「ええ…私が…珠世です。」
見た目は病人のようだが、鬼舞辻無惨から何百年も逃げ切っているという実績を考えれば、耐毒性質も付けているだろう。
じきに回復するはずだからこのまま話そう。
「このように面と向かって会話するのは初めてですね、使い魔の猫はこちらには来ないのですか?」
茶々丸は鬼舞辻戦で功績を上げている。もし展開が変わりすぎたせいで茶々丸が鬼殺隊に滞在できないとなると問題が生じる。
「使い魔?ああ、茶々丸のことですか。あの子は猫ですから昼間は寝ていることが多いのでこの場にはいません。」
「意識がはっきりとしましたね、やはりそれなりの耐毒性質があるのですか?」
「ええ、鬼舞辻の呪いから外れるために体を改造する過程で耐毒性質もつきました。そのかわり、回復力は落ちましたが、人を喰べるよりかはましです。」
「そうですか…」
シンッ
しばしの沈黙が続いた。
私は、私以外の鬼に会ったことがない。
だけど分かるのは、この鬼…もとい珠世にこびりついている血の匂い。
ただの錯覚なのかもしれないけど、鬼となったからこそ分かる、第六感とも言えるような鋭利な刀を向けられているようなヒリヒリとした感覚がする。【人喰い鬼】とはこのような存在なのか?それとも珠世だけの特殊体質なのか?
「あの…わざわざ私を連れてきた理由は?」
「単刀直入に聞きます。私の細胞はどのようなモノですか?」
「細胞…ですか?」
前から気になっていた事だった。
私は竈門禰豆子のように初期から《眠る事で体力温存》をせずとも早々に太陽光を克服していた。
たしか禰豆子は、《言語と知性を引き換えに徐々に鬼舞辻細胞を追い詰めていた》といった内容だった気がする。
そうなると、私も何かしらの代償を払っていないといけない。
なのに、記憶の混濁や、この体の正当な持ち主の記憶をほぼ無くしているとはいえ、禰豆子のように生活に支障をきたさずに太陽を克服する…
「聞きますが、私は本当に鬼なのでしょうか?」
鬼でありながら大した代償もなく、人と生きることができている。
いっその事、【鬼によく似た特性を持つ別種族】と言われた方がまだ納得がいく。
「鬼であるのは事実です。しかし同じく太陽を克服した鬼とは細胞の変異が異なっています。」
『具体的には?』
「イーサン軍医?」
私が質問する前に主治医のイーサン軍医が、割り込んできた。
『あっ…これは失礼しましたローズマリー様、しかし主治医と致しましても聞かなければならない話です。ご一緒しても?』
ちょうどいい、アメリカにいるときから私の細胞を知っている主治医と情報交換した方が得策だ。
『勿論です』
「では珠世さんどう
「ローズマリー・ベネットさんの細胞は、そもそも人の細胞ではありません。」
植物寄りになっていると自覚があった。だからこの回答自体には驚きもしなかった。だが、
「正確には【植物の細胞】が身体を満たそうと動けば、それに対抗する【鬼舞辻細胞】が動き、両者による身体の支配権を争っている…といった内容です。もう1人の太陽を克服した鬼は【人間の細胞で鬼の細胞を抑えている】のに対し、あなたの場合は、逆に【鬼舞辻の細胞】があなたのその人の形と思考を守っています。予想ですが…もし、鬼舞辻無惨が死ねば、貴方は完全な植物となるでしょう。
貴方に現在開発中である人間化薬は使えません。」
『つまり、ローズマリー様は
「結果的にはそのような形です。これまで様々な鬼の細胞を研究してきましたが、このような
「そうですか、ではこれからも私の血を提供しますので、存分に研究に回してください。」
疑問は解決した。
どの道私は人に戻る気などなかったから、大した障害でもない。
とりあえず、この内容を大使館に報告しなければ。
「大和殿、話は終わりま」
『ローズマリー様、このタマヨと呼ばれるオニに医師として聞きたいことがあります。私がリアムさんを借りてもよろしいでしょうか?』
知りたかった内容は聞き終えたから、さっさと珠世を研究室?に戻したかったが、イーサン軍医はまだ話し足りないようだ。
『勿論です。今日は大使館の外に出る予定もありませんので、ごゆっくりどうぞ』
『ありがとうございます』
『もう1人の鬼について…』
『それは…』
長くなりそうだ。
「九鬼さん、通信室はどちらですか?」
「ご案内します、こちらへ」
基本的に、私はついている護衛から離れて行動するのは禁じられている。だけど、ここは特例とはいえ【大使館】
他国の人間(用は鬼殺隊士)が入るには事前の審査とこちら側の許可があって初めて入れる。
だから、九鬼さんと2人で移動することが認められた。
ガチャ
『随分と小型化されている電話ですね』
『大使館にしか通じませんがね。』
この時代の電話は、番号を入力する装置がない。
一度交換手に繋がって、その人に電話番号を言って繋げてもらうという仕組みだ。
だが、仮にもこの施設は大使館。機密情報関連の話もするかもしれない中で、盗聴の危険がある交換手の存在は排除したい。
