さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
「これで終わりだぁ!」
ルークが、そのバーストに手をかけた―――。
その瞬間。
―――カキン
「……へ?」
「……な、なんだ?」
甲高い音がバトルフィールドに鳴り響く。音源は……少年に向かって放り投げられた『アーミラリー・スフィア』だった。
「なっ……!」
投げ飛ばされていたはずの『アーミラリー・スフィア』が、宙で停止していた。よく見れば、そこに何か刺さっている。
炎の矢だ。炎で出来た矢が『アーミラリー・スフィア』を貫いている。
直後。
「……な、なんだこりゃあ!!」
フィールド全域に、炎の矢が雨のごとく降り注ぐ。これによって他のスピリットが破壊されることはなかったが、降り止んだ頃には、『アーミラリー・スフィア』は破壊されていた。
「貴様かぁあ!」
「お前が『ナイトライダー』を召喚した時、マジック『クェーサーレイン』を使用した」
マジック『クェーサーレイン』は、相手のスピリットが
「BP10000以下の相手スピリット1体を破壊する効果で、お前の『アーミラリー・スフィア』を破壊した」
「チ……バースト発動。『幻影氷結晶』のバースト効果により、破壊された『ダークヴルム・レガリア』を手札に戻す」
「ふ……『ナイトライダー』に【煌臨】するか?」
「こんの……黙れクソガキがぁ!」
今、ルークの場には『ナイトライダー』のみ。このスピリット1体のアタックでは、残りライフ2つの少年を倒すことは出来ない。『ナイトライダー』に『ダークヴルム・レガリア』を【煌臨】しても、与えるダメージは何も変わらない。つまり、【煌臨】しても意味はない。
煽りだ。
ルークの調子を狂わせるための口車。だから、そんな誘いには乗ってはいけない。
「……ターンエンドだ」
アタックしても勝てるわけじゃない。なら、『ナイトライダー』はブロッカーとして残す方が賢明な判断だろう。
少年は、絶望のターンを、潜り抜けたのだ。
「す、すごい……」
あまりの攻防に、アンジュは開いた口が塞がらなかった。
彼女もまたカードバトラーではあるが、あの激しい攻防に、ついていけていない。
特に先ほどの攻防。少年のプレイング。
前のターンで、スピリットを全滅させられたと思えないほどに、冷静な対処。相手のキースピリットに臆せず、不足な事態を分析し、見事ピンチ脱して見せた。
並みのバトラーではない。しかも、今日初めて使うというデッキでそれをしてみせている。
もはや、すごいとしか言えない。それ以外の言葉が出てこない。
「あの“黒龍使い”のルークにここまで……まさかあの子、本当に勝てる?」
「いいや、あのガキは勝てねぇよアンジュ・カトリーナ」
意外にも、アンジュに言葉を返したのはルークだった。
「それってどういう……!」
「どうもこうもねぇよ。今あいつは、『
「なっ……!?」
「……」
なんでそんなことが分かるんだ、という言葉が出る前に、ルークが少年を指さして言い放つ。
「何故なら、もしも手札にすでにいたのなら、前のターンに出さない理由がないからだ」
前のターンとはすなわち、ルークのブロッカーが1体も存在せず、絶好の攻撃のチャンスだった、第5ターン。
「確かに俺がカウンターを……『レガリア』を構えていたことをこのガキは察していただろうがな……いや、察していたからこそ、あのターンは攻撃に手を抜けるターンじゃない。あの時俺はライフ2つと追い込まれていた訳だが、ライフが残り2つなのはあのガキも変わらない。仕留め損なえば、追い込まれるのはやつのほうだ」
故に、攻めには全力を尽くさなければならない。中途半端な攻めは自分の首を絞めることになる、そういうターンだった。
事実、少年は『アポロヴルム』を出さなかったし、少年の攻撃は見事にカウンターされ、先ほども敗北1歩手前まで追い込まれた。
「切り札無しに勝てるほど俺は甘くねぇ。『アポロヴルム』のない貴様に、俺は倒せない。お前は、勝てねぇんだよ!」
これは、ハッタリなどではない。ルークのカードバトラーとしての勘が、この状況を冷静に分析して出した確固たる予測。
