原神〜二ツ目の騎士〜   作:倉崎あるちゅ

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 お待たせしました。


二話 四大家系

 

 

 

 グリムの休日は今日を入れて三日しかない。

 よって、ファデュイの調査とは言っても大袈裟なものではなく単純な聞き取り調査に移行した。

 軽く聞き取り調査を行い、それをジンに引き継ぐ形になる。

 

「で、手始めにどこでするんだ?」

「え? 考えてなかったの?」

 

 アンバーと別れて、二人は家の前で立ち尽くす。

 まさか二人とも揃って何も考えていなかったとは思ってもなく、初手から躓いた。

 

「……お前が一緒に来るって言ったし、なんかあるもんだと」

「君がファデュイについて調べるって言うから何かあるかと思って……!」

 

 互いの顔を見合せ、グリムとエウルアは冷や汗を垂らす。

 この二人、信頼し過ぎているが故に共に行動すると、よくこういった情報共有を怠っているのである。

 

「ま、まぁ! アテがないこともないわ」

 

 ふい、と顔を逸らしてエウルアが腕を組んでそう言う。

 

「へぇ、どんな?」

「私の叔父よ」

「……おいおい、マジか?」

 

 涼しい顔をしてそう宣う彼女に、グリムは目を見開く。

 ファデュイについて調べるアテがローレンス家の人間だというだけで驚きだが、エウルア自身から親戚を売るような発言がそれを加速させる。

 

「平気よ。別に私はローレンス家に執着なんてないもの」

「いや、まぁそうだけどよ」

 

 エウルア・ローレンスという女性は、ローレンス家がモンドに害をなすならば、自ら実家に引導を渡して別の姓を名乗ってもいいとすら思っている騎士である。

 ……理解してるつもりだけど、毎回こういうところさっぱりしてるな。

 ……エウルア以外のローレンス家の高飛車具合を見れば嫌でもわかるけど。

 たまにローレンス家の人間が住民に向かって偉そうに話しているのを見かける。グリムもまた、話しかけられた時はうへぇ、と顔に出したものだ。

 

「ちょうど良かったわ。少しでも確証は欲しかったの」

「確かに、ファデュイ(やつら)と繋がっているとわかれば警戒できるからな」

「ええ。それに、叔父は単純よ。すぐに尻尾が出るわ」

「お前、それ身内に対して酷くない?」

「酷くないわ。至って普通よ」

「そ、そう」

 

 言われてみれば、国を脅かす連中と身内が繋がっているとしたら、確かに普通の対応かもしれない。

 

「決まりね。行きましょう」

「……おーけー」

 

 気が重い。

 エウルアの叔父ということは、あの家でもやけに偉そうな人間だ。

 ……一度会ったことあるけど、気難しい人なんだよな。

 ……どうにもあの手の人は苦手だ。

 優雅に歩みを進める彼女の背を見ながら、グリムはそんなことを思う。

 

「あ、グリムさん! こんにちは!」

「ん? おぉ、サラか。おっす」

 

 鹿狩りの前を通ると、店員のサラがグリムに挨拶し、彼は手を挙げて応えた。

 彼が立ち止まったことに気づいたエウルアが不思議に思い、振り返る。

 

「あ、エウルアさんもいらしたんですね! こんにちは」

「えぇ。こんにちは」

「お二人とも、よかったら串焼き食べませんか? 実は作りすぎちゃって」

 

 あはは、とサラは快活に笑う。

 グリムとエウルアは顔を見合せて頷いた。

 

「えぇ。貰おうかしら」

「ちょうど小腹が空いてきたところだ。タイミングがいい」

 

 時刻は昼過ぎ。それまでお互いベッドに蹲っていたので何も食べていないのだ。そこでちょうど良く食べ物が来れば、話に食いつくに決まっていた。

 ぐぅ、とグリムの腹が鳴る。

 

「悪い、追加で何本か欲しい」

「ふふっ、はい。承りました!」

 

 グリムが苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

 サラが用意してくれている間、グリムとエウルアは近くの席に着く。

 

「ずいぶん大きな音だったわね」

「あぁ。俺も驚いた」

 

 テーブルに頬杖をつき、彼は溜息をついた。エウルアは脚と腕を組み、呆れた表情でグリムを見つめる。

 

「さすがに朝からなにも食べてないんだ。仕方ねぇよ」

「……」

 

 ……この男はどうしてこうなのかしら。

 ……確かに、私もお腹が減ってたけど。

 エウルアは心の中で呟き、黙ったままグリムを見やる。

 

「お待たせしました!」

「ありがとう、サラ」

「いえいえ! たくさんありますから、遠慮なく食べてくださいね!」

 

