さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~   作:多田 竜一

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第1話「伝説のドラゴン咆哮! 界放せよ! 太陽神星龍アポロヴルム!」
人質~錬金術師誘拐事件~


「行け! 合体(ブレイヴ)アタック!」

「俺の負けだ……引き金を引くのは、お前か」

「ありがとうございました……良いバトルでした……」

「いやぁぁぁあああ!!!!!!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「っ!」

 目を覚ましたアンジュ・カトリーナは、まずその部屋の暗さに困惑した。

 さっきまで見ていた、華やかなスピリット同士のバトルとは一転して、目の前が暗くて良く見えない。

 光景が一瞬で変わったことに彼女は少し混乱するが、少し冷静になって、すぐに答えは出た。

(夢、か……)

 そう考えると、彼女はとても不思議な夢を見た。バトルしていたスピリットも、カードバトラーも、彼女には見覚えがないものばかり。そしてそれにしては、妙に詳細な夢。

 夢の出来事には、深層心理が関わってるなんて真偽が不確かな話があるが、こんな夢の内容に、いったいどんな心理が隠れているんだろうか。

 普段あまり夢を見ない分、余計に不思議に感じてしまう。

 ───チャリ。

 ふと、聞き慣れない音がアンジュの耳に入る。

 鎖の音だ。しかも近い。例えば、自分の腕のすぐそばとか───。

「っ、両腕が鎖で縛られてる」

 良く見てみれば、ここは自分の部屋では無かった。黒い鋼鉄で四方を囲まれ、簡素なベッドが1つだけ雑に置かれている。

 そして極めつけに鉄格子ときた。

 アンジュの知識が正しければ、こういうところは「牢獄」とか「牢屋」とか言われるような場所だった。

 彼女の両腕は背中で手錠に縛られていて、その手錠から鎖が壁まで伸びており、そこに杭で止めてある。

 原始的で、効果的な拘束方法だ。

 足が縛られてないのは唯一の救いだろうか。

 しかし、足だけ動かせたところで、出来ることなどたかが知れてはいるのだが。

「よう。目覚めたか」

 男の声がした。

 とっさに目を見開いて、声の方向を見た。

 鉄格子の向こう側に男がいる。

 整った顔立ちに気持ち悪い笑みを浮かべて、おぞましい視線をアンジュに向けている。

「アンタ……何者……?」

「俺の名はルーク。『黒竜使いのルーク』って言えば、聞いたことはあるんじゃないか?」

 寒気を感じるようなねっとりとした声音に耐えながら、アンジュは自分の記憶を掘り起こした。

 確かに、聞いたことがある。普段は引きこもっているアンジュが知っているほどに、ここ数年、遺跡荒らしとして良く聞く名だ。

「遺跡荒らし……ついにヘルエスタまで来たってとこか」

 彼はヘルエスタの国民ではない。国外の遺跡を荒らし回るさまが世界的に語られている。そんな彼が、ヘルエスタ王国民であるアンジュを捕らえ、監禁しているということは、つまりそういうことだろう。

 ついにヘルエスタ王国が、遺跡荒らしの標的にされた。

「そこまで察してくれてるなら話は早い。アンタにはこの遺跡まで一緒に来てもらいたい」

 ルークは懐から写真を1枚取り出して、そのままアンジュへ放った。

 そこに写っていたのは、とても古びた神殿だった。

 大きさこそあるが、手入れがまったくされてなく、壁のほとんどが植物に絡まれている、そんな神殿

 アンジュは、そこがどこだか知っていた。

 ヘルエスタの首都、その外れにある小さな林の奥にポツンと佇む、歴史的な価値もほとんどないような神殿。

 一応、「竜が封印されている」というおとぎ話は聞いたことがあるが、その話自体あまり知られていないし、それこそ信じている人なんて皆無だろう。少なくとも、アンジュは信じていない。

「こんな寂れたとこに、遺跡荒らし(アンタ)みたいなのが欲しがりそうな物なんてなさそうだけど……?」

 ルークは、その笑みをより不適に深めて、ねっとりと呟く。

「いやぁ、ある……いや、いる(・・)ぜ。この俺が、喉から手が出るほどに欲しいもんがよぉ」

 ルークはそう言うと、鉄格子の鍵を開けて中へと入って来た。

 自分が放った写真を拾い、そのまま屈んでアンジュと向き合う。

 悪寒で背筋に冷や汗が滴るアンジュを無視して、ルークはそのまま話を続けた。

「すでに1回ここに立ち寄ったんだが……ここにはいるぜ。封印された伝説のドラゴンが」

 ……は? いや、何を言ってるんだこの男は?

