「あの…ここに!緑の髪を持つ昼間しか会えない人がいると聞いたのですが!」
後ろに下がっていた私にも聞こえるほどの大声。
でも、この声ではっきりと誰が来たのかが分かった。
「それが何か?」
あっ、ウィリアム神父、素がでてるよ、素が。いつもの下手くそな日本語を話す陽気な異人の仮面が外れてしまっている。
「えっ…あっ…」
私から見てもウィリアム神父が警戒しているのが、見て取れる。
ましてや、炭治郎は匂いで感情が読み取れるのだ。私以上に神父さんが不快感を覚えている事がわかったのだろう。言葉が詰まっている。
でも、ほかの鬼殺隊士ならともかく、この人は、
「ウィリアム神父、この人は【大丈夫】な人です。」
「レディ…」
その言葉の後、神父さんは静かに私を守る手を下げてくれた。
でも、最後の確認をしないと。
「はじめまして、【緑の髪の異人】です。あなたの名前は?」
「はじめまして!竈門炭治郎と言います。」
うん、さすが少年漫画の主人公、太陽のような人だ。
「少しお待ちください。」
「*1Father William, he's fine. Can I enter the church?」
「*2Lady, what kind of wind is blowing around? Even though I was so wary of the demon squad. 」
「彼は大丈夫なのです。」
異人のふりをする際、どうしても外せない要素が言葉だ。日本語ばかり話していれば、いくら見た目が異人でも、『もしかしたら…』なんて思われかねない。だから外国語を特に英語の日常会話はスムーズに出来る様になるのが急務だった。幸い、ウィリアム神父は日本語はほぼ完璧。
英語万年オール2だった私でも、ウィリアム神父とのマンツーマントレーニングで日常会話なら出来るようになっていた。
「…分かりました。君、いや、炭治郎君か?その物騒な武器を持ち込まないなら、教会に入ってもいい。」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って、なんの躊躇いもなく日輪刀を教会の扉にたて置いた。
こういう行動が主人公が主人公たる所以だよな。
教会の椅子に座って、最初に言った言葉は、まあ予想通りすぎた。
「あなたは鬼なのに、何故藤の香りを纏っているのですか?」
「私はそんなに藤の香りがするのですか?ウィリアム神父、私の体臭はキツくないですか?」
「いえ、特段強い香りとは思いませんが?」
私が鬼になって最初に食べたのは藤の花だ。だから藤の香りが体臭になっていてもおかしな話ではない。でも、それよりも気になったのが…
「その件は後で話します。しかしこちらの質問から先に答えて下さい。なぜ…ここに来たのですか?日輪刀を持ってきている時点で、私が鬼であることを前提にしてますよね。緑の髪、緑の瞳だけなら、柱の中にも似たような容貌の人がいます。ましてや、私は【異人】特段珍しい事ではないと思うのですが。」
そうなのだ。柱の面々は、日本人離れした容姿に髪色、瞳の色も異なる。時間軸は分からないが、日輪刀の鍔が煉獄杏寿郎の物でない以上、現在血の匂いがしないので無限列車前、柱合会議の前の軸なのか?ならば、念の為に来ていてもおかしくない。
「あ、それは、善逸、同期の友達が、そこのウィスティリアさんから『鬼の音がする』と言っていたので。」
「「鬼の音?」」
声がはもってしまったが、鬼の音?しかし相手があの善逸、音に関しては疑い様がない。そんな人が鬼の私ならともかく、人間であるウィリアム神父から鬼の音がする?
「ウィリアム神父、口を開けてください。」
「え、えぇ」
とりあえず確かめないと。
「牙はなし、そこの日向に行ってください。」
「こうですか?」
「日光がきついと感じますか?」
「いえ、何も感じませんが?」
「竈門炭治郎さん、あなたはこの人を鬼だと思いますか?」
鬼に現れる特徴がなく、何より私と違って生身で太陽光を浴びている。
鬼の音がするなら何処かに異常をきたさないとおかしい。
「いいえ、この建物は藤の香りが強いので、いつもよりは匂いを感じ取れませんが、この人からは誠実な匂いがします。鬼ではないです。」
こういう時、便利だよな。超感覚持ちは。説得に時間がかからない。
「私も同じ意見です、この人は人間です。ウィリアム神父ありがとうございました。」
「いえ、ですが、鬼の音…ですか?」
「はい!善逸はあの呉服屋の時、俺とぶつかった時に鬼の音がして、ウィスティリアさんが店主と話している時は人間の音がしたと言っていました。何か心当たりはありますか?」
えっ…そんな事があり得るのか?