 グリムは串を受け取ると、早速一本手に取った。串を口に含み、肉汁が広がる旨味を楽しむ。

 

「やっぱ美味いな……。助かった、サラ」

「はい! 喜んで頂けて嬉しいです」

 

 グリムが礼を言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

「それで、お二人はデートですか?」

「ん? まぁ、それでも構わないが」

「ちょ、ちょっとグリム!?」

 

 さらっと宣うグリムに対し、エウルアが慌てる。

 その様子を見たサラがくすりと笑みをこぼした。

 

「冗談ですよ。お二人の仲の良さは知っていますからね。おおかた、二人で朝近くまでお酒を飲んでいたんでしょう?」

「……鋭いわね」

「そりゃ、お客さんのことは見てますからね。それでは、ごゆっくり」

 

 サラはひらりと手を振って厨房へ戻って行った。

 彼女の姿が消えたところで、エウルアは小さく咳払いをする。

 

「この恨み、覚えておくわ」

「悪かったって。ほら、お前の分の串焼き」

「ふん……」

 

 グリムから串焼きを受け取り、エウルアはそっぽを向いて串焼きを食べ始める。その様子に彼は苦笑いするしかなかった。

 

「……?」

「ん? どうかしたのか?」

 エウルアの動きが止まる。

 何かに気づいたような素振りを見せた彼女に、グリムが問いかけた。

 

「あれは……」

 

 彼女はその柳眉をひそめ、席から急に立ち上がった。

 

「エウルア?」

「叔父よ。行くわよ」

 

 男らしい食べ方で串焼きを食べ終え、エウルアはカツカツとヒールを鳴らして歩き始める。

 

「え、待てよ。サラ! 悪い、残ったもの包んでおいてくれ。代金はテーブルに置いておく」

 

 サラに一言入れ、グリムは返事を聞かずに少し多めのモラをテーブルに叩きつけてエウルアを追った。

 さすがに串焼きを数本しか食べられてない彼は、食べ足りないのか手には二、三本握られている。

 

「んで、どこに向かってるかわかるか?」

「おそらくモンド城の裏口ね」

 

 エウルアの視線の先には、高貴そうな服に身を包む男性がいる。彼女の叔父、シューベルト・ローレンスその人だ。

 グリムもシューベルトの姿を確認し、エウルアの手をとった。

 

「このまま尾行してたんじゃ、お前の叔父は気づかないだろうが、これから会うであろう人物にはバレる」

「じゃあ、どうしろって言うのよ」

「こうすんだよ」

 

 不貞腐れる彼女を連れて路地裏に入り、グリムは左手に付けている篭手を掲げる。右の篭手と同じ部位には、エウルアと同じ色をしたガラス玉──神の目がある。

 

「フギン、ムニン頼むぞ」

 

 その呼び掛けに、氷元素を纏った大鴉が二羽、グリムの肩に出現した。

 こくりと頷く動作をした二羽の大鴉は飛び立ち、シューベルトのいる方角へ向かっていく。

 見送ったあと、エウルアの方に目を向けると、そこにはジトっとした眼を向ける彼女の姿がある。

 

「君、立場わかってる?」

「え?」

 

 ……エウルアのやつ、めっちゃ不機嫌なんだけど。

 ……俺の立場って独立騎士だよな? 

 西風騎士団の中でもグリムは特別な位置に属する。ファデュイ、アビス教団、宝盗団、またはそれ以外に暗躍する者に対し独自に調査並びに殲滅を目的とした騎士だ。

 そこに神の目を用いて調査してはならないなどのルールは存在しない。

 

「いい? 君は神の目を二つ所持していて、それを両方とも使えるの。もう少し人の目を気にしなさい」

「だから路地裏に来たんだろ?」

 

 悪びれることなくそう言うグリムに、エウルアはその整った顔を険しくする。

 

「私がいるじゃない! 信頼してくれるのは嬉しいけど、私はローレンスの人間よ。だから──」

「──んなもん、関係ねぇだろ。俺にとって、エウルア・ローレンスは旧貴族じゃねぇ。波花騎士のエウルアだ」

 

 ……そもそも、旧貴族に俺の神の目を見せるな、なんてジンにもガイアにも言われてねぇしな。

 ……人目のないところで使えとは言われてるが。

 エウルアの言葉を遮り、グリムはそう言い切った。彼女はその言葉を聞いてポカンとする。まさかそんなことを言われると思っていなかったのだろう。

 数秒経ってから、彼女がくすりと笑みを浮かべた。

 

「ていうか、これで何度目だと思ってんだ。ツンデレも大概にしろ」

「な、なにがツンデレよ! 勝手なこと言わないで」

 

