さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~   作:多田 竜一

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窮地~地獄の牙は3度喰らう~

 ダンは一瞬、自らが伏せた【バースト】に目をやって、しかし何もしなかった。

(破壊時【バースト】と(ちゃ)うかったか。出来ればこのターンで踏みたくはあらへんけど)

「そしてこれが『グリードッグ』のメインアタックやで!」

 壮絶なアドバンテージを得た『グリードッグ』のアタックだったが、その実、このターンが終われば戌亥は無防備だ。

 ブロッカーは無く、使えるコアも、【バースト】もなし。

 もしも、ダンの場に伏せられた【バースト】が、起死回生の切り札級のカードならば、このターンで発動されればそのまま押し切られて負けることもある。

 しかし、少なくとも破壊時【バースト】ではないようだ。

 あとこのターンに発動させてしまう【バースト】条件は【ライフ減少時】だが。

「くっ……ライフで受ける!」

 ダンの目の前に青のバリアが展開され、『グリードッグ』が勢いよくそこに噛みつく。

 その衝撃がダンのライフを砕き、ダンは飛ばされそうになるのをフィールドに手すりにつかまって耐える。

 これで、ダンのライフは4つ。そして。

(減少時【バースト】とも(ちゃ)うかった……)

 対する戌亥は、【封印】によりソウルコアを得て、ライフは5つ。

ライフだけでみれば、まだまだゲームは始まったばかりの互角の勝負。だが、その実状況は圧倒的に戌亥が有利だった。

 戌亥の場にはネクサスとキースピリットがおり、手札は4枚。対してダンの場にはカードはなく、【バースト】と手札が1枚ずつのみ。しかも手札は戌亥に見られている。

「ターン終了。ダンはんのターンやで」

「っ……スタートステップ」

 ダンの第4ターン。

(青のデッキは、数より質を重視するカードが多い。手札を増やしたり、小型を並べたりが苦手な色だが、その分1枚1枚のカードパワーは高い)

 だからこそ、この状況は見かけの枚数差よりもかなりまずい。

「コアステップ……」

(青のカードはただでさえ1枚1枚のパワーが高い上に、『グリードッグ』の効果でかなりアドバンテージに差を付けられた……仮にこのターンでアドバンテージを回復できても、青のパワーを押し付けられてジリ貧になりかねない。それに)

「ドローステップ」

 ダンは引いたカードを手札に加えて、思案する。

(『グリードッグ』の効果……あれによって、俺の手札は毎ターンピーピングされる。手札も少ない以上、俺の手の内は全て晒されていると言っても良い)

 ピーピングとは、通常は見れない相手の手札を、カードの能力によって見ること。『グリードッグ』の【強奪】の能力は、その副次的な効力としてそれを可能にしている。

 手札を全て確認できるこの能力は、ダンの戦術の全てを見透かす。例えば、カウンターを構えて相手を罠に嵌めることなど不可能だ。

 ただし、このピーピング能力には現状、2つの穴がある。

 1つは、ピーピング後にドローしたカードは分からないこと。

 そしてもう1つは、ピーピング前に伏せられた【バースト】。 

 つまり。

(この【バースト】は、戌亥にはまだ分からない……間違いなくこのバトルの切り札になる)

 伏せた【バースト】を切り札に決め、しかしその【バースト】には一瞥もしない。

 すでに状況は絶望的なピンチだ。それゆえに、どれだけ細いものだったとしても、可能性を作り続けなければならない。そしてそれを、相手に悟らせてはいけない。

「メインステップ! 『煌星竜コメットヴルム』をLv2で召喚!」

 赤のシンボルが現れ砕ける。黄金の身に白銀のブースターを背負ったドラゴン。

 フィールドに降り立ち、その足でしっかりと地面を掴んだ時、『コメットヴルム』はその『ヴルム』独特の瞳で敵を見据える。

「アタックステップ! 『コメットヴルム』でアタック!」

 その声に応え、『コメットヴルム』が地面を蹴る。

「『コメットヴルム』のアタック時効果。デッキから3枚オープンし、系統:『星竜』を持つスピリットカード1枚を手札に加える」

 オープンされたカードは『マグネティックフレイム』『太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴン』『リーフジャマー』の3枚。

