さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~   作:多田 竜一

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 戌亥はターンの始めこそ「すたーとすてっぷ」って感じだけど、決めるところになると「アタックステップ!」という感じになる解釈。
 
 前回のバトルはかなりターンの重なる長い戦いでしたが、今回は展開が早くなりそうです。その分解説のためにたくさん文章を書いてるから結果的にあんまりかわらないのかな……。




強奪~放たれる三つ首~

「先攻は私が貰うで。スタートステップ」

 戌亥の第1ターン。

 彼女はドローステップでカードを1枚引くと、そのままゆっくりとした手つきでそれを手札に収める。

 そして左手に持つその手札を眺め、右の人差し指で一番左のカードに触れる。しかし、手に取ることはせず、今度は隣のカードに指をかけ、また指を離す。

「うーん……どないしようか……」

 そして3枚目のカードを指で触れ、やはり離して。

「うん。やっぱ1枚目はこれやね」

 2番目に触れたカードを手に取った。

「ネクサス『海帝国の秘宝』を配置!」

 その宣言と共に、バトルフィールドに地響きが鳴る。それは、戌亥の後ろに建造物を作った。

 水しぶきを伴って現れたそれは、三頭の竜の銅像。その3つの首が、中央の赤い“何か”を囲うように造られている。

 その何かは赤く光っていた。宝石ではない。宝石は自ら輝くことは無い。正しく秘宝。

 聳え立つ竜の銅像を背に、戌亥はさらに1枚、カードを取る。

「そんで、【バースト】セットしてターン終了やね。そっちのターンでええよ?」

「青のネクサス、しかもダブルシンボルか……スタートステップ!」

 戌亥の配置したネクサス『海底国の秘宝』は、青のシンボルを2つ持っている。自分の手札を相手の効果から守る効果もあるが、やはりこのネクサスの真価はそのシンボルだろう。

 スピリットではないためライフを削ることには何も関係がないが、場にシンボルが増えることは、手札のカードのコスト軽減につながる。『海底国の秘宝』は、コストを軽減することにおいて、1枚で2枚分の働きをしている。

 それが、第1ターンに配置されたことは、とても幸先がいいと言える。仮にこのターンでダンがアタックしてライフを1つ削れば、次のターンに戌亥が使えるコアの数は6つ。2軽減込みで、7コストのスピリットに手が届く。

 うかうかしていたら、エース級のスピリットに蹂躙されるかもしれない。

 そんな状況を把握して、ダンが取ったプレイは。

「ドローステップ。メインステップ。『レイニードル(R)』をLv1で召喚。そしてこのスピリットは系統:『星竜』が召喚された時、3コストスピリットとして召喚できる。『ファルスクロス・ドラゴン』を、こちらもLv1で召喚」

 赤のシンボルが2つ現れ砕ける。

 出現したのは、空中を這う蒼い竜と、燃え盛るほどの赤で染まった肌の人型の竜。

 フィールドに出現したそれらは咆哮を上げ、それを聞きつつ、ダンはもう1枚カードを取る。

「【バースト】をセットして、アタックステップ! 『レイニードル』! 行け!」

「おお、アタックするんか」

 そんな状況を把握して、ダンが取ったプレイは、攻め。

 返しのターンにキースピリットを展開されるリスクを背負ってもなお、いや、早期にキースピリットされうるからこそ、攻めるなら今しかない。

 その命令を受けて、『レイニードル』が宙を這う。一直線に戌亥へ向かっていき。

「うん、ライフで受けるよ!」 

 戌亥の前に赤いバリアが展開され、それに『レイニードル』が噛みつく。

 ライフを砕くその衝撃に、戌亥はとっさに耳をたたみ片目を閉じる。

 しかし、そのライフ減少で、【バースト】が開く。

「ライフ減少で【バースト】! 『神海賊船カリュブデス号』の【バースト】効果で、ダンはんの場のスピリット全てのシンボルを0にする!」

 突如、フィールドに波が押し寄せる。

 戌亥の【バースト】効果によって現れたその荒波は、戌亥の元から溢れ出るようにダンのスピリットに襲い掛かる。

 しかし。

 『レイニードル』を守るかのように『ファルスクロス・ドラゴン』がその波に立ちはだかる。『ファルスクロス・ドラゴン』はその両腕をクロスさせて、その波を受ける。

 波が『ファルスクロス・ドラゴン』を覆いつくし、その姿が見えなくなった頃に、その波が一斉に吹き飛ばされた。そこに残るのは、力を解放し、腕を広げ微動だにしない『ファルスクロス・ドラゴン』だけだった。

