つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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第六十八話 マギウス・カラーズ……③【真夜中の襲撃者】

ChapterⅣ【真夜中の襲撃者】

 

 

 

 時を昨晩に遡る。

 

 

 新西区の外れに生じた結界内にて、黒羽根部隊は外から来たという一人の魔法少女と遭遇した。

 灰色を基調としたコートを纏った彼女は自らをスズネと名乗り、魔女退治への同行を申し出てきた。

 

 素早さと火力を兼ね備えたスズネは一騎当千。中級魔女をいとも容易く葬り去るその姿は、この魔女がひしめく神浜であっても十分に通用する実力者だった。 

 

 

「あれだけ強い魔女をあんなにも簡単に……」

「すごい炎の魔法だった……あやせさんと同じぐらい」

「スズネ……明らかに危険ね、どうする?」

 

 

 だからこそ、彼女たちは警戒した。

 

 スズネの表情や物言いは一見して友好的ではあったが、黒いローブで統一した見た目の集団に対する接触方法としては明らかに怪しさのほうが勝る。

 揃いのユニフォームなんて微笑ましいものではない。あからさまに素性を隠して活動している魔法少女など、普通の感性を持った魔法少女なら真っ先に警戒して然るべき。この時点でスズネが何かしらの目的を持って近づいてきていると分かる。

 

 双樹あやせ(オンとオフの切り替えが激しいやつ)と、信城宴(素でヤバイやつ)が身近にいることもあってか、羽根たちはこの魔法少女が言葉通りに仲良くしにきたなどとは思っていなかった。

 

 そして羽根のうち一人は、その笑顔の奥に垣間見える剣呑な意思に気がついた。

 

 

「ねえ、もう一度だけ聞くわ。貴方たちの本当の名前、教えてくれない?」

 

 

 スズネは羽根たちに対して本名を尋ねようとする。

 彼女に失敗があったとすれば、この魔法少女たちが衣装を統一して魔女退治を行っていたことに対する警戒心の不足だ。名前を知った後は殺す。だからそれ以外は些末事だと気に留めなかった。余計な考えがあっては隙を見逃すと意図的に思考から排除した。

 

 他の街でならそれで問題は無かっただろう。事実、鈴音はこれまで共闘した魔法少女と心の距離を縮めた隙を突いて一撃で葬ることに何度も成功している。

 だが、この街は魔法少女が集う神浜市であり、彼女たちは魔法少女の解放を求めて暗躍する秘密結社マギウスの翼の一員であり、自分たちに対して害意を持った魔法少女への対処法は嫌というほどに叩き込まれている。

 

 

「……プロトコル6。"我々に探りを入れる魔法少女への対応は白羽根以上の判断を仰ぐこと。対話可能なら、なるべく長引かせること"」

「了解。そういうわけだから、私たちより上の人を呼ぶから待っててくれるかしら?」

 

 

 黒羽根の対応を見て、スズネ――天乃鈴音は考えを巡らせる。

 自分がこの街に来た目的は魔法少女を殺すこと。

 いずれ魔女となって災いを振りまく前にソウルジェムを破壊し、来る悲劇を未然に防ぐ。

 

 彼女たちの言う通りにすれば、新しい魔法少女がやってくるか。

 多くの魔法少女を殺すなら好都合だが、彼女たち以上の実力を持っている場合は少々面倒なことになる。

 この黒フードの魔法少女たちが連携行動を取っていたことを考えるに、まとめ役の魔法少女がそれを教えた可能性は高い。

 

 つまり、合流されれば非常に殺しづらくなる。

 

 そう結論づけ、鈴音は迅速に行動を起こすことにした。

 

 

「悪いけど……それならいいわ」

 

 

 鈴の音が鳴ると同時、鈴音の周囲に炎の刃が展開される。

 

 

「炎舞」

 

「っ、敵対魔法少女! 陣形構えて!!」

「魔法は火! 拘束網の展開!!」

「倒すことは考えないで、生存と足止めを第一に!」

「近くの白羽根への連絡を!!」

「――ッ!?」

 