 この中で、系統:『星竜』を持つスピリットカードは『ヘリオスフィア・ドラゴン』のみ。それがダンの元へ浮遊し、ダンがそれを掴んむ。

 そして、オープンされた『マグネティックフレイム』が、輝きを放つ。

「さらに、赤の効果でデッキからオープンされた『マグネティックフレイム』は手札に加わる。そして残りは破棄だ」

 光を放つ『マグネティックフレイム』を掴み取り、残された『リーフジャマー』がトラッシュへ落ちる。

「そしてこれがメインのアタック!」

 『コメットヴルム』は、もうすでに、戌亥の前まで接近していた。

 その口に炎を溜めて、今にも吐き出そうとする、その瞬間だった。

「ええで! ソウルコアで受けるよ!」

 戌亥の胸元、そこへと溶け込んだソウルコアが再び姿を現す。

 一瞬の輝きの後に、その輝きがバリアを展開する。

 普段のドーム状のバリアではない。平らなバリアは、中央が赤く、それを白銀のエネルギーが覆っている。

 そのバリアに、『コメットヴルム』がブレスを放つ。

 衝撃。そして、破裂。ソウルコアによって形成されたバリアは砕かれ、しかし、その破片が戌亥の盤面、そのリザーブへ収束していく。

 その破片が、リザーブでソウルコアを形成して、このアタックは終わる。

「ソウルコアか普通のライフか、受けるライフを選べるのか……!」

「せやで。そして、こうして戻ってきたソウルコアを。『グリードッグ』はもう1度【封印】出来る」

「疑似的なライフ回復か……ターンエンド」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

アンジュ「おお珍しいね。あのダンがここまで何もできないって」

リゼ「これはとこちゃん勝てそうかな?」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 戌亥の第5ターン。

(まあ、普通にやったら勝てるよなぁ……)

「メインステップ。『海底国の秘宝』をLv2に、そして『グリードッグ』をLv3にアップ。んでもって、【バースト】も伏せようか」

 能天気にみえる素振りで盤面を整える戌亥だが、しかしその実、油断は全くしていない。

(ゆうても、あの【バースト】がどうしてもなぁ)

 戌亥もまた、この勝負の行方は、ダンの伏せた【バースト】に左右されることを理解していた。

 故に、その発動条件を予測する。

 現状、【スピリットの破壊時】と【ライフ減少時】ではないことは分かっている。

 つまりあるとすれば、有名な【バースト】条件だと【スピリットの召喚時効果発揮後】か【手札増加後】だろう。

 戌亥は自分の手札に視線を向ける。

 4枚ある手札のうち、目につくのは『三叉神海獣トリアイナ』と『ストロングドロー』だった。

 その2枚は、前者は【スピリットの召喚時効果発揮後】、後者は【手札増加後】の【バースト】にそれぞれ引っかかる。

 2枚とも、使えるなら是非とも使いたい強力なカードではあるが、使えば【バースト】を踏む可能性を孕んでいた。迂闊には使えない。

(とはいえ、尻込みしててもいつか対抗策を引かれるかもしれへん。早めに思い切りはせんとな)

