ChapterⅣ【記憶を求める少女】
――神浜市、新西駅。
市の内外を問わず多くの人々が行き交い、神浜市の交通を支えているその場所は、時間帯もあってか凄まじき混雑の様相を呈していた。
学校帰りの学生に、務めを終えた社会人。桃色の髪を編み込み、後ろで纏めたその少女もまた、彼らと同じように改札を潜り抜けた。
「たどり着いた。神浜市……」
しかし、彼女には他の人々とは異なる点が二つ。
神浜市と隣接する宝崎市に住む中学生である彼女は、普段なら神浜まで訪れる用事はなく、今回はある目的のためにこの街を訪れたこと。
「探さないと。前にこの街に来たときに見た、あの子を……」
「でも、どこにいるのかな……?」
そしてもう一つは、彼らのような一般人とは異なる、世界の裏側を知っていること。
「あれがキュゥべぇだったら……魔女の結界の中にいるのかな?」
彼女の名は環いろは。
キュゥべぇに魂を捧げて願いを叶えた、魔女と戦う魔法少女である。
◇
「ふ、ふゆぅ……」
「はぁ……何とか逃げられたね」
環いろはが神浜探索を始めてから少し。
住宅街の道端で、彼女はもう一人の少女と息を切らしていた。
魔女を探して結界を探り当てたはいいものの、そこには既に先客がいた。
感じられる魔力反応の昂ぶりから察するに苦戦していたようで、いろはは迷わずその見知らぬ魔法少女を助けるために結界に飛び込んだ。
そのまま使い魔に襲われている魔法少女を見つけ、撤退のために援護射撃を行い、そのまま少女の手を引っ張って結界の外まで駆け抜け、ようやく一息つけたというところであった。
「助けてくれてありがとう……」
「ううん、気にしないで。ただ使い魔が強くてちょっと驚いちゃった」
「え? あの、もしかして神浜の外から来たの?」
「うん、そうだよ?」
その答えに少女は内気な表情をさらに困ったようにして、非情な事実をいろはに告げる。
「それなら戻ったほうが良いよ。この街の魔女って強いから……さっきの使い魔も、普通にありふれてるぐらいの強さだし」
「えっ?」
反射的に聞き返す。いろはが普段活動している宝崎市では、あれだけ強い使い魔はいなかった。隣合う市でそれが標準だというのは、耳を疑って当然である。
だが、この街に足を踏み入れてから絶えず感じている魔女の気配がその言葉を裏打ちしていた。実力に自信があるわけではないいろはからすれば、出歩くだけでも危ない話だ。
「教えてくれてありがとう。……でもね、まだ私はこの街から帰れない理由があるの」
そう言ういろはの目には小さくも確かな決意があった。
自分の胸の中に生じている不安と焦燥。強迫観念にも似たそれは、神浜の地に足を踏み入れて尚強く感じていた。
「小さいキュゥべぇを探しているんだけど……キュゥべぇの子どもみたいな」
「あ、それなら見たことあるよ」
「ホント!?」
「う、うん。最近ね、この街にはあのキュゥべぇしかいないから」
「そうなんだ。どこで見たとか教えてくれる?」
「そ、それは難しいかも。最後に見たのも結構前だから……でも、色んなところで見たって聞くから、探せば見つかる、かも?」
不安げな答えだったが、それでもいろはには十分だった。
自分の探すものはこの街にいる。だったら、後は見つかるまで探せばいい。
「そっか……ありがとう! もう少し探してみるね」
「え? ……あっ、待って!」
そう言って立ち去ろうとするいろはを、かえでは呼び止めた。
「もしかして、ずっと歩いて探すつもり?」
「うん……それぐらいしか方法がないから」
「そんなの夜も遅くなって明日になっちゃうよ! ……実は、そういう情報を知ってそうな人がいる場所を、知ってるんだ」