「そんな……」
「……スタートステップ」
そんなルークの態度を意に介すことなく、少年は第7ターンを開始した。
「いや、まだガキにも勝ち目はあるかもな?」
「え?」
「コアステップ」
「なんせ、まだこのターンのドローステップがある。ここで引けたら、もしかするかもしれねぇなぁ?」
少年が、デッキに右手を添える。
「さあ引けよ! 運命のドローってやつさ! テメェが『アポロヴルム』に選ばれたってんなら、引けねぇことないと思うがよ。もしも引けねぇんなら―――」
「―――ドローステップ」
添えた手で、1枚引く。
そして、引いたカードを確認する。
「ひ、引けたの……?」
アンジュが固唾を飲んで見守る中―――少年は、引いたカードを手札に収めた。
「……リフレッシュステップ」
「ハッ! どうやら引けなかったようだなぁ! 『選ばれた』なんて言葉が聞いて呆れるぜ!」
「アンタの間違いは2つある」
「―――あ?」
少年は、なおも動じず、まっすぐルークを見据えていた。
ルークの言葉に心を動かされることもなく、しかし、その言葉に異を唱える。
「1つは、俺は勝つということ。俺を選んだ『アポロヴルム』のためにも……そして何より、俺自身のためにも、こんなところで負けるわけにはいかない」
「テメェ何言って」
「そしてもう1つは……」
引いたカードを手札に収めたその手で、少年は、
「なっ、なんだと……!?」
少年はそのカードを手に取り、自らの顔の前まで持ってくると、そのカードを翻した。
「切り札はすでに、俺の手の中にある―――」
少年の持つ、そのカードの名は―――。
「―――世界を照らせ。光を背負いし紅の龍よ! 『太陽神星龍アポロヴルム』! Lv2で召喚!」
少年の背後、バトルフィールドでは何もないはずのそこから炎が沸き上がる。
その炎を背に、這い上がる龍が1体。
その翼の一振りで背後の炎を消し去り、『太陽神星龍アポロヴルム』は、けたたましい咆哮を伴ってバトルフィールドに君臨した。
「あ、あれは! 確かにあそこに封印されてた遺跡のドラゴン……!?」
「バカな! 貴様! 俺相手にキースピリットを出し惜しみしていたとでも言うのか!」
「出し惜しみじゃない。温存していたんだ。実際、前のターンに出していたら、お前の『ダークヴルム・レガリア』に破壊されていた」
「クソっ……このガキがぁ!」
「バーストをセットしてアタックステップ! 初陣だ。『アポロヴルム』!」
少年が『アポロヴルム』のカードを横に倒し、そして『アポロヴルム』が天高く舞い上がる。
「『アポロヴルム』Lv2のアタック時効果! BPの最も高い相手のスピリット1体を破壊する」
その標的は、ルークの場に1体しかいないスピリット―――『ナイトライダー』。『アポロヴルム』は、その口に炎のエネルギーを貯めると、それを圧縮し、それを放った。放たれた紅の力は、目にもとまらぬ速さで駆け、次の瞬間には『ナイトライダー』を貫き、破壊していた。
「さらに、『アポロヴルム』のアタック時効果【界放】を発揮。アポロヴルムをLv3にアップさせ、回復させる」
「なんっ―――!?」
『アポロヴルム』の【界放】の効果。それは、トラッシュにあるコアを2つこのスピリットに戻すことで、『アポロヴルム』自身を
通常、アタックしたスピリットはその瞬間に
しかし今、『アポロヴルム』は自らの効果により、アタックした瞬間に即座に
すなわち、連続アタックが可能。
「ライフで受ける!」
天空からルークの目の前まで降り立った『アポロヴルム』はその背に浮かんでいる翡翠の刃を無数にルークへ向ける。
ルークの前に赤いバリアが張られるのとほぼ同時に、その刃がルークを襲い、バリア越しにその衝撃がルークのライフを砕く。
ルークの残りライフは1つ。そして、『アポロヴルム』は連続アタックが可能。
「再び羽ばたけ! 『アポロヴルム』!」
【界放】の効果により、『アポロヴルム』は再び回復する。
ルークの最後のライフへ、『アポロヴルム』が襲い掛かる。
このライフを失えば、ルークは負ける―――!