「心当たり…ですか…。そうですね、強いて言えば、呉服屋で君たちとぶつかった時、カタナが見えて、キサツタイかと警戒はしましたね。」
「警戒…ですか…?他には?」
警戒だけで、人間の音から鬼の音になる?それだけなら他の人も同じ音がするはずだ。でも善逸はウィリアム神父を名指ししている。なら、それは仮説としては成り立たない。
「他…なら、そうだ、その時はレディ、この人の事を考えていましたね。」
そう言って、隣に座る私の方に視線を移した。
「なら、店主と話している時は違う事を考えていたのですか?」
「いえ、この服を着たこの子のことを考えていたので、それは違います。」
善逸の音は、ただ単に【音】だけではなく、感情や心の声も聞こえる設定だったはずだ。私のことを考えていた時、鬼の音がする?あり得るのか?
「あっ!もしかして、俺たちとぶつかった時は【鬼のレディ】さんの事を考えていて、店主と話している時は、【レディ】さんの事を考えていたのではないですか?」
「Oh, for sure.心当たりならそれですね、君たちとぶつかった時は、この子が恐れるのは君たちなのか?と思い、呉服屋の店主と話している時は、この服を着たあなたの事を考えていました。オニの事を考えたのは、あの時だけですね。」
「実は善逸の音は、ただの音ではなく感情によって音が変わっているそうです。ウィスティリアさんの話を聞くと、おそらくはソレが【鬼の音】の正体だと思います。」
「そうですか…、しかしそれでは、他の人が間違えて私に攻撃する危険性があるのでは?」
「あっ、それはないです。善逸が特別聴覚に優れているのであって、俺たちが気づかなかったので、他の人がウィスティリアさんが鬼と誤解して、夜中に襲い掛かるのはありえません。その辺はご安心ください。」
「それは良かった…、」
ウィリアム神父……やはり私のせいだったのか。人と関わるべきではなかった。鬼は鬼。人は人。竈門兄弟のような血縁でもなければ、鬼殺隊と関わる度胸もない私が、人と会い、人と共に過ごしたいなどと…烏滸がましい願いだったんだ。
「では、竈門さんの質問に答えます。なぜ鬼なのに藤の香りがするのかというと、実は私が鬼となって最初に食べたのが、藤の花だったのです。」
「えっ?でも鬼は藤の香りはダメなんじゃ…」
最もな意見だな。
「ええ、私も最初は藤の花で酷い目にあいましたが、鬼舞辻無惨の支配下に置かれるならば、自分で賭けにでたのです。」
「賭け?」
「私は女の身ではありますが、医学にはそこそこ詳しいです。」
(嘘ではない、この時代の女なら詳しい方だ)
「そこで分かってしまったのです。無惨細胞は癌細胞と呼ばれる細胞に近いということが。」
「そんな細胞があるのですか?」
あー、まだ癌細胞が見つかる前だったのか?