 

 拙い部分はあるが手慣れた動きで鈴音を包囲する黒羽根たち。

 彼女たちの行動にスズネは僅かに目を剥く。

 

 明らかに敵対することを考えていた動きは、他の魔法少女との戦闘を念頭においていなければできないものだ。

 こんなことは初めてだ。キュゥべえが自分を始末するために導いた街なだけはある。鈴音は内心驚きながらも、瞬時に戦闘へ思考を切り替えて剣を振るう。

 

 

「きゃっ!」

「怯まないで!」

 

 

 射出された炎の剣が前方の黒羽根を怯ませ、その隙にスズネは後ろから投げつけられた網を剣で振り払った。

 だが剣に網が絡まり、そのまま網を黒羽根が引っ張る。

 スズネは刃そのものに炎を宿して網を焼き切ろうと試みるが、ビクトリーグループが開発した魔法少女用の拘束具は防火素材による特別製。鉄筋すらバターのように切り裂く魔法少女の武器でも切断には僅かに時間を要するそれは、彼女たちが得られた中でも最上級の戦果だった。

 

 

「ッ!?」

「武器を封じたわ、鎖を!」

 

 

 武器の奪い合いに意識を向けた隙に、方々からスズネを拘束するべく鎖が投じられる。

 スズネは咄嗟に武器を捨て、全方位へと魔法を行使した。

 

 

「炎舞!!」

 

 

 先ほど牽制で放たれた一撃よりも多くの炎の剣が放たれる。

 炎刃は鎖を蹴散らし、その勢いを保ったまま黒羽根たちに襲い掛かった。

 

 

「あぐっ!」

「くっ……強い!」

 

 

 黒羽根たちの陣形が崩れた様子を見て、スズネは武器の実体化を解き手元に呼び戻しながら目の前の少女たちを分析する。

 この魔法少女たち個人の強さはそこまででもない。連携は取れているが、それだけだ。こうして陣形を崩した後、冷静に一人一人仕留めてゆけばいい。

 ソウルジェムの位置は不明だが、いちいち検めている時間はない。心臓を貫いて終わらせよう。

 

 

「さよなら」

 

 

 正面にいた羽根に近づき、剣を振り上げる。

 それが彼女の心臓目掛けて振り下ろされようとしたその時、横から飛来したチャクラムが剣を弾いた。

 

 

「!?」

「させませんよ」

「みふゆさん!」

「危ないところでしたね。ですが、もう大丈夫です」

 

 

 自分たちの前に立ったその後ろ姿に羽根は安堵の声を上げ、スズネは突然の闖入者に警戒を露わにする。

 

 

「貴方……誰……?」

「梓みふゆと申します。彼女たちにいきなり攻撃をするなんて、穏やかではありませんね?」

「……私はスズネ」

「何故彼女たちを襲ったのか、武器を収めて理由を聞かせてくれませんか」

 

 

 みふゆは対話を試みながらも武器を構え、決して警戒を絶やさない。

 最大限の譲歩である交渉の返答は炎の刃であった。

 

 

「理由なんて、知らない方が良い!」

 

 

 拒絶の言葉と同時に放たれた炎舞を、みふゆはチャクラムの分裂投擲で相殺する。

 

 

「……最後の警告です。次からは反撃に移りますよ」

 

 

 スズネは後ろの羽根諸共に殺す気で放った炎舞を容易く迎撃してみせたみふゆに最大級の警戒を向ける。

 この魔法少女は強い。これまで自分が仕留めてきた魔法少女のどれよりも、恐らくはあの人と同じぐらいに。

 

 

「気を付けてください! そいつとても強いです……!」

「ええ、そのようですね」

 

 

 みふゆも同じく、今の切り結びでスズネの実力をおおよそ把握していた。

 魔法の火力は双樹あやせと同等。さっきのが最大火力という訳でもないだろう。剣の腕はどうだろうか? 中段に構えた様子から察するに、剣道の心得があると見るが如何に。少なく見積もっても、神浜の上澄み達にも匹敵する実力者であることに間違いはなかった。

 

 

「どうですか? お互い不毛な争いはやめて、退いてくれると嬉しいのですが」

「そのつもりは……」

 

 

 互いの一挙一動を見逃さないよう、視線だけが動いていく。

 スズネの探るような視線が自分の首元へと移り……チョーカーに下げられたソウルジェムを見た。

 

 

「ないわ」

 

 

 スズネは足に魔力を込めて地を蹴った。

 瞬間的な加速で一息に距離を詰め、剣を振るう。狙いは当然、ソウルジェム!

