 禍々しき黒い槍を突き立てるのは暗紫色の外套に身を包んだ鳥仮面の少女。その巨大な翼が力強く羽ばたくと、漆黒の烏羽が周囲に舞った。

 

 

「『』、軍事顧問・信城宴

 

 

 銀色の麗人がプラチナブロンドの髪をかきあげ、流し目で羽根たちを見下ろすと方々から黄色い声が上がる。

 

 

「そして『』、羽根部隊監督・梓みふゆ

 

 

 灰色の髪をした女性が優し気に微笑む。その佇まいは七年という歴戦の風格を漂わせており、見る者には夢心地めいた安心感を与える。

 

 

「最後に『(あか)』、統率者・沙羅ウズメ

 

 

 その五人を率いるように先頭に立つ深紅の女武者。マギウスの翼を統べる女帝にして、鮮血の魔法を手繰る組織最強の剣士。

 

 

 

「以上の六名が、これから君たちを導くカラーズだ。みんな、よろしく頼むよ」

 

 

 

 色彩の名を持つ精鋭部隊。

 組織の中でもひと際存在感を放っていた者たち。魔法少女の異端児を集めて作られたこのチームは、大歓声を以て迎えられた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 彩る者(カラーズ)

 白と黒の羽根の上に立つ存在としてこれ以上ないほどにしっくりくる名前だった。簡潔かつ多くの意味を持ち、白と黒で構成される組織の中で明確に特別だとわかるネーミングセンス。

 ちょうど私たちは衣装の色や主張するイメージカラーがバラバラなのもぴったりだった。これで全員白い衣装ですとかだったら台無しだ。そういった点も考慮したであろうねむには感服する。やっぱ本職の小説家は違うな。

 

 

 

「そういう訳だから、これからあなた達はカラーズが管理するそれぞれの部門に再配属してもらうね。配属先についてはもう決めてあるからこの後連絡するよ」

「他にも色々と伝えるべきことはあるけれど、堅苦しい話は後回しにしよう。カラーズ設立を祝って彼女から言葉があるから是非聞いてもらいたい」

 

 

 ねむの言葉を合図に、ウズメさんが一歩を踏み出す。

 自分たちが忠誠を誓うリーダーであり、この度は最強としての姿を見せつけた彼女の姿に、一同が真剣な表情で耳を澄ませた。

 

 ウズメさんはこほん、と咳払いをしてから。

 

 

「では皆さん、この度我らはマギウスより栄えある精鋭部隊としての地位を戴き、私もまたそれらを統べる者としての栄誉を拝領いたしました。そしてあなた方羽根も、彼女たちの下に就いてより一層魔法少女の解放に向けて精力的に活動していくことを期待しています」

 

「……さて、我らは心機一転しより強固な存在として次なる一歩を踏み出しますが、その為にもまずは初心を省みる必要があるでしょう」

 

「この組織に来て日が浅い方、あるいはいまだにこの組織の行いに疑問を拭いきれない方はいるはずです。本当に自分たちの行いは正しいのか。ウワサを使い人から活力を奪い、魔女を餌としてイヴという半魔女を育て上げる。それが魔法少女として真っ当な行いなのかと考えた方もいるのでしょう」

 

 

 突然として組織の頭領が自分たちの行いに疑問を呈するような言葉を発したことで、羽根たちの間に戸惑いの色が見え始める。

 

 

「結論を先に申し上げさせてもらいます」

 

 

 

 全てキュウべえが悪い。

 

 

 

「あなた方はまずどのような言葉をあの獣めに囁かれましたか? なんでも願いが叶う代わりに人を襲う怪物を倒す。ええ概ねそのような言葉でしょう。そしてあなた方はそれを受け入れて魔法少女になった。だからその後はソウルジェムを濁りきらせ、魔女になって同じ人間を襲うようになれ。自分たちだって使命がある、宇宙の為に一人の犠牲程度は問題ない。あるいは自分たちは聞かれなかっただけで嘘はついていない。確認を取らずに契約をしたのは自分の意思なのだから自己責任だと。だいたいまあそんな事をあの獣は宣ったのでしょう。

 ――――全く以ってふざけた戯言です」

 

 

 みしり、と空気が歪む。

 イヴから漏れる穢れにも負けないほどの怒気が聖堂を揺るがした。

 

 

「選ぶ余地はあった? 全て納得した上での契約だった? 戦い続けることが魔法少女の宿命?

