同じ地区の魔法少女たちともある程度は打ち解け、神浜での魔法少女活動も軌道に乗ってきたころ。
私は一人の魔法少女から、ある話を聞くことになった。
「決闘少女?」
「ええ。昨日いきなりやってきてさ……」
唐突に決闘を申し込んでくる魔法少女がいる。
その上かなり強く、自分たちも倒されてしまった。とのこと。
グリーフシードの横取り狙いかと聞いてみれば、勝利した後は何も取らず、満足そうにその場を去って行ったと答えが返ってきた。縄張りを主張したわけでもないようなので、単純に武者修行めいた辻斬り行脚だろうか。
「面倒な……」
「琴織さんは強いから大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「わかりました。連絡ありがとうございます」
というやり取りをした数日後。
いつものように放課後の魔女狩りに赴いていた私だったが。
「そこの魔法少女よ、この由比鶴乃が決闘を申しこーむ!」
と、件の決闘少女とやらが目の前に現れたのであった。
うん。めっちゃ見覚えある。
「あの……何してるんですかあなた?」
「……あれ、あなたどっかで見たような?」
私の顔を見てきょとんとする中華風の衣装を着たサイドポニーの女の子。
名を由比鶴乃というこの少女は、私の顔見知りであった。
彼女を見かけたのは、この前の休日に父と二人で食事をしに行った時のことだ。
その時お腹が中華な気分だった父と共に、参京区にある中華料理店「中華飯店 万々歳」に訪れた。そこで店の手伝いをしていたのが、店主の娘である鶴乃さんであった。
彼女には食事の感想を聞かれたのだが、50点と答えると露骨にしょんぼりしていたのが印象に残っている。
でも、あんなにぴったり50点と形容できる味も中々ないだろう。特筆して美味しいわけでもないが、かといって不味いわけでもないあの味は、ある意味毎日食べることのできる味なので、困ったらあそこでいいやとなれる何気に貴重な店ではないのだろうか。料理漫画なら絶対に主人公にはなれないけど。
そんな鶴乃さんが現在私の前で決闘を申し込みにきた。
「あの中華屋の娘さんじゃないですか。なんだってまたこんなことを?」
「それはもちろん由比家の栄光を取り戻すため! 50点なんて言われないためにも、私は最強になる!」
「めっちゃ気にしてる……」
「さあさあいくよ! うちのお客さんだからって容赦しないからね!」
「いやいやまだ決闘を受けるとは――」
「問答無用!」
そう言って勇猛果敢に私に突っ込んでくる鶴乃さん。どんだけ店の味が50点だったことが不満だったのだろうか。
振るわれる扇の一撃を槍で弾き返す。刃付きの扇とは、またマニアックな部類の武器だ。
距離を取るべく後ろに跳ぶ。そこを逃がすまいと追ってきた一撃を、槍を前に突き出して牽制する。
「――なかなかやるね!」
「ちょっと、いきなり襲い掛かるのはマナー違反ですよ?」
「真剣勝負にマナーはないのだ!」
「それはそうですね」
槍の間合いを取り、さてどうしたものかと考える。
決闘にわざわざ付き合ってやるつもりはない。時間の無駄だし、何より彼女の魔力をいたずらに浪費するだけだ。適当なところで切り上げたいものだが、鶴乃さんは攻撃を防がれたことに闘志を燃やしている。止めろと言っても聞く耳をもっているかどうか。
――ならば、あれでいくか。
「――やれやれ。仕方ありませんね」
「お、やる気になったね!?」
「わかりましたよ。ですが、その前に少し待ってください」
「……ほ?」
手で静止して、戦いを中断させる。
私は槍の穂先を地面に突き立て、斜めの方向に歩く。がりがりと地面に傷が刻まれる様子を、鶴乃さんは不思議そうに見ていた。
「何してるの?」
「音を遮断する結界ですよ。一応人気のない場所とはいえ、私たちが打ち合っている音が誰かに聞かれたりしたら面倒です」
「む、それもそうだね」
私の説明に納得した鶴乃さんは私が陣を描く様をまじまじと見ている。
邪魔が入ることもなく、鶴乃さんを中心にして、五芒星が描かれた。
これで、準備は整った。
「これでOKです。後は魔力を通せば発動です」
「よーし、それじゃあ行くよ!」
「ええ。ではやりますよ」
そう言って私は魔術を発動する。鶴乃さんはまだかまだかと鼻息を荒くしており、いつでも攻撃を仕掛けられるといった様子だ。
――いやあ、本当に助かった。
「反魂魔術・魂縛り」
「――はえ?」
槍で地面を打ち付け、魔力を通す。
バチバチと音を鳴らして、五芒星が青白く輝く。
その光は中心にいた鶴乃さんに向けて伸び、瞬く間にその体を縛り付けた。