 だが、その狙いはあまりにも見え透いていた。

 

 水平に首を薙ぐ一撃は、余裕をもってチャクラムに受け止められる。

 

 

「なるほど、ソウルジェムを直接狙いますか……っ!」

「ぐっ……!」

 

 

 鍔迫り合いは一瞬。剣を受け流しながらバレエめいて繰り出したキックがスズネの腹に突き刺さる。

 咄嗟に自分から飛び退いて威力を殺したものの、容赦のない一撃にスズネは咳き込む。みふゆは続いてチャクラムを投擲する。

 

 チャクラムはスズネ目掛けて飛来しながら枝分かれするようにその数を増やし、スズネの周囲を六方向から収束するように接近する。

 逃げ場を塞ぐように自分を包囲する刃をスズネはしかし冷静に剣で撃墜する。

 

 まずは前方の刃と斜め右前のチャクラムを纏めて薙ぎ払う。そのまま倒れ込むように姿勢を低くして左前からの刃を回避し、続けて後ろの三つを切り上げるようにして弾く。そして追撃とばかりに投げ放たれた前方からの巨大なチャクラムも叩き落そうとして、その剣が空を切った。

 

 

「――っ!?」

「驚きましたか?」

 

 

 手ごたえの無さにスズネが驚き、体勢を崩す。

 最後に投げつけた円盤はブラフ。スズネほどの実力者なら確実に迎撃すると踏んで放たれた幻惑による偽物であり、真の本命は遠く離れた後方から戻り来たるチャクラム。

 縦方向に転がるチャクラムはコンクリートに鋭利な轍を刻みながら反応しきれないスズネへと迫り、その身体が袈裟懸けに切り裂いた。

 

 

「やった……!」

「……いえ、まだです」

 

 

 勝利に喜ぶ羽根たちを諫めながらみふゆはじっと敵を見据える。手抜かりはないが、この程度で獲れる相手だともみふゆは思ってはいなかった。

 はたしてその予想通り。崩れ落ちていくスズネの輪郭が揺らめくと、まるで幻であったかのように姿が消えた。

 

 

「っ!?」

「消えた……!?」

「炎の魔法だけではなく透明化……いえ、高温による屈折の操作ですか」

 

 

 突如としてスズネが姿を消したことに狼狽える羽根たちだが、みふゆは冷静に術の絡繰りを分析する。

 本来専門外であろう微細な温度の操作による残像と透明化。さらには気配の遮断技術まで併用している。

 なんと恐るべき魔力制御技術。みふゆはこれが魔法少女を暗殺するために磨かれた技術であろうことに内心驚きつつも、直後に来るであろう奇襲へと備えた。

 

 

 

 ――リン。

 

 

「ええ、こう来ると思っていましたよ」

「……!!」

 

 

 鈴の音が鳴った瞬間、みふゆは首筋のソウルジェム目掛けて放たれた刺突を防いでいた。そして先ほどと同じく反撃を加えようとするも、スズネもそれを予期しており防がれた直後に跳び下がりつつ、炎の刃を放て隙を消す。

 先ほどの焼き増しのようにも見える光景だが、一つ違う点があるとすれば仕掛ける側が逆転していること。

 

 

「大技を放つつもりですね」

 

 

 みふゆの想定通り、スズネが自らの髪飾りに触れると急激に魔力が高まっていく。

 防ぐこと自体は可能だが、規模によっては周囲の羽根たちが巻き添えになる。ならば取れる手段はひとつ。

 

 

「仕方ありませんね……!」

 

 

 みふゆはチャクラムを頭上に掲げ、指に引っかけるようにして回していく。

 速度を増しながら高速回転するチャクラムは空中へ分離するようにしてその数を増やしていく。そうして彼女の周囲を数十個のチャクラムが埋め尽くすと同時に、両者は魔法を解き放った。

 

 

 

――桜火!!

