それでもわたしは夢女子にはならない【完結】   作:龍流

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スクアーロってかっこいいよね


噛ませ犬が弱いとは限らない

 わたしは転生者である。

 両親がギャング稼業に精を出し、家庭環境が普通と明らかに異なることを除けば、いたって普通の、ほんとうにどこにでもいるようなごく普通の子どもだった。

 あれ? ここ、もしかして『家庭教師ヒットマンREBORN!』の世界じゃね? と気がついたのは、両親の口から「ボンゴレ」という単語が出てきた時である。

 

 やったぁあああああああああ! 

 

 と、喜ぶのも束の間、わたしはひどく落胆した。何故か? 理由は単純だ。

 わたしの性別が、女だったからである。

 

(最悪だ。どうしてわたしは、せっかくREBORNの世界に生まれたのに、女になってしまったんだろう……)

 

『家庭教師ヒットマンREBORN!』という作品は、コテコテのギャグ路線からシリアススタイリッシュアクションに舵を切り直して大成功した、いわばジャンプの路線変更の代名詞とでも言える作品である。序盤にパンツ一つで駆け回る主人公はいつの間にか消え、死ぬ気の零地点突破だの、リング争奪戦だの、はたまた未来へタイムスリップしての近未来バトルだの、すっかりジャンプの黄金期を支える激アツバトルストーリーに成長した。

 そう。『家庭教師ヒットマンREBORN!』は、少年の心をくすぐる、王道バトルマンガなのだ。

 

(うう、でも、女じゃなあ)

 

 だからこそ、わたしは涙した。それはもう、大量の悔し涙を流した。

 雲雀恭弥然り、六道骸然り、白蘭然り、REBORNの世界で第一線を張る強キャラは、そのほとんどが男だ。作画の雰囲気も相まって、女性ファンが多かったのはよく理解しているし、女キャラよりも男キャラが強いのは少年マンガの宿命とも言える常だが、それにしたってREBORNの世界は男ばっかり強いように思える。クローム髑髏ちゃんなんて、大体敵にボコされたり、触手の餌食になっていた印象しかない。超エロかったのであれはあれで最高だったが、しかし自分がボコボコにされて触手プレイを受ける側になりたいかと聞かれれば、断固としてノーである。わたしはべつにMではない。それはそれとしてグロ・キシニアさんはとてもリスペクトしています。

 

(ブルーベルちゃんとかも鳴り物入りで登場した割には、あっさり干物にされっちゃってたよなぁ……ラル・ミルチとかはそこそこ強かったし、キャラとしては好きだったけど、あんまり活躍してるイメージはないし)

 

 とはいえ、いつまでもうじうじと悩んでいてもはじまらない。

 わたしには、大いなる夢があった。野望があった。生涯の悲願があった。

 それは……

 

(リングの炎使って、(ボックス)兵器でスタイリッシュに戦いてぇ)

 

 バトルである。浪漫である。

 REBORNに出てくる武器は、そのほとんどがとにかくかっこいい。

 そもそも六属性の炎とかいう概念そのものがイカしているし、守護者のリングも洒落ているし、専用の匣兵器なんてもう最高だ。

 わたしは前世では一個200円くらいで売っていたリングのガシャポンを死ぬほど回し、ボンゴレリングをコンプリートしては喜び、ヘルリングのあの気持ち悪い目玉のやつばかり3個連続で出てきてはキレ散らかすタイプの厄介オタクであった。

 

(せめて、せめて自分の炎の属性がわかるまでは絶対に死ねないなぁ……)

 

 炎を使って、兵器でスタイリッシュに戦うためにはどうすれば良いか? 

 

 これもまた、単純な話である。強くなるしかない。

 

(修行、するか!)