「癌細胞とは、もともと自分の体の中にある細胞であり、それが体内でバグって…うーん…異常繁殖を繰り返す事で、体全体に不都合を起こす細胞です。もともと、人間にしろ何にしろ一つの細胞が増殖できる回数は決まっています。」
「はぁ…?」
やっぱり理解されていないな。
「うーーん、ものすっごく簡単に言うと、体を【家】と例えて、【家の木材】を細胞としますね、どのくらいの家を建てるかで木材の量は変わりますが、なるべく余りは出したくはないですよね。で、あらかじめ木材の量を調整するのです。癌細胞とは一度建てられた家の中を無理やり増築しているようなものなんですよ。もちろん、無理に元の家の中で増築しようにも広さには限りがある。結果的に元の家を破壊してでも、新しい家を建てようとする動きをするのです。」
「えっ?でもそんなことは」
「ええ、その通りです。そんな事…出来るわけないですよね。腕を切られても再生するわけがないのは、元の家が主軸だからです。主軸を無くした家は、壊れる。」
「癌細胞は、元の持ち主の家を壊す存在…?」
「結果的に言えばそうです。前々から不思議ではあったのです。ねえ、炭治郎さん、あなたが斬った鬼の中で、最後に人間時代の事を思い出した鬼にはある共通点がありました。それはなんだと思いますか?」
「えっ!俺が斬った鬼の中で、ですか?えっ、うーん…」
考えてる、考えてる、彼は鬼を人として扱える子どもだ。ならば、自ずと共通点は分かる。
「手鬼は斬った後に、悲しい匂いがして…下弦の鬼は冨岡さんに首を斬られたあと………あっ!」
「気づきましたね?」
「はい!両名とも【死ぬ前際】に悲しくて嬉しくて幸せな匂いがぐちゃぐちゃとしていました!」
「半分正解です。共通点は【無惨の血が大量に流れた】ということです。」
「無惨の血が大量に流れた?」
「神父さんのお国であるアメリカを含む、列強国には【瀉血】という治療法があります。これは、体内にある悪き血を外に出すことで、体の不調を治すという方法です。実は、人間だと効果がない…どころか、調子を悪くしてしまう医療行為なのですが…まぁここでは置いておきましょう。鬼の場合は、この【瀉血】…かなり効果的なのですよ。」
「なぜですか?」
「先ほど癌細胞の話をしましたね、主にそれが含まれるのは無惨の血です。効果的な治療薬がなく、かつ藤の花もダメとなると、死ぬこと覚悟で瀉血すれば、無惨の血を体内から出すことができます。」
「あっ、そうか鬼は基本的に死なないから。」
不老不死の利点はそこだ。でも問題点や懸念点も多いが、
「もちろん、全ての鬼に効果があるとは思いません。瀉血はあくまでも応急措置の類です。鬼になったばかりで人を喰っていない者が、【人間時代を忘れずにすむ方法】と考えていただければ宜しいかと。一度鬼になると言うことは、【元の家を壊して新しい家を建てた】ということです。少なくとも【鬼が人間に戻る方法】ではありません。」
「でも…この情報があれば、鬼になる前の人だったら、人喰い鬼にさせなくてもすむかも…!」
炭治郎という人物は、本当は鬼殺隊なんかと縁がある身分ではない。妹を守るためだけに剣士となった。どちらかというと徴兵、いや脅しで鬼殺隊に入らざるを得なかっただけのこと。だから聞きたい。
「竈門炭治郎さん、あなたは鬼殺隊に向いてはいません。なぜ、金銭欲や名誉欲とは無縁の性格でありながら鬼殺隊に入ったのですか?」
私は理由を知っている。でも、私は本人の言葉を聞きたい。
「実は…俺の妹が鬼で…でも!人は喰っていない!のですが…、妹を人に戻すために鬼舞辻無惨を倒したいのです!」
そうか…、まだ例の情報を知らなかったのか…、
「それは…妹さんを殺したいのですか?」
「えっ!?」
「レディ!一体なにを!」
神父さんも巻き込んでしまうが、私は彼にこそ《この情報》を知る権利があると思っている。
「妹を守りたい?ならば鬼殺隊をすぐに辞めなさい。知らないのですか?《鬼舞辻無惨が死ねば、全ての鬼が死ぬ》ということを。」
「えっ…、」
「そういうことだったのですか」
炭治郎は呆然としているが、神父さんは冷静だ。やっぱり身内と他人だと反応に差が出るな。神父さんの負担にならないならそれに越したことはないけど。