と、言うわけで《特例大使館→アメリカ大使館》にのみ限定することで交換手なしで直通電話ができるようになったのだ。
今回の案件である【日米合同軍事演習】の真相を知っている少数に連絡を入れるのが目的なので、出てくる相手も決まっている。
1人は当然、今の私の父であり全権大使である
ハリス・ベネット
そして2人目は、
《ローズマリー!》
《神父さん!》
私の最初の保護者であり、私が鬼であると知っているウィリアム・ヤコブ・ウィスティリア司祭。
今回の案件で、少しでも協力者が欲しいアメリカ政府の方が根回しをしたらしく、イエズス会宣教師のウィリアムさんが何をどうしたのか、【日米合同軍事演習における軍人専属のカウンセラー】という役職が与えられていた。
《キサツタイに入ったとハリス大使から聞きました。怪我はないですか?》
《大丈夫です、炭治郎君とは状況が違いますから…。私に攻撃をすることの意味を知っている政府の代表が常についています。
私の心配よりも神父さんは教会側にどう説明したのですか?》
いくら神父さんがアメリカ人とはいえ、所属はイタリアローマに本部を置くイエズス会所属の司祭。
アメリカの圧力で誤魔化せる組織ではない。
《実は本部側からも割とあっさり許可が下りてしまい、寧ろ「行け」と言わんばかりの公式文書を貰いました。詳しい経緯は不明ですが、イエズス会もオニ討伐に関わっている可能性が高いです。》
《イエズス会が?》
宗教組織も関わっているとなると、鬼の存在を教会側が信じるに値するモノがないといけない。神父さん達宣教師組は一応鬼の存在については認知はしているけど、あくまでも【過去の御伽噺】レベルの認知度だ。でも神父さんに届いた文書の内容からすれば、私の映像をアメリカ側が送ったのか?
それとも、ただ単に司祭の仕事の一環として認められただけ…か?
《詳しい話は後日します。ハリス大使ですね、あ、ちょうど会議が終わったようです。代わりますよ》
《ローズマリー、鬼殺隊訪問時に問題が起こったと報告を聞きました。詳しく教えてください。》
《はい、簡単に言いますと、鬼殺隊は国際条約を理解していません。外交ナンバーのついた車に石を投げつけられました。》
《はっ?》
予想通りの反応だ。だがまだあるんだよなぁ…。
《それと後一つが、車から降りた際にカクシと呼ばれる後方支援部隊所属の者たちに武器を片手に取り囲まれたことです。》
しばしの沈黙の後、
《……ヤマト殿に代わりなさい。》
《はい、お父様》
『説明を頼みますよ、ヤマト警視』
と、いっても怒りが収まるとは思えないけど。
『はい…』
《こちらヤマトです。……はい、その件は後々…増兵?…内閣との相談の上で…はい、では後の話は……》
九鬼大和side
《こちらヤマトです。》
《今日までは貴族私兵の仕業だと思って見逃しましょう。》
妙に静かな声色に、逆に恐怖心が駆られる。
《寛大な処分、ありがとうございます。処分の件は後々》
これだけで終わるとは思えない、案の定、
《名ばかりとはいえ、
最初からこれが目的だったのか。
密約を交わした時からローズマリー令嬢につけるアメリカ人護衛人数が少なすぎるのは指摘していた。だが、『日本軍人も守るのでしよう?』と言われてしまえば、こちらは何も言い返せない。
特命連絡員でなくとも、守る義務があるからだ。
だが、数名ならまだしも10名以上自国兵を付けると最初から言い出せば、現地国である我が国からの
だが、我が国の人材に明らかな問題があり、それが原因で日本人が信用できないと言われれば、こちらは強く言い返せない。
《他国兵の増員を認める権限は私にはありません。内閣との相談の上で決めます。》
《それは承知の上です。日本政府にはこちらから公文書を送ります。それと…できれば、これ以上の増兵はしたくはありません。私たちは【合同軍事演習】をしに日本に来るのですからね。》
《はい、我が国も事態を大きくしたくはありません。》
【特命連絡員】などという10歳の少女相手に大層な肩書きをつける理由を与えたのは、間違いなく産屋敷だ。
あの国は民主主義国家、いくら大統領令とはいえ、表向きはただの《迫害から逃れた少女》であり【全権大使の娘】という基本的には守られる立場に更に上書きするかのような人事が認められるはずがない。
だが、表には出ないとはいえ、認められた。
それは、《日本人による迫害》が根強いからだ。
【他国大使の娘】という肩書きだけでは守られない。
現にローズマリー・ベネットと呼ばれる少女は襲われた。
国際条約では
はぁ…
「全く…余計なことを。」
あの一族が騒ぎを起こした結果、我が国の人材の質が低いと認識された。このままでは駄目だ。
鬼殺隊士を武力だけではなく、教養と一般常識を身につけさせなければ。
「ローズマリー特命連絡員を見張り、怪しい動きが有れば報告を。」
「はい、九鬼警視」