 

 とはいえ、ここはREBORNの世界。生半可な覚悟で修行したところで、そこらへんのちょっとかわいいモブ雑魚兵士になるのが関の山である。もしくは触手プレイ。

 なのでとりあえず、何かを一つ。極めよう。その分野で、最強と呼べる頂点に至れるように、すべてを捨てて、それに打ち込もう。

 

「お前も、もう大きくなった。どうだろう? 護身のために、剣術でも習ってみては」

「やります。剣術習います」

 

 すべては、自分の将来のため。スタイリッシュバトルのために! 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた。

 

 

「お前の親は、俺が殺した。今日からは、俺がボスだ」

 

 現実は甘くない。

 ほどなくして、わたしは生きるための選択を突きつけられた。

 

「選べ。このまま死ぬか、俺の奴隷になるか」

「やります。奴隷やります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スペルビ・スクアーロがその噂を耳にしたのは、単なる偶然であった。

 

「地下闘技場に、負けなしの剣士がいる、だぁ?」

「ええ。そうなのよぉ」

 

 奇抜なファッションの筋骨隆々のオカマ、ルッスーリアは、相変わらず生理的嫌悪を感じさせる動きで体をくねらながら、うねうねと頷いた。

 

「場所は?」

「お、フ、ラ、ン、ス! なんでも、ギャングとか闇のブローカーとか、表には出れない人間を集めてコロシアイをさせてるらしいわ。コロッセオといえばイタリア(ウチ)の名物だっていうのに、なんだかお株を奪われたみたいでやーねぇ」

 

 はいこれ、とルッスーリアはさらに詳しい情報が記されたメモ書きを、スクアーロに手渡した。

 

「ゔお゛ぉい! ずいぶんと用意がいいじゃねぇかぁ」

「ほらぁ、あなたそういうのお好きでしょう?」

「もちろん大好物だぁ」

 

 一見、粗暴に見えて、こと剣の探求については誰よりもストイックなのがスペルビ・スクアーロという男である。

 剣の帝王と謳われた現代最強の剣士、テュールを倒した後、スクアーロは端的に言ってしまえば燃え尽き症候群に近い状態に陥っていた。

 西に剣士がいると聞けば赴いて潰し、極東に負けなしの流派がいると聞けば、また赴いて潰す。そんな繰り返しにも、少し飽きてきた頃だった。

 負けなし、という言葉に期待を抱くには、スクアーロはもう強くなりすぎてしまっていたが、とはいえそれでも期待がないと言えば嘘になる。

 

「おもしろそうじゃねぇかあ……行ってくるぜ」

「ボスに連絡は?」

「いらん! そもそもお前はプライベートで出かける度に、あのクソボスから許可を貰う気かあ?」

「おほほほ! あまり笑わせないでスクアーロ! 私の美しい腹筋がもっと美しく割れてしまうわ!」

「うっせぇーぞぉ! とにかく留守は任せるからなぁ!」

「はいはーい! いってらーしゃーい!」

 

 即断即決、即行動がスクアーロのモットーである。

 そのまますぐ出て行こうとした彼を、しかしルッスーリアは呼び止めた。

 

「あ! ちょっと待ってスク! 一つ言い忘れていたわ!」

「あぁ!? なんだぁ?」

「その無敗の剣士、()()()()()()()()()らしいわよ」

 

 

 

 

 

 スクアーロがフランスに入国した後、その地下コロシアムとやらへの参加は、トントン拍子に進んだ。

 どうやら噂の剣士とやらがあまりにも強すぎるらしく、対戦相手を募集するのも難しい状況だったらしい。噂に違わぬ評判に、スクアーロの胸は柄にもなく弾んだ。

 だが、地下に降り、コロシアムに入れられ、対戦相手と向き合って。そこで、スクアーロの抱いていた期待のすべては、あっさりと裏返った。

 負けなしの剣士、というのは年端もいかない少女だった。

 およそ、戦いには向いていないように見える、黒いドレス。色素が抜けた、金髪のショートヘア。とてもじゃないが、きちんと栄養を摂っているようには思えない、青白い肌。

 そして、少女が構えた得物を見て、スクアーロはひどく落胆した。

 

「貴様ぁ……ふざけているのかぁあ!?」

「……なにが?」

 