「はっ…え、お館様は何も言っていなかった。」
だろうね、産屋敷一族は鬼舞辻無惨を殺すことに…文字通り、血反吐を吐きながら鬼殺隊を運営している。ならば、この情報も知らないだろうな。
「炭治郎さん、お館様と言っていたので、妹さんの裁判は終わったのですよね?」
「はい、そうですが…なぜあなたがそれを知って。」
「私の血気術の一つと思ってください。」
説明すると長引くから、前世の記憶は血気術としよう。
「お館様…産屋敷におかしな点はなかったですか?そう…例えば、《鬼舞辻無惨と顔が同じ》…とか。」
「あっ!!」
「産屋敷一族は、鬼舞辻無惨の子孫です。もちろん、鬼舞辻無惨の直接の子孫ではありませんが、同じ一族です。あなたの反応を見るにそれは知らなかったのですね」
「えっ…でも、それなら俺は…お館様に先祖を殺しますと宣言してしまった」
「妙な罪悪感は抱かなくても問題ありませんよ、産屋敷一族の悲願は《一族の汚点》を殺すことにあるのですから。」
勝手なことにな。
「ホントーに、部下の心情なんてドーデモいいのですねー、ウブヤシキさん達は。」
神父さんが、仮面をつけ終えた。でも、この雰囲気、もしや、
「あの…なぜ、あなたが怒っているのですか?」
やっぱりか。
「怒るなと言われた方がオカシーと思いませんか?だってアナタ、ウブヤシキとキブツジの関係性をナーンニモ知らされていなかったのでしょう?ホントーなら、真っ先に知らなければならなかった情報を。特に妹さんが鬼なら、本当の善人ならキサツを真っ先に否定しますよ、間接的に妹さんを殺すことですからね。」
「えっと…それは…」
すごいな、私が言いたかった不満を全てぶつけたな。炭治郎さんは言葉を探しているようだが、神父さんの発言が正論だから、産屋敷を擁護できないようだ。ここで畳みかけるか。
「炭治郎さん、あなたの志望動機は、それは志願ではなく、脅しによる強制労働です。用は《妹を守りたいなら鬼を殺せ、殺せなければお前ら諸共死ね》と言われて鬼殺の剣士になったのでしょう。あの《非人道的な最終選別》を受けて」
「確かに!確かに!最初は禰豆子を冨岡さんに殺させないために剣士の修行を受けました!脅しの面は否定できません!!でも!今は!俺は!自らの意志で鬼殺隊に所属しています!!」
さすが、本家の主人公。逆境の中で足掻く姿は、確かに人を引き寄せ、戦いたいと思うだろう。でも、ここは漫画の世界ではない。主人公不在でも無惨討伐は誰かがしてくれる可能性もある。1番のネックは、第二次世界大戦だが、私の知る史実と神父さんから聞いた過去の出来事は、微妙な誤差があった。つまり、第二次世界大戦が起こらない世界観の可能性もある。
ならば…ただの少年がわざわざ、寿命を削ってまで鬼舞辻無惨を討伐する未来は必要なく、他の柱達が無惨を討伐するのも起こりえる未来の可能性だ。
「今の君の心情はどうであれ、ハジマリが脅しの時点で、組織としては終わっています。キミのようなコドモたちをセンジョーに立たせる組織はチカイミライに、人の手によって解体させられるでショー。」
ウィリアム神父は、司祭を職業として選んだ人だ。自らの意志で神に仕える覚悟を決めた人にとっては、脅しによる少年兵と、その少年兵を当たり前のように戦場に立たせる組織は論外だ。
それに時代も下れば、鬼殺隊はどんな隠蔽工作をしても表に出てしまう。最終選別などの狂った実戦は非難の的となり、マスコミに面白おかしく取り上げられるだろう。当然、世界的な目もあり鬼殺隊は解体、産屋敷一族は当主と妻は死刑。子供達は表向きは保護となって、裏では一族郎党、国によって暗殺されるだろう。神父さんの発言は間違っていない。
それに、
「竈門炭治郎さん、今のあなたは、炭焼きの息子ではなく、他にも付加価値があります。そう……特に陸軍が欲しがり、例え妹が鬼だとしても手厚く保護する価値が。」
「確かに剣士としての腕前はありますが、それだけなら他にも」
「全集中の呼吸、常中。ただの呼吸ではなく、ちょっと呼吸法を変えただけで常人の2倍、3倍の力を出せる上に、極めれば軽い出血なら自力で塞げてしまう技。」
「*3Can you do that? It's like magic!」
