ChapterⅢ【ナクシタモノ】
茜ヶ咲中学校に通う四人の魔法少女たちが集まり、ホオズキ市の平和を守るために魔女退治へと繰り出す。
そんな彼女たちの日常は、何の前触れもなく崩れ去った。
「え?」
きっかけは特別なことではない。遅くなる帰りを心配する家族についての亜里沙のぼやきから、父親との二人暮らしという家庭事情の苦労を千里が述べ、そこに茉莉が同感しようとしたところだった。
「マツリ、どうしたの?」
幸せな家族団らんの食卓を囲むのは父親と、自分――そして、もう二人。
当時の茉莉は盲目で、声以外を認識することはできなかったが……確かに自分たちは四人家族だった筈だ。
『お姉ちゃん、おかわり取ってー』
『マツリったらしょうがないなぁ、はい』
『ありがとう。お姉ちゃん』
『ふふ。カガリは良いお姉さんですね』
「――お姉ちゃん?」
「え? マツリ、アンタ姉妹いたの? 前にひとりっ子って言ってなかった?」
「違う……私にはお姉ちゃんがいたよ。なんで、なんで今まで忘れてたの。ずっと一緒だったのに、マツリをひとりにしなかったのに……」
「ちょ、大丈夫なのこれ? なんかヤバめなこと言っちゃった?」
「落ち着いてマツリ。一つずつ、何があったのか聞かせて」
「……ありがとう、ハルカ」
動揺する茉莉を落ち着かせながら、遥香は少しずつ事情を聴きだしていく。
双子の姉、日向華々莉。少し気が強くて我儘だけれど、生まれつき目が視えなかった自分の事を支えてくれた、優しい姉。
だというのに、その事実を綺麗さっぱり忘れていたこと。最初から父親と二人だけの家族だったと、今まで思っていたのだという。
「どういうことよ……マツリの記憶が誰かに弄られていたってこと?」
「マツリだけじゃない。多分、パパも同じだった。だってカガリを探そうとすらしていなかったもん」
「……魔法が絡んでいる可能性は高いわね」
「ということは、魔女の仕業ってことですか?」
「そう考えるのが、一番現実的ね。……それにしては、違和感が残るけど」
親しい人間を攫い、その記憶ごと奪っていく。
確かに魔女の所業と言えるだろうが、それにしては回りくどい手口であったし、ここまで時間を置いてから記憶が蘇るというのも妙な引っかかりを覚える。
「じゃあ、マツリのお姉さんは魔女に攫われたってこと?」
「…………ううん。違うと思う。いなくなったのは多分、お姉ちゃんの方から……」
「あ、待って。そういえば、マツリが魔法少女ってことは、お姉さんの前にもキュゥべぇは来たってことでいいのよね?」
「うん。キュゥちゃんはお姉ちゃんにも話しかけた。だからきっと、カガリも魔法少女になってる筈だよ」
「その通りだよ、日向茉莉」
窓からの声に視線を向けると、窓縁に座る影がひとつ。
「キュゥべぇ……」
「日向華々莉は人の記憶を操る魔法を持つ魔法少女だ。彼女はボクと契約した後、茉莉の記憶を操作して自分の存在を忘却させた」
「どうして、そんなことを……」
「目的のために不都合だったらしい」
「だからって、なんでそれを見逃してんのよ!!」
「そういう取り決めだったからね。魔法少女としての務めに支障が出ないなら、ボクとしては彼女の行動を咎める理由はない」