 その剣には、刃がなかった。

 針のように細く鋭い剣身と、華やかな曲線が特徴的な柄。少女が構えたそれは、レイピアと呼ばれるフランス発祥の片手剣であった。簡潔に説明するならば、催事に用いられる儀礼剣に近い。まともな武器として見るには、それは少々華美に過ぎた。

 だが、スクアーロが何よりも気に入らなかったのは、その少女の得物ではない。

 

 瞳である。

 

「戦いを前にして、なんだぁ? 貴様の、その死んだ眼はぁ……!」

 

 少女の碧色の眼は、端的に言って腐りきっていた。覇気も生気も、まるで感じられない。

 性別は良い。女でも、強い剣士には山ほど会ってきた。

 剣は良い。どのような(なまく)らであっても、それに己の武器としての誇りを込めているのなら。

 だが、眼だけはダメだ。戦おうとしているのではなく、戦わされている。その腐りきった眼を見ているだけで、スクアーロの闘志は削がれてしまった。

 

「ちっ……無駄足だったなぁ」

 

 殺し合いの開始を告げる、ベルが鳴り響く。

 速攻で終わらせよう、と。スクアーロは左腕の剣を構えた。

 だが、それを上回るスピードで。開始と同時に、まるで呼吸を一息。それが当然であるかのように、少女は深く踏み込んだ。

 

「……っ!?」

 

 斬らない剣士。その異名の意味を、事ここに至って、スクアーロは正しく理解する。

 

「ゔお゛ぉい……はぇえじゃねぇかぁ」

 

 称賛の声を漏らしたスクアーロの頬が裂け、鮮血が流れ落ちた。

 

「……なるほど。悪くねぇ」

 

 それは手放しで称賛できる、素晴らしい()()だった。

 レイピアという武器は、基本的に相手を斬るのではなく、突くことを主眼としている。故に、この細身の剣を握る剣士に求められるのは、相手の肉体を断ち切る剛力ではなく、純粋に磨き上げられたスピードである。

 レイピアはめずらしい剣ではあるが、使い手が皆無というわけではない。スクアーロは剣士として、これまで数え切れないほどのレイピア使いと対峙してきた。当然、一度たりとも不覚を取ったことがない。

 そんな自分が、攻撃を受けて、血を流した。その理由は、あまりにも単純。

 今まで対峙してきた剣士の中で、この女の剣は最も疾い。あの剣帝テュールよりも。

 斬らない剣。その異名は、間違っていなかった。

 

「……初手で頭を刺して、殺せなかったの。あなたが、はじめて」

 

 こいつは、今まで対峙してきたすべての敵を、斬るのではなく突き刺して、殺してきたのだ。

 

「認識を改める必要が、ありそうだなぁ!」

 

 歓喜の叫びを伴って、スクアーロは一気に踏み込んだ。

 レイピアは、その性質上、突きによる最高速の攻撃に特化している。細く刃のない剣身は、防御に適しているようには見えない。

 では、レイピア使いは、受けに回ったらそれで終わりなのだろうか? 

 

「良い反応だ! 判断能力も申し分ねえ!」

 

 答えはNOである。

 スクアーロが左手で無造作に振るう剣戟のすべてを、少女はすべて剣先でいなしていた。受けて、止めるのではない。あくまでもその攻撃を、受けた上で、流している。

 西洋で最もメジャーな剣を使うスポーツである、フェンシング。騎士たちの嗜みでもあったその競技の語源は身を守る『Fence(フェンス)』という単語を由来としている。細い剣身は、決して防御に適していないわけではない。

 右足を前に出し、肩幅に開いた左足は大きく下げ、つま先と剣先を相手に向けて正対させる。スクアーロの眼前で殺気を迸らせる、少女のその構えこそが……西洋剣術の守りの技術の結晶だった。

 

(この女ぁ……フェンシングの競技台(レスト)がねぇ分、ステップで距離を取りながら、どこまでも下がって受けやがる!)

