『例の部屋』から始まるTS偽いあちゃんとゆかりさんの話   作:Sfon

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『現実』に戻ってきたらしい(8)

 しばらくソファーで休んでいると、お風呂上がりのゆかりさんが帰ってきた。ほんのり顔が火照っている湯上り美人で、今日買ったふわふわなワンピースを着ている。それがとってもかわいくて思わず見とれてしまった。

 お風呂上がりの女の子を見る機会なんて無かったから、その新鮮さも多分にあるだろう。すっかりゆかりさんの可愛さに目を奪われていたら、微笑みながら『どうかしましたか?』なんて言われてしまって、急いで視線をそらす。

「別に、じっくり見てもらって構いませんよ? 私もいあちゃんのことじっくり見ちゃうことありますし」

「いや、さすがにゆかりさんに悪いから……」

 なんて言いながら、頭の中では『ゆかりさんもワタシのことをじっくり見てくれてるんだ』って恥ずかしいやら嬉しいやら、ドキドキな気持ちがぐるぐる回っている。なんとかそれを抑え込んで、平静を装いはするけれど。

「本人がいいって言ってるんですけどねぇ。晩御飯作りますけど、何かリクエストとかあります?」

「ゆかりさんが作るものなら何でも。というか、いあも手伝う?」

「うーん、キッチン狭いし、今日は大丈夫です」

「わかった。手伝える時は言ってね」

「ありがとうございます。今日はお客さんだと思って、のんびり待っていてください」

 キッチンから食欲をそそる料理の音と香りが漂ってくる。ここに住ませてもらうなら何かお返ししたいけれど、食事を作るのはどうだろうなんて思いついた。きっとゆかりさんは仕事で忙しいだろうし、少なくともワタシが忙しくない間はご飯を作ってあげて、自由な時間を増やしてあげたい。

 でもワタシは料理がうまいわけじゃないし、勉強しないと。レシピ通りに作ることくらいならできるから、おいしいレシピをたくさん探しておこうかな。とか思って、パソコンを借りれるかなって考えたら、ふと気づいた。

 今まで、この家でパソコンを見かけていない気がする。寝室にもリビングにもないし、他に大きな部屋もなさそうだ。パソコンが無いと、何かと困りそうだけれど。

「ゆかりさんってパソコン持ってるの? 調べものさせてもらえたら嬉しいんだけど……」

「ありますよ。食後にいあちゃんの分のアカウントも作りましょうか」

「ほんと? ありがとう!」

 パソコンが使えるならできることはいろいろありそうだ。レシピを調べるのはもちろん、掃除の方法とか洗濯の仕方とかも調べて、できるだけゆかりさんに楽をさせてあげたい。

 

 ほどなくしてテーブルに料理がやってきた。小皿にはサラダ、大皿に盛られていたのは麻婆豆腐。今日は中華らしい。

 席についていただきますをして、ゆかりさんからとりわけ用のスプーンを受け取って、そこで手が止まった。早速食べ始めているゆかりさんの量を見つつ、いつもよりも少なめに盛っておく。ご飯の量を多くし過ぎて苦しむのはお約束だ。

 さて、早速いただこうとして、思わぬところでちょっかいを掛けられてしまう。前髪が顎につくくらい長いし、ヘアピンでとめているわけでもなくただ左右に流しているので、何も考えないで食べようとすると顔の前に垂れてしまうんだ。

 だから髪を片手で抑えながら食べることになるんだけれど、それがちょっと面倒といえば面倒。そもそもサイドの髪も長いから、顔を下に向けると髪がお皿の上に垂れちゃって、良い感じに顔の角度を保ちながら食べないといけない。

 そうすると結果的にちょっとずつ食べることになるし、姿勢も崩せないし、はたから見たら良い感じにおしとやかな食べ方になっているのかな?

 ゆかりさんから何も言われないってことはたぶん、そこまで変じゃない食べ方なんだとは思うけれど。

 そんなちょっとした苦労をしながら、ゆかりさんお手製の料理を味わう。作ってくれた麻婆豆腐はどう考えても豆腐だけを入れればいい簡単なものではなく、もっときちんと作った味だ。こんなに本格的な料理、レシピを探したところで作れるんだろうか。

 ゆかりさんと言えばどこか抜けているのがよくあるキャラ付けなのに、このゆかりさんはそんなことなくて、すごくよく出来ている。なにか、ゆかりさんが苦手なものを手助けできたらいいのに。

