少なくとも、職場で上官が兄だと公言されたら困りますよ…。
職権濫用のコネ入り入隊疑惑を持たれてもおかしくない。
時系列がローズマリー特命連絡員が、突撃した時期に戻ります。
不死川玄弥、不死川実弥の唯一生き残った弟…か。
「私が言っておいてなんですが…本当に、決別の意志を固めたのですか?兄弟喧嘩に巻き込む気なら、鬼殺隊に残ってもらいますよ。」
ここに至るまでの話は少しだけ遡る。
▽▽▽
不死川玄弥side
ドカーン
ピユン
いつものように、いや…柱稽古が始まってからは、更に時間を割いて俺が唯一できる銃射撃の練習をしていた。そこに、
パチパチ
「お見事です。」
「お前は?」
作りが良い背広を着た異人の血が混じったような見た目をした男が、立っていた。射撃に集中していたとはいえ、背後を取られるなんて…!こんなドジだから俺は兄貴に認められないのか…。
「不死川玄弥、不死川実弥の弟さんですね、会いたかったですよ。私の名は九鬼大和、外務省職員であり…警察官…特高です。」
「特高?」
警察官?確か…特高って、国の治安維持の為に動く組織だったはず。なぜ、鬼殺隊の敷地内に警察が入れているんだ?
「柱稽古の前に、悲鳴嶼殿から説明がありましたでしょう。」
「ああ、鬼殺隊が国公認の組織になったって…」
他国の要人に襲いかかった元凶がお館様だったからって理由だった気が。
「ええ、ですから私たちのような者が入れるようになった…とはいえ、元々この土地も、国の物ですからね、今までが異常だったのが、正常に戻っただけの話です。さて、そんな些事はさておき、不死川玄弥さん、あなた…呼吸とか呼ばれる基礎ができないとか?」
「それが何だよ、」
特高…憲兵でこの態度なら、こいつはかなりの高官だ。もしかしたら柱と同等の立場なのか?でも、なぜわざわざ俺を?
「こちらとして優先的に求めるのは、
特に君のような中遠距離専門の狙撃手は、近距離戦専門の隊士よりも希少性が高い。武器はいくらでも作れますからね、刀一筋の恨み辛みで隊士になり、私情で動きかねない
「何が言いたい…」
俺だって鬼を滅する為に鬼殺隊に入隊した。この人が言う【私情で動きかねない味方】と変わらない。
「君の狙撃能力は高い。君としては呼吸が使えないことに劣等感を抱いているようですが、我々のような公僕から見れば、寿命を縮める呼吸よりも、これからの戦争に使える君のような狙撃手の方が何倍も価値がある。
どうでしょうか?上弦戦でも戦況に影響を与えた、その狙撃能力…。国に使うのは如何かな。」
鬼殺の上で呼吸は基礎中の基礎。
だけど、この憲兵は呼吸よりも、俺の狙撃手としての能力の方が上だと言った。
「それで俺に利点はあるのか?」
鬼殺隊が政府によく思われていないこと、それは悲鳴嶼さんから教えられた。俺たちの存在そのものが違法なのだと。
「そうですねぇ…」
にっこりと笑って…だけど目はどこまでも真剣に俺を貫いていた。
「君に給金や、社会的地位などは利点にはならないでしょう。しかし国に仕える軍人になれば、君を弟だと認めない不死川実弥を、弟だと認めさせることができますよ。」
「…はっ?」
軍人になれば、俺は兄貴に弟だと認められる?
「何でそうなるんだよ」
俺は普段の口調に戻ってしまったが、相手の憲兵は気にすることなく、話を続けた。
「そもそも、君の兄君が君を弟だと認めない理由は、君の言動にあります。鬼殺隊は完全実力主義。出生が代々鬼殺隊に仕える炎柱の家系でさえ、あくまでも実力による登用です。縁故採用などないのです。これには驚きましたよ。」
当たり前の事をつらつらと話していたが、
「さて…そんな組織において…【柱の兄がいる呼吸も使えない雑魚隊士】が、鬼殺隊最強と呼ばれる岩柱の弟子をやっている事実を、側から見れば、どう判断すると思います?」
確かに、俺と悲鳴嶼さんは特異な師弟関係だ。だけど、何でそこに兄貴が出てくるんだ?