無関心な声色で語るキュゥべぇの姿は、得体のしれないものだった。
魔女との戦いにおいて助言を行ってくれるが……時折、非人間的な思考を垣間見せる。人間ではないのだから当然とも言えるのだが、それ以上にこちら側の事情を頓着していない態度が出ているのだ。
とにかく、相手の言動に感情的になりやすい亜里沙は、その非人間性に勘づいてキュゥべぇを毛嫌いしていた。
「……多分、ツバキを探しにいったんだよ。私の記憶を消して、カガリは自分だけで探しに行っちゃったんだ」
「ツバキ?」
「うん。ママの代わりに私たちの面倒をみてくれた人。でも急にどこかにいっちゃって、探しにいこうとした時にキュゥちゃんが来て……」
「なるほど。そこまで思い出しているんだね。その通りだよ。日向華々莉は美琴椿の行方を尋ね、ボクと契約した」
「……それを今教えに来たということは、マツリのお姉さんの身に何かがあったということでいいのよね?」
「魔法の持続は術者の状態に大きく依存するからね。魔法を維持することがかなわない状態になったと推測できるね」
遥香の推理を聞いて、茉莉は食いつくように姉の行方について尋ねた。
「お姉ちゃんはどこにいったの!?」
「神浜市さ。そこへ向かってから華々莉とは連絡が取れていない」
「神浜市……!」
「この前チサトと行ったところじゃん……」
「以前からボクはあの街の様子を探ることができなくなってね。中で何が起こっているのかを確かめるためにある魔法少女に頼みをしたんだ。華々莉はその魔法少女と共に神浜市に向かったけど、結果として二人とも帰ってきていない」
それは暗に捨て駒にしたと同然の言い方だったが、そんなことは茉莉にはどうでもよかった。
自分たちの記憶から存在を消して失踪した姉の手がかりが神浜市にある。であれば、そこに行くしか選択肢はない。
「私、神浜市に行くよ……!」
「マツリ……」
「だったら私も付いていくわ。一人だけだと危ないもの」
遥香が同行を申し出る。護衛の意味もあるが、何よりも茉莉の姉を探すという目的に共感していた。
「アタシとチサトもついていくわよ」
「私たちは神浜市に行ったことがありますから、少しは案内できるはずです」
亜里沙と千里が道案内を買って出て、結局は全員で神浜市に行くことになった。
「気を付けるといい。今、神浜市には各地から多くの魔法少女が集まっているようだ。その中でも結構な数の魔法少女が帰ってこなくなっている」
「え、マジ?」
「君と亜里沙は無事に帰ってきたようだね。もしかすると、向こうの魔法少女や魔女とは関わりを持ってなかったのが理由かもしれないね」
「……向こうの魔法少女が、外部の魔法少女を誘い込んで狩っているということかしら」
「可能性の一つにはなるだろうね。そうだ。神浜に着いたら、一人の魔法少女を探してほしい。彼女も神浜市にいるはずだ。君たちなら敵対することもないだろう、できれば話を聞いてきてほしい」
「誰かしら?」
「紺染音子。君たちも名前は知っているんじゃないかな」
「えっ……!?」
遥香と千里が驚愕に目を開き、亜里沙と茉莉は首を傾げた。
「誰?」
「大物も大物だって! アンタも知ってるでしょ、聖堂騎士!」
「……ゲームのジョブだっけ?」
「ちがーう!
