つばめちゃんは神浜の魔法少女が尊いようです   作:名無ツ草

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明けましておめでとうございます。
すっかり期間が空いてしまいました(何度目)が、この小説は相変わらずわちゃわちゃしていきます。


第七十二話 マギウス・カラーズ……⑦【そして日常は続いていく】

ChapterⅧ【そして日常は続いていく】

 

 

 

 結論から言えば、天乃鈴音の身柄はマギウスの翼が預かることとなった。

 

 いくらカラーズが敵対者に情け容赦のない戦士たちであっても、流石にあの有様の彼女に処罰を下すのは憚られた。

 私もななかちゃん達が襲撃にあっているとはいえ、それに至るまでの経歴とこの惨状を見てしまっては何も言えない。ウズメさんが華々莉をぶった切った時は内心ガッツポーズしたのでまあそういうこと。

 

 鈴音はフェントホープにあるウズメさんの部屋、あるいはウズメさんの自宅を行き来している。どうやら自発的に動く心を喪失してしまったらしく、普段は部屋に籠ってウズメさんの帰りを待つばかり。同行する際は二度と離れまいとウズメさんの手を固く握って離さない姿は微笑ましいが痛々しくもある。そこに双樹が対抗心を燃やしてウズメさんの反対側を占領するようになったのは余談だ。

 

 なお、彼女はマギウスの翼の活動には参加していない。魔女狩りもウワサの監視のどちらも、幼児退行した状態ではとてもじゃないが無理だというのがウズメさんとみふゆさんによる話し合いの結論であり、マギウスもそれに納得した。

 こういう時ちゃんと人道的な意見を出せるみふゆさんと、それに理解を示してマギウスの理想との折衷案を考案できるウズメさんの組み合わせは安心できる。この組織が神浜の魔法少女や粛清機関を敵に回していないのはこの二人の尽力あってのことだ。

 

 下手人たる日向華々莉は地下牢の懲罰房に収監された。

 組織に刃向かった者を閉じ込め、感情エネルギーを搾り取る地下牢には魔法少女には特殊な施設が用意されている。

 

ソウルジェムが穢れないようにしつつ、接続が切れて停止した肉体が腐敗しないようにするコールドスリープ装置。

 ある街を支配下において魔法少女狩りを行っていた魔法少女のグループを制圧した時に鹵獲したものだと言うそれこそが宴が言っていた『レイトウコ』。

 首だけになった魔法少女に冷凍状態の肉体を見せつけながら苦痛を与え、自らの無力さに絶望させてドッペルを絞り出すという拷問以外の何物でもない設備だ。

 これまで収容された魔法少女はいずれも基礎能力が低いためそのまま閉じ込めていても問題なかたのだが、華々莉は強い因果を持った魔法少女。ソウルジェムを手の届かないところに置いた程度では安心できずこれまでの施設では休眠状態にするしかなかったのだが、宴が持ちこんだレイトウコによって収監が可能になった。

 

 余談だが、それまでに閉じ込められていた連中も同じくレイトウコ行きになった。一度だけ見たが、紗々とかいう魔法少女が映画とかでよく見る液体に満ちたガラスシリンダーの中で苦悶の表情を浮かべながらこっちに縋る視線を向けてきたのは記憶に残っている。

 

 

 

 以上をもって今回の事件は幕を閉じた。

 結果だけを見れば、マギウスの翼に目立った被害は無し。

 今回も見事な凱旋を遂げたことで、カラーズの名声は高まるばかり。

 

 ななかちゃん達にも事態が収束したことを伝え、彼女たちはそれぞれの日常へと戻っていった。

 

 

 そして私はと言うと……

 

 

 

 

 

「ハァーッハハハハ!!」

「弱い、弱い。私たちに喧嘩を売っておいてその程度か!」

「ぐあっ、こいつら……!」

「保管していた魔女を出せ! 傀儡兵も全部起動しろ!!」

 

 

 絶賛、抗争の真っただ中であった。

 

 

 今回の相手は神浜(ここ)の噂を聞きつけて乗り込んできた魔術師一味。

 鈴音の一件が片付いたと思ったらすぐのコレ。どうやら自動浄化システムの評判は千客万来、万年御礼とうなぎ登りらしい。全く嬉しくねぇ。

 