「え、え!? なにこれ動けない!?」
「いやー、助かりました。まさかこんな露骨に怪しい手段に引っ掛かってくれるとは」
動きを封じられたことに気が付いた鶴乃さんが叫ぶ。
そう。この魔術は認識遮断用の結界ではない。
あらかじめ地面にこうして魔力の流れを作ることで、範囲内の相手の動きを封じる技。
魂を対象にしてその場に留まらせる、反魂魔術の一つだ。
実戦であれば悠長に描いている暇もなく、戦闘で使用するには事前に仕掛けておくなどが必要な技なのだが、まさかこんなあっさり引っ掛かるとは。
「だ、騙したなー!?」
「真剣勝負にマナーも何もなし。先に不意を打ったのはそちらなのでおあいこです」
「む、ぐ、ぐぐぐ……」
どうにかして動こうとしている鶴乃さん。中々ガッツがあって素晴らしいが、残念ながらその程度で破られるほど
私は変身を解除し、百面相な鶴乃さんを尻目にその場を去る。
「数分したら勝手に解けますからそれまで我慢を。後日あなたの店に食べに行きますからそれで勘弁してくださーい」
「ぐぬぬぬぬ……絶対来てよねー!」
どこかズレた会話を最後に、私は帰路につく。
しかしこれで目をつけられたかもしれない。
もう一度絡まれるのは面倒なので、しばらくは活動する時間帯をずらしたほうがいいだろう。
後日、鶴乃さんがやちよさんの仲間になったという話を聞いた。
どうやら正面から何度も叩きのめしたことで、弟子入りしようと考えたらしい。
流石に6年のベテランは違いますね。
◇
6月も中旬。
春のうららかさから一転し、降りしきる雨と日に日に高まる湿度と気温は、夏が近づいてきていることを感じさせる。
生活に特別な変化はなく、
強いて言えば月の初めに静海さんが転校したことぐらいだ。
何の前触れもなく、唐突に転校したという連絡が部室で回ってきた程度。部員の皆さんも、最初は突然の別れを悔やみこそしたが、三日たてば平常運転に戻る。元々いること自体が少なかった人だから、共有した思い出も少なかったのだろう。
ただそれだけで彼女の喪失は流され、普段の日常は続いていく。人間は多くの別れを経験するが故に、人のことを忘れるのも一瞬だ。思い出も悲しみも、すべて色褪せて虫食いになる。それが人の正常な機能。過去となった人間に思いを馳せ続けて、現実をおろそかにしてはいけない。
だが、私は時折、部室の窓際を見て彼女のことを思い出す。同じ部活にいたとはいえ、接点が少なく、顔を会わせる機会も少ない人ではあったが、その大人びた佇まいは印象に残っている。それぐらいにはキャラの濃い人だった。いなくなった人間を時折思い出すのもまた、健全な人の在り方だ。
後の変化はそろそろ定期試験が迫っていることぐらいだろう。
授業の内容自体は問題なくついて行けているので、六割を目途に頑張っていければ大丈夫なはず。
と、実生活面での変化はなし。
けれど、魔法少女としての生活はちょっと面倒なことになっていた。
「襲われた、ですか」
東と西で、それぞれ魔法少女が余所の魔法少女に襲われたという。
きっかけは、神浜に出現する魔女の数が減少してきたこと。
それ自体はいいことだ。魔女が減れば、その分一般人の犠牲は減り、私もわざわざ戦いに行く手間が省けてプライベートを謳歌できる。
だが、魔女の現象はそのままグリーフシードの減少を意味する。それは魔法少女にとっては死活問題となる。西と東、それぞれの魔法少女は、空白地帯となっている中央区の魔女に目を付け、中には既に中央区を主な狩場にする魔法少女も出始めている。そして中央区の魔法少女たちは、己のテリトリーを脅かされそうになっている。
このままでは魔女を奪い合って魔法少女が争い合う――そんな本末転倒な状況になりかけていた。
そんな緊張状態の中で、ひとつの知らせが事態を揺れ動かした。
『西の魔法少女が襲われる事件が起きた。気を付けて』
――と、忠告を受けたのが三日前のこと。
「なるほど。こういう訳ですか」
場所は中央区の廃墟。
ぶらりぶらりと散歩がてら、中央区に入った私は魔女の結界を見つけた。
周りには魔法少女がいないようなので、突入して使い魔を蹴散らす。
どうやら使い魔しかいなかったようで、全滅させると結界は消滅。
そうして廃墟に戻ってきた私の前に現れたのは、一人の魔法少女。
見知らぬ彼女は変身したまま、私の前から動かない。
「貴方は何者ですか?」
「……あなたと対立する区の魔法少女よ」
「そうですか」
取り合うつもりはない。問答無用で槍を一閃する。