 

 ただし、

 

「が、まだ(ぬる)いっ!」

 

 古今東西、ありとあらゆる剣技を、尋常ならざるスピードで喰らいつくしてきたのが、スペルビ・スクアーロという男である。

 

「ゔお゛ぉい! オレを焦らすなぁ!」

 

 徐々にその守りに、綻びが生まれ始める。

 

 その技の名は鮫の牙(ザンナ・ディ・スクアーロ)

 空間を噛り取るかのような斬撃の連続が、少女に片膝をつかせる。

 スクアーロは、剣を振り下ろすことを止め、叫んだ。

 

「技の出し惜しみをするなぁ! 気合いを入れろ! そんなものではないはずだ!」

 

 もっと、もっと、もっと。

 

「もう加減はしねぇぞぉ……オレを、楽しませろ!」

 

 暗く、淀んでいた少女の瞳の中に。

 僅かに、けれど確かな炎が灯るのを、スクアーロは一人の剣士として感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 生きるために、見世物になった。奴隷になって、生きるために剣を学んだ。下品な嘲笑と乾いた喝采の中で、剣を振るい続けた。

 毎日ひたすらに、剣を突く。突いて、突いて、突き続ける。その鋭さを、一心不乱に磨き上げていく中で、わたしの中にあったどこか大切な部分は、少しずつ摩耗していった。

 喉を突いて殺す。頭を突いて殺す。胸を突いて殺す。そこに、技巧の競い合いはない。燃えるような闘志のぶつかり合いもない。殺しが滑らかになっていくのと同時に、ルーチンワークのような戦いに、どんどん心が冷めていった。

 

 その銀髪を見た時。ああ、知っている顔だと思った。

 よく知っている噛ませ犬だと、そう思ってしまった。

 山本武に負け、幻騎士に手を抜かれ、マグマ風呂野郎に歯が立たず、心臓を貫かれて死にかけた、まったく良いところのない思わせぶりな強キャラ。

 だが、こうして対峙して、実際に剣を交えて理解した。

 

 

 ──最強が、ここにいる。

 

 

 一太刀を交える度に、心が揺さぶられる。一突きを捌かれる度に、全身が熱く沸騰する。

 

 剣帝を倒した、現代最強の剣士。

 

「そういえば、名乗るのがまだだったなぁ!」

 

 剣技も強さも型破り。東洋から西洋に至るまで、あらゆる剣術家と対峙し、そのスタイルを自分のモノにしてきた、獰猛極まる鮫。

 

 名乗りを聞かなくても、わかる。

 

 その名を、わたしは知っている。

 

 

 

「オレは、スペルビ・スクアーロだ!」

 

 

 

 わたしが想像していたよりも、遥かにその声は(やかま)しかった。

 

「名前を聞かせろぉ! 小娘ぇ!」

 

 全身が、歓喜に打ち震える。

 ようやく見つけた。遂に、巡り逢えた。

 目的を見失いながら、磨き抜いてきたこの刃で、

 

「──オルカ・グルマンディーズ」

 

 殺すべき相手を見つけることができた。

 

「オルカかぁ! 覚えたぞぉ!」

「覚えなくても、いい」

 

 強者との対峙。

 

「あなたに勝つことができたら、わたしも喜んで死ぬ」

 

 この日。わたしは、はじめて生きる(よろこ)びを知った。

 そして、同様に。対峙する彼も歯を剥き出しにして笑った。

 

「おもしれー女だぁ……!」




登場人物
『オルカ・グルマンディーズ』
悠々自適にスタイリッシュでかっこいい剣の道を極めようと思ったら、親が殺されて地下コロシアムで決闘を強いられるようになった奴隷系主人公。スクアーロくんのことは舐めていたが、剣が強くて綺麗だったので惚れた。

『スペルビ・スクアーロ』
噛ませ犬のカス鮫。作中でまともに勝ったことのない正真正銘のスーパー噛ませ犬。しかしかっこよくてそこそこ人気がある。最近リボーンのカフェメニューが告知されたが、彼をイメージした商品はソルティライチドリンクだった。ソルティライチドリンクってなに?

『ルッスーリア』
オカマ


この作品はスクアーロかっこいいなぁ、活躍させたいなぁ、という作者のスクアーロ愛で構築されています。リボーンとスクアーロが好きな人に読んでもらえたらうれしいです
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