『例の部屋』から始まるTS偽いあちゃんとゆかりさんの話   作:Sfon

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『現実』に帰ってきたらしい(5)

 楽しい話をしながら『どこに向かうのかなぁ』なんてミステリーツアーみたいな気分でいると、思わぬところから買い物ツアーが始まった。

「やっぱり抵抗あります?」

「そりゃあ、まあね。でも必要だとは思うし。でもなんでここからなの?」

 まずやってきたのは、なんといきなり女の子ならではのお店、下着の専門店だ。ゆかりさんから「普段着る分には量販店で売っているやつでもいいけれど、可愛いのを着てくれたら嬉しい」とリクエストを受けてしまったら、断るわけにいかない。

 でもいきなりここじゃなくてもいいじゃないかなんて思ってしまう。まずは普通の服を見て回って、女の子度になれてからでも遅くない気がする。でも、ゆかりさんには考えがあったみたいだ。

「このあとお洋服を試すときに、下着がなかったらうまくいかないじゃないですか。普通の服を着るときに着れる下着、着ていないでしょう?」

 言っている意味がよくわからなくて、オフショルの下に着ていたキャミソール風の服を軽く引っ張ってみて、すぐに離した。中になにも着ていなくて、ワタシの胸が唐突に視界に飛び込んできてびっくりしてしまう。

「もう……外で何やってるんですか。その服は下着も兼ねてるんですから、どんな服を着るにしてもそれを着た上からじゃないといけなくなっちゃってるんですよ。それだと困るじゃないですか」

「な、なるほど。……あれ、なんでゆかりさんはこの服のことそんなに詳しいの?」

「そりゃあ、まあ、脱いでいるところを一回見てますからね」

 多分、ゆかりさんがワタシの服の構造を把握できたのは、例の部屋のお風呂場で服を脱いだあのときくらい。その時に見られていたんだろう。なるほどなぁ、と納得したところでゆかりさんが店内に入っていったので、気は進まないけれど後をついていった。

 お店の中には、当たり前だが下着しか並んでいない。どこを見ても様々なカラー、デザインの下着が並んでいて、耐性なんてついているわけがなくて、あっという間に顔に熱が集まってしまった。

「いあちゃんは肌が白いから、黒とかも映えて良い感じですね。後はピンクとか白とか、いかにも女の子してる感じもいいですし……」

 ゆかりさんについて回ると、ハンガーにかかっている下着を次々体に当てられる。服に隠れて見えなくなるというのに、かなりこだわって選んでいるようだ。しかし、パンツやキャミソールはまだわかるけれど、ブラまで買わないといけないものなんだろうか。

 まだそこまで気持ちが女の子に慣れているわけじゃないからさすがに抵抗があるし、何とか避けられないかなぁ……。

「あの、その、上の下着もつけなきゃダメ? 別にそんなに大きくないし……」

「家の中ならともかく、外に出るなら絶対ダメです。どれだけ小さかったとしても、付けないでいるとお肉が脇に逃げちゃったり、垂れちゃったりするんですから。恥ずかしい気持ちもわかりますけど、慣れてください」

 確かに、お胸の形が崩れたいあちゃんを見たくはない。でもやっぱり恥ずかしい気持ちはぬぐえなかった。何とかならないものかと見渡して、よさそうなものを見つける。

「キャミソールでも、ほら、胸の所のが付いたやつもあるみたいだよ?」

「それもいいんですけど、ブラの方が可愛いじゃないですか。胸の形だって綺麗に見えますし。いあちゃんはもともときれいなのであんまり関係ないかもしれないですけど」

「ゆかりさんは?」

「私だって、外に出るときは付けてますよ。今もそうです。じゃないと、薄手の服なんて先端が透けちゃいますし、動いた時に揺れるのも気になりますから」

「揺れるの?」

「……ネガティブ思考がまともになったのはいいですけど、なかなか攻めてきたことを聞きますね」

 ジト目のゆかりさんにちょっとだけ怒られてしまって、すぐに変なことを言ってしまったと後悔した。うぅ、別に煽りたかったわけじゃないのに……。だって、こんな会話をするなんて思わなかったし、したこともなかったし、全然頭が回らないんだもの。

「ごめんなさい、その、正直ちょっとテンパっちゃってて」

「でしょうね。顔真っ赤ですし、さっきから視線が泳いでばっかりですもん。まぁ、とりあえず店員さんにサイズを測ってもらって、きちんと選んでもらってください」

「はい……」

 もうゆかりさんに意見できる立場ではなくて、顔を真っ赤にしながら店員さんに声を掛けた。店員さんは『初めてですか? 大丈夫ですよ、皆さん最初は緊張しますから』なんてフォローしてくれたけれど、ワタシはずっと恥ずかしくて、店員さんに言われるがまま従った。

 試着室に一緒に入って、オフショルダーのトップスを脱いで、その下の服を脱いだら上半身が裸になってしまって、店員さんから『そこまで脱がなくていいです!』と慌てられてしまった、なんてハプニングもあった。

 ついさっき確認して分かっていたのに、脱ぐまで気が付かなかったなんてよっぽど頭が回っていなかったんだろう。

 店員のお姉さんも焦ったのか、試着用のキャミソールをもってきて『これの上からサイズを測定するので着てください』って言われて、そんなに難しいことをしているわけではないのに、なんだかとっても疲れてしまった。

 

「お疲れ様です。その服なんですけど、造りをちゃんと見てもいいですか? やっぱり気になっちゃって」

「これ?」

「です。下着を付けなくていいってことはブラキャミ的なものなんですかね」

 オフショルダーの胸元から覗いているキャミソール風のをつまんで見せたらコクリと頷いた。確かに、みんなに下着姿を見られていると考えると恥ずかしい。

 改めて見てみると、脇の下もこぶし一つ分くらいは肌が見えているし、胸を隠している部分は三角形で、ほんのわずかにある谷間部分が見えている。これだけ肌面積が多ければ、下に何か着るっていうのは難しそうに思えるけど、何かあるのかなぁ。

 自分で見た範囲だと、胸のところはそれなりに厚い生地になっていて、透けるとかはなさそうだ。ちょっとパッドっぽいものも入っているし、これだけで何とかならないわけでもなさそうな気もする。

 店員さんに服のことを伝えて、どう思います? なんて話を投げてみたら、意外と普通に答えが返ってきた。

「正直そのままでもいいんじゃないですか? 透けたらあれですけど、デザインは下着っぽくないですし、カップも入ってますし、不自然さはないですね」

「だってさ、ゆかりさん」

 店員さんの意見というだけあって、ちょっと不満げではあるものの、ゆかりさんもそれなりに納得したらしい。

「とりあえずその服については衣装ってことで保留して、普通の服を着るときの下着を買っていきましょうか」

「はーい」

 ただ、ここからがワタシにとって大変なんだよなぁ。女の子の下着の好みとか聞かれても、性癖調査にしか思えないよ……。

 

 満面の笑みの店員さんに見送られてお店を出たときには、ずっしり重い紙袋を手に提げていた。中には下着が全部で7着入っていて、そんなに必要なの? って思ったけれど、在庫が少ないと同じのを使うペースが速くて摩耗が進んでしまうんだとか。

 どうせ洗濯するんだし悪くなったら買いなおせばいいじゃん、なんて思ったけれど、会計の額を見てさすがに考え直した。男の頃の少なくとも倍はかかっていて、これは確かに大切に使わないといけないかもしれない。うーん、女の子ってお金がかかるんだなぁ……。

「一度このブランドの下着でそろえてみたかったんですよね。でも自分で着るのはちょっと恥ずかしかったですし、ちょうどよかったです」

「え、じゃあ、いあはゆかりさんが着るのも恥ずかしいような下着を選ばされたってこと?」

「別に変なデザインってわけじゃないですよ? ただ、私はあんまり可愛いの似合わないので……」

 ちょっと自虐っぽいそのセリフが気になってゆかりさんの方を見ると、ちょっと恥ずかしそうな表情をしている。それがどうにもモヤモヤして、こんなこと言ってもいいのかは分からないけど、思い切って伝えることにした。

「ゆかりさん、ゆかりさんは可愛いよ」

「はいはい、ありがとうございます」

 なんだか軽く流されてしまって、気持ちが伝わっていない気がする。このまま次に行くとせっかくの機会を逃してしまう気がして、勇気を出してゆかりさんの前に出た。目の前でワタシが立ち止まったので、当然ゆかりさんの足も止まる。

 一体どうしたんだろう、みたいな顔をしているゆかりさんの顔をしっかり視界の中央に据えて、彼女の手をとった。

「そうじゃなくて、可愛いのだって似合うよ。ゆかりさんも可愛い下着着たいんでしょ? お揃いの着ようよ!」

「……変態さんですか?」

「違っ……ちがくて! なんかゆかりさんが自分のこと可愛くないみたいなこと言うから」

 なんだかゆかりさんから『自分は諦めているけど』みたいな雰囲気を感じたから、何とかしてゆかりさんのことを元気づけたくて、見切り発車でそんなことを言ってしまった。

 言った後どうなるかとかは全然考えてなかったけれどなぜか止められなくて、これからどうすればいいのか全然わからくて、困ってしまってただゆかりさんの目をジッと見つめた。

 ゆかりさんは最初困惑していて、悩んで、ちょっと目をそらして、それからもうおなじみになった、『しょうがないなぁ』なんて笑みをため息とともに漏らした。

「……まぁ、そんなに言うなら仕方ないですね」

「ホント⁉ じゃあ行こ!」

「なんか、もうすっかり女の子になってませんか?」

「いや、それは絶対にない。大丈夫」

 なんでこんなに嬉しいのか分からないけれど、無意識にゆかりさんの手を引いてさっきのお店に戻ったのだった。

 




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