ChapterⅢ【邂逅】
そんなわけでカラーズ結成からしばらくが経った。大体一か月ぐらい。
別に正式に幹部となったからと言って、私の活動がガラリと変わったわけではない。
神浜の動向を監視する斥候部隊をまとめ上げているのは変わらず、時々羽根たちの手に余る状況の対応に動くのも依然として変わらない。
変わったことと言えば、自分たちを取り巻く環境の忙しさか。
先日の一件以降、あの簒奪騎士がこの街に潜伏していた時の名残なのか、妙に凶暴化した魔女が増加して救援要請が多くなったとは思う。
羽根たちもさらなる訓練を行い戦力向上に励んではいるのだが、こればかりは地力の問題か今やゲーム終盤の雑魚めいて出現する中級クラスの魔女どもはカラーズじゃないと中々務まらない。まあこれ自体は双樹や宴が率先して出動するので私自身が戦闘に参加することは少ないのだが。
そして面倒なこととしては、この辺りの異変がそろそろ他の魔法少女たちにも感づかれ始めているということ。
初期からウワサを嗅ぎつけていたやちよさんのように、ももこさんや鶴乃さん、他にも十七夜さんやひなのさんといった代表枠の方々がこちら側の動きに警戒を振り分けており、それに伴って今の神浜は少しおかしいぞと思っている子たちがちらほらと見え始めている。
彼女たちがウワサの起こす事件に首を突っ込み、羽根たちとひと悶着起こせばそれだけマギウスの翼が露呈する危険性は高まる。
敵も味方も多いやちよさん一人ぐらいならカラーズ総出でボコボコにしても問題は少ない。だが他の魔法少女にまで同じことをすれば神浜中から敵対視され、待ち受けるのは全面戦争だ。そうならないために、私がいっそう監視を巡らせ、羽根たちが彼女たちと鉢合わせないように気を配る必要があった。
と、ますます激化する状況は決して
学生生活は言わずもがな、控えめになっていた魔法少女の皆さんから何度か相談事のようなものを持ち掛けられている。
トラブルシューターはあきらくんの役目では?? という話は置いといて、あのクソッタレ更紗を絞め上げた大立ち回り以降、情報網として構築していた私のトークアプリは魔法少女関係の相談窓口と化していた。
個人的にはやちよさんとか神父に投げろよって感じなのだが、東西事件の立役者という評判は一年経っても風化するどころか、むしろ様々な事件を解決したせいで留まるところを知らず。訳の分からない事態があったらとりあえず私に意見を聞いてみる、みたいな流れが魔法少女たちの間で出来上がっていた。
別にそれ自体は良いんだけどね? こっちの斥候にも役に立つ情報が流れてくるし、専門外なものは父やみたまさんに投げればいいので。
そういうわけで昨晩もひとつ面倒ごとが発生しており、それは夜が明けて昼になっても続いている。
現在はいつもの商店街を散策中。
ななかちゃんの用事に付き合いつつ、通りすぎる人々にそれとなく意識を向ける。ここは屋根があるので鴉の視点では中々把握しづらい。恐らくはこの辺りにいると思うのだが……。
「ああ、やはりここにいらっしゃいましたね。あきらさん」
「ななかがここに来るなんて珍しいね。それにつばめさんも?」
「近くに用事があったので気が向いただけですよ」
「まあ二人でぶらぶらとね。ついでに顔出してみようって来たみたいな」
この辺りは相談所が近いので大体あきらくんがいる。
どうやら誰かと話をしていたらしく、横にいる髪色が似たすこし年下に見える少女へと目を向ける――、
「……なにか?」
「いえ、綺麗な顔ですねって」
「そう……どうも」
そっけない態度で応じる少女。橙の瞳をした切れ長の目。顔立ちは可愛いよりも美人系。左の泣きぼくろがそれを際立てる。しかし見た感じの年齢は自分より下と見える。
情報通りの見た目に気を引き締め、しかし向こうに気取られないように平静を務める。
「あきらさん、そちらの方は?」
「ああ、天乃スズネさん。今日知り合ったばかりなんだけど……」
「どうも……」
「常盤ななかと申します」
「琴織つばめです。よろしく」
明らかにこちらを訝しんでいるスズネに当たり障りのない挨拶を返す。
ななかちゃんも笑顔だが、あれは明らかに余所向けの笑顔。そしてスズネも貼り付けたような笑顔を作る。こいつら似た者同士か??
