『例の部屋』から始まるTS偽いあちゃんとゆかりさんの話 作:Sfon
ゆかりさん自身の分の可愛い下着も買ってもらってワタシはもうすっかり満足だけれど、息もつかないうちにすぐ次のお店へ向かう。
「さてさて、お次はお洋服ですけど……どっちから行きます? ボーイッシュな感じと、ワタシの個人的趣味なところと」
「そりゃあ、ね、ゆかりさんの方でしょ」
「じゃあ、私のが終わったらいあちゃんの好みの方も行きましょうね」
連れていってもらったお店はどこもおしゃれで、値段もなかなかのものだ。いいお店なんだろうことは分かるけれど、周りには女の子しかいないから緊張してしまって、ゆかりさんの後ろに隠れてばっかり。
それでも、いくつかお店を回る中で良い感じの服が見つかった。ちょっとガーリーなアイテムをそろえたお店で見つかった、濃いピンクのオフショルダーワンピース。ゆかりさんはそれを見た瞬間に試着を勧めてきて、その勢いにちょっとびっくりしたほどだ。
一人で着替えると思いきや、ゆかりさんも一緒に更衣室に入ってきた。
「え、なに」
「いあちゃんだけだったら着替え方わからなくて、服を壊しちゃうかなって思いまして」
「あー、否定はできないかも」
「それに、下着をどれにするとか何もわからないでしょう?」
反論の余地はなかったので、全部ゆかりさんの言ったとおりに着替えていく。スカートと上半身の服は脱いで、さっき買った黒の首から下げるキャミソールを着た(ホルターネックというらしい)。胸のところにパッドが入っていて、胸元を良い感じに保持してくれる。
女の子用の下着を着るのはかなり抵抗があったけど、実際着てみるとなかなか癖になる。動き回っても服にすれるのが気にならないし、なんというか、安心感があった。
そしてその上からオフショルワンピースを頭からかぶって、長い袖に腕を通す。肩と胸元を整えて一応は完成らしい。肩から吊り下げていないからずり落ちてしまうんじゃと思ったけれど、考えていたよりもずっとタイトな作りで、その心配はいらなそうだ。
鏡を見ると、かわいいいあちゃんがそこに立っている。うん、ばっちり似合っているな、なんて思ったら、ゆかりさんが後ろからくっついてきた。
「いあちゃん、この首のチョーカー、ちょっと外してみていいですか?」
「うん、別にいいよ」
「じゃあ髪を持ち上げてもらえますか?」
ワンピースとうまく合っていないなら、ゆかりさんの言うとおりにした方がいいかな、なんて軽い気持ちで、ゆかりさんに外してもらう。後ろ髪を手で持ち上げて、ゆかりさんがチョーカーのホックを外した、その瞬間だった。
鏡の中のいあちゃんがチョーカーを外した、完全にそのタイミングで、頭の中を恥ずかしい気持ちがいっぱいに埋め尽くし、腰が抜けてへたり込んでしまう。
「なっ、どうしたんですか!?」
ゆかりさんが呼びかけてくるけれど、それすらも恥ずかしい。自分を『いあちゃん』って呼ばれているだけなのに、それ自体がとても恥ずかしい。
というか、そもそも今している格好がどうしようもなく恥ずかしい。このワンピース、腕や胸元、腰、お尻にかなりフィットしているせいで、ボディラインがくっきり出てしまっている。胸がどれくらい膨らんでいるとか、お尻がどのくらいの大きさとか、服の上からでもばっちり見えてしまう。
それに丈がとっても短くて、お尻の下のラインからこぶし一つ分くらいしかないんじゃないかっていうレベルだ。それなのにペタンと女の子座りしてしまっているから、パンツが見えてしまっている。
さらに、今の今までしてきた言動が急に恥ずかしくなってきた。ネイルの話をしたこと、下着を頑張って選んだこと、ゆかりさんにお揃いの下着を買ってもらったこと。どれも、もともと男なのにどうしてそんな発言をしたんだろうって、もうめまいがするほどに恥ずかしい。
「お……」
「お?」
「元男なのに……なんでこんな……」
「えっ、今更そんなこと言います?」
自分でも訳が分からないけれど、とにかく、急に自分が今女の子になっていると自覚してしまって、もう恥ずかしくて仕方がなくなってしまった。オレの様子にゆかりさんは戸惑い、それからふと何かを思いついたようで、オレの首にさっき外したチョーカーを再びつけた。
すると、今の今まで感じていた恥ずかしさがスーッと引いていって、気持ちが落ち着いてくる。
「どうですか?」
「……なんだったんだろ、今の」
さっきまでのワタシは何をしていたんだろうってレベルで、ちょっと服装に恥ずかしさは残っているものの、かなり頭が冷静になった。ちょっと残った恥ずかしさはワタシがいま女の子の体になっているということではなく、さっき見せた痴態への恥ずかしさだ。
そんなワタシの様子を見てゆかりさんは何か納得したようで、またチョーカーを外す。
すると、また、自分の体の違和感がすごくって恥ずかしさが頭中を駆け巡って、首まで真っ赤になってしまった。
そして、またチョーカーを付けられる。するとやっぱり気持ちが落ち着くが、感情がジェットコースターみたいに動いてもうへとへとだ。
「なるほど、そういうことですか」
「なに、どういうことなの?」
「つまり、このチョーカーはいあちゃんの『女の子ロール』を補助してくれるアイテムなわけです。考えてみてください。急に女の子になったのに、覚悟を決めた途端めちゃくちゃ可愛い女の子ロールができていたじゃないですか。ネイルの話とか、さっきの下着の件だとか。初めての下着に恥ずかしがってはいましたけど、あのくらいなら普通の女の子でもする反応です。……まあ、小学生とかそのくらいの年齢ですけど、普通」
「……それで?」
「このチョーカーを付けているときはTS娘特有の恥ずかしい気持ちが抑えられて、自分の思う可愛い女の子っぽい行動をサポートしてくれるって感じだと思います。はじめの頃のことを考えるとそこまで強い効果があるわけじゃないみたいなので、あくまで手助けって感じだとは思いますけど」
なるほど、それが本当なら、今まで女の子っぽいことを恥ずかしがらずにできていた、しようとしていたことに納得がいく。今は別にそこまで変なことをしたという感覚がないけれど、さっき外していた時はかなり恥ずかしかったのを覚えているし。
でも、そんなアイテムがこの世に存在するはずが……なんて考えて、そもそも自分の存在自体が超常現象であることを思い出した。この世界では何が起きても『でも自分が転生者みたいなものだしなぁ』で片づけられてしまいそうだ。
何はともあれ、このチョーカーのおかげで可愛い女の子の仕草ができるなら助かる。今後とも助けてもらおう、なんて思っていたら。
「ということで、暫くはチョーカー付けててもいいですけど、いずれチョーカーに頼らなくてもいいようになりましょうね」
ゆかりさんとしては、素のワタシに女の子っぽいことをしてもらいたいようだ。ゆかりさんの頼みならかなえてあげたいけれど、できるかなぁ……。
「ゆかりさんはさっきみたいな、その、女の子っぽい発言とか行動とか、そういうの嫌じゃないの?」
「強要するわけじゃないですけど、なんというか、男の子が女の子に染まっていってるなぁって感じで、むしろちょっとイイかもです」
喜んでもらえてるならいい、のかなぁ……。
深呼吸を何度かして気分を落ち着かせ、立ち上がって気持ちを切り替え、改めて今の自分の姿を鏡越しに見る。鏡の中には、ピンクのタイトなオフショルワンピースを着たいあちゃんが立っていた。何度見てもボディラインがはっきり出ていて、こんなの服を着ていないのと変わらないんじゃないかっていうくらい恥ずかしい。でもゆかりさんが試着姿をみて『これがいいです! これにしましょう!』なんて満面の笑みを浮かべたものだから、却下する選択肢なんてなかった。
かわいい女の子が着ていそうで全く抵抗が無いわけではないけれど、ゆかりさんが着てほしいならなんだって着てあげたい。
それにしても、またオフショルダーを選ぶなんて、ゆかりさんは肩フェチだったりするんだろうか。それなら、家の中でも肩の出た服を着てあげようかな、なんて。
その後はまた他のお店を見て回って、パーカーやデニムのショートパンツ、王道の白ワンピなどなど、いろんな服を買っていった。
毎回毎回ゆかりさんと一緒に更衣室に入って着替えたからゆかりさんに自分の体を見られることにはだんだん慣れてきたけど、やっぱり自分の体を見ることにはなかなか慣れない。
ゆかりさんは肌が白いとか、腰の括れが綺麗だとか、足とか腕が細いとかいっぱい褒めてくれるけれど、全くもって自分の体を褒められている気がしなかった。VRアバターを褒めてもらっている中の人みたいな、そんな感じかもしれない。
だから、鏡の中のワタシにゆかりさんが触れて、自分の体にその感覚が伝わるととっても不思議な感覚になってしまう。これは慣れるのに時間がかかりそうだ……。
それにしても服を買っただけで一体いくら消えていったんだろう。
いつか返さないとなぁ、とは思う。きっとお金で渡しても受け取ってくれないだろうから、アイドルになってお金を貰えるようになったらちゃんとお金をためて、何か大きなプレゼントをしたい。
何を渡したら喜んでくれるかなぁ……。
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