さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
もうぜんっぜん筆が進まなくて、しかもこれからのバトルもまだ全然かけてなくて、もう本当に申し訳ないです!
しかもかなり開けてしまいましたが、そんなにクオリティも高いものではありませんし……。
ただ、こういうものは続けていくことが大事だと思うので、ゆっくり、自分のペースで進めていきたいと思います。
モチベになるので、感想・評価お待ちしています!
出立~迷いの森へ~
リゼに案内されてやってきた場所にあったのは、巨大な船だった。
「うお~すっげぇ~。やっぱ皇族のプライベートシップは豪華だなぁ」
「そうだな……さすがにここまで大きいとは思わなかった」
船と言いても、海などの水の上を渡るものではない。ここには水は一滴も存在しないし、この外には水辺もないことをダンとアンジュは知っている。
この船は、空を飛ぶ。
「な~にいってんのよ!」
パシン、と、2人はリゼに軽く肩を叩かれる。
「民間で売ってるもんでしょ。なんならレンタルで使えたりするじゃない」
「いやいや……民間人はそんな贅沢しないって。リゼってたまに金銭感覚おかしいんだよなぁ」
「ええ、そうかな」
「まあそれにしても、3人でこの大きさはちょっと広過ぎるかもな」
余裕で一戸建ての民間住宅よりも大きいそれを、3人で並んで見上げている。
「大きいって言っても、この体積のほとんどは駆動力とか浮力とか発電システムとか、その他もろもろの機能のために使ってるから、実質的な広さは普通の住宅と大差ないと思うけど」
「いやだから!
「も~。あんまりうるさいと置いてくよ?」
言いながらリゼは歩き出しており、ダンもすでにそれに続いていた。
「え!? ちょ、待ってよ2人とも!」
◇◇◇◇◇
「ここがダンくんの部屋ね」
と言われて案内された部屋は、とても簡素なものだった。
まあ、今のダンには私物がないので、簡素なのは当たり前と言えば当たり前だろう。
簡単なデスクとベッド、そしてクローゼットがある、そんな部屋だ。
一息ついて、ダンはベッドに腰かけた。
「空を飛ぶ船、か……」
なんだか、いつもそういうのに乗っているなと、少し乾いた笑いが出てしまう。
前の世界でも、この船に負けずとも劣らないほどに大きな船で旅をしていた。
そこでも、こんな簡素な部屋で生活していたのだ。
ただ、前の時と違うことがあるとすれば。
「……俺はまだ、やるべきことを理解していない」
それを見つけるための旅ではあるのだが、やはり、心が浮足立つというか、妙な焦燥感というか、地に足がついていないような感覚がとても落ち着かない。
目的は明確だ。元の世界に帰ること。
だが、そのために何をしたらいいのか、見当が付いていない。
(この世界でも“神々の砲台”を引けば、帰れるんだろうか)
あるかもわからない物を思い起こして、冗談交じりの思考が過る。
その時。
コンコン、とノックの鳴る音がした。
「誰だ」
「僕です! 第三皇子です! 渡したいものがあって来ました!」
「ああ……今開けるよ」
ここ数日ですっかり聞きなれた声に応えて、リゼに渡されたリモコンのボタンを押す。
ウィーンという典型的な機械音を立てて開いたスライド式の扉の向こうに、第三皇子は立っていた。
「失礼します。どうです? 部屋の居心地は?」
「ああ、悪くない」
その笑顔には、初対面の時に向けてきた敵意は微塵もない。彼の人懐っこい笑顔にも、ここ数日ですっかり慣れてしまった。
「あと3日ほどで出発だそうですよ」
「3日? この船を動かすのにそんなにかかるのか?」
「ああいえ、リゼ姉さまとアンジュさんの荷物が、特にアンジュさんの荷物が多いようでして」
「ああ……」
そこまで聞いて、腑に落ちたように相槌をうつ。
女の子の荷物は多くなりがちなのはどこの世界でも変わらないのだろう。それに。
「確か錬金術師、だっけか?」
「ええ。自宅から研究道具を持ってくるらしく、それを運ぶのに時間がかかりそうです」
「なるほど」
そういえば錬金術のことを詳しく聞いてないな、とふと思い起こす。