――アサルトパラノイア!!

 

 

 すべてを焼き尽くさんとする劫火と殺戮円盤による豪雨の衝突。

 凄まじい衝撃音が街の外れに木霊し、土煙が立ち込める。

 

 

 互いの必殺技は相殺に終わった……だがこの直後こそが決め手だ!

 

 

「――そこです!!」

「はぁぁっ!」

 

 

 みふゆが空気の揺らめきを捉えた刹那、互いの斬撃が交差する!

 煙が晴れ、羽根たちにも戦場の結末が明らかとなった。

 

 

「――っ、一手、貰ってしまいましたね」

「みふゆ様っ……!」

 

 

 押さえた二の腕には深い切傷が刻まれ、溢れた血がコンクリートに赤色の水たまりを作っていく。

 対するスズネは髪を少し切られた程度で無傷。

 たった2ミリの見誤りだったが、それは決定的な差であった。

 

 

「まさか剣だけを透明化させてくるとは、返って間合いを測り損ねましたね」

「……よく凌ぐわね。でも、次で仕留めるわ」

 

 

 スズネは臨戦態勢を継続する。あちらもだいぶ魔力を消耗しているだろうに、何がそこまで彼女を突き動かすのか。

 

 正直に言って、この状況はみふゆにとって窮地でも何でもない。

 スズネの戦法はおおよそ把握できた。炎魔法は双樹あやせに匹敵するが、剣術そのものはウズメには一歩劣る。こればかりは比較対象が悪いとしか言いようがないが、あの女傑の剣技を間近で見続けたみふゆにはスズネの剣筋は十分見切れる範疇だ。

 

 他のカラーズも駆け付ける頃合いであり、既にスズネを制圧する準備はできている。

 

 だがその前に、この魔法少女の真意を問いたかった。

 天乃スズネと名乗る少女の目に宿る決意。憎悪でも愉悦でもない、悲壮とも言えるほどに真っすぐな使命を帯びながら魔法少女の殺戮を行う彼女の動機は一体何なのか。

 それさえわかれば、あるいは。

 

 

「なぜ、ワタシたちを狙うのか聞かせてもらえませんか?」

「……知らない方が、幸せよ」

「魔法少女に待ち受ける結末なら、ワタシたちは知っています」

 

 

 スズネの瞳孔が開いた。

 

 

「どうやらアタリのようですね。あなたは魔法少女が魔女になる前に殺す……そうして悲劇を防ごうと考えているのですね」

「知っているのなら、なぜ!!」

「その運命に抗っているからですよ。ワタシたちはマギウスの翼。魔法少女の救済を目指すものです。ワタシたちは魔女化を逃れる術を手に入れました。ですがそれはこの街の中だけ、それを世界に広めるために活動をしています」

「魔女化、を……?」

 

 

 みふゆは自分たちの組織について開帳する。

 スズネの凶行が魔法少女の運命を悲観したが為のものであるならば、その前提を覆せば刃を収めてくれるのではないかという期待があった。そしてそれは誘いの言葉でもあった。殺すのではなく、生かして救いを与える道があるのだと。

 だが、スズネの記憶に刻まれた悲劇は深く、そこから生まれた決意もまた強固だ。そのように植え付けられたからこそ、他者からの言葉で揺るがすことは難しい。

 

 

「――そんなことをしても、ムダに決まってるわ」

「ムダ……?」

 

 

 みふゆの誘いを一蹴したその言葉に、羽根の一人が反応する。フードが外れて素顔が露わになり、始めて視線が合った。

 

 

