兄弟子が、獪岳が俺を嫌っていたのは十分知っていた。
俺だって「カス」「役立たず」と容赦なく言う獪岳が嫌いだった。
でも、嫌っていても…ひたむきに努力して、爺ちゃんの期待に応えようとしていたアンタの事を尊敬
「いるんだろ出てこい、そこにいるのはわかっている。」
「口の利き方がなってねえぞ。兄弟子に向かって」
障子から見える手は鬼特有のモノ。
「少しマシになったようだが、相変わらず貧相な風体をしてやがる。久しぶりだなァ善逸。」
もう…そんな事を言い合える仲ではないけど。
「獪岳、鬼になったお前を、俺はもう兄弟子と思わない。」
ドン
ドドン
特有の爆発音…帝国軍が暴れている。なら俺の為すことは一つ。
「変わってねえなあ、チビで、みすぼらしい。軟弱なまんまでよ。柱にはなれたのかよ?壱の型以外使えるようになったか?なあ、おい善逸」
この会話だけなら、オレ達の中では日常会話のようなモノだった。
でも、アイツの今の姿。そして禰豆子ちゃんや下弦程度の力を強制的に持たされた鬼と違って
もはや、希望はない。
「適当な穴埋めで上弦の下っぱに入れたのが随分嬉しいようだな」
《えっ?兄弟子についてですか?》
《カイガクとか呼ばれる裏切り者の経歴をこちら側で調べました。元々は悲鳴嶼行冥の寺に入る前は、両親もいない浮浪児。寺に入ってからは悲鳴嶼殿が盲目である事をいい事に金品を盗み、それを他の子どもに咎められ寺を追い出され、自らが生き残るために鬼を招きいれ、1人だけ生き残るように仕向けた性悪です。ちなみに金銭の件や鬼の件の関連性は、沙代と呼ばれる戦場帰りの兵士によくある精神的な負担により話せなくなった少女から筆談で聞き取り、並びに当時の裁判記録から間違っていないと確定できました。》
《獪岳が…そんな事を…》
《君たちの因縁は記録上知ってしまった以上、本来なら君たちを会わせるわけにはいきません。しかし…向こうから招き入れる可能性の高さから君には忠告をします。》
ピリピリとした音。
《カイガクは自らの意思で鬼となったのです。奴のような性悪は一回死んだくらいでは直らない。
そして、師匠の件も介錯をつけなかったのは彼の意思です。理由は異なれど
「へえ、ハハッ!!言うようになったじゃねぇかお前…」
「もう…俺はさ、アンタが鬼になった理由なんかどうでもいいんだよ。」
「ハハッ!変わったようだな!!善逸!てっきり爺が死んだこと、切腹した事で俺を責める気だと思っていたが、その目ぇ、今ならテメェとも話があいそうだ!」
九鬼さんの言う通りだった。
「だろうな、俺がカスならアンタはクズだ。
「テメェと俺を一緒にすんじゃねぇ!!」
暗い雷…だけど、
「おせーんだよ
ドバッ
(コイツ…言動、態度、そして
獪岳side
俺にとっての勝ちは生き残る事…それだけだ。だから、
今目の前にいる上弦の壱に跪くことも、鬼となる事も正しい事だと今でも思っている。
「俺を鬼にしてください!!俺は!!もっと強くなりたいのです!!」
この言葉も嘘ではない。
「鬼となり…さらなる強さが…欲しいか…お前も…あの方に…認められれば…我らの…仲間と…なるだろう…強い剣士程…鬼となるには時間がかかる…私は丸三日かかった…呼吸が使える者を鬼とする場合…あの方からの血も…多く頂戴せねばならぬ…そして稀に…鬼とならぬ体質の者も……存在するが…お前は…どうだろうな…有り難き血だ…一滴たりとて零すこと罷り成らぬ…零した時には……」
「お前の首と胴は泣き別れだ。」
あの、体中の細胞が絶叫して泣き出すような恐怖。
あれに比べれば、こんな小物大したことはない。
我妻善逸、俺の知らないところで変わった。
だが、こいつの本性はカスだ。
いつもベソベソと泣いていた。何の矜持も根性もない。
こんなカスと二人で後継だと抜かしやがった糞爺!!
「死んで当然なんだよオオ!!爺もテメェもオオ!!」
雷の呼吸 弐ノ型 稲魂
アイツがなんか喚いているが、そんな事俺は知らねぇ!!
参ノ型 聚蚊成雷
「俺を正しく評価し認める者は“善”!!低く評価し認めない者が“悪”だ!」
伍ノ型 熱界雷
俺は強くなった!俺を正しく評価しなかった爺が悪い!!