「富国強兵を掲げている帝国軍には、現在の軍縮の流れの中では最高の福音です。だって、1人の兵士を養うにもお金がかかる。出来るだけ兵士は少ない方がいい、でも兵士の質を上げようにも、それをする為にもお金がかかる。でも、全集中の呼吸には、設備費などのお金はかからない。もともとある軍隊の土地や建物をそのまま使える上に、ひょうたんなどは単価が安い。陸でも海でも利点を見出せます。
そして、それを知れば、鬼殺隊でも異端枠であり、上級幹部に嫌われているあなたは、裏切りの可能性が限りなくゼロ。眠り続ける妹を大切に保護すれば、あなたは全力で軍隊に従うでしょう。元々あなたは可愛がられる後輩タイプです。説明は下手くそですが、軍人は基本的には習うより慣れろです。出来る人は実践し、できない人は出来る人から教わる、そうすれば自然と全集中を覚える者が増える。
身内の妹だけを責任持って守れば、1人で10人、いや100人力の技を教えてもらえるのです。
もし、私が軍人だったら、たとえ人喰い鬼だったとしても大切に匿いますよ。」
そう、鬼滅の刃を読んでいて腑に落ちなかったこと。それは、全集中の呼吸・常中を修行時代に教わらなかったこと。
相手は元水柱だ。当然、常中の利便性を知っている人、なのに炭治郎はまだ妹という不穏分子があったから教えられなかったにしろ、孤児で居場所がない善逸も知らなかったのはおかしすぎる。
隊士の質が下がっているのならば、修行時代に常中を教えていた方がいい。なのに、教えない。それはもしかしたら、教えないのではなく、教えた事による情報漏洩がリスキーだったのではないか?
仮に鬼殺隊が国公認の組織だった場合は、いくらでも監視をつけられるが、鬼殺隊は政府非公認の存在、監視役の鎹烏だけでは、産屋敷の影響が及ばない土地に行かれた場合、対処のしようがない。
だから、鬼殺隊内で死んでくれそうな人にしか教えないとしたら…いろいろと納得できてしまうんだよなー。
「あなたは人を守ると言っても、一口にいって何をもって守るのかが明確ではありません。失礼ですが、それでは大切な局面で一番大事な存在を殺すことになりかねませんよ。」
そう…、この時代の竈門炭治郎は炭焼き小屋の息子の面が抜け切っていない。だから、死の間際に立たない限り本気を出せていない。本人がそれを自覚していないのは危険だ。
「何を持って守る…のか?」
「私は正直に言って、産屋敷一族が嫌いです。自分達の問題を他人であるあなたたちまで巻き込んでいる上に、本当の事を話さないで、のうのうと鬼殺隊当主として慕われていることが。別に子孫だから死んでくれというわけではありません。むしろ産屋敷には何があっても、鬼舞辻無惨を殺してほしい、いや、殺せ。だが、そこに志願兵でもない人、ましてや子供を使う事に嫌悪感があるのです。鬼殺隊士の心は美しい。柱も人を守るために足掻く、そこには明確な信念があります。
でも、あなたには《妹を守る》という絶対の芯はあれど、本当の意味で《人を守りたい》とは思っていないように見えるのです。」
顔つきが変わっている。これは迷っている目だ。
「仮に…民間人と自分の妹、どちらかしか守れないとしたら炭治郎君、君はどちらを取りますか?」
「そ、それは、」
刀鍛冶編では禰豆子よりも小鉄?だったっけ?を優先していたが、それは鬼殺隊士として成長した竈門炭治郎だったからだ。
今の時点では、どちらかを選ぶことはできない。
「答えなくていいです。ですが、戦場で迷うということは命取りです。それに関しては貴方はよく理解しているはず。少なくとも今の貴方では鬼殺隊士としては不十分であり、また民間人というには知りすぎているのです。どちらにもなれないと言うならば、別の道を選ぶのが最良です。」
「だから…軍人になれ…と。」
「私は産屋敷ではありません。強制はしませんが、妹の命を最優先にするならば、鬼殺隊は見切り、陸軍省に飛び込む事をおすすめします。」
「でも、冨岡さんや、鱗滝さんが…」
ああ、そういえばそういう約束をしていたな。
「『竈門禰豆子が人を喰った場合、鱗滝一門が腹を切る』ですか?」
「なんと、野蛮な!」
「はい…。」
不死川実弥と同意見だが、人喰ったら切腹って、意味なくね?