 神浜外に広まったイヴの噂を聞きつけて、世界各地から送り込まれてくる魔術師たち――『"枝"を知るもの』『六眼堂』『ミネルヴァの瞳』『第三の福音教義会』『ミュトス分派』『黒山羊の御子たち』、他にも様々。

 大小規模を問わず、魔術結社の皆様方からは神浜という土地はずいぶんと魅力的に映るようで、週に二度はこちらにちょっかいをかけてくる。

 一応ここは粛清機関が目をつけている場所のはずなのだが、その点無駄にガッツがあるというか、行動力に満ち溢れている奴らだとつくづく思う。どうせならそれを別のところに向けてくれないだろうか。そうすれば私の負担も幾らか軽くなるのに。

 

 

 事の発端としては羽根たちが捕獲・管理していた魔女が消失したこと。

 それだけなら偶然入り込んだ魔法少女が倒したという可能性もあるのだが、奇妙なことに結界がそのまま維持されており、主の魔女だけが忽然と姿を消していた。

 

 結界が消滅しないパターンとしては、結界を形成できる力を持った使い魔が存在するか。何らかの要因で魔女が生きているか。特に後者、別の結界などで無理やり隔離された場合などもこのケースに当てはまる。

 そうして考えると、私たちにとっては身近なものが思い当たる。アリナの結界だ。

 だから最初は彼女が無断で魔女を捕獲したのかと考えて問いかけたのだが、返ってきたのは「違う」の一言。

 そこに各地の黒羽根から管理していた魔女だけが姿を消したという報告が次々と。

 ここでマギウスは「部外者である何者かによって連れ去られた」という予測を確たるものとして、そこから推察されるのはあの悪夢の再来。

 明らかな異常事態であるこれにウズメさんは原因を究明するため、私が率いる斥候部隊が緊急出動。

 

 まずはそれぞれ報告があった地点を地図上で確認。そして各地点から均等になる距離、霊脈の流れなどを葛葉からの情報で絞り込み、羽根を送り込む。

 そんな調査を二日続けた末に、魔女の反応が不自然に密集するポイントを発見。

 大東の外れ。廃棄された寺院。人の気配が全くないはずの敷地内には複数人の人間が出入りしており、そこから先は私が単身で潜入を敢行した。

 結果、彼らが魔女を使役する術を持つ魔術師であることと、地下に設けられた空間を根城としていることが判明。

 

 葛葉が内部の罠のうち一番危険なものを解除した後、厳戒態勢でスタンバイしていた突入部隊(要するに宴と双樹)が一番槍を競うように出撃。警備として仕掛けられた魔術人形を真正面から粉砕していき、そのまま魔術師たちが集まっている一室まで突き進んだ。

 

 とはいえ、向こう側も流石に敵襲を想定していないほど愚かではなかった。

 同業者が何人も消息を絶っているこの地に踏み込んでくる時点でそれなりの備えはしていたらしく、突入した瞬間に二人は魔術による手厚い歓迎を受けた。

 一度に喰らえばただでは済まない魔術の雨あられを、葛葉が備えておいた前鬼・後鬼が盾となって防ぎ、すかさず宴がカウンターとばかりに切りこみ正面にいた一人に回し蹴りを浴びせた。

 重機の衝突に等しい威力を肩から受け、胸まで丸ごと複雑骨折した魔術師が地に沈んだのをゴングとして、凄まじい攻防戦が幕を開けたのであった。

 

 なお、そのドンパチを部屋の入口付近で眺めている私は、逃走経路の確保と、何かあった時のカバー役。

 つまりは、いつもの布陣である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 魔術結社『闇の知啓』は「魔女を操る」ことを得意とする黒魔術の一派である。

 

 魔女を操る……こう書けば凄いことのように思えるが、実際はそう難しい話ではない。

 呪いによって動く強大な怪物である魔女だが、理性を大幅に失っているために「操る」という点では人間よりもよっぽど容易い。

 例えば好む絶望や呪いを秘めた呪具によって上位の個体と誤認させて従わせる、あるいは手っ取り早く生贄を与えて飼いならす。その他、魔女の行動原理に指向性を与えて使役する技は黒魔術においてはポピュラーな手法だ。

