ChapterⅤ【虚ろの因果を探る】
「私には妹……ういがいたんです。ういの病気を治すために、私は魔法少女になったんです」
一息ついたいろはは、自分の願いを語った。
生まれた時から病理に侵されていた妹、環ういを治すために魔法少女として契約をした。
だというのに、いろはは先ほどまでその事を忘れていた。
いや、忘れていただけではない。
「あの子の声も、顔も、好きなものも。この前まで一緒に寝て、ご飯も食べていたのに。まるで最初からなかったかのように、すべて消えていたんです」
家に帰っても妹がいないのは当たり前。想像したことすらなく、母と父との三人家族だと思い込んでいた。
せめてもの違和感は、自室の片側。ちょうど半分を分けた部分だけが、不自然に空いていたこと。
どうしてもそこだけは空けておきたかったという主張は、消しきれぬ痕跡を見ていろはの魂が無意識に上げた悲鳴だったのだろう。
不可思議な事象に、みたまは魔女の仕業ではないかと言う。
が、そこまでの事態を引き起こせる魔女は見たことが無いと、そこそこの経験を持つももこが否定する。
「琴織さんなら、何かわかったりしないか?」
「私をなんだと思っているんだ。ほとんど初対面の少女に起こった因果の異常など、流石に知る術がないよ」
「とか言っておきながらしれっと推理しているじゃないですか。魔法少女以上に、魔法少女のことに詳しいですよねこの人」
「ただの年の功だ」
「それで、因果の異常って?」
「記憶どころか物理的証拠すら消え去っているなら、それは因果を遡るレベルでの事実改竄に違いない。真っ先に考えられるのは願いの類だろうな」
魔法少女の願いは、様々な形で叶えられるが、その全ては因果を書き換えることで成立している。
「病気を治してほしい」「お金がほしい」「あの人がいなくなってほしい」「恋人になりたい」
それがどれほどささやかなものであれ、『結果』だけがその場に発生すれば大なり小なり周囲には異常が発生するものだ。
では何故その願った結果による変化を誰も気に留めないのか。それは願望の成就と同時に、そこに至るまでの『過程』もが書き換えられるからだ。
この差異を認識できるものは、願いを叶えた当人と、因果の改竄という事象を把握して相応の対策を講じることができる者のみ。当然、後者は生半可な事では実現できない。
ゆえに、記憶や痕跡を跡形も無く消し去るならば、魔法少女の願いこそが最も考えられる可能性だ。
「それって、誰かが妹さんの事を消し去るように願ったってこと?」
「そんなっ……いえ、ういはずっと病院にいたんです。そんな事を思う人なんて……」
齢も12。人生の大半を難病で入院していた少女が、誰かの恨みを買うことなど無い。
最も親しいいろはですら忘却したのだ。あの病室で妹と関わりがあった人物で、願いという言葉で浮かんだのはたった二人。そして二人の顔が浮かんだ瞬間に候補から外れる。なぜならその二人はういと親友で、大切に思う感情は自分と同じぐらいあったのだから。
「あるいは、君自身が恨みを買っていたかだな。それほどまでに大切な妹なのであれば、奪い去ってやろうという動機にはなる。心当たりのある人間関係はあるかね?」
「…………いいえ、ありません」
言ってしまえばなんだが、いろはは家族以外で大して深い付き合いのある人間はいない。
クラスメイトも、魔法少女の知り合いも。当たり障りのないやり取りと作り笑いでやり過ごし、どうにか集団の端っこに溶け込んでいたようなもの。妹の見舞いに時間を割いていたのもあるが、何より他者との関わりに必要以上の熱を持つことができなかった。
その素っ気ない態度が癪に障った、という者がいるかもしれないが、そこで魔法少女の願いを使って嫌がらせを行えるようなものかと言えば……可能性は流石に薄い。