 ゆかりさんの苦手なもの、なんなんだろう。

「ゆかりさんの弱みってなに?」

「え、なんですか急に」

 さすがに聞くのが唐突過ぎたようで、素の表情で返されてしまった。もう、『何言ってるんだこいつ』みたいな。

「アイドルになるまでの間、何かしらの方法で恩返ししようと思ったのに、こんなに美味しい食事を作られたらアテが一つつぶれちゃったなーって」

「なんだ、そんなことですか。いあちゃんはアイドル関係以外頑張らなくて大丈夫ですよ。それだけでも大変なんですから」

 やっぱりゆかりさんはどうしてもワタシの手を借りたくないみたいだけど、さすがに何もしないでこの家に住むというのはあまりにも肩身が狭い。

「でも、ゆかりさんも仕事で大変でしょ?」

「今までの生活と変わりませんから大丈夫です。食事も洗濯も、一人分だろうが二人分だろうが大差ありませんから」

 表情を見る限り本気で言ってそうだけれど、食事はともかく洗濯はそんなことないだろうに。

「ホントかなぁ……じゃあ、せめて掃除くらいはしようかな。洗濯は服を傷めちゃうかもしれないけど、掃除機掛けとか食器洗いとかくらいならできるし」

 女の子の服って繊細そうだし、色移りとか型崩れとか、いろいろ考えないといけなそうでちょっと手に負えない感がある。でもさすがに掃除機とか食器洗いはできそうだ。

「余裕があれば、でいいですからね。明日からは忙しくなりますし」

「明日は何するの?」

「残ってる買い物をしたら私と一緒に事務所に来てもらって、事務所の一員になってもらいます。そこからどうなるかは分からないですけど、今のところは私の現場についてきてもらおうかなと」

「早速明日からかぁ……うん、頑張るよ」

 もう事務所に行くなんて、テンポがすごく早くてびっくりする。さすがにもうちょっと女の子の所作が身についてからの方がいい気もするけど、ゆかりさんに聞いてみたらすでにだいぶ良くなったらしい。外を歩きながら、今日一日教育を受けた甲斐があった。

 座るときにスカートを抑えたり、きちんと足を閉じたり、しゃがむときにスカートの中が見えないようにしたり、ご飯を食べるときの口の開け方を小さめにしたり、髪の毛を挟まないように座ったり、ちょっと思い出しただけでも次々挙がる。

 この調子で女子力を磨いて、アイドルデビューするときに恥をかかないようにしなきゃ。

 

 ご飯を食べ終え、宣言通りに食器を洗った後はゆかりさんにパソコンを借りてレシピを調べてみた。結構簡単そうでワタシにもできそうだから、今度お願いして作らせてもらってもいいかもしれない。

 でもゆかりさんにはちょっと違う風に映ったようだ。

「何か食べたいものでもあるんですか?」

「いや、そうじゃなくて。作ってあげられそうなものがないかなーって」

「本当に気にしなくていいんですけどね。ちなみに、今まで自炊ってしてたんですか?」

「人並みにはしてたよ。そんなに凝ったものは作ってないけど」

 カレーとかパスタとか、あんまり手間がかかるものではないけれどそれなりには作っていたと思う。レシピ通りに作るくらいは流石に問題なく出来そうだ。

 そうするとゆかりさんはちょっと考えて、ちょうどいい案を出してくれた。

「じゃあ、今度からは食材の下処理とかお願いしてみましょうか」

「まかせて!」

 

 レシピめぐりがいち段落したところで、ゆかりさんの雑誌を読んでみる。どのゆかりさんもクールにキメていて、何度見てもそのたびに惚れ直しそうだ。

 たくさんある雑誌を片っ端から読んでいると、そのほとんどはゆかりさんが載っていなくて、むしろ初音ミクを筆頭としたグループが取り上げられていた。そのページには大抵付箋が張ってある。

 きっとゆかりさんが何度も開いたのだろう癖もついていて、よほどお気に入りのページなようだ。

 そういえば、どうしてゆかりさんは歌手になったのだろう。親が云々の件と関係があるんだろうか。それとも、誰かに憧れたんだろうか。はたまた、何かしらのきっかけでスカウトされたりしたんだろうか。

 そんなことを考えていると、ゆかりさんに声を掛けられたので顔を上げる。

「いあちゃん、ちょっと相談なんですけど、今晩どうします? 私と一緒のベッドで寝るのと、どっちかがソファーで寝るののどっちがいいですか?」

 時計を見ると、9時を回ったところだった。

「そりゃもちろん、いあがソファーで寝るよ」

 考えるまでもない。家主をソファーに寝させるわけがないし、一緒に寝られるわけもなかった。でも、これまたなぜか思うようにいかない。

「って言いますよね。知ってます。なのでお願いするんですけど、私と一緒に寝てくれませんか?」

「……いや、さすがにいあを信用しすぎじゃない? これでもあの時ゆかりさんを襲ってるんだけど」

 一体その信頼はどこから出てくるんだろうか。怪訝な目でゆかりさんを見るけれど、全く効いていない様子だ。妙に自信満々な面持ちで私を説得にかかる。

「あのときのいあちゃんと今のいあちゃんは全然違いますから。それに、しっかり疲れをとってもらわないと明日に支障が出ちゃいますし」

「寝れなくて逆に支障が出る気がするけどなぁ」

「うーん……それなら睡眠薬でも飲みます?」

「あ、いいかも。じゃあ貰おうかな」

 実際良い案な気がしてゆかりさんに取ってきてもらうけれど、ふと『どうして持っているんだろう』って疑問が浮かんだ。別に珍しいものではないけれど、全員が持っているような薬でもない。