「それと、車を出してください、帝大に訪問します。」
「はっ!」
「これは…!急なご訪問には驚きました。政府代表の御方、何の御用でしょうか?」
「単刀直入に言います。帝大に所属する大学教師に【外交に関するウィーン条約】特に外交特権を主軸として纏めた冊子と、試験問題を作って頂きます。最優先で。」
ローズマリー特命連絡員に危害を加える、拘束することは如何なる理由があろうともあってはならない。
ローズマリー・ベネット
名ばかりとはいえ役職持ちの【特命連絡員】
珠世を避けていた理由は、ピリピリとしたナニカを感じているから。
それが人喰い鬼特有のものなのか、珠世独自のものなのかは不明だが、苦手意識があった。
珠世の事は復讐者ではなく、
珠世
産屋敷に招かれて秘密裏に鬼殺隊にいたが、その後鬼殺隊が【国の傭兵部隊】となったことにより、政府や軍部に自分の存在がバレてしまった。
人の味を知った【人喰い鬼】な上、大使館の連絡員が訪問することから日当たりの良い部屋に閉じ込められていた。
見張りは当然日本兵です。
軟禁場所から日本軍医の手により藤の毒を注入された上で、手錠をかけられ運ばれた先が、特例大使館であり、そこで初めて【太陽を克服した鬼】と面会した。
細胞の変化が前例のない異常状態だったので、もっと驚くかと思っていたが本人が冷静すぎたので、
外国人とはこのような生き物なのか?と誤解した。イーサン軍医の反応を見て、誤解は無事にとけた。
ローズマリーに嫌われていると認識していたが、
今回の初面会でそれが確定となった。
「まあ、血の提供はしてくれるから直接会う必要はないし、問題はなさそうね。」
イーサン・クラーク軍医
主人公の主治医として珠世の発言は衝撃的だった。
彼の知っている鬼が主人公のみだったので、ローズマリーの【鬼の細胞】を通常だと認識していた。
だが、それが異常状態だと知って【鬼の細胞】(本物)について、鬼と呼ばれる生き物についてを、夜まで語らせた。
リアム・オニヅカ
通訳のためずっと珠世の過去話を翻訳し続けていた。場の空気をよんで目立たないようにしていたが、珠世の鬼となった理由と鬼となった後の話は、衝撃だった。
こちらもイーサン軍医同様、知っている鬼がローズマリーだった為。
愈史郎
珠世様…!
珠世様ぁ…
珠世様!!!
見張りの日本兵
あいつ五月蝿い
ハリス・ベネット全権大使
鬼殺隊士が鬼である娘に危害を加える危険性を理解した上で、あえて自国の護衛兵を最低限にしていた。
もちろん、《警護》に特化した人を派遣していたので怪我の心配はしていなかった。
だが、まさか基礎的な常識もない集団だとは思っていなかったので、電話ごしの報告に滅茶苦茶低い声を出してしまった。
日本がローズマリーの警護人数を増やす事を、認めざるを得ない状態にしたかったのは事実だが、
「向こう側が娘に軽い怪我を負わせれば上場」と予想していただけに、命の危機に陥るとは予想外過ぎた。
日本政府に抗議した。
「キサツタイの人材はどうなっているので?」
ウィリアム・ウィスティリア司祭
主人公の最初の保護者であり友人
少しでも協力者が欲しいアメリカの要望で【合同軍事演習における軍人専属のカウンセラー】という表向きの立場を与えられた。
アメリカ側がイエズス会に許可を得てから要望したので、ローズマリーが心配な神父はあっさりと受け入れた。
九鬼大和
特高の警視であり、外務省職員であり、政府代表
あまりにも常識も倫理もない時代錯誤な鬼殺隊士の教師役に抜擢されて、胃に穴があきそう。
ハリス大使の言い分が正論過ぎるので、内閣に相談しても《ローズマリー特命連絡員の警護》の名目で、他国のスパイを入れざるを得ない状態だと確信している。
一番優先的に守らなければならない立場にありながら、一番
「こちらも増員しなければ…」
一番可哀想な立ち位置。
大正コソコソ噂話
アメリカ人による珠世の印象
主人公
罪滅ぼしの為に鬼殺隊に協力するのは要請ではなく、義務だから当然。
ピリピリとしたナニカを感じるし、血の匂いがするし業務以外では会いたくはない。
イーサン軍医
本物の【鬼の細胞】と【鬼社会の常識】を尋問せずとも答えてくれるので都合がいい存在。人喰い鬼だからか、ローズマリー令嬢と違い殺意が練り上げられている。
業務以外では会いたくない。
鬼になる選択権が与えられて、自らの意思で鬼となったのに、それを恨むのは違うのでは?と思っていた。
責任能力を持つ大人が取引に応じたから、結果は自己責任だと思っている。
リアム・オニヅカ
鬼舞辻の勧誘を受けて鬼となったと翻訳していた時は(自業自得だよな、ローズマリー様が嫌うのも無理はない。)と心では毒を吐いていた。
確かにキブツジと呼ばれる男は一番大事な事を言っていないが、嘘はついていないし、何より珠世には選択権があったという事から、問答無用で鬼とされたローズマリー様に比べれば同情の余地はないと思っている。