「あんた、今なんて言ったの?」

「ムダよ。魔法少女が集まって何かをしたところで、そんなものは一時しのぎ。インキュベーターの掌の上で踊らされて、苦しむ時間を長引かせるだけよ」

「ふざけんな……っ!」

 

 

 激昂した黒羽根はローブの内側から一丁の銃を取り出し、そのまま引き金を引く。

 ビクトリー社製魔力銃から発射されたエネルギー弾はスズネが構えた剣に防がれるが、それよりもスズネはその羽根の目に釘付けになった。

 

 

「アンタの考えはどうでもいい……! でも、あの人が導こうとする未来を馬鹿にされるのは聞き捨てならない……あの人たちは絶対に魔法少女を救ってくれる。そんな冷めた目で諦めてるだけのアンタに、ムダなんて言わせられるか……!」

 

 

 フードが外れ、露わになった憤怒の形相。

 実力差を思い知らされて尚、こちらを必死に睨みつけてくる目には決して見逃せない力があった。

 

 ここまでの想いを抱かせるということは、本当に彼女たちは魔女化を覆そうとしていて、その試みは成功しようとしているのだろう。

 

 だからこそ、スズネには受け入れられなかった。

 インキュベーターはこの街に探りを入れようとしている。奴らがこの企みを知れば早急に手を打つはずだ。人類の常識を超えた力を持つ彼らにかかれば解放とやらも容易く瓦解する。その希望がいずれ絶望に変わる時、彼女たちは魔女に成り果てる。だから、その前に。

 

 殺しちゃいなよ、スズネちゃん

 

 

「そこまで言うなら、分からせてあげる」

「やめなさいっ!」

 

 

 瞬時に間合いを詰めて黒羽根に襲い掛かるスズネ。

 みふゆはそこへ割り込むが、振り下ろされた斬撃を防ぐことができずに――。

 

 

「ハイ、ストップ」

 

 

 横合いから別の声が響く。

 刃はみふゆの身体に届く前に、緑色の障壁に阻まれた。

 直方体状にみふゆを包むそれを、羽根たちは知っている。

 

 

「あの傷……みふゆのパーフェクトボディに何しちゃってくれるワケ?」

「アリナ様!?」

「新手……!?」

 

 

 現れたのはマギウスの一人、アリナ・グレイ。

 羽根が襲撃されたと言う緊急報告を受けて飛び出していったみふゆを追いかけてきてみれば、あの素晴らしきプロポーションの身体が傷ついているではないか。

 みふゆはデッサンモデルとして非常にお気に入りであり、今夜もそれに興じるためにわざわざウズメの部屋まで押しかけていったというのに、たかだか羽根の救援程度にそれが損なわれたことにアリナは非常に苛立っていた。

 

 とはいえ。みふゆに手傷を負わせてみせたあたり、目の前の魔法少女はそこいらの木っ端とは違うらしい。

 さらにその瞳に宿る冷徹な殺意。ここまでの殺意を宿した魔法少女は見たことが無い。剣気、殺気という点ではウズメが至高の領域にあるが、この魔法少女の目にあるものもそう負けてはいない。

 

 

 これほどまでの殺意を持った魔法少女から生まれる呪いの形とはどのようなものか。

 

 このスズネという少女はアリナ・グレイの一定の興味を抱かせるに値する。

 留飲を下げるために甚振るつもりではあったが、魔力を消耗しているならドッペルを出させるまで追い打ちを仕掛けてもいいだろう。

 

 

「アリナは今バッドムードだけど、それだけの殺意にはちょっと興味があるワケ。アリナのアートを完成させるためにも、精々あがいてみてヨネ」 

 

 

 情念の籠った視線にスズネは少し戸惑いながらも、刃を構え直す。

 例えどんな目的を持った魔法少女であっても、最終的に全員殺せばよいのだ。

 

 

 己の心を鉄のように冷たく、そして決意の炎で燃やしながらスズネはアリナへと斬りかかる。

 対してアリナは緑色のキューブを射出し、スズネに間合いを詰めさせないようにしながら攻撃を加えていく。

 

