さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
モチベになりますので、感想や評価を是非!
「次のターン『アスガルディア』が、あなたのライフを燃やし尽くします!」
「……ターンエンド」
ダンの第9ターンが終わる。
彼の手札は7枚あるが、フィールドにはカードはなく、【バースト】もない。
必殺のコンボを揃えたという第三皇子の攻撃を迎え撃つには、あまりにも無防備。
「行きます! メインステップ!」
第三皇子の第10ターン。
「まずは1枚目! 『サンダー・Z・ヒポグリフォ』! Lv2で召喚!」
赤のシンボルが現れ砕ける。再び召喚された『サンダー・Z・ヒポグリフォ』を横目に、第三皇子はさらなるカードを紡ぐ。
「2枚目! ブレイヴ『飛甲虫イットウカブト』を召喚! 『サンダー・Z・ヒポグリフォ』に
緑のシンボルが現れ砕ける。召喚されたのは、角が刃になっている巨大なカブトムシ。
それは召喚されるすぐに『サンダー・Z・ヒポグリフォ』へと向かい、衝突する。1つになるべく光を放ち、光が晴れてそこにいたのは、青かった翼を緑に染めた『サンダー・Z・ヒポグリフォ』であり、そのくちばしには、『イットウカブト』の角にあった刃が加えられている。
「3枚目! マジック『インビンシブルシールド』を『サンダー・Z・ヒポグリフォ』を対象に使用! このターン、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』は【装甲:赤/紫/緑/青】を得る!」
フィールドの『サンダー・Z・ヒポグリフォ』が、白いオーラを纏い鳴く。
【装甲】とは、白属性のカードが得意とする、相手の効果に対する防御能力。【装甲:赤/紫/緑/青】とはすなわち、相手の【
「これにより、あなたの赤のカードの効果が、僕のスピリットに触れることはなくなった!」
「っ……」
「アタックステップ!
その緑になった翼をはためかせて、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』が飛翔する。
「『イットウカブト』の
だが、その向かう先は、ダンではなく、はるか上空。
「そして―――これが最後の1枚!」
第三皇子は、
「本来【煌臨】は、手札からでのみ可能であり、手元のカードは【煌臨】できません。ですが、このカードは、自身の効果により手元からの【煌臨】が可能!」
それを、天高くかざす。
瞬間、その手に持つカードから炎の竜巻がいくつも出現する。
「フラッシュタイミング! 星の光をその身に乗せて、我が勝利のためにその剣を振るえ!」
その炎の竜巻は、瞬く間に上空にいた『サンダー・Z・ヒポグリフォ』を目掛けて伸び、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』もまた、抵抗することなくその炎を受け入れた。
完全に炎に包まれ、その炎がまるで小さな太陽のように球体をかたどる。
「『煌星第一使徒アスガルディア』! 『サンダー・Z・ヒポグリフォ』に【煌臨】せよ!」
その球体が徐々に小さくなっていき、そして、明らかにそこにいるはずの『サンダー・Z・ヒポグリフォ』より小さくなった時、その炎が急激な膨張を起こし、爆発する。
フィールドを荒らす吹雪を吹き飛ばし、そこにいたのは、人型の竜。
白いメカメカしい装甲に身を包み、右手には赤い両刃剣、左手にはイットウカブトの角で作られたような両刃剣を携え、『煌星第一使徒アスガルディア』はフィールドに【煌臨】した。
「これにより、僕の必殺のコンボは今、完成した!」
【煌臨】とは、ソウルコアをトラッシュに送り、場にある条件に合ったスピリットの上に重ねて乗せることで、ノーコストでフィールドに出現する能力。
その特徴の1つとして、【煌臨】したスピリットは、【煌臨】する前のスピリットの状態を全て引き継ぐことが挙げられる。
例えば、回復状態のスピリットに【煌臨】すれば回復状態で場に出るし、アタック中ならばそのアタックを受け継ぎ、何かしらの効果を受けていたならばそれも引き継ぐ。
そして、『アスガルディア』はダブルシンボルのスピリット。
すなわち、『サンダー・Z・ヒポグリフォ』から【煌臨】した現在の『アスガルディア』の状態とは。
ダブルシンボルでアタック中であり、
『イットウカブト』により回復しているので連続アタックが可能であり、