向こうもまさか対話中の相手がいきなり容赦なく攻撃してくるとは思っていなかったのか、迫る刃に反応すらできず真っ二つになった。
「――え?」
「甘い偽装ですね。所詮はガワを真似ただけの人形ですか」
驚愕の顔で上下に分かれた少女の身体。
そこから吹き出る筈の血はなく、少女の遺体は瞬く間に輪郭を失い、ばしゃりと液体状になって地面に飛び散った。
「確かに、姿かたちだけ見れば本物。中身は空っぽの張りぼて人形ですが、私じゃなきゃ騙されますね」
私が躊躇うことなく相手を殺めた理由は簡単。相手が空っぽだったからだ。
幽界眼を持っている私は生命の魂を見ることができる。人間なら誰しもが持っている青白い魂。魔法少女の持つ色とりどりの魂。
変身中は常時発動している幽界眼は視界内の魂を全て捕捉する。しかし目の前の相手からは一切の魂を視認しなかった。それどころか黒い穢れが輪郭からにじみ出ている始末。
そんなものが真っ当な相手なはずもないと判断して私は躊躇なく仕留めることにした。その結果として、相手は魔女の使い魔のように魔力を散らして消滅した。
「で、この偽物が余所でも出現していると。随分とまあ、回りくどい真似をする魔女もいたものだ」
とはいえこれは効果的だ。基本的に魔法少女には相手に魂があるかどうかを判別する術はない。探せば私と同じ能力持ちはいるだろうが、そういう仮定の話をしても意味はない。
適当に反対の区の魔法少女に化けてそれっぽい挑発をしていけば、人は勝手に向こうの区が攻撃を仕掛けてきたと勘違いする。
そうなれば疑心暗鬼はいずれ争いに発展し、それによって生じる悪意を魔女は手軽に貪ることができる。
考えうる限りで最悪のパターンであり、最も起こりうるであろうパターンでもあった。
――私がこうして遭遇するまでは、と条件がつくのだが。
「これはやちよさん達に報告しておいたほうがいいですね」
黒幕の魔女はこのようにして疑心暗鬼から魔法少女の分断、ひいては抗争を計っているのは明白。だが魔女の不幸は真贋の区別がつく私がいた事だろう。
携帯を取り出し、連絡先を交換しておいたやちよさんに電話をかける。こういう時にちゃんと連絡を取るために積極的に地域のリーダーへコネを作りに行った甲斐があるというものだ。
数回のコール音の後、やちよさんの声が聞こえてきた。
『はい。七海ですけど……』
「もしもし、やちよさんですか? 琴織です。ついさっき中央区で奇妙な使い魔に遭遇したんですけど」
◇
七海やちよは相棒たる梓みふゆと共に、ファミレスにいた。
東のリーダー。
――現在、神浜は一種の冷戦状態にあった。
東西で戦力及び魔女を融通し合う。
そんな協定の元に築かれていた平穏は、そもそもの魔女の減少によって形骸化し、崩れ去ろうとしていた。
東西の魔法少女たちは空いたテリトリーを求め、独立空白地帯である中央区に活動の手を広げる。
その影響を深く受けるのは他ならぬ中央区の魔法少女たち。彼女たちは自分達の活動領域を奪われるばかりか、東西の諍いの渦中に放り込まれることとなるのだ。
一見して神浜の危機ともとれるこの事態だが、監督役たる紺染神父は静観を決めている。
粛清機関の目的は第一に魔女を含む異端の殲滅であり、魔法少女同士の争いについては表社会への影響が懸念される場合のみにしか動かない。仮に神浜の魔法少女が大きく損なわれるような状況なら仲裁に入るだろうが、裏を返せば、小競り合いで済んでいるうちは一切関わってこないのだ。
故に彼らは魔法少女たちからは事後処理業者などと揶揄される……だからこそ、彼らと敵対するのは、相応のデメリットが存在するのだが、それはまた別の話で語られるだろう。
つまり、この魔女不足という問題は魔法少女たちのまとめ役であるやちよたちが対処せねばならない問題なのだ。
そんな状況の中、チームの仲間である十咎ももこが中央区にて見知らぬ魔法少女に襲われたという報せが入る。
『私はあんたと対立する区の魔法少女だよ』
襲撃者はそう言い、やちよとみふゆはこれを東の魔法少女の仕業であると推定。
十七夜を呼び出し、中央区の取り決めについて今一度交渉することにした。
最初は東の魔法少女が西の魔法少女を襲撃した事実を糾弾しようとしたやちよ。
だが、十七夜は東の魔法少女もまた、西の魔法少女を名乗る相手に襲撃されたという。
状況が不明瞭なまま、互いの魔法少女が襲撃されたという事実だけが残る。
そんな時、ももこと東の魔法少女がやってきて、再び互いの魔法少女が襲われたという報せが持ち込まれる。
「自分のところの魔法少女を把握できていない相手と交渉しても時間の無駄だ」