「………………強く生きるといい。なーに、長い人生気の合う人間に出会える機会はいくらでもある。後はその瞬間を逃がさないかどうかだ。進めばきっと二つ手に入る」
「それなら、この街にいる魔法少女の子達を紹介できるわよぉ? いろはちゃんとも遠慮なく仲良くできる子だっているわね」
「オイオイ。それならアタシたちがいろはちゃんと友達になるのが先だろ? ってか、もう友達みたいなもんだって」
「うん。私もいろはちゃんとお友達になりたいな」
「ボクも忘れないでほしいです!」
「あ、ありがとう……って、そうじゃなくて!! 話はういの事についてでしたよね!?」
「おお、ナイスツッコミ」
「ごめん。同年代の女の子が持つ関係としてはあんまりにあんまりだったから……つい」
「フォローになっていませんよね!?」
謝罪に見せかけた追い打ち。これには流石のいろはも吠えた。人によってはトラウマになるだろう。
「……とまあ、ここまで語った点から推測すれば願いの線は薄いだろう。基本的に願いというのは"取返しがつかない"。忘れたならともかく、消え去っていたものが何かの拍子にもとに戻ること自体がありえない。ならば考えられるのは、願いではない何かによる介在だ」
「その何かって?」
「そこまでは流石に。だが、そうだな……妹くんの記憶は、いつ頃が最後かね?」
「ええと……今年の春です」
蘇る最後の記憶は、妹が完全に退院できた時の事。
春先、これから一緒に過ごせるのだと喜び、次の連休には家族で何をしようかと笑い合っていたのに、気が付けばそんなことは無かったかのように平然とした日常を送っていた。
いつの日だったのか詳しく思い出そうとすると意識が朧気となるが、その時期を境にういの痕跡が消失していることは確かだ。
「その頃に同時に起こったことか……正直、色々ありすぎて逆に思いつかないぞ」
「最近は落ち着いたけど、あの時は大分ドタバタしていたわよねぇ」
「そんなに事件があったんですか……!?」
「そうですね。キュゥべぇがいなくなったのもその辺りですし、つばめさん達が街を騒がせていたアイツと
「んで、それが終わったら今度はウワサなんてものが広まりだして……それだ!」
ピンと来たももこの叫びに、いろははびくりと肩をすくめる。
「そうです! ウワサですよ!!」
「ええと……うわさ?」
「はい。今、この街には奇妙なウワサが広がっています。人を夢に誘って飛び降らせたり、墓から燃える手が出てきて引きずりこむとか、捨てると大きくなって戻ってくる人形とか……とにかく、ウワサの内容が実際に人を襲っているみたいなんですよ」
「最初はそういう魔女の仕業だろうって思ってたんだけどさ、どうやら周りで色々巻き込まれたって話をちらほら聞こえてね……」
「まあボクたちは一回も出会ってないんですけどね!」
「えぇ……?」
ドヤ顔で語ったメルの最後の言葉にで一気に信ぴょう性が薄まる。だが突拍子もない出来事だ、と断定することはできない。妹の痕跡が消えていることだって、同じぐらいには説明がつかないのだ。
「それって、人をさらうウワサもあったりするんですか?」
「そうだな。こちらの情報でも、人間を別世界に送り込むような内容を持つウワサがいくつか確認されている。神隠しの伝承や怪談は有名だから、これらを下地にしたウワサも多いと見える」
尤もらしい分析が渡の口から語られる。
勿論、彼はウワサが生み出されている実情を知っており、人為的に作られているという部分以外はほぼそのままの情報をお出ししていた。
「じゃあ、ウワサを追っていけばういが見つかる……?」
「その可能性は高いですよ! それにほら、ボクの占いの結果もそう示している可能性が高いんです! 後半の二つのカードの意味の解釈なんですが、実はウワサを追っている人の事を暗示しているんです!」
