さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
1話は相当気合を入れて作りましたが、正直今回はちょっと手抜きというか、気を張らないで書きました。
少しラフな感じで呼んでくれると幸いです。
「先攻はお譲りします」
「なら行くぞ。スタートステップ」
先攻は、ダン。
「ドローステップ。メインステップ。マジック『シャーマニックドロー』を使用。デッキから2枚ドロー。その後、デッキから3枚をオープン」
捲られたカードは『太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴン』『ゴッドシーカー・アルファレジオン』『クエーサーレイン』の3枚。
「系統:『界渡』/『化身』を持つスピリットカード1枚を手札に加える。『ヘリオスフィア・ドラゴン』を手札へ。ターンエンド」
「『ヘリオスフィア・ドラゴン』……ルークとのバトルで使っていましたね」
乾いた風が、2人の髪を撫でた。
手札を見ていたダンが、顔をあげる。
「なんだ、知っているのか」
「あなたの証言の真偽を確かめるために、アンジュさんの記憶を除いたことは知っていますよね。その時に、あなたがバトルしている様子も確認できました」
「そうか。ならルークに勝ったというのも、信用してくれても良いんじゃないか?」
「バトスピの実力は、そんな簡単な話ではありません」
その敵意は、未だにダンに向けられている。
「勝負は時の運……どれだけ実力があっても、引きの嚙み合いで負けることなんて日常茶飯事です。僕が知りたいのは、“勝利”という結果ではなく、“強さ”という過程です」
「なるほどな……お前のターンだ」
「ええ。スタートステップ」
第三皇子の第2ターン。
◇◇◇◇◇
アンジュ「あれ? そういえばダンは?」
リゼ「へ? ダンくんいたの?」
アンジュ「いや回り見なさすぎでしょ……気使わせちゃったかな」
リゼ「ダンくん、ここで何してたの?」
アンジュ「一人回しだってさ」
リゼ「ええ……」
アンジュ「なんで私をそんな目で見るの!? おかしくない!?」
◇◇◇◇◇
「メインステップ。ネクサス『侵食されゆく銀世界』を配置!」
フィールドに、吹雪が舞う。
その雪は瞬く間にフィールドを埋め尽くし、正しく『銀世界』へと姿を変えた。
「白のネクサスか」
「これのみで、僕のターンは終了します。これが、あなたを試すフィールドです」
「なるほど……このネクサスがキーカードということか」
キーカード。すなわち、デッキの中心となっているカード。第三皇子は、この『侵食されゆく銀世界』のカードを心臓としてデッキを組んでいるということ。
すでにこのフィールドは、第三皇子の独壇場。
主導権は彼が握った。あとは、ダンがその主導権を奪えるのか、そういう駆け引きが始まる。
ダンの第3ターン。
「スタートステップ」
コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップとステップを重ね、ダンは自分の手札を確認する。
今、第三皇子の場には『侵食されゆく銀世界』が1つのみ。コアは、それを配置するために使い切っている。これからのターンはどうなるか分からないが、少なくともこのターンは完全な無防備。
今攻めない選択肢は、ない。
「メインステップ。『レイニードル(R)』『煌星竜コメットヴルム』を共にLv1で召喚」
赤いシンボルが2つ、現れ砕かれる。出現したのは、
『レイニードル』はその場に浮かび、『コメットヴルム』はその『ヴルム』独特の瞳で敵を見据える。
「これは……『レイニードル』の効果ですか」
本来、『レイニードル』と『コメットヴルム』は、今ダンの持つコアでは同時に召喚出来ない。このターンに使えるダンのコア5個では、2体を召喚するコストが足りないからだ。
2体のスピリットのコストはそれぞれ1と4。そしてバトルスピリッツでは、召喚したスピリットにコアを1つ置かなければならない。
例えば、『レイニードル』から召喚したなら、召喚コストを1コア払い、『レイニードル』に1コアを乗せる。これでコアを2つ使い残り3つ。次に、バトスピでは、フィールドの同じ色のカードの数だけ使うカードのコストを軽減するルールがある。赤のスピリット『コメットヴルム』を召喚する時のコストは4だが、場にすでに赤のカード『レイニードル』があるので、コストが1軽減されて3コストになる。なので、残り3個のコアを使ってこのコストを払う。