『インビンシブルシールド』により赤のカードの効果を受けない。
つまり。
「馬神ダン! 残りライフ4つのあなたに、ダブルシンボルのアタック2回を受けきることは不可能! これで終わりです! 行け! 『アスガルディア』!」
その両手にもった刃を構え、『アスガルディア』がダンへと突撃を始める。
「ライフで受ける!」
その刃が、ダンの目の前に展開されたバリアを二度斬りつけ、そのライフを2つ奪う。
『アスガルディア』は1度引き、第三皇子のフィールドへ戻る。
「『アスガルディア』! もう1度アタック!」
そして、再びダンへと向かい飛び掛かる。
視界を塞ぐ吹雪をもろともせず、まっすぐ迷わず刃を振るう。
赤属性のカードを主軸に戦うダンのデッキにとって、【装甲:赤】を持つスピリットの攻撃を防ぐことは不可能。
そう、3日前、この世界に来たばかりの彼には不可能だった
だが、デッキとは、日々変化を続けるもの。
「フラッシュタイミング───」
3日という時間は、『アポロヴルム』に渡されたデッキを、彼好みにチューニングするには、あまりにも充分すぎた。
「マジック『リミテッドバリア』を使用」
ダンの目の前に、いつもの赤のバリアが展開され、さらにその目の前に一回り大きな白い障壁が展開される。
「ば、バカな!? 白のマジックだって!?」
「
その障壁にむけて、『アスガルディア』は全力の力を込めて刃を振り下ろしたが、ダンのライフを砕く事は叶わなかった。
「このターンの間、コスト4以上のスピリット/アルティメットのアタックでは、俺のライフは減らされない」
『アスガルディア』の攻撃は―――第三皇子の必殺のコンボは、ダンに届くことはなかった。
そして、それだけではない。
ダンのトラッシュ―――リミテッドバリア発動のために使ったソウルコアが、薄く輝いている。
「さらに、コストにソウルコアを使用したことにより、相手のネクサス1つを手札に戻す」
その瞬間に、第三皇子のネクサス『侵食されゆく銀世界』が、盤面から弾き出される。フィールドからは吹雪が消え、弾かれたネクサスをキャッチした第三皇子の表情は、動揺を隠せていなかった。
「な、何故!? 情報では赤のカードしか使っていなかったはず! あなたは徹底した赤使いではなかったのですか!?」
「デッキは常に変化を続ける。このデッキはもう、『アポロヴルム』に渡されただけの借り物ではない。
「デッキを改良していたと言うのですか! あなたは他のカードを持っていなかったはず……いったいどころから改良のためのカードを……ハッ!?」
思い立って、第三皇子は咄嗟に顔をあげた。
視線の先―――観客席にいる自らの姉は。
「ああ、なんていうか、ね? ダンくんのデッキに一緒にあれこれ言うの楽しくなっちゃって、さ」
頬をかいて、弟から目を逸らしていた。
「姉さん……まさかそこまで馬神ダンに……」
「君の口からアンジュの話が出た時に、思ったことがある」
「……なに?」
他所に向いた意識を自身に戻させるように、ダンが第三皇子へ語りだす。
「もしあのバトルを見ていたのだとしたら、俺のデッキに赤以外のカードが入ってないと勘違いしてるかもしれないってな」
そこで、彼のバトルの方針は決まった。
「もしもそうなら、君は必ず勝負所を見誤る。白の防御マジックを警戒していたのならまずありえない、“早期の決着”を狙い、そしてそこに隙が生まれる」
「それが……今だということですか……」
ダンはこのバトルの中で、序盤のうちに第三皇子のデッキタイプ―――つまり、キースピリットでワンショットキルを狙っていることは見極めていた。そして、ワンショットキルを狙うデッキならば本来、『リミテッドバリア』や『白晶防壁』などの“確実に生き残ることのできる防御マジック”は天敵であり、最も警戒するべきカードなのだ。
しかし、第三皇子はそれがダンのデッキにはないだろうと勘違いした……それこそが、ダンの狙った
結果だけ見れば、ブロッカーは存在せず、コアもほとんど使ってしまい、『侵食されゆく銀世界』は処理された。次のダンの攻撃に対して、あまりにも無防備すぎる。
「っ! しかし! 後がないのはあなたも同じ! 次のターンで僕が生き残るようなことがあれば、今度こそ逃しはしない! あなたがそうやって掴んだ
「ああ。だから示すのさ。このターンで、俺の
「っ!?」
「スタートステップ」
ダンの第11ターン。
「コアステップ」
バトスピで勝つことに必要なことは2つ。
運と、実力だ。