「えっ、そうなの!?」
「う、うん。魔法少女がいっぱい立ち寄るお店みたいなところだから、もしかしたら、小さいキュゥべぇを見たとかの話も集まってるかも。ここからなら近いから、案内するね」
「いいの?」
「さっき助けてもらったお礼だよ。……あ、そういえば自己紹介してなかったね。私は秋野かえでっていいます。あなたの名前は?」
「私は環いろはです。よろしくね、かえでちゃん」
「うん。よろしくね、いろはちゃん!」
◇
――と、案内を買って出たかえでではあったが。
道中、魔女に遭遇する可能性を考えると二人だけで歩くにはやや心許なく(よく頼りにする紫色の魔法少女に言わせれば、パーティのバランスが悪い状態である)、かえでがチームを組んでいる魔法少女に連絡して、助力をしてもらうこととなった。
「や、お待たせ。アタシは十咎ももこ、かえでが世話になったんだってね」
少しして現れたのは、いろはより年上の、いかにも頼れる雰囲気を醸し出す少女だった。
「お、お願いします……」
「近道するよ、ついてきて!」
二人の案内を受けながら、いろはは神浜の裏路地を歩く。
一見して危険そうな道ではあるものの、魔法少女がよく使う近道ということもあってか、よからぬ輩に出くわすこともない。街の隙間を縫うよう歩いていく。
そして、時には道ですらない場所を道として進むことも。
「すごい……こんなところをスイスイと進んでいくんだ」
自分も多少、魔法少女としての心得はあったものの、経験豊富な魔法少女のそれは一段違う。
看板を登り、ビルの屋上を飛び越え、細い配管を駆け抜ける。そんなパフォーマー顔負けのパルクールは、大都市にして魔女過密地域である神浜ならではのテクニックとでもいうべきか。
「まあ、これぐらいはね。アタシなんかよりも凄い人はいっぱいいるよ」
「わっ、とっと。ももこちゃん、もっと優しい道歩いて~」
「これが一番近いんだよ。いろはちゃんの帰りだってあるんだからさ」
談笑しながらコンクリートジャングルをターザンよろしく渡っていく三人。
そんな獣道ならぬ魔法少女道を進んだ甲斐もあってか、当初かえでが危惧していたような魔女との遭遇もなく、いろはは『神浜ミレナ座』という廃墟へたどり着いた。
「ここが……?」
「まあ普通の店ってわけじゃないからね。魔女は人気のない場所にはあんまり寄ってこないし、安全も兼ねてるんだ。あ、ここの入り口以外から入らない方がいいよ、どっかの物好きがセキュリティをガチガチに固めてるから下手すると……」
その時、ももこの視界の端に小さな影が映る。
ボールを連ねたような姿の異形は、神浜ではごくありふれた砂場の魔女の使い魔。
魔女の結界からはぐれたのであろう使い魔は、いろは達に気づく様子もなくうろついていたが、そこで内部から感じられる魔力に惹かれたか、廃墟の方へと近づいていき――
その足端が壁に触れる数センチ手前で、高圧電流を流された蟲のように炭化して崩れさった。
「こんな風になるから」
「とてもよくわかりました」
目の前で起こった惨状を見て顔色ひとつ変えず忠告したももこに、いろはは頬を引きつらせながら答えた。
よくよく目を凝らして見れば、糸のようなものが建物を囲うようにして張り巡らされている。触れたところから魔力を流しこまれ、使い魔はああなったのだ。
なんだってここまで厳重な拠点を構えているのか。道中、『調整屋』を営む魔法少女は戦う力に乏しいとは聞いていたが、こんな芸当ができるのなら少なくともいろはよりは戦闘能力がある。あるいは、神浜の基準ではそれでも『戦えない』部類なのか?
