東方鮮血城~The Draculina in the Red Castle~ 作:小林ミメト
ある日、突如としてスカーレット一族なる吸血鬼集団が幻想郷を襲った。
彼らは当初、博麗大結界の守護者の八雲紫に対して自分たちの居場所を提供してもらえるように頼んだ。
紫は、彼らを快く迎え入れた。そう、幻想郷はすべてを受け入れるのだ。それはまさしく今の日本のように・・・だが、それがいけなかった。
彼らは、この郷の妖怪たちが自分たちより弱い存在だと知るや否や家族、仲間、眷属を総動員して襲い始めたのだ。
やがて、その魔の手は人間にまで及ぶようになった。幻想郷の人妖たちが全滅するのも時間の問題だった。
八雲紫は、自分が行った罪の深さを悔いながら吸血鬼退治に乗り出した。
だが、彼女は二度と自分の住処に戻ることはなかった。
不審に思った紫の友人でもある当代の博麗の巫女である博麗来夢は、紫に今度の連中は危険すぎるからと止められていたが、意を決して吸血鬼退治に乗り出した。
その後、吸血鬼の眷属と化した幻想郷の人妖や吸血鬼一族の部下たちを蹴散らし、封印しながらも吸血鬼の根城までたどり着いた。
そこで彼女が見たものは、玉座に座るスカーレット城の主と横で大きなクリスタルに封印されている一つの魂だった。
彼女の勘が、恐らく封印されているのは自分のかつての仲間である紫の魂であり、それをほぼ無傷で手に入れているこいつはやばいと・・・。
そこに鎮座している彼は、黒のシルクハットをかぶり、髪は茶髪で黒のフロックコートにシャツはクラヴァットをリボンのように結んでおり、その姿はまるで18世紀ごろのアメリカ人男性とさほど大差ない。
だが、表が黒で裏地が赤のマント、病人のように青白い顔、それに対して異様なまでに生き生きとした目、不敵に笑う口元から長く鋭い犬歯が覗くその姿はまさしく吸血鬼だった。
フシューっと血なまぐさい息を吐いたと思った次の瞬間、彼は亜高速で巫女に迫っていった。
とっさの判断で来夢は吸血鬼を組み伏せた。その衝撃で床にヒビが入るあたり、二人はものすごい力でぶつかり合っているものと思われる。
「ほう・・・この私を力で組み伏せるとは存外強いものもいたものだ・・・。」
「そりゃどうも・・・伊達に鬼と渡り合ってないからね。」
「そいつは、酒吞か?星熊か?それとも茨木か?」
「全員よ」
「フハハハハハァ!それは素敵だ!実に素晴らしい。」
「ふん!!!」
来夢は、満身の力を込めて吸血鬼を投げ飛ばした。
吸血鬼は、くるりと空中を一回転して音もなく着地した。
「だが、このままでは屋敷が壊れる・・・外で戦おうではないか。」
吸血鬼が窓に向けて手をかざすと、赤黒いカーテンが勝手に両サイドにスライドし、窓がバタンと音を立てて開いた。彼は、来夢の横を通り過ぎると窓の外に吸い込まれるように出ていった。
「ま、待ちなさい!!」
来夢は、彼の後を追うように窓の外へ飛んでいった。
屋敷の外へ出ると月明かりを背に吸血鬼が空に浮かんでいた。
「やっと追いついたわ!化け物」
「フフン。自力で空を飛べる怪力娘に言われたかないね。」
「うるさい!あんた一体何が目的でこんなことをしているの!?それに、名乗らずにいきなり襲うなんて失礼じゃない。」
来夢の発言がツボに入ったのか大きな声で引き笑いをした。
「アハッハッハッハーーー!面白い、実に的を射ている。それに、ここまで俺を恐れない奴も初めてだ!・・・わかった。改めて自己紹介をしよう。私はスカーレット城城主、レオナルド・クリストフォロ・スカーレット伯爵である。」
彼は、空中浮遊しながら足をそろえて胸に右手をあてた。
来夢も、言い出しっぺだったのでお祓い棒で肩を叩きながら自己紹介をした。
「私は、この幻想郷の結界を作りし者の末裔。博麗神社の巫女、博麗来夢よ。」
「私が、この幻想郷を襲った理由か・・・いいだろう、冥土の土産に教えてやる・・・。」
彼がこの幻想郷を襲った理由は至極単純なものだった。それは、好奇心だった。
