『例の部屋』から始まるTS偽いあちゃんとゆかりさんの話   作:Sfon

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『現実』に戻ってきたらしい(7)

 お次に行ったのは靴屋さん。今履いているのはゆかりさんに借りたスニーカーだけど、『その服にその靴は合わな過ぎてすごいですね』って言われて、すぐに買いに行くことになった。

 靴に関してもやっぱり女の子の方がたくさん選択肢があって、いろいろ教えてもらっても何を選んでいいか全くわからない。だから結局ゆかりさんにお願いして選んでもらって、

ダークブラウンのブーツになった。

 ブーツ自体はメンズもあるけれど、端々に柔らかい印象がしてやっぱり女の子っぽさに気を遣っているんだなってわかる。ワンポイントで可愛い模様がスタンプされていたりするし。

 ヒールとかも考えたらしいけど、慣れが必要だからさすがにやめておいたみたい。女の子っぽさは群を抜いているし、いつかは履いてあげたいけどなぁ。ピンヒールとかは流石に無理だろうけど、そこまで高くない、太いヒールならきっと何とかなる、はず。

 次に行ったのは部屋着を売っているお店。これまた女の子っぽいふわふわとした生地のショートパンツやパーカー、ワンピースを買ってもらった。ゆかりさんはいつもどんな服を着ているの? って聞いたら、スウェットとかジャージが多いらしい。

 せっかくかわいいのに、なんて口をとがらせてちょっと不満げな反応をしたら、『そう言われると思ってました』ってため息交じりに笑われて、買った量が倍になった。買ってもらった後で、またお返ししないといけない額が増えたと気づいて、何やってるんだろうなぁって自分でも思う。

 でも、やっぱりゆかりさんには似合っている服を着てほしいんだ。かわいくなくても、かっこよくてもいいから、見た目には気を遣ってほしい。

 あと、他にゆかりさんをもっと可愛くする方法はなんだろうって思って眺めていたけど、あるとしたらメイクとか……? 全然知らない世界だから何も言えないなぁ。

 それからは日用品店で歯ブラシだったり食器だったりを買いそろえたりして帰路についた。買い物に出かけたのが午後だったらしく、家についた頃には空が赤く染まっていた。

「やっと着いた……」

「お疲れ様です。結構重かったでしょう」

「大丈夫。たぶんゆかりさんよりは力あるから」

 帰りながらもあれこれ買い増した結果、二人とも両手に荷物をたっぷり抱えていた。重かった食器とかはワタシが持ったので、ゆかりさんの分は割と楽にできたと思う。ほとんどワタシのために買ってもらってるのに、荷物持ちまでさせては流石に申し訳ないしね。

 やっぱり、できるだけ頼れるところは見せたいなって思う。そうしたら、苦手なところを頼るときの罪悪感がちょっとは減るし。

 

 玄関で靴を脱ぎ、買ったものをどこに置くかちょっと悩んでいると、ゆかりさんに使っていない部屋へと案内してもらった。そんな部屋あるわけないと思ったけれど、見せて貰ったら本当に何も置いてなくて、この部屋に住ませてくれるらしい。

 うすうす気づいていたけれど、この家はどう考えても一人暮らしには大きすぎる。寝室が二つに広いリビング、大きなキッチンと冷蔵庫、少なくとも二人、頑張れば家族で住めそうだ。

 でも、なんだか触れてはいけない気もする。これでもし『ああ、その部屋は前の彼女が使ってたんですよ。家も同居のために借りてて』とか言われたらもうどうすればいいか分からない。

 でもその線は正直ありそうで、頭によぎってからずっと離れなくなってしまった。そんなときは、考えなくていいことをするに限る。ということで、備え付けのクローゼットに買った服を掛けていった。

 引き出しもあったので下着もしまったけれど、女の子の下着を触るのはまだ罪悪感がある。でも恐る恐るやっていたら『こうした方が綺麗にしまえますよ』なんて言われて、半分くらいはゆかりさんにしまってもらった。なんで女の子の下着ってこんなに繊細な感じがするんだろう。

 全部しまいきると、空っぽだったクローゼットがそれなりに埋まった。これだけ買い込んだら、いったいいくらかかったんだろうか。下着ですら思った倍くらいの値段がしたし、二桁は当然のようにいっている気がする。なのにゆかりさんは嫌な顔一つしなかったし、この恩は忘れないようにしないと。

