咬み殺されたくない
やってきてしまった、日本に。
やってきてしまった、敗北必至のクソイベントが。
「君達、何の群れ? 目障りだ。消えないと殺すよ」
原作でも、屈指の強キャラ、雲雀恭弥が、わたしの目の前にいた。
た、戦いたくねぇ……
雲雀恭弥は、家庭教師ヒットマンREBORN!という作品において最強格と言っても良い戦績を誇る。黒曜編では六道骸にちょっと不覚を取ったものの、雲のリング争奪戦では入念に最新兵器としての株を上げてフラグを高めたゴーラ・モスカを瞬殺。未来編でも単騎でメローネ基地に侵入し、炎が強すぎてリングが保たないとかいうわけのわからない理論で、幻騎士相手には終始押されながらも、余裕の笑みを保っていた。
要するに雲雀は、スクアーロなどとは比較にならない、いわば存在そのものが勝利に直結する、生ける勝利フラグとでも呼ぶべきキャラなのだ。
雲の守護者になんてなりたくなかったが、こればっかりは適性もあるので仕方がない。ワンパンKOされるモスカポジションだけは本当にいやだったので、出発前にレヴィ先輩に「今回だけ守護者交換しませんか? 雷と同じくらい雲もかっこいいですよ」って提案してみたんだけど「オレがボスから賜った役目を譲るわけがないだろう! ふざけるな小娘!」と一蹴されてしまった。柔軟性のない人はほんとにダメですね。頼むからワンパンKO代わってくれよ。
「何してやがる。早く行け小娘ぇ」
それに加えて、問題はまだある。
わたしの隣には今、元気ピンピンのスクアーロがいる。そう、本来であれば雨の守護者戦で負けているはずの、スクアーロがいるのだ。
端的に言ってしまえば、我々ヴァリアー陣営は、雨の守護者戦に勝利した。
まさかスクアーロが勝つなんて、と。応援する立場でありながら、わたしは目を疑ってしまった。本来なら鮫の餌になるはずの山本武まで引っ張り上げて、ボンゴレ陣営に投げつけた上での完勝である。不思議に思ったので「どうして助けたの?」と聞くと「お前と同じだぁ。ヤツはまだ剣士ですらねぇ」と仏頂面で返された。
その代わりと言うのもおかしいかもしれないが、ベル先輩は獄寺くんに紙一重で敗北。ルッスーリアさんと並んでベッドで包帯ぐるぐる巻きになっている。
つまり、現在の状況は……
一回戦・晴の守護者戦 ✕
笹川了平VSルッスーリア
勝者 笹川了平
二回戦・雷の守護者戦 ○
ランボVSレヴィ・ア・タン
勝者 レヴィ・ア・タン
三回戦・嵐の守護者戦 ✕
獄寺隼人VSベルフェゴール
勝者 獄寺隼人
四回戦・雨の守護者戦 ○
山本武VSスペルビ・スクアーロ
勝者 スペルビ・スクアーロ
五回戦・霧の守護者戦 ✕
クローム髑髏VSマーモン
勝者 クローム髑髏
六回戦・雲の守護者対決←今ココ
雲雀恭弥VSオルカ・グルマンディーズ
こんな感じである。うん、わたしこれ責任重大ですね
「ルールをご説明します。これが、雲の守護者の戦闘フィールド。クラウドグラウンドです」
案内されたのは、有刺鉄線が張り巡らされたグラウンド場。校舎の中を水浸しにしていた雨の守護者戦とかと比べると味気ない感じだけれど、おそらく危険性でいえばまったく引けを取らない。
「雲の守護者の使命とは、何者にも囚われることなく、独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮き雲。故に、最も過酷なフィールドを用意しました」
「四方は有刺鉄線で囲まれ、逃げ場はなく、外縁部に設置された8門の自動砲台が、30メートル以内の動く物体に対して、自動で攻撃をくわえます」
はー、なるほど。だからあんなにかっこいいガトリング砲があるんですね。バカなんじゃないの?