「そうなの?」
「はい! この街を代表する強い魔法少女……それはもうあの人しかいませんよ!!」
自分の事であるように熱弁するメルに、その"あの人"の近況を知るももこが渋い顔をする。
「あー……やっぱそういう結果になるのか。でもあいつが余所の子がウワサを調べるのを素直に認めてくれるか? 普通に突っぱねて終わりだろ」
「ええ。勿論認めるわけにはいかないわ」
「うーん、それはそうなんですよね……でも占いの結果に合う人って七海先輩ぐらいしかいないですよ」
「とは言ってもなぁ……ていうか、占いをやったなんて言ったら余計怒られるだけだろ」
「……はっ、そうでした!! うぅ……、やはり七割というのは信用ならない数字ですね」
「あの、今の声は……?」
聞き覚えのない声が挟まったことに対するいろはの指摘で、ようやく気が付いたメルが恐る恐ると振り向く。入口付近のオブジェにもたれかかりながら腕を組み、冷ややかな視線を向けてくる女性がそこにいた。
彼女こそが神浜市の西部の頂点に立つ魔法少女――七海やちよ。
魔法少女となって七年の時を生き抜いた、有数の猛者である。
「ゲェェェ~!? 七海先輩!!」
「……随分な反応ね、メル」
「いやあ、そういう反応した方が良い感じの登場でしたので、つい……」
「だいぶ
悪ノリが増してきたメルの様子にやちよはため息をつく。
チームを解散してからというもの、顔を合わせた時に絡んでくる時の癖は強くなる一方だ。
それもこれも、代わりのように頻繁につるみ出したあの鴉めいた少女の仕業である。
「また占いを行ったのね……」
テーブルに並べられたカードを一瞥して、深くため息をついた。巡回がてら顔を出しに来たところ、何やら顔なじみ達がワチャワチャしていたので静観していたが、ウワサを探ろうとする口ぶりは流石に見逃せなかった。
「そこの貴女。何のためかは知らないけど、そんな占いなんかに惑わされないで。この街の魔女に手こずるような魔法少女が、ウワサなんてものに首を突っ込むなんて自殺行為も同然よ」
やちよの言うことは最もである。
魔女のように人を積極的に襲うような共通点が見いだせず、それぞれの噂話を調べて自分が標的にならないように動く必要がある未知の存在。ひよっ子に毛が生えた程度の魔法少女が関わるには危険すぎる。
だが、そんな理屈では呑み込めないほどの強い感情が、今のいろはを動かしている。
「そのウワサには私が探していたもの……妹のてがかりがあるかもしれないんです!」
「妹、ね」
事情を尋ねれば、先ほどまで綺麗さっぱり忘れていた、どころか痕跡の見当たらない妹のためにウワサを探ると言っている。
妄言だとは思わない。魔法少女は何でもアリだ。ウワサが人為的に作られたものであることまでは推測が付いている。ならば、人ひとりをまるごと神隠しというのもあり得ないことではないのだろう。
「心意気は立派だけど、それだけでやっていけるほどこの街は甘くないわ。それでもウワサを追いたいというのなら……この街でやっていけるという証明をしなさい」
魔法少女の実力を示すのは簡単だ。魔女を倒せばいい。
「探すところまでは手伝ってあげる。でもそこからは貴女ひとりで戦う」
やちよの提案を聞いて、みたまは隣で静かに珈琲を啜る男性に目を向ける。
「どう思う?」
「妥当な落としどころだろう」
それどころか、相当に慈悲深い提案だと渡は判断する。
調整を受け、戦場を整えるお膳立てをされて尚、無様を晒すようであればこの街に足を踏み入れる資格はない。
数人で徒党を組む現地の魔法少女に、今もなお陰に身を潜める裏の住人。――そして、最も幅を利かせていると言ってよい『色彩』たち。これらのパワーバランスを自覚の有無問わず察知し、身の振り方を覚えられぬ惰弱な余所者が生きる余地はない。
