幻騎士はどこだ? 野郎ぶっ殺してやる
メローネ基地に新たな侵入者が現れた。
入江正一がそう報告を受けた時には、既に現地の部隊は壊滅状態に近い打撃を受けていた。
「どうなっている!? 雲雀は別働隊が抑えているはずだろう!?」
困惑する入江の叫びに、部下の返事もはっきりしない。
「それが……」
「状況は正確に報告しろ!」
雲雀恭弥に向けて差し向けた部隊からの連絡は途絶えたのは、まだ良い。相手はボンゴレファミリーの中でも最強と名高い守護者だ。それ相応の被害が出るのはわかる。
だが、基地に侵入してきた10年前のボンゴレファミリーとは別に、別ルートから単騎で侵入してきた戦力に、こんなにも基地内の戦力が削られるのは、大きな誤算だ。
「入江様! 現場と繋がりました!」
「ようやくか」
ノイズがはしるモニターに、いやになるほどの爆音が響き渡る。思わず耳を塞ぎたくなる欲求を堪えながら、入江はそれでも懸命に報告の声を拾おうとした。
「応答しろ!」
「……い、入江司令。ご報告、します。敵は単騎、しかしその強さ、尋常ではなく……」
息も絶え絶えに、ホワイトスペル所属の隊員は、その組織の名を告げた。
「相手は『ヴァリアー』です!」
極東の戦いとは異なる場所で展開されている、イタリアの主力戦。
ボンゴレ九代目直属暗殺部隊、ヴァリアーは端的に言って窮地に追い込まれていた。
「アホみたいな戦力差だなぁ」
ボンゴレ側の連合勢力を1とするならば、ミルフィオーレ側は8。つまり、1対8。まともな神経の指揮官なら、勝負を投げ出してもおかしくない戦力差である。加えて、ヴァリアーの手勢は僅か33名。少数精鋭が持ち味とはいえ、これではあまりにも戦力に差がありすぎる。
「す、スクアーロ作戦隊長。指示を」
「びびってんじゃねぇ。まずはあの城を落とすぞ」
遠方にそびえ立つ古城を見据えて、スクアーロは言う。しかし、その指示に加入したばかりの新兵は裏返った声を上げた。
「あの古城を落とすんですか!? しかし、あそこにはおそらく敵の指揮官が」
「バカかお前はぁ! だから頭から潰しに行くんだろうが!」
「しかし、仮に突入に成功したとしても、その後はどうするのです!?」
「拠点さえ確保しちまえばこっちのものだぁ。いいからお前らは黙ってついて来い」
こんなことなら、あのカス娘を日本に向かわせるべきではなかったな、と。そんな愚痴は心の中に留めて、スクアーロは作戦隊長として先頭に立つ。
「レヴィ!」
「うむ」
「ベル!」
「へーい」
「ルッスリーア!」
「はいはーい」
「フラン!」
「ミーも行くんですかぁ?」
約1名、やる気の感じられない応答が聞こえたが、それは一切無視して、声高に叫んだ。
「まずは、あの城を10分で落とす!」
懐から取り出すのは、この時代の戦闘の主流となった、兵器と呼ぶにはあまりにも小さな匣。
リングに炎を灯し、その熱を流し込む。
「──
それは、青海を蹂躙する、彼の新たなる剣。
人々に大海原への恐怖を植え付けた巨体と威容が、雨の炎を伴って姿を現す。
その名は、
「いくぞぉ! アーロ!」
『
獰猛極まる死神が、喜びと共に牙を剥いた。
暇だ。
「入江司令! 増援を……ぞ……」
あまりにも暇だ。
わざわざこんな極東の島国までやってきて、せっかく敵の本拠地に乗り込んで暴れているのに、全然歯応えのある相手が出てこない。
日本に行きたい!跳ね馬だけじゃ心配でしょ!?わたしも行く!行くったら行く!と駄々を捏ねたのはわたしだが……これはもしかしなくても失敗だったのかもしれない。イタリアの主力戦に参加した方が、ずっとずっと楽しかった可能性がある。
「……うーん。しくじったな」
「そうだ! 貴様はしくじった! すでにこの俺の匣兵器の射程に……ギャァァァ!」
しかも、同じように敵部隊相手に暴れ回っているはずの雲雀くんとの連絡が全然取れない。まあ、こまめに通信を繋げる性格じゃないし、これも仕方ないといえば仕方ないのだが……
10年前から来た綱吉くんたちに合流してもいいのだが、今ここにいる
とりあえず、このまま暴れておけば『お目当ての相手』は出てこなくても、幹部格の1人や2人は出てくるだろう、と。
「派手に暴れてくれたな」
そんなわたしの退屈を見計らったように、その男は姿を現した。
6弔花、筆頭。同時にミルフィオーレ最強の剣士としての呼び声も高い、最高戦力。
「だが、それもここまでにしてもらおう」
霧のマーレリングの守護者、幻騎士。
霧のマーレリングの守護者、幻騎士である。
とても大事なことなので、2回言いました。
「……6弔花の、幻騎士? ほんもの?」
「そうだ」
お目当ての、相手。
思わず、わたしはガッツポーズをした。