 

 とはいえ、それでできるのは精々が自分が襲われることなく一か所に留める、または圧倒的に弱い人間に対して嗾けて暗殺の手段として用いる程度。

 魔女とは総じてみれば好戦的な存在ではなく、結界内に入り込んできた者に対して縄張り意識で襲い掛かることはあれど、天敵である魔法少女に対して積極的に戦いを挑んでくるようなことは殆どない。

 魔女に強く命令を刻み込める『暗示』などの精神系魔法や、十二魔女やその眷属のように魔女を容易く従えるというのは、それだけ彼女たちの力が強大である証拠なのだ。

 

 そう考えてみれば、下級とはいえ魔女を使役して意のままに操ることのできる黒魔術の腕は凄まじいのだろう。うまく不意を打てば、魔法少女を倒すことだって可能である。

 

 

 ――最も、並の魔法少女に通用する程度の手段では今の襲撃者たちには力不足でしかなかったのだが。

 

 

「ハッハハハハハハハ!!!!」

 

 

 銀色の軌跡を残しながら縦横無尽に屋内空間を疾駆する影。同時にばら撒かれる銃弾が使い魔をハチの巣に変え、そのまま態勢の崩れた敵の真っただ中に飛び込んで腕に備えられたブレードを振るって次々と切り刻んでいく。

 魔女を従えるということはそこから生み出される使い魔も手勢として運用できるということ。紛れもなく強力な力なのだが、それで魔女を屠るために特化した魔導機人を止められるはずもない。

 

 もう一方、白と赤のドレスは跳ねるような動きで炎と氷をまき散らし、魔術師が繰り出してきた人形の兵士を灰になるまで焼き尽くすか、物いわぬ彫像へと作り替えている。

 この人形の兵士も魔女の身体の一部を材料に用いて作られたものであり、同じく魔女の手下に対する自衛手段としては文句ない性能があるのだが、歴戦の魔法少女からすれば十把一絡げの雑兵に過ぎない。

 

 次々と手駒は討ち取られてゆき、それらを盾に後方から魔力の矢や呪詛の弾丸などを飛ばしていた魔術師たちもまた一人二人と沈んでいく。

 中には仲間が倒されている間に脱出路から逃げ出そうとした者もいたのだが、

 

 

「なんだこれ、大量の蟲がぎゃああああああっ!!」

「寄るな、寄るなっ! クソッ、なんで追い払えないんだ」

 

 

 脱出路の扉を開いた途端、そこから大量の虫が雪崩れ込んできたのであった。

 地を這い、あるいは羽音を立てながら魔術師の身体に纏わりつき、次々とその小さくも強靭な牙を肌に突き立てて毒を流し込んでいく。

 当然これは葛葉の式神によるもの。相手も虫除けの魔術で必死に抵抗を試みたのだが、それで追い払えるのは精々自動で差し向けている小さな虫のみで、彼女が直接操作して突っ込ませた本命の蟲によって健闘虚しくダウン。

 工房が地上にあったのなら風を起こして蹴散らすなどの方法を取れたのだろうが、ほぼ密閉状態の地下ではどうしようもなかった。

 

 そうして自分たちの拠点が蹂躙されていく様子を、無駄に豪華なスーツを着て金髪を後ろに撫でつけた男はわなわなと震えながら見つめていた。見つめるしかなかった。

 

 彼は魔術を組み込んだ工学と得意とする魔術師で、生まれ育った国では親から受け継いだ地位をさらに高みへと押し上げてみせた秀才。

 その才能は今回の任務でもこの拠点の警備や自動人形を一手に引き受ける存在として組織の中でも全幅の信頼を持たれており、彼もその期待に応えて渾身の魔術で工房の守りを固めた。

 

 流石に海を遠く跨いだ島国ということもあって万全の設備を持ち込むことは敵わなかったが、廃棄された寺院という、人目に付かずかつ霊脈に接続しやすいという恵まれた条件の立地を押さえられたこともあって人生最大とまでは行かずとも盤石と誇れる警備体制を整えることに成功した。