「教えますよ…他人から、特に鬼殺隊と縁がない家系から鬼殺隊士になった者からの君への陰口は、
『兄貴が柱なら、岩柱が面倒を見るのは当然』
『実力主義を語っていても、やっぱり身内贔屓はするのか』
『道理で呼吸も技一つも使えない雑魚が、何年も生き残れていたんだな。』
『あいつの功績も、どうせ風柱が援護でもしていたんじゃないのか?』
と、少なく調べただけでもこのくらいは出てきましたよ。」
「…はっ?」
俺はちゃんと最終選抜を突破して、隊士になっている。
悲鳴嶼さんとの師弟関係だって、兄貴は関係していない。
「何故?と言う顔をしていますね。むしろ、こちらとしては、何故そんな簡単なことも分からなかったのですか?
確かに見る人が見れば、君と不死川実弥の血縁関係は明らかです。しかし、それ以前に、君は組織の人間です。私的に兄君に甘えるなり、謝るなり、それは君たち兄弟の問題です。ですが、それを職場で、ましてや、不特定多数がいる公然の場でする事ではありません。
軍隊で例えるならば、君は【一兵士】そして、兄君は【中将】立場が違いすぎます。そして立場だけでなく、不死川実弥には
継子でもない、呼吸を使えない、なのにそこそこの功績、噂によれば上弦を倒すキッカケを作ったとか?
こんな噂が流れれば、不死川実弥が弟可愛さに、鬼殺隊に入隊させて、1番安全な岩柱の屋敷に居候させていると、思われても何らおかしくない話なのです。
少なくとも、実力で突破して鬼殺隊に入隊し、頼み込んで岩柱に稽古をつけてもらっている…という、
つまり…俺が、風柱を兄貴と呼べば呼ぶほど、兄貴の立場は悪くなっていた…と言う事か。だから、兄貴は俺を鬼殺隊から追い出そうとして…!
「鬼殺隊を辞めることは出来ません。俺だって鬼に恨みがあります。でも…」
鬼殺隊を辞めちまえば、この憲兵の言う通り、兄貴が俺を弟として認めてくれる…いや、話を聞くに確実に認めてもらえる。でも、それでも…!
「何か誤解していませんか?」
「へっ…?」
「鬼を殺す戦闘員は1人でも多い方がいい。最終決戦までは、表向きの立場は鬼殺隊士にしておけば問題ない。
経歴を書き換えれば良いだけの話です。表向きは【鬼殺隊士】。だが、実際の所属は【陸軍の士官候補生】。そうすれば…君は最終決戦に参加できる上、君の入隊に兄君が関わっていないことの証明になる。だって君は
「つまり…」
「国公認の経歴詐称です。幸いなことに君は鬼殺隊に関わる前までの、経歴はありませんから、いくらでも誤魔化しが効きます。
私たち政府も鬼殺隊の行動は、ある程度把握していましたから【密偵】を送り込んだとすれば、違和感はなくなります。
年齢もローズマリー特命連絡員のように、特例措置も珍しいですが、ないわけでもない。子どもの密偵も歴史を考えれば可笑しな話でもない。
さて…では、こちらが君に出せる最低限の利点は【風柱の職権濫用疑惑の払拭】と、【風柱に弟と認めさせるだけの経歴】です。
どうしますか?」
正直に言えば…かなり俺に優位すぎる条件だ。
俺は親なしのただの傭兵、相手は憲兵で、政府代表…。
「あの…!なぜ俺を勧誘したのですか?俺は…呼吸も使えなければ…大した地位にもついていないのに…」
これが兄貴だったら、納得できた。柱は一騎当千の戦力だ。俺には強みもなければ、唯一持っているのは【風柱の弟】だけで、それも兄貴に認められていないから、意味もないのに…。
「君の、いいえ、名前を言いましょう。不死川玄弥さん…政府代表として、君のその射撃能力は
それだけの理由では納得しませんか?」
「俺の…射撃能力…!」
俺が認められた…!今までは【呼吸も使えない雑魚隊士】【風柱のお荷物】【半端鬼】なんて言われていたのに…!