とはいえ、そこはやちよがカバーできる範囲であり、最低限の自衛手段だけは持っていてもらおうという思惑なのだろう。
「それがういを見つけるためなら……やってみます!」
値踏みするような視線に、少女は決断的な眼差しを返した。
◇
ChapterⅥ【白き翼の思惑】
そして。
環いろはは一人で砂場の魔女を倒してみせた。
階級もさほど高くない……この街で見かける中では最底辺とはいえ、彼女は一端の魔法少女としての証明を果たしてみせた。
「いいわ。この街で歩いている分には文句を言わないわ」
「っ……ありがとうございます!」
「最も、それでどうなっても責任は持たないけど」
「けっ、冷たいヤツだなぁ。行こう、いろはちゃん。駅まで送ってあげるよ」
「ボクもお見送りします! それじゃあまたです七海先輩!!」
七海やちよは黙って、立ち去っていく四人の後ろ姿を見届ける。
その姿が街中に完全に溶けていくのを確認してから、ようやく己の影に潜むものに声をかけた。
「出てきなさい」
「……気づいていたか。流石だ」
「私にだけ分かるようにしておいて、よく言うわね」
するり、と足元から塀に伸びた影が、波紋に揺れる。
影を介した意志の投影――調整屋に留まって同行してなかったはずの彼が、人知れず見守っていた……そうではない。
「予想通りと言うか、ああも露骨に敵意を向けていればね。流石にそれは見逃せんよ」
「……はぁ。やっぱりあの小さいキュゥべぇ、貴方が渡したのね?」
隙を見て始末しようとは考えたが、流石にももことメルの二人がいろはをカバーしている状態では中々難しく、さらには常に自分にのみ向けられていた重油のような気配に牽制されては、いくら七海やちよと言えど目論見を果たすことは不可能である。
「娘が拾ってきたんだよ。扱いに困って私のところに持ち込んできた」
「つばめさんが……?」
やちよは己の耳を疑った。
自分以上にこの手の異常への目利きがあり、キュゥべぇに対して隔意を持っている彼女が、キュゥべぇの生け獲りを選択したと言うのだ。
「率直に言えばあれは無害だよ、本来持っていた能力など何もない抜け殻だ。その口から妄言を語ることなく、狡猾に契約を結ぶこともなく。出来ることなど、ただ見て、触れ、精一杯に感情を表現するのみ。なんともささやかで健気じゃないか」
「その能力を取り戻そうとしている可能性はあるんじゃないかしら?」
幸いにも、神浜市で魔法少女が増えることがない――これ以上、残酷な運命に身を投じる少女がいなくなったという面で考えれば喜ばしいことなのだ。
その原因があの小さいキュゥべぇだとすれば、元に戻ることを看過してはならないはず。
「危惧する意味は分からんでもないが……まあ、ここは私に免じて見逃してやってくれないか」
「…………いいわ。どの道、あれが原因で何かが起こったと決まったわけじゃないし」
ただし、とやちよは影を鋭く睨む。
「何を企んでいるのかは教えてもらうわよ」
「平穏だよ。私は自分と娘の生活が善く回るように尽力しているだけだ。君たちに手を貸しているのも、その一環だよ」
「どうだか……」
七海やちよから見て、この琴織渡という男は『謎』そのものだ。
魔法少女の娘を持ち、魔法と比較しても遜色ない強力な術を操る魔人のごとき存在。
あのインキュベーターにすら一歩も引かないどころか、奴らから関わり避ける節を匂わせているなど、全く以って異質と言わざるを得ない。
多くの魔法少女の例に漏れず魔術師という存在との関わりを持ってこなかったが、彼が神父らの語る『それ』とは一線を画した存在だというのは理解できた。
およそ一年前に神浜市に現れ、直後の事変に顔を出し地域の顔役との面識を繋いだ。魔法少女の世界に対しては娘を見守るという建前で傍観者としての振る舞いを貫く一方、土地を管理する生業に魔法少女を雇うことで密やかにコネクションを築き上げるという強かさを発揮し、今では調整屋のパトロンという決して無視できない影響力を持つ立場にいる。
