ChapterⅤ【少女は真実を偽る】
と、そんな事件が昨晩あった訳でマギウスの翼も天乃鈴音を追跡中なのであった。
そしてその連絡があって十数分もしないうちにこころさん達から連絡が来ている。
つまり奴は舌の根も乾かぬうちに新しい獲物に手を出したというわけになるわけだが、実際にその戦いぶりを見てみればそれも可能だと頷かせる。
魔法少女を狩るために魔女の結界へ近づいたところで粟根さんが遭遇。足止めを行っている間にななかちゃん達が追いつき、挟み撃ちという形になった。
数的有利を得たところであきらくんは説得を試みようとしたのだが、そこで鈴音は透明化で即時離脱。うーむ判断が速い。
鈴音はところかまわず襲っているわけではなく、きちんと相手と状況を考えて行動に移している。集団で行動していた黒羽根たちはそのまま襲っても問題ないと判断されたわけで、その後のみふゆさんとの戦いもアリナがやってくるまでは拮抗できていたことから自分の実力を過信しているわけでもない。あるいはその経験から対集団では慎重になっているのかもしれない。
というわけで合流してきた美雨さんを含めて再度策を練ることに。
四人の中で一番チョロそう……失礼、誘いやすそうなあきらくんを囮として路地裏へと誘導し、待ち伏せていた他三人と同時に奇襲を仕掛ける。
何度もこの街での殺しが失敗している以上、鈴音にも多少の焦りが生じているはず。少しでも単独で行動している瞬間があればそこを狙わない筈がない。
はたして目論見通りに事は運び、ついに開幕した一対四の戦い。
その様子を私と美雨さんは物陰に隠れて観察していた。
「うわぁ、なんですかあの太刀筋。全部ソウルジェム一点狙いとか容赦ないですね」
「あれは確かに殺しやてるヤツの動きネ、お前の槍捌きと同じぐらい迷いないヨ」
「いや私はもっと無力化を狙ってますから。魔法少女は四肢の一本二本潰さないと安心できないんですよね」
回復魔法に特化している魔法少女は欠損レベルでも即座に再生できるから基本的に心臓や首みたいな人体の動き自体が阻害される箇所じゃないと安心できない。それすらも達人なら痛覚遮断や魔力操作で戦闘を続行するのだから、魔法少女というのは実に厄介なものである。
「その考え自体がだいぶ音子に染まっているヨ……」
「こればっかりはそういう連中を相手にしてきたからとしか。美雨さん、まだかかりそうですか?」
「もう少し待つヨ。全員の位置取りが縮まったほうがいいネ」
なんで私と美雨さんが参戦していないかと言うと、それは鈴音を六人がかりで鎮圧するのではなく、美雨さんの固有魔法である『偽装』で確実に殺したと誤認させるためだった。
――ななかちゃんが考えた作戦についてこころさん達と共有する際、美雨さんの魔法について説明が行われた。
『偽装』――事実を偽装するというこの魔法は仕立て上げる事実に必要な物や人がその場にいなければならないが、その分相手はその『事実』が強固に刻まれる。幻覚や洗脳とは異なり、当人の因果関係を弄っているためその後に明らかな矛盾――例えば殺したはずの人間が生きている――などが発覚しなければ看破できないという強力な魔法だ。
この魔法でななかちゃん達を殺したと思わせて自分たちを狙いから外す――というのがななかちゃんが語る鈴音への対処だった。
ここでキモなのが、あっさり殺されることではなく、そこそこ接戦の後で敗北すること。
神浜には自分に匹敵する実力者がいるということを強く意識させ、仮に魔法少女の殺害を強行したとしても魔力の消耗と比べて「割に合わない」と考えさせる。
彼女の目的は単なる縄張りの強奪ではない以上どれだけの抑止力になるかは不明だが、それでも袋叩きに遭うリスクを意識させることができ、この後の神浜での動きも阻害できるはずだ。