馴れ初めとしては、スズネが立ち眩みで倒れかけた時に壁に腕を擦って結構な怪我をしていたところをあきらくんが見かけてつい声を掛けたのだと。いやあっぶねえなオイ。なんだってこの子はそう一歩間違えたら死ぬラインすれすれのところで生きてるんだか。
で、それを聞いていつものななかちゃん節が炸裂。
探るような質問を矢継ぎ早に繰り出し、ホオズキ市の茜ヶ咲中学校の生徒だというところまで聞き出し、何故神浜に来たのかまで尋ねようとした。というところで流石にあきらくんからストップがかかる。
そしてその様子に気を悪くしたのか。あるいは警戒心を抱いたのか。鈴音はあきらくんにお礼を述べてからその場を立ち去ってしまった。
初対面に対してあんまりな態度に、あきらくんはななかちゃんに詰め寄る。
「どういうつもりなんだよ! あぁやって無遠慮な聞き方して、失礼じゃないか! つばめさんだって一言ぐらい止めたらどう……」
「つばめさん。スズネさんの魔力は?」
「バッチリ覚えました。商店街を抜け次第、カラスで追跡をかけておきます」
「お願いしますね」
「……え? ま、魔力、追跡? どういうこと??」
「あきらさん、ひとまずあなたが無事で何よりです。もし彼女が事に及んでいたら、きっと危なかった」
「ちょちょ、説明、説明してよ!! また二人だけで話を進めてるよ! 一体、スズネさんがなんだって?」
あきらくんは完全にいつものパターンだと察したのか、糾弾よりもこちらに説明を求めてきた。
それは仕方がない。流石にさっきまで仲良く話していた女の子が殺人未遂犯、だなんて思いもしないだろう。
「ああ、あきらさんは知りませんでしたね。実は昨晩、つばめさん宛てに連絡がありまして」
「粟根さんが余所の魔法少女に襲われたんですよ。加賀見さんが助太刀してその場は逃れましたが、犯人はまだ潜伏中だということで私の方に回ってきたわけです」
今回の相談者は粟根こころと加賀見まさら。
美雨さんと同じ中央学園に通うこの二人は基本的にコンビで魔女退治を行っており、相談所で知り合った江利さん経由でコネクションを結び、その後は昏倒事件を経てより関わりを深めた魔法少女だ。
護りの魔法でかなりの防御力を誇る粟根さんと、我が身を省りみない攻めのスタイルの加賀見さんは互いの短所を埋めるように相性が良い。そこに時には江利さんも加われば、遠距離戦まで対応できる隙のない組み合わせだ。
そして快活なこころさんと無表情クールのまさらさんで属性的にも隙がない。今日日ここまで王道なのも見ない素晴らしいカップルだ。謝礼は次の文芸誌のネタってことで請け負った。
話としてはこう。
昨晩二手に分かれて魔女を捜索していたところ、先に魔女の結界を発見した粟根さんが偵察を兼ねて突入。しかし結界内にはモンスターハウスめいて使い魔がひしめいており、粟根さんは自慢の防御力で凌いでいたがじり貧。そこにさっそうと現れたのが加賀見さん――ではなく、よく似た銀髪の魔法少女だった。
彼女は炎の魔法で使い魔の群れを一掃し、粟根さんの身を案じながら名前を尋ねた。
その様子で安心しきっていた粟根さんは特に疑う様子もなく自らの名を教えた。
彼女が凶行に及んだのはその時だった。
落ち着きながらも優しい笑みを浮かべていたその魔法少女は一変して冷徹な殺意を目に宿して粟根さんに斬りかかってきた。
幸いにも駆けつけていた加賀見さんの透明化したままの援護でその場は凌いだものの、自分たちを狙ってきたことからまだ神浜市内にいると二人は考え、ひとまずこの問題を自分たちだけで解決しよう、となる前に私の存在を思い出して相談を持ち掛けてきた。
いやこれこそ先にやちよさんにでも連絡しなよと思ったのだが、あの事件から美雨さん共々何度かプライベートで遊んだ経験もある私のほうを先に頼ったのだろう。さっきも言ったのだが、私に真っ先に連絡を寄越してくれたのは都合が良かった。ひとまずこの件はむやみに言いふらさないよう伝えた後、私はななかちゃんと美雨さんに情報を共有することにした。
え、神父?