「あ、ありゃ?」

「『ファルスクロス・ドラゴン』の効果発揮。俺のアタックステップの間、系統:『星竜』を持つ自分のスピリットは、相手の【バースト】効果を受けない。『レイニードル』と『ファルスクロス・ドラゴン』はシンボルを失ことは無い」

 戌亥の【バースト】効果は、『ファルスクロス・ドラゴン』によって防がれた。

「まあええか。この【バースト】効果発揮後に、このスピリットを【バースト】召喚するよ! 『神海賊船カリュブデス号』! Lv1で召喚するよ」

 波が消えたそのフィールドにそれは現れた。

 海賊船を自称するそれは、巨大なクラーケン。頭部に帆のようなものがデザインされており、その額には巨大な槍のようなものが供えられた船首がある。

 『神海賊船カリュブデス号』はフィールドに現れた時、その力を誇示するように咆哮を上げ、その触手でその地を踏みしめた。

「BPは7000ある。BP4000の『ファルスクロス』より高いで」

「……ターンエンドだ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 このタイミングで、観戦席に現れる人物が2人。

 リゼとアンジュの様子は、もう回復できているようだった。疲れたと言っても精神的なものだったからかだろう。もうすっかり元気な様子である。

 

アンジュ「おお、やってんねぇ。今は戌亥の第3ターン?」

リゼ「『海底国の秘宝』とスピリットが一体……もう出るかな? とこちゃんのキースピリット!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「スタートステップ。コアステップと……ドローステップで1枚引いて、リフレッシュステップっと……」