 ギャーギャー、ワーワーと二人の騎士が路地裏で騒ぐ。

 他愛ない会話が聴こえ、モンドの城下町を歩く人々は笑みを浮かべている。

 ぜぇ、ぜぇ、と息を荒くする二人の上で、一羽の大鴉が鳴いた。

 

「おっと、接触したみたいだな」

「場所は?」

「モンド城裏の桟橋だな」

 

 互いに頷き、足早に路地裏から出ていく。

 二人が目指すのは桟橋に隣接する、モンド城の城壁だ。そこには弓兵を配置するための歩廊がある。そこでシューベルトと、その接触者の話を聞くのだ。

 

「……なぁ、これ」

「……えぇ」

 

 果たして、シューベルトとその接触者の会話は聞き取れた。しかし、その内容はあまりにもあんまりだった。

 

「我が叔父ながら、残念すぎるわ」

「根はいいんだがな、あのオッサン」

 

 はぁ、とグリムとエウルアは溜息をついた。

 結果としてはエウルアの叔父、シューベルト・ローレンスはファデュイと接触し、旧貴族であるローレンスに再び栄光を与えんがために行動していた。

 しかし、ファデュイは狡猾だ。甘い話には裏がある。

 

「これで確証は得たわ。ファデュイは叔父を利用してなにかをする」

「そのなにかがわかればいいんだが……さすがにこれ以上は危険か。オッサンの命もそうだし、今のファデュイからの圧力が強まって西風騎士団が動けなくなる」

 

 圧力が弱くなり、大使館にファトゥス執行官である淑女──シニョーラがいなくなれば、この件を片付けることができるだろう。

 ……淑女がモンド城にいるのはまずい。独立騎士である俺でさえ手を出すのはキツい。

 ……あの公子(脳筋)なら話は別だったんだがな。

 

「ローレンス家を良くするため、とはいえ手段がな」

「そうね。ほかの三家と一緒に変えていけば、今の状況が覆るかもしれないのに」

 

 モンドには、古くから国を支える名家が()()存在する。

 グンヒルド家、ラグヴィンド家、ローレンス家、そして()()()()()()

 グンヒルド家は代理団長であるジンの家だ。モンドの英雄ヴァネッサと共に民たちの味方となり、守護する存在となった一族である。

 

 ラグヴィンド家はモンドの名産、蒲公英酒を専門に造酒しているワイン産業全体を代表する名家だ。その当主がオーナーを勤める酒場が、昨日グリムとエウルアが訪れたエンジェルズシェアである。

 

 ローレンス家はエウルアの家であり、モンドの暗黒時代において圧政を敷いた旧貴族だ。奴隷をコロッセオに放ち、殺し合いをさせるという残酷な所業をし、英雄ヴァネッサに打倒された一族である。故に、ローレンス家には罪人の血が流れており、モンドの民からは忌み嫌われ、モンドショップや鹿狩りなとで買い物すらできないでいる。

 

 最後に、アースガル家。

 グリムの家であり、暗黒時代においてはグンヒルド家と共にモンドの剣、槍として英雄ヴァネッサを支えたとされる。

 ……過去の当主たちはどうかは知らんが、今の当主、次期当主はローレンス家に悪感情はない。

 ……俺の家はそもそもそんなヤツらはいないように徹底してるし、他の家だって似たようなもんだろ。

 事実、ラグヴィンド家が運営するエンジェルズシェアはエウルアや他のローレンス家の人間を拒んでいない。

 代理団長のジンはエウルアのことを認め、お茶会など若者の女性らしいことをしている。

 

「今は泳がせておくけど、もしモンドに危険があれば、私が直々にローレンス家を抹殺する」

「……まぁ、いいけどよ」

 

 エウルア・ローレンスはそういう女性だ。モンドに仇なすならば一族を抹殺する。それが、彼女が一族としての役目だと思っている。

 グリムもその考えには同感だ。

 

「さて、わりと時間がかかったな。どうする? 鹿狩りで済ますか?」

「そうね。残りの串焼きを任せてしまったし」

 

 氷元素の大鴉二羽を消し、彼は背中を伸ばした。

 

「んー、明日はなにすっかなぁ」

「まだ私の小隊は復帰できないみたいだし、今夜も付き合ってもらうわよ」

「よし、今日はほどほどにして飲むかぁ!」

「ほどほどで済むかしら……」

 

 苦笑しつつ、エウルアが歩き出す。その隣に並ぶようにグリムはついていった。

 






 グンヒルド家はwiki乗ってるけど、ラグヴィンド家がまったく情報無さすぎるぅ!!!

 今回はAIのべりすとくんにお手伝いしてもらいました。
 AI「こういうのあるよ?」
 倉崎「へぇ。じゃあこうして、こう!!」

 っていう感じでできあがりました。

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