 ゆかりさんは買ったものを眺めてずいぶん満足そうな様子だ。お金をほかの人のために使ったというのにどうしてそんな顔ができるんだろう。

「いやぁ、買いましたね」

「ありがとうゆかりさん。アイドル頑張って、いつか返すから」

「出世払いってやつですね。別にお金のことはそれほど気にしてませんけど、その分楽しみにしてますね」

 きっとゆかりさんのことだからお金じゃ受け取ってくれないだろうし、それこそ服とかアクセサリーとか、そんな感じのものでお返しした方がよさそうだなぁ。

 

 買ったものの開封式が一通り終わって、食器とか日用品とかを全部しまい終わったら、結構それだけでも疲れてしまった。ゆかりさんに視線を向けたら彼女もやっぱりそれなりにくたびれたらしくて、ちょっとやり切った感が出ている。

 そんな感じで一つ区切りがついたところで、ゆかりさんからお次の女の子研修が告げられた。

「とりあえず、結構汗かいたでしょうから、お風呂に入りますか」

 お風呂に入ろうっていつかは言われると思っていたけれど、食後でも寝る前でもないなんて意外と早かった。やっぱり女の子は汗をかいたままでいたくないんだろうか。避けては通れないと分かっているけれど……。

「汗かいてないから入らないってのはアリ?」

 ゆかりさんからはそんなわけないだろうと言いたげな表情を返されたが、ワタシの体を眺めるとちょっと驚いている。

「いや、今日の気温で汗をかいてないってこと……ほんとですね。汗が引いているとかじゃなくて、ほんとにかかなかったんですか」

 自分で肌をなぞってみても全くべたついていないし、顔も同じく朝洗面したときのままだ。真夏の街を歩いていたというのに、ちょっと不自然なくらい。

「うん、暑いなーとは思ってたけど、汗かく感じじゃなかったなぁ」

 別に暑さに強い自覚はないし、もしかしたらこの体が高性能なのかもしれない。これでお風呂に入るのを許してくれればいいんだけど、たぶん無理だろうなぁ。

「うーん、でもまぁ、少なくとも今日はお風呂に入りましょ? 洗い方を教えないといけないですし、自分の体についてちゃんと理解してもらわないと」

「もう一回やったことあるし大丈夫だと思うけどなぁ」

「あの時いあちゃんは夢だと思ってましたし、意識もフワフワしてましたから。今度はハッキリした意識で、きちんと自覚してもらわないと困ります」

「もう十分自覚してると思うんだけど……」

 言っていることは分かるものの、やっぱり恥ずかしさは消えない。でもゆかりさんを困らせるのもそれはそれで忍びなくて、結局素直に従うことにした。今日買ったパンツとキャミソール、ふわふわのショートパンツとパーカーをもってゆかりさんについていく。

 脱衣所で服に手をかけて、一思いに服を脱いでいく。あの夢の時とは違って頭がはっきりしているから、いくら例のチョーカーを付けているとは言え、ちょっとでも躊躇すると恥ずかしさが天元突破しそうだ。トップスとスカートを脱いで、その勢いで下着も脱いだ。背後ではゆかりさんが入口のドアのカギをかけた音がした。

 お風呂場に入ると真正面に大きな鏡があって、慌てて顔をそらす。あの夢のように、自分の体をまじまじと見るなんて恥ずかしくてできない。そう思っていたところで、後ろからバスローブを羽織ったゆかりさんがやってきて、きちんと前を向くように背後から頬へ手を添えられた。そして軽い力ながら、確実に前を向けようとしてくる。

「いあちゃん、今回は自分の体をちゃんと見てください。今の自分はどんな容姿をしているのかはっきりと自覚しないとダメです」

 確実に引いてくれない口調だった。無駄な抵抗だと思っていても少しだけ反抗して、すぐに諦めた。

 正面を向くと、首まで真っ赤に染めたいあちゃんが、チョーカーを除いて一糸まとわぬ姿で立っている。股間だけ手で隠しているが、それ以外のところは全部丸見えだ。あの時見た体と全く同じだが、受け取る感情が全く違う。あの時は完全に他人事だったけれど、今回は自分のことだとハッキリ理解できているからだろうか。

「ほら、そこも隠さないで、きちんと全部見るんです」

「さすがに恥ずかしいって」

「ダメですよ。きちんと洗わないと病気になっちゃうんですから」

 そこまでする必要ないのに、と言っても聞いてくれない。『それだけはいあちゃんに悪いから』と思わずつぶやいたら、『あなたがいあちゃんなんです』とちょっと怒られる。そんな、そのままだといつまでたっても解放してくれない雰囲気に押されて、両手を体の横にそろえた。