残念ながら粛清機関は今回は役に立たない。相手は殺人犯だが、やっていること自体は魔法少女同士の争い。それは普段の縄張り争いに収まる範囲の話であり、仮に天乃鈴音が民間人にも危害を加えていたのなら彼らの粛清対象だが、そうでないなら目を瞑っている。それこそ街のパワーバランスが大きく崩れかける状況でもないと魔法少女の事情に首を突っ込んではこないのだ。
なので今回の一件は私たち当事者だけで解決しなくてはいけないのだが、そうなると例の鈴音への対処が問題となる。
魔法少女を傷つけることへの躊躇いの無さ、的確に
明らかに魔法少女を殺し慣れている。粟根さんは分かっていないだろうが、彼女のソウルジェムは首元にある。
ひとまずはカラスでの監視網で街を探りつつ、ななかちゃんの個人的な用事を片付けてから本格的な調査に移ろう。そんな時にあきらくんともう一人の彼女を見つけて今に至るわけだ。
「まあそういう経緯な訳でして、こうして手分けして探していたんですよ。それでちょうどここに来たので注意喚起というか、何か情報が得られないかなって来たわけです」
「そんなことが……! その犯人ってどんな子なの?」
「ええ、粟根さんから聞いた話ですと」
銀色の髪、紅色の片刃剣、炎の魔法。
神浜市外から来たと思わしきその少女の名は。
「スズネ、とその魔法少女は名乗ったらしいです」
「えっ……?」
「髪の色、ホオズキ市の茜ヶ咲中学。名前以外にも特徴と一致する以上、偶然と断定できるはずもありません。それに出会ったときは路地裏で怪我をしていたようですね? 魔女や使い魔との戦いで追った傷というのなら説明もつくでしょう」
「い、いやでも! まだ魔法少女だって決まったわけじゃ……」
「それは私の眼で確認済みです。というかモロに指輪してましたし」
スズネを犯人とすることに抵抗があったあきらくんだが、私の言葉で完全に押し黙った。
お人よし正義漢を女の子の形に捏ねて作ったような彼女だから、まずは怪我の方に目が行ったはずだし、相手が魔法少女かどうかなんて探るような真似はしなかったんだろう。とりあえずで相手の顔を探る癖がついてしまった私たちなんかが持ちえない美徳だからそこを責めるつもりは無い。
「最も、向こうもあきらくんが魔法少女であることは気づいていないようでしたし、人目もありますからもう少し話を聞いていても良かったのですが……」
「すみません。明らかに敵だと分かっている人物とあきらさんがあまりにも近づきすぎていたので、つい」
ななかちゃんの申し訳なさそうな態度にあきらくんも毒気を抜かれてしまう。
普段の態度から分かりにくいけど、実は仲間に対して情に厚いし、なんだったら一緒に遊んでる時めっちゃ浮かれてたりするのカワイイよね。脳にダバダバ来る。
「とはいえ、今ので警戒されてしまいましたね」
「ま、見つけた以上はこっちのものです。粟根さん達と合流次第、カタをつけましょう」
「……だったら僕も行くよ。どうしてそんな事をするのか、理由を聞かなくちゃ」
予想できたことだが、一応ななかちゃんは私の顔を見て尋ねた。
「どうします? 相手はかなりの実力者のようですが……」
「あきらさんならまあ、問題はないですよ。ただし手加減ができる相手じゃありませんので、そこのところは覚悟決めてください」
相手は街の代表クラスとタメを張れるほどの実力者。やちよさんを相手にするぐらいの気持ちでかからないと不覚を取るだろう。
あきらくん単体ならまず間違いなく返り討ちだが、こっちには
かこちゃんだったら絶対に連れて行かせなかったが。
……ところで今何してるのかな。うっかり出くわしたりしてないよね?
あ、さっき本を探している子達がいたから一緒に案内したって? それは良かった。
「……こころさん達からも合流すると返事がきました。つばめさん、鈴音が行く先の案内をお願いします」
「かしこまりー」
そうして二人と共に歩きつつ、私はひっそりと念話の回線を繋いだ。
『……こちら鶴喰。参京区で対象を捕捉した。現在は地区の魔法少女と接触中、このまま監視を続ける』
通信先はマギウスの翼。カラーズ。
何を隠そう、天乃鈴音を追いかけているのは粟根さん達だけはない。
各地で辻斬りを行う魔法少女は、現在マギウスの翼が捜索中の襲撃犯でもあったのだ。
○すずねマギカイベント【CROSS CONNECTION】
かずマギ・たるマギに続いた外伝コラボ三つ目
ストーリーの概要としては神浜市に来た千里と亜里紗がほのぼのしてる裏で鈴音が暴れ回っているという話
まさこことななか組の戦力がある程度判明した、資料としても重要度が高めなシナリオ
常に百禍編みたいな外伝作品の中でもすずマギは群を抜いてスゴイ・サツバツ・ストーリーのため、実装時は色々と阿鼻叫喚であったとかなんとか
○琴織つばめ
神浜での便利屋みたいな立ち位置が築かれている。
最近仲間たちとの交流が減っていることを気にしている。