さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
お待たせしました!
第4話、スタートです!
錬金~再誕する紅の瞳~
ボン、という軽い爆発にも、ダンはもう聞きなれてしまっていた。
ダンの歩いている廊下の先、アンジュの部屋から出る煙が出ているのも、もはやちょっとした日常的と感じるのだから、慣れというのは恐ろしいものである。
「なんかすごい音したけど大丈夫?」
「ああ、またアンジュだ」
「ああ……じゃあ平気かな」
最も親しい間柄のリゼがこの対応なので、ダンも心配は特にしていなかった。
食事はいつも同じ部屋で4人集まって食べているのだが、その時見るたびに顔色が悪くなっているのはきっと気のせいだろう。
「今更聞くのも遅いかもしれないが、アンジュはあれで大丈夫なのか?」
「もう10年は言い続けてるけど無駄よ無駄。研究に没頭すると何言っても目を離した隙にああなるからもう諦めてる」
「……そうか」
「それで研究が終わると数日寝込むんだからホント大変なのよ。まったく……心配するこっちの身にもなって欲しいんだけど」
なんだか不思議な関係だなぁと、ダンは思う。
年齢は直接聞いてはいないが、リゼとアンジュはぱっと見で年齢は近くない。アンジュの方が一回りも二回りも年上だろう。
だが、彼女たちの会話から察するに、迷惑をかけているのはいつも年上のアンジュのほうで、気に欠けているのは年下のリゼのようだった。
「リゼはんダンはん! すごい音しとったけど平気?」
後ろから、戌亥から呼ばれて2人とも振り返る。
小走りにやってくる戌亥は、メイド姿になっている。彼女曰くお給仕先の制服らしいそれは、とても戌亥に似合っていて、違和感を感じない。
「またアンジュだから、私たちは大丈夫だけど」
「ああ、せやったか。ならええか」
2人の前で立ち止まって、服の埃を払う戌亥の反応も、これまた心配はしてなさそうだった。
戌亥もまた振り返ると、来た道を戻るように歩き、2人もそれについていくようにこの場を後にした。
「それよりとこちゃん! 今日のディナーは何かな!?」
「ん~。今日は肉じゃがかな~。お肉も消費しないとアカンし」
「お! いいね! とこちゃんの肉じゃが美味しいからな~」
「リゼはん、私が何作ってもそれ言っとるやん」
「ええ、だってとこちゃんの料理美味しいし……ねぇダンくん!」
「ああ、そうだな。俺はカレーくらいしか作れないし尊敬するよ」
―――そんな会話を遮ったのは、2度目の爆発だった。
目を見開いて、3人とも音の発信源を見やる。
1度目よりも大きな音を伴った爆発は、しかし特に扉や壁を壊したりなどはしていないようだった。だが、心なしか扉の隙間から湧いている煙が、さっきより多くなっているように見える。
冷や汗を流して、3人がそれぞれ、他の2人と目を合わせた。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
「いや、これはちょっと……」
「アカンかもなぁ」
リゼが管理しているマスターキーでアンジュの部屋に入り、そこから気絶しているアンジュが救出されたのは、それから数分後のことだった。
◇◇◇◇◇
ゆらり、と揺らぐ。
ふわ、と漂う。
夢心地の中、アンジュの思考は鈍っていた。
これまで何をやっていて、これから何をやりたくて、どうしてこうなったのか。
そういったことを思い出す気力も、思考する力もなく、ただただそこにいた。
まるで、海の中にうつ伏せで潜ってるかのように、腕や足には力がなく、背筋は丸く、その姿からは活力を見いだせない。
漂う闇の中―――それを見る瞳が、光る。
「――――――っ!?」
咆哮。
それに伴って起きた衝撃がアンジュを襲い、その衣服を、髪を煽る。
両腕で顔を覆ってそれに耐えるアンジュは、その両腕の隙間から咆哮の主を見た。
紅い、ドラゴンだった。
その姿にはとても見覚えがある。アンジュがバトスピを始めた時に初めて出会ったカードであり、そして今回の
(そうだ、実験だ……。私は、自分の部屋にこもって研究してたんだ)
そうして彼女は思い出す。これまでと、そしてこれからを。自分の思考が戻っていくのを、アンジュは自覚していく。
故に、ここが現実でないことはすぐに理解した。
バトルスピリッツのカードには、時たま
その意思が、持ち主の精神世界でコミュニケーションを計ることを、アンジュは知識として知っていた。初経験ではあったが、しかし、自分のやっていた研究の事を考えれば、このスピリットに意思が宿ったことは想像に難くなかった。
「で、こんなところに呼んでなんの用な訳?」
自らの相棒たる、そのスピリットに問う。
返ってきたのは―――威嚇の咆哮だった。