「この山は陸軍の所有。君が軍人になるか、ならないかは、玄弥くんの意思決定に任せます。ですが…もし、
「兄貴との決別?」
鬼殺隊士に睨まれる事は分かる、だって軍人になると俺はもれなく【国が派遣した密偵】だ。でも、それが兄貴との決別?
「風柱に弟と認めさせる事はできます。しかし、それは同時に兄君と敵対関係になる事です。不死川実弥は、最終決戦に外部者が入ることに反対している、反対派の筆頭です。君がこちらにくれば、もれなく君は【外部者】になります。今よりもひどい扱いを受ける可能性も高いです。これが…政府に加担する事への欠点です。」
「…!」
今よりもひどい扱いを受ける…。
「考えさせてください」
「勿論です。大いに悩んで決めてください」
ここで会話は終わり、憲兵は車に乗って去っていった。
でも、この人が信頼できる相手だと確信できた。
利点だけ言って終わらせる事もできた、なのに、あの人は政府側になる事への欠点も、ちゃんと説明してくれた。
軍の山…
「あ、あの…!軍の階級を教えてください!」
「ああ…?構わないが?」
俺は知らないといけない、兄貴を苦しめた理由を、
▽▽▽
「陸軍の階級は下から、二等兵、一等兵、上等兵、主に【兵士】と呼ばれる階級だな。そして次は伍長、軍曹、曹長、【下士官】と呼ばれる階級だ。一般家庭出身者は、よくて准尉が1番上と言った感じだな。少尉から上は所謂、エリートと呼ばれる奴らだ。基本的に裕福な家柄のボンボンが多いな。後の階級は、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、少将、中将、大将だな。ちなみに俺は少尉な!」
「俺は准尉だが、近々少尉に上がる予定だ。それは今回の鬼騒動が終わってからと聞いている。」
俺が話しかけた2人は、良いとこの次男、三男だそうだ。家を継げないから軍に入ったと言っていたけど、家族を守るという確固たる意志があった。
「あの、鬼殺隊の柱は、政府代表の人は【中将】と言っていましたけど、仮にですよ…?その中将の弟が…職場で、中将を兄貴と呼ぶのはどうなるのですか?」
「「はっ?駄目に決まっているだろ?」」
「実の弟でも?」
「当然だ、むしろ実の弟の方が厄介だろ」
「中将の上は、鬼殺隊のお館様とか呼ばれる華族だろ?事実上の大将じゃないか、職場で公然と呼ぶなんて、その弟は馬鹿としか思えないな。」
この2人は、俺が風柱の弟だと知らない。なのに、例え話で、口調が変わった。
「どこの馬鹿なんだ?佐藤教官に伝えよう」
「規律を乱す馬鹿を戦場に出せば、足を引っ張るからな。」
「「教えてくれ、不死川玄弥」」
言えそうにない…だけど、どの道俺の発言は近々ばれる。なら、
「俺です…」
それから俺は、なぜ鬼殺隊に入隊したのか、兄との確執、謝罪の気持ちを偽りなく話した。
「理由はわかった…だがなぁ」
「よりにもよって…職場でするなよ」
「うん、君は」
「「正直者の馬鹿だな」」
「気持ちは理解できるが、やり方が駄目だ。」
「立場を弁えろ、相手は【指揮官】で、人事権を持っているんだ。九鬼警視の仰るとおり、縁故採用が真っ先に出てくる。」
「軍ならおかしくないが、貴族の私兵で超実力主義の集団で、身内の指揮官を公然と言いきり、初期は華族のお嬢様に暴力を振るったぁ?」
「お前…よく生き残れたな」
「少なくとも、国公認となった以上、これまで通りに振る舞ったら、不穏分子として、殺されても仕方ないぞ」
そこから始まった怒涛の、俺が起こした軽率な行動の批判と、身内の権威を振り回したという事実への指摘。
「不死川実弥って、評価が悪かったけど、お前のような弟がいるなら、さぞかし疲労が溜まったんだろうな」
「異常者だと言われていたが、お前の軽率な行動への対処を考えれば、弟と認められないのは当然だ。」