「何、この反応?」
「チサト、聖堂騎士の話になるとこういう感じになるのよ。魔法で悪いことをする魔法少女を取り締まるっていうところが、琴線に触れたみたい」
「そっかそっか。つまりチサトみたいなのがいっぱいいるのね」
「……まあ、そういう理解でもいいわ」
「へぇー……そんな人がいるんだ」
人口に対する魔法少女密度が過剰な日本とはいえ、大都市ではないホオズキ市に粛清機関の監督役は来ず、聖堂騎士も派遣されていない。
故に千里たちの認識として、粛清機関は悪さを働く魔法少女を取り締まる組織がいる、程度の認識だ。
「粛清機関も神浜市の異変を察知している筈だ。その場合、送り込まれる可能性が高いのは音子だろう。神浜市に異変が起こってから随分と時間が経っているということは解決できていないだろうけど、有力な情報は握っている筈さ」
「さっきから随分ふわふわしてない?」
「あの街で何も観測できない以上、仕方のないことだよ」
◇
――新西駅。
ホオズキ市の魔法少女たちは、神浜市へと足を踏み入れていた。
「わー……! 着いたね、神浜市!」
「それじゃ、早速クレープ屋に行きましょ。んでその後は……」
「ちょっと、アリサ! 遊びに来たんじゃないのよ!!」
「だって、神浜のこと調べてたら美味しそうなお店がいっぱいあったし……気になっちゃって……」
「下準備サボってグルメサイトばっかり見てるんじゃないわよ。ほら、貴女もいってやりなさいマツリ」
「でもチサト、これすっごく美味しそうだよ」
「いやいや、貴女の為に来てるのよ!? そんなことしてる暇なんてないでしょ」
「うん……そうだよね。でもマツリはせっかく来たなら思い出も作れたらいいなーって思ってるんだ」
「仕方ないわね……それじゃあまずは皆で食べに行きましょう」
「ハルカ先輩まで!?」
「別に遊ぶわけじゃないわ。人が集まる場所で聞き込みをするのは、人探しの基本だもの。女の子を探すなら、女の子が集まる場所。一日二日で解決できる問題ではないもの、ここはじっくり行きましょう」
「そういう事ー! 流石はハルカ、話わっかるぅ!!」
「むぅ……納得できない」
「じゃあチサトはクレープいらないんだ?」
「そうは言ってない!」
「……それにしても、本当にこの街にいるんですよね? マツリのお姉さん」
「キュゥべぇの言葉が本当なら。この街に向かったのが最後らしいけど」
「神浜では失踪事件が多く起きてるみたいね。他にも魔女の仕業のような事件がいくつも……魔法少女でも油断はできないわね」
「くれぐれもはぐれないでね、マツリ」
「うん。早く会いたいな……カガリお姉ちゃん」
「それじゃ、まずは気合い入れるためにクレープ屋に行くわよ!!」
「アンタは食べたいだけでしょうが!!」
◇
「うまーい!」
「マンゴーもパイナップルもキウイも入ってる!」
「それにクリームはバナナ味……トロピカルアラカルトって名前だけはあるわね」
「それだけにお値段もカロリーも相応だけどね……」
「そういうの気にしないの!!」
スイーツを貪り、姦しく騒ぐ乙女たち。
1500円ぐらいするクレープを平らげた千里たちは、街の調査の作戦会議をすることにした。
「それじゃあ、マツリは私と一緒ね」
「うん!」
「アタシはハルカとね」
「ハルカ先輩。アリサの事よろしくお願いします。」
「ええ。ちゃんと見張っておくから安心して」
「信頼がない!!」
以前訪れた経験のある千里と亜里沙が分担して、探索を行う……その前に、現地の魔法少女と接触しようということになった。
「紺染音子さんがいるかどうか、尋ねてみるのはどうかしら。確か、水名教会だったわね」
「そうね……それならそっちは私たちが行きますよ」
「うん!」
「それ、チサトが会いたいだけじゃないの?」
「ぎく……別にそんな事ないわよ。場所がはっきりしてるなら、詳しい聞き込みとかが必要な方をハルカ先輩が担当した方が良いと思うだけよ」
