さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~   作:多田 竜一

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猛攻~ダークヴルムの雷~

 ルークの第4ターン。

「メインステップ! 『クリスタニードル』をLv1で召喚!」

 新たに現れた紫のシンボル。それが割れ、現れたのは宙を漂う紫の蛇だ。東洋の竜のように、蛇のような体躯に取って付けたような翼で宙に浮いて、その身体をくねらせている。

 『クリスタニードル』Lv1のBPは1000。今フィールドにあるスピリットの中では、文句なしに最弱のステータス。

 だが、バトル・スピリッツのカードは、フィールドにある同じ色のカードの数だけコストが下がる。

 つまり、この『クリスタニードル』は、次に召喚するスピリットの布石。

 ルークは、満を持したと言わんばかりに、手札1枚を高く掲げる。

「そして現れろ! 『魔界竜鬼ダークヴルム』! Lv2で召喚!」

 その声に呼応して、フィールドの空が突如、暗雲に覆われる。

「っ───!」

「な、なになに!? なんなの!?」

 その暗雲から、暗黒の雷がフィールド全域に降り注ぐ中、その中の1つがバトルフィールドのルーク側のフィールドに落ちる。

 その雷は砂塵を巻き上げ、そこに1体の竜を呼ぶ。

 黒き雷を纏ったその翼が砂塵を払い、その奥で碧の瞳が強く光る。

 『魔界竜鬼ダークヴルム』───その竜の咆哮と共にフィールドは再び光を取り戻した。

「『ダークヴルム』……か」

「なんだ? 『ダークヴルム』を知っているのか?」

「……そのスピリットは知らない。だが、"『ダークヴルム』"の名を冠したスピリットには、少し因縁がある」

「ほう……そいつは面白い事を聞いた」

 ルークがフィールドに現れた『ダークヴルム』に目を向けると、それと同じタイミングで『ダークヴルム』もまた、ルークへとその顔を向けた。

「こいつは俺がバトスピを始めた時からの古い付き合いでな。俺のバトルは、常にこのドラゴンと共にあった」

 そう語るルークの瞳は、先ほどとはうってかわって穏やかなものになっていた。

 ───しかし。

「だからこそ! 『ダークヴルム』には俺の魂を賭ける(・・・・・・・)価値がある!」

 直後、ルークの瞳に狂気が戻り、それと同時に『ダークヴルム』がルーク目掛けて(・・・・・・・)飛びかかる。

「っ!?」

「『ダークヴルム』の召喚時効果! 俺のライフを1つ、トラッシュへ送る!」

 『ダークヴルム』は、その口から黒い雷のブレスをルークに放ち、ルークはそれと両腕を広げ向かい合う。紫のバリアが展開され、そこから伝わる衝撃が、ルークのライフを1つ破壊する。