すると、残りのコアは0個になる。バトルスピリッツでは、召喚したスピリットにコアを1つ置かなければならないので、つまりコアが1つ足りないのだ。
これは、召喚の順番が逆だったとしても全く同じで、コアは1個足りなくなる。
しかし、ここで『レイニードル』効果が生きてくる。
『レイニードル』には場にある間、カード名に『ヴルム』を含むスピリットを召喚する瞬間にだけ、そのシンボルを1つ増やすことが出来る。
シンボルは、スピリットがライフを攻撃するときの攻撃力であるのと同時に、別の用途がある。
実は、「フィールドの同じ色のカードの数だけ使うカードのコストを軽減するルール」における、「同じ色のカードの数」とは、詳しく言うと「同じ色のシンボルの数」のことなのだ。
すなわち、シンボルが増えると、コストがより多く軽減される。
「『レイニードル』の増えたシンボルを参照して『ヴルム』である『コメットヴルム』を召喚したんですね。それでちょうどコアを使い切る」
カード裁きが上手いと、第三皇子がまた強く気を張った。
3日前に初めて触ったデッキとは思えないほどに、使いこなしている。もはや“慣れないデッキ”という不利はダンにはない。
「そこまで工夫してスピリットを並べたということは―――」
「―――ああ。攻めさせてもらうぞ。アタックステップ!」
ステップ以降を宣言し、場に出したスピリットに手をかける。
―――その時。
「っ!?」
急に、バトルフィールドの吹雪が激しくなる。
これは、第三皇子が配置した『侵食されゆく銀世界』の吹雪。
それが荒れるということは、これは―――。
「お前のネクサスか―――」
「ネクサス『侵食されゆく銀世界』の持つ『相手のアタックステップ開始時』の効果です。僕のトラッシュにあるコアを全てリザーブに戻す!」
「―――っ!」
その効果を聞いて、自分のスピリットにかけようとしていたダン手が一瞬止まる。
使ったはずのコアが、
つまり。
「……カウンターか」
「無防備に見えたなら残念でしたね。むしろ、攻撃を迎え撃つ態勢は万全だ。悪いけどあなたの攻撃は簡単に「行け! 『コメットヴルム』!」―――何!?」
「『コメットヴルム』のアタック時効果! デッキの上から3枚オープンし、その中の系統:『星竜』を持つスピリットカードを手札に加える!」
捲られたのは、『ミラージュ・ワイバーン』『スターリードロー』『太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴン』
の3枚。ダンはそのうち、『ミラージュ・ワイバーン』を手札に加え、それ以外を破棄する。
「そしてこれがメインのアタック!」
「……っ!?」
(カウンターの存在に気付いたにも関わらず、ノータイムでアタックしてきた!? 『コメットヴルム』での手札補充が狙いか!?)
その背負ったブースターを吹かせ、『コメットヴルム』が第三皇子へ突撃する。
急激に迫る竜の姿に。
(……いや!?)
第三皇子の腕は、咄嗟に動いていた。
「フラッシュタイミング! 『サンダー・Z・ヒポグリフォ』の【アクセル】を発揮! BP5000以下のスピリット2体を破壊する!」
カードを目の前にかざした時、どこからともなく青い雷がフィールドに走り、それが一つの獣の姿を描く。
「【アクセル】……」
雷が輪郭を描いたのみの透ける『サンダー・Z・ヒポグリフォ』が吠え、そして消える。否、高速で動き、全ての者の視界から消える。
直後。
「BP3000の『コメットヴルム』及びBP1000の『レイニードル』を破壊する!」
青の雷が2体の星竜を貫き、再び透けた『サンダー・Z・ヒポグリフォ』が現れた時、その2体は破壊された。
「【アクセル】を発揮したカードはその後、公開され手元に置かれます」
役目を終えた『サンダー・Z・ヒポグリフォ』は第三皇子の元へと駆ける。その雷が、その手に持つ『サンダー・Z・ヒポグリフォ』のカードに収まった後に、第三皇子は、そのカードを盤面に置いた。
「ターンエンドだ」
(何が狙いだ……馬神ダン!)