十七夜はそう言って会合を切り上げ、立ち去ろうとした。
――その時、やちよの携帯が着信を告げた。
突然鳴った流行りのメロディに、一同の視線が注がれる。
やちよが着信先を見れば、そこには最近追加した『琴織つばめ』の名前。
この春からやってきた、参京区を主な縄張りとする新参の魔法少女。
色々と注意を向けていた相手であり、今まさに参京区で事件があったことから、何かがあったのかとやちよは内心思案しながらも電話に出る。
「ごめん。ちょっと出るわ。――はい。七海ですけど」
『もしもし、やちよさんですか? 琴織です。ついさっき中央区で奇妙な使い魔に遭遇したんですけど。
「……え?」
――告げられた情報は、この場の誰もが欲しているものだった。
「どうもどうも。琴織つばめです」
「うむ。東のまとめ役をしている和泉十七夜だ」
通話から三十分ほど。やちよによって呼び出されたつばめは、十七夜と初の顔合わせを行うこととなった。
挨拶もほどほどに、話は本題に入る。
「単刀直入に聞こうか、魔法少女の姿を真似る使い魔だと言ったが、貴様は何故それがわかった?」
「ふむ……そうですね。今必要なものは信頼。ここは私の手札を一つ、あなた達に開帳します」
つばめは眼鏡を外し、一同を見据える。
――その黒い眼に、青白い炎が灯った。
「『幽界眼』と名付けているんですがね。言ってしまえば魂を見ることができるんですよ。
常人であれば青白い光を、
魔法少女であればソウルジェムと同じ色の輝きを、
魔女であれば内包する呪いに満ちた、黒い穢れを、
あらゆる生命の形を視認し、引きずり出す魔眼こそが、私の魔法です」
「っ……!」
一同が驚愕する。
――魂の視認。
そのような異能は魔法少女の中でも特級の異能。
人間が未だ確認できぬ神秘の存在を、彼女はその視界に収めていることを、やちよ達は戦慄する。
「私は使い魔との戦闘を終えた後でしたので、現れた魔法少女をこの眼で視ました。そうしたら、その魔法少女には魂がなかった。それどころか、使い魔と同じく穢れのようなものが体の中心にありましたよ。なので問答無用でバッサリいったら、溶けて消えました」
「なるほど。嘘ではないな」
つばめの説明を十七夜は即座に呑み込んだ。『魂を視る』――そんなあやふやな効果で魔法少女に化けた使い魔を見破った。魔法が何でもありとはいえ、ポッとでの少女の発言としては信ぴょう性に欠けるだろうに。
「……自分で言うのもあれですが、そんなあっさりと信じるのですか」
「ああ。自分も同じく眼に起因する魔法を持っているのでな。『心を読む』それが自分の固有魔法だ」
「…………道理で、それならば納得できます」
十七夜が自分の固有魔法について話した事につばめは内心舌を巻いた。
十七夜の前には隠し事の類は通用しない。つばめは自分の抱える様々な秘密が暴き立てられないかヒヤヒヤしていた。
そんなつばめの内心を文字通り読み取ったかのように、十七夜は穏やかな笑みを浮かべて言った。
「そう警戒するな。必要以上の情報を読み取るような無粋はしない。有力な情報を持ってきた相手だ。その信用を損ねるような真似はせん」
「まあ、信じてくれるに越したことはありませんしね。これが原因で魔法少女同士の争いに発展するのは魔女の思うつぼでしょうし」
「ああ。早急に手を打とう。七海、分かっているな」
「ええ。その使い魔を放った魔女の結界を見つけだすわよ」
自分たちの不信につけ入り、魔法少女同士の潰し合いを目論んだ魔女。
真の敵を前にして、東西のリーダーは放しかけた手を再び掴み合った。
〇琴織つばめ
絡め手の方が得意。
ミラーズコピーを一瞬で判別できる。というのもコピーはミラーズコインが核である以上、どうやっても魂を模倣することができないため。幽界眼のフィルターを偽装できないのである。
〇由比鶴乃
最強を目指す魔法少女。料理は50点。
つばめちゃんの悪辣極まるマンチ戦術に見事ひっかかる。
(一人称パートについて)どっちが見たい?
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つばめちゃん視点
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原作キャラ視点
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いいや両方だ
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先にEP1を書くんだよ