 彼女の武器であるこのキューブは一面を3×3で区切ったルービックキューブめいた形状。合計27個の小キューブに分割できるそれは固有魔法の「結界」として対象を閉じ込めることができる。みふゆを隔離したのもこの力によるものだ。

 そしてこれらひとつひとつが自律操作可能であり、それ自体を弾丸とするも可、ビーム照射による攻撃も可と、魔法少女の武器としては非常に優れた代物だ。そこに生まれ持った天才的な感性による抜群の戦闘のセンスが合わされば鬼に金棒。

 カラーズには経験の差で一歩譲るとはいえ、そこいらの魔法少女や魔女が相手であればほぼ一方的に蹂躙できる戦闘能力を彼女は有している。

 

 

 今も実際このように、アリナはスズネを翻弄して着実に追い詰めている。

 じわじわと弄んではいるものの、剣の間合いには決して入らないようにして魔力を削っている。

 

 

「ほらほら!」

「くっ……ハァッ!」

「ッ! 中々やるワケ……。ほら、そのピュアな殺意をもっと見せて!」

 

 

 スズネも一方的にやられはせずに反撃を与えてはいるが、みふゆとの戦いもあって魔力の消耗が激しく、このまま続けていれば勝敗は明らかだ。

 だがここで斃れればインキュベーターの思うつぼ。魔法少女の悲劇を仕組んだヤツの思惑通りになることだけは決して認められない。

 

 

「陽炎」

 

 

 魔法で再び姿を消すスズネ。アリナが姿を見失ったのを好機に、彼女はキューブ群を掻い潜って一気に距離を詰めた。

 結界でバリアを展開できるアリナを相手に遠距離は愚策。ゆえに狙いは、ゼロ距離での最大火力……!。

 

 

「桜火ァッ!!」

 

 

 アリナが察知してバリアを展開しようとするも、既に遅く。

 スズネの手から放たれた劫火がマギウスの身体を包み込む。

 炎が収まった時、そこにはアリナの姿は欠片も無かった。焼死体すらも。

 

 

「……え?」

 

 

 自らの目を疑ったスズネ。

 桜火の射線上から少し離れたところには、アリナを抱えたみふゆが立っていた。

 

 

「ふぅ、危ないところでしたね」

「……どうやって出てきたワケ?」

「内緒です」

 

 

 端的に言えば結界そのものに集中した幻惑を仕掛けることでギリギリ通れる穴を開けたのだが、そんなことをわざわざ言えば次は絶対に対策してくるのでみふゆは適当にお茶を濁した。

 

 

「そういうわけですので、後は任せてください」

「……これで傷ついたら許さないカラ」

「あなたの身に何かあったほうが、ワタシたちの役目が無いのですけどね」

 

 

 不服げなアリナを下がらせ、みふゆはスズネと向かい合った。

 

 

「さて、これで分かったと思いますが。今この場であなたの目的を達成できることはありません」

 

 

 みふゆは十分に戦闘が可能。アリナも同じく。

 対してスズネは魔力を消耗しきっており、このままでは浄化の暇もなく二人がかりで叩き潰されるのがオチだ。

 見逃してやるからとっとと消えろ、と言外に告げられていることを自覚したスズネは悔し気に顔を俯かせる。

 

 

「これは警告です。()()()()()()()()()()()()()()、今度こそ『私たち』で潰します」

「……そうね、今日はこれで終わり」

 

 

 そう言い残してスズネは揺らめくように姿を消した。

 陽炎という魔法を使ったのだろう。気配も感じ取れず、ひとまずは彼女との戦闘状態は解除されたとみていい。

 

 

 みふゆが安堵のため息をつくと同時、唸るような重低音と着地の音が後ろから響いた。

 

 

「あーっ、もう終わってる!」

「おおっと、これは出遅れてしまったか」

「……宴さん、あやせさんも」

 

 

 そこにいたのは宴と双樹、カラーズきっての武闘派二人。

 宴は愛用のバイクで、あやせは普通に徒歩で来たようだ。

 

 

