さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
リゼ・ヘルエスタ
ヘルエスタ王国を治める王家「ヘルエスタ家」のもとに、現国王の娘として生を受けた。
5人兄妹の4番目であり、上に兄が2人と姉が1人、下に弟が1人いる。ヘルエスタ家の次女という意味で、公には「ヘルエスタ王国第二皇女」と名乗っている。
今年で17歳になるが、子供っぽい趣味が小さい頃からずっと続いている。部屋には、お気に入りの「手のひらサイズのひよこのぬいぐるみ」がいくつか置いてある。
自他ともに認める人見知りは、小さい頃から今でも悩んでいることのひとつ。ヘルエスタ家の決まりで、身分を隠して学校に通っているが、学校での友達は少ない。
アンジュとは10年の付き合い。9~10歳ほどの年が離れているが、お互いの認識は「幼馴染の親友」のようだ。対等に仲良く話しているところは、いろんな人に目撃されており、「第二皇女と天才錬金術師」のセットとして、良く扱われている
1年ほど前に戌亥と知り合ってからは、戌亥も交えて3人で良く遊んでいる。
「アンジュはまだ見つからないの!!!!!?」
王宮の一室に、リゼ・ヘルエスタの怒号が響く。
「今、捜索隊が調査を」
「その話はもう12時間前から聞いてる! 進展は何もないのかって聞いてるの!」
なだめようとする執事───セバスの言葉も意味をなさず、彼女の怒りは、時間とともに増すばかりだった。
普段は温厚で優しい彼女は、執事を理不尽に怒鳴りつけることなど、今まで一度としてそんなことはなかった。
それほどまでに親友─アンジュ・カトリーナの失踪に、リゼの心は追い込まれていた。
消息を掴めなくなったのは昨晩のこと。とりとめのない話のために連絡を取ろうして、あらゆる通信手段を用いても反応がないことがきっかけだった。
普段夜更かしばかりしているアンジュが、夜に連絡が取れないなんてあり得ないと、リゼが直接アンジュの家を訪問して、そこで誘拐が発覚した。
家の周囲には争いの後もあり、すぐさま捜索隊を動かした。
だが、それから12時間。アンジュの行方は、いまだ掴めていない。
痕跡自体は少しずつ見つかっているのだが、どれも行方を掴む核心的なものではなく、捜索はかなり難航している。
「早くしないと、アンジュが……アンジュが……!」
親友への心配と不安と焦り。そして、何も悪くない執事に当たってしまっていることへの自己嫌悪。まだ17歳になったばかりの少女から、冷静さを奪うには充分だった。
そして、自分はこの部屋の中で、ただ待つことしか出ないという無力感。
彼女の目から涙が溢れてくるのも、仕方ないことだった。
「リゼ様……」
ピピピと、彼女の様子になにも言えず立ち尽くしていた執事の通信機が鳴る。
その音に、顔を伏せていたリゼが、その顔をあげて執事の方を見る。
通信相手は。
「これは───
「とこちゃん!?」
戌亥とこ。その名前を聞いて、リゼは形相を変えて急いでセバスから通信機を取り上げた。
「なっ! リゼ様!」
その通信をリゼが出る
《おおきに~セバスはん》
「とこちゃん! アンジュ見つかったの!!!?」
《ぅお!? り、リゼはん? あれ? もしかして私、かけ間違えてもうた?》
「そんなことより、アンジュは……!」
戌亥とこ───彼女もまた、リゼの数少ない友人の1人。頭に犬耳、腰から尻尾も生えている、いわゆる獣人である戌亥は、その人間よりも優れた五感や身体能力を使って、アンジュ捜索に協力している。
そんな戌亥から連絡だ。きっとアンジュへの手がかりを見つけたに違いない。
そう思ったら、体がいつの間にかセバスから通信機を奪っていた。
《まあまあ、落ち着いてリゼはん。そんな調子やと、話もまともに聞けへんで。ほら深呼吸。い~ち、に~い》
「え? えーっと、すぅ……はぁ……。すぅ……ってそうじゃなくて!」
《アハー↑ やっぱりリゼはん面白いわぁ》
「ちょっと、からかってる場合じゃ」
《場合やで。一旦落ち着かんと、な?》