 その言葉はアンジュの口から出ることはなかったが、しかしアンジュの紛れもない本心だった。

 簡単に言えば、ドン引きである。

 バトルフィールドから連れてきたというならまだ分からんでもないが、あんなバトスピとは関係ないような神殿に「ドラゴンがいる」という話がまず馬鹿馬鹿しいし、それを「存在することを確認してきた」なんて話は意味が分からない。

「……はは、そんなバカな。あんなの誰が作ったかも分からないおとぎ話でしょ。だいたい、本当にドラゴンが封印されてるっていうなら、あんな人気(ひとけ)のないところで放置されてる訳ないだろ」

 常識的に考えても、論理的に考えても、そんな話はあり得ない。

 だが、目の前の男は、そう伝えてもなお、言うことを変えなかった。

「んなこたぁ知ったこっちゃねぇ。ただ、そこにはドラゴンが封印されている。それが事実だ」

 マジかこの男、と、アンジュはルークから距離を置こう腰を引いた。

 文化に根付いた神話を追いかけるならばともかく、あんな首都の外れにある寂れた神殿の、あまり知られていない適当に作られてそうな話を前提に話されていることに、ついていけない。

(そもそも、このルークってやつはなんで私を捕らえて───)

「俺がお前に頼みたいのは、そのドラゴンの封印解除だ。アンジュ(・・・・)カトリーナ(・・・・・)───巷では有名な錬金術師なんだろ?」

「なっ……!」

 ───名前を知られていたという事実に、アンジュの顔が一層強ばる。

 しかも、アンジュが有名な(・・・)錬金術師であることまで知っている

 だとしたら。

(こいつ……「私が皇族の関係者である」ことを知った上で捕らえてんの……!?)

 つまり、このルークという男は、根拠なんて無いに等しい神殿のドラゴンのために、ヘルエスタ王国の皇族を敵に回している(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということになる。

 ───狂ってる。

「っ! ……んなこと、私が言うこと聞く義理なんかないでしょ!」

 思いの外震えていたアンジュの叫びに反ってきたのは、ルークの呆れたため息だった。

 直後、腹部から衝撃が走った。

「アガっ───!?」

 腹を蹴られたと認識出来た頃には、アンジュは鋼鉄の壁に叩きつけられていた。遅れて、みぞおちと背中から急激に痛みが走り出す。

 その痛みに悶える暇も与えず、アンジュはルークに胸ぐらを捕まれ。

「―――っ!」

 また一発。今度は頭突きを食らい、さらに食らった勢いでさらに後頭部を壁に打ち付けられた。

 急な暴力に、認識が追い付かない。

 頭が揺れているような不確かな意識の中、痛みを感じているかも分からないような状態のアンジュの耳に、しかしルークの声がしっかりと入ってくる。

「勘違いするなよ錬金術師。お前に選択肢はない」

「ど、う……いう───」

「今、ヘルエスタ王国の第二皇女の言葉で、アンタを探すための捜索隊が動いてる。ここもそのうち見つかるだろう。当然俺は捕まりたくないから抵抗する。そうしたらどれだけの血が流れるんだろうなぁ?」

 思考も難しい状態だが、しかしアンジュはルークの言いたいことがなんとなく分かった。

 これは人質だ。脅されている。

 しかも人質は───。

「もしかしたら、助けに来た皇女様が、うっかり流れ弾に当たって死んじゃったりとか、しちゃうかもしれないなぁ?」

 ───彼女の大親友であり、幼なじみ。ヘルエスタ王国第二皇女の「リゼ・ヘルエスタ」だ。




キャラクター紹介
アンジュ・カトリーナ
 ヘルエスタ王国在住の錬金術師。電話口などだと男性に間違えられることがあるほど低い声をしているが、れっきとした26歳の女性である。
 小柄な体型に赤いショートヘアが特徴的。その小柄な体型にはコンプレックスを持っていて、大人な女性の体型を手にいれるために錬金術を研究している、らしい。
 動機はともかく、錬金術師としての腕は確かであり、若いながらも天才錬金術師として活躍して信頼も厚い。
 ヘルエスタ家からはその実力を評価され、国家錬金術師になるよう勧誘を何度も受けているが、「自由な研究がしたい」とその誘いは全て断っている。
 だが、皇族との関係は良好なようで、特に第二皇女であるリゼ・ヘルエスタ皇女殿下と仲良くされているところは、国民に良く目撃されている。
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