「そんな理屈並べてる時点で答え言ってるようなものじゃん……」
「良いじゃない! それに今日のニュースで運勢も良かったんだから」
「運勢?」
「十二支十二星座占いだね! マツリも今日は『中吉』だって!」
「確か大人気のアナウンサーがやっている占いコーナーだったわね」
「チサト~、そんなの信じてるの? 普段は風紀風紀ってうるさい癖に」
「関係ないでしょ!? それに土御門アナウンサーの的中率は凄いって評判なんだから! ……まあ、しっかり見たのは初めてだけど」
「ほらー!」
完全に推しに会うためなりふり構わない追っかけと化した友人の姿に亜里沙は怪訝な顔をする。いつもこうして先走っていくのは自分の方だという自覚があるので、奇妙な感覚である。
「じゃあ私たちがマツリのお姉さん探し? ってことは、魔法少女を見つけなきゃいけないよね。どうすんの、魔女でも探す?」
「アリサにしてはまともな意見……グルメしか下調べしてなかったのに」
「うるさいわね! で、実際どうなの?」
亜里沙が懸念していると、遥香が自分の端末を提示した。
「それについては考えがあるから……ほら、このSNSの投稿を見て」
「……この『エミリー』ってアカウント?」
「そう。神浜の学生で、ここの近くで相談所をやってるみたい。それでね、いくつか書き込みを見てると魔法少女らしい発言が見えてくるのよ」
『今日のノルマは3体! 行ってみよー!!』
『りかっぺとれんぱすとみゃーこ先輩の四人! アゲアゲで行くぞー!』
『反省会~! 周囲の警戒が迂闊って言われたー! みゃーこ先輩ったらキビシー!』
一見すればいかにもなJCギャルの投稿だが、精査すれば確かに魔法少女の事を述べていると思わしき発言が見受けられる。
「あ~……確かにそんな感じするわね」
「だからここに行って情報を聞きに行くべきだと思うの。DMも送ってみたから、いないってことは無いわ」
「事前の準備が抜かりない……」
「流石ハルカだね!」
◇
そうして、二人と別れた千里と茉莉は水名区へとやってきたのである。
幸いにも水名教会は遠めでも目立つ建造物で、観光案内に従ってすぐにたどりつくことができた。
その荘厳さに少々気圧されながらも、意を決して足を踏み入れたのだが……、
「うーん。音子さん、いなかったね」
「そうね……、神父さんから話は聞けたけど……」
『ふむ、君たちの事情は把握した。申し訳ないが、聖堂騎士・紺染音子は諸事情で神浜を離れている。そちらの日向くんの姉についても、そのような外見の少女が目撃された事実はない。キュゥべぇに誘われてここに来たのなら、アレに伝えられる情報は何もないと言っておいてくれないだろうか』
『……後は、不用意に神浜の裏路地に足を踏み入れるのは避けた方が良い。この街の魔女は強力だ。他にも奇妙な噂話を引き起こす怪異の存在も確認されているからね。下手に関われば痛い目を見るだけでは済まない。こちらで日向くんの姉を見つけたら連絡しよう、君たちは安全第一で動きなさい』
間の悪いことに、当の紺染音子は不在であった。さらには監督官である神父からはホオズキ市から来た魔法少女の情報はないと言われてしまった。早々に調査が暗礁に乗り上げたことに千里は気落ちするが、そこで茉莉があることを思い出す。
「そういえば、さっき神父さん気になることを言ってたよね」
「噂話を本当にするってやつ?」
茉莉の言葉に、千里は別れる前の遥香からの忠告を思い出す。
『これも事前に調べてわかったんだけど、神浜では今変なうわさが広まっているみたいなのよ』
『うわさ……ですか?』
『ええ。絶交を告げた子が行方不明になった。会いたい人に会えるという神社に行った人が帰ってこない……そういう話がインターネット上で書き込まれてるのよ』
『魔女の仕業でしょうか?』
『わからないわ……とにかく、変な事に巻き込まれないように、気を付けて』
