東方鮮血城~The Draculina in the Red Castle~   作:小林ミメト

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幻想郷において最も戦力になりうる二人を失ったことで、まるで蜘蛛の子を散らすように幻想郷妖怪の残党たちは森、地底、洞窟に逃げ隠れ、残された人間たちはあっと言う間に三分の二がやられ、それらのほぼすべてが食人鬼と化した。幻想郷の事実上の敗北だ。

 辛うじて生き残った人間たちは、ほかの妖怪たちとともに河童の総大将である河城にとりがかくまっていた。彼女は、本来人間たちにとって秘密にするべき場所、玄武の沢の裏手にある洞窟のさらに奥にある河童のアジトに避難民を連れてきた。だが、今は幻想郷の非常事態。しのごの言っている暇などなかった。



STAGE3:赤き盟友と緑の同志

「河童のお姉ちゃん・・・怖いよ・・・。」

 

 おかっぱ頭で茶色のぼろい着物を着た少女は、吸血鬼が両親を自分の目の前で食らいつくしたことでひどくおびえていた。その頭をにとりは優しくなでた。

 

 「心配するな盟友、あけない夜はない。」

 

 「うん」

 

 「だが、どうやって食料も・・・ましてや武器もない中で連中に立ち向かおうというのですか!?」

 

 にとりが振り向くとそこには、少女以上におびえ切った様子の目にクマのできたぼさぼさ頭の青年がいた。

 

 「食料のことは心配するな、この玄武の沢には我々河童たちが開発した光学迷彩を張り巡らせている・・・その中でなら、魚なり外の世界で人間たちが川に捨てたものでも食うがいいさ。」

 

 すると、今度は同じ河童仲間のおさげ髪の娘が、にとりに自分たちが開発した赤と青の武器を掲げながら質問した。

 

 「でも、にとり。武器はどうするの?私たち用のならあるけどこんな大勢の分までは・・・。」

 

 「うーん。」

 

 「その点ならご心配なく盟友・・・いや、我が同志よ。」

 

 「ひゅい?」

 

 薄暗い洞窟の奥から現れたのは、カイゼル髭を蓄えた痘痕顔に大きな黒のマント、髪型が白髪交じりのオールバックで背が中くらいの男性だった。

 

 彼は、体をマントで覆い隠しており唯一出ている左手には握る場所が金色でできている黒色のステッキをもつその姿からにとりは、記憶があいまいだったがその姿に心当たりがあった。

 

 「君は確か・・・ソビエト連邦の・・・。」

 

 「ほう・・・祖国の名を知っているとは嬉しい限りだ。」

 

 「ええ、まあ、流れ着いた本で見たことあるからね。」

 

 それを聞いた彼はさらに前に歩み出て名乗った。

 

 明かりに照らされたことで彼の笑顔がはっきりと見えるようになった。

 

 「そうだ。私がソビエト連邦の元書記長のヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・スターリンだ。」

 

 彼は、満面の笑みをたたえていたがその顔はにとりからすれば、どこか冷たくそしてどこか寂しげに見えた。

 

 「あれ?でも、君はすでに外の世界で死んだはずじゃ・・・。」

 

 「そうだ。だがどういうわけか、この世界に来た時に実体化してね。」

 

 「じゃあ、外の世界に戻った時は普通の幽霊に戻れるのかい?」

 

 スターリンは首を横に振った。

 

 「どうもそうではないらしい。試しに石をつかもうとしたら普通にできたのだよ。それに、人々の視線が私のほうに向いていたからおそらくは向こうの世界でも見えているのだと思う。」

 

 「うーん・・・さすがの河童の頭でもわからないや。」

 

 話がややこしくなりそうだったのでにとりは本題に戻った。

 

 「ところでスターリンとやら、武器弾薬のあてはあるのかい?」

 

 「あるさ。今は、結界が奴らの襲撃のせいか緩くなっている。」

 

 「それと何の関係があるのさ?」

 

 「自慢じゃないが私は死後も外の世界でいまだに絶大な知名度を誇っている。これが何を意味するか分かるだろう?」

 

 にとりは腕組みをして考えた後にあることに気づいてハッとした。

 

 「そう言うことだ。」

 

 「わかった。幻想郷と外の世界を自由に行き来できるようになった君に任せるよ。同志!」

 

 スターリンはニヤッと笑うと洞窟の奥の方へと消えていった。

 