「どうだ!?血鬼術で強化された俺の刀の切れ味は!皮膚を!!肉を!!罅割って焼く斬撃だ!!」
陸ノ型 電轟雷轟
「喰らった斬撃はお前の体で罅割れ続ける!目に体に焼き付けろ!俺の力を!!鬼になり雷の呼吸を超えた!!」
アイツが落ちた。
「俺は特別だ!お前とは違う!お前らとは違うんだ!!」
善逸side
アンタは
アンタは最後まで気づかなかったんだ。
いつも
アンタはさ、九鬼さんから聞いた話だけど、悲鳴嶼さんの所にいた時は普通の幸せを享受できていたんだろ。
アンタさあ、俺を見ていて気づかなかったのかよ、本物の孤児が箸の使い方なんて学ぶ機会なんてないんだよ。なのに、アンタは爺ちゃんの所にいた時以前から普通に箸を持てていただろ。
それが意味する事は、【箸の使い方を教えてくれる人がいた】事実だけだ。アンタはちゃんと愛されていた子どもだったんだよ。
壊れた幸せの箱を俺が指摘できていたら、未来も変わったのかもな。
爺ちゃん、ごめん。俺が弱虫だったせいで、
体勢を立て直す…
ごめん…
雷の呼吸 漆ノ型 火雷神
獪岳side
みっ…見えなかった!!何だ!?今の技速すぎる!俺の知らない型だ。何を使った!?
「畜生!!畜生!!やっぱりあの爺、贔屓しやがったな!!」
カスと同列扱いされた時点で予想できていた!クソ!!
「お前にだけ教えて俺に教えなかった!!」
「違う」
「爺ちゃんはそんな人じゃない。」
爺の技じゃない?まさか!
「これは俺の型だよ、俺が考えた俺だけの型。この技で、いつかアンタと肩を並べて戦いたかった…」
「おい!あれ!!」
「ああ、あの髪色間違いない!」
「余っている救護兵!集まれー!!」
獪岳side
七つめの技だと?
六つしか型がない雷の呼吸から、七つめを編み出した?アイツが?壱の型しか使えない奴が?俺よりも劣っていたカスが?
耐えられない、耐えられない!!そんな事実は受け入れられない!!あんな奴に俺が?俺が負けるのか?頭が変になりそうだ。
いや、違う負けじゃない。あのカスも落下して死ぬ。もう体力も残っていないはず、アイツも俺と死ぬんだ。
「人に与えない者はいずれ人から何も貰えなくなる。」
「欲しがるばかりの奴は、結局何も持ってないのと同じ」
「自分では何も生み出せないから」
「独りで死ぬのは惨めだな」
善逸side
「爺ちゃん!!」
わかる…ここは!!
「ごめん俺!獪岳と仲良くできなかった!獪岳の箱が壊れている事を知っていたのに、何も出来なかった!!手紙を書いても返事が来なかった時点で、喧嘩覚悟で獪岳に会えば良かった!!」
「俺がいなかったら獪岳もあんなふうにならなかったかも知れない。ほんとごめん!!許して!!」
「何も恩返し出来なくてごめん!爺ちゃんが生きている内に柱にもさぁ…なりたかったんだけど。」
「ごめん!爺ちゃんごめん!!」
「俺のこと嫌いになった?何か言ってくれよ爺ちゃん…くそっ何だこれ、足に絡まって」
渡れない。
「善逸」
「あっ…」
この声は間違いなく爺ちゃん。
「お前は儂の誇りじゃ」
「どうだ!?助かりそうか!?顔見知りなんだよ!何とかしてくれよ、頼むからな!!」
ボカーン
ドドン
「うわっ!また揺れた!」
「軍人共、暴れまくっているな」
ガツガツガツガツ
「医療中隊!到着!救護一名急げ!!」
「はっ!!」
「おい、結鬼止めは使っているが、この顔の傷罅割れが止まらなければ眼球まで裂けるぞ。」
「止血剤は足りるか?」
「今のところ出血が止まらないが、何とかなりそうだ。だが追加は欲しい」
「お前が愈史郎か、わかった。一つだけだが包帯を。流石にこちらも使う分があるからな。」
「絶対大丈夫!絶対助かる!お前は死なねぇぞ!」
「頑張れ我妻!」
「がんばれがんばれ!」
「お前の戦っていた上弦は、まだ自分の術や能力を使い熟せてなかった。運のいいことだ。戦いが一年後だったら即死だったろうな。」
「気が滅入ることばっか言ってんじゃねーー!!」
ドドト
「鬼か。」
「愈史郎、我妻善逸は医療中隊で回復するまで預かる。薬はないのか?」
「今の治療が最善だ。これからはコイツの自己回復力にかかっている。」
「了解した。おい我妻善逸を俺の背中に乗せろ。走る。」
「わかった。」
そうして俺は、体力回復までの時間をかせぐ為に医療中隊に引き渡された。
「走れー!」
「罠はあらかた設置した!」
「この紙を四方八方にばら撒けー!」
「ああ、そうだ。」
俺を背負っている軍人さんは言った。
「少しだけだが見てたぞ。よくぞ、強い鬼を
顔は見えなかったが、笑っているように言いながら俺を褒めた。
くそ!くそ!何だここは!真っ暗で何も見えねぇ!
俺はあの時、間違いなくカスに首を斬られたのに!!
ボヤーン
光?