「よかった! 来てくれてありがとう! 待ってたよ!」
「……妙な女だな。その口ぶり、まるでオレに会うのが目的だったようだが」
「え? そうだけど」
生真面目な顔が、困惑に歪んだ。
「……こちらが名乗ったのだ。そちらの名を聞こうか、女」
「ああ、そうだね。オルカ・グルマンディーズ。九代目直属ボンゴレ暗殺部隊ヴァリアー、雲の守護者だよ」
「……妙だな。お前たちはイタリアの主力戦にかかりきりのはず。日本支部への増援か?」
「……え、増援? 違うけど?」
生真面目な顔が、さらに困惑に歪んだ。
なんだか、さっきから会話のキャッチボールを否定しているようで、申し訳なくなってくる。
「わたしはべつに、ボンゴレ十代目がどうなろうと、正直どうでもいいよ」
「なに?」
どうせ勝つだろうし、と。不要な言葉は口の中に納めておく。
「わたしがここに来た理由は、ただ一つ」
そう。わたしが、日本に来た目的は、本当にただ一つだけ。
「
「……は?」
は?じゃないよ、この黒髪おかっぱが。コイツ、何もわかってないな。
この時代のスクアーロは、名の知れた100人の剣士を倒して、二代目剣帝を襲名した。その100人目の相手が、当時はまだジョッリネロファミリーの所属であった幻騎士だ。
しかし、幻騎士はあろうことか、スクアーロとの勝負で手を抜いて、わざと負けた。記念すべき100戦目の相手でありながら、その戦歴に泥を塗った。
それが、わたしは許せない。
「……馬鹿馬鹿しい。何かと思えば、そんなくだらん理由でよくもここまで来たものだ」
「下らない? 真剣勝負を受けておいて、わざと負けた剣士の方が、よっぽどくだらないと思うけど」
合図はなかった。
ただ、わたしが先に踏み込んだ。
初対面の相手には、まず挨拶が必要だ。気軽に肩を叩くように右腕を振り上げて、その刃の先を涼しい顔をしている顔面に見舞った。
「なるほど。大した突きだが……」
しかし、わたしの刺突を前にして、霧の守護者は表情をぴくりとも動かさない。
「……スクアーロの剣技同様、子ども騙しだな」
瞬間、わたしの剣が貫いたはずの幻騎士の体が、陽炎のように広がり、分身した。攻撃に対する回避と、幻影による欺瞞。近接戦闘における、霧の炎の真骨頂。
うん。なるほど。よくわかったよ。
「いいの? 分身、2人だけで」
コイツ、さてはわたしのこと舐めてるな?
「その分身も、もう殺してるけど」
ワンテンポ、遅らせて。
わたしの放った追撃が、生成された分身の喉笛を、鮮やかに引き裂いた。
立ち消えた分身たちから大きく距離を取って。ようやく現れた幻騎士の本体が、目を開いてわたしを見る。
「やるな。見くびっていたようだ」
「わかったなら、早く剣を抜いてくれると助かるよ」
「いいだろう」
頷いた幻騎士は、腰に下げた剣の柄に手をかけて、
「もっとも……オレが剣を構えるまで、お前が生きているとは限らないが」
次の瞬間、わたしの視界は轟音と爆発で埋め尽くされた。
『
ミルフィオーレファミリーは資金も装備も潤沢であり、幹部格の人間にはメイン
霧の術士が操る
「いやいや、もうこのフィールドに
否、誰一人として存在していなかった。
「……どうやって、オレの攻撃を防いだ?」
「いや、なんかヤバそうな気配がしたから、片っ端から剣で突き落としただけだけど」
あっけらかんとそう言いながら、彼女は剣士にしては長い金髪をかき上げて言った。
「それにしても、照れ屋さんなのかな?
「調子に乗るなよ。お前にもう、次はない」
「調子に、乗るな? いやいやいや」
オルカ・グルマンディーズは笑う。
「そっちこそ、馬鹿言わないでよ。わたしはまだ自分の
細い指先に、アメジストの炎が灯る。
「──
それは、雲海を切り開く、彼女の新たなる刃。
鮫すらも喰い殺し、大海原という食物連鎖の頂点に立つ、最強の捕食者。漆黒に白のアクセントが入った優美な姿を、紫の炎と共に踊らせる。
その名は、
「いくよ、ルカ」
『
残忍極まる狩人が、歓喜に歯を打ち鳴らした。
今回の登場人物
『10年後オルカ』
スクアーロとバチバチ殺し合いをして、すくすく成長したやべー女。幻騎士をぶち殺すために日本に来日した。仕方ないので、髪は昔から伸ばしている。
『10年後スクアーロ』
二代目剣帝。いろいろあって原作より強くなった。
『10年後雲雀』
雲の守護者戦は結局決着がつかず、オルカをおもしろい女認定した。以来、たまに連絡を取る程度の関係が続いているらしい。今回は登場しない。
『幻騎士』
スクアーロとの100本勝負で手を抜いたせいで、やばい女にロックオンされてしまった。かわいそうな男。
『入江正一』
胃が痛くなってきた。
次回はちゃんとスキップせずにバトルやります