人の記憶を覗いたり、『アポロヴルム』の封印を解いたりと、この世界では錬金術で出来ることは多岐に渡りそうだった。
だが、それとは別に科学技術は十分に進歩もしている。この船も、通常の電力で動いているようだし、この部屋を照らす明かりも、電気で動いている。
科学とは別に錬金術もある。とても不思議な世界だ。
(まあ、グラン・ロロに比べたらそうでもないか……)
「そういえば、渡したいものって?」
「ああそうでした! これを是非受け取って欲しいと思いまして!」
そういって第三皇子が懐から取り出したのは、1枚のバトスピカードだった。
第三皇子はそれを、表をダンに見せるように差し出す。
「これは……」
それを、ダンはすぐには受け取れなかった。
何故ならそれは―――。
「『煌星第一使徒アスガルディア』―――受け取ってくれませんか?」
彼の、第三皇子の切り札だったからだ。
「良いのか? お前のキースピリットだろ?」
「ええ。キースピリットだから、貴方に託したいのです」
カードバトラーにとって、キースピリット―――すなわちデッキの中心となる切り札とは、いわば分身と言っても過言ではない。それは、自らの体の一部と同義なのだ。
体の一部を差し出しているのだというのに、第三皇子の言葉には動揺などはなく、その口から出てきたのは、迷いのない覚悟の言葉だった。
「僕は今回、この旅に同行できません。非番が許されたのはリゼ姉さまだけですし、皇族が2人も城を離れるのは、色々と問題がありますから」
けれど、と続ける第三皇子は、まっすぐにダンを見据えている。
「僕も、姉さんの力になりたいんです。幸い、『アスガルディア』はダンさんのデッキとも相性がいいですから……だから、姉さんを守るためのバトルで、僕のカードを使っていただけないでしょうか?」
「……そうか」
自然と、笑みを浮かべてしまった。
これまでも、何度かカードを託されることはあったし、それこそ仲間からキースピリットを預かったこともある。
だが、これほどまでに
「……分かった」
差し出されたカードを、丁寧に掴む。
「このカードに誓って、リゼは必ず俺が守る」
「はい! よろしくお願いします!」
◇◇◇◇◇
暗い、森の中にいた。
今は昼間のはずなのに、日の光が届かないほどに生い茂った木々が、暗闇の森林を作り上げている。
そこをひたすら、歩き続ける。
止まるわけにはいかなかった。
先ほども通ったような、見たこのない道が続く。
森から抜けるために。
歩みを止めるわけにはいかなかった。
◇◇◇◇◇
数日後。
「よし! みんな準備は大丈夫!?」
部屋中に響いたのは、リゼの掛け声だった。
その方に可愛いヒヨコのぬいぐるみを起用に乗せて、ビシっと胸を張って、ダンとアンジュの前に立っている。
諸々の準備が終わり、リゼとアンジュ、そしてダンは、この船の最も重要な部屋「管制室」に集まっていた。
ここでは、主に船の操縦が行われるらしい。
操縦と言っても、基本的には手動ではなく自動操縦らしく、操縦桿のようなものは存在しない。デスクに直接埋め込まれたコンピューターがいくつか存在するのみだった。
「ああ、問題ない」
「こっちも平気。待たせてごめんね~」
リゼが中央に立っていて、それに向かい合うように、アウンジュとダンが並んで立っている。
「よし! これより10分後に離陸します! 目的地は“迷いの森”! その中心地の湖! まずはそこを目指します!」
「迷いの森……?」
「そっか。ダンは知らないよね」
そこから、迷いの森についてアンジュに説明された。
迷いの森とは、読んで字のごとく、入った人を迷わせ、その中に閉じ込めてしまう森のことだという。
ある程度の対策を用意しなければ、抜け出すことは不可能だと。
「あの森は綺麗な真円を描いてる。自然界でそういうことは普通起こらないけど、その森は奇跡的に真円を描いた。それが地脈に流れる魔力に反応して、簡単な魔法陣として機能してしまった。それがあの森が“迷いの森”になってしまった経緯かな」
つまり「入ったものを迷わせ、外へと出さない結界のような魔法」が常にかかっている森ということらしい。
何故そんなところに、というダンの問いにはリゼが応えた。