「確かに、美雨の魔法なら誰も傷つかずに解決できる……かな」
「でもそれなら、つばめさんも参加したほうが安全だと思うんだけど……」
「私の魔法、人数が多いほど使う魔力多くなるヨ。それに偽装する『事実』には私のイメージが必要ネ。私が無理だと思った事実は流石に偽装できないヨ」
「……四人だと可能で、五人だと無理?」
「確かに人数的有利もあるヨ」
ただそれ以上に、と美雨さんは一呼吸置いて。
「いくら鈴音が強くても、ななかとつばめが組んでいたら誰も殺されるわけないネ」
……どうやら美雨さんの中での私たちの評価は随分と高いらしい。
信頼関係は築けていると思っていたけど、こうもハッキリ言われてしまうと面映ゆい。
「……驚きました。まさかこんなにも美雨さんに評価されていただけているとは」
「客観的事実を述べたまでヨ。死んだふりして不意打ちの機会を狙うぐらいは平然とやる奴ネ、そんなことまで偽装に盛り込むぐらいなら最初からいない方が良いヨ」
「わぁ辛辣~」
でもそれが照れ隠しだってつばめちゃん知ってるんだ。
「でも確かに僕も想像は難しいかな……つばめさんってやる事がとにかくいやらしいし」
「いやらしいって何ですか、何をするっていうんですか。実践しましょうか?」
「なんで指をわきわきさせるのさ! 何されるの僕!?」
そりゃあんなことやこんなことを……。
「……こほん。美雨さんの意見には私も同意しますわ。つばめさんを加えた五人がかりなら、鈴音を
「……でも、つばめさんは参加させないんだよね?」
「ええ。無力化して説得できるならそれが望ましい……ですが、彼女の目を見てそれは不可能だと悟りました。あれは言葉で止まる輩ではありません。むしろ劣勢に追い込んで悪あがきをされた場合が一番危険でしょう」
「確かに、手痛い反撃を受ける可能性が高いカ」
なーんでこっち見て言うんですかね。
「それにそもそも私はまだ向こうに狙われてませんから、これを活かさない手はありません」
「ええ。最初の時に顔を合わせていたとはいえ、つばめさんが魔法少女であるという事実は鈴音には知られていません。であれば、陰に潜んで不足の事態に備えてもらったほうがよろしいかと」
とにかく、私たちの作戦は鈴音を満足させて立ち去ってもらうことに決定。
あきらくんが鈴音を誘い出して私たちが待ち構える場所まで連れ出し、その後は二人が戦っているところでいい感じに鈴音の注意がこちら側まで向かなくなったところで『偽装』を行う。
そのためにあきらくんは相談所の前で鈴音を張ることにした。向こうとしてもこちらを探すなら可能性の高い場所にやって来るだろうという見込みだ。
私たちはそこから程なく近い路地裏で待機。
各々が身を隠しやすい場所に散らばり、いつでも出撃できるようにする。
大通りの喧騒も遠く、コンクリート壁の間を流れる風の唸り声が耳に響く。
静かに時が流れる中、徐に美雨さんが口を開いた。
「なあ、つばめ」
「なんです?」
「お前、最近何してるカ? ここしばらくのお前、ちょと付き合い悪いヨ」
うーん……そう来たか。
家が近い他三人はともかく、美雨さんは南凪住みの中央学園通い。プライベートで会う頻度はおろか、チームで集まる回数も少なくなれば違和感は大きくなる。
そろそろ美雨さんへの言い訳が必要になるかもと思っていたが、まさかこのタイミングで切り出してくるとはちょっと意表を突かれた形になる。
「そういう忙しい時ぐらい私にだってありますよ」
「あきらとかこも心配してるヨ。ななかに何か無茶振りされてるのカ?」
「いやいや、ななかちゃんは別に何も悪くないですって」
「つまり、お前から言い出したことカ」
「ぐっ」