結局は魔女の悪事がうわさになっているのだと思っていたが、先ほど出会った神父も同様の警告をしてきた。となれば、実際に魔女とは別の何かが潜んでいるのかもしれない。得体の知れない存在に警戒心と密かな恐怖を感じながら、茉莉が興味を示したうわさについても思い至る。
「もしかして、会いたい人に会える神社の噂話?」
「……うん。本当かどうかはわからないけど、それでも気になる……」
「そうね、集合するには時間も早いし、ちょっと探してみよっか」
「やった!!」
いつもながら、茉莉の行動力の高さには舌を巻く。
チームの活動をまとめるのは遥香の担当だが、全員を前に引っ張っていくのは茉莉の役目だ。
「それにしても、噂ってどうすれば……ん?」
ふと、視界の端に何かが入った。『運命の人と巡り遭う』『伝説の足跡を追ってみよう』『お互いの気持ちを確かめ合おう』……そんなキャッチフレーズののぼりに、つい足を止めた。
「縁結びの伝説……?」
「チサト、これやってみようよ!!」
「……これも噂話になるのかしら?」
◇
「……そういう事があって、スタンプラリーに参加してみたのよ」
「そうだったんだ……」
近場のファミレスで腰を落ち着かせた
「驚いたわ……茉莉だけじゃなくて、そちらの環さんも似たような事になっていたなんて」
「こんな偶然あるのねー……」
「こっちも驚きだよ! いろはちゃん以外にも家族がいなくなってた子がいたなんて、これは絶対何かあるに違いないよ!!」
「落ち着きなさい鶴乃。環さんと日向さんは身内がいなくなったというのは同じだけど、それ以外に決定的な違いがあるわ」
遥香と亜里沙、鶴乃とやちよが互いの所感を口にする。込み入った話になるということで、お互いに別行動をしていた者たちも交えての会議である。
やちよがいる理由は、水名区を捜索していたら駆けずり回っていた鶴乃と鉢合わせして、そのまま絡んできた鶴乃がメルに呼び出されたのでついてきたのであった。
「日向さんのお姉さんについては、本人が記憶を消している。原因が全く異なる以上、同じ問題である可能性は低いわ。正直、この街の魔女に敗れたっていう方がよっぽどあり得るのよ」
「むー……それはそうなんだけども」
「この街は魔女が他の地域よりも強く、数だって尋常じゃないぐらいに増え続けているわ。よそから来た魔法少女が不覚を取ったなんていうのは珍しくもない話よ」
「ちょっと、そんな言い方しなくても」
「大丈夫だよ、アリサ。マツリはそれでもカガリを探しに来たんだから」
歯に衣着せぬ物言いに反発した友人を宥める少女の目に宿る意志を見て、やちよは息を吐く。
遠路はるばる姉を探しに来た子に、『あなたのお姉さんは死んでいる可能性が高いから帰れ』というのは酷な話だろう。しかし当人が魔法少女である以上は希望を見出せる余地は少ない。神浜という土地の特殊性を見れば尚の事。
だが、影も形も無くなった妹を探すために神浜に足を踏み入れたいろはを認めた手前、頑なに突っぱねるのは難しいものがある。まあ四人でチームを組んでいるなら単独よりも多少の安心感はあるが。まとめ役の遥香は思慮深く、情報を集めるためにもそれなりに下準備を欠かしていない。であれば、こちらの情報を渡しても無鉄砲に動かれる心配は少ないだろう――と、やちよは判断して所感を述べることにした。
「……その子が帰ってこなかった理由は不明だけど、やってきた理由の原因については多少の考えがつくわ」
「本当?」
「ええ。おそらく、そこのあなたのお姉さんが神浜市にやってきたことと環さんの事情は関係している。キュゥべぇが探りを入れようとするほどの異変だもの、その二つに関係性を見出すのは、そこまで的外れでもないでしょう?」
断定するのは危険だけど、とやちよは念を押す。