常に第三者として事態を俯瞰する彼が明確に事態の解決に乗り出したのは、鏡の魔女を討伐に向かった一件のみ。それですら彼が秘める人外性の一端を垣間見ることとなったのだ。はたして、彼が本気で神浜の……いや、この世界へアクションを起こせばどのような事態を引き起こすのか、やちよでは到底推し量ることができない。
魔女の増加。キュゥべぇの消失。訪れる魔法少女たち。ウワサなる怪異の出現。
おおよそ半年前からこの街にもたらされた異変を、彼ほどの人物が把握していないわけがない。
とはいえ、彼がそれらの黒幕である――というのは可能性としては低いと断定している。
だが自分よりも仔細を把握しているのは間違いなく、それについて既に手を打っていないわけがない。おそらくは、娘に助言する体で盤面を観察しているのだろう。
(((彼女も最近は動きが大人しい……ように見えて、裏でこそこそ動いているのでしょうね)))
昨今の神浜は情勢の変化が目まぐるしい。
東側では半数以上の魔法少女が十七夜の下から離れ、新規に立ち上がったグループに加わっている。その勢いは凄まじく、元々十七夜に従っていない独立グループ以外、ほとんどがそちらに合流したという。
西側でも同じことが起こっているなら、最も早く影響を受けるのは工匠と隣接する参京区だろう。しかし、この前につばめと連絡を交わした時の報告は『異常なし』の一点のみ。一度、余所からの魔法少女による襲撃があったと言うが、その時も『対処済み』だと言っていた。
自分に情報を共有せず、水面下にて暗躍している。知っているのは同じチームのメンバー、あるいはより個人的な付き合いの深い者ぐらいだろう。
「私は本来、君たちの物語とは無関係を貫くべき立場だよ。この街で関係を築いたのも娘のため。あの子の割り切りがつくまでのおよそ三年程度は面倒を見るが、その後は後を濁さず立ち去るつもりだった」
独り言のように影が語る。
「その割には、随分と面倒を見ている子が多いみたいだけど」
「いやなに、私にも少しは責任感というものが残っていたみたいでね。かつて知啓を乞われた憐れみで与えたものが、まさかこのような変容を遂げていたとは思いもしなかった。確かに絶望という感情は世界の底へと繋がりうるものだが……本当に奈落の底から星を射貫くかね」
「……何を言ってるの?」
「ああ、すまない。少し昔話に浸ってしまった。つまりは私も多少なりとも
「つまり、環さんがこの街の異変に関わっているってこと?」
「うわさを探る以上、彼女には神浜中の困難が襲い掛かるといっても過言じゃないとも。ならば必然としてうわさの根源にもたどり着く。それは、君の目的にとっても無視できない問題のはずさ」
「…………いいわ。その口車に乗ってあげる」
やちよが何故うわさを追っているのか、わかっていてこういう言い方をしているのだ。
どうせ『彼女』の行方も掴んでいるのだろう。その上で誘導する素振りとは、答えを言っているようなものである。
「どうあれ、君にも多くの困難が立ちはだかる。喪うものと向き合う覚悟は済ませておけ。さもなくば、君は最も大事なものに殺されるだろう」
「ええ。肝に銘じておくわ」
「はたして本当にそうだろうかね」
待ち受ける運命を嘲笑うように、その影は夜の闇へと溶けていった。
◇
そうして神浜の初日を終え、宝崎市の自宅へと帰宅したいろはは、ベッドに腰かけながら目の前の空間を見つめていた。
何も家具の置かれていないスペース。部屋の半分だけが空っぽなのは、何故か自分が置きたがらなかったというが、実際は違った。
「ここには、ういがいたんだよね」