 

 そして今、その成果がただの魔法少女数名に台無しにされていた。

 

 

「馬鹿な、私の人形兵が、結界がこうも容易く……」

 

 

 彼の祖国においても魔女は出現し、そしてそれを倒す魔法少女も現れる。

 魔術師はそのどちらにも味方することなく、ただ己の理想を求めて探究する存在。故にその両方を敵に回す事態も起こり得て、彼らの一派が根を下ろしている国はそういう地域だった。

 

 この世界では魔法少女と魔女が相争うだけではない。魔法少女同士が明日の生存を懸けてあらゆる闘争に身を投じることだってあり、権力を持つ者によって魔法少女が手軽な戦力として抗争に駆り出されることも珍しくはない。

 魔法少女は強力だ。銃火器で武装した程度の人間が太刀打ちできる相手ではなく、彼女たちへの対抗手段として魔術師たちもまた権力者に重用され、歴史の裏で暗躍してきた。

 

 この金髪の男の作る人形兵は、彼らを雇う組織の財布を少女たちの流血で存分に潤してきた主戦力。例え現地の魔法少女が一人二人立ち向かってきたとして、問題なく対処できると思われていた。

 実際、彼女たちのうち一人だけを相手にするなら勝負になった。力任せに突っ込んできたところで、使役した魔女や人形兵で抑え込んで呪詛を浴びせればそれで済む。強力な魔法を持っていようと、それを発揮させる前に仕留めるのが彼らの戦法だ。

 

 誤算だったのは、彼らの前に立ちふさがったのは歴戦の魔法少女の背後に、同じ魔術師の手口に長けた凄腕の陰陽師が就いていたこと。

 魔法少女が大規模に集った組織を政府と密接に関わる魔術組織が事実上後援しているなどという事実は、彼らの常識からあまりにも外れていたのだ。 

 

 勿論、そのような状況を決して外部に漏らされることが無いように根回しを行っている葛葉の謀略あってこそ。

 そして粛清機関も、世界各地で暗躍している結社が噂話に乗っかって勝手に潰れてくれる分には全く問題がなく、むしろ都合が良いとまで思っている始末。

 上層部の一部が現地に駐在する福詠には何も知らせず魔術師たちの密入国を見逃しており、その結果として彼らが神浜に潜り込めているという裏事情もあるのだが、そんな思惑にまんまと引っかかって壊滅の道を辿っているこの魔術師が知る由もなかった。

 

 

「聖堂騎士の目を潜り抜けてここまで来たと言うのに……」

 

 

 魔術師側からすればたまったものではなかっただろう。

 粛清機関があの『鉄の英雄』を駐在させるほどの何かがある都市。悪名高き簒奪騎士すらも趣き、返り討ちにあったという地に何が眠っているかなど、神秘を追及する身として推察するのは難しい話ではない。

 

 だからこそ、千載一遇のチャンスをかけて"それ"を手中に収め、自分たちの手で秘儀を完成させる。そうして得た成果でジリ貧となった自分たちの国の趨勢を盛り返す。

 英雄がその地を離れた時期を狙い、魔術社会の裏ルートを用いて入国し、堂々と侵入に成功した。対価は決して安くなかったが、それに見合うだけの成果は確かにあった。目論見通りに、神浜は宝の山だったからだ。

 怪異の中でも上位に位置する魔女、その上澄みのような個体が漁ればすぐに見つかる。貧困と殺戮が蔓延る地帯では得られない、豊かな国でのみ育つ絶望と業欲の怪物の巣窟こそ彼らが求めてやまなかったものだった。

 

 

 ――だと、いうのに。

 

 

 

「なんだお前たちは……なぜ我らの悲願を阻むのだ、この小娘どもが!」

「いや、先に余計な真似をしたのはそっちだろう」

「黙れい! こうなったらせめて……!!」

 

 傲慢な懇願を呆れた様子で一蹴する夜鴉。

 自分たちの理想を虚仮にされたことで何かが吹っ切れたのだろう。金髪の男は懐のポケットに手を突っ込み、呪符がびっしりと貼られた小型の金属製ケースを取り出した。

 