存在がまるごと消失していた環ういとは異なり、日向華々莉はあくまで本人が記憶を消していただけ。そして彼女が神浜で消息を絶ったのはいろはが神浜を訪れる少し前の事。互いの点は結びつかないが、その線が延びる方向は同じ可能性は否定できない。神浜から姿を消したキュゥべぇが内部の情報を求めているという事実が、その予想を裏付ける。
「だから、多少は希望的な話をするわ。本当に希望的な観測であることは理解していて頂戴」
「うん」
茉莉は頷く。年齢に見合わぬ強固な芯を持っている子だとやちよは感心しつつ、自分の知る中で可能性の高い説を語る。
「この街で最も危険かつ不可解な存在はうわさよ。それに巻き込まれて消息を絶ったという可能性も十分にありえるわ」
「相談所でもそんな話を聞いたわ。色んなうわさが流行っていて、知り合いが巻き込まれて、魔女の結界のような場所に取り込まれたことがあるって」
相談所で本命の情報は得られなかったが、神浜の内情を知ることができたのは大きな収穫だった。
神浜の中央区域を取りまとめる魔法少女、都ひなのが親身になって教えてくれたのだ。彼女も華々莉を知らなかったが、知り合いの魔法少女に聞いて回ると言ってくれた。
「エミリーって子、めっちゃテンション高かったわよね、それに……」
「アリサちょっと笑ってない? 何があったの?」
「それがねぇ、そのエミリーにあたし達の名前教えたらさぁ」
「アリサ、それは……」
「あー、
木崎絵美里が他人に癖の強いあだ名をつける事は魔法少女たちの間では有名だ。
「だってハルるんよハルるん! ハルカにこのあだ名つけるセンス凄すぎるって」
「そ、それは確かに……」
「可愛い! いいなぁ」
後輩たちからの反応に赤面する遥香。文武両道の生徒会長で、沈着冷静なリーダーでもある印象とのギャップに千里も思わずクスリと笑いが漏れてしまった。
「あなたは大分マシな方だからって……」
「アリサはどんなあだ名貰ったの?」
「リサリサ」
「ダメージ低いからって容赦なく弄り側に回ってる」
普段は隙のないパーペキ生徒会長が見せたイジリポイントをここぞとばかりに弄繰り回す亜里沙である。
仲睦まじきワチャワチャ具合を余所に、いろはが隣の鶴乃に尋ねた。
「……あの、相談所って何ですか?」
「いろはちゃんは知らなかったね。エミリー先生の相談所」
「絵美里さんって子が悩みを聞いてくれる場所があるんですよ。要するにこの辺の女の子たちの溜まり場です」
「あそこは魔法少女のコミュニティとして、この街でも随一の規模を持ってるわ。中央のまとめ役もいるから、色々と情報が集まりやすいのよ」
「余裕があったらいろはちゃんも行ってみるといいよ!」
閑話休題。
「とにかく、この街では奇妙な異変を起こすうわさが存在しているわ。それらはうわさの『内容』に従って人間を攫ったり閉じ込めたりもする。この前も、そういったうわさを倒したわ」
「その例に従えば、『口寄せ神社』も同じく『会いたい人に会うことができる』っていう内容が実現しているかもしれないのね」
「……もしかしたら、カガリもそのうわさを探してたのかな」
「あり得ない話じゃないわね」
失踪した養母を探して神浜まで赴き、その先でうわさに関わり何らかの理由で帰ってこれなくなった。
うわさに囚われているなら助ければ良し。そうでなくとも、何かきっかけのようなものは掴めるのではないか。
多分に希望的な推測でしかないが、それぐらいしか縋る道筋はない。だったら、そこに向かって全力で進んでみよう。茉莉は即決心した。
「マツリはこのうわさをちゃんと調べたい。いいよね?」
「当然。チサトは?」
「私も賛成。今はそれぐらいしか手がかりがないからね。ハルカ先輩もそれで良いですよね?」
「ええ。というわけで私たちも噂を調査させてもらいたいのだけど、いいかしら?」
四つの真摯な眼差しに、街を代表する魔法少女は心底から大きな息を吐いた。
「……まあ、構わないわ。ただし、この街の魔女は手強いから慎重に行動した方が良いとは言っておくわ」