聞けば彼らは、外の世界の吸血鬼界隈では名の知れた名家で、13世紀の蒙古襲来において自分の領地を武力で制圧しようとした蒙古軍をたった一人で壊滅させ、あの串刺し公で知られるヴラド・ツェペシュの吸血鬼化を唆したり、ナチス残党の国外逃亡をバチカンとともに手助けしたりと、ほかの吸血鬼たちとは歴史の長さ、財力、知力、能力、情報すべてにおいて頂点に君臨していたという。
「なるほど、幻想郷に来て早々暴れたのも・・・。」
「そうだ。君たち妖怪や神、人間の実力がどのようなものなのか試してみたかったのだよ。」
「・・・。」
「蓋のついた入れ物の中に毒虫をたくさん入れると弱い毒虫は淘汰され強い奴が生き残る・・・幻想郷はそんな入れ物のようだととある妖怪から聞いた。だが、実際は毒虫どころか、無益な害虫しかいなかった。だから使えるように・・・いや、妖怪として戦えるように私の傀儡にしてやった。」
もはや、来夢は我慢の限界だった。この忌まわしい吸血鬼が来る前までは、時折宴会を開いて妖怪、神、一部の肝の据わった人間たちとドンチャン騒ぎをして、その都度交友関係を築いてきた。
だが、今では見知った顔ぶれも封印、寝返り、食人鬼となりこちら側として生き残っているものは極わずかしかいなくなってしまったからだ。
そして、妖怪の大賢者であり、何より暴力で異変を解決してきたために人間と妖怪双方から恐れられ孤独に生きてきた来夢に寄り添って一緒に仲間を作ってくれた大親友の八雲紫も・・・。
「彼らが、無益な害虫ですってぇ・・・ふざけんのもたいがいにしろ!蝙蝠ヤロオオオオオ!!!」
来夢はものすごい剣幕でレオナルド伯爵に迫り、満身の力を込めて彼の頬に右ストレートをかました。
だが、ミシミシと頬が音を立てるだけで彼は目だけで来夢を見てニヤついた。
「聞かんなぁ。」
次の瞬間、レオナルド伯爵は右ひざで来夢の腹をつき、回し蹴りを喰らわせた。
「ガハッ!!!」
来夢はそのまま壁に向かって一直線に吹き飛ばされていった。
だが、寸でのところで一回転した後、壁に両足をつけて吹き飛ばされた勢いを利用してレオナルド伯爵に向かって飛んでいった。
「たあっ!!」
そして、横回転をしながら右足を思いっきり振った。すると、右足から三日月形の弾幕が飛び出した。
レオナルド伯爵は、逃げるそぶりもなくこの攻撃をもろに食らった。
「やった!」
だが、そこには体を真っ二つに引き裂かれながらも不敵に笑う彼がいた。
「やるな・・・だが、まだまだ。」
どこからか蝙蝠の大群が現れてレオナルド伯爵のところに集まり、気が付くと彼の体はすっかり治っていた。
「な、なんですって!?」
「がっかりしたか?」
「ちいっ!」
来夢は勢いよく彼に迫り、屈んでから勢いよくアッパーをかまして上に吹き飛ばした後、吹き飛ばしたスピードよりも速く飛び、両手を前で組んで素早く上から下に振り下ろした。
彼は、勢いよく地面にめり込んだが、すかさず連撃を加えんと鬼の形相で急降下してくる来夢を小ジャンプと右ストレートで吹き飛ばし、すごい勢いで吹き飛ぶ彼女をそれよりも速いスピードで追いかけ回し蹴りで地面にたたきつけ、だめ押しとばかりに頭をつかんで地面を陥没させた。
よほど勢いがすごかったのか、そこそこ大きなクレーターが出来上がった。
「あなた・・・レディの顔をわしづかみにしてたたきつけるなんて紳士らしくないわね。」
「クハハハァ!笑わせる・・・クレーターができるほどたたきつけても頭蓋がつぶれない女性をレディと呼べと?」
「それもそうねっ!」
そう言って、来夢は自分の顔をわしづかみにしている吸血鬼の腕をつかんで投げ飛ばした。
「そろそろ決着をつけさせてもらうわ!」
そう言って来夢は、手のひらからお札を出現させて投げた。
「ハハハハ!血迷ったか?そんな当たらないヘナチョコトランプを投げたところでどうということはない。」
来夢はニヤッと笑って呪文を唱えた。
「夢想封殺!!」
「なに!?」
直後、彼の足元に五芒星が出現して天高く光の柱のようなビームが発射された。
「ガアアアアッ!!!」
直後、煙のような物がビームの端から出現して彼は消えた。
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