「遅い。アナタ達が遅刻したせいでみふゆのパーフェクトボディに傷がついたんですケド、どう責任取ってくれるつもり?」

「先走ったのはアリナさんのほうじゃん」

「これでも南凪から飛ばしてきたんだけどねェ」

 

 

 護衛対象であるマギウスが率先して戦線に出るのは如何なものかと抗議の視線を向けるが、アリナはどこ吹く風。基本的に本拠地に腰を据えている二人と異なり、マギウスの中でも積極的に動くアリナだが、自分の命に無頓着すぎるのは困りものである。

 

 

「まあ無事ならいい。相手は逃げたっていうか、あえて逃がしたって感じかな?」

「ええ。アリナが危ないところだったので、安全の確保を優先しました」

「ヒューッ! そいつは中々だな。名前は天乃スズネだったか、こっちでも確認しよう。誰か録画できてる?」

「は、はい……こちらです」

 

 

 宴は黒羽根からハンディカムを受け取り、密かに撮影された戦闘風景を確かめる。こうした不測の事態に備え、偵察隊に属する羽根は記録機器を保有しているのだ。

 ありがとうとウインクを返した宴に紅潮する黒羽根。それを尻目に宴は映像を再生。炎に照らされ、みふゆと激しく交戦するスズネの姿が鮮明に映ったワンカットで止め、その姿を検めた。

 

 

「これは凄い。あやせにも匹敵する威力ではありませんか。最も、私が一緒にいる以上は負けませんがね」

「――ヒット。こっちのアーカイブにも外見情報が一致した。天乃鈴音、最近魔法少女を殺しまわってる辻斬り犯だ。君たちの後輩ってところかね」

「は? あんなソウルジェムの美しさを解さない輩と一緒にしないでもらえますか??」

(どちらも大概ですよ)

 

 

 飽きもせずにいがみ合う二人にみふゆは冷ややかな目を送る。

 

 

「……それで、やれるワケ?」

「全く問題無し。次はカラーズ総出でもてなしてやるさ」

 

 

 さっきは情けをかけたようにも思えたが、実際のところこのまま見逃すつもりなど毛頭ない。

 鈴音を神浜から追い出せば外の魔法少女が餌食となる。魔法少女の解放を掲げる組織としてそれを看過すれば不信に繋がる。そして彼女にはその鮮やかすぎる手口から共犯者の存在が疑われており、それを吐き出させない限りは危機が去ったとは到底言えない。

 

 既に戦術は割れている。後はじっくりと追い詰め、完全に退路を封じた上で叩き潰すのみ。

 

 

「このまま神浜から出ていく可能性は?」

「……その線は薄いかと。私たちの存在を知って尚止まらない殺意です。手強い相手に出会った程度で魔法少女を殺すことを諦めるとは思えません」

「それじゃあ、まずは炙り出しからだな。捜索は夜鴉に任せて、私たちは総統の指示を仰ぐとしよう」

 

 

 こうして色彩を名乗る者たちは動き出した。

 自分たちに刃向かう者を狩るために。主たちへ牙を剥いた愚か者に鉄槌を下すために。

 

 

「……天音鈴音」

 

 

 みふゆはその名前を反芻し、これから彼女に襲い掛かる運命を憐れむように目を閉じた。

 

 

「恐らくは、無事では済まないでしょうね」

 

 

 六人の中で最も優しい自分で終わっていればどれだけ良かったか。彼女はそれを遠からず思い知るのだろう。




○パワフルみっふ
 完璧にケアしてくれる上司と戦力として信頼できる仲間がいることやアルファルド戦を経験したことである程度は自信を取り戻し、全盛期に近いパフォーマンスを維持している。というか心と技が高水準なので一番強い時期まである

○アリナ
 病み上がりなのだがまったく懲りていない

○天乃鈴音
 キリサキさんと噂される魔法少女の暗殺者。
 並の魔法少女だと太刀打ちできないぐらいに強いが、今作は残念ながら神浜の戦力がだいぶひどいことになっておりまして……
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