この状況を作り出したこと。これは間違いなくダンの実力。
だが、これではまだ足りていなかった。
勝つために必要な、あと1つ。
「ドローステップ」
それがその手に来た時に、彼は決まってこう言う。
「……カードたちよ。今度は俺が応える番だ」
ダンは引いたカードを確認すると、迷いなくそれを使用する。
「メインステップ―――世界を照らせ。光を背負いし紅の龍よ! 『太陽神星龍アポロヴルム』! Lv3で召喚!」
少年の背後、バトルフィールドでは何もないはずのそこから炎が沸き上がる。
その炎を背に、這い上がる龍が1体。
その翼の一振りで背後の炎を消し去り、『太陽神星龍アポロヴルム』は、けたたましい咆哮を伴ってバトルフィールドに君臨した。
「っ!? このタイミングで『アポロヴルム』だって!?」
「アタックステップ! 行くぞ! 『アポロヴルム』!」
その声に咆哮で応え、『アポロヴルム』が天高く舞い上がる。
「Lv2,3のアタック時効果。相手の最もBPの高いスピリット1体を破壊する。『アスガルディア』を指定!」
上空から、『アポロヴルム』がその背後に構える無数の刃のうち1つを、『アスガルディア』に向けて放り投げる。
『アスガルディア』はその手に持つ日本の刃でそれを弾き、すかさずその場から飛び上がった。
自身に一直線に向かってくる『アスガルディア』に、『アポロヴルム』は無数の刃を次々と放つが、その悉くを『アスガルディア』は弾き、またはかわして『アポロヴルム』に迫る。
そして、『アポロヴルム』が『アスガルディア』の刃の間合いに完全に入った瞬間に、『アスガルディア』は両手の刃を同時に突き刺す。
だが。
その両方を、『アポロヴルム』は両手で掴んで見せた。
完全に抑えられ、刃を取り戻そうともがく『アスガルディア』に向けて、『アポロヴルム』はその口から炎を吐き出した。
抵抗の一切を許さず、『アスガルディア』その炎に飲み込まれ、後に爆発を起こし破壊される。その爆発からかろうじて逃れるように、
「『アスガルディア』!」
「さらに、『アポロヴルム』の【界放】の効果。トラッシュのコア2つをこのスピリット戻すことで、『アポロヴルム』は回復する」
その爆風を突っ切って、『アポロヴルム』が第三皇子へと迫っていく。
「くっ! ライフで受ける!」
赤いバリアが展開され、そこに『アポロヴルム』がゼロ距離で炎を放つ。
その炎が、バリアを通して衝撃となり、第三皇子のライフを砕く。
残りライフが2つとなり、その衝撃で1歩たじろぐ第三皇子に、しかし休む暇はない。
『アポロヴルム』は、【界放】の効果で
「『アポロヴルム』! 続けてアタック!」
そのアタック時効果により、通りすがりに『イットウカブト』を破壊し、そして【界放】の効果で再び回復する。
トラッシュにコアがある限り何度でもアタックする『アポロヴルム』の前では、もはやライフなどいくつあろうと無いも同然。
「ライフで受ける!」
再び赤いバリアが展開され、そこに次は刃でもって衝撃が加わる。
そのライフが砕かれ、そして、残りライフは1つ。
「これで最後だ!」
ダンが『アポロヴルム』のカードを倒し、そして『アポロヴルム』の最後の攻撃。
これが通れば、第三皇子の負けが決まる。
それを迎える第三皇子はしかし、
ライフを砕かれたことで、使えるコアが増えたのだ。
かろうじてまだ1発、抗える。
「フラッシュタイミング! マジック『リミテッドバリア』を使用!」
それは、奇しくもダンの使った防御マジックと同じカード。
その効果が発揮されれば、ダンの攻撃を完全に止められる。
「このターンコスト4以上のアタックでは―――っ!?」
だが―――消えた。
第三皇子の手に持っていた『リミテッドバリア』に、緑の光が集まったかと思えば、次の瞬間には、『リミテッドバリア』のカードが消えていたのだ。
消えた緑の光の向こう側、何が起きたのか理解できない第三皇子がとらえたものは、ダンが1枚のカードを持った姿だった。
「マジック『リーフジャマー』を使用。不足コストは『アポロヴルム』から確保。よってLv2にダウン」
「こ、今度は緑のマジック!?」
「相手がマジックを使用した時、手札からこのカードをコストを払って破棄することにより、ただちにその効果を無効にする」
ダンの手に持った『リーフジャマー』が、緑の光に包まれて消えた。
それは、『リミテッドバリア』を消した光と同じ。
すなわちその効果で、第三皇子の唯一の抗いは、費えた。
「―――っ!?」