 くだらない――そのような寝言に耳を貸すな!! どこの誰が決めたかも知らぬ決まりなど従うな! あのあやかしめの戯言を真に受ける必要がどこにある!! 奴らはただ我らを家畜同然に扱い、あまつさえその後始末を家畜自身に行わせる見下げ果てた外道の所業よ!!

 確かに我らは目先の欲望に眩んで悪魔の契約を交わした! 甘言にそそのかされ、その対価を命で支払うことになった愚か者だろう。

 だがその責任がどこにある!? 現実に諦めて頭を差し出し、不条理に粛々と従うことが幸福だったか? (かしこ)しらのふりをして目の前の苦渋を舐めることが正道だったか? 

 ……そうではないでしょう。現に、あなた達は一度世界を覆している、それだけの権利が人にはある! それだけの力を持っている! お前たちは、私たちは、その権利を一つ先取りしたに過ぎない!」

 

 

 普段のおしとやかさとは一変して声を荒げるウズメさん。大仰な身振り手振りを交えて言葉を吐き続けるその姿は堂に入っており、打ち合わせをして事前に内容を知っていたとはいえ聞き入ってしまうだけの迫力がある。

 

 

「お前たちは一度奇跡を叶えたのだから甘えるなというのは正しいか?

 諦念とともに、何者にも顧みられぬ死を受け入れるか? 運命に爪痕を残せぬことを是とするか?」

 

 

 ……否、否、否!!

 

 

「ならば次は自らの手で奇跡をつかみ取る時! 未来が欲しいのなら、安寧を望むのならば、強者の傲慢極まる高説正論など馬への念仏にも劣るわ!!

 

 魔法少女が希望を与えるというのならば、根本より絶望を駆逐する気概が我らになくて何とする!?

 路傍の石を踏みつけてでも明日を生きるというのなら、その魂を綺羅星の如く輝かせて然るべきであろう!!

 それとも、お前たちはそんなことも考えられぬような豚にも劣る畜生だったか?」

 

「ち……違います! 私たちは、人間です!!」

「その通りです! あんな……キュゥべえなんかの思い通りにされたくない!!」

 

 

 羽根の中から声が上がる。

 呑まれている。高揚(アガ)っている。

 

 挑発や煽動を織り交ぜながら語るウズメさんの演説は羽根たちの意識をいともたやすく呑み込み、完全にその心を手中に収めていた。

 

 

「ならば戦いなさい。知恵がないなら我らの手足となり、力に劣るなら技を極めなさい。それもないならば心を強く持つのです。お前たちはマギウスが通る道を整え、理想に羽ばたくための羽根である。解放は、お前たちが作るのだと心得るがいい!!」

 

 

 ウズメさんが手を振り上げたのを合図として、私たち五人も一歩前に出る。

 

 

「ほら、そんな不安な顔してないで。ウズメさんについていけば、それですべてが解決いたします」

 

 

 筆頭である双樹は自分たちのリーダーへ従うことへの正当性を助長する。

 

 

「その通りだ。今だ人類を家畜と蔑むインキュベーターの技術を踏み越えて、我らはソラの大海を目指す。これを勝利と呼ばずしてなんと呼ぼうか!」

 

 

 宴はインキュベーターへの敵意を煽り、解放こそが盛大な意趣返しなのだと宣言する。

 

 

「委細すべて問題なく。森羅万象我らが手の内。神秘手繰る術を知る我らなら、必ずや奇跡を成し得ましょうや」

 

 

 葛葉は魔法少女ならざる陰陽師として、魔法をその身に宿した少女たちが成す奇跡を担保する。

 