今更ながら、修羅の国に踏み込んだかもしれないと思いつつ、おっかなびっくりで調整屋に足を踏み入れるいろは。
薄青色の間接照明に照らされた空間は、老朽化した廃墟の外観からは想像もつかないほど整っており、ほの暗さも相まって神秘的な雰囲気。
入ってすぐの所に置かれたテーブルには、黒い生地を基調としたボレロ*1を着た、明るい緑髪の少女が退屈そうに頬杖をついている。
「おや、ももこさん! かえでちゃんもこんにちは!」
「メルちゃん、こんにちは」
「メル、なんだよあの火力。間違って誰かが触ったらどうするんだ?」
「最近魔女がまた強くなってきているから火力上げないと対応できないんですよ。それに反応する相手は魔女だけに選んでいますから問題ないです!」
「いや、問題だろ」
ふふんと胸を張るメルの頭をももこはうりうりと撫でまわす。
仲睦まじいじゃれ合いをしつつ、メルは見慣れぬ顔に気が付いた。
「おおっと、そちらの方は見ない顔ですね。初めまして。ボクは安名メルといいます!*2」
「どうも。環いろはといいます……あの、あなたが調整屋さん、ですか?」
「あ、それは違うです。ボクはここのお手伝いみたいなもので……」
「わたしよぉ~」
間延びした声と共に、この店の割と困ったちゃんな主がやって来る。
「魔法少女の頼れる味方、調整屋さんの八雲みたまよ。よろしくね♪」
「あ、はい。よろしくお願いします……?」
ふわふわとした声色と妙なテンションは、美人系の顔立ちとフォーマルな服装とはミスマッチのようでありながら見事に合致し、ミステリアスで胡散臭い雰囲気を醸し出している。
「この辺りじゃみない顔ねぇ。神浜の外から来たのかしら?」
「ああ。でもここの魔女は他よりヤバいからさ、いろはちゃんのソウルジェムを弄ってやってくれよ」
「簡単に言ってくれるわねぇ。お代はちゃんとあるのよね?」
「勿論、アタシが持つよ」
「えぇっ!? そんな案内までしてもらったのに、グリーフシードまで……」
調整屋の代金はグリーフシード。魔法少女にとってそれを手に入れることがどれほど大変なのか。いろはにとって、ももこの厚意はあまりにも大きすぎるものだった。
「まぁまぁ、こういうのはお互い様。素直に喜んでおきなよ」
「……はい、ありがとうございます!」
が、そこはおせっかい焼きのももこが譲らない。
結局はご厚意に甘えることとなり、いろはの調整が始まった。
「それじゃあ、さっそく服を脱いでそこの台に横になってねぇ」
「はい……えっ、服を……脱ぐ!?」
「脱がなくていいぞ」
右も左も知らぬ初心者をからかい始める調整屋をももこは白い眼で諫めた。
この掴みどころのない振る舞いはペルソナであることは理解しているし、その裏に抱えてきたものも知っている。それはそれとして本当にこのセクハラはどうにかならないものか。
「それじゃあ、お茶の準備を「それはボクがやります!! いろはさんは紅茶と珈琲どっちが好きですか!?」
「あっ、紅茶でお願いします……」
「……メルちゃん、必死だね」
「ガチで命に関わるからな……生命線だよ」
また惨状を作り出そうとするみたまにメルが怒涛の勢いで割り込み、てきぱきと茶の用意を始める。
みたまの暴威から魔法少女を守るため、いつの間にか家事スキルが上達しているメルであった。
◇
いろはの調整は無事に終わった。
体と精神、その両方に蓄積していた疲労が取れただけでなく、全体的なパフォーマンスが向上している。前評判に疑わぬ効果に舌を巻きつつ、礼を言ういろは。しかしみたまの表情は神妙なものだった。
「どうしたんだよ、そんな神妙な顔して」
「……もしかして、何か見えちゃったんじゃないですか?」
「あぁ……でも、あんな表情することあったか? 大体の事は笑って流すようなヤツだろ」
「いつもはお客さんいなくなってから気持ちを落ち着かせているんですよ。顔に出したらバレちゃうじゃないですか」
