『例の部屋』から始まるTS偽いあちゃんとゆかりさんの話 作:Sfon
いざ、アイドルの世界へ(1)
翌朝起きると、ゆかりさんに抱き着かれていた。なんで?
昨晩は結局お薬に頼らずに眠れて、目覚め自体はなかなかすっきりしている。しかし、それはむしろ悪い方向に働いた。寝ぼけているまま起き上がれたら楽だったろうに、今どんな状況かはっきり理解できているからむやみに動けない。
起き上がろうとしたら体が重くて、ふと自分の胸元に視線を向けると、ゆかりさんが仰向けに寝ているオレの右腕を枕にして体に抱き着いていた。どうしてこうなったのか全く分からないが、あの時と真逆だ。
右半身に、ゆかりさんの体の柔らかい感触が伝わってくる。布団をかぶっているからしっかり見えるわけではないけれど、ゆかりさんの太ももや胸、おなか、腕の感触が、自分の妄想越しに伝わってくる。
起きた瞬間にこんな状況へぶち込まれたら心拍数が一気にマックスまで増えて、頭がくらくらしてくる。首に手を当てると、チョーカーをしていなかった。やっぱり。女の子への耐性がない今の状態では、こんなことをされたら致命的だ。
ここで私にできるのは起きなかったことにしてゆかりさんが起きるのを待つか、ゆかりさんを起こすかの二択だ。起こせばすぐにこの状況から逃れられそうだけど、寝ているゆかりさんは本当に幸せそうな顔で、起こすのには忍びない。
けれど、起こさないとなればこの恥ずかしさがずっと続くのだ。ゆかりさんが身じろぎをするたびに彼女の体のことも伝わってくるし、自分の体が今どうなっているのかも同時に伝わってくる。
ショーパンを穿いているから太ももの中頃より先は肌が露出しているわけで、ゆかりさんの着ているワンピースが素肌にさらさらと触れる。その感触がなめらかで、しかも布越しに彼女の柔らかさがくるものだからもうたまったものじゃない。
こうなったら、二度寝をしてゆかりさんが起きるまで意識を飛ばしておきたいところだ。
目を閉じて、深呼吸して気持ちを何とか落ち着けて……落ち着くわけがない。だって、寝る直前までベッドについたゆかりさんの匂いを嗅ぎながらその、していたわけだから。すぐ横にいる本人からその香りがしてきて、もう頭は沸騰しそうだ。
そうして苦しんでいたのに、ゆかりさんはワタシの胸に頬を擦り付けてきた。胸がフニフニと形を変えるのがはっきりと伝わってきて、思わず肩を震わせてしまう。
それがまずかった。ちょうど眠りが浅くなっていたのか、ゆかりさんを起こしてしまったらしい。胸と胴に彼女の身じろぎが伝わって、それから寝ぼけた彼女の声が聞こえてくる。
「ん……え、なんでぇ……?」
目を閉じているから、聴覚と触覚に神経が集中する。胸元に感じるゆかりさんの頬や、背中とおなかに感じるゆかりさんの腕、体側に感じるゆかりさんの胸、おなか、足の感触が、真綿で首を締めるみたいに伝わってくる。
もし、今ワタシが起きているとばれたらどうなるんだろうかなんて、そんなことを考えてしまって、思わず唾をのんだ。それがいけなかった。寝ている間は唾をのみこまないらしく、それで起きているのがばれてしまう。
「いあちゃん、起こしちゃいましたね。ごめんなさい、その、寝ぼけて抱き付いちゃっていたみたいです」
するするとゆかりさんが離れていく。温もりが消えて、急に寒くなってしまった。思わず目を開け、引き留めようと手を伸ばしかけ、そこで何とか止まれた。いや、止まってしまった。
視界には昨日着ていた白いふわふわしたワンピース姿のゆかりさんが、申し訳なさそうな表情をしてベッドの上に座っている。その胸元はちょっとはだけていて、裾は太ももの中頃までめくれあがっていた。
「おはようございます、いあちゃん」
「……きゅう」
「ちょっ、いあちゃん! またですか!」
ゆかりさんの肌面積が今までで断トツ広くて、それに寝起きのぽわぽわした表情も可愛くて、朝一発目にしてはあまりにも刺激が強かった。チョーカーなしでは当然頭の処理が追い付かなくて、視界は真っ暗になった。