 これにより、ルークのライフは残り2つ。5つから始まったライフが半分を切った。

「自分のスピリットに自分を攻撃させるって……ホントなんなのアイツ……!?」

「……スーサイド戦法か」

「これにより! 俺はカードを2枚ドローする!」

 スーサイドとは「自殺」という意味の英単語。すなわちスーサイド戦法とは、敗北に直結するほどの重いコストを払う必要のある、強力な効果を持つカードを使う戦法のこと。

 『ダークヴルム』はコスト4のスピリットだが、このコストのスピリットが召喚するだけで2枚ドロー出来る効果を持っているのは、ことバトスピにおいては破格の性能になる。

 だからこそ、ルークはその効果に、5つしかないライフの1つ差し出す価値があると、そう信じている。

 ───しかも、ルークの展開はこれで終わらない。

「さらに! ライフ減少(・・・・・)で【バースト】発動!」

 その宣言と共に、前のターンにルークの場に伏せていたカードがその姿を露にする。

「っ───!?」

「『選ばれし探索者アレックス』の【バースト】効果で、『アレックス』自身をノーコストで召喚する!」

 フィールドが霧に包まれる。白い霧は、徐々に赤、紫、緑、黄、青と色を帯びていく。

 6色に彩られた霧の向こう。そこにいるのは一人の少女。

 『選ばれし探索者アレックス』―――その麗しい姿がフィールドに現れる。

「『アレックス』はその【バースト】効果で、ボイドからコアを1つリザーブに置くか、1枚ドローすることができる」

「コアブーストか手札補充か」

「俺はコアブーストを選択! そのコアで『アレックス』をLv2にアップ!」

 『アレックス』Lv2のBPは8000。そして並び立つルークのスピリットたちは、『ダークヴルム』Lv2/BP4000、『クリスタニードル』Lv1/BP1000、『ガスミミズク』Lv1/BP1000の3体。『アレックス』と合わせて4体。

「アタックステップ! 行くぞ! 『ダークヴルム』!」

 ルークが盤面の『ダークヴルム』のカードを横に倒し、フィールドの『ダークヴルム』が雄叫びとともに飛び上がる。

「『ダークヴルム』Lv2のアタック時! 相手スピリットのコア1つをリザーブへ送る! 『アルファレジオン』を指定!」

 飛び上がった『ダークヴルム』の翼から、紫の雷撃が放たれる。その雷撃はアルファレジンを容赦なく貫き、『アルファレジオン』はその場で膝をつき、消えた。

 消滅。

 バトスピでは、召喚されたスピリットにコアが置かれる。このコアが多く置かれるほどに、そのスピリットそのLvは上がっていく。逆に、コアが1つもなくなったスピリットは、フィールドに存在できずにトラッシュ送られる。これが消滅。

 今回の場合。『ダークヴルム』の効果によって『アルファレジオン』のコアが強制的に1つ取り除かれ、0にされてしまったため消滅した。

 この『ダークヴルム』の効果こそ、ルークが使う「紫」のカードの得意とする効果。

 相手のスピリットを、まるで毒で弱らせるようにコアを取り除き、やがて消滅させていく戦術「コアシュート」だ。

 そして得意とする効果(・・・・・・・)はもちろん、少年の使う「赤」のカードにも存在する。

「フラッシュタイミング! マジック『フレイムスパーク』を使用。不足コストは、『ヘリオスフィア・ドラゴン』から確保。よってLv1にダウン」

 マジック『フレイムスパーク』はコスト5のカード。場にセイントフレイムと同じ色であるカードが1枚、『太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴン』が存在しているので、コストが1つ軽減されて4コストになる。

 少年は、『ヘリオスフィア・ドラゴン』にコア2つのみを残し、それ以外のコアをコストに『フレイムスパーク』を使った。

「合計BP5000分の相手スピリットを破壊する。BP1000のガスミミズクとクリスタニードルの2体を破壊」

 少年の背後から、赤い炎が2つ、飛び這うようにフィールドを駆ける。飛んでいた『ダークヴルム』とすれ違った直後、その炎は少年の指定した2体を貫いた。

「チッ―――!」

 これが、少年の使う赤のカードの特性。相手スピリットのBPを参照し破壊してくる。条件さえそろえば何体でも同時に破壊する制圧力。

 炎に貫かれた2体のスピリットが、爆発し、破壊される。

 さらに、フレイムスパークには、この効果でスピリットを破壊した時、自分のトラッシュから好きなスピリットを手札に戻す効果も付いている。少年はこの効果で、『ダークヴルム』によって除去された『アルファレジオン』を回収した。

 それを、ルークは意に介さず、

「だが『ダークヴルム』は破壊されていない! こいつのアタックはまだ終わってないぜ!」

 2体が破壊された爆風の向こう、『ダークヴルム』は飛翔を続け、すでに少年の目の前までたどりついていた

 だがやはり、少年は動じることもなく。

「ライフで受ける!」

 飛翔してきた『ダークヴルム』はそのまま少年めがけてダイブした。目の前に紫色のバリアが展開され、そのバリアに、サークヴルムガ衝突する。その衝撃が、バリアを通して、少年のライフを1つ砕く。

 少年のライフは、残り3()