警戒とと敵意に、眉間にしわを寄せた第三皇子が見たのは、掴みどころのない無表情のダンの姿だけだった。
◇◇◇◇◇
リゼ「出歩いて本当に大丈夫なの?」
アンジュ「まあね。さすがに走ったりとかはまずいだろうけど、歩くくらいなら問題ないでしょ」
リゼ「そっか。それにしてもダンくんどこ行ったんだろうね」
アンジュ「そんな遠くには行ってないとは思うけど……ていうか、ダンと親しくなってたの?」
リゼ「親しくっていうか、まあアンジュの命の恩人だしね。私が出来ることはやってあげようかなって」
アンジュ「へぇ……」
リゼ「え、何その顔」
アンジュ「べっつに~? ただあんなに小っちゃかったリゼも、もう春が来たんだなぁと思うとなんかエモくて……」
リゼ「いや! そんなんじゃないから!」
アンジュ「異世界人相手じゃ苦労もあるだろうけど、がんば!」
リゼ「も~! 話を聞け~!」
◇◇◇◇◇
第三皇子の第4ターン。
「メインステップ! 手元より『サンダー・Z・ヒポグリフォ』をLv2で召喚!」
赤のシンボルが現れ砕ける。蒼の体毛に、白いたてがみを携えたヒポグリフォの姿。その鷲の口から、甲高い鳴き声を上げて、フィールドに現れる。
「アタックステップ! 『サンダー・Z・ヒポグリフォ』でアタック!」
その足で大地を蹴り、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』が飛翔する。
このスピリットにはアタック時、BP5000以下の相手スピリットを破壊しつつ、デッキから1枚ドローする効果がある。
今回、ダンの場にはスピリットがいないため破壊効果は不発に終わるが、ドロー効果は有効。第三皇子はその効果でカードを1枚ドローする。
「ライフで受ける!」
飛翔した『サンダー・Z・ヒポグリフォ』がダンを捉えると、そのくちばしの前に青い雷球を生成した。
ダンの目の前に赤いバリアが展開され、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』はそのバリアに雷球を叩きつける。
「っ―――!」
衝撃が、ダンのバトルアーマーのライフを砕いた。
「ターンエンドです」
ダンのライフは、残り4つ。
衝撃で体制を崩したダンがそれを立て直すのを見て、第三皇子は次のプランを考えていく。
(とりあえず、相手のライフを
だとすれば、ダンのアタックには必ず、意味がある、勝利へとつながる布石が隠れているはずなのだ。第三皇子は、それを見逃すわけにはいかない。
(バトルの主導権は完全に握った。けれど馬神ダン―――彼が企んでいることを暴かなければ、一瞬の隙に僕の戦術が瓦解しかねない)
故に、読みは外せない。
幸い、彼には“アンジュの記憶”というアドバンテージがある。冷静に分析し、対処すれば、この優位は崩れることはないだろう。
そしてバトルは、ダンの第5ターンに移る。
「メインステップ。『ミラージュ・ワイバーン』並びに『太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴン』を共にLv1で召喚」
赤のシンボルが2つ。現れ砕ける。
先に現れたのは翡翠の翼を持った翼竜のような竜『ミラージュ・ワイバーン』。
次いで現れたのは太陽のような金色の炎。それを中心に、腕が、足が、そして翼が姿を見せる。
一見すればロボットに見違えるようなメカメカしい武装をした『ヘリオスフィア・ドラゴン』が、咆哮と共にこの地へ降り立った。
(やはり、スピリットを展開してきた!)
「【バースト】をセットしてアタックステップ!」
「ネクサス『侵食されゆく銀世界』の効果により、トラッシュのコアを全てリザーブに戻します!」
「こちらも『ヘリオスフィア・ドラゴン』の効果を発揮。トラッシュにあるコアを全てこのスピリットに乗せる」
コアを乗せたことにより、『ヘリオスフィア・ドラゴン』はLv3(BP12000)へと上昇する。
さらに。
「この効果により5つ以上のコアを乗せた時、BP10000以下の相手スピリット1体を破壊する」
「っ!」
ダンはこのターン。『ミラージュ・ワイバーン』を召喚するのに2個、『ヘリオスフィア・ドラゴン』を召喚するのに3個のコアを使った。故に、トラッシュにあったコアは5つ。それら全てが『ヘリオスフィア・ドラゴン』へ置かれたので、条件は満たしている。
その胸元に輝く金色の炎が脈動を始める。集まったエネルギーに『ヘリオスフィア・ドラゴン』がその手をかざすと、そこに炎の球体が生成される。ある程度の大きさになったところで、『ヘリオスフィア・ドラゴン』はその炎球を掴み、そして。
「BP6000の『サンダー・Z・ヒポグリフォ』を破壊する」
それを思いっきり『サンダー・Z・ヒポグリフォ』へと投げつける。
豪速で投げられたそれは、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』を抵抗も許さず破壊する。
爆風に煽られ、第三皇子の服がなびく。
(コア回収にスピリット破壊……強力な効果だ。しかも、アンジュさんの記憶では、彼はかなりフラッシュタイミングでマジックを多用する。戦術と使うカードの効果が完璧に噛み合っている……やはりこの人は強い! なら……!)