衝撃がまたアンジュを襲う。
敵対的だ。少なくとも今は向かい合っていて、同じ方向を見ようとしているとは思えない。
随分と嫌われてしまったものだと、両腕に隠れて呆れた笑いが出た。
「そんな怒らんでも良くない? 初めて話すんだからもう少しこう、ね?」
両腕を崩して、スピリットとの会話を試みる。
視線が交わる紅の瞳は……無反応。
どうやら、取り付く島もないようだった。
「なあ、特に用事がないなら帰してくんない? 」
やはり、回答はない。
面と向かってここまで嫌われるのも中々ないなぁと思いながら、打開策を思案する。
(ここが精神世界であるのなら、ここは私の思考の中だよね……だったら、自力で抜け出せないということはないよなぁ。一方的に呼ばれて、一生抜け出せないなんてことは無いはず……)
そんなアンジュの様子に、紅の瞳がまた光る。
相手にしようとしない、そんな態度が逆鱗に触れたか、再び咆哮を放って―――。
「うるせぇぇぇえええ!!!!!!」
それよりも大きいアンジュの声が、空間を覆った。
アンジュからは良く見えていないが、瞳の主が思わず口を閉じた気配だけは感じて取れた。
「さっきから煩いんだけど! 用事があるならちゃんと言いなよ! 用事がないなら帰してほしいって言ったよね!? スピリットでも言葉は伝わるでしょ!!」
まくしたてるように放たれる言葉に、瞳の光がハの字に曇る。
「ていうか何でそっちが偉そうなの!? 私がカードの持ち主で、ここは私の精神世界でしょうが! 土足で入り込んどいて偉そうに吠えるんじゃなぁぁぁあああい!!!!!!」
言いたいことを言いきって、アンジュは肩で息をしていた。
ハの字に揺らぐ瞳は、アンジュのその喧騒に1歩距離を置いてしまっている。
「はぁ……で、何の用?」
直後、暗闇の世界が照らされ始める。
紅の瞳は瞼の中に隠れ、その全身がハッキリと見えてくる。
アンジュは、それに手を伸ばした。
触れることは叶わない。
光が満ちて、暗闇が消えるのと同様に、瞳の主が消えていく。
その瞳が、どことなくシュンとしていたように見えたのは、アンジュの気のせいだろうか。
アンジュがその姿に触れる直前に、その姿が完全に消える。
その手に残ったのは、1枚のカード。
見慣れたそのカードを視認したころに、世界は光で完全に染まった。
「いや―――」
◇◇◇◇◇
「―――結局なんの用だったの!!!!!!」
「おー、おはようアンジュはん。案外元気そうやね」
「……え?」
気付けばそこは、いつもみんなで食事をとっている船内の食事処だった。
キッチンから連なるこの部屋は、ここ数日ですっかり4人の共有スペースとして馴染んできていた。
「アンジュが研究してたっていうこのリバイバルカードってなんだ?」
「カードが新しい効果になって生まれ変わる現象がリバイバルで、リバイバルしたカードがリバイバルカード。基本的には使用者の強い心に反応して起こるんだけど、人工的にリバイバルしようって技術もあってね」
「俺が持ってる『レイニードル』や『バスタースピア』とかはその類か」
「そうそう。一部のカードは安価でリバイバル出来たりするから、市場に出回ってることは珍しくはないかな」
部屋の中央にはテーブルと椅子が4つあり、アンジュは部屋の隅に置いてあるソファーにいた。声をかけた戌亥は同じソファーに座っていて、リゼとダンは中央のテーブルでカードを待ちながら何やら話し込んでいた。
そんな2人も、アンジュに気付いて、彼女の方へ体を向ける。
「あ! アンジュ! 大丈夫なの!?」
「まあ、目が覚めたか。よかった」
リゼはそこから立ち上がって、アンジュの元へと小走りで駆けよる。
状況を掴んでるような、掴んでないような。ちょっとしたパニックで冷や汗を流しながら、みんなへ返したアンジュの第一声は……。
「えーっと……お、おはよう?」
設定紹介
リバイバル
バトスピのカードの中には、生まれ変わり、新たな能力を得て生まれ変わるカードが存在する。
それがリバイバルカード。
主に持ち主の強い思いに影響されてリバイバルすることが多いが、最近では人工的にリバイバル出来る技術が開発されている。
レア度の低いカードのリバイバルは安価で済むこともあり、通常のカードと同様に市場に出回っていて、リバイバルカード自体は珍しいものではなくなった。
しかし、Xレア相当のカードのリバイバルは未だに安定せず、高い技術や強い思いが必要である。
一説によれば「リバイバルするカードは決められており、リバイバルが不可能なカードが存在する」と言われているが、真相は不明である。
アンジュの専門とする錬金術も、カードのリバイバルに精通しており、最近の彼女の研究は、もっぱらカードのリバイバルが中心らしい。