ゆかりさんに揺り動かされて目を覚ました。視界には変わらない服装ながらきちんと整えたゆかりさんがいるけれど、さっきよりはだいぶ落ち着けている。首を手でなぞると、ちゃんとチョーカーがついていた。
「おはよう、ゆかりさん」
「おはようございます。……昨晩はお楽しみでしたか?」
「ノーコメントで」
そんな、ニヤニヤしながら言われたって、答えられるわけがないじゃない。起き上がってグッと体を伸ばすと、ちょっとずつ目が覚めてきた。
「私はもう洗面済ませちゃったので、ゆっくりどうぞ」
「ありがと、ゆかりさん」
どうやらあれから少し時間が経ってしまっているらしい。チョーカーを付けていなかったとはいえ、気絶してしまうなんてちょっと恥ずかしいなぁ……。
洗面台に来て鏡を覗き込むと、鏡の中にはプラチナブロンドの美少女が立っている。やっぱり、夢じゃないんだなぁなんて。なんだか昨日よりは自分の体だって意識が増してきた気がする。
でも、まだちょっとだけ信じ切れていないというか、信頼できていないところもあった。いつかステージに立ったときとか、撮影しているときとか、そう言う時に元の体に戻ってしまうんじゃないかなんて、そんな不安はどうしても残っている。
その不安を払しょくするために、自分の姿をしっかり見つめた。今の私はいあ。かわいい女の子だ。
長い髪に苦戦しながら洗面をすませてリビングに向かうと、ゆかりさんが朝食を用意し終わったところだった。テーブルの上にはベーコンにオムレツ、トースト。洋食の朝ご飯の王道メニューだ。
「朝ご飯の準備までしてもらっちゃって、ありがとね、ゆかりさん」
「これくらいほんとに大したことないですって」
そうは言うものの、感謝されること自体は嬉しいみたいで、はにかんだ笑顔を見せてくれる。こういう表情を見せてくれるなら、どんどん『ありがとう』って言いたくなるからとってもいいなぁって。
朝ご飯をおいしくいただき、二人分の食器洗いを終えて、ソファーに座っているゆかりさんの隣に腰を下ろした。昨日一日一緒に歩き回ったおかげで、だいぶゆかりさんとの距離感には慣れてきたと思う。
さすがに今朝みたいに体が触れ合うほどの距離に居たら話は別だけど、普通に横に立っていたり、並んで座ったりするくらいなら普通に行えるようになった。彼女の顔もきちんと正面から見れるようになったし、かなりの成長だとおもう。
昨日目を覚ました直後は、ゆかりさんの顔を見るだけでも恥ずかしかったからなぁ……。
なんて思いながら雑誌をぱらぱらめくっていると、『いあちゃん、今日なんですけど』と声を掛けてくれた。雑誌を膝の上においてゆかりさんに顔を向ける。
「まずはいあちゃんのスマホを買いに行って、それからベッドを買いに行きましょう。そのあとはご飯を食べてから事務所に行く予定です」
もう事務所に行くのか、早いなぁ……女の子になって二日目なのに。というか、それにしても。
「ベッド買ってくれるのは嬉しいな、正直毎日ゆかりさんの顔を寝起きに見るのは刺激が強いし……ありがとう。でも、いあ、スマホいるかなぁ。連絡手段ならガラケーで十分だと思うけど。どうせゆかりさんとしか連絡とらないし」
通信費も馬鹿にできないし、できるだけゆかりさんには負担を掛けたくないと思ったけれど、その気遣いはむしろゆかりさんにとって不満なものだったらしい。
「あのですね、今時スマホを持たないといろいろ面倒なんですよ。チャットツール持ってる前提でお仕事が来たりするし、正直メールで連絡するのはちょっと面倒です。あと、私に負担を掛けないようにっていうつもりなら、そんなのいらないですからね。そんな心配するくらいなら、その分をアイドルに向けてください」
私の顔をずいっと覗き込んできてそう言ったゆかりさんの、あまりの熱意には驚いてしまって、頷くことしかできなかった。
さて、お出かけの準備だ。昨日買ってもらったピンクのオフショルダーワンピースはとってもかわいいけれど、汗をかいていないとはいえさすがに二日連続で着るのは抵抗がある。他に買ってもらったのはなんだっけと見返してみたら、黒のキャミソールワンピースがあった。
かなり軽い布地で、胸元と腰回りはきちんとガードされているものの、スカートの裾はほとんど透けて見えている。体に当ててみたら肩も胸元も背中も、腋よりも上の部分はすっかり露出していて、なかなか恥ずかしい。
それでも買ってもらったとき、ゆかりさんはなかなかご機嫌な様子でこの服を眺めていたし、着てあげたい気持ちはとてもあるから、とりあえず着るだけ着てみることにした。
下着を着替えて、上からかぶって、そこでふと気づいた。この服、下着は何を着ればいいんだろう。
さすがにキャミソールを着たら下着が丸見えになるのが分かるからブラの上から着たけれど、それでも肩にかけたストラップが見えてしまっていてちょっと恥ずかしい。かといって着ないわけにもいかなそうだ。そこまで厚い生地ではないからいろいろ形が透けて見えてしまいそうだし、胸元から中が覗いてしまいそうでさすがに心配だ。
「ゆかりさーん」
とりあえずそのままの格好でゆかりさんを探すと、彼女はもう着替え終わってリビングのソファーに座っていた。白いワンピースがとっても良く似合っている。あれ、なんだかペアルックみたいでちょっとイイかも……?
「なんですか?」
「これの下って何を着ればいいの? 肩紐見えちゃうんじゃない?」
ワンピースを軽くつまんで見せると、ゆかりさんは合点がいった様子でこちらに歩み寄り、そのまま私の部屋に向かった。
「いあちゃんは絶対肌を見せた方がいいんですよね。うーん、とりあえずストラップは外せば解決するのでそうしてもらって、外を歩いているときはブラウスでも羽織っておきましょうか」
言われたとおりにブラのストラップを外して付け直したり、ゆかりさんからブラウスを借りて羽織ってみると、なかなか良い感じになった。あくまではたから見たら、という前置きはつくけれど。
だって、胸元は大きく空いてるし、ブラウスを脱いだら肩も背中も腕も丸出しで、結構緊張する。鏡で後姿を見てみると結構えっちな感じがして、青年誌の表紙にでも載ってそうな格好だ。
「女の子初心者には結構チャレンジングな服じゃない?」
「そうですかね、別に似合ってるからいいと思いますけど」
「そういう問題じゃ無くて……」
見下ろした体がこんな服を着ているなんてやっぱりまだ違和感があって、ちょっと抵抗はあるけれど、横にいるゆかりさんはとっても嬉しそうで、それだけで着る理由にはなってしまった。
着替えを終えて、お出かけの準備が整った……と思ったけれど、ハンカチやらティッシュやらをどこにしまったものか、困ってしまう。ポケットの付いていない服なんて着たことがあったか分からないレベルで経験がない。
こういう時はどうするのか聞いてみたら、鞄を持っていくらしい。それはそうだろうなぁなんて思うけれど、そもそも持ってないし。
「あー、そっか、鞄も持ってませんもんね。じゃあまずはそこから行きましょうか」
「ゆかりさんが使ってないやつとか、余ってるやつがあったらそれで全然いいんだけど」
「うーん、いや、いあちゃんには可愛いのを使ってもらいたいですから、新しく買いましょう。私が持ってるのってそっけない感じのものしかないんですよね」
「何でもいいんだけどなぁ」
「私がよくないんです」
ちょっとした会話がなんだかおねだりしたみたいになってしまって、さすがに申し訳ない。でもゆかりさんは妙に楽しそう。散財癖でもあるのかな、なんて考えて、どこかでよく見た光景な気がしてきた。あれだ、孫にお小遣いを上げたがるおばあちゃん。ゆかりさんはおばあちゃんになっても美人だろうなぁ、なんて。
とりあえず今はゆかりさんに私の分も持ってもらうことにして、二人そろって家を出た。
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