「やったー! それじゃあいろはちゃん。マツリ達と連絡先交換しようよ。うわさの事、いろはちゃん達と一緒に調べたいな」
「う、うん。……いいんですか?」
「先にうわさを調べていたのはそちらだもの。それなら、環さん達に協力するのが良いと思うわ」
「それにそっちも放っておけないよ。カガリを探すのと一緒に、いろはちゃんの妹を探すのも手伝ってあげる!!」
「……はい! よろしくお願いします。茉莉ちゃん、遥香さん、千里ちゃん、亜里沙ちゃん!」
感謝の念を込めて四人の名前を呼ぶいろは。四人も協力してくれる子が現れた。それだけでういを見つけられるという思いが確信へと近づいたような気がしていた。
(((……うい。ういのために手伝ってくれる人がこんなにもいてくれるんだよ。ういに会えたら、この人たちも紹介してあげたいな)))
「おおーっ! これで人数が一気に倍になったね! これはもう神浜中のうわさを暴いたも同然だよ! ふんふん!」
「気が早いわよ……それに、奏さん達は神浜の外から来ているのだから、調査に加われる時間は少ないわよ」
「あっ……そうでした。皆さんはホオズキ市から来ているんですよね」
とはいえ、問題が一つある。
移動にかかる時間と、それに伴う費用だ。
ホオズキ市と神浜市は距離的に近い街ではない。地方の街から都会に繰り出すにはそこそこ時間がかかり、それを繰り返すなら当然、家族をはじめとした周囲との問題が生じる。
いろはのように市が隣接していて簡単にアクセスできれば融通は利いただろうが、流石に離れた街まで行って帰ってを繰り返すには学生の身分では苦しいと言わざるを得ない。
この上なく世知辛い問題は、魔法少女たちにも容赦なく襲い掛かった。
「……そうね。そろそろ帰らないといけない時間だし、これからも週末で地道に調査するしかないわね……」
「メンドクサイわねぇ。ホオズキ市から神浜まで魔法でワープっ! とかできれば楽勝なんだけど」
「いやいや、そんな魔法、私たちは使えないでしょ」
亜里沙が贅沢なボヤキを吐き出す。探知、誘因、強制解除、自己強化。各々の魔法は戦闘に役立つ効果が揃っているが、日常生活に活用できるものではない。
「瞬間移動が可能な魔法ね……」
「「「あ」」」
――いるわね/いるよ!/いるですよ!
やちよ、鶴乃、メルの三人が同時に声を挙げた。
○七海やちよ
外部からの魔法少女にはいろはを含めて二度目なのと、調査の慎重さを評価しているので対応がマイルド。
スタンプラリーは完遂できずにトボトボ歩いていたところ、鶴乃とエンカウントした。
○日向茉莉
「すずねマギカ」からのゲスト。
消息を絶っていた姉を探しに神浜へとやってきた。
カガリの衰弱により効果が弱まった暗示が解けた。
キュゥべぇを「キュゥちゃん」と呼ぶ。
○奏遥香
同じく「すずねマギカ」からのゲスト。
頭脳明晰で推理力も抜群なので動かすとやちよが二人に増えたようになる。
○詩音千里
○成見亜里沙
すずマギコラボイベント第一弾の日常パート担当。(本作では第六十七話の裏)
○QB
自発的に魔法少女を送り込んでいるが、大体は成果なし。というか宝崎市や豊鶴市に住んでいるマギウス所属の魔法少女が何事もないという情報を流している。勿論そんな情報を宛てにせず、消息を絶ったカガリをこれ幸いとばかりに餌としてマツリを送り込むことにした。
○『Rumors in Disguise』
原作でのすずマギコラボイベント第二弾。
なお、この作品では「キリサキさんのウワサ」は作成されていない。
前提条件として、原作では常盤ななかが警告用の『キリサキさんの噂』を広めるのだが、本作では鈴音がカラーズに〆られるのが確定していたため警告の必要が薄く、噂話自体が存在していないため。
ちなみに時系列的には③前半→②→③後半→(1日経過)→①と言う感じ
完全にニアミスしてます。