 やっぱり、仕事上のストレスとかあるんだろうか。もしそうだとしたら、ゆかりさんを癒してあげられたら良いんだけど。うーん、どうすればいいんだろう。

 なんて考えていたら、薬を持って帰ってきたゆかりさんから、考えていたことを全部吹っ飛ばすセリフが出てきた。

「じゃあ、それはそういうことにして、これからしてもらいたいことがあるんですけど」

「なに?」

「チョーカー預かって、寝室で一人過ごしてもらおうかなって」

 ゆかりさんは何を言っているんだろうか。お店の更衣室やお風呂場であれだけのことになったのに、また?

「いあちゃん、自分の体に慣れてなさすぎです。でも私と一緒に住んでいる間はプライベートな時間を作りづらいじゃないですか。だからもう、今日で慣れてもらおうかなって。今から2時間は部屋に入らないしイヤホンで音楽聞いてるので、もう、ばっちり自分の体を勉強してください」

「いや、なにいってるの?」

「じゃあいきますよー」

 全く話が理解できなくて、ゆかりさんに手を引かれるままに寝室へ連れていかれた。そして彼女にチョーカーを外され、部屋に一人残される。

 外された瞬間、ゆかりさんの寝室にいるということ、自分が女の子の服を着ていること、さっきお風呂場で見た自分の裸、それらが一気に脳内を駆けめぐる。でも今回はお風呂の時みたいに気絶できなくて、逃れられない。お風呂で多少耐性がついてしまったのだろう。

 ゆかりさんの元に戻ろうとして部屋のドアを開けようとしたけれど、向こうからふさがれているようでびくともしない。

「本当に何かあったときは大声出してもらっていいですから」

 もうゆかりさんとしては考えがすっかり決まっているようで、ドアの前から離れていく足音がした。

「ちょっ、ゆかりさん!?」

 可愛い自分の声にすらドキドキしてしまうくらいこの体に慣れていないのに、部屋で一人にされたらどうなることか。もう、本当に勘弁してほしい。

 さすがにここまでお膳立てされて素直にスるわけにはいかなくて、もうこのまま寝てしまおうとベッドに潜り込んだ。それが完全な悪手だった。

 起きたときは気づかなかったけれど、ゆかりさんの匂いがベッドからしてきて、これはお薬無しじゃ眠れそうにない。むしろ頭の中が女の子で一杯になって、ドキドキしてくる。

 それに、布団をかぶっているから、体の形が手で触らなくても伝わってきて、だんだん思考が自分の体に向き始める。こんな機会はもうないかもしれない。ゆかりさんが許してくれるのは今のうちだけかもしれない。

 だんだんと自分の欲望も出てくる。夢見ていた女の子の体を、自分が好きにできる。ゆかりさんから『あなたがいあちゃん本人だ』と言ってもらっている。

 どんどん自分の考えを正当化していって、もう止められない。布団を足元にまとめてベッドの上に座り、そこからドレッサーの鏡をのぞいた。鏡の中では、顔を赤らめたいあちゃんが潤んだ目をオレに向けている。

 もう我慢はできなかった。

 震える手を自分の胸元に添えると、布越しに確かな柔らかさが伝わってくる。

「んっ……ふぅ……」

 女の子の、柔らかい体。夢を除けば初めて触るその感触は、一度知ってしまったら止められない。胸、おなか、太もも、どこを触っても柔らかく、でも太っているわけではない。

 そしてやがて胸とはまた別の、女の子特有のところを触って、今の体を実感する。自分は女の子なんだって、頭に刻み込まれる。もうここまでくると服の上からじゃ満足できなくなってしまって、服の中に手を差し込んだ。

 お風呂に入ったばかりのしっとりとした肌が手に吸い付く。肌荒れなんてほんの僅かもないし、ムダ毛だって一切ない。作り物かと思うくらい、すべてが完璧な体だ。もう止めることなんて、できるわけがなかった。

 

 

 夢中になっていたらあっという間に時間が過ぎたようで、ふと時計を見ると1時間も経っていた。ゆかりさんは2時間入ってこないと言っていたけれど、ギリギリまでするなんてそんな危ないことはできない。

 けだるい体を頑張って動かし、洗面所に行って手を洗って再びベッドにもぐる。おかげさまで眠気もやってきて、薬に頼ることなくそのまま眠りについた。

 




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