「……相当アイツに信頼されてるんだな」
「ももこさんと同じぐらいですよ」
途中から小声での会話になったため聞き取れなかったが、最初にメルが発した「見えた」というフレーズはいろはにも聞こえていた。
「あの、見えたって、何がですか?」
「わたしはね、調整を行うとその子の過去が見えちゃうの。先に伝えていなかったのは悪かったし、誰かに絶対に言うことは無いわ」
でも、と一言置いてからみたまはいろはに問いかけた。
魔法少女にとって、最も大事なことを。
「……いろはちゃん。あなた、
「え……?」
八雲みたまは調整屋として、数えきれないほどの記憶を覗いてきた。平穏な日常もあれば、痛ましい挫折や悲劇もあった。中には決して口外してはならない情報も含まれており、それを厭って調整屋を一度も利用したことが無い者もいる。
そして最も目にするのは、魔法少女になるきっかけとなった『願い事』。ソウルジェムとは魔法少女の魂である以上、その魔法少女を構成する根幹と言ってよい『それ』に触れるのは必然とも言える。
けれど、見えなかった。
洗脳で隠されていたとかではなく、まるでページそのものを切り取ったように。
環いろはが魔法少女になったきっかけだけが、ソウルジェムから欠落していたのだ。
「私の、願い……あれ……?」
胸の動悸が激しくなる。頭が割れるように軋む。
自分はキュゥべぇと契約して願いを叶えた魔法少女。
その自認はあったのに、その時の事を思い返そうとすると思考にノイズが走る。
それを払い退けようとして、その先を覗き込もうとして。
そうして、一つの風景を見る。
この街に来る動機であった、幾度とみる奇妙な夢。
――――病室で微笑む、一人の少女の姿を見た。
「あなたは、誰……? 私の願いと関係があるの……?」
「――――――」
呼びかけても、返事はない。
それでも、その顔を見るだけで、心が締め付けられていく。
解き明かさないといけない。思い出さないといけない。
使命感が指し示す先は、きっかけとなった白い影。
「……探さなきゃ」
「いろはちゃん?」
「ありがとうございます。私、もう行きます」
「調整慣れしてないのにいきなり外に行くなんて無茶だよ。だいたい、行くってどこにさ」
「わかりません……でも、この街に小さいキュゥべぇがいるなら、探さないと!」
「いやいや
「それでも! 私は見つけないといけないんです!!」
宛てもない無謀な行動をももこは引き留めようとするが、いろはは決して引こうとしない。
駆け出し、街へ飛び出そうとする足は並大抵のことでは止まらない。こうして僅かに拮抗しているのはももこの側が膂力で勝るからであり、それでもいろはの歩みは止まっていない。
「なるほど~、そういう事ならボクの出番ですね?」
だが、そこに鶴の一声が響いた*3。
「え?」
「メル……お前まさか」
「はい! このボクがいろはさんの探し物を占ってあげましょう!」
自信満々に胸を張ってみせるメル。その口ぶりからしてさぞかし評判があるのかと、いろはがももこ達の方を見ると……大分苦い顔をしていた。
「やめといたほうがいいよ。メルの占いは結果次第じゃ洒落にならないんだからさ」
「えっと……それって絶対に外れるってことですか?」
「いや、めっちゃ当たるんだよ。どれだけ結果が不自然でも、その結果が起こっちゃう」
「この前だってレナちゃんが占いの結果でひどい目に遭ってたよね」
「そりゃあ、そうなるように願いましたから!」
"絶対に当たる占い師になりたい"という願い。
魔法少女の契約によって因果に結び付けられたそれは、メルが考案したメソッドで占えばその結果が確実に実現する。
「良い結果も悪い結果もだから性質が悪い……
「はど○だんがきあ○だまになるぐらいの効果だって言ってたよね」
「だいぶ悪質な効果ですよね!」
「え? う、うん……」