 

「最後までとっておくつもりだったが、こうなればままよ!!」

 

 

 残像が見える速度でダイヤルが回され、中に納まっていたものが姿を見せる。

 黒い水晶塊のような物体のそれは、中心部に球状の骨組みを二つ重ねたような歪なものが埋め込まれていた。さらに詳しく言うと、グリーフシードに酷似したものがドクンドクンと脈打ちながら呪いを放っていた。

 

 

「教会の手に渡るぐらいならばすべて消し飛ばして――」

「やらせるか」

「むぎょんばっ!?」

 

 

 ともあれ、明らかにヤバげな代物をただで見過ごすわけもなく。

 夜鴉はこっそり仕込んでおいた魂縛りを使って動きを止め、そのまま鮮血機構で横殴りにして昏倒させてブツを回収した。

 手の中で脈打つ呪い。一つごとにその強さを高まらせていく鼓動に、夜鴉はとてつもない危機感を覚えた。ひらり、と彼女の耳元に飛来した式符から声が発せられた。

 

 

『……カースニュークですか。これまた厄介なものを』

「なんだその物騒な名前は」

『中東で開発された、二つの呪物を互いに呪わせ、呪詛返しによって効果を何十倍にも増幅させた魔術兵器です。都市一つ分まるごと呪殺できる兵器として、一時期は紛争地帯で量産されました』

「なんだその頭の悪い武器は」

 

 

 明らかに単純な思い付きの、しかも危険性が見え見えの発想だが、手元から感じられる呪いの強さが嘘偽りなくカタログスペックを証明している。

 炸裂した瞬間、自分たちはおろか神浜の街の一角が吹き飛び、周辺の地域にも呪いが降り注いでそれはそれは大変なことになるでしょう。

 

 

『その主要組織は粛清機関によって徹底的に潰されたわけですが、製法が流出していたのでしょう。理屈としては難しいものではありませんし、呪物もグリーフシードを用いればよい。それなりに勝算があってここに来たというわけですか』

「冷静に分析しているが、それは対処できる余裕があるということでいいんだな?」

『何を言っているんですか。無害化に一か月は儀式が必要なものクソ厄物を、式神越しで即座に処理できるわけないでしょう?』

 

 

 ある種の期待を以て問いかけたものの、葛葉はいけしゃあしゃあと、そんなことをのたまってくれやがりました。

 一番の専門家からのお手上げ発言に、ついつい夜鴉は声を荒げてしまう。

 

 

「おまっ、じゃあどうしろって言うんですか!?」

『地が出ておりますよ。なに、真っ当に処理するなら時間がかかるというだけで、ちょこっとズルをしてしまえばいいだけです。というわけで鶴喰さま、お得意のアレで呪いを燃やしてください』

「……なるほど、そういうことか」

 

 

 葛葉の言葉に夜鴉は即座に魔法を発動した。

 夥しい穢れに満ちていたそれは青白い炎で盛大に燃え上がり、内側に詰め込まれていた呪詛を焼いていく。

 ……が、やはりグリーフシードを二つも用いたということもあってか、消し炭になって剥がれていく表面の奥には未だ呪いが渦巻いている。

 悪化は防げたが、好転もしていない。そんな状況だ。

 

 

『上出来です。ではご当主殿、あとはよしなに』

「仕方ありません。鶴喰、下がっているように」

 

 

 後方から聞こえた言葉に、すべてを理解した夜鴉は振り向くことなくカースニュークを後ろ手に放り投げた。

 沙羅ウズメは術符を取り出し、刀を出現させて、一閃。

 

 綺麗に真っ二つとなった呪物が地に落ち、内側に押し込められていた呪いが瞬く間に霧散していく。穢れを祓い、魔を断つ御晒樹堂の宝刀によって、世にも悍ましい呪詛の兵器はこの世から消え去った。

 

 

『はい、これでクリアです。それでは皆さまがた、目ぼしいものを掻っ攫って帰投なさってくださいまし』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――と、少し予想外のアクシデントがあったものの、作戦は成功に終わった。

