さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~ 作:多田 竜一
「俺の勝ちだ」
遺跡の地下。アポロ・ヴルムが封印されていた部屋に、ルークは横たわっている。
「約束通り、彼女からは手を引いてもらうぞ」
少年は、そのルークを見下ろして、そばに立っていた。
ルークは、少年に目を合わせず立ち上がり、一言。
「……ああ、わかってる」
それだけを呟いて、服をはたいて埃を落とす。
その様子を見て、思わずキョトンと、少年は抜けた表情を示した。
「……随分と素直なんだな」
「あ? お前、俺が賭けを守る確証も無しにバトルを仕掛けたのか?」
「まあな。信じてはいたが、確証は無かったよ」
「……チッ!」
舌打ちをして、直後、ルークが少年の胸ぐらを掴む。
特に動揺を示さない少年に、ルークは一方的に怒りを浴びせた。
「いいか! 良く聞けクソガキ! お前の世界じゃどうだったか知らねぇがな! この世界でのバトスピは『知恵の証』だ! 負けたやつの言葉は愚者の遠吠え……なんの価値もねぇんだよ!」
その怒りをただ受け止めて、少年が返したのは、一言だけだった。
「だとしても、アンタのカードバトラーとしての誇りに、感謝するよ」
柔らかい、子供をあやすような笑み。その見た目には似つかわしくない余裕に、ルークは呆れて胸ぐらを掴んだ手を放した。
「……ルークだ」
「……? 何だ?」
「俺は“黒龍使いのルーク”だ。お前の名前はなんだ?」
「ああ、そういうことか……」
名前を問われた少年は、少しうつむいて、右手を見た。
そこには『太陽神星龍アポロヴルム』のカードが握られている。
まるで、自分の存在を確かめるように、じっくりと見ていた。
少年自身、自分の身に何が起こっているのか良く分かっていなかった。下手に名乗るのも良くないのかもしれない。異世界人である自分が、この世界にどれだけの悪影響をもたらすか分かったものではない。混乱を避けるなら、名乗らずにここから去るのも良いだろう。
だが。
「―――」
そこまで考えて、少年は自分の世界のことを思い出す。
そして決心する。自分は元の世界に帰らないといけないと。
そしてそのためには、隠れている訳にはいかないと。
この世界の人に、どれだけ迷惑をかけるか分からない。しかし、それでも。
世界を巡る覚悟が、決まった。
「馬神 弾。異世界から来たカードバトラーだ」
「そうか、バシン ダンか……」
ルークはそれだけ確認すると、少年に背を向けて歩き出した。
「っ。おい」
「ヘルエスタの捜索隊が恐らくすぐ近くまで来てる。捕まりたくないんでな。さっさととんずらさせてもらうぜ」
「……」
「バシン ダン……ああ、覚えたぜ、その名前。今日のところは諦めるが、貴様も覚えていろ。『アポロヴルム』は、必ず俺が手に入れる……!」
「……ああ、覚えておくよ、ルーク。あんたほどのカードバトラー、そうそう忘れることはないさ」
「ハッ! その女、運べるようならこの部屋から出しておけ。俺を追ってる捜索隊に渡せば、どこよりも安全だろうよ。じゃあな!」
そこまで言ってから、ルークはこの場から走り去った。
すぐに見えなくなって、少年「馬神 弾」は、壁にもたれて座っているアンジュへと駆け寄った。
とても弱っていた。だが、まだ意識はある。
「おいアンタ。大丈夫か」
「ハハ……ちょっと大丈夫じゃないかも……いてて」
腹部を押さえながら立ち上がろうとするアンジュの肩を、少年が掴んで静止する。
「ルークの言うことが本当なら、もうすぐ捜索隊が来るらしい。アンタの仲間なんだろ? なら仲間が来るまでは安静にした方がいい」
「ちょっと……そういう訳にもいかなくてさ……」
アンジュは、ルークが走り去っていった通路の方へ視線を向けた。
「ここは、隠し部屋なんだ……。見つけるのに相当、時間がかかると思う……。あんまりここに止まってたら、それこそ私の傷が手遅れになるかも……」
「そうか」
それを聞いて、弾は無言で彼女に手を差し伸べた。
「……へ?」
「肩を貸すよ」
「いや、良いよ。ルークから助けてもらってそこまでしてもらう訳には……異世界人とか言ってたし、君も君で何かやらんきゃいけないことがあるんじゃないの?」
「ああ。だが、アンタを見捨てないといけないほど、急ぎでもないさ」
いつまで経っても手を取られなかった弾は、有無を言わさぬと言った様子で、腕を彼女の肩に回して、彼女を立ち上がらせた。
「……ありがとう」
2人はゆっくり、1歩ずつ、歩き出した。
「そういえば、ええっと……馬神 弾くん……だっけ?」
「ダンでいいよ。アンタの方が年上だろ?」
「じゃあ私もアンジュでいいよ。アンジュ・カトリーナ。よろしくね」
「ああ。よろしく、アンジュ」
今回の最強情報
ルークの使った『魔界竜鬼ダークヴルム』は召喚時、ライフ1つをトラッシュに送ることで2枚ドローすることができる。
本来、この召喚時にライフ減少でのバースト発動は、『ダークヴルム』の効果によって封じられているが、『選ばれし探索者アレックス』はバーストとしてセットされている間、あらゆる効果を受けないため、『ダークヴルム』の効果を無視して発動できるのだ。
◇◇◇◇◇
次回予告
ヘルエスタの王城へと連れてこられたダンは、そこで3日過ごしたころ、リゼの弟と名乗る少年にバトルを挑まれる。
ダンの猛攻を次々といなしていく少年のバトルに、ダンは気付く。
「狙いはキースピリットによるワンショットキルか―――!」
「あなたに、姉さんを任せる訳にはいかない!」
次回「さんばかとゆく! ヘルエスタ放浪記~バトルスピリッツ~」
第2話「試されるダン 煌星第一使徒アスガルディアの猛攻」
リゼ「行くよ! アタックステップ!」
◇◇◇◇◇
第1話はこれで終了です。
ついでにいうと、書き溜めていた分も終わっちゃいました。
続きの構想はありますが、出来上がるかどうかは正直未定です。
今回、馬神ダンの時系列は、ブレイヴ直後ということにしています。
バローネとのバトルに勝ち、引き金となってオクトのコアを打ち抜いた後の記憶はありません。
知らないはずの【バースト】や【煌臨】などのルールをしっかり把握していて、彼自身何が起こってるか分からず。
そんな彼がこの世界でどのような旅をするのか、楽しみにしてくださると幸いです。
モチベーションに繋がるので、評価や感想、どしどしください!