「舐めるなよクソガキがぁ!」
ルークは、ライフを砕かれた痛みを無視して、手札からカードを2枚盤面に投げる。
「フラッシュタイミング! マジック『ネクロリバース』を使用! トラッシュにあるコスト3以下の紫のスピリットをノーコストで召喚する! 甦れ『シキツル』!」
フィールドの1部分に黒い靄が現れ、それが張れるのと同時に、そこに『シキツル』が現れる。
「さらにフラッシュタイミング! マジック『シヴァカタストロフィー』を使用!」
「なっ! 2枚目!?」
「アポロヴルムをLv1までダウンだぁ!」
ルークがその場で右手を振るうと、その軌跡を追うように紫の衝撃波が生まれる。それが空を駆ける『アポロヴルム』をとらえ、『アポロヴルム』がそれを受けた時、その衝撃でバトルフィールドに墜落する。
本来、ルークがマジックを使ったなら、その次にマジックを使う権利は少年に移る。しかし、少年に動く気配はない。
「ハッ! さっきのカウンターで万策尽きたか! 何もねぇならぶっ潰れろぉ! フラッシュタイミング!」
ルークが、その手札にある『ダークヴルム・レガリア』のカードを手に取る。
今、ルークの使えるコアは、シキツルに乗るソウルコア1つしかない。【煌臨】を使うためにはソウルコアをトラッシュに送る必要があり、使えるコアがソウルコアしかない現状では、本来【煌臨】は出来ない。
しかし、『ダークヴルム・レガリア』は違う。このスピリットには、コスト3または4のスピリットに【煌臨】するとき、ソウルコアを使わずに【煌臨】することが出来る効果がある。
すなわち、ルークの切り札は、いまだ健在。
「再び我が戦場に【煌臨】せよ! 『魔界皇龍ダークヴルム・レガリア』ぁ!」
墜落し、バトルフィールドに横たわっている『アポロヴルム』の側に、その影は現れた。
墜落時の粉塵を振り払い、『ダークヴルム・レガリア』がその瞳で『アポロヴルム』をとらえる。
「煌臨時効果……テメェの攻撃はここで終わりだぁ!」
杖を持ったその腕は、すでに振り上げられていた。次の瞬間、『レガリア』の杖が『アポロヴルム』の肩を貫き、『アポロヴルム』は瞬く間に弾け飛んだ。それは爆発を生み、爆風がフィールドを包む。『レガリア』はその爆発に巻き込まれることなく、ルークの傍まで後退した。
前のターン、少年のスピリットを全滅させた『レガリア』と『シヴァカタストロフィー』のコンボが再び決まった。
少年の『アポロヴルム』にこれを凌ぐ手立てはなかった。
「なーにが『負けるわけにはいかない』だ」
爆風が両者の視界を遮っているが、構わずルークは語り続ける。
「『アポロヴルム』を隠し持っていることには少しビビったが、それだけだ。結局俺の『レガリア』には敵わない。テメェの負けだクソガキ」
その爆風の向こう。
「いいや―――」
そこに、二対の瞳が輝く。
「―――俺の勝ちだ」
『
「な……はぁ?」
破壊されたはずの『アポロヴルム』はしかし、未だフィールドに健在だった。
しかも。
「レベル……3だと……? 何が起こっていやがる……? 『シヴァカタストロフィー』は? 俺の『レガリア』は!?」
その答えは、少年の盤面にあった。
アタック前に伏せたバースト。それが、翻っていたのだ。
「マジック『ライジングフレイム』のバースト効果だ。破壊された系統:『星竜』を持つスピリットを、1コスト払って召喚する」
「バカな……? 破壊時バースト……? 俺の『レガリア』を読んだのか?俺の場に煌臨元は無かったっていうのに……! 全部……全部テメエの掌の上だったって言うのか!?」
「再び行け! 『アポロヴルム』!」
その声に応え、『アポロヴルム』が地面を蹴る。
地面とすれすれを飛行し、一直線にむかう、その先は―――。
「『アポロヴルム』のアタック時効果。『ダークヴルム・レガリア』を破壊する」
首根っこを掴まんとする『アポロヴルム』の手を、『レガリア』は杖で受け止めた。
だが、それ程度で勢いが止まるわけもなく、そのまま上空へと押し上げられる。
ある程度押し上げられてから、『レガリア』がその腕を払う。そしてそのままその口に黒い雷のエネルギーを溜める。それを見てか否かか、『アポロヴルム』もまたその口に赤い炎のエネルギーを溜める。
それをお互いに放ったのは同時。お互いのエネルギーがつばぜり合い、反発を起こして火花が起こる。それらがお互い消滅して爆発したのは、数秒後のことだった。
爆風に覆われ、『アポロヴルム』を見失った『レガリア』は、視線をあちこちへと向ける。だが、その甲斐虚しく、『レガリア』の背後から無数の翡翠の刃が突き刺さる。
翼を切られ、その場から落下した『レガリア』は奇しくも爆風から解放された。が、もはや彼の龍に抵抗する力はない。目の前に現れた『アポロヴルム』のブレスを、『レガリア』は無抵抗に受けた。
炎を浴びながら吹き飛ばされる。下へ、下へと押し込まれ―――ルークの姿とすれ違う。
それは、ルークの背後で爆発した。『レガリア』の断末魔が耳に届くが、ルークは振り返れなかった。
すでに目の前に―――『アポロヴルム』がいる!
「そしてこれがメインのアタックだ」
その背後にはすでに無数の翡翠の刃が構えられていた。
フィールドにカードはなく、残されたコアはソウルコア1つのみ。
この状況で、ルークがこの攻撃を防ぐ手段は、ない。
「ああそうかよ……」
それでも、ルークは逃げるつもりはなかった。
その場で、両腕を大きく広げる。
この一撃から、敗北から、いやバトルから、決して逃げることはしない。
それがルークの、バトルスピリッツに賭けてきた誇りだった。
「行け! 『アポロヴルム』!」
「来い! ライフで受ける!」
その刃が、赤いバリアへ届き、ルークの最後のライフは砕かれた。
ここまで書いてからやっと気づいたけど、「さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~」ってタイトルなのに、さんばかがバトルしてない!?
何故!? ←