いわれて気づく。
深呼吸したおかげで、上がっていた心拍数が少しだけマシになった感覚がする。
それを自覚するのと同時に、焦っていた心が、少しだけ余裕を取り戻す。窓からさす光に、昨晩からの時の流れを読み取れるくらいには、冷静になれた。
「……ありがと」
通信機にまたひとつ着信が来た。
リゼが開くと、戌亥が送った写真が画面に表示された。
《多分、アンジュはんそこにおるよ》
そこには、古びた遺跡が写っていた。
リゼもまたその神殿を知っている。
ヘルエスタの首都、その外れにある小さな林の奥にポツンと佇む、歴史的な価値もほとんどないような神殿。
「……多分って?」
《直接見れた訳やないんよね。ただ、アンジュはんの匂いはかなり強い。もしかしたら、もうあの神殿の中ちゃうんかな》
「……アンジュはそこに囚われてるってこと?」
《どうなんやろ。アンジュはんと犯人の人のっぽい足跡もあるし、捕まえて運んだというより、2人でこの中にはいいたんやないかな。アンジュはんを縛り付けとくためにここにいるんと
「敵の狙いはアンジュ自身……ってことは、アンジュは無事かもしれない!」
《少なくとも、死んでへんやろうな》
リゼの涙は、もう消えていた。
「セバス!
「は? そ、それはどういう……」
急いで外出の身支度を始めるリゼに、執事が困惑の表情を示す。
まさかと思うが。と、リゼの意図を察した執事の心を呼んだかのように、リゼが強く宣言する。
「私も、アンジュのところへ行く!」
「な、なりませんリゼ様! 相手はあの
制止の言葉に、しかしリゼは意に介さない。
「もちろん護衛隊はつれてくし、向こうにはとこちゃんだっている。だから心配しないで」
「しかし!」
「それに!!」
執事の言葉を遮って、リゼが執事と向き合う。
「私は、『親友のピンチに、引きこもって何もしなかった皇女』になんて、なりたくない!」
先ほどまで涙を浮かべていた目は今、とても決意に満ちていた。
何があっても、アンジュ・カトリーナを助け出す。
きっと、そんな覚悟がリゼの中にあるのだろう。
「……分かりました。
その決意に、気迫に、執事は負けた。
「護衛は私が直接声かけてくるから、そんじゃ、行ってくるねセバス!」
「……はい。お気を付けて」
ドタバタと走って部屋をリゼを見送って、執事はリゼに奪われていた通信機を拾う。
《セバスはんも大変やねぇ》
通話は、まだ繋がっていた。
「いえ。……戌亥様に比べたら、これ程度なんでもございません」
《うん……うん?》
「とぼけなくても良いですよ」
通信機を耳に当てながら、セバスもまた部屋を出る。
「例の遺跡があるところは、戌亥様が最初に捜索に向かった方向とは真反対の場所にあります。半日で首都の端から端まで探しきるとは、頭が上がりません」
《ああ、そういうことな》
通話しながら、セバスは廊下を歩きつつ、手元の書類を眺めている。
アンジュの捜索班の報告書だ。どれもめぼしい情報は書いていない。強いて上げるなら、これが失踪事件ではなく誘拐事件であることを突き止めたことくらいだろう。
戌亥はリゼやアンジュととても仲良くしているが、正式にはヘルエスタに籍を置いてる訳ではない。言ってしまえば部外者だ。
そんな部外者の情報に頼らざるを得ない状況は、国の人間として恥を感じてしまう。
《ええよ気にせんで。アンジュはんが心配なんは私も
「そう言ってくださるとこちらもありがたいです」
《ほな、リゼはんが出る時にまた連絡してや》
「了解です。リゼ様をよろしくお願いします、戌亥様」
《おおきにな~》
戌亥がアンジュとリゼを「はん」付けしているのはわざとです。
また、この世界観では2人はにじさんじに入っている訳ではなく、ライバーでもありません。
精一杯描写しているつもりですが、何か気になった描写があれば、遠慮なく感想などで聞いていただければと思います。
今のところは1話までしか構想が無く、1話を投稿し終わった後に続きを書けるかどうかが怪しいのですが、それでも良ければ読んでいただけると幸いです。