「絶縁宣言されなかっただけ、随分と優しい人だ。」
耳が痛いが、実際に俺の発言で、兄貴の評価が落ちたのは事実。ちゃんと受け入れないと。
「話を切り替えるぞ、お前は《兄貴に謝りたい》から鬼殺隊に入った。だが、お前の発言や行動からすれば、当の兄貴はお前が鬼殺隊に入隊している事実は、ともかく、
「はい…何度も、《才能がない》《鬼殺隊を辞めろ》と…」
「立場上、認められないが、
少尉が手を顎に乗せて考えていた所を、准尉は、
「不死川玄弥…お前は
「何を?ですか…」
俺の優先、兄貴に謝り、鬼を殲滅させること…
「【兄上に謝りたい】なら、軍に移籍した方が早い。最初から軍人になって終えば、立場は事実上対等だからな。九鬼警視が持ち込んだ取引内容なら、士官候補生はエリートだ。将来が約束されているし、鬼殺隊所属ではないから、弟と認められる。
だが、【鬼を殲滅する】のを優先とするなら、鬼殺隊にこのまま所属した方がいい。どの道、武器の支給をする事は決定している。我々は皇軍ゆえに、縛りも多い。その点、鬼殺隊はギリギリ私兵だ。違法だが、その分縛りもなく動ける。」
兄貴に謝りたい、鬼を殲滅したい、どちらも俺の本心だ。だけど、俺が鬼殺隊を求めた理由は?散々、「才能がない」と言われても鬼殺隊に拘った理由は?
「……兄貴」
俺は…兄貴に謝りたい。そして…
「俺は…兄貴の弟だ。」
決めた…。俺が、俺の為に選んだ道だ。
▽▽▽
「覚悟が決まったようですね」
先に山にいる佐藤教官に伝えた。
その数日後の事だった。この人が再び現れたのは、
「はい!よろしくお願いします!」
「帝国軍は君を歓迎します。ようこそ、新しい士官候補生、不死川玄弥君。では早速ですが、制服の採寸でもしましょうか、車に乗りなさい」
「いいのか!」
「言葉遣いも矯正が必要か…まあ、今回は見逃します。陸軍省へ」
「はい」
ブルル
不死川玄弥
実は前々から、政府代表から直々に勧誘された狙撃手
《呼吸》と《刀で首を斬る》事ができる人への劣等感が強かった。
だが、今回の勧誘で少しだけ自分に自信がついた。
そして、政府代表による勧誘で、客観的に見た自分の立場が危ういと自覚した。
《兄貴に謝りたい》を優先した結果、【陸軍から送られたスパイ】になることに。
兄貴に軽蔑されても、【対等な立場】という言葉は魅力的だった。
表向きは、最初から鬼殺隊士ではなかったことになります。
九鬼大和
特高の警視、表向きは外務省職員の通訳 政府代表
有能な人材は、積極的に自分から勧誘している。
特に指示に従う事ができる人材
【狙撃手】は意外にも少ないので、最初から実力ある人材は是非とも欲しい。
鬼殺隊案件は、トップシークレットなので、人員を確保したいという下心もある。不死川玄弥の周辺が怪しいので、実はこっそりと処理しています。
軍人さん’s
はあ!?中将の兄がいると他人に公言していた?
そんな事していたら【弟】と認められる訳ないだろ!
不死川実弥への評価と行動は、知らされていたので【触らぬ神に祟りなし】の精神で接していたが、弟がこれまた常識知らずだったので、「あー、あの行動は厄介な弟のせいだったのか。」と納得されてしまいました。
不死川実弥
弟の行動のせいで、ストレス溜めまくって爆発していた可哀想な人
という評価になっています。
大正コソコソ噂話
九鬼警視が不死川玄弥を勧誘したのは、ローズマリーが珠世と面会していた時期とほぼ同時並行でした。
優秀な狙撃手が欲しいのもありましたが、反対派の筆頭、不死川実弥への人質の意味合いもあります。
なので、狙撃手でなくとも結局は、適当な理由で勧誘していましたが、実際に優秀な狙撃手だったので、本気で勧誘しました。
でなければ、【士官候補生】などの【エリート】に仕立てようとはしません。