  同時に滝の音に交じって鳥の羽音が聞こえてきた。

 

 「誰だ!!!」

 

 河童たちは、急いで電気を消して人間たちを奥に避難させて、自分たちは懐から赤一色と青一色の拳銃をそれぞれ一丁ずつ両手に持って、始まるであろう戦いに臨んだ。

 

 「姿を見せろ!両掌をこちらに向けてゆっくりと来い!!」

 

 太陽光を背に浴びて現れたのは烏天狗だった。

 

 容姿は、黒の聖子ちゃんカットに赤い烏帽子、白のフリルが付いた黒のミニスカートをはいており、白の半袖ワイシャツに紅葉色のネクタイをつけている。

 

 そんな彼女は、悪びれる様子もなく首にかけているフィルムカメラでにとりを撮影しながら、河童たちの手荒い歓迎に文句を言った。

 

 「河童風情が穏やかじゃないですねえ。そう思いませんか?にとり。」

 

 「なんだ文さんじゃないですか。脅かさないで下さいよ。」

 

 にとりは、河童風情と言われて少しむかついたのでプクーと膨れた。

 

 文は黒い羽根をしまってにとりに近づきいじわるそうな顔をしながら頬を指でつついた。

 

 「こんな真昼間に吸血鬼軍団が現れるわけがないじゃないですか。」

  

 「そりゃあ、そうですが・・・用心に越したことはないですよ。」

 

 「ハイハイ。」

 

 「・・・で、なぜ文さんがここに?」

 

 文は、フィルムカメラから出た険しい顔をして二丁拳銃を構えるにとりの写真を左胸ポケットにしまい、反対のポケットからある写真を取り出してにとりに手渡した。

 

 「そうそう、この写真を渡したくてここに来ました。悪い知らせ付きで・・・。」

 

 その写真に対して、にとりは顔をひきつらせた。

 

 「こ、こいつは博麗の・・・!」

 

 そこには、嬉々とした表情で里の人間を吸血鬼軍団と共に襲う博麗の巫女が映っていた。

 

 「ハイ。残念ながら博麗の巫女はあちら側の人間になってしまいました。」

 

 文は、悔しさをにじませているのか握りこぶしが震えていた。

 

 そして、にとりも写真を持つ手がワナワナと震えていた。

 

 「・・・たな・・・。」

 

 怒りが収まらなかったのか、にとりはそばに置いてあった机の上に勢いよく写真を叩きつけた。

 

 「あいつめ!人間を!我々を!この幻想郷を・・・裏切りやがった!」

 

 にとりは「畜生!畜生!」と何度も机を怒りに任せて叩いた。

 

 「おねえちゃん・・・。」

 

 にとりはハッとして振り向くと、少女がにとりの恐ろしい形相におびえているのがわかる。

 

 にとりは、体の奥底から湧いてくる怒りを抑えこむため一度深呼吸をして改めて少女に向き直った。

 

 「大丈夫、もう大丈夫だから。」

 

 少女が小さくうなずいたのを見届けると、にとりは文に先程渡された写真は本物なのか確かめた。

 

何せ博麗の巫女は、自分たち河童がかつて人里で力を持っていた塩問屋の息子が里のルールを破って玄武の沢に侵入してきたところを面白半分で尻子玉を抜き取り、さらに川で相撲と称して溺死させたことで父親から依頼を受けて、河童たちを狩に出かけていたにとりとその仲間を除いて全滅させたのだ。

 

 だが、のちに八雲紫主催で開かれた博麗神社での宴会において巫女に問い詰めたところ、生活が困窮していたところに舞い込んだ高額報酬の依頼だったので渋々承ったという。

 

その後、博麗の巫女は自分たちに対して謝罪をし、今後一切人里のルールを犯した人間を擁護しないことをみんなの前で約束した。

 

 だからこそ、博麗の巫女は今回も吸血鬼軍団に脅されて悪事に加担させられているのだろうと信じるしかなかった。

 

そうでなければ、犠牲となった自分たちの仲間を否定することになるからだ。

 

一呼吸おいて心を落ち着かせたにとりは、文に博麗の巫女が本当に自分の意志で悪事に加担したのか問い詰めた。

 

だが、文は無情にも首を縦に振った。

 

 「そうか・・・そうでしたか。」

 

 「・・・では、私はこれで・・・。」

 

 そういうと文は羽を広げて飛び去って行った。

 




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