「これから、とこちゃんを迎えに行くの」
とこちゃんとは、“戌亥とこ”という獣人のことだ。
ダンも1度だけ会ったことがある。アンジュを助けた時に、リゼとともに遺跡で出会っている。その時は切羽詰まっていたし、すぐに捜索隊に拘束されたのでまともな会話はしなかったが、ダンは彼女のことを覚えていた。
「その人が迷いの森の湖にいるってことか」
「そういうこと。入ったら迷うって言っても、空からなら問題ないからね。だからとこちゃんのところにはこの船で行くよ!」
「なるほどな」
確認事は、いったん終わり。
ならば、のんびりする理由がある者は、この場にはいなかった。
「それじゃ! しゅっぱーつ!」
かくして、馬神ダン一行の「ヘルエスタ放浪記」は、幕を開けたのだった。
◇◇◇◇◇
迷いの静寂の中、ふと物音がする。
茂みの向こうだ。
歩みを止めて、茂みを凝視する。
警戒と緊張、そして恐怖に冷や汗が垂れる中、それは茂みの向こうから襲ってきた。
咄嗟に避けて、それと対峙する。
犬だ。
黒くて、大きい。まともにやりあって、人の身で勝てる相手ではない。
跳ね上がる心拍数に対し、冷静にその犬と向き合う。
背を向けて逃げることはしない。そんなことをすればすぐに追いつかれて食われるだけだ。
だから、目を反してはいけない。生き残るためには、攻撃を全て避ける必要がある。犬から逃げても、死からは逃げられない。
そうして睨みあっているせいで、気付かなかった。
後ろから、
振り返った時には、もう遅かった。
回避不能。
大きく開いた口が、妙に瞳に焼き付いた。
◇◇◇◇◇
「ダンくんいた!?」
「いやダメ……船中どこ探してもいない……」
管制室で顔を合わせたリゼとアンジュは、膝に手をついて息を乱していた。
今は迷いの森のちょうど上空に差し掛かったところ。
上から入れば問題ないはずの迷いの森、その圏内に入った瞬間から、ダンの姿が船内から消えたのだ。
「いったい何が……今までこんなことなんて……!」
「……もしかして、初めて森に入ったら、強制的に中に閉じ込められる、とか……」
「そんな……!」
言われてみれば、2人とも初めて森に来たときは地上から森に入っていた。最初から上空から来たわけではない。
ダンのように、「初めて迷いの森に入る時、上空にいる」という状況を、2人は経験したことがない。
そもそも、
何が起きても、不思議ではなかったのだ。
「どうしよ……こんなことなら森の外で集合すれば良かった……」
「過ぎたことは後で後悔しよ。迷いの森に行くと決めたあの時に誰も否定しなかったんだから、少なくともリゼだけのせいじゃない」
「……そう、だよね。今できることをしないと!」
「とりあえず、戌亥と合流しよう。森については戌亥の方が詳しいし、私たちが無暗に森に入って迷いでもしたらそれこそ取り返しがつかない」
「うん……!」
ヘルエスタ放浪記、その最初の1歩は、ダンの唐突な失踪に始まった。
◇◇◇◇◇
その牙が、彼を襲うことは無かった。
赤く光るカードが、彼を守ったのだ。
その摩訶不思議な出来事に、2匹の獣が距離を取る。
彼は、宙に浮くそのカードを掴もうと手を伸ばし、しかし、カードはそれから遠ざかるように森の奥へと入っていった。
こっちへ来い。
そう告げられているようだった。
彼は、駆け足でカードを追いかける。
それを、犬が追いかけることは無かった。
◇◇◇◇◇
「いた! 戌亥だ!」
管制室の中。その最も大きいモニターに、迷いの森の中心地、そこにある湖が映し出される。
そこで、普段着の戌亥とこが、釣りをしているところが確認できた。
そこから船を下ろしていくと、戌亥がこちらに気付いて、大きく腕を振ってくれていた。
しかし、彼女たちはそれどころではない。
垂直にゆっくりと降りていく飛行艇にイライラし、着地と同時に管制室から出て、船から降りる。
「とこちゃん!」
「戌亥!」
血相変えて走ってくる2人に、戌亥は顔をかしげるだけだった。
「どないしたん? 2人とも。なんかあったん?」
「やばいんだって! ダンが迷いの森で行方不明になっちゃったって!」
「全然足取りが追えないの! もう私たちじゃどうしたらいいか分かんなくて!」