退院して一緒に住めるようになった妹が使う、一緒の部屋で寝るためのベッド。勉強をするための学習机。
『お姉ちゃん! 今日も来てくれたんだね!』
目を閉じて微睡むいろはの脳裏に、妹との思い出が蘇る。
毎日お見舞いに行くと、笑顔で出迎えてくれた妹。
そして妹と同じ病室にいた、二人の少女たち。
『お姉さま! 一緒にトランプしよー!』
『お姉さん。新作ができたところなんだ。是非読んでほしいな』
妹と同じ年なのに聡明で、人とは違う雰囲気を持った妹の親友。
よく喧嘩するけれど、その度にういが間を取り持ってすぐに笑い合っていた。
妹と同じぐらいに可愛がっていた、もう二人の妹と言ってもいい少女たち。
「灯花ちゃん、ねむちゃん……」
そして、自分と同じぐらい妹たちを思いやっていた一人の女性の姿。
お淑やかで、綺麗で、優しい笑顔を浮かべていた、灯花のお手伝いだという人。
『おや、いろは様。今日もうい様のお見舞いですか』
『はい。それと灯花ちゃんとねむちゃんにも』
『それはありがとうございます。それでは、ささやかですがこちらをどうぞ』
『これは?』
『私が作った葛餅です。お嬢様方のおやつに作ったものなので、甘さは控えめですが。柚子の皮を混ぜて、香りを楽しめるようにと工夫しております』
『わぁ……、ありがとうございます!』
『話題のお菓子を食べられないと駄々をこねていましたから。せめて、このぐらいは』
灯花の我儘を嫌な顔一つせず聞きながら、それでいてしっかりとした意見を持った姿には、灯花も大人しく言う事を聞いていた。
常に病室にはいられない自分の分も甲斐甲斐しく世話を焼く姿に、ねむも、ういも懐いていた。
「……ウズメさん」
自分もまるで姉のように慕っていた、あの人もういを憶えているだろうか。
【レコーディング・スタート】 終わり
【アウトロ】
新西区。駅前。
「わー……! 着いたね、神浜市!」
「いつ来ても大きい街ね」
「それじゃ、早速クレープ屋に行きましょ。んでその後は……」
「ちょっと、アリサ! 遊びに来たんじゃないのよ!!」
「だって、神浜のこと調べてたら美味しそうなお店がいっぱいあったし……気になっちゃって……」
「下準備サボってグルメサイトばっかり見てるんじゃないわよ。ほら、貴女もいってやりなさいマツリ」
「うーん……でもチサト、これすっごく美味しそうだよ。」
「ほら!」
「いやいや、貴女の為に来てるのよ!? そんなことしてる暇なんてないでしょ」
「うん……そうだよね。でもマツリはせっかく来たなら思い出も作れたらいいなーって思ってるんだ」
「仕方ないわね……それじゃあまずは皆で食べに行きましょう」
「ハルカ先輩まで!?」
「別に遊ぶわけじゃないわ。人が集まる場所で聞き込みをするのは、人探しの基本だもの。女の子を探すなら、女の子が集まる場所。一日二日で解決できる問題ではないもの、ここはじっくり行きましょう」
「そういう事ー! 流石はハルカ、話わっかるぅ!!」
「むぅ……納得できない」
「じゃあチサトはクレープいらないんだ?」
「そうは言ってない!」
「……それにしても、本当にこの街にいるんですよね?
「キュゥべぇの言葉が本当なら。この街に向かったのが最後らしいけど」
「神浜では失踪事件が多く起きてるみたいね。他にも魔女の仕業のような事件がいくつも……魔法少女でも油断はできないわね」
「くれぐれもはぐれないでね、マツリ」
「うん。早く会いたいな……カガリお姉ちゃん」
「それじゃ、まずは気合い入れるためにクレープ屋に行くわよ!!」
「アンタは食べたいだけでしょうが!!」
○七海やちよ
ただでさえ神浜に面倒な事態が起こっているのに、事態を引っかき回せる奴から暗躍を匂わせる発言が。
○琴織渡
やっちゃんに何が待ち受けているのか分かってるので内心ゲラってる。
次回【ジャッジメント・パニッシャーズ】