「また地中には重量感知式の罠が設置されているので、こちらもお気をつけください」
「踏むとどうなるんですか?」
「一応、音で警報は鳴りますが、直後に爆発します」
もういやだ。そんな戦場のど真ん中みたいな場所で殺し合いをさせないでほしい。
「どうする、オルカ? 怖ければ逃げても構わんのだぞ」
「じゃあ行ってきます」
「おい! 無視するな!」
レヴィ先輩が煽ってくるが、いつも通りスルーしてフィールドに入る。いや、だめでしょ。こんなところで敵前逃亡でもしようものなら、スクアーロに三枚に卸されて、ボスにかっ消されるに決まっている。最初からわたしには、戦う以外の選択肢が残されていないのだ。
まあ、幸いなことに敗北したルッスーリアさんもベル先輩も包帯ぐるぐる巻きで生存しているので、わたしが負けてもなんとか死亡は避けられるだろう。大空のリング戦では毒とか打ち込まれるかもしれないが、ボンゴレファミリーのみなさんなら解毒してくれるに違いない。
「そうか。君を、噛み殺せばいいんだ」
冷めた視線でわたしを見据えながら、雲雀恭弥は悠々と愛用のトンファーを構えた。
「レイピアか。変わった武器だね」
いや、あなただけには言われたくない。
ううん、見れば見るほど、トンチキな得物だ。
トンファーの起源は、一般には沖縄の琉球、より厳密に言えば大陸から伝わってきた中国武術が日本人に合うように最適化されたものだと言われている。まあ、アメリカやヨーロッパにもトンファーバトンとして逆輸入されているくらいなので、その有用性は認められている。
すぐに終わらせる、とでも言わんばかりに彼は飛び上がってトンファーを振りかぶって……
「……へえ」
おそらく、わたしと対峙してからはじめて、雲雀恭弥は驚きで目を見開いた。
「なに? もしかして、一撃で倒せると思ってたの?」
そうだよね。原作では、モスカを一撃だったもんね。もっとも、わたしはモスカではないので、一撃でやられる気はさらさらないけど。
「それは舐め過ぎだよ、風紀委員さん」
だって、たった一発で無様に負けようものなら、次の瞬間にはボスにかっ消されるに決まっている。モスカが瞬殺されても許されたのは、あれが兵器で、中身が九代目で、あれを暴走させることがボスの目的だったからだ。わたしはなるべく良い感じに善戦して、良い感じに死なない程度の余力を残して負けなければならない。
真上から無遠慮に振り下ろされたトンファーを受け流し、弾く。空中、身を踊らせた学ランに向けて、刺突の雨を浴びせかける。が、それらは逃げ場のない空中で、両手に構えられたトンファーで払い除けられた。
「なるほど。思ってたより、やるね」
おお、すごい。軽く小手調べで踏み込んだだけとはいえ、片眉すら動かさずに防御されてしまった。
トンファーの強みは、打って、突いて、払って、絡め取る。これらの攻防が、トンファーという武器のみで完結することにある。当然のことではあるが、彼の動きはそれらが高いレベルで習熟していた。
これはヤバい。非常にヤバいが──
──楽しい!!!
適当に相手をして、死なない程度に余力を残して負ければいいと思っていた。どうせ、ヴァリアーはボンゴレに負ける運命なのだから、わたしが何をしようと変わらない、とそう思っていた。
しかし、気が変わった。
なるほど。この雲雀恭弥という男は強い。明らかに強い。しかも、スクアーロの剣士としての強さとはまた違う、別種の強さだ。率直に言って、めちゃくちゃワクワクしてきた。
適当にやるのは、やめた。だって、あまりにも勿体ない。
「死ぬまでやろ」
「いいよ。噛み殺されるのは、君だけどね」
修行を終え、なんとか守護者戦に間に合った……と思った沢田綱吉は、その凄まじい戦闘を見て言葉を失った。
ヴァリアーは敵陣営とはいえ、その中に女性がいるのはやはり気になった。それが、おそらく同年代の、金髪のかわいらしい少女なら尚更だ。
だが、ガトリングの十字砲火と、爆散する地雷の中で。凄惨な笑みを浮かべながら戦闘を繰り広げている2人を見て、言葉を失った。
綱吉の戦う意思は、根本的に「仲間を守る」という意志に支えられている。そこに、愉しみはない。
だが、あの2人は明らかに戦いを楽しんでいる。
「こえぇか?」
「ッ……! XANXUS!」
「そう身構えんな。世間話をしにきただけだ」
本来は敵対する立場にあるはずのヴァリアーのボス、XANXUSは綱吉に向かって気安く声をかけた。
「この雲の守護者戦には、ゴーラ・モスカを出すつもりだった」
「ゴーラ・モスカ……?」
「大戦後、旧イタリア軍が揉み消そうとした過去の遺物。両手には5連装マシンガン、腹部には圧縮粒子砲、ホーミングミサイルまで装備している、最高の人間兵器だ」
そんなものの存在をチラつかせて、何の脅しだ、と。綱吉はますます身構えた。
「……だが、あの女がぶっ壊した」
「……え?」
「あの女がぶっ壊した」
大事なことだったのだろう。XANXUSはどこか遠い目で、2回言った。
今回の登場人物
『オルカ・グルマンディーズ』
ボスとなるべく関わりたくないのでフラフラしてたら、雲の守護者に変なロボが選ばれそうになったので、あわててぶっ壊して守護者アピールをした。このあと雲雀とめちゃくちゃ殺し合った
『スペルビ・スクアーロ』
噛ませ犬脱却
『雲雀恭弥』
ふーん、おもしろい女
『沢田綱吉』
あの子こわい
『XANXUS』
あの女、せっかく作ったモスカを……