咆哮と共に、すでに『アポロヴルム』は第三皇子の目の前に陣取っていた。
その手には刃が握られ、すでにもう振り上げられている。
「……―――ライフで受ける!」
バリアが展開され、直後にその刃が、第三皇子の最後のライフを砕いた。
◇◇◇◇◇
「ありがとうございました! いいバトルでした!」
「ああ。こちらこそ。いいバトルだった」
バトルフィールドから戻ってきて、ダンが最初に目にしたのは、とても目を輝かせた第三皇子の姿だった。
先ほどまで「あなたの力、ここで試させてもらいます!」と言っていた敵意剥き出しの姿の面影はなく、ただバトルを楽しんだカードバトラーの笑顔だけが残っていた。
「僕もまだまだですね。まさかあそこまで完敗するとは思ってませんでした」
「いや、十分強かったよ。俺の『リミテッドバリア』を警戒されていたら、勝てるか分からなかったしな」
熱い握手を交わして、2人はバトルの感想戦に入っていた。
そんな男子の熱い語らいを横目に立ち話をするのは、リゼとアンジュの2人。
「なんか、私がダンくんの旅に同行したいって話のはずなのに、この疎外感は何?」
「まあまあ、楽しそうだし良いんじゃない? ……っていうか! そんなことより! 私の記憶を覗いたって何!?」
「へ!? あ、いや、ダンくんを解放するのに必要だったっていうか……いや! 必要以上には見てないから!」
「そういう問題じゃないじゃん! 勝手に日記とか見られるのとか嫌じゃん! 部屋に入られるの嫌じゃん! あ~知らない人に私の記憶が~……」
「い、一応秘匿情報にはしてるし、そんな広まることはないはずだって」
「見られたことそのものがダメなんだってば~! もう無理死ぬんだぁ~……」
執事のセバスがここを通るまで、しばらくこの場が賑わっていたのは、また別の話。
◇◇◇◇◇
月夜のそこは、殺風景な湖だった。
ヘルエスタのはずれにある森の奥、人が一人として住んでいない、自然のみが栄えた大きな湖。
夜な夜なそんな大自然に囲まれた中で、あまりに文明的な格好をした少女が一人。
ラフなTシャツと短めのスカートに黒いブーツ。とても森の奥にいるとは思えない格好だったが、不思議とこの空間に溶け込んでいた。むしろ、彼女の存在でもって、この空間は完成しているとさえ、錯覚してしまう。
そんな彼女は、岸の大きめの岩に座って、釣りをしていた。そばにはバケツが置いてあるが、中身がない。どうやら、特に何か釣れたようではないらしい。
「~♪ ~♪」
何がそんなに気に入っているのだろうか、聞き惚れてしまうほどの彼女の鼻歌には、とても陽気な印象がある。
そんな彼女に、近づいてくる影が、2つ。
全身が黒い体毛に覆われた大型犬だった。2匹とも、夜に溶け込むように静かに彼女に近づいたが、彼女はそれにすぐに気付く。
やってきた2匹のうち1匹が、白い手紙をくわえていた。どうやら、これを彼女に届けに来たらしい。
彼女は2匹に笑いかけ、優しく頭を撫でて、その手紙を受け取った。
読み始めてすぐに、上機嫌だった先ほどまでの表情が、慈愛を帯びたものに変わっていく。
「アンジュはん、目ぇ覚めたんやね。よかったよかった」
そのお尻から生えた黒い尻尾が、上機嫌に左右に触れる。
「あ、こっち来るんか……旅かぁ。ええなぁ」
読み終えて、大事そうに手紙を懐にしまう。
何を用意しようかとウキウキに考えながら、彼女はまた、釣れない釣りを再開した。
今回の最強情報!
【煌臨】したスピリットは、【煌臨】前のスピリットの状態を全て引き継ぐ。
とりわけ、“【煌臨】前のスピリットが受けていた効果を引き継ぐ”のはとても利用価値が高い。
今回は耐性を付けることで強固な攻撃を実現したが、シンプルなところでは、BPプラスやシンボル追加の効果も引き継ぐ。
しかし、引き継ぐ効果と引き継がない効果には区別が存在し、それをテキストで判別するのは難しい。この特性を使ったコンボを使う場合は、良く調べるか、公式の問い合わせフォームで確認してみよう。
◇◇◇◇◇
次回予告
ついに始まるダンの旅、最初の目的地は、リゼとアンジュの親友のところに決まった。
リゼが旅に連れていきたいもう1人―――戌亥とこに出会い、そして告げられる。
「馬神ダンはん。私とバトルせぇへん?」
次回「さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~」
第3話「貪欲なる牙 全てを喰らえ! グリードッグ!」
戌亥「行くよ! アタックステップ!」