シュッシュッシュッ
「初めまして、獪岳さん」
「テメェは?」
俺とは一切縁のない、女学校で呑気に親の金で暮らす、苦労知らずのお嬢様。
「地獄にようこそ。」
その言葉に俺は納得した。
「ハッ!お前のようなお嬢さんが俺の案内をするのか?地獄とは随分と温い場所らしい。」
「正確には私は案内人です。本来、地獄にしろ、天国にしろ、君と縁のある人が迎えに来るのですが…稀にいるのですよねー、君みたいに関係者全てに断られる案件が。まあ、そのための【案内人制度】です。案内しますよ、地獄まで…ね。」
《人に与えない者はいずれ人から何も貰えなくなる》
「そうかよ」
カツカツ
シュッシュッ
「暇ですねー?」
不意に地獄の道を先導していた女は言った。
「私は君が来る前は、下弦程度の能力を持たされた
「俺は人を殺したぞ。」
「ええ、だからアナタは地獄行きです。まあ、冥土の土産としてネタバラシでもしますか。」
「ネタバラシ?」
「今の我妻善逸の映像を」
あの女が何もない所で呟くと、
ブゥン
まるで昔見た映画のような物が現れた。だが映画と違い、声が聞こえて、鮮やかな色の動画が流れてきた。
《どうだ!助かりそうか!》
これは俺の死後か。
《医療中隊!到着!救護一名!急げ!》
まるで軍隊のような動きだな?
《少しだけだが見てたぞ。よくぞ、強い鬼を
始末?鬼殺隊では討伐と言っている。それにコイツら鬼と直接戦っていない。
《中尉!流石にそろそろ逃げ用に使う武器が限界です!!》
「中尉!医療中隊!コイツら!!」
「ええ…君が鬼化してしばらくして、鬼殺隊は国営の傭兵部隊となりました。君が剣士だと思っていた我妻善逸は正式には傭兵。」
「アイツが妙に変わった理由も奴らか。」
そう考えれば、納得する場面が多かった。
やたら、爆発する音。
アイツが俺の苛立ちを煽るような言葉を使っていたのは、俺たちに軍人の正体がバレるのを恐れたからか。
「ハハッ!」
結局俺は何をしたかったんだろうな、誰も迎えに来ず、独りで死んで、そのくせ、あのカスは軍人共に褒められて、生きることを望まれて。
「これも君の犯した罪を償うための罰の一環。…私の案内はここまで…さあ、あの門が地獄の入り口。最低でも数日は並ぶことになりますが…」
さて…次は天国行きの《下弦程度の強さを与えられた鬼》の元へ。
我妻善逸
裏切り者の現鬼の【弟弟子】言うならば【家族】なため、獪岳を身内の情で見逃す可能性が高いのもあり、九鬼からは【要注意人物】扱いだった。
獪岳の情報を事細やかに説明していたのも、そういう理由。
しかし、政府側が何もしなくても獪岳とは異なり、「クズ」ではない善逸は、鬼となった兄弟子を見逃す事などしなかった。
九鬼大和
特高の警視であり政府代表任命官
我妻善逸と獪岳がお互い孤児であった事も、獪岳のクズエピソードも調べ上げた。唯一の生き残りである沙代を直接訪問して、何とか獪岳の過去と実際の悲鳴嶼行冥氏の冤罪が一致するかを部下を使いながら調べ上げた人。
【我妻善逸の耳】がほしい為、我妻善逸の心の傷を減らすために獪岳には鬼である事も踏まえても、死んでもらわなければ困る。
獪岳
遊郭編の後に鬼となった為、しかも鬼への変化の激痛で記憶がとびとびだった。
だから最期まで【鬼殺隊】が【国家公認の傭兵部隊】になった事も、自分が戦った善逸が【剣士】ではなく、【傭兵】であったことも知らずに地獄に渡った。
最期の最後で、罰として【生きることを望まれた我妻善逸の映像】と【鬼殺隊】をネタバラシした。
地獄だから狂うことも出来ない。
医療中隊
実は軍人は愈史郎の事を知っている。
人に害をなさない鬼なら寧ろ、戦力増強のために友好的に接する。
我妻善逸が獪岳を倒したのを少しだけ見ているので、到着が速かった。
善逸には最後まで戦ってもらうので、回復までは全力で守る。
橘香子
天国行きの鬼と地獄行きの鬼がいるせいで、往復回数がえげつない。
獪岳への罰は上からの依頼だったので流した。
本当に誰も彼を許さなかったので、仕方なく獪岳と話していた。
半天狗と玉壺は精神が狂っているので、別の担当がついていた。
地獄コソコソ噂話
《下弦程度の力を持たされた鬼》が無罪で天国行きなのかと言うと、
自らの意思で鬼となっていないから。
人の形を保っておらず、結局一人も殺せていないから。
何より、
食欲で人(もちろん人以外も含む)を喰べることは生物として当然のことであり、罪に問われるのは、【人を喰べている】と自覚している上で、さらに同族喰いを続けていた鬼なので、人の理性を持っていなかった鬼は無罪扱いになりました。もちろん人間時代の罪は別で裁きます。