 ゆったりとターンを進めて、戌亥は自分の手札を見る。

 前のターンはいくつかの選択肢で迷っていた彼女だったが。

「ほんで……メインステップ!」

 今度は迷わず、1枚を取る。

「全てを喰らえ! 獰猛で気まぐれな地獄の番犬! 『戌の十二神皇グリードッグ』! レベル2で召喚!」

 それは、十二支の『戌』の化身。

 地獄を守るその獣は、鎖に繋がれ、解放されることは決してない。

 しかし、彼女の声に、その獣は簡単にその鎖を引き千切る。

 解放されたその力は青い炎で道を作り、そこを驀進するその姿こそ。

 ―――『戌の十二神皇グリードッグ』

 フィールドに現れた『グリードッグ』の咆哮により、青い炎の道は消え去った。

「不足コストは『カリュブデス号』に乗せていたこのコアから使う。しゃーないんやけど、『カリュブデス号』は消滅やね」

 炎が消えるのと同時に、それに焼かれるようにして『カリュブデス号』も姿を消す。

 『グリードッグ』Lv2のBPは15000。

「第3ターンでもうキースピリットか」

「この子はせっかちやからね。はよ出んと、食べたいもんが食べられへんかもしれんからな」

 三つ首の獣、その三対の瞳が、まっすぐにダンを捉える。

 息を荒げるその姿は、大人しくマイペースな戌亥の正反対のように思える。しかし、不思議と並び立つその姿は、まるで最初から1つの存在であったかのように違和感がない。

「さあ行くよ! 『グリードッグ』! アタックステップ!」

 戌亥が盤面のカードを倒して、『グリードッグ』が走り出す。

 そして、その咆哮が魂を伴って、青き波動となってソウルコアと共鳴する。

「……! 何が……」

 『グリードッグ』と共に光の波を放つソウルコアが浮遊を始め、それが戌亥の周りと飛び回る。

「永劫の時を生きる命の結晶……わが身に宿りて、地獄の焔を現世に解き放つ……!」

 そのソウルコアは、目にもとまらぬ速さで戌亥の周りに輪を作り、次の瞬間。

「『グリードッグ』のアタック時効果! 【封印】!」

 ソウルコアが、戌亥の体に打ち込まれる。

 一瞬、その衝撃にふらつく戌亥だが、すぐに体勢を立て直す。

 打ち込まれた胸元を手で押さえる戌亥の盤面、そのライフ、ソウルコアが移動している。

「ソウルコアをライフに……!」

 乗っていたソウルコアを失ったことで、『グリードッグ』はLv1にダウンする。

 しかし、Lvが下がったのにも関わらず、その走る速度は衰えることなく、否、より加速する。

「ルール上、本来ソウルコアはライフには置けない。しかし、【封印】はその不可能を可能にする。そしてうちの子は、この【封印時】にのみ使える能力があるんやで」

 静かに、そして不敵な笑みをもってそういった声に応えるように、『グリードッグ』がまた叫ぶ。

 その咆哮が空気を震わせ、その振動がダンのもとに届いた時。

「……!」

 その手札が吹き飛ぶ。

 ダンの手から離れ、宙を舞った手札2枚は、ダンの目の前で静止すると、その表面を戌亥に向けた。

 その2枚は、『フレイムスパーク』と『太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴン』。

「おお、ええもん持っとるねぇ。『グリードッグ』! お待ちかねのマジックやで!」

 『フレイムスパーク』が、消える。

 驚くダンを置いてきぼりにして、赤い欠片となった『フレイムスパーク』は走る『グリードッグ』へと向かって良き、その欠片を『グリードッグ』が喰らう(・・・)

 三つある首がそれぞれその欠片を喰らった時、その牙に、雷と炎が宿る。

 直後、『グリードッグ』は咆哮とともに飛び上がると、赤い炎のブレスを吐き出す。それは瞬く間にダンのフィールドを覆い、瞬時にダンの2体のスピリットを破壊した。

「これは……まさか、俺の手札からマジックカードを使ったのか……!」

 トラッシュから飛び上がった『カリュブデス号』を掴んだ戌亥が返したのは、甘い笑みだけだった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

リゼ「出た! 『グリードッグ』の【強奪】!」

 

アンジュ「相手の手札からマジックカードを破棄して、その能力をノーコストで

     使用する……いつみてもアドバンテージがえぐいんよなぁ」

 

リゼ「しかも今回は使ったマジックがすごい噛み合ってたね……『フレイムスパーク』

   って、確かルークとの戦いでもダンが使ってたよね?」

 

アンジュ「そうだったかな……BP5000分の相手スピリットを破壊して、しかも

     トラッシュからスピリットまで回収するマジック。ダンの場はBPの合計が

     ちょうど5000だったし、戌亥のトラッシュには不足コスト確保のために

     消滅した『カリュブデス号』がいた。しかも『カリュブデス号』は

     ノーコストで使える【バースト】スピリットだから、単純に使えるカードが

     1枚増えたことになる」

 

リゼ「仮に次のターンで体勢を立て直されても、防御も完璧って感じかぁ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ダンは一瞬、自らが伏せた【バースト】に目をやって、しかし何もしなかった。

(破壊時【バースト】と(ちゃ)うかったか。出来ればこのターンで踏みたくはあらへんけど)

「そしてこれが『グリードッグ』のメインアタックやで!」

 壮絶なアドバンテージを得た『グリードッグ』のアタックだったが、その実、このターンが終われば戌亥は無防備だ。

 ブロッカーは無く、使えるコアも、【バースト】もなし。

 もしも、ダンの場に伏せられた【バースト】が、起死回生の切り札級のカードならば、このターンで発動されればそのまま押し切られて負けることもある。

 しかし、少なくとも【破壊時】【バースト】ではないようだ。

 あとこのターンに発動させてしまう【バースト】条件は【ライフ減少時】だが。

「くっ……ライフで受ける!」

 ダンの目の前に青のバリアが展開され、『グリードッグ』が良き勢いよくそこに噛みつく。

 その衝撃がダンのライフを砕き、ダンは飛ばされそうになるのをフィールドに手すりにつかまって耐える。

 これで、ダンのライフは4つ。そして。

(減少時【バースト】とも(ちゃ)うんか)

 対する戌亥は、【封印】によりソウルコアを得て、ライフは5つ。

ライフだけでみれば、まだまだゲームは始まったばかりの互角の勝負。だが、その実状況は圧倒的に戌亥が有利だった。

 戌亥の場にはネクサスとキースピリットがおり、手札は4枚。対してダンの場にはカードはなく、【バースト】と手札が1枚ずつのみ。しかも手札は戌亥に見られている。

「ターン終了。ダンはんのターンやで」




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