「行くぞ。『ミラージュ・ワイバーン』でアタック!」
(このアタックにも、必ず意図がある!)
ダンの声を受けて、『ミラージュ・ワイバーン』が飛び立ち、一直線に第三皇子へむかう。
「フラッシュタイミング! 『三十三代目風魔頭首ヤタガライ』の【アクセル】を発揮!」
「やはり【アクセル】か……!」
「相手スピリット3体を疲労させます! 『ヘリオスフィア・ドラゴン』を指定!」
フィールドに緑の風が吹く。それは1つに集約していき、1体のスピリットを象る。
風で出来た半透明の『ヤタガライ』が、『ヘリオスフィア・ドラゴン』の前に現れる。その風が輪郭を崩し『ヘリオスフィア・ドラゴン』を包むと、その炎のエネルギーを吸い上げる。
力を奪われ『ヘリオスフィア・ドラゴン』が疲労したのち、『ヤタガライ』は第三皇子の持つそのカードへと戻り、彼はそのカードを盤面に置く。
「だが『ミラージュ・ワイバーン』のアタックは有効だ!」
「ライフで受けます!」
第三皇子の目の前に赤のバリアが展開され、突撃した『ミラージュ・ワイバーン』のくちばしがそのバリアに衝突する。
その衝撃が、第三皇子のライフを砕く
「っ! ……ライフ減少で【バースト】オープン!」
盤面に伏せられていたカードが勢いよく翻る。
「『
攻撃を終えた『ミラージュ・ワイバーン』がダンの元へ帰るよりも先に紫の霧に包まれる。それにより、『ミラージュ・ワイバーン』がもだえ苦しみ始めた。その霧が離れた時、『ミラージュ・ワイバーン』はすでにピクリとも動かなくなり、フィールドから消え去った。
そして、離れた紫の霧が第三皇子のフィールドでより濃くなり、実態を作り出す。
「この効果でスピリットを破壊した時、2枚ドロー。さらに、『バジャーダレス』自身を【バースト】召喚!」
現れた実態は、杖と甲冑を携えた、騎士ともマジシャンとも言えない奇妙なスピリット。その甲冑の内側で紫の霧を漂わせ、『バジャーダレス』はフィールドに降り立った。
直後、
「スピリット破壊により【バースト】発動」
「なっ!?」
「マジック『双光気弾』の【バースト】効果により、デッキから2枚ドロー。さらコストを払いフラッシュ効果を発揮―――相手のネクサス1つを破壊する」
コスト確保のため、『ヘリオスフィア・ドラゴン』のレベルが2へと下がり、その横を、2つの光が走る。
フィールドを覆っていた雪が、その光に溶かされていく。螺旋を描いて動き回る2つの光が消えた時、溶けた雪が、キラキラと空気を彩っていた。
「『侵食されゆく銀世界』は破壊だ」
「っ……やはり、赤デッキにネクサスは長く持ちませんでしたか」
ダンの使う赤属性のカードの中には、ネクサスを破壊するカードが豊富に存在する。むしろ、ここまで破壊されなかったのは運がいい方だろう。
「君のようなデッキの、カウンター用のコアを常に供給するそのネクサスを野放しにすれば、俺の攻撃はいつまで経っても通らなくなるからな」
「やはり、僕のデッキの戦術は、すでに見抜かれていましたか……」
その時、バトルフィールドの観客席。そこに2人、観客が現れた。
「あ! いた!」
「ちょ、ちょっと! 何してんの2人とも!」
それは、アンジュとリゼ。2人は、いなくなったダンを追って、このバトルフィールドにたどり着いたのだ。
「アンジュか。もう怪我は大丈夫なのか?」
「まあ、お陰様で……じゃなくて! アンタたち何してんのさ!」
「何って、バトルですが……」
「そうじゃない!」
思いのほか元気そうなアンジュの姿に、ダンと第三皇子は、自然と笑みを浮かべていた。
大声でツッコミを入れるアンジュの肩を叩き、リゼがアンジュを制止した。そして、自らの弟と、その対戦相手に問い詰める。
「もう一回聞くけどさ。2人とも、何してるの?」
「弟から聞いたよ。リゼ、俺の旅を手伝う気なんだろ?」