 思案しながら、戌亥はフィールドの『グリードッグ』に視線を向けた。

 3つある首、その右の首の右目とだけ、少し目が合う。

 その目には高揚。早く攻撃させてくれという思いが、戌亥に強く向けられている。

 いつものようにせっかちな相棒だ。あまり人には流されないタイプの戌亥だが、そんな彼女ですら強引に連れまわそうという勢いのある、世話のかかる愛犬。

 いつもなら、そんな目を向けられても気にせずマイペースにプレイしているが。

「ま、考えても埒が明かへんしな! アタックステップ!」

 今回は、この子に好きに暴れてもらおう、と、『グリードッグ』のカードを倒す。

「『グリードッグ』! 餌の時間やで!」

 そして、見えない枷が外れたように、急加速で『グリードッグ』が駆けだす。

「【封印】を発揮! この子のソウルコアを私のライフへ!」

 再び『グリードッグ』からソウルコアが浮上し、目にもとまらぬ速さで戌亥の周りに輪を作って、そして戌亥の体内へ打ち込まれる。

 少しよろける戌亥だが、それに構いもせず、

「そして【強奪】や! 『グリードッグ』!」

 直後、『グリードッグ』が咆哮し、それが衝撃波となってダンを襲う。

 その衝撃が、身構えたダンを過ぎて、その手に持った手札を露わにする。

 公開された手札は、前のターンにコメットヴルムで加えられた『ヘリオスフィア・ドラゴン』と『マグネティックフレイム』。そして、『リミテッドバリア』の3枚。

「うーん。あんま美味しくあらへんけど、まあ使われる前にこれやな」

 そうして選んだカードは、『リミテッドバリア』。

 指定されたそのカードは、白い破片となって『グリードッグ』に喰われる。

「っ……だが、『リミテッドバリア』の効果は、今使っても意味はない」

「せやね。けど、手札を減らした(・・・・・・・)っていうんが重要なんよ」

 その白い破片を喰らった『グリードッグ』がまた、走りながら咆哮する。

 力が、青い光となって『グリードッグ』を包み、

「回復や! 『グリードッグ』!」

 そして、その光は消える。

 盤面では『グリードッグ』が回復し、そして、フィールドでは何事もなかったかのように『グリードッグ』が駆ける。

「っ……! これは……!」

「『グリードッグ』のLv3効果! 相手の手札が減るたびに、ターンに3度まで回復するんよ!」

 地獄の番犬。その牙は3度噛みつく。

 1度目の牙が、ダンに迫る。

「っ! ライフで受ける!」

 青のバリアが展開され、そして衝撃がダンを襲う。

 ライフのコアが砕かれる音が響き、『グリードッグ』がその場からいったん離脱する。

 残りライフは3。

 だが、まだ終わらない。

「うちの子はまだまだ食べ足りとらんよ! ダンはん!」

「っ!」

 離脱して、そしてすぐに駆けだす。

 咆哮がダンの手札を吹き飛ばし、【強奪】の効果で『マグネティックフレイム』が赤い破片にされる。

 それを喰らい、青い光を纏って、『グリードッグ』が加速する。

「【強奪】でまたダンはんの手札が減ったんで、うちの子は回復するで」

 猛スピードで迫ってくる三つ首の獣に対し、ダンには為す術はなく。

「それもライフだ!」

 青いバリアに、2度目の牙が立てられる。

 残りライフは2。

 衝撃にゆらつき、ギリギリで耐えるダンに構うことは無く。

「3度目や! 『グリードッグ』!」

 その声を受けて、三度走り出す。

 三つ首から放たれた咆哮が、ダンを襲い手札を奪おうと襲い掛かる。

 しかし、今回だけは、手札が吹き飛ばされることは無かった。

「手札にもうマジックはない……【強奪】は無意味だ……!」

「せやね。【強奪】だとマジックカードしか食べられへんし。でも、ライフは貰うで!」

「っ……!」

 もうすでに、『グリードッグ』はダンの目の前に迫っていた。

 ダンの宣言を待つこともなく、青いバリアが展開され、その牙が食い込む。

 衝撃が、体勢の維持できていないダンを襲い、そしてライフを砕く。

 ライフを砕いたその衝撃で、ついにダンが膝を付いた。

「……っさすがに、Xレアの連続アタックは効くな」

「おっと、大丈夫? 無理そうなら休んでもええよ?」

 先ほどまでの食って掛かろうとした態度とは一転して、寄り添うような声でダンを気遣う戌亥。

 だが、ダンは余計な心配だと伝えるように、ゆっくりと立ち上がって見せた。

「いや問題はない。バトルを続けてくれ」

「そっか。ならええけど。まあ、ゆうてもやることあらへんからターンエンドやね」

 残りライフは、1。

 アドバンテージだけを奪われた前のターンに対し、今回はライフも大量に奪われた。

 逆転のカードを引く時間は、もう残されていない。




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