凄まじく納得の行かない顔をするメル。しかしいろはは流行りのゲームなどやらないのでピンと来ないのであった。
「つまり七割ぐらいで当たるということです。残りの三割は本人の気の持ちようで回避できたりできなかったりします」
「すごく曖昧なんだけど……」
「仕掛けた人が大分曖昧な説明したからな……詳しい説明を聞こうとしたら今の銀河の成り立ちから説明する必要があるとか言われたし」*4
「でもそのおかげでメルちゃんもここで占いをしてもいいって話になったじゃない」
「物凄く複雑な気持ちですけどね」
メルの願いは確かに叶った。しかしその実態は占い師としてのプライドに傷をつけるものであった。
だがキュゥべぇに抗議したとしても、過程と言う名の言葉遊びに意味はないと返すだろう。『未来を確実に占える』のも、『占った通りに未来を誘導する』のも、傍から見れば同じことだ。
なので渋々ではあるが、メルは占いとしての体裁を保てる現状を受け入れているのだ。
「まあそういう感じであんまりオススメしないけど……どうする?」
「うん。お願い」
「おお……ではこちらにどうぞ」
即断即決。
あまりの覚悟に少々面食らいながらも、メルは意気揚々と占いの準備を始める。
入口近くに置かれたテーブルにいろはとメルが向かい合って座る。本来は混雑時の受付を行うためのものだが、大体は暇なので勝手に占い用として私物化されている。
八芒星魔法陣が描かれた敷物の上に、裏向きのタロットカードから順に上下左右の頂点に並べる。そして布製の袋から4面ダイスを取り出した。
「今回は軽く占うだけですから、4枚でやってみましょう」
これは以前につばめと一緒に行ったカミケ*5で買ったシートと、見た目銀河なダイス*6を一式揃えたので活用してみたいという気持ちから生まれたメソッドである。
「それではいきますよ~、ころりんちょ*7!」
運命のダイスロール。出目は……3!
「ふむふむ、つまり西のカードからめくって……」
出た絵柄は、『星』――『隠者』――『女帝』――『運命の輪』
「なるほど……前の二枚から読み解けるのは、星に関係する人に探し物が関わっている感じですね」
「星……隠者……」
「あらあら、まるで誰かさんの事を話しているみたいねぇ」
「ええと、皆さん知ってる方ですか……?」
みたまの言葉通り、この時いろはを覗く全員が特定の人物を思い浮かべていた。
「ふむ、誰か私の話をしたかな?」
虚を突いた声に、いろはは反射的に視線を向けた。
「え……?」
――
比較的長めの黒髪を後ろで雑に纏めた、眼鏡をかけた中年の男。
少し皺の見えるワイシャツに、サスペンダーで留めたスラックス。その上から羽織った秋物のコートと、何の変哲もない恰好。
いろはの父親よりは少し年上に見える程度の、ごくごく普通の男性だ。
だが、そこにいることが何より異様だった。
バックヤードの扉は閉じたまま。玄関口から入ってきたわけではない。
何の前触れもなく、彼は調度品の物陰から姿を現していた。
「あらぁ、琴織さん。今日は用事が無かったはずだけど」
「急用ができてね。おや、君たちもいたのか」
「ああ、どうも」
「こ、こんばんは」
「こんばんはです琴織さん。つばめさんは最近どうですか?」
「相も変わらず、のらりくらりと駆けずり回っているだろうね――と」
男性はそこでいろはを一瞥する。
「新顔か。最近はキュゥべぇがいない筈だが」
「神浜の外からきたんだよ。ああいろはちゃん、この人は琴織渡さん。えーと、その……色々手伝ってくれてる人だよ」
「え? その、男の人……ですよね?」
いろはの戸惑いは最もであった。魔法少女に大人が、それも男性が関わることなど通常はあり得ない。ももこの妙に歯切れの悪い言い方も合わさってこの上なく胡散臭い。
そんな自らへの反応を前にして、渡は口角を釣り上げる。
「なるほど初々しい。最近は私に対して皆ノーリアクションだからな」