 ルークの場には、まだアタックができる『アレックス』。対し少年にブロックできるスピリットはいない。ルークにとっては、絶好の攻撃のチャンス。

 そのチャンスを、ルークは逃さない。

「『アレックス』! お前もやれ!」

 ルークの声を受けて、『アレックス』がその手に持つ杖を構える。

「ライフで受ける!」

 その杖から、6色に輝くビームが放たれ、少年の目の前に展開されたバリアに衝突する。

 その衝撃が、さらに少年のライフを砕く。

 これで、少年のライフは残り2つ。

 フィールドにいるスピリットによるフルアタック。それにより、残りライフを2つにまで追い込まれる。奇しくも、前の少年のターンと同じだった。

「はっ! 似ているなぁ俺たちは!」

「……なんの話だ」

 まだ痛む胸元を撫でる少年の反応に、ルークは構わず語り続ける。

「バトルスタイルの話さ! ブロッカーを残さずに臆せず攻めるフルアタック! だがその裏には!」 

「……相手の攻撃を誘う意味がある」

「それはカウンターを狙うだけではなく!」

「ライフを打たせ、コアを貯めるため。ふっ……なるほど。確かに似てるかもないな」

 その2人の会話を聞いて、アンジュは。

「なんか私、忘れられてない?」

 少し落ち込みながら、フィールド全体を見渡していた。

 立つのも苦しいほどに痛みがまだ残っているが、せれでも、気になってしまうのだ。

 封印されていたドラゴン、そしてそのドラゴンが選んだという夢に出てきた少年。それらが織り成すバトルの結果が。

「状況は、あの子が有利」

 ルークのターンが終わり、一時の静寂を手に入れた戦況を見る。

 次のターン、回収した『アルファレジオン』を召喚すれば、すでに場にある『ヘリオスフィア・ドラゴン』と2体で攻撃して、残りライフ2つのルークを倒すことができる。そしてルークは、さっきのフルアタックでブロッカーがいない。あの子の攻撃を止める手段は今、盤面にはない。

 だが。

「そんなことはルークも分かってるはず。分かってるはずなのに、あえてブロッカーを残さなかった。それはつまり―――」

 ―――攻撃を、誘っている。

「これは恐らく、攻撃を誘って、フラッシュタイミングでカウンターを決めるための罠。そしてそれは、多分あの子も分かっているし、あの子が気付いていることも(・・・・・・・・・・・・)ルークは分かって(・・・・・・・・)やっている」

 つまり、駆け引きだ。

 お互いが、お互いの狙いに気付いた上で、どう行動するかのか、どう行動させるのかの、駆け引き。

 その、勝敗を決するほどに熾烈な、少年の第5ダーンが。

「スタートステップ」

 今、始まる。




設定紹介
バトルフィールド
 デザインは、少年撃覆ダンのものと同じ。
 この世界では、向き合ったカードバトラー2人が、共に「ゲートオープン 解放」と口にすることで、誰でもここでバトルすることが出来る。
 スピリットが暴れられるよう、そのフィールドは十分に広い。故にバトラー同士も相当離れて相対しているが、何故かお互いに姿は表情までハッキリ見えるし、声もちょっとした呟き程度なら良く聞こえる。
 また、ゲートが開かれる際にそばにいた人は、任意で観客としてともにバトルフィールドに入ることが出来る。
 観客席のようなものが用意されており、観客席の声は、張り上げないとバトラーには届かない。
 ここで行われるバトルでは、ライフが減少する際に激痛が全身を襲う。しかし、慣れれば耐えれないほどではなく、身体に異常をきたすことは稀である。

 またこの世界では、ここで行われたバトルを神聖視する価値観が強く根付いており、特にヘルエスタ王国ではバトスピは“知恵の証”とされていることも相まって、バトルフィールドでのバトルを通して結ばれた約束・契約は、他のどんな書類や公言よりも力を持つ。
 それは、明らかに邪悪な心を持つルークも例外ではない。
 この世界でもまた。バトスピは絶対なのだ。
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