これは誘導尋問。美雨さんめ卑劣な罠を。
さてどうしたものか。
あきらくんやかこちゃんなら心苦しいが情に訴えるなりなんなりして誤魔化すことができるが、美雨さんは多少の言葉で躱せるほど容易くはない。この人は私を信頼していると同時に、ななかちゃんと同じぐらいには遠慮しなくて良いと思っているのだ。
「……別に、私が個人的に気になったから調べ回ってるだけですよ。こういう事件の裏に、またアイツみたいなのが潜んでいたら嫌でしょう?」
「だたら私にも相談ぐらいするネ。蒼海幣なら色々情報入てくるヨ」
「いやそれこそ美雨さんに迷惑かかるじゃないですか」
「今この状況は迷惑じゃないカ? それこそ今更な話、私のほうだって無関係じゃないネ」
美雨さんの事だからこの街に起こっている異変も多少は耳にしているに違いない。
けれど、状況は既にそういう範疇を飛び越えてしまっている。私が関わりを持った時点で、マギウスの翼はこの街をほぼ掌握していた。
「この街、キュゥべえいなくなた代わりに妙な奴らが増えてきたヨ。他の街の魔法少女に、他国の魔術師みたいな裏の連中。でもそいつら途中で足取りつかめなくなるネ。そういう時、大体黒いローブで身を包んだ連中の目撃情報が来てるヨ」
「……」
「お前が付き合い悪くなたのもその頃ネ。ウワサとかいうものに関わってから、私たちと別行動で何かを調べてる……」
もたれかかったコンクリートの冷たさを背中に感じながら、私は美雨さんの言葉を待った。
「つばめ、もしかして奴らと面倒ごと抱えたカ? マギウスの翼と一体何やらかしたネ?」
返事は沈黙。美雨さんにはそれで十分だった。
「図星カ。お前ひとりで何か抱え込んでると思てたけど、よりにもよって連中カ」
「……美雨さんは知ってるんですか?」
「この前神父から連絡来たネ」
なるほどと合点する。
美雨さんは私たちの中では特別「教会」とかかわりが深い。曰く香港にいた時からの付き合いらしく、神父と知り合ったのもその時だと言う。
「それでなんと?」
「"関わるな"、この一言ダケネ」
「でしょうね」
神父はマギウスの翼と余計なもめ事を発展させない方向に舵を切っているらしい。
監督役直々のタブー宣言。どれだけの魔法少女が大人しく言う事を聞くかは甚だ疑問だが、これで一応のスタンスを示すというわけだろう。
「あきらやかこに事情を知らせないのは分かる。でも、私に言えば何か手伝えた筈ヨ」
「美雨さんにそこまで心配されてるとは、ちょっと意外でした」
「……お前たちには世話になたヨ。受けた借りはきちんと返す。それが恩なら猶更ネ」
私、美雨さんにはウザ絡みしてた自覚しかないんですけど、もしかして結構好かれてます?
ネット麻雀対戦でおもっくそ毟られたり、ゲーセンでパンダグッズ取ろうとクレーンゲームに躍起になったり、美雨さん懇意の中華料理屋にマーボー食べに行ったり、一緒にパジャマパーティした時はあきらくんの背伸びネグリジェを揶揄ったり……案外二人で遊んでたわ。
「まあ確かに、こういう問題は美雨さんがうってつけだとは思いますよ。だからこそ、分かってるでしょう?」
どこに耳があるかは分からない以上それを直接言葉にはできない。葛葉の式神は周囲にいないが、念には念を入れるべきだ。
これは信頼とかの問題ではない。知ってる人間が極力少ないほうが良いという単純な理屈の、リスクマネジメントの話だ。
常盤ななか、琴織渡、八雲みたま、梓みふゆ。
琴織つばめがマギウスの翼に潜入している事実を知る人物はたったの四人だ。その全員が必要だから知っているだけで、私はこの事実をこれ以上誰とも共有するつもりは無かった。