「親子そろって目立ちすぎてるんだよ」
「悪目立ちするつもりは無かったんだがね」
「どの口が言ってんだ」
軽口を叩きあったのち、ももこはいろはに恐らく彼が占いの答えだろうと言った。
「この人、その辺の魔法少女よりもこの街の事情に詳しいからさ。多分いろはちゃんが探してるものも知ってるんじゃないかな」
「あるいは、もう持ってたりするんじゃないですか~?」
「ええと……私、小さいキュゥべぇを探しているんです。何か知っていることはありませんか?」
「ほう? 探しものというのは、コレかね」
渡はコートの内側へと手を差し入れる。
取り出したのは小さなケージ。その中に収まっている小さな影を認める。
「あ」
「本当に持ってたよ……」
「というかどうやって収納して……聞くだけ野暮ですね」
「見つけたのは娘だよ。飼う趣味もないから持ってきたわけだが」
ももこ達の脳裏に小さいキュゥべぇ首根っこを摘まみ上げたつばめの姿が想像される。
唐突に苦笑を浮かべだした一同に首を傾げつつ、いろはは当初の目的を渡に告げた。
「あの……そのキュゥべぇを少しでいいから触わらせてくれませんか? その子にはきっと、私にとって大事な何かがあるんです」
「別に構わないが……」
じろりと、視線が動いていろはが竦む。
自分よりも20センチ以上もの高さから覗き込んでくる、黒い瞳。
それがごくごく僅かな瞬間、星のような金色に変わったような気がした。
「………………成程、そういうことなら君に預けてみよう」
「キュ?」
得心がいったというように頷き、渡はケージからキュゥべぇを取り出した。
脇を抱え上げられて差し出される小さいキュゥべぇを、恐る恐る受け取ろうとするいろは。
「モッキュー!」
当の小さいキュゥべぇも抵抗するどころか、むしろ元気よくいろはの腕の中へと飛び込んでいった。
「わっ、とと……ぇ……?」
「おっと、随分懐いてるじゃん。アタシらが見た時はすぐ逃げ出したのに……いろはちゃん?」
ももこの言葉にも反応せず、いろはは小さいキュゥべぇを見つめた状態で石像のように固まり……膝から崩れ落ちた。
「うおっ!? いきなりどうしたんだ!? もしかしてそいつに何かされたんじゃ……」
「…………うい」
「え?」
「なんで、私。こんな大事なことを……」
「モキュゥ?」
「あなたが教えてくれたんだね。私が、忘れちゃっていたものを」
首をかしげる小さいキュゥべぇ。それをいろはは宝物のように大事に抱きしめる。
状況がつかめずももこは困惑するばかり。そこへ渡は助け舟を出した。
「……あー、そうやって立っているのも何だ。ひとまず座って、茶でも飲みながら話をしたらどうかね?」
「あら、そういえば用意したままだったわねぇ。琴織さんはどうかしら?」
「自分で淹れるとも」
そう言ってカウンターに歩いていく渡を横目に、みたまはメルにさりげない疑問を投げかけた。
「そういえばメルちゃん。残りの二枚の意味ってなんだったのかしら?」
「『女帝』と、『運命の輪』…………凄く強い女の人との出会いから、状況が動いていくみたいです」
「強い女の人ってことは……あらあら」
どうやらあの少女は何かを引き起こすらしい。
それも、神浜中を巻き込むであろう大事を。
みたまは少しの焦燥と危機感、そして大きな期待を含めて笑みを浮かべた。
○琴織渡
環ういの事は全く知らない。(会ったことも名前を聞いたことも無い)
ただしアイデアロールは常に成功する。
みたまに余計な悪知恵を吹き込み、調整屋の守りをガチガチにすることが最近の趣味。
○調整を受けていない少女たち
ウズメと宴のこと。
両者ともに機密情報を抱えており、加えて宴は専属のマイスター持ちであるため必要がない。ウズメは最初に面会して以降、灯花の付き添いでしか訪れていない。
○メルの占い
作者的にはそれっぽいことを書いていますが展開を予告しているかどうかは不明