「え? ええ、まあ」
「そうなったら、いざという時に姉さんを守るのは、この馬神ダンということになる。そして僕は、まだ彼を信用したわけではありませんでした」
「だから、このバトルを通して、俺の力を試したいそうだ」
「はあ? い、いや、あのさあ」
思わず頭に手をやるリゼは、いったい何に呆れたのだろうか。気の抜けた声で、しかしなおも弟への問いは止めなかった。
「ねぇ。私説明したよね」
「ええ。しましたね。彼の信用性と、旅の重要性は、この3日間飽きるほど聞きました」
「だったら―――」
「違う、リゼ。そうじゃない」
意外にも、姉弟のすれ違いを止めたのはダンだった。
「彼が信じられなかったのは、俺の言葉ではなく強さ―――俺の真意ではなく、俺の実力のほうだ」
「うーん??????」
いや、どうやら止められてはいないようだ。
「ちょっと待って、アンタ、ダンくんが弱いって思ってるの?」
「いえ、弱いとまでは……。ただ、姉さんを任せられるほどかどうかは、また話は別ですから」
「それはちょっと言い過ぎじゃない?」
次に割って入ってきたのは、アンジュだった。
アンジュもなんだかんだで、10年ほどヘルエスタ家と付き合ってきている。もちろん、この姉弟のすれ違いを見たのも1度や2度ではない。
アンジュはその経験から、いつものように第三皇子へ語る。
「改めて私の口から言うけど、ダンが“黒龍使いのルーク”に勝ったのは本当だよ。しかも私が見る限りだと、ダンの完全な勝利。強さを疑うことなんて、私にはないと思うけど」
「いや、俺の強さならもう示せたと思うぞ」
「んんん??????」
まあ、出会ったばかりの男の子に関しては、彼女の知る由ではないが。
「ええ。勝負は時の運。故にこそ、カードバトラーの実力は結果ではなく過程にこそ現れる。馬神ダンはそういう意味では、すでに僕の想像を超える強さを示してくれました」
「え、じゃあ2人は何を賭けてバトルしてんの?」
「え、いや、何も賭けてはいませんが」
「「??????」」
聞けば聞くほど、リゼとアンジュは置いて行かれるようだった。
「じゃ、じゃあ! なんでこのバトルを続けるのさ! ライフ減るのとか痛いでしょ! もう用が済んだなら別に続ける必要なんて!」
「姉さん。そんな無粋なこと聞かないでくださいよ」
「そうだな……カードバトラーがバトルを続ける理由なんて、1つしかないさ」
まるで、もう何年も同じ時を過ごしたかのように、ダンと第三皇子の息が合う。
共に、不敵な笑みを、お互いに向けて。
「「目の前の相手に勝ちたい。負けたくない。1度始めた勝負を、譲るわけにはいかない!」」
「……ああ、そう」
言葉が出たのはリゼだけだったが、アンジュも概ね、リゼと同じ感想を抱いていた。
―――男って、めんどくせえ。
「さあ、バトルを続けましょう、馬神ダン。一応、まだあなたのアタックステップです」
「そうだったな。ターンエンド」
そして、ターンは移る。
ここからは、力を試すとか、姉を任せるだとか、そういった盤外の都合は、もうない。
純粋に、負けず嫌いの男の子の、意地の張り合いが、始まる。
キャラクター紹介
ヘルエスタ王国第三皇子
ヘルエスタ家の三男で、リゼの弟。5人兄妹の末っ子であるが、兄妹の誰よりも礼節を大切にしており、基本的に家族に対しても敬語で接している。
あまり表には出さないが、リゼに対してはかなりのお姉ちゃんっ子であり、また心配性でもある。
感情に任せて暴走気味なリゼのストッパーのような役割に回ることも多く、城の中ではリゼとセットで扱われることが多い。
バトルの腕は相当なもの。まだ10台前半という若さと、国王の家系という身分では考えられないほどに、すでに場数も踏んでいる。
その実力は、ヘルエスタ兄妹内で一二を争うほど。
第一皇子曰く「二度とバトルしたくねぇ」とのこと。