「ああ、ダンはん? 迷っとったん?」
胸倉でも掴んでくるんじゃないかと思うくらいの勢いで迫ってくる2人を、両手の平で「まあまあ」と制する。
しかし、迷いの森で人がいなくなることの恐怖を知っている2人は、それくらいじゃ落ち着くはずもなく。
「ねぇとこちゃん! ダンくんどうやって探せばいいの!?」
「迷いの森って言ったって空間がねじ曲がってるわけじゃないから、魔術的な対策さえすればあとは痕跡をたどって探せるはずなんだ! だから取り返しのつかなくなる前に早くみつけないと!」
「いや、あんな2人とも、とりあえず落ち着かん?」
「「これが落ち着いていられるか!!」」
2人に同時に叫ばれて、キーンとなってしまった耳を思わずたたむ。
しかめっ面もしてしまい、そんな緊張感のない戌亥の様子に、2人の焦りはヒートアップしていく。
「とにかく一緒に来て戌亥! 迷いの森なら戌亥が1番詳しいよね!」
「いや、だからな、アンジュはん」
「早くしないと! ここにはやばい動物とかもいるらしいし、もし襲われでもしたら!」
「せやからな、リゼはん」
「「はやくしないと!」」
ダメだ。話が出来る状態じゃない。
そう諦めた時、その会話に水を差す人物が現れた。
その姿を確認して、戌亥の耳がピンと立ち上がる。
戌亥はその人物に大きく腕を振って。
「お! ダンはん! 釣り用のバケツ見つこうた!?」
「ああ。これで良かったか?」
「せやで!」
2人は盛大にずっこけた。
◇◇◇◇◇
端的に言えば、ダンは無事だった。
アンジュの「初めて森に入ったら、強制的に中に閉じ込められる」という推測は当たっていて、迷いの森の上空に差し掛かった瞬間に、ダンは強制的に迷いの森の中に転移させられた。
そこで戌亥の愛犬である「バン」と「ケン」と会ったりしたそうだが、最終的には『アポロヴルム』のカードが戌亥のところまで案内してくれたという。
それで、リゼとアンジュの乗った船よりも早く湖につき、戌亥と会ったダンは、戌亥に誘われるままに釣りにお供していたらしい。
先ほどのバケツは、釣りあげた魚を入れておくためのもの。釣りを始める時に用意し忘れていたものを、戌亥が頼んで運んでもらっていたということだった。
「はぁ……なんか、どっと疲れが……」
そう言って、その場に横たわったのはアンジュだった。リゼも疲れが顔に出ているが、さすがに外で寝そべることには抵抗があるらしい。
湖の周りは綺麗な緑色の芝生に覆われていて、そこに身を預けているアンジュはそこそこに心地よさそうだった。
「ああ、しばらくは動きたくない……」
「私も……まさか旅の初日からこんなアクシデントに見舞われるとは思わなかった……」
「あは、2人ともお疲れさん」
アンジュとリゼの様子を見るに、しばらく船に戻ることは無いだろう。
戌亥の荷物を船に運ぶにも、ダンと戌亥の2人だけだとかなり時間を要するかもしれない。
しばらくは暇になるかもしれないと、そう思っていたダンだったが。
「あ、せやったらダンはん!」
2人の様子を見ていた戌亥が、不意に振り返り、ダンに声をかける。
そうして、流れるような動作でポケットから
「せっかくやし、2人が回復するまで、バトルでもせぇへん?」
「……ああ、そうだな。受けて立つ」
ダンに断る理由は、あるはずもなく。
「「ゲートオープン! 解放!」」
戦う2人は、ゲートの中へと消えていった。
設定紹介
迷いの森
入ったら二度と出る事は叶わないというところから、そこは迷いの森と言われている。
その範囲内に入った瞬間から消息を絶ち、物理的な捜索方法では見つからないとされている。
その森は、自然に作られたにもかかわらず、偶然にも真円を描いていた。そこに地脈に流れる魔力が重なり、奇跡的に魔法が発動したのだろうというのが、専門家の見立てである。
故に、魔法対策をすれば、その森で迷うことは無い。
ただ、一歩間違えば二度と出られないのには変わりなく、その性質上、内部の生態系や具体的にどのような魔法が働いてるかなど、詳しい調査は進んでいない。
もしも、その森の中心に行くことが叶ったなら、美しい歌声と共に、美麗な獣人が迎えてくれるとか、くれないとか……。