「それは、『禰豆子が人を殺したら』ですよね、『竈門炭治郎が妹を連れて転職する』のは全く問題ないですよ。」
「あのー、結局、レディさんは俺に何を求めているのですか?」
長ったらしくなってしまったな、私の悪いところだ。
「竈門炭治郎さん、あなたには【鬼殺】以外の道があるのです。
鬼殺隊から離れるのは“逃げ”ではありません。戦略的撤退と呼ばれるものです。負けではありません。どうか…それを忘れないでください。」
「炭治郎さん、私のアニは貿易商人です。商売相手には日本人の軍人もイマス、ニホンがダメなら、アメリカという手もあります。妹さんを守りたいなら道は沢山あった方がいいです。」
「……………あなた達の気持ちは嬉しいです。でも、俺は、この道を進みたいと思います。」
その目には、もはや悩みの色は見えなかった。やはり、そうだよな。
「私は、あなたの選ぶ道が茨の道だと知っている、だけどそれを止める資格はありません。ですが…道は必ずしも一つではない。ということだけは心に留め置いてください。」
「はい!ありがとうございます!ウィスティリアさん、レディさん!」
タタタ
「さようなら!」
室内から出た炭治郎は、日輪刀を片手に持ち、陽の光をバックに帰っていった。
「それでは、私は教会の草むしりを…」
「レディ…いえ、お嬢さん、なぜ、貴方は彼に言わなかったのですか?自分の本当の名前を思い出せないと言うことを。」
「それをいえば…道が開けるとでも?今の名前は探せば分かります。ですが…、前世の名前を知っている人は…私しかいない。どれほど願っても探せない名前ならば、最初から…仮名で…無惨が殺されるその日まで、生きるだけです。」
「レディ…」
主人公
実は【前世の名前】が思い出せない。だから主人公は鬼になってからは名前で呼ばれたことがありません。
今まで関わった人が基本的に神父さんただ1人だったので、神父さんには事情を説明して、【お嬢さん】【レディ】と呼んでもらっています。
偽名も考えたのですが、どうにも気持ち悪くなったので、名付けを拒否しています。
主人公は神父さんと歴史を習い、自分の知る史実と鬼滅世界の歴史に微妙な誤差があることを知りました。
だからこそ、竈門炭治郎には、別の道もあること、必ずしも鬼殺隊でなければならない訳ではない。ということを知って欲しかったので、厳しい言い方をしました。
ウィリアム・ウィスティリア司祭
主人公の理解者であり友であるカトリック宣教師
実は最初の段階で、主人公が名前を忘れたという事を知りました。
仮名の名付け親に立候補しましたが、本人に断られてしまい断念。
でも、心の中では【アミークス】と呼んでいます。
竈門炭治郎の鬼殺隊に入るまでの過程が脅しによるものだったので、竈門炭治郎や妹さんは保護対象扱いになっています。
炭治郎があの時点で『転職をする』と言ったら、本気で日本軍のお偉いさんと会わせて、教官職に就かせる気でした。
竈門炭治郎との会話内容により、【最終選別】が実在することが証明されてしまったので、ますます産屋敷一族への嫌悪感が増しました。
竈門炭治郎
ついに教会に突撃訪問をしました。
異人さんの凍えるような声と匂いに、つい日輪刀を握りしめてしまいました。ですが、『緑の髪の異人』こと、緑の鬼さんが金髪の異人さんを説得して、無事に教会の中に入れました。
なぜ日輪刀を置けたのか?それは教会の中には柔らかい信愛の匂いが溢れていたからです。
レディさんからは、心配・哀れみの匂いがしていたので、鬼の話とはいえ話の内容は信じています。レディさんから新しい情報を貰い、それを含んでも鬼殺隊で頑張りたいと決意を固めました。
珠世さん達と違い、利害関係による繋がりではないので、とても心が軽くなった。
大正コソコソ噂話
主人公は、居住区の地下空間を広げる決意をしました。
「完全に匂いを遮断しないと…」
カァ