 ホテルフェントホープに悠々と帰還した私たちはそのままデブリーフィングへ。

 

 

「はーい。今回も皆、お疲れ様ー」

「鎮圧速度は問題なく。兵器の無力化も成功。批評の付け所もない素晴らしい仕事だったよ」

 

 

 帰投したカラーズを手放しで称賛するマギウスの二人。

 その隣にアリナの姿はなかった。ホテル内でマギウスが三人揃っていることは実際はそこまで多くなく、夕方に向かってもねむかアリナのどちらかが欠席している。週末であれば最低一日は集合しているようだが、それでもアリナは自らの創作活動に没頭していることがほとんどだ。

 

 

「ありがとうございます。ですが、当然の仕事で御座います」

「その通りだ。私たちの前にあるのは勝利のみ。まあ、正直に言うと最後のアレはヒヤっとしたけどね」

「まあ壊すだけの全身兵器じゃ見てるだけしかできないよね。それに比べてお姉さまはキレイに一発!」

「そういう君は、結構深い一撃貰ってたみたいだけど。燃えながら突っ込んできた人形への対処が遅れるとは、雑兵ばかりを相手していると気が緩んでしまうよ」

「お、やるの?」

「折角だからね。この熱を冷ますためにもう少し踊ってみたいと思っていたところだ」

「……お二人とも。マギウスの御前で、良い度胸ですね」

 

 

 いつものいがみ合いをウズメさんに諌められ、その後は事後処理を簡潔にまとめて会議は締められる。

 

 

「では今回も勝利を祝しにいこうじゃないか!」

 

 意気揚々と宴が言う。

 祝すとは言うが、要はカラーズ総員で打ち上げに食事に出かけるだけだ。

 どうもこいつはそういう形式ばった行為が大好きらしい。前なんかあからさまにシャワルマを食べに連れていかれた。まあ私も嫌いじゃないけど。

 

「わかりました。ではお嬢様と鈴音さんの送迎を済ませます。時間までに下で集合、でよろしいですね」

 

 そしてこの打ち上げは大体全員参加する。

 腹に一物抱えた曲者揃いだが、こういうところは割と全員が年相応にノリが良かったりする。

 私も、断る理由がないし経費で落ちるから毎回参加している。

 

 

「今日の店決めたの誰?」

「私ですよ。水名に良い蕎麦の店がありまして」

「あの店ですね。値段もお手頃で、特に天ぷらが絶品ですよね」

「ふむ。それはいいですね。信城、くれぐれも騒がないように」

「流石にTPOは弁えているが……」

 

 

 女の子が六人、お喋りをしながら北養の坂道を下っていく。

 年齢も恰好も、出自も思想もバラバラな少女の集団。

 彼女たちに共通するのはたった一つ。

 

 

 『魔法少女を運命から解放する』

 

 

 その目的を一つとして集まった、魔法少女の中でも飛び切りの精鋭。

 災厄と名高き魔女の尖兵を退けて、魔法少女に希望の火を灯した者。

 色彩の名を以て、解放の理想を彩る者たち――マギウス・カラーズ。

 

 

 かくいう私も、その一人。

 マギウスの翼、鶴喰夜鴉。

 鉄の茨と黒き翼で、神浜の空を支配するもの。

 その魂に絶望を抱き、虚無の真理を孕んだもの。

 友のため、魔法少女の運命を覆すために、敵も味方も欺きながら、街を駆ける夜の鴉。

 

 そして、この曲者たちと共に、羽根を統べる『紫』の影。

 

 密かに、ゆるやかに。

 しかし盤石な地盤を作り終えた私たちは着実に悲願の歩みを進めている。

 

 魔法少女の解放は近いと、少なからず、私もそう思っていた。

 

 

 

 

 

 桃色の髪をした少女が、この街を訪れるまでは。

 

 

【マギウス・カラーズ】 終わり




というわけでカラーズ編の前半はこれにておしまい。
閑話を挟んだ後、物語はとうとう後半――マギレコ本編第一部へと入っていきます。


期間が空いたお詫びと言ってはなんですが、音子さんのイラストを描き上げてきました。
三十三話の挿絵として突っ込んだのでよろしければご覧ください。
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