 

「お前たちは既に魔法少女の真実を知り、なおも立ち上がった。その事実があるのなら、必ず自由もつかめるだろう」

 

 

 私が言えることはただ一つ。魔女化という残酷な結末を知りながら、例え他人が齎した救いに縋っていたとしても。運命に抗うために一歩を踏み出した決意を尊重するのみ。

 

 

「ええ。私たちは自由になれます。ならなければいけません」

 

 

 最後にみふゆさんが自分たちの総意を締めくくる。どんな大義を掲げても、根っこの部分は自分が楽になりたい。その想いでいいのだと弱き羽根を肯定する。

 

 

 

 羽根の一人が、震える声で自分の願望を口にする。

 本来なら享受して然るべきだった、ささやかな日常の平穏を。

 

 

「解放されたら、またクラスの皆で放課後駄弁(タピ)りたいなぁ……」

駄弁(タピ)れば善し!」

 

 

「私、3年の先輩に、告白りたいなぁ……」

告白(コク)れば善し!!」

 

 

「なりたい自分(ユメ)、叶えてええんか!?」

実現(かなえ)て善し!!!」

 

 

 

「立ち上がれ魔法少女ども! 今この時より革命の時来たり! 我ら六人が道標(しるべ)となろう!!」

 

 

「我らの尊厳、我らの未来。奴らが人類より搾取してきた何もかもを、今この時より取り戻す!」

 

 

 ――さあ、全てを奪い返す時だ!!!

 

 

 

 ――ォォオオオオオ!!

 

 

「マギウス! マギウス! マギウス!」

「カラーズ! カラーズ! カラーズ!」

 

 

 歓声。喝采。コール。

 全身で熱狂を浴びながら、沙羅ウズメは堂々とした一礼で下がった。

 その後はマギウスが事務的な流れを告げるが、一体どれだけの羽根がそれをちゃんと聞いているやら。 

 

 

「お姉さま……ステキ♡」

「いやぁ、総統ったら中々やるねぇ」

「本来であれば御晒樹堂の当主になって然るべきお方ですからね。この程度は朝飯前でしょう」

「ウズメさんったら、これどうするつもりですか」

「凄まじいとしか言えんな、これは……」

 

 

 

 時が流れた未来に振り返って私は思う。

 この瞬間。神浜の……いや、日本中の魔法少女たちの間で伝説となった組織「マギウスの翼」。

 

 百に届く魔法少女たちを統べる六人の魔法少女。ありとあらゆる勢力に属する魔法少女たちによって構成された最強のチーム。たった半年という期間であったが、たった六人で神浜の全勢力と拮抗しうるだけの力を持った精鋭部隊。

 

 

 

 マギウス・カラーズの短くも鮮烈だった伝説は、この時こそが始まりだった。




○カラーズ
 正式名称マギウス・カラーズ
 マギウスの翼において、「羽根では到底適わない相手」に対抗するための精鋭部隊。
 構成員の実力は梓みふゆと同じかそれ以上、つまり七海やちよと真っ向から戦える実力者が六人いるということである。
 沙羅ウズメを統率として、残る五名がそれぞれ専門の部門を統括する。

 『紅』沙羅ウズメ    統率者
 『蒼』双樹あやせ/ルカ 遊撃兵長
 『翠』葛葉道麗     魔術顧問
 『紫』鶴喰夜鴉     斥候部隊隊長
 『銀』信城宴      軍事顧問
 『灰』梓みふゆ     羽根部隊監督

 ちなみに双樹が蒼な理由はウズメが紅だから対象的な色を欲しがったから。
 宴も最初は「黄」か「金」が候補だったが、外様の自分に原色は荷が重いと奥ゆかしく「銀」を選んだ。
 

 当のマギレコはついにサ終しましたが、今後ともこの小説は続いていきます。
 読者の皆さんもどうか引き続き、このやりたい放題してる世界観でうちの子たちや原作キャラが暴れ回る様子をご覧ください。
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