「私がやってることなんて、大したことじゃないんです。この街やってきたばかりと変わらず、蝙蝠みたいにあっちこっち飛び回ってて忙しいだけ。自分が都合よくいられるために、どっちつかずを保とうとしているだけなんですよ」
誰にも知られずに救済が成ればそれで善し。もしその根幹にあるものが悪しき企みであれば、その時は全力を以って立ち向かう。
どちらに転ぼうとも日常は何も変わらずに回り続ける。
たかだかそんな事の為に、皆が青春を犠牲にするなんてことがあってはならない。
「平穏を保つためにはやらなきゃいけないことが多すぎる。皆の安全を守るためには、誰か一人は危険の中にいないといけない時の方が多い。そういう損な役回りっていうのは、私みたいなにいい加減な奴がやるのが一番なんですよ」
端的に言って、私は余所者だ。
神浜の外からやってきて、東西の問題を適当にぶっ飛ばして、まとめ役の魔法少女たちに認められて、他の魔法少女とも知り合って、ななかちゃん達の復讐を手助けした。
この一年半、私は神浜の魔法少女の仲間入りをするためにあらゆる尽力をしてきた。
みんなに聞いてみても、琴織つばめは神浜の一員だという言葉が返って来るだろう。
けれど、心の底ではどこか余所者意識が拭えずにいる。
それは私が神浜の軋轢に興味が無いとか、「外側」の知り合いが多いからとか、そういう問題じゃない。
それはきっと、私が生きても死んでもいない、この
魔女化という軛から逃れ、魔法少女としての枠からも外れた、どっちつかずの半端もの。
希望の輝きを宿して、必死に運命に抗おうとする彼女たちに対する後ろめたさから、私はそういう立ち位置であることに努めてきた。
自分が抱える問題なんてものはなく、お人よしの皮を被って恩を売る真似を続ける。
そうして何となく都合のいい立ち位置にいれば、最悪の事態があっても動けるだろうという打算を込めて。憧れた人のやり方をいい加減な形でしか真似できない、いい加減な奴。
それが琴織つばめという屍人だ。
「……お前もななかも大馬鹿ネ」
「私はともかく、ななかちゃん馬鹿にするのは許しませんよー」
「もう一度言うヨ。お前ら全員大馬鹿ネ。別に、一生許さなくていいからナ?」
そう言って、美雨さんはあるいは猫のような目で、悪戯を企んだような笑みを私に向けてきた。
……は? なにその仕草、私のデータに無いんだけど??
――そんなやり取りもあったところで、あきらくんから鈴音と接触したという連絡を受けたのだった。
◇
鈴音が放つ炎の剣――彼女は炎舞と呼んでいた――をあきらくんは次々と叩き落として距離を詰め、徒手空拳の身軽さを活かした連打で押し込んでいく。剣の間合いよりもなお狭い接近戦を鈴音は炎で牽制して離そうとする。
今のところは五分五分といった具合。しかし鈴音の方は既にあきらくんの対策を学んだか、斬撃と魔法を織り交ぜて着実に体術を捌きに来ている。片方は飽くまで無力化に留めようとして、型や確実に仕留めようとする違いもあるだろうが、やはり対魔法少女という点では鈴音が一歩勝るか。
フェイントを織り交ぜた斬撃であきらくんに無理な回避をさせた直度を狙い、研ぎ澄ませた一撃を放つ。
――と、そこに横合いから割り込んだ粟根さんが剣を防ぎ、同時に鈴音を弾き飛ばした。
「おおっ、美雨さん見ましたか粟根さんのあの動き! あきらきゅんが躱せない一撃を左のトンファーで防ぎながら、すかさず右のトンファーで反撃を加える。まだ拙い部分はありますが、あの構えを私たちは知っているッ!」
「そりゃ音子との組み手に私たちも付き合たからナ。あと地が出てるヨ」
防御をそのまま攻撃に転用するあの構えは聖堂騎士が修めるとされる体術であり、すなわち我らが音子さんが誇る難攻不落の戦闘スタイルだ。
音子さんは赴任直後に魔法少女を集めてスパーリングをかました後も教えを請われているようで、時折暇ができた時には組み手や指導を行っており、粟根さんも参加したことがある。
流石に並外れた身体能力と障壁を組み合わせる音子さんレベルは無理だが、単体だと攻め手に欠けていた粟根さんにはピッタリの戦い方だといえるだろう。
そこへ加賀見さんとななかちゃんも加わり、戦況は佳境に入ろうとしていた。
この四人の組み合わせは手堅く纏まっている。銀の刃と金の盾による阿吽の如き連携と、手堅くまとまった前衛に打倒の道筋を見出して指示する司令塔。欠点といえば遠距離攻撃に乏しいことぐらいで、それすらも並みの魔女程度なら正面から押しつぶせる。
しかし、だ。
いくら最強の魔法少女から薫陶を受けたとはいえ、相手は魔法少女を一方的に殺し続けてきた猛者。
一筋縄でいくほど甘くはなく、結論を先に述べれば経験の差が勝敗を分けた。
人数不利を悟った鈴音は敢えて後退して押されているように見せかけた。そこに追撃を仕掛けようとあきらくんが突出した瞬間、研ぎ澄ませた一閃でそのソウルジェムを破壊したのだ。
夕明かりを反射して煌めきながら宙に舞う銀色の破片。それが砕け散った魔法少女の魂であることを知らなければ幻想的な光景だったことだろうか。
変身が解け、糸の切れた人形のように崩れ落ちたあきらくん。それを見て動揺したななかちゃんが棒立ちになったのを見逃さず間合いを詰めてさらに一閃。
瞬く間に二人が死んだことで悲鳴を上げた粟根さんを続けざまに葬り、最後に姿を隠していた加賀見さんの透明化を看破して逆に背後を取り、そのソウルジェムを貫いた。
すべては一瞬の出来事。
状況判断の見誤りによって、それまで優勢だった四人は瞬く間に返り討ちとなった。
――というのが、美雨さんの『偽装』によって鈴音に思い込ませた内容だ。
少なくとも戦闘が開始してしばらく、四人の連携で翻弄したまではまごうこと無き事実。私たちのいる物陰に鈴音が背中を向けた瞬間に魔法を発動させ、僅かな間硬直した鈴音はそのまま変身を解いて路地裏を出て行った、というのがトリックであった。
「いやー、なんとかうまく生きましたね!」
「やはり色々と便利な魔法ですね。あきらさんは大丈夫ですか?」
「……凄い殺意だった。本気でボクを殺そうとする目。あのまま戦ってたら危なかった……」
あきらくんは消耗した魔力以上の疲れを見せている。あれほどまでに殺意を向けてくる相手は初めてだっただろうし、精神的にもだいぶ参っているみたいだ。
「本当に立ち去っちゃった……成功したんだよね、これ?」
「『事実』を偽装とは言うけれど、端から見たら幻惑の類と大差ないわね」
「本人の中ではれきとした『事実』ネ。目にする光景も、手に残る感触も。本物と違わず記憶に刻まれるヨ」
そう本人は説明するけど、ぶっちゃけ大して変わらないのでは。
そんな風に考えていると、美雨さんはいきなり爆弾じみた発言を突っ込んできた。
「ただ……少しだけ不安残るヨ」
「というと?」
「彼女、既に記憶弄られてる痕跡あたヨ。魔法かける時、変なノイズ感じたネ」
「何だって?」
『記憶の操作』……それを聞いた私たちの間には共通して一人の人物が思い浮かぶ。
「それって、あの更紗帆奈みたいに?」
「そこまでは分からない……でも、同じ系統の魔法が使われてる可能性高いヨ。もしかしたら、それキッカケに解除されるかもネ」
「え、それじゃあまた襲ってくるかもしれないの!?」
「流石にすぐに戻ってくるとは考えにくいけど、警戒は必要ね」
「……ななかちゃん?」
「いえ、少しだけ考え事を」
大方何を考えているのかは想像がつく。
鈴音はあくまで実行犯でしかなく、その裏でさらに糸を引いているものがいる可能性。それどころか、鈴音はその自覚なしに動いている可能性すらあるということ。
とはいえ、鈴音が脅威である事実には変わりない。
鈴音が神浜に滞在し続けるなら、四人の内誰か一人の姿でも確認すれば欺瞞に気が付く。
そうなれば二度目はなく、今度こそ奇襲による各個撃破を狙ってくるだろう。
だからこそ、次なる一手もななかちゃんは打っていた。
「気になる点も残りますが……いずれにせよ、次にやる事は変わりません。美雨さん、例の仕掛けは如何がですか?」
「順調ヨ、既に1000人以上が拡散済ネ」
蒼海幣の伝手で鈴音を行方不明者としてSNSに流す。
神浜地域限定のSNSとはいえ、見た目からして普通に美形な鈴音は注目を集めるのに時間はかからない。そうして一般人からの監視の視線を浴び続ければ、いずれは根を上げて神浜からも姿を消す。そこまでが今回のシナリオだ。
最初から最後まで美雨さんに頼りきりだな。今度何か奢ってあげようと私は密かに決意した。
「つばめさん。念のため、スズネの監視を
「了解。もし性懲りもなく同じ真似をするようなら、私が直接この街から蹴り出してやりますよ」
「頼みましたよ」
そう言い残して、私はななかちゃん達から離れた。
大分距離を取ったあたりで、仮面を取り出して装着し、黒紫の外套に身を包む。
そうして鶴喰夜鴉となった私は、ビルの屋上へと登った。
「あの子も気の毒ですね。神浜の表と裏が同時に敵に回るとは」
天乃鈴音がこの街から出られることはない。
彼女がマギウスの翼にも手を出し、追手を差し向けられている状態であることはななかちゃんに共有済で、今回の作戦もそれを前提としたもの。
要するに、自分たちは追い払うのみに留め、後の始末をマギウスの翼に任せるということだ。
最も、その存在を知っているのは私たち二人だけなので、残る四人には適当な理由付けをしたわけだけども。
私が観察に回った理由も、元は彼女の動向の監視とカラーズへの連絡を同時に行うため。
相手は他の街で何人も魔法少女を殺した凶悪犯。ななかちゃん達でも懲らしめて神父に突き出すぐらいはできたかもしれないが、最悪の可能性は排除できない。
私が参戦したとしても同じことが言える。相手はみふゆさん相手に一歩も引かなかった強者。『本気』を出して『その気』で行かなければ万全の体勢とはいかない。
我儘になってしまうが、万が一にでも殺してしまう可能性を、あきらくんと粟根さんに見せつけたくはなかった。加賀見さん? あの子は多分普通にやる。粟根さんの身に危険が迫るなら躊躇うことなく実行するだろう。そういう目をしていた。
どちらにせよ、真っ当に倒すという方法で鈴音と戦うにはあきらくん達では若干荷が重いのは事実。
その点、ガチの殺し合いに長ける『我々』なら遠慮も呵責も要らずに彼女を制圧できる。
人目を避けて路地に入り込み、他者に見られる心配がなくなった時が好機だ。
「――マギウスはともかく、ななかちゃん達に手を出した対価は重いですよ。天乃鈴音さん」
彼女も彼女で何かしら事情が込み入ってそうだったが、そんなものは正直どうでもいい。
大切な友人たちに牙を剥いた。それだけでシバき回す理由には十分すぎる。
肉眼で捉える視界と、カラス達が見下ろす俯瞰の視点が重なる。
路地裏を慎重に進む天乃鈴音。そしてそこを目掛けて大通りを駆け抜ける銀色の騎兵を同時に認識。
……そして、そこから少し離れた地点で鈴音を監視する、もう一人の魔法少女の存在を発見した。
○琴織つばめ
自分が率先して損を被ればいいとは思っていないが、天秤にかけるなら間違いなく友人のほうに傾く。自己犠牲というよりは、自分が死んでも死なないという性能的な問題でもあったり。
感想や評価は作者のモチベに繋がるのでよろしくお願いします。