「スタイルもいいし、モデルとしてもやって行けそうですね。ほら、腰の括れとかすっごくきれいです。胸もお尻も大きすぎなくて、どんな服だって着こなせるんじゃないですか? ……あ、今視線逸らしましたよね。ダメですよ、ちゃんと見なきゃ、ほら」

 ワタシが体の隅々までまじまじと見たのを確認したゆかりさんはワタシの首元に手を伸ばした。

「さて、一旦慣れたところで、チョーカーを外しましょうか」

「え、ちょ、ちょっと待って」

「ダメです。お風呂に入るのに付けたままとか不衛生ですよ?」

 もっともらしいことを言いながら、ゆかりさんの顔はなんだか楽しそうだ。恥ずかしさを軽減してくれるチョーカーを付けていてコレだけ恥ずかしいのに、外してしまったらどうなるか分からない。こんな短時間、ちょっとだけ見たところで慣れるわけなんて無いんだ。

「お願いです、ゆかりさん。それだけは許してください」

「うっ……ダメです。行きますよ!」

 鏡越しにゆかりさんを涙目で見つめるけれど、説得は無理だった。

 首の後ろからパチンと、チョーカーの外される音がした。

 ……。

「い、いあちゃん? いあちゃん!? ちょっと、裸で気絶とかシャレにならな……あっ」

 

 

 気が付いた時には、チョーカーが付け直されてバスチェアに座っていた。どうやら、あまりの恥ずかしさに気を失ってしまったらしい。ゆかりさんには真面目に謝られてしまったけれど、ワタシの女の子耐性がなさすぎるせいだからあんまり気にしないでほしい。でも、これでむやみやたらにチョーカーを外されなくなると良いなぁ。

「もうチョーカー、外さないでくれる?」

「いや、恥ずかしがってるのは最高に可愛いので、ちょくちょくさせてもらいます。刺激の弱いところからちょっとずつ慣らしていきましょうね?」

 ……そういうわけにはいかないみたいだ。

「さて、まずは髪の洗い方を教えましょうか。これだけ長い髪ですから、下手に洗ったら絡まっちゃいますからね? 丁寧に洗う方法をちゃんと覚えてください」

 きちんとできるようになったと認められるまであれこれ教わりながら髪と体を洗い、終わったころには自分の体にも(チョーカーを付けているなら)だいぶ慣れた。浴室を出てもまだ講義は続き、脱衣所で髪の拭き方を教わったり、乾かし方を教わったり、風呂上がりの肌のお手入れを教わったりして、結局お風呂だけで一時間くらいはかかっただろう。

 ちょっと誤算だったのは、お風呂に入って血行が良くなった結果なのか、その、体が敏感になったみたいで、体に服の擦れる感触がちょっとこう、気持ちよくなっちゃったところだ。

 お風呂上りということもあってキャミソールはゆったりしたものだから、肌にぴったり密着しないので、ちょっとした動きでその、先端が擦れてしまって体がぴくっとしてしまう。

 ゆかりさんに気づかれなければいいんだけど……。

 

 

「終わったぁ……」

 下着とルームウェアを着てリビングに戻ると、ソファーに体を投げだした。ゆかりさんもワタシの頑張りを認めてくれたらしく、冷たい飲み物を持ってきてくれたり、うちわであおいだりしてくれる。

「お疲れ様です。明日からは一人で頑張ってくださいね。お風呂上がりに確認しますから。……あ、ゆっくり入っても大丈夫ですよ? この家、お風呂場の防音は結構いいんです」

 何を言ってるんだろう。いや、言ってる意味は察せるけれど、そんなことをゆかりさんから言ってくるなんて、どういうことなんだろう。もしかして、ワタシの精神を試しているんだろうか。

「いや、何をすると思ってるの」

「そりゃ、自分の体を、ねぇ?」

「さすがにしないって」

「していいんですよ? その方が体の理解が早まるでしょうし」

「いや、大丈夫」

 ゆかりさんは妙にイケイケだし、ワタシは恥ずかしくて避けようとするし、なんだかあの時と立場が逆な気がする。確かに終盤ではゆかりさんからそんな感じの雰囲気を感じたけれど、あれが実は素だったりするんだろうか。

「じゃあ、私もお風呂に入ってきますね」

「いってらしゃい」

「覗いちゃだめですよ?」

「覗かないよ